相棒 episode Drive   作:カサノリ

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ここまでの状況のまとめ

幽霊が出る。そのような噂がでる御首山へ心霊写真の真相を探りにやってきた特命係と詩島剛。だが、心霊写真は撮れず、殺人事件が発生してしまう。
被害者は、かつて山で失踪した少女の行方を追っていることがわかるが、話を聞く人々には、何か気になる点が……。

羽黒真一
:三年前から山の麓で宿を経営する男性。剛と知り合い、一同を宿に泊める。

御伽健次郎
:御首山の山ガイド。先祖代々猟師を営んでいる。二十年前のみどりの事件の際にも、捜索に参加した。

灰島涼
:被害者。撲殺体として発見されたルポライター。
失踪したみどりを引率していた教員を母に持ち、その無念を晴らそうと辺りを嗅ぎまわっていた。遺体は殺害現場から移動されていた。

花江
:羽黒氏に土地を貸し出している上品な女性。自然素材を使った飾りづくりが得意。

玉森みどり
:二十年前、御首山から消えた少女


第七話「心霊写真が語るものは何か IV」

 夕方、宿へ戻った右京と進ノ介は羽黒氏と花江を食堂へと呼び出していた。

 

 そして剛はといえば、そんな集まった二人を見て、何やら思案顔。少し離れた場所に腰を掛けて、じっと成り行きを見守っている。

 

「えっと、杉下さんと泊さん。何かお話があるということでしたが?」

 

「ええ。大切なお話ということですけれど、何かしら?」

 

 羽黒氏と花江が疑問の声を出す。花江の声を聴くのは、三人は初めてとなる。見た目通りの上品で、穏やかな声であった。

 

 ただ、そうした疑問は当然の物だろう。いきなり刑事が神妙な顔で話をしたい、と。そう言ってきたのだから。そんな二人へ向かい、右京がゆっくりと口を開く。

 

「ええ。実は僕達には疑問があるのです。もしかしたら、灰島さんの殺人事件にも関連しているかもしれない。そんな大きな疑問が。

 それを解消するために、ぜひ、お二人のお力をお貸しして欲しいと思いまして」

 

 その言葉に、羽黒氏は少し首をかしげながら、

 

「もちろん、私たちがお力になれるのでしたら、何でもしますが……。疑問とは、いったい何なのでしょう?」

 

 すると、進ノ介が今度は口を開き、

 

「単純な疑問です。羽黒さん、花江さん。なぜ、貴方たちは嘘をついているのか。俺たちが聞きたいのは、それだけですよ」

 

 

 

 相棒 episode Drive

 

 第七話「心霊写真が語るものは何か IV」

 

 

 

「嘘、ですか……?」

 

 羽黒氏がどこか呆然と言葉を漏らすと、右京は頷きながら彼らの前に歩いていく。

 

「実は、僕たちがこの山に来てから、多くの嘘を見聞きしました。それら、一つ一つは決して大きな嘘というわけではありません。しかし、それらが積み重なって、大きな事実を隠している。僕はそう考えています」

 

 右京がそこまで言い切ると、羽黒氏は椅子から立ち上がり、手を広げて抗議の声を上げた。

 

「……いやいや、杉下さん。こういっては何ですが、私はこれまでも真面目に生きてきましたし、この宿でも不誠実なことは何もしていませんよ?」

 

 すると右京は少しだけほほえみ、頷きを返す。

 

「ええ、その通りです。嘘とは言いますが、あなた方は誰かを害そうという意図で嘘をついているわけではない。ですので、なおさら。僕たちの疑問に答えていただきたいのです。

 ……亡くなった灰島さんと、いまだ見つからぬ、みどりさんの無念を晴らすためにも」

 

 右京の言葉に、花江と羽黒氏は、気のせいでなければ息をのんだ。そうした様子を見て、進ノ介は羽黒氏を真正面に見ながら、ゆっくりとした口調で嘘を暴いていく。

 

「まず、羽黒さん。あなたは周りの人に東京から移住してきたと話しています。宿を経営するようになった三年前に初めてやってきたと。けれど、それは嘘ですね?」

 

「!?」

 

 眼をむく羽黒氏。

 

 正直に言ってしまえば、非常に分かりやすい。

 

 進ノ介が思うに、彼は人が良すぎるのだろう。だから、隠しているつもりでいても、時折、秘密が漏れ出てしまう時がある。例えば、それは観光客を楽しませるために、この山を上機嫌に紹介するとき。

 

「羽黒さん。あなたは、俺たちにこの山の来歴を教えてくれました。丁寧に、昔ばなしまで交えて。けれど、その時にあなたはこう言いました。その昔ばなしや歌は『爺さんたちから聞かされたものですよ』って」

 

「しかし、それはどうにもおかしい。言葉を正直にとらえるのなら、羽黒さんはこの山の昔話を御老人たちから聞かされて育った。それは、成人した後に初めて訪れたというあなたの言葉とかみ合いません。

 つまり、地元に伝わる歌を聞きながら育った、貴方はこの町の出身です」

 

 右京が指さし指摘すると、羽黒氏は口を閉じてしまう。だが、彼がついていた嘘はそれだけではない。

 

「次に羽黒さんはみどりさんの事件を聞いたこともないとおっしゃっていましたが、それも嘘です。

 僕たちが先ほど話を伺ったとき、僕は『玉森みどりさんの失踪事件』といいました。その時、僕は玉森みどりさんのことを『女の子』だとは一言も言っていません。よしんば女性だということはわかっても、『女の子』と知ることはできないでしょう。

 ですが、羽黒さんはみどりさんが女の子であることを知っていた……」

 

「まだありますよ? あなたは灰島さんとのつながりが無いかのように話していました。彼の目的も知らなかったと。……けど、これを見てください」

 

 そう言って、進ノ介はスマートフォンを操作し、数枚の写真を示す。それは、米沢から送ってもらった灰島氏の家で発見された、心霊写真風に加工された写真。

 

 そして、その写真は、

 

「特にこの写真。これって、羽黒さんに見せてもらった心霊写真と同じものですよね?

