八年前、特命係が解決した連続殺人事件。その模倣犯による殺人が発生した。場所、方法まで細かく模倣した事件。そして、捜一の捜査により、それ以前にも自殺や事故に偽装して、四件の模倣殺人が行われていたことが分かり……。
村木重雄
:二十五年にわたり、七人の若い女性を殺害した連続殺人犯。被害者の右耳のピアスを奪うことが特徴。悪魔崇拝に傾倒していた。
警察に追い詰められ、八年前に自殺。
安斉直太郎
:村木に魅入られ、共犯となった精神科助手。三人の女性を殺害したのち、上司である内田美咲を殺害しようとしたところを特命係が阻止。自殺を図ったが逮捕された。
後に被害者遺族によって殺害される。
舞原ひとみ
:被害者。安斉の事件と同一の方法、場所で殺害された。
三崎謙吾
:模倣犯1。舞原ひとみ殺害事件の犯人。村木に傾倒し、自殺を図るも、逮捕される。
「どういうことですか、あれは!!?」
取調室を出た暗い廊下に伊丹の怒声が響き渡った。それに続いて強い打撃音。硬い壁へ、伊丹の武骨な拳が打ち付けられていた。
「伊丹さん、落ち着いてください!!」
霧子が慌てて制止するも、伊丹はそれを払いのける。そして、息を乱しながら右京へと詰め寄った。
「これが落ち着いてられるか!! ……あの言葉、警部どのも忘れるわけないでしょう!? 確かに村木がぶつぶつ言ってやがった言葉です!! 知ってるのは村木と、共犯の安斉。それ以外じゃ、あの場にいた俺達か警部どのだけ!!
安斉が死んだ以上、三崎謙吾にその事実を伝えられるのは、誰もいないはずでしょう!!?」
八年前、村木が安斉へ与えた影響を重く見て、捜査本部は他の共犯者の存在を徹底的に捜査した。その長く慎重な捜査の結果、安斉以外に村木の共犯はいないと結論付けている。安斉自身も取り調べに対してそのように証言した。
では、三崎の証言は嘘か。あるいは狂気による妄想か。
だが、それも矛盾がある。事実として、あの模倣犯は事件の情報を得ているのだから。
逆に、彼の証言が正しいとし、村木が生きているとの言い分を認めれば、今度はオカルトや超科学の領域の話となってしまう。
もっとも、仮面ライダーとして、進ノ介は超科学の領域に足を踏み入れた経験があり、その中には科学者が死の直前に人格データをコピーするという例もあった。だが、村木はマンションの屋上から転落している。その無残に頭がつぶれた遺体には、人格を移植できるほど無事な脳髄が残っているとは思えなかった。
「ですけど、あの三崎の発言は妙に真実味がありましたよ……。まさか、村木が死んだ後に生き返ったとか、幽霊になったとか!」
「それこそ、あり得ねえだろ!! 馬鹿言ってんじゃねえよ芹沢!!!」
ホラーでも見たように顔を青ざめさせた芹沢を伊丹がひっぱたく。
ただ、幽霊と言う冗談はともかく、芹沢が言う通りに三崎の言葉にはただの嘘と断じることができない真実味を感じた。
少なくとも、彼は村木から教えを受けたと信じ込んでいる。そして、三崎の行った犯行は村木と安斉に関する詳細な情報がなければ不可能なものだ。それこそ犯人から直接語られたような。
そして進ノ介には疑問が一つ。
「けど、おかしいですよね? 三崎は八年前に安斉が行った犯行を完全に模倣した。そして、安斉が逮捕されたマンションで自殺しようとした。ここまでが事実です。
でも、安斉の逮捕は村木の死後でした。村木が安斉の逮捕現場を知るわけがない。三崎が『安斉』から情報を得たならともかく、言い分は『村木』から教えられた。
その村木がゾンビだろうと幽霊だろうと、自分が知らない情報を教えられるはずがありません」
「ということは、やっぱり村木を騙った何者かがいる。そういうことでしょうか?」
霧子はそう語るが、彼女の顔にもそれでは納得できないと、疑問が残っているようだ。
