相棒 episode Drive   作:カサノリ

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【挿絵表示】

本作のタイトルロゴ、ダンダンダダン様より頂きました(2019. 01. 14)


第一話「誰がこのシナリオを描いたのか I」

『泊ちゃん、いや、泊進ノ介巡査。本当にすまない』

 

 課長が涙ながらに告げたあの日から一月がたった。特命係。以前から、その名前は知っていた。特状課に来る前から、本庁にいるのなら誰でも噂だけが伝わってくる。

 

 関わってはいけないと。送られたら最後、無事に出ることはできない。そんな場所。

 

 それでも前には進まなくては行けなくて、仲間はいつしか散り散りになって、俺は一人ここにいる。

 

 

 相棒 episode Drive

 

 第一話「誰がこのシナリオを描いたのか I」

 

 

「はぁー」

 

 ため息を長く長く吐くと、進ノ介は飴を一つ、口に放り込んだ。

 

 泊進ノ介は警察官である。そして、つい一か月前にはこうも呼ばれていた。

 

 『仮面ライダードライブ』と。

 

 ライダーと名乗りながら、もっぱら乗り回していたのは車であり、本来ならば『仮面ドライバー』と名乗るのが正しいのかもしれないが、それはいい。

 

 重要なのは、彼が少年のころに憧れたヒーローのように、大仰な戦闘スーツに身を包み、超常科学の渦中に巻き込まれたことだ。

 

 機械生命体ロイミュード。人間に生み出され、人間によって歪められ、人間を超えようとした知性体。

 

 強大な力を武器に人間へと戦いを挑んだ彼らと仮面ライダーは戦い。そして、人類の守護者として仮面ライダーが勝利した。

 

 警察官として、仮面ライダーとして戦いぬいた泊進ノ介。

 

 そして、警察内の対ロイミュード専門部署である『特状課』が解散となり、彼も変身能力を失った警察官として職務へと戻る時が来た。進ノ介とて立身出世のために戦ったわけではないが、それでも、自身の能力を活かせる刑事部等に行くのではないかと、予想はしていたのだ。

 

 しかし、転属先は特命係。警視庁陸の孤島。人材の墓場。

 

 それからの一か月、馴染んだミルク味の消費量は最高記録を迎えている。燻っていたとある時期よりも倍以上。こうして気の抜けた顔で椅子に深く体を鎮めても、叱りつけてくれる人も、もういない。

 

『泊さん、しっかりしてください』

 

 ふと、かつての相棒である霧子の姿が懐かしくなった。

 

 毎日のように顔を突き合わせていたのに、異動以来、姿も見ていない。元気にしているだろうか。心配してくれてはいるのだろう。と、進ノ介は彼女に関しては申し訳なさと共にポジティブに考える。

 

 ただ、懐かしくなったなんて言いつつも、会いに行かないのは進ノ介自身だ。

 

 その証拠に、携帯には彼女からのメールが何通もたまっている。

 

 だが、仮に返事をしたとしても出てくるのは愚痴だけ。どうしても、今の体たらくを仲間達に見せる気にはなれなかった。皆、それぞれの道に進んで、新しい環境の中で頑張っているのだから。

 

「ため息をつくと、幸せが逃げていく。そう言われていますが、君はずいぶんとたくさん逃がしているようですね」

 

 そう苦言を漏らすのは上司である杉下右京。だが、その彼も新聞を片手に時折、思いついたようにチェス盤を動かすだけだ。一目見てわかる通り、彼も暇人である。

 

「そういう杉下警部はお暇そうですが。何でため息一つつかないんですかね」

 

 こんなところでじっとしていて何も感じないのか、と皮肉って見る。

 

 だが、暖簾か柳か、この男の顔が変化する様子を一度も見ていない。いつも、何とも表情の読めない顔で椅子に座っている。進ノ介にはそれが腹立たしく思えた。

 

「確かに、暇は暇ですが。それとため息を吐くというのには何の理屈も繋がりませんねえ。僕の場合は、こうして暇は暇なりに楽しんでいるのですが」

 

「世間一般では、今は勤務時間で、俺達は警察官のはずですが」

 

「ええ。確かにそうですが、世間の警察官全てがせわしなく動いているわけでもなく、交番勤務の方などは地元の方とたわいない話をすることもまた仕事です」

 

「つまり?」

 