 調べてみたら、心霊サイトにそんな写真を投稿していた形跡も見つかりました。ここからわかるのは、灰島さんがこの心霊ブームを作ろうとしていたということ」

 

「羽黒さんがこちらの宿を営み始めて、すぐに心霊ブームで山が注目される。それは面白い偶然です。いえ、ただの偶然として片付けるには少々気にかかる。まるで、あなたに幽霊がついてきたように。

 ですが、それにあなたも加担していたらどうでしょう? 宿を訪れた人々にこれ見よがしに心霊写真を見せる。宿の主人直々に心霊写真について解説してくれる……。なかなか、印象的な思い出です。

 そうすれば旅行客の何人かは土産話として幽霊のことを広げてくれる。そんな可能性は大いにあると思えますねえ」

 

「あなたは灰島さんから写真を提供してもらい、客に噂を広める役割を持っていた。つまり、灰島さんとは親しく、見知った間柄だった。そうですね?」

 

 進ノ介が言い終えると、羽黒氏は少し汗をかきながら、静かに椅子に座り込んでしまう。そうしてうつむいてしまった彼の横に立ちながら、右京が静かに尋ねた。

 

「さて、羽黒さん。ここからあなたのついた嘘を真実に置き換えてみると、次のようになります。羽黒さん、あなたは、

 ・地元の出身であり

 ・玉森みどりさんの失踪を知っており

 ・灰島氏の目的を知り

 ・彼とともに心霊ブームを作り上げ、この山に注目を集めた。

 ここから一つの真実が見えます。羽黒真一さん、あなたは二十年前の玉森みどりさんの失踪事件の関係者であり、とある目的のためにこの町に戻ってきた」

 

 それを裏付ける事実も見つかっている。一度疑問を見つけてしまえば、調べるのが早いのはこの時代の利点だ。

 

 ここへ来るまでに、特命係が調べたところ。羽黒真一という名前の人間は存在しない。彼の名前は偽名である。そして、二十年前の事件関係者を調べてみると、彼によく似た、一つの名前が見つかった。

 

 白鳥真一。

 

「ええ、羽黒さん。あなたは、二十年前に濡れ衣をかけられ、自殺した白鳥先生のご子息ですね?」

 

 右京の言葉に、羽黒氏は黙ったまま答えることはなかった。だが、びくりと肩を動かしたそのしぐさこそ、真実を雄弁に語っている。

 

 では、もう一人、羽黒氏に土地と建物を提供していた親切なご婦人。花江さんとは何者なのか。灰島氏と羽黒氏の目的を考えると、彼女もただの親切な夫人ということはないだろう。

 

「実は、僕、少々気になっていたことがあるのですよ……。

 こちら、灰島さんの持っていたみどりさんの写真です。この写真では、みどりさんは首に森の素材で作ったネックレスを下げている。

 ですが、写真が撮られたのは林間学校が始まった日の午前中。彼女は到着したばかり。過去の学校関係者に伺ったところ、その日のプログラムにネックレスづくりは含まれていませんでした。

 では、このネックレスはどのような由来があるのか……。そういえば、このネックレスの形、この宿に飾られているものとよく似ていますね?」

 

 右京はそういうと、壁に掛けられた古びた飾りを取り出して、彼女の前に置く。

 

「花江さん、貴方も玉森みどりさんの関係者、いえ、もっと親しい間柄だったんじゃないですか?

 だからこそ、灰島さんや羽黒さんに協力していた。彼女の関係者の名前を調べれば、すぐにわかるかもしれません。けれど、もしよかったら、貴方の口から真実を教えてくれませんか?

 これでも、俺たちは警察官です。きっと、貴方たちの助けにもなれるはずです……」

 

 進ノ介は座ったままの彼女の目線に合わせ、真摯に訴える。すると、花江は、ゆっくりと首を縦に振った。そして、口を開くと、

 

「黙っていて申し訳ありませんでした……。私は玉森花江。みどりの母親です」

 

 そうして真実を教えてくれたのだ。

 

 

 

 数分後、場所を変えた面々は、冬間近の涼しい風の中、花江が語る真実に耳を傾けていた。

 

「二十年というのは、残酷な時間ですね。私も、当時はみどりを探すためにこの町に来て、精一杯声を張り上げていたのですけど。町の人たちは今では、誰も覚えてはいません。……仕方がないことだとは分かっています。今、元気な人たちは当時動いてくれた人たちの娘さんや息子さんですから。私も、今ではこんなおばあちゃんになってしまった。

 けれど、二十年たっても、周りの人がどんなに忘れても、私にはみどりを忘れることなんてできませんでした。今でも、あの子が笑顔で出かけて行ったことも、そのまま帰らなかったことも。昨日のことのように思い出せるんです」

 

 彼女にとって、二十年たっても、何十年たっても、娘が帰ってこない限り、事件は解決したことにならない。

 

 だから花江はこの山に別荘を買い、時間ができるたびにこの山に来てはみどりを探すことにした。幸いにも、彼女の主人は、娘の失踪を忘れるように仕事に打ち込み、一財産を築いてくれたため、彼女の行うことにお金を出してくれたという。

 

「ただ、一人ではできることは限られていました。

 殺人だったら、犯人探しができます。遭難だったら、山をしらみつぶしに探せます。けれど、私には、その原因すら教えられなかった。もしかしたら、娘をさらった、あるいは殺した犯人がいるかもしれないと思うと、周りの人に協力を求められなかった。

 それに、白鳥先生の自殺などがあって、町の人にも罪悪感があったんでしょうね。こっそりと聞きまわっても、あまり覚えていない人が多かったです。

 私はどんどんと年老いていき、正直、諦めているところもありました。そんな時に、羽黒さんと灰島さんが来てくれたんです。何とか、みどりを探してあげたい。そう言って、色々と協力してくれました……」

