天使と夢の島 小説版   作:Lang_E

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第8話

 人間は相変わらずごみを夢の島に投げ捨て、そして自らの元だけをきれいにしようとしていた。

オゾンの目の前からもごみは消えないし、自分の仕事は一切終わることがない。

それでもオゾンは澄み切った目でそのごみを見ていた。

眼の前に広がるごみの山の隅に植えられているのはトマトだけではない。  

今では青々としたメロンの畑もできた。

これもまたトラッシュが集めてきたごみ、いや、お宝の中にあった種からできたものだ。  

 

「さあ、今日もお宝探しだ」

 

トラッシュはそういうと今まで十年近く使ってきたであろうリヤカーを引き、次々とごみ袋を開けては使えるものを放り込んでいく。

その姿はまるで死者を救済する神様のようだ。  

オゾンは思った。  

ゴミ捨て場の神様はお宝という無念の霊を集めていく。

 

――私も救われたのかな

 

オゾンはそう考えると口元が緩む。

 

オゾンにとっては、なぜトラッシュがそんなにもお宝探しに集中するのか、今もあまり理解できない。

それでも何となく、感覚だけはつかめたような気もした。

 

「わからないわね、トラッシュ」

 

オゾンはそういうとトラッシュを見つめる。

自分を棄てた天界はいま、どうなっているのだろうか。

オゾンはそんなことを考えて、やめた。

もう自分には関係のない世界なのだから。

自分はここに生きるのだ。

オゾンはそう心に決めてから祈ることもしなくなった。

 

トラッシュは楽しそうに電車の模型や、怪物のソフビ人形を手に取って見つめている。

無邪気なその眼には生気が宿っていた。

 

「このごみ山の、何がお宝なの」

 

オゾンはため息をつく。

するとトラッシュはにこりと笑って、天使のような人形を見せた。  

 

「ほら、オゾンに似ていない?」

 

トラッシュの顔はすっかり夏の日差しに焼けていた。

その焼けた顔からのぞかせる爽やかな笑顔が、オゾンにはくすぐったく感じた。  

まったく不思議なことを言うものだ。

オゾンはうれしい気持ちを押し隠し、トラッシュをあえて細目で見た。

でもトラッシュがそんなに言うのなら。

オゾンは思わず人形に手を伸ばした。

 

「私にも見せなさい」

 

カモメや、犬のレオが二人を見つめる。

そして人形に手を触れようとしたとき、オゾンの手はトラッシュの手に触れた。  

 

体に触れた。

何もかもを消してきた自身の手がトラッシュに触れた。

もしトラッシュに触れていたら。  

もしトラッシュがごみなのだとしたら

もしトラッシュが消えてしまったら。

 

オゾンは思わず目を閉じる。

目の前ではトラッシュが消えてしまっているのだろう。

なんてことをしてしまったのだ。

自分は自分を救ってくれた人間まで消してしまうのか。

なぜこんな能力を持ってしまったのか……

 

オゾンは自身の眼が熱くなってくるのを感じた。

もう終わりなのかもしれない。

そう考えるだけでオゾンは闇の中に引き込まれていってしまいそうな気がした。

 

「オゾン?」

 

誰かの声が聞こえる。

思わずオゾンは目を開く。

するとそこにはトラッシュが立っていた。

不思議そうな表情をして。

 

「大丈夫?」

 

トラッシュは消えていなかった。

オゾンはそれだけでうれしくて、一筋の涙が流れてくるのを感じた。

だけどもその姿を見せるなんてできない。

オゾンはそっと涙をぬぐい、人形に振れる。

人形はジュッという音を立てて消えていった。

 

「偶像崇拝禁止」

 

そういうとオゾンはトラッシュから視線を離し、ため息をついた。

トラッシュは「えっ」と言ったのち、どこか嬉しそうにオゾンを見つめた。

 

二人を夏の日差しが照らす。

 

その姿はまるで、美しいものを照らすようでもあった。

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