彼女の普通とはちょっと違う所とは?
よく分からない理由から、艦これの世界へと飛ばされ、提督として生きることになって早くも一週間が経とうとしている。
よくよく考えてみれば順応しすぎな気もしないではないが、どうせ帰ることも出来ないのならば、この世界での生活を楽しむべきだと半ば諦めに似た覚悟を決めていた。
けたたましい音を鳴らす目覚まし時計を叩き壊す勢いで止め、俺は目を覚ます。
一週間経とうが見慣れない自室を出て洗面台へと顔を洗いに行くと、先客が一人いた。時刻はまだ五時。軍隊にとって早いのか遅いのか分からないが、少なくとも一般的にはかなり早い時間にも関わらず、少女は既に自主練としてグラウンドを走り終えていたようだ。
「おはよう吹雪」
「……おはようございます」
きっとトレーニングで疲れたのだろう、元気の無い挨拶を返す。頭の後ろで髪を結んだ、いいように言えば素朴な、悪く言えば芋っぽい少女。吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪。
「今日も朝からトレーニングしてたのか、精が出るな」
「……はぁ」
なんとも気のない返事が返ってくるが、やはり疲れている為だろう。
「今度は俺も付き合うから一緒に走らないか?」
部下といえコミュニケーションは大事だ。その為に早起きをして少し走るくらい、なんてことは無い。それに、あの艦娘と会話をし、一緒に生活が出来るなんて提督としてこれ以上の幸運は無いだろう。
「……多分、付いてこれないと思うので辞めた方がいいですよ」
「なに、こう見えても体力には多少の自信はあるんだ。平気だろ」
「……グラウンド二十周でもですか?」
「えっ?」
いやいや、二十周?俺は自分の耳を疑った。
それなりに広いグラウンドを、早朝から二十周も走るだと?しかもこの時刻に終わらせていると言うことは、一体何時に起きているというのだ。
「……今日は食事当番なので、これで失礼します」
そう残して吹雪は洗面所を出ていった。
「おぉう……」
去っていく吹雪の後ろ姿を見ながら、俺は言葉にならないなんとも情けない声を漏らすしかなかった。
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「……うん、なんか違くね?」
朝食を取り終え、本日の執務を執り行うべく提督室の、相変わらずみかん箱に向かいながら、任務の確認の為来ていた大淀に聞いてみた。
「違う、ですか?」
「なんていうか、俺の知っている吹雪って娘とは大分違うんだけど」
俺の中にある知識では、吹雪と言えば頑張り屋で明るく、もっと感情豊かだった筈なのだが。
「えーと、提督。最初に説明しました事、覚えてますか?」
「最初?」
最初とはいつの事だろう。着任した日のことか?車の中で何か説明があったとなれば、悪いが覚えてはいないのだが。
「今いる娘はみんな『初期不良』があるとお伝えしたのですが」
「……あっ」
確かに、初期不良の為俺が選ばなければ残りの艦娘はみんな解体処分になると伝えられていた。
「……つまりあの性格が初期不良だと?」
「少なくとも吹雪ちゃんはそうですね」
それならば初期不良ではなく『性格に難アリ』とでも書いておいて欲しいものだ。まぁそう書いてあったとしても、きっと俺は全員を配属させる決断をしていただろう。
「え、ちょっと待て。つまり他の娘達も?」
「はい、そうですね」
「おぉう……」
本日二度目の、情けない声を漏らしてしまった。
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「……だとしても、このままでいい筈があるだろうか。いや無い!!」
誰に聞かせる訳でもない決意表明を、反語を織り交ぜながら言葉にする。
時刻は午後三時。娘達には演習の指示を出し、それが終わる頃。恐らくだが食堂で待っていれば補給をする為にやって来るだろう。というなんとも冴え渡った完璧な考察の元、俺は吹雪の到着を今か今かと待っていた。
「……」
「………」
「…………」
遅くないか?
既に時刻は四時を回ったぞ。
吹雪だけじゃなく他の娘達も来ないというのはどういうことだろうか。
「……提督?何をしているのですか?」
たまたま通りかかった大淀に見つかる。なんか久しぶりに会話をした気がした。きっと気のせいだけど。
「いや、吹雪を待っていたんだけど、見なかったか?」
「吹雪ちゃんですか?既に寮の自室に戻りましたよ?」
え?いつの間に?というか補給は?