「暇なら暇らしく、何か建設的なことを行っては如何か、といっているのですよ、僕は」

 

 右京はそう言い、盤上の駒を一つ動かした。チェックメイト、との呟き。だが、進ノ介はチェスのルールに明るくないため、どういう手だったのかもわからなかった。

 

 彼のいうことは確かに尤もだ。不承不承ながら、進ノ介の理性もそう考える。

 

 だが、右京が先に出した例はあくまでも警察官としての業務だ。そして、右京の今行っているチェスは断じて警察官の仕事ではない。

 

 では、この場所でできる警察官の仕事とはなんだろうか。

 

 いや、そもそも特命係の『特命』とは何なのだろうか。

 

「なんもないな」

 

 特命係に捜査権限はない。仕事もなく、未来もない。

 

 事実、これまでに特命係へ飛ばされた八人の内、七人は警察から去ったという。気持ちはわかる。こんなところに飛ばされて飼い殺しにされると思うと、あきらめて別の道を探すのが建設的だ。

 

 それでも内1人は八年以上もここにいたというのだから、さぞかし鋼の精神をしていたのだろう。修験者か何かのたぐいだ。それでなければ悟りを開いたか、生き神様。

 

 幾らでも苦言は出てくるが、一人でチェスに勤しむ右京に言い返す気力もなく、もう一つ飴玉を放り込む。

 

 ふと雑誌でも読んでしまおうか、と隣人がおいていったそれに手を伸ばす。しかし、その週刊誌の一面記事に「仮面ライダー」と「機械生命体」の文字を認めると、すぐに放り出した。

 

 再び、大きく、ため息。進ノ介はまたもや幸せが口から逃げていくのをじっくりと感じ取っていた。

 

 そんなことをしていると、

 

「暇か?」

 

 と無駄に陽気な声がする。

 

 そんなことを言いながら、こんな薄暗い部屋に入ってくる人物は一人しかいない。隣接する組対五課の角田課長だ。

 

 進ノ介にはあずかり知らぬところだが、彼は暇人である右京をある意味尊重しているようで、『警部殿』なんて呼んでいる。その割には仕事を手伝ってほしいとも言ってこないのだが。

 

「お、相変わらずふにゃふにゃしてるなあ、仮面ライダー」

 

「課長、何でもいいから手伝える仕事とか無いんですか」

 

「いや、ちょっとした仕事で仮面ライダー駆り出したって言ったら、上に何言われるか」

 

「でも……」

 

「まあ、仕事しないでいいって言われてるんだから、贅沢言わないこったな。世間じゃ休みたいって言っても休みはもらえないんだから。給料もらって、一日のんびりなんて羨ましいことこの上ないって」

 

 わははは。と悠々とコーヒーを煎れ始めた角田に、またもため息が。これくらい図太く生きれたら楽かもしれないとも思う。

 

 仮面ライダーになる前の自分なら、もっとのんびりとしていたかもしれない。けれど、今は、エンジンに火がついたままの状態。薄暗い車庫で黙っていることもできない。車は走るために存在するし、刑事は市民の安全を守るためにあるのだ。

 

 といっても、

 

(捜査権限無いから、刑事じゃないんだよな)

 

 角田の入れたコーヒーの香りが部屋にあふれていく中、進ノ介は再びため息をついた。

 

「ほら、またため息が」

 

「警部どのは細かいねー。悩める若者になんかアドバイスはないの?」

 

「僕にとっては、こうしてのんびりすることが日常ですから」

 

「だわなー」

 

 小うるさい二人は無視することにした。

 

「あ、もうなくなった……」

 

 最後の一個となったひとやすミルク。いつになれば休みは終わるのだろうか。進ノ介は最後の一つを放り込むとがりがりとかみ砕いた。

 

 よほどの不満がありそうな進ノ介の様子に角田は少し考える。

 

 生来なんだかんだと面倒見の良い角田である。若者がそうやって腐っているのをみると、放っておくのは良心が咎める。それに、彼の姿を見ていると、ぐれてしまった愛娘の姿が脳裏をかすめた。

 

「じゃあ、ほんっとに小さいことだけど、やってみるか?」

 

 角田はコーヒーを啜りながら小さくつぶやくのだった。

 

 

 