 

 その言葉にうなずきつつ、羽黒氏が経緯を続けて説明してくれる。

 

「正直、私は受け入れられるとは思っていませんでした。父は当時、疑われていましたし、罵倒されても仕方ない。そう思ってお会いしたのですが、花江さんはとても親切な方で……。私も、灰島さんも花江さんの助けになりたいと、自然と思わされたんです」

 

「……お二人とも、当時はまだ子供だったのだもの」

 

 花江にとって、彼らもまた被害者だった。自殺した容疑者の息子に、引率教諭の息子。どちらも、親に関してはしこりが残る相手だが、親によって被害を被った彼らに罪はない。そして、その真実を暴きたいという執念は彼女にとっても親しみが持てるもの。

 

 その後のことは羽黒氏が語ってくれた。

 

「父の事件の後、私はこの町から逃げるように母方の実家へ引っ越しました。この町で生きていくのは難しかったですから。その後、事件のことは忘れようと何年もぼんやりと生きていたんです。

 けれど、心のどこかでは、せめてみどりちゃんが見つかってほしい、そんな思いもありました。

 灰島さんと出会ったのは、そんなころ。彼は亡くなったお母さんのために、みどりちゃんの事件をずっと調べていました。私もそんな彼に協力することにしました。それが責任だと思って」

 

 そして、彼らは同志となった。

 

 風化した事件を調べなおし、みどりを発見する。そのために、彼らが必要としたのは、何よりもまず人の手と情報だ。それらを得るため、工夫を凝らすことにした。

 

「幽霊を利用しようと考えたのは、私です。事件が風化したままなら、わかるものも分かりません。それに、私が移住したときは、この山は人が多く訪れる場所ではありませんでした。

 だから、必要だったのは山に注目の目を集めること。その目がオカルトを探そうという好奇の目だったら、何か手掛かりが見つかるんじゃないかって。

 ああいうマニアの人たちは、細かく探すのは得意ですから。それで、そういう人たちを呼び寄せるために、灰島さんに心霊写真を作ってもらって、インターネットや心霊雑誌に投稿してもらいました」

 

「……そして、羽黒さん。あなたはこの山を見守りつつ、みどりさんを探していた。そうですね?」

 

 そこまで聞くと、彼らがとってきた行動にも納得はできる。ただ、少しだけ疑問もあった。

 

「なぜ、それを早く打ち明けてくれなかったんですか?」

 

 頷きつつ、進ノ介が尋ねる。すると、羽黒氏は申し訳なさげに説明してくれる。

 

「灰島さんが死んだ原因が何かわかりませんでしたから。

 灰島さんは二十年前のことを事件だと思っているようでした。遺体が全く見つからないのは、不自然だから、誰かが隠しているに違いないって。

 今回も新しい手掛かりが見つかったと言って、家々を回っていました」

 

 そして、そんな中で灰島氏が亡くなった。しかもそれは他殺だった。

 

「悲しかったですし、それ以上に怖くなりました。二十年前の関係者か、それとも彼が探るうちに何か住人の不都合なことを知ってしまったのか。私たちにわかることはありません。その中で、私たちが元々知り合いだったと分かったら、こちらにも疑いの目が向きます。

 父の犯罪を明らかにしようとした灰島さんを、僕が口封じしたと。そう思うと、黙っている方が、安全だと思えたんです」

 

「……灰島さんの見つけた、新しい手掛かりって、何だったんですか?」

 

「まずは自分で確かめてから知らせる、そう言っていて。結局は何かはわからないんです……。私から話せるのは、以上です」

 

 それがこれまでの真実だと、羽黒氏は語り、話を止める。

 

 ただ、その顔に、何か進ノ介は違和感を感じた。まだ、彼には隠していることがあるのではないか、そんな直感的なもの。そのことをより鋭く感じ取ったのは、誰あろう剛であった。

 

「嘘だね」

 

 鋭い声が飛ぶ。

 

 その声に、進ノ介は振り向くと、剛がテーブルを手でたたきながら立ち上がっていた。そして、つかつかと羽黒氏の前に立ち、その顔をにらみつける。進ノ介は思わず剛を止めようとするが、剛は手でそれを遮った。

 

「ご、剛君……。どうして私がまだ嘘を言ってるって……」

 

 剛は、それはそれは不機嫌そうな、いや、納得いっていないという顔で羽黒氏に詰め寄る。

 

「羽黒さん、あんたはいい人だよ。俺を助けてくれたし、宿でも歓迎してくれた。けど、だから俺みたいな捻くれた奴には、嘘ついてんのも分かっちまう。

 ……あんたはまだ一番重要な秘密を隠してるんだ」

 

 その秘密とは……。

 

「さっきからさ、あんたの口から出てるのは『みどりちゃんを見つける』とか『責任』とか、そんなのばっかだ」

 

「……それが私の思いだよ。それの何が悪いっていうんだい?」

 

「俺が納得できないのは、なんで! あんたは親父さんのために動かないんだってことだ!!」

 

 剛が語気を荒くする。羽黒氏に言い募る剛は、どこか事情を知らない右京にも、自分に言い聞かせているように聞こえた。

 

「どんなにひどい親でもさ、怪物みたいな親だとしてもさぁ、親子ってやつは割り切れるもんじゃねえだろ!

 しかも、あんたの場合は父親は疑われたから自殺しただけ。無実なら、純粋な被害者だ。ならさ、あんたがここにいる理由は、『父の無念を晴らすため』だろ!? 親父さんが無実だったと証明するためだろ!?」

 

 剛には、羽黒氏がなぜ父親のことを棚に上げて、みどりのために移住し、人生をささげているのかがわからない。

 

 そして、もし、その強い思いがみどりにだけに向いているとしたら。その理由は一つだ。

 

「羽黒さん、あんたは父親が犯人だと思ってるんだ。みどりちゃんの事件に、父親がかかわったと思っているんだ!