「そうだとしても、事件の情報をどうやって手に入れた!! 特にあの、変な呪文!! 耳にのこんだよ、アレ!!」
伊丹は我慢も限界と言いたげに、もう一度壁を殴りつける。すると、ここまで思案しながらも沈黙を続けていた右京がゆっくりと語り始めた。
「……三崎謙吾がどのように事件の情報を得たのか。それは大きな謎ですが、今ある情報からでは解明できないでしょう。それに、まだ事件は半分も解決していません」
「……過去四件の殺人ですね?」
進ノ介が呟くと、右京が同意を返す。
「その通り。三崎謙吾は確かに自白をしています。ですが八年前、中学生の三崎謙吾が村木・安斉の事件に関われないのと同様に、四年前から続く模倣犯が三崎謙吾でもありえない。
当時、彼は高校生です。見知らぬ女性の部屋に毒を仕込んだり、盗難車でひき逃げを行ったりすることは、非常に難しいと言わざるを得ません。そして、先の事件で、犯人は犯行を巧みに隠ぺいしています。三崎による舞原さんの殺害手口とはかけ離れている。
おそらく、泊君が当初考えていた通り、模倣犯はもう一人いるのです。それも三崎と違い、村木と同様に冷静で狡猾な。まさしく『村木の後継者』と言える犯人が! ……まずは三崎の過去、そして過去四件の洗い直しから始めましょう」
相棒 episode Drive
第六話「悪魔の継承者 III」
それから数日の間、三崎の取調べに並行して、彼の身元調査が開始された。捜査一課のみならず、関連するあらゆる県警が動員された大捜査。だが、それにもかかわらず、三崎の周辺に村木や安斉の影は現れなかった。
「村木による犯罪が行われていた八年前。そしてそれ以前も三崎謙吾に不審な点はありませんねえ」
右京は自身の椅子に座りながら、霧子が送ってくれた捜査資料を捲り、小さくつぶやく。
それは三崎の素性に関する詳細な報告だった。彼は成績優秀というわけでもなく、運動も得意というわけでもなく。クラスのどこにでもいるような目立たない少年。かつての彼に、殺人や悪魔崇拝に傾倒する様子はない。
そんな彼が、なぜ、殺人鬼に憧れて、模倣犯と化したのか。
「……きっかけになりそうなのは、これでしょうか? 五年前、三崎の母親が浮気の末に消息を絶っています。次いで祖父母が事故死。これ、娘の行動を恥じた末の自殺って説もありますね。女性への嫌悪と、死への誘惑。何かのきっかけにはなりそうですけど」
進ノ介はそうつぶやくと、椅子に深く腰掛けて天を見上げた。
「けど、どちらにせよ。村木と出会えるはずがありません。安斉の事件からも二年が経っていますし。……彼が出会った村木を名乗る人間が何者なのか。あるいは、そう思い込んだ理由は何なのか」
そして、どうして今の時期になって模倣犯と化したのか。
何かきっかけがあったはずだ。彼の人生を一変させるほどに強烈なものが。
「……一つ、気になっていることがあります。三崎謙吾の犯行の様子ですが、僕は手慣れている印象を受けました。彼は、舞原さんを呼び出すと、薬物で眠らせ、正確に過去の事件と同じ場所を刺すことで殺害しています。
若く、殺人の経験がない彼がためらい傷の一つもなく複雑な手順をこなせるでしょうか?」
進ノ介は報告書を机の上におき、ミルクを一口飲むと右京に尋ねる。つまり、右京が言いたいことは、
「これが初犯じゃないってことですか? けど、他の四件の模倣殺人の時、三崎に犯行が不可能だったことは分かっていますよ」
三崎自身は四件の殺人を自身が行ったと主張していたが、その後の捜査によって各犯行時間、三崎には強固なアリバイがあったことが分かっている。彼の自宅からは被害者がつけていたと思われるピアスも見つかっていない。
もう一人の模倣犯を庇った。それが捜査本部の見解である。