 相も変わらず暇を謳歌する特命係をよそに、庁内では多くの警察官がせわしなく働いている。警視庁の花形ともいえる捜査一課でも同じだ。その中を、詩島霧子は段ボールを抱えて進んでいた。

 

 背筋を伸ばし、「捜査一課」と書かれた日差しがよく通る部屋に入る。

 

 凶悪事件を担当する捜査一課ではまだまだ女性捜査官は珍しい。少なくない好奇の視線を受けながら、段ボールを自分の机に置いた。

 

「よう、今日から着任か」

 

 一息つくと、後ろから声がかけられる。振り向くと、係長である三浦信輔が立っていた。追田が言うには、長く現場にいたベテラン刑事だそうで、彼もよく現場で共に捜査にあたっていたそうだ。

 

 ただ、何やら一念発起したそうで、管理職試験を受けると、現場から一転、見事係長へと昇進したのだとか。

 

 霧子はおろしたてのスーツにまだ少し引っ張られながらも敬礼を返す。

 

「本日から七係に着任させていただきます。よろしくお願いします」

 

「よし、その元気があれば十分だな。ちょっと待っててくれ、今、他の連中に紹介するから」

 

 霧子の敬礼に満足げにうなずくと、三浦は大声で周囲を呼びかけ、十人ほどの刑事が集まってくれた。

 

 その中には追田警部補改め、警部は五係なので、もちろんいない。

 

 誰も知り合いはいないかと思われたが、ロイミュード関連事件で顔を合わせたことがある者が二人ほどいて、少し微笑みかけてくれた。

 

 最初は彼らからも胡散臭い連中と思われていたのも懐かしいが、今はもうそう言った隔たりは抱かれていないようだった。少しだけ気分が落ち着く。

 

 ただ、一人だけ、露骨に機嫌が悪いという顔をしている男がいた。隣の青年が何やら興奮したように話しかけているのに対して無視を決め込み、最後には足を踏みつけている。

 

 霧子は三浦による自身の紹介を聞きながら、二人の刑事の奇妙な行動を眺めていた。

 

「と、いうわけで。詩島は機械生命体事件の功労者の一人だが、捜査現場の経験はまだ少ない。みんなには先輩として胸を貸してやってほしい。以上だ」

 

 拍手で迎えられ、頭を下げる。そうして、霧子もまた一言、決意表明の言葉を言い、その場は解散となった。 

 

 ただ、問題はその後に起きる。

 

「詩島、ウチじゃあ、少なくとも二人で組んでもらっているが、新人ということもあって、しばらくは三人で組んでもらう。それでいいか?」

 

 三浦の言葉にうなずく。特状課でも進ノ介と二人で捜査をしていたので、誰かと組むことに忌避感はない。

 

 だが、三浦に呼ばれてやってきたのは先程不機嫌な顔をしていた男と、いかにも後輩という雰囲気の男だった。

 

 伊丹憲一巡査部長と、芹沢慶二巡査と紹介される。そして、浮かれたように自己紹介する芹沢に対し、伊丹は

 

「どーも」

 

 と一言。それっきり目も合わせようとしなかった。

 

 

「なんなのよ! あれは!!」

 

 夜。自宅マンションへ帰ると、霧子はお気に入りのクッションを掴み、思い切り、それを地面へ叩きつけた。

 

 バスんと景気よく音が鳴る。

 

 今日は仕事もそこそこに霧子の歓迎会が七係で開かれた。思った以上に暖かい歓迎のされ方で安堵した霧子。ただ、唯一、あの伊丹という男は一言もしゃべろうともしなかった。

 

 陽気な芹沢は何もしなくとも、こちらにきてはいろいろとかまってくれていた(少し身の危険を覚えたが彼女がいるらしく、安心した)。一方、あの伊丹。仮にもチームを組む以上は意思疎通をしなければならない、とこちらから話しかけてみても。

 

「そーですかー」

 

 等とあからさまに不機嫌に言うだけで、一人ビールジョッキを呷っている。気に食わないなら欠席すればいいのに、参加してそれだから性質が悪い。

 

 霧子とて、特状課の経験から嫌味には慣れている。が、あのように子供のようなことをされるとむかっ腹がたつのは仕方ないことだとわかってほしい。

 

 ひとしきり暴れて、ベッドへと倒れこむ。幸先に不安が残る初日だったが、こんなところでくじけている時間はなかった。

 