 ……だから、父親の罪を償うために、こんなことをしてる」

 

「そ、そんなことはない!」

 

 羽黒氏の反論の声は図星をつかれたと、そういうような弱弱しいものだった。

 

「じゃあ、ここで言ってみろよ! 花江さんやこの警部さんたちに言ってみろ! 自分の父親は潔白だと信じているから、それを証明するために協力してくれってさ!!!」

 

 剛の大声が、部屋に響いた。

 

 剛には一つ、大きな秘密がある。何年も一人で抱え込んでいた秘密だ。それこそ、明るみになれば世間から迫害を受けるかもしれない。それくらいに大きな秘密。

 

 そんな彼だからこそ、羽黒氏が抱えている贖罪の意識が伝わってきたのだろう。

 

「……羽黒さん、俺の親父もそうだったよ。人を人とも思わない怪物だった。それを知った時、俺が考えたのは『償わなきゃいけない』って、そんな思いばかり。

 けど、いざ父親が見つかったら、俺はあいつを信じたくなった。……それで、見事に裏切られたよ」

 

「剛君……」

 

「きっと理屈じゃないんだ。どんなにひどい親でも、信じたくなるって気持ちは。けれど、一人で抱え込んでも、結局は余計に周りに迷惑をかけるだけ。……酷い経験だったけどさ、俺もそれだけは学べたよ。

 だから、羽黒さんも自分勝手に抱え込んでないで、話してくれよ。それが、みどりちゃんのために、できることだろ?」

 

 少なくとも、羽黒氏の目には、剛の言葉は自分を言いくるめるためのウソには見えなかった。彼は、自分の苦しい記憶を、明かしているのだと分かったのだ。

 

 そして、羽黒氏はしばらくの間、沈黙を続け……。最後には了承するようにうなずくのだった。

 

 

 

 羽黒氏がその後、倉庫から持ってきたのは、小さなリュックサック。ぼろぼろに色あせ、ほつれてしまったそれを見て、花江は目を丸くする。なぜなら、それは。

 

「それ、みどりの……」

 

 それは二十年前、移動教室にみどりが持って行ったリュックサックだったから。

 

「……花江さん。すみませんでした。私がみどりちゃんを探したいという思いは本当です。けれど、最低の男だとしても、彼は父親です。犯罪者として世間にさらされることだけは、止めたかった」

 

 羽黒氏はリュックサックをウッドデッキの上に置くと、椅子に座り込み、振り絞るように声を出していく。

 

「これは、……父の遺品の中から見つかりました。

 父は昔から、少し情緒が不安定なところがあって。それに、正直、小さいころから変だと思っていたんです。家に遊びに来た女の子への視線が不気味だったり、なんだか、体を触ろうとしていたり。それは、だんだんと年を取るにつれて、確信に変わっていきました。

 ……彼は誇れる父親なんかではなかった! 母もそんな親父の本性を薄々勘付いていたんでしょうね。だから、父が自殺した後、その荷物を物置深くに隠して、触らせなかった」

 

 けれど、真実を知るまでの、その間は羽黒氏も自分たちを追い出した町の人々を恨み、そして父の無実を信じていたかったのだという。

 

 だが、母親が死んで、そんな偽りの日々は終わる。母の遺品整理中に見つかった古い段ボール。父の私物入れ。その奥底から新聞紙に包まれたリュックサックが見つかったのだ。   

 

「父が犯人だった!! 父が、花江さんからみどりちゃんを奪い、灰島さんのお母さんを苦しめた!!

 そう思ったら、どう償えばいいか、そればかりを考えて……。そんなときに灰島さんがやってきてくれて、みどりちゃんを見つけることくらいしか、私にできる償いはないと思ったんです……」

 

 そう言うと、羽黒氏はうつむき、涙を流してしまう。花江はその様子を見ながら、怒ればいいのか、同情すればいいのか、わからない様子であった。彼とて悪意があって、隠していたわけではないのだから。

 

 ただ、右京達には確認しなければいけないことがある。

 

「……羽黒さん、お父様の遺品から、みどりさんの行方に繋がるものは、見つかりましたか?」

 

「……いいえ。隅々まで探しましたけれど、それらしいものは。荷物の中身は、そのままにしてあります。誓って、何かを隠したりはしていません」

 

 鑑識を呼ぶなどして、詳しく調べることは必要だが、進ノ介には彼が真実を言っているように感じられた。少なくとも、これ以上のウソはないだろう。

 

 こうして、二十年前から続く、一つの嘘は真実へと変わった。では、今回の事件において灰島氏が殺害された理由は何なのか。

 

(灰島さんが見つけた証拠。それがカギかもしれないけど……。可能性があるのは、遺体から無くなっていた写真のデータだ。けれど、何かを撮影していたなら、隠しカメラの方……)

 

 ふと、進ノ介の頭の中に、一つの考えが生まれる。

 

(写真は写真でも……)

 

 羽黒氏の話では、灰島氏は事件の可能性を疑っていたという。それならば、この付近に犯人がいると考えて、慎重に行動したはずだ。ルポライターという風体を整え、あくまで事件のことは表に出さないように。

 

 彼が手に入れることができる、証拠。そんな可能性があるものは……。

 

「杉下さん、もしかしたら、ですけど……」

 

 熟考から戻り、自分の考えを伝えようと、進ノ介は右京へと振り向く。だが、当の右京はリュックサックの中身をひっくり返し、探っているところだった。大事な証拠品だというのに、容赦ない。

 

「ああ、泊君。少し待ってください……」

 

「……杉下さん。俺たちが待つべきなのは、米沢さんが来ることなんじゃ」

 

「手袋はつけています」

 