だが、右京が言うように、これが初めての犯行ではないとしたら、一体、彼はどこで犯行を犯したというのか。進ノ介がそう眉を顰めると、右京は報告書を進ノ介へと差出す。
「泊君。この報告書のこの部分、見てください」
右京が示したもの、それは三崎謙吾の渡航記録だった。
「……杉下さん。杉下さんが言いたいことって、まさか」
「ええ。この方法なら、より密やかに連続殺人を犯すことができます」
右京はそう言うと、椅子から立ち上がる。そして、進ノ介と共にある場所へ向かうのだった。
そのころ、捜査一課では霧子たちが大量の資料とにらみ合いながら事件の精査を行っていた。甲斐峯秋の尽力により、各県警との協力体制が築かれ、四方より大量の捜査資料が届いている。ただ、それを一つ一つ調べるのは、何とも気力と体力がいることだった。
どれだけ読んでも終わらない資料。少しばかり目の下にクマを作りながら、霧子はきつめのコーヒーを飲むことで頭をクリアにしていく。
だが、そうした努力の結果、過去の四件の殺人事件についていくつかの興味深い点がわかってきた。
「……被害者は全員、一人暮らしの若い女性。しかも、友人関係が希薄で、家族とは遠く離れている」
例えば、四年前に群馬で発生した模倣殺人では、被害者が数日前にSNSへ悩み事があるような文章を投稿している。そんな背景もあって、事件は自殺の疑いが濃厚とされていた。
「……そもそも、女性被害者の自宅に毒を仕込んだり、盗難車でひき逃げしたり。村木の犯罪と比べて直接的な手口を使っていないのよね」
首吊り偽装でも、薬物が使われており、最後の事件ではアパートのベランダから突き落としている。あまり暴力的な手口ではない。そして、それゆえに警察も事件性に疑問を抱いてきた。
この模倣犯は、村木よりも慎重な犯人と言う印象をあたえる。
杉下右京は犯行が『進化』していると言っているが、それは正しい考えだと、霧子も思わされた。
ただ、そうした手口を取るとなると、犯行の難易度は跳ね上がる。被害者の帰宅時間や日常習慣、そして部屋への出入り方法を知らなければ、犯行は行えないからだ。
SNSなどを調べれば、ある程度の生活リズムは分かるだろうが……。それでも、被害者の行動パターンや生活空間に入り込めるものだろうか。
そして、
「何なの? 何か気になるんだけど……」
霧子は遺体の写真を見るたびに、何か引っかかるものを感じていた。
特に、遺体に残されたピアスである。それを見ていると、霧子には何かもやもやしたものを感じるのだ。だが、それを伊丹や進ノ介に尋ねても、まともな答えが返ってこない。自分だけが、何かに気づいているのに、それが飛び出てこない。
そのことに頭を悩ませながら、資料を捲っていくと、昼休みを終えた伊丹と芹沢が帰ってきた。伊丹が背後を通ると、霧子は少し顔を強張らせる。何がとは言わない。そして、人が何を食べようと人の自由だとも霧子は思う。ただ、
「ほらぁ! ニンニクあんなに入れるから、臭ってるじゃないですか!? 霧子ちゃんも顔しかめてるし。だから彼女ができないんですよ」
霧子の言いたいことは芹沢が代弁してくれた。せめて伊丹の方向へ鼻が向かないように霧子は顔を逸らした。
「うっせえな!? 悪魔だのなんだのも、こんだけニンニク食えば寄ってこねえだろ!! 魔除けだ! 魔除け!!」
「……ニンニクで逃げるのは吸血鬼です。けど、せめてこれくらいはなめてください」
そう言って霧子は柑橘系ののど飴を渡す。これを食べれば少しは匂いがマシになるだろう。伊丹の机にカラフルな飴を数個置くと、彼は珍妙な顔をしながら渋々と全部の飴を放り込み、がりがりと噛み砕いていった。
そのデリカシーの無いと言うか、あけっぴろげな態度に霧子が頭を抱えていると、廊下の奥から右京と進ノ介がやってくる。