 仰向けになると、バッグから携帯をとりだす。

 

 相も変わらずかつての相棒からの返信はない。あれだけ毎日顔を合わせていた彼の顔を思い出す。結局、あれから一度も顔を合わせていない。行方不明になっているわけでもないし、会いに行こうと思えば会えるだろう。

 

 当時はあれほど相棒だのバディだの言っていたのに、少し離れてしまうと返信もないとは。霧子も進ノ介にも事情があるのだと理解はできつつも、少しの腹立たしさを感じるくらいは許してほしかった。 

 

 また、罪悪感があった。ロイミュード事件の功労者は誰かと問われれば、かつての仲間ならば誰もが泊進ノ介と答えるだろう。

 

 一番活躍した彼を差し置いて、自分が捜査一課にやってきたことも、そして、彼が特命係に飛ばされてしまったのも。

 

 自分ができることはなかった、と理解はしている。せめてもと人事部には本願寺を経由して何度も抗議を送った。それでもこの身は公務員であり、上の命令は絶対だった。

 

 せめて一言でもメールに返事をくれるなら、会いに行くこともできた。けど、

 

「ほんと、意気地なし」

 

 それは彼か、自身か。

 

 仮に進ノ介と会って罵倒されたら。万に一つでも敵意を向けられたら、きっともう立ち直れないだろう。チェイスや剛の前ではごまかしたが、自分にくすぶっている気持ちをここにいたって認められないほど霧子は鈍感ではなかった。

 

 せめてできることは、捜査一課での仕事で成果をあげて、発言力を高めて、進ノ介を特命係から引っ張りあげることを上に直訴する。そう思い、今日の一幕を思い出す。

 

 

 

 霧子が登庁してから、最初に向かわされた場所は、捜査一課のフロアではなく、その上層にある管理職のオフィスであった。内示とは別に、直接文章での指示があったからだ。

 

 一刑事の異動に際して、上層部が直接面談を申し込むこと等、聞いたことがない。この組織の中では、どう考えても異例であった。

 

 ノックをし、相手の承認を待って入ったのは刑事部部長と書かれたオフィス。広く、来客以外にも賞与などを行う際にも利用されるためか、快適さというよりも威厳というものを強く感じさせる造りになっていた。

 

「詩島霧子巡査、入ります」

 

 敬礼に対してうなずくのは二人の男性。一人は刑事部参事官の中園警視正。

 

 薄い頭に、どこか神経質そうな顔。一目見た印象では平凡な中年男性という感想しか抱けない。ぴしりと着込んだ制服にも、着られている印象だ。

 

 だが、そんな人でも、あの大改革を乗り越えたのだ。悪運が強いのか、それとも見た目に似ず優秀な人だったのか。

 

 内心辛辣な感想になったのは、彼があの仁良光秀の直属の上司であったからだろう。進ノ介の逃亡時も、手配の承認を下したのは彼と、元刑事部長であったし、よい印象になろうはずもない。

 

 そういえば、警備部の古葉参事官も同じ階級だが、受ける印象は全く違うものだった。

 

 だが、正直なところ中園参事官に注意はそこまで向くことはなかった。人はよさそうだが、上司としては信念も柔軟さも感じられなかった。

 

 おそらく付き合いが長いだろう追田警部も内村前刑事部長の腰ぎんちゃくとしか印象に残っていなかったそうだ。

 

 問題は、部長席に座り穏やかな笑みをたたえた男性だ。

 

「詩島巡査、わざわざ手間をかけさせて申し訳ないね。刑事部長職についている、甲斐峯秋という」

 

 知的で紳士的なその男は、その肩書きの厳めしさとは裏腹の柔和さを示していた。

 

 一新人刑事の霧子に対し、甲斐はわざわざ席を立って手を差し伸べてくる。その様子に恐縮しながらも握手を交わす。

 

 甲斐峯秋。

 

 本願寺課長が去り際に警戒するように伝えていた人物でもある。あのよくわからないコネを多数持っていた課長以上に、その人脈は多岐にわたるというのだから末恐ろしい。

 

 事実、本来なら刑事部長職に収まる人物ではなく、内々に警察庁次長のポストが用意されていたという。

 

 では、そんな人物がなぜ刑事部長となったのか。

 

 仁良の事件をはじめとした一連の騒動から刑事部を立て直すことを目的とした人事、というのがもっぱらの見方だ。

 

