ベルトさん。あんたと出会ったのがつい昨日のことのようだ。
この一年、ロイミュードとの戦いがあって、たくさん傷つくこともあったし、何度か死にかけちまうし。それでも、あんたと、みんなと出会って、過ごした一年間で俺の時間は動き出した。刑事として、仮面ライダーとして、走り抜けることができた。
ベルトさんと別れてからもう一ヵ月も経つんだな。
本願寺課長が教えてくれたあんたの言葉。
『たとえ停まってしまうことがあっても、キミなら何度でも走り出せる』
信じてくれて、ありがとうベルトさん。
けど、俺は。
泊進ノ介は秋の日差しに照らされながら、警視庁の高くそびえる姿を目に入れる。一年前まではいつものように見上げていた景色。
あの雨の夜以来、もう戻ってくることはないと、いつかは諦めていた景色を見上げても、今はどんよりとした気分にしかならない。だんだんと涼しくなってきた風が心に染み入るようで、進ノ介はコートの襟を止める。
「……はあ」
どうしてこうなったのか。そんなことを考えても仕方ないのはわかっている。わかっているけれど、気持ちが上向くことはない。それでも、この一ヵ月で身に着けてしまった惰性から歩き出す。馬力が足らない車のようで、踏み込んでも前にはのろのろとしか進まない。ネクタイを締めなおしたのは、いつ以来だろう。異動して以来、その癖もご無沙汰だ。
一年間の仮面ライダーとしての活動は泊進ノ介を特別な存在にしてしまった。顔は世間に広く知られているし、二度も濡れ衣で指名手配を受けた結果、この警視庁内ではなおさらだ。
ひそひそとささやく声と、いくつもの好奇の視線を浴びながら、同じように警察官として働く人々の中を抜けて、この暗く狭い部屋へと自分から入らなくちゃいけない。そのことに陰鬱として。
そうして、泊進ノ介は今日もまた、この場所へ来てしまった。
「おはようございます」
明らかに気のない声が自分から漏れても、ネクタイを締めなおす気力もなく。壁にかかった二つしかない名札をひっくり返す。
『泊進ノ介』
赤字が黒字へと、小気味いい音が鳴って変わった。
そして、それに返事を返すのもいつも一人。もう、あの最愛のバディも、愉快で頼れる仲間たちもいない。
いるのはただ一人。今の同僚だけ。
「おはようございます。今日も少々遅刻ですねえ。一警察官、いえ、一社会人としてそれはどうかと僕としては毎度毎度申し上げているはずですが」
警視庁一の変人。人材の墓場。
杉下右京がねちっこい言葉と共に進ノ介を迎えた。
ここは警視庁特命係。
陸の孤島である。
なあ、ベルトさん。教えてくれ。どうして俺はここにきてしまったんだ。ここから、どこへ行けばいいんだ。