相棒 episode Drive   作:カサノリ

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お待たせしました! それでは第八話を開始します。今回も四話構成を予定しております。

クリスマスが迫る中、進ノ介に起きた不幸とは!!


第八話「ギフトの行方 I」

 十二月も数日が過ぎて、東京でも二日前には雪がちらついてしまった。先日までは、まだ涼しいといえる気候であったのが、いつの間にやらコートの襟を合わせなければ首元が寒いと思えるほど。

 

 そんな時に外出していれば、体が冷えていくのは当たり前で、道行く人は早く目的地に着きたいと早足になってしまっている。

 

 その冷たい世界に、泊進ノ介は小一時間もの間、留まっていた。いや、正確に言えば、進ノ介は一時間も、室内へ入らないでいたのだ。

 

 今、彼の目に映るのは、煌びやかで高級感溢れた宝飾店。純白で光を纏った城の中には、何万、何十万円するかもわからない宝石がきれいに収まっている。それらは、いくつかどころでなく、彼の月収を超える金額が貼られているものばかり。

 

 その店に進ノ介は気圧されていた。

 

 進ノ介にとってこのような店というのは縁がなかった場所である。彼にとっては甚だ不本意ではあるが、人生この方モテることがなかった進ノ介。顔立ちは良いのだが、極端な車趣味がたたったのか、気障ぶりたくなる性格が原因か。

 

 これまで、そうした店を訪れる時は捜査や、防犯キャンペーンといった職務に関わる形式的なことばかり。

 

 まさか、そんなところに買い物をするために訪れる時が来るとは。それも、女性への贈り物をするために。進ノ介自身も信じられず、踏ん切りをつけられずにいた。

 

「頑張れ、泊進ノ介……。いや、でもなあ……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、店の前でうろうろと。入ろうか、入るまいか。今は『もう考えるのは止めた!』などとは言えない。この店に足を踏み入れるかどうかで、今後の彼の人生は大きく変わるのだから。

 

 何故なら、来たる十二月二十四日は泊進ノ介の誕生日。

 

 その日に、進ノ介は一世一代の告白を行おうと考えていた。

 

 

 

 相棒 episode Drive

 

 第八話「ギフトの行方 I」

 

 

 

 世の中にはいくつかの告白がある。刑事としては身近な、犯人が自らの罪を明かすことも告白だ。特別でなくとも誰かに思いを打ち明けることもまた、告白。そして、最も一般的な意味は、もちろん愛の告白である。

 

 では、進ノ介が行おうとしているのは、いかなる告白か。

 

 彼を知る知人たちに言わせれば、『意外』なことに、愛の告白。

 

 一方で、伝える相手は言うまでもないだろう。ロイミュードとの戦いで進ノ介を一番傍で支えてくれた大切なバディである霧子へだ。

 

 いつから惹かれだしたのかは定かではないが、戦いの終盤には自分の気持ちに気づいていた進ノ介。彼自身、霧子とは不思議と通じ合っているという確信もあり、もし何事もなければ、一足飛びでプロポーズという荒業に繰り出していたかもしれなかった。

 

 だが、戦いを終えた彼に待ち受けていたのは、人生の大不幸。特命係という陸の孤島に飛ばされ、意気消沈しているうちに、ついつい告白の機会を失ってしまったのだ。

 

 しかし、だ。特命係に飛ばされた理由は分からぬまでも、そのようなことで自分の人生を諦める気にはならない進ノ介。昇進や異動という自分があずかり知らぬことは動かせずとも、気持ち一つで解決できることは、こなしていこうと考えた。

 

 そうしなければエンジンも動き出さない。

 

 進ノ介も特命係に飛ばされて時間がたつ。思ったよりも生活自体は順調で、彼にも自分の生活を振り返る余裕が出てきたのだろう。自分の誕生日に告白を行うことを決意した。

 

 今日、宝飾店という場所に訪れたのも、その際に霧子へと送るプレゼントを手に入れるため。つい最近に相談したカイトが教えてくれた店だった。彼も、自身の恋人へとプレゼントを贈るときに利用したらしい。

 

 さて、後は入るだけ。

 

『いきなり宝石贈って、付き合ってくれって非常識だったりしないだろうか?』

 

『いや、そもそも霧子が了承してくれるとも限らない』

 

『俺、まだ特命係で、将来性も怪しい男だぞ!?』

 

 最後の最後に弱気が頭に次から次へと浮かんでいくが、いざという時には勇気を出せるのが進ノ介だ。指先の感覚がなくなる前には、意を決して宝飾店の中へと踏み込むことに成功した。

 

 夜の凍える寒さから、光あふれる宝石の園へ。

 

「見てくれたか、ベルトさん! 俺もやるもんだろ……」

 

 進ノ介は、心の奥でかつての相棒にガッツポーズを送る。今の上司にはそんなことを言っても呑気な返事しかくれないが、ベルトさんなら顔を白黒させながらも祝福してくれるだろうと思えた。

 

 ただ、問題は、彼はまだ店に入っただけ。この後にプレゼントを選び、購入するという大きな課題が存在する。

 

 そして、懸念の通り……。

 

「……はぁ」

 

 数十分後、進ノ介は大きく肩を落とし、項垂れた。

 

 彼には恋人(候補)に贈る宝石なんて、想像がつかなかったのだ。

 

 見かねた店員が幾度か声をかけてくれるが、買う装飾の種類も、石も決まっていない進ノ介は何となく販促を聞くのみとなってしまう。

 

 そうして一時間ほど宝石を見回して。結局、プレゼントを決めることはできなかった。

 

「まいったな……。こんなところでブレーキかかるなんて」

 

 進ノ介は時計を見る。もうすぐ、入り口に書かれた店じまいの時間。店員たちも心なし、迷惑そうに自分を見ている。かといって、こうして勇気を出して店に入ったのに、『何も買えませんでした』では、せっかくの決意も鈍ってしまいそう。

 

「でも、変な物を贈るわけにも……」

 

 悩んでいるうちにも、時間は無常に過ぎていく。

 

 そんな時だった。

 