途端に伊丹は元気に飛び跳ねると、肩を揺らしながら特命係へと向かっていった。……もしかしなくても、けっこう楽しみにしているのではないだろうか。
「特命係のとーまーりー! ここは捜査一課だ! まだお前のいる場所じゃねえ!!」
「あー、今日は伊丹さんに用があるんじゃないんです。ごめんなさい」
「おぉ!? って、無視するとは上等じゃねえか!!」
進ノ介も多少は伊丹を躱す術を身に着けたのか、頭を下げるとその脇をすり抜けて。伊丹は拍子抜けしたのか、どこか残念そうにその背中を睨み付けていた。
そうして居並ぶ刑事たちの間をすり抜けて、右京達がやってきたのは、係長のデスクに座る三浦の前だった。
「こいつは特命係のお二人じゃないか。……警部どの、なんか俺に用でも?」
老眼鏡をずらしながら尋ねてくる三浦に、右京は微笑みながら、ある頼みをするのだった。
「ええ。実は三浦さんに、とあるところへの照会をお願いしたいのですが。よろしいでしょうか?」
「なんなんだアレ。ほんとに三浦か? ……中身は別のもんが入ってんじゃねえのか?」
「もうっ! 失礼ですよ、伊丹さん!! 三浦係長だって、将来考えて勉強してるんですから!!」
伊丹の心底気持ち悪いという視線に、流石に言い過ぎだと霧子はその背中をたたく。バシッと大きな音が鳴って伊丹が飛びあがるが、流石に女子を殴る気はないのか、猛犬のように唸るのみ。
進ノ介は何度も受けたことがあるから分かるが、霧子は自分の力加減というものをもう少し理解するべきだ。結構あれは痛い。
そんな様子はともかくとして、特命係と一課の面々が見つめる先には、電話口に向かって英語で話しかける三浦の姿があった。
「Could you please send datasets... Yes, yes. Thank you David! ……Ha Ha ! I hope so!」
しかも、かなり流暢に。ところどころ文法が間違っていても、円滑にコミュニケーションができている。
「にしても、三浦さんのFBI研修ってサボってる言い訳だと思ってましたけど。本当だったんですね! 先輩も見習わないと!!」
芹沢が含み笑いを浮かべながら伊丹を小突き、その仕返しに強烈な拳をくらう。
遡ること二十分ほど前。捜査一課にやってきて、右京が三浦に頼んだのは、彼の人脈を活用してアメリカでの事件の照会を依頼することだった。
「けど、本当なんですか? 三崎謙吾がアメリカで犯罪を犯しているなんて」
霧子が右京へと尋ねる。三浦は二つ返事で了承してくれたが、彼女には、まだ右京の推理に疑問があった。
「確証とまでは言えませんが。三崎謙吾の犯行は手慣れたものでした。おそらくは初犯ではない。けれど、彼の犯罪は公になっていない。もちろん、遺体が未だに発見されていない可能性はありますが……。
そこで、彼の経歴を見てみますと、五年前より幾度となくアメリカを訪れています。名目は数週間の語学研修。もしかしたら、と。そう思いました」
「それに、アメリカでなら、村木の模倣犯罪を行ったとしても日本との連続性は分からないはずだ。日本で犯行を犯すよりも発覚のリスクは格段に少ない」
進ノ介が補足するように言葉を足していく。
そうして二人が説明をしていると、三浦が受話器を置き、髪を掻きながら面々の前へと戻ってきた。その顔には面倒なことになった、とそんな表情が浮かんでいる。
「警部どのの考えが当たりましたよ……」
「と、いうと?」
「FBIの連続殺人対策のチームに連絡を取りました。
詳しい捜査資料はアチラから送ってくれるそうですが。五年前、三崎が渡米した時期に二件の殺人事件が発生しています。場所も、三崎のいたロサンゼルス市内。被害者は若い女性で、片耳のピアスが失われていたと」
