何気ない一日を、ごく普通に生きる。それが当たり前だと思っていたし、何よりも幸せなことだと思う。
時には不幸なことが起こったり、逆にラッキーな事に出会ったり。
そんな毎日に何の不満もなく、俺は過ごしていた。
その筈だった。
「何処だ……ここ」
目が覚めると辺り一面真っ白な空間にいた。
どの方向を見ても白一色。影一つ落ちていない現実味のない空間。俺はまだ夢の中にいるのだろうか。
立ち上がり少し歩いてみた。壁伝いに歩けばこの部屋の大きさが分かるかもと考えたが、その壁すらたどり着かない。どんだけ広いんだココは。
昨日のことを思い出してみる。
確か昨日は仕事を終えて家に帰り、ビールで一人寂しく晩酌をしながら提督業に励んでいたはず。恐らくそのまま寝落ちしてしまったのだろうが、どうやってもこの空間には繋がらない。
「夢なら早く覚めてほしいけど」
そんな誰に聞かせる訳でもない独り言を呟くと、どこからともなく声が聞こえてきた。
「……~ぃ」
初めは幻聴かと思った。何もなく、誰もいない現状に耐えられなくなった俺が聞かせた幻。とうとうそこまで病んでしまったかと冷静に判断していたが、どうやら違うようで。
「……お~い。コッチだコッチ」
その声は確かに聞こえた。
声の方に少し歩いていくと、ようやく白以外の色が見えてきた。
それは一組の椅子とテーブル。そして一人の男が立っている。
近づくと俺よりも少し歳上だろうか、所謂イケメンって感じの男が俺を手招きしていた。
「いや~、すまんすまん。呼び出す場所を間違えてしまった」
そう言いながら爽やかな笑顔を見せる。何故か無性に腹が立ったが、今は抑えよう。
「アンタは誰だ?」
「ふむ。意外と冷静じゃな」
空間と同じ白い着物に身を包んだ男は、俺に座るよう促し、自らも椅子へと腰を下ろした。
「さて儂が誰かという質問だが。所謂『神様』と言うやつじゃ」
「は?頭おかしいのか?アンタ」
「ふむ、その反応は想像通りじゃ」
そう言うと男は笑いながら一つ手を叩く。広い空間にパンッと音が響き渡ると、いつの間にか何も無かったテーブルの上にお茶が用意されていた。
「……これは夢か?」
「何をもって現実とする?」
「……謎かけをするつもりは無いぞ」
なんだつまらん。と自称神は不貞腐れながら茶を一口啜る。
「ならば単刀直入に言おうかの。お主にはとある世界を救ってもらいたい」
「いや、単刀直入過ぎるわ」
何を言っているのか正直わからない。まずココが何処なのか、何故俺はこんな所に居るのか、その説明が先だろう。
「ふむ。少し事を急いてしまったか。一つずつ説明すると時間がかかるのだが」
「お前が神だと言うのならば、その責任はあるだろう」
自称神の説明は以下の通りだった。
俺が元いた世界とは別の世界。所謂パラレルワールドでは様々な要因で歴史に歪みが出来てしまい、このままでは世界自体が崩壊する。その世界だけの崩壊で事が済めば良いのだが、その要因の一つに元いた世界が関わっているため、崩壊の余波に襲われる可能性があると言う。
これだけ聞けば与太話だと鼻で笑のだが、話し始めた途端に真剣な表情を見せた男から、どうやらまるっきり嘘とは言えないらしい。
「だが、それと俺になんの関係がある」
「ん?無いぞ?」
コイツ、一発くらい殴っても許されるんじゃないだろうか。元より無神論者の俺とすれば、天罰など信じていないし。
「そうだな、強いていえばその世界への適性が一番強かったということか」
「……歯を食いしばれ、その顔面を見れない形にしてやる」
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閑話休題。
一頻り自称神を殴って、多少はスッキリした俺は出された茶を口に含む。
あれだけ殴ったのに数秒後にはすっかり治っているのを見て、なるほど神だと言うのも强間違いじゃないらしい。
「いや、ほんと。普通なら天罰で即地獄行きだからの?」
「今の状況より悪くなるとでも言うのか」
こんな何も無い白だけの世界に長時間居れば、そのうち発狂してしまう。
「それで、その世界に行ってほしいようだが。俺に拒否権は?」
「あるわけなかろう」
だとは思った。これだけの強硬手段をとったのだから、余程切羽詰まっているのだろう。
「だが、あえて断る」
「なら断るのを断る!」
子供か。
「それに、もう準備は整った」
「……何を言っている」
「茶、美味かったろう?」
そこで俺は自分の迂闊さを呪った。確かにこの男は一言も「飲む」事を勧めていない。これは自分の意思で飲んでしまった。いや、しかし目の前に出されたのならば、普通に飲んでしまうだろう。
「目が覚めたら異世界じゃ。なに、お主にとっては悪い話ばかりでは無いと思うがな」
「くそっ……巫山戯るな」
「スマンな。これでも忙しい身での、別の世界に転生させた男を見守らねばならん。あの男、創造神の癖に自由にしすぎたからな」
そんな神の愚痴を最後に、俺は意識を手放した。
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「おはようございます」
再び目を覚ますと、今度はどうやら車に乗っているようだった。運転席には見知らぬ男がハンドルを握り、俺は後部座席に座っていた。
「どうやら昨日はあまりお休みになれなかったようですね」
ふと、隣に座る女性が笑顔でそう話す。
まぁ確かに昨日は酒を飲んで寝落ちしてしまっているのだから、ちゃんとには休んでいないのだが。
そこで女性の顔を見る。
いや、嘘だろ?
俺は自分の目を疑った。
隣に座る女性には見覚えがあった。別に何処かで出会ったとか、そんなナンパの常套句の様なことを言うつもりはないが、それでも彼女には何度も世話になっていた。
……最近ではまともに声を聞く前にマウスをクリックしてしまうのだが。
「大……淀?」
「はい?そうですけど……まだ寝惚けていらっしゃるんですか?」
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