「恐らく自室で取るのでは?」
「なにそれ、可能なのか?!」
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翌日。
今日はかなり早起きをした。時刻はまだ太陽すら登っていない午前三時。幾ら早起きをするとは言え、この時刻ならば吹雪もまだ起きていないだろう。
俺は暗い闇夜の中、グラウンドで仁王立ちしながら吹雪を待った。
「て……提督……おはようございます」
「……おはよう、大淀」
午前六時。全員起床の時刻。
俺は三時間もの間グラウンドに立ち続けた。若しかするとトイレに行っている間に吹雪が来るかもしれない、というよく分からない理由から一歩たりとも動くことなく待っていたのだ。
結局、吹雪は来なかったが。
「……吹雪ちゃんなら、体育館に居ましたよ」
「……あ、そうなの……」
そう言い、俺はプルプルと震える足を引き摺りながら提督室へと戻っていった。
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また翌日。
「今度は寮の前で待つ!コレならば俺からは逃げられんぞ!!」
吹雪が俺から逃げているのかどうかは分からないが、少なくとも俺との接触を可能な限り避けているように思えた。
そんな態度を取られるとなれば、意地にもなってしまう。
今度は折りたたみ式の椅子も持ってきたから、長期戦にも充分耐えられる。
時刻は再び午前三時。
さぁ、今度こそその姿を見せてもらうぞ吹雪。
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目覚まし時計がなる前に意識が覚醒する。
同室の叢雲を起こさないよう配慮しながら布団を抜け出し、着替えようとしたが、何か嫌な予感がしたのでカーテンの隙間から外を覗いてみた。
「……うわぁ、今日は寮の前にいるよ……」
寮の入口前で折りたたみ椅子にどっかりと座り込んでいる提督の姿があった。
ここ数日、あの人はことある毎に私と関わろうとしている。あれだけ露骨な態度を取っているのに、どんだけ諦めが悪いんだろうか。
「……」
しょうがない。今日のトレーニングは中止にしよう。
そう決め、私は再び布団の中へと潜り込む。
早く諦めてくれないかなぁ、と思いながらも。
「きっと諦めないんだろうなぁ」
と小さくため息をついた。
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「……いい加減にしてください」
あれから数日。漸く吹雪が自ら俺の前へと現れた。
ただコチラとしては執務中で、なれない仕事に悪戦苦闘している最中以外が良かったのだが。
「一体なんの事だ?」
「ここ数日のストーカー行為です」
「いやすげぇ悪意のある誤解だな」
確かに、ストーカーと間違えられてもしょうがないとは、自分の行動を振り返っても思うが。それは逆に言えば吹雪がそれだけ俺を避け続けたということなのだ。
「なんでそんなに俺を避けるんだ?」
「なんでそんなに私に関わろうとするんですか」
「俺から逃げるからだ」
「司令官が付きまとうからです」
……堂々巡りって言うのか?
一向に話が進展しない。
「吹雪は俺が嫌いなのか」
「好きでも嫌いでもありません」
つまり無関心。まだ嫌いと言われた方が良かったが。
「おぉう。それは
「いえ、
付け入る隙がないとはこの事か。恐らく、どんな言葉を投げかけたとしても、吹雪は心を開くことは無いんじゃなかろうか。
そんな事を思ってしまう。
何故、こんなにも人間に対して興味が無いのだろうか。
「……そうか。ならこれからは必要最低限の接触に留めるようにしよう」
「……お願いします」
だが諦めたわけじゃない。いつかきっと、吹雪にも人間に興味を持って貰えると、俺は信じている。
部屋を出ようとした吹雪に、俺は最後に伝える。
「でも、いつかは人間に興味を持ってくれると嬉しい」
なんとも、クサイ台詞を吐いてしまったものだ。だが、こういう時、変に恥ずかしがるよりは言い切ってしまった方が良いと経験上しっている。
するとゆっくり振り返った吹雪は、初めて微笑んだように見えた。
「いや、興味ないのは司令官だけですよ」
「なんでじゃぁぁぁあああっ!!」
俺の叫びは鎮守府中に響き渡ったと、後に大淀が教えてくれた。
彼女は「人間嫌い」ではありませんし、
「提督ご嫌い」なのでもありません。
「提督に興味が無い」のです!!
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