 右京が両手を上げると、確かにそこには白い手袋が。文句はあるが、言っても止まりそうにないので、しぶしぶとうなずく。そして、そんな探索を行っていた右京も、あらかた調べ終えたのか、手を止めると、上を見つめながら息を吐き、

 

「……花江さん、確認したいことがあります」

 

 そんな様子をじっと見つめていた花江に微笑みながら、質問を出すのだった。シンプルで、一見すると事件とは関係なさそうなもの。だが、その答えを聞いた右京は、納得が言ったようにうなずいて、

 

「なるほど……」

 

 そう声を漏らす。その答えに、もう一つ、嘘が存在したことに気づいたのは、右京だけではない。進ノ介も気づいた。

 

「……杉下さん。それって」

 

「ええ。あの時、あの方が言った言葉……。その意味が分かりました」

 

「それに遺体が動かされた理由も、わかりますね」

 

 進ノ介は携帯を取り出すと、霧子達に連絡を送るのだった。

 

 

 

 その晩は曇り空だった。夜になると冷え込む山なので、捜査陣も鑑識作業を止め、撤退。御首山の殺害現場近くに、人は誰もいない。かろうじて、その光景を見ているとすれば、草場に隠れた昆虫か。それこそ月や星くらいだろう。

 

 だが、そこに男がやってくる。その彼は、ゆっくりと人目を気にしながら歩いていき、地蔵の前で一度手を合わせた。

 

「ごめんなぁ、堪忍してくれ……」

 

 震える声を漏らしながら。彼は傍らに置いていた細長い包みを取り出し、ゆっくりと封を解いていく。その布から黒光りする筒が出てくる。そして、それを首に当てようとして……。

 

「それはお止しになった方がいいでしょう……」

 

 その手が強くつかまれ、止められる。

 

 男が驚き振り向くと、そこには杉下右京が立っていた。昼間に見たときのような、微笑みは消え。男の行動を咎めるような、鋭い視線。

 

 その瞬間、男に浴びせられるのは、いくつもの懐中電灯による明かり。それは捜査一課と名乗った刑事三人組に、杉下右京に泊進ノ介。そして、なぜ彼らと一緒にいるのかもわからない一般人の詩島剛。

 

「あ、あんたたち……」

 

「命をもって償う……。貴方はそれで満足かもしれませんが。それでは、殺された灰島さんも、事件関係者も浮かばれません。

 秘密を積み重ねるのは、もう終わりにしましょう。お地蔵様の下で眠る、みどりさんも、それを望んでいるはずですよ。御伽さん」

 

 その言葉に、男は、山ガイドの御伽氏は諦めたようにうなだれるのであった。

 

 

 

 派出所へと連行された御伽氏は、口を閉じたまま。目を伏せ、一言も発しようとしない。見るからに、黙秘を貫こうとする姿勢。

 

 そんな彼の前に、右京は灰島氏が持っていたカメラを机の上に置いた。さらにそこへ写真を並べ始める。

 

 笑顔のみどりが映し出された古い写真。

 

 灰島氏が撮影した風景写真。

 

 隠し撮りされた家々。

 

 心霊写真。

 

「写真という物は不思議なものですねえ。本来は一瞬で過ぎ去る現在を、過去という形で永遠に閉じ込めておける。そして、その中には景色や人以上の多くの感情が込められています……。

 みどりさんの写真には、彼女の喜びと、ご家族との絆が。灰島さんの写真からは、彼の目的と執念が。そして、作られた心霊写真にはみどりさんを思う人々の苦闘が。すべて記録されていました」

 

「灰島さんが殺された理由も、彼のカメラにあった写真にあった。そうですね? 彼を殺したあなたには、そのことがよくわかっているはずです。御伽さん」

 

 進ノ介は御伽氏の隣に立ちながら、視線を彼に向けた。

 

 だが、御伽氏は少しだけ肩を震わせても、口を割ろうとはしなかった。彼にも抱えている大きな秘密があるのだろう。

 

「何もおっしゃるつもりがなくとも、僕たちの話を聞いていただきましょう。

 ……まず、僕たちが事件解決に必要だったのは、動機です。当初、彼はこの山に縁の薄い人間だと思われていました。証拠も乏しい。

 ですので、犯人はいかなる目的をもって、灰島さんを殺害したのか。それを知ることが必要でした」

 

「そして、彼の過去を調べていくと、彼には二十年前の玉森みどりさんの事件を調べるという目的があることがわかりました。

 そのために、灰島さんは心霊写真を作り上げ、羽黒さんと協力し、山への注目を集めようとしていた。それに加えて、新しい手掛かりを見つけた彼は、あちらこちらを回ったり、家を隠し撮りしたりと調べ物をしていた。

 過去の事件を調べたり、人の秘密を探ろうとする。それは殺人の動機にもつながる行為です」

 

「ここで、彼の手に入れた手掛かりとして、可能性があるのは消去されたカメラのデータ。しかし、彼には風景を撮る目的はなく、首から下げたカメラは、ルポライターの身分を示す以上の道具にならないはずでした。そのカメラのデータをなぜ消したのか……」

 

 右京と進ノ介の交互の言葉。右京がそれを区切ると、続いて、進ノ介が机の上のカメラを手に取り、それを弄り始めた。

 

「……考えてみれば、今のカメラは多機能化して、写真を撮るための物では無くなっている。ネットにもアクセスされているし、位置情報を発信したり。単純ですけど、メモリカードに、他のデータを入れておくことも。

 過去に取られた写真をデータ化し、メモリーカードに入れておけば……。こうして小窓から画像を見たり、拡大することもできます」

 

 そして、それは山の住人を疑い、秘密に探ろうとしていた灰島氏にとって便利な方法でもある。

 

「山や集落の中を、携帯を手にうろうろとすれば、目立ちますけど、カメラマンがカメラをのぞき込んでいても誰も怪しみません。

 こうして写真を確認しているように装いながら、辺りを調べることができます」

 

「さて、その推論が正しい場合、このカメラに入れていたデータとは何か? 