「本当ですか!?」
芹沢が血相を変えて三浦に詰め寄る。国内の連続殺人でも珍しいのに、今度はアメリカにわたっての連続殺人だ。下手をすると犯罪史上に残るかもしれず、興奮するのも仕方ない。
そんな様子を係長として窘めつつ、三浦自身も興奮を隠せ無いようで。元気よくデスクへと戻ると、三浦はすぐさまメールフォルダを開いた。
「ああ。ちなみに、向こうの捜査では、アジア系の男が有力な容疑者として挙がったが、身元も不明。事件は今も未解決だってよ。今、容疑者の画像データを直に送ってくれるって言うが。……来たみたいだな」
三浦のパソコンのメールフォルダに受信のマークがつく。それをクリックして開くと、数枚の写真が添付されていた。事件の発生前に、被害者を後ろからつけまわしていた男。その姿が監視カメラによって捉えられていたのだ。
そして、その画像に写っていた男は。
「マジかよ……」
「これ、もしかしなくても」
「ええ……」
進ノ介は表情を硬く、その写真を眺める。そこに写っているのは、少し禿上げた痩せぎすの男。
「……僕には村木重雄に見えてしまうのですが」
「言わなくとも分かってますよ!!」
右京のなんでもないように呟いた呑気な一言に、伊丹が怒鳴り声をあげる。過去の写真でしか村木を見たことのない進ノ介と霧子にも、この男が村木にあまりに似通っていることは理解できた。
「……まさか、本当に幽霊!?」
「そんなわけねえって何度も言ってんだろが!! そんなんじゃ警察なんて役に立たねえだろ!?」
「ですが、まだ幽霊がいないと証明できたわけではありませんからねえ。僕も常々幽霊はいると考えているのですが……」
「警部どのの趣味はどうでもいいんです!!」
途端にざわめき始める面々。だが、そんな彼らの言葉を聞いているうちに、進ノ介には一つの考えが生まれていた。ある意味、幽霊と同様の突拍子もない仮説が。
アメリカから報告がもたらされて一時間後。気分を落ち着かせた刑事たちは、なぜか特命係に集まって情報を整理していた。幽霊だのなんだのと騒いでいるところを中園に見つかり、追い出されたのだ。
『そんなばかばかしいことを考えている暇があったら、少しでも犯人につながる証拠を持ってこい!!! そして特命係は出ていけ!!!』
彼らは至って真面目に事件について考えていたのだが、流石にオカルトがらみとなってくると頭の固い中園には受け入れられなかったのだろう。伊丹達は特命係と同じに見られたことに不満があるようだが、中園の物言いには文句があるようで、素直に特命係にやってきた。
「まずは情報を整理するとしましょう」
右京はホワイトボードに事件の要点をまとめていく。
・舞原ひとみを殺害した三崎謙吾は村木が生きていると主張。村木、安斉しか知らない情報を入手している。
・四年前より続く模倣犯は不明。だが、三崎も犯行を認識しているためにつながりがあると見られる。
・片耳のピアスを奪い去る特徴は共通。
・アメリカで発生した模倣殺人の容疑者が村木と酷似。
「そして、重要なことが」
・村木と安斉は死亡。当時、他に共犯者はなし。
「杉下さん、まだ気になるところがあるんですけど」
「では、泊君」
手を上げた進ノ介に、右京が手で示す。
「三崎が奪い去った舞原ひとみさんのピアス。それがまだ見つかっていないことです。彼にとっては戦利品。手放すとしたら、それ相応の理由があると思います。例えば、彼に殺人の方法を教えた何者かに渡した、とか」
高いリスクを払ってまで手に入れたピアスだ。村木、安斉に倣って祭壇に飾るなどをしていてもいいはず。だが、それは見つかっていない。彼は師と仰ぐ人間にならば贈っている可能性もあるが……。
「どちらにせよ、その偽村木が誰かがわからねえと、話が始まらねえだろ?」