 世間からの信頼が失墜した刑事部、および警察の回復を目的とするならば、この一見不合理な人事もうなずける。それほどに捜査一課長が公衆の面前で殺人罪で逮捕されたのは、大きかった。

 

 人のよさそうな紳士にしか見えないが、経緯と実績を考えると、油断はならない人物。だが、こうして呼び出された以上は好機でもある。

 

 そして、そういうチャンスを逃さない大胆さは詩島霧子という警察官の大きな武器でもあった。

 

 定例的な挨拶もそこそこに切り出す。

 

「甲斐刑事部長、不躾ですが、お願いがあります」

 

「ふむ。私もついこの間、この職についたばかりでね。できることは限りがあるが……。例の事件の褒章もまだだったね、できることならば叶えてあげよう」

 

 本気かどうか、了承の言葉が出た。だから、

 

「部長のお力で、泊巡査を捜査一課へ異動させることはできないでしょうか!」

 

 霧子は意を決して言葉を放った。

 

 一瞬の静寂。

 

 途端に中園はその発言に泡を食って「失礼だぞ!」叱責する。

 

 だが、霧子は撤回することはしなかった。たとえ、この昇進をふいにすることになっても、言わずにはいられなかった。

 

 一方の甲斐は態度を崩すことはなかったが、間違っていなければどこか楽し気な空気を感じた。

 

「泊、というのは。仮面ライダーであった泊進ノ介君に間違いないかな?」

 

「はい! ロイミュード、機械生命体事件の最大の功労者は彼です。私よりも、他の誰よりも働いた彼が特命係へと配属されたことは納得できません」

 

「……人事に口を出すということが、どのような結果になるか。理解したうえでの発言かね?」

 

「もちろんです」

 

 ふむ、と甲斐は少し考えるように顎に手を当てると、ゆっくりと教え諭すように語り始めた。

 

「正直、今回の人事については、私個人としても疑問を抱いているのだよ。ああ、誤解してほしくないのだが、君が能力不足というわけではなくね。

 私としてはね、できることならば二人共に刑事部で働いてほしいと思っているんだ。優秀な人間はいくらでもほしいし、能力に応じて引き上げるというのが、私の考えだ」

 

 だが、と甲斐は言う。

 

「詩島君はともかく、泊巡査はよい意味でも悪い意味でも目立つ。そうは思わないかね?

 仮面ライダーとしての彼はあらゆる意味で世間の称賛や偏見を受ける立場であり、現場に出すのは時期尚早というのが、上の立場だろう、と推測している」

 

 そして、

 

「そうだね。然るべき時が来たならば、異動させるように上申してみよう。警察内部の膿をとりだしてくれた彼を、私はとても評価しているんだ」

 

 その言葉を霧子は鵜呑みにすることはできなかった。それでも、他につなげられる望みはない。今は信じて待つしかなかった。

 

 だが、霧子も、他の誰も、甲斐峯秋という男の心の内を知るものはいなかった。

 

 

 

「彼女、面白いねえ。早々に刑事部長に物申すなんて、度胸があるじゃないか。ああいう女性警察官が増えると世間にも警察が男女の機会均等に積極的に働いていると示すことができる」

 

 甲斐はほろほろと笑顔を浮かべると手元にある茶を取る。

 

「あのぉ、部長は、泊進ノ介のこと。本当に口添えするつもりですか?」

 

 おどおどと尋ねてくる中園を一瞥し、甲斐は湯のみに口をつける。なるほど、長く前任者の腰ぎんちゃくをしていただけあって茶の煎れ方は上手だった。だが、その尋ね方は落第点だろう。言葉の一つ一つから意図を察することができなければ、参事官以上に進むことはできまい。

 

「ああ、中園君。私は自分の言葉を撤回したりはしないよ。もちろん、上には言ってみようじゃないか」

 

 だが、男はそれが、受け入れられないと知っている。

 

(いかに仮面ライダーといえど、大きな力には逆らえないこともあるのだよ)

 

 甲斐は羊羹を一切れ、放り込むと、うまそうにそれをゆっくりと咀嚼した。




いろいろと設定が変わっている世界観。一体いつから歴史は狂ったのか。

次回から事件が開始です。早々にオリジナルの事件となりますが、お楽しみいただけると幸いです。
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