 ここで思い当たるのは、彼が懐に隠していたのと同じ、二十年前の写真です。灰島さんのお母様は、過去の事件の前に写真を多く撮っていました。そして、彼の自宅から、大切に保管された写真が見つかっています。……泊君」

 

「……それが、この写真です」

 

 進ノ介がカメラのパネルを動かすと、そのモニタには、たしかに、古びた写真が表示される。それは灰島氏の母親によって撮影された、二十年前の景色。

 

 灰島氏のパソコンを隅まで調べると、データ化されたそれが見つかり、思った通り、彼のカメラでも再生することができた。

 

 それら古びた写真を見ながら、右京がほほ笑み、話を続ける。

 

「僕の姪が数年前、面白い写真集を出版しようとしていました。過去に撮影した場所で、改めて写真を撮る。そうすることで物事の移り変わりというものが分かる。

 ……灰島さんも同じようなことを考えたのではないでしょうか? 母親が撮影した過去の写真と、今の山を比べれば。何か手掛かりにつながるのではないかと。そのために写真をデータ化して、カメラに保管していた」

 

「……ここで、俺たちが抱いていた疑問につながります。ずっと疑問だったのは、遺体が動かされたわけ。特に犯人に遺体を隠す気はなかったなら、遺体が殺害現場から、別の場所に移された理由は何かって。

 それで写真を調べたら、すぐにこれが見つかったんです」

 

 進ノ介が御伽氏の目の前に出したのは、一枚の写真だった。二十年前に撮影された、小さなハイキングコースにたたずむ、古びたお地蔵。

 

 灰島氏の殺害現場近くにあった、それだ。

 

 だが、その位置は今とは違う。かつては斜面の下り側に置かれていたことが、写真からわかる。

 

「古くからある地蔵が動くって、いかにも何かありそうですよね?」

 

「ええ。二十年前から位置を動かされている地蔵。灰島氏が興味を抱く可能性は大いにあるでしょう。

 実は、僕も一目見たときから気になっていたのです。通常、古い鳥居のように一所に長く置かれた物は、日の当たり方によって黒ずみ方が異なっていく。そして一方向だけが黒くなったり、浸食で古びたりしていきます」

 

 だが、あの台座はまんべんなく黒ずんでいた。それが示すのは、

 

「あの台座はまず、一方向に浸食が広がり、その後、別方向に黒ずみが広がった。つまり、お地蔵さまが長く置かれた場所から位置が変えられた事を示しています。

 そして、この写真でも、確かに。お地蔵様の位置は変わっていました」

 

「お地蔵の位置っていうのは、方角等の意味もよく考えて決めるもの。それを勝手に変えるというのは、珍しいことです。近隣に聞いてみると、変えたのは御伽さん。それも、山の管理を行っていた立場から、ほぼ独断で。みどりちゃんの失踪の少し後、事件のほとぼりが冷めたころに。

 そのことに、灰島さんも疑問に思ったんでしょうね」

 

 進ノ介に続き、右京が指を立てると、御伽氏に話しかける。

 

「なぜ、あなたが地蔵の位置を変えなければいけなかったのか。それは、元々の位置では不都合だったから。

 下り斜面に置かれていれば、その後、登山道の整備が入った時に何かの拍子に崩れてしまったり。雨で斜面が削れたり。色々とアクシデントが発生することが考えられます。

 あなたは、あの地蔵が、これ以上動くことを防ごうとした。

 山の管理人としては、配慮してもおかしくはありませんが……。その近くで灰島さんが殺害されたとなれば、意味合いも違ってきます。御伽さん、あなたにとって、そこは調べられては困る場所だった」

 

 そして、進ノ介が御伽氏に鋭い視線を向ける。

 

「……なぜなら、その下にはみどりちゃんが埋められていたから。

 灰島さんのカメラ、レンズに傷がついていたんです。何かにぶつかったみたいに。調べれば、このお地蔵さんの石の組成と、その傷の残滓が合致するはずです。

 灰島さんは地蔵の前でまず、襲われた。そして、あの斜面に倒れ込んだところに止めを刺された……」

 

「ですので、僕たちは近隣の方に情報を流しました『明日、犯行現場近隣を徹底的に捜索すると』。そうすれば、犯人は何か行動を起こすだろうと。

 ……そこで現れたのが、御伽さん、あなたでした。それに、証拠も……。伊丹さん」

 

「……はいはい。あんたが持っていた猟銃、その柄から血液反応が出ましたよ。……それが凶器で決まりだな。

 それに……。はぁ……。特命係の言う通り、地蔵の下から、幼い少女の遺骨が発見されました。丁寧に焼かれ、骨壺に詰められた状態で」

 

 刑事たちが証拠を突きつけても、御伽氏は口を閉ざしたまま。そんな彼の態度に頷きながら、右京は次の言葉を突きつけていく。

 

「では、なぜお地蔵様の下にみどりさんが埋葬され、あなたがそれを知っていたのか。……あなたは昼間、こういいました。みどりさんについて『カッパを着ていなかったら』と。

 花江さんに確認したところ、確かに当時、みどりさんは雨合羽を家に忘れていた。発見された彼女のリュックサックの中にも、それはなかった」

 

「それを知っていたということは、あなたは遭難時のみどりちゃんの様子を見聞きしていたから。そうですよね?」

 

 その言葉に御伽氏は強く唇をかみ、苦しむように目を閉じる。葛藤と、苦しみと、悲しみと。そんな多くの感情が混じった心に、右京が訴えかける。

 

「……御伽さん、あなたは自分の快楽のためにみどりちゃんの殺害をしたわけではありません。もしそうなら、毎日のようにお地蔵さんに手を合わせたり、地蔵様の下に、埋葬することはないでしょう。