「ええ、もちろん。目下のところ、最大の謎は過去の事件の手口を誰が、どのようにして三崎に教えたのか、ですからね。
ですが、泊君の疑問も、後々に繋がってくるでしょう」
三崎を教育した人間。その最有力はアメリカにて確認されている偽村木だ。
実際にその写真を三崎に突き付けてみると、いかにもという意味深な笑みをこぼした。反応から見ると、おそらく彼の言う「村木先生」とは、この男なのだろう。
だが、奇妙なことにアメリカの入国審査等に偽村木は記録されていない。そのため、現地では日系アメリカ人として捜査が進められていた。
日本からやってきた記録もない、村木にそっくりな模倣犯。
他人の空似と言うには、何もかもそっくりで、犯罪まで同じ手口。
「けど、ほんとに村木そっくりですよ? 整形でもこんなにならないだろうし。村木の双子がいたなんて記録も全く残っていないんですから。幽霊とか、分裂したって言うほうがまだあり得そうですよ」
芹沢が考えるのも限界、と言うように頭を掻きながら呻く。だが、その頭を叩くと、伊丹は般若のような顔を芹沢に向けながら唸った。
「芹沢、いいか。大事なことだから、何度でも教えてやる。人間はな、ゆーれいにはならねえんだ。しかも簡単に分裂もできるわけねえ!!」
伊丹はオカルト説を真っ向から否定する。彼もこれまでに悲惨な事件は何度も見てきたが、そのどれもが犯人は人間であった。村木程度の殺人犯が幽霊となり、しかも人殺しができるというなら、この世は殺人鬼の悪霊で溢れかえっているだろう。
そんな時だった。
「あのぉ、すごい言いづらいんですけど……」
伊丹の態度を前に、進ノ介が遠慮しながら手を上げる。
「ん? なんだ、泊」
「実はあるんですよ……。人間が二人に増える方法」
「はぁ!?」
進ノ介は申し訳なさそうに小声で、伊丹の大声の主張に反論した。
その声を聞いた途端、まさか、と霧子が目を見開く。彼女にも進ノ介が言わんとしていることがわかってしまったのだ。
「泊さん、まさか!?」
進ノ介はそんな霧子に頷きを返すと、一歩前へと出て、面々へと説明を始めた。
「とりあえず、最後まで聞いてください。俺だって、変な仮説だと思ってますから。……まず、三崎が出会った村木の偽物について、これまでの情報が全て正しかったと仮定します。仮に村木2とでもしますが、村木2は、
・外見がオリジナルに非常に酷似。
・犯罪の手口や狡猾さも村木譲り
・誰かに指導できるほどに村木の事件について細かい情報を有している」
「そんなもん、ほぼ村木と同じじゃねえか! そんな人間いるわけねえし、いたら俺達が八年前に見つけてる!!」
伊丹は進ノ介の説明にいら立ちを見せながら反論する。確かに、同一の頭脳と容姿を持っている人間が居たら、それは正しくオリジナルと区別することはできない。
そんな人間はあり得ない。と考えるのが普通だ。人間は。
「……つまり、泊君。君が言いたいのはこういうことですね? 人間ではなく、別の存在ならば、村木の完璧な模倣犯となりうる、と」
右京が興味と興奮の色に目を染めて進ノ介に尋ねる。それは新しいおもちゃを見つけた子どものようでも、未知の分野を切り開いていく学者のようにも感じられた。
そしてその視線を真向に受けとめながら、進ノ介は力強く頷く。
「俺達は一年間、そういう存在と戦ってきました。人間に興味を抱き、人間の悪意に惹かれ、人間を模倣した存在と」
「おいおい、ちょっとまて泊。お前が言ってるのは、こういうことか? 俺達が追ってる偽村木の正体が……」
「ええ。この偽村木がロイミュードによってコピーされた存在だとしたら、ここまでの全てに説明ができます」
ミステリーとしてはかなりの禁じてだとは思いますが、セーフでしょうか?