 あなたには、罪悪感と死者を悼む気持ちがある……。そんなあなたは、灰島さんを殺害してしまったことに、悔いを残しているはずです」

 

「自ら命を断とうとするほどに……。

 けれど、御伽さん。この事件で苦しんでいるのはあなただけじゃありません。灰島さんも、花江さんも、羽黒さんも、二十年前の事件によって苦しんできた……。あなたのお父さんも、それを望んでいるはずです」

 

 進ノ介の言葉に、父親が入っていたからか。それとも、彼の罪悪感の高まりがそうさせたのか。御伽氏は伏せていた顔を上げて、二人を見た。

 

「……!!」

 

「御伽さん、あなたのお父様はみどりさんの事件の約一年後、亡くなっています。病院にかかれば完治していたにも拘わらず、治療を拒否し、苦しみに耐えて亡くなった。

 まるで、自ら命を断ったように……。それが彼の贖罪だったのでしょう。

 一つの事件が起きたとき、悲しみを無くすことはできません。決して、それだけはできない。ですが、それ以上の悲劇を防ぎ、遺された人々に整理する機会を作ることはできます。その唯一の方法は、真実を知ることです」

 

「そして、今、それができるのは、御伽さん、あなただけなんです。この二十年間の苦しみを終わらせてください。あなたの口から!」

 

 刑事たちの言葉を聞いた御伽氏は、大きく机をたたいた。自分を痛めつけるように、恥じるように。そして数分間、御伽氏はうめき声を漏らし。

 

 最後にはうなだれながらも、ぽつりぽつりと、真相を語り始めてくれた。

 

「……親父は立派な猟師でした。祖父も、曾祖父もそう。ずっと、山を愛し、皆から尊敬されていた。それが私の誇りです。

 ですが、そんな親父が一度だけ過ちを犯した。取りかえしのつかない過ちを」

 

 二十年前、みどりが一行からはぐれたその時。

 

 御伽氏の父親は猟場から急いで戻ろうとしていた。突然の大雨と雷に視界と耳をふさがれながら……。当時の御首山は茂みが深く、獣も入ってくるような場所。そこを急ぎ、息を乱しながら走っていた。

 

 その時、不幸な偶然が起こった。

 

 がさり、

 

 彼の近くで茂みが大きく動いたのだ。イノシシでも、シカでも、もちろん熊でも、至近距離で飛び込んできたら、彼にとっては大きな危険。彼は、銃弾を猟銃にこめ、威嚇のために上空へ発砲した。

 

「きゃっ!!!?」

 

 だが、その轟音に驚かされ、そして、足を滑らせたのは、獣ではなかった。

 

 声を聴き、急いでその場所に向かった彼が見たのは、斜面から滑り落ち、頭を打って息絶えた女の子だった。彼女は山に迷い込み、さまよっていたのだ。

 

「親父は混乱したまま、みどりちゃんの遺体を隠してしまった。禁猟区での発砲はご法度なのに、女の子が死ぬ原因を作ってしまった。事故だったとしても、廃業は免れません。

 当時は、私が一人前になったと喜んでいた時期でしたから、なおさら、守らなければいけないと、思いつめてしまったのでしょう。きっと、私がいなければ、訴え出たはずです。

 親父はその事故を隠すために、罪のドツボにはまっていきました。彼女の荷物を白鳥先生の家に放り込んで、偽装したり。まさか、犯人扱いされて彼が自殺するとは思わなかったと」

 

 父親の死後、みどりの骨壺が見つかり、すべてを記録した遺書が見つかったという。

 

「本当なら、親父が死んだときに、すべてを明かした方がよかったんでしょう。そうすれば、こんなことには……。けれど、私は思ってしまいました。先祖代々の誇りを守るために、この秘密を抱えるべきだと」

 

「……けれど、遺族はそれを許さなかった」

 

「ええ。数年前から幽霊の噂が出回った時、私は気が気ではなかった。みどりちゃんが無念を訴えているのではないかと。

 そんなときに、灰島さんが来て、根掘り葉掘り聞いてくる中で、私はパニックになってしまった。ああ、この人は私を疑っているんじゃないかって……。昨日、彼の後を付けたら、地蔵を探り始めて……。とっさに……」

 

 申し訳ありませんでした。

 

 最後には涙を流しながら、老猟師は、重い秘密を下ろすのだった。

 

 

 

 翌日、事件が終わったことで、進ノ介達は荷物をまとめ、宿を発とうとしていた。だが、その前に話しておかなければいけない人がいる。

 

「そうですか……、結局、父は殺人犯ではなかったのですね」

 

 そう言って、羽黒氏は安堵したように微笑む。彼にとっては、二十年来、ずっと父親を疑っていたのだ。少なくとも、殺人事件に関与していないと分かった。それだけでも肩の荷が軽くなるだろう。

 

 事件を終えて、近隣の人々はまだまだざわめきが収まっていないが、真実がわかり、安心を得た人も多い。みどりの遺骨を受け取り、家路についた花江などは、その最たるもの。

 

「羽黒さんは、この後、どうするのですか?」

 

 右京が羽黒氏に尋ねる。彼からすれば、みどりの身体が家族のもとへと戻り、贖罪の目的は果たされたことになる。今後の人生を選びなおしても良いと思えたのだ。

 

 だが、羽黒氏は右京に苦笑いを浮かべて、

 

「父の疑いは晴れましたが、私があんな噂を流したことが、巡り巡って今回の事件につながりました。

 それに、元は償うためだけに戻ってきたのに……。やっぱり故郷なんですね。この場所に、この山に感じる気持ちは特別です。周りの人が、許してくれるかは分かりませんが。ここで、宿をつづけながら、山に貢献していきたいと思います。そうして私の人生をやり直していきます」

 

 そう言いながら右京と握手を交わした。ついで進ノ介も握手をし、最後は剛の番。ただ、昨夜のやり取りがあったためか、二人ともどこかぎこちなさがあった。

 

「剛君」

 

「悪かったよ、羽黒さん。あんな疑ったり、責めるようなこと言って」

 

 剛はそう言って頭を下げる。だが、羽黒氏は首を横に振って、剛の頭を上げさせる。

 

「ありがとう。君がああ言ってくれなかったら、私はいつまでも父の罪を告白できなかった。今、ようやく父の真実を知って、私は進むことができる」

 

 その言葉に、進ノ介の見間違えでなければ、剛の目に光るものが見えた。だが、剛は何か彼に語り掛けようとして口をつぐんでしまう。

 

 そんな剛を進ノ介は心配そうに見つめるが、その場では、剛は口を開くことはなかった。時間は止まることはなく、そろそろ帰らなくては帰り着くのが遅くなってしまう。三人は羽黒氏に見送られながら、進ノ介のGT-Rに乗る。

 

 進ノ介はアクセルを踏もうとして、しかし、それを止めて。

 

「剛、言いたいことがあったなら、今言っておいた方がいいぞ」

 

 そうして、少しだけ黙って前を向いていると、

 

「……!!」

 

 剛はドアを開けて後ろへ駆け出して。向かった先は当然、羽黒氏が呆然として立っているところ。そして剛はバックから一枚色紙を取り出すと。そこに何やらを書きなぐって渡した。

 

「……羽黒さん、これ良かったら使ってくれよ。本物だし、幽霊よりも多少は客寄せになるはずだぜ!」

 

 そこに書かれていたのは、「仮面ライダーマッハ」と書かれた大きな文字。

 

「剛君、まさか、ほんとに君が……?」

 

 羽黒氏の驚きの声に、剛は少し微笑んで。

 

「『人はやりなおせる』。そう言ってくれたダチがいるんだ。世界を救った、すっげえダチの言葉だから、俺も信じられる。だから、羽黒さんもこれから、大丈夫だ。あんたは自分の過去と決着をつけたんだから。……仮面ライダーが保証する」

 

「剛君……」

 

「俺さ、これから海外を渡り歩くつもりなんだ。そのダチとまた会うために、旅に出なきゃいけない。多分、長い旅になる。けど、日本に戻ってきたら……。また来るよ、この宿に。何度も言ったけど、この宿、俺は好きだから」

 

 晴れやかな声だった。それを聞いた羽黒氏も顔に満面の笑顔を張り付けて、

 

「この宿で待ってるよ。そして、その時には君の悩みが解決していることを祈ってる」

 

 そう言って、二人は固く握手を交わすのだった。

 

 

 

 剛も心残りが無くなったようで。これで山を後にすることができる。進ノ介は少し上機嫌にハンドルに手を添えながら、紅葉がきれいな山道を走らせていく。

 

 けれど、まだ余計なことを思い出す人間が一人。

 

「……そういえば、この写真の謎も解けませんでしたねえ」

 

 そんな不吉な言葉とともに、右京が取り出したのは、例の心霊写真だった。それを聞いて、進ノ介は顔を引きつらせる。余計なことを思い出した、と。思えば、一連の事件に巻き込まれた発端はその写真。ただ、事件の中ですっかりとその存在を忘れてしまっていた。

 

 だが、その写真を見た途端、右京は、

 

「おや?」

 

 と不思議そうな声を出した。進ノ介はそれに冷や汗を浮かべながら、

 

「まさか、また幽霊が見つかったとか言いませんよね?」

 

 すると、右京は目を見開いたまま、ぼんやりと。

 

「いえ、その逆ですよ。……消えてしまいました」

 

「え?」

 

「写っていた白い影が消えているのです。キレイさっぱりと」

 

「えぇ!!?」

 

 進ノ介は慌てて林道のわきに車を停めると、右京から写真を取り上げ、見てみる。確かに、そこには花の里で見たような影が消えていた。その痕跡も見当たらない。

 

 そんな、写真に印刷したものが、数日で消えるはず等あるはずもなく……。

 

 進ノ介の背筋に、冷たいものが伝う。あまり深くは考えたくはなかった。

 

「……これは! ますます気になってしまいますね! 泊君、剛君! せっかく出発したばかりですが、ここは、もう一度戻って調べるというのはいかがでしょうか!?」

 

「もう、勘弁してくださいよ! 杉下さん!?」

 

「ほんと、警部さんって面白い人だね! ま、これからも頑張れよ、進兄さん!」

 

 剛のからかう言葉に、進ノ介は大きくため息を吐くのだった。




あとがき

これにて第七話の完結です。

今話のテーマは「親への思い」
剛の登場回として、どんな話にしようかと考えたとき、やはり親に対する思いをフォーカスしたいと思いました。まだまだロイミュード事件から時間がたっていませんが、チェイスの言葉を胸に、人に影響を与えられる人間になろうとしている剛。少しは描けていたらうれしいです。
また、今話で出てきたのは、親の罪、あるいは無念を背負う子供達。そうした思いを背負ってしまうのは、剛の例にもれず、実の親というのは特別な存在だったのでしょう。

隠しモチーフはSeason8第11話「願い」。この話は、私としても好きな話で、忘れられた事件を掘り起こそうとする遺族や子供たちを、本話の参考にしました。

さて、今回も少しばかり時間がかかってしまいましたが、いかがだったでしょうか。なるべくバリエーション豊かな話を描きたいと思い、今回はこういった形になりました。そろそろ、政治劇みたいな話も書いてみたいところです。それに話の緩急のつけ方も、まだまだ勉強したいところ。

そして、スペシャルに向けて投稿スピードも上げていきたいところではあります。

その前に、私個人の難関として、正月スペシャルが迫っているのですが……。

それでは、最後に第八話の予告!
次は、少し緩い話になります。泊進ノ介の大きな買い物。その行方は!!
正月スペシャルまであと少し!

第八話「ギフトの行方」

どうか、お待ちいただけると幸いです。

……カウントダウン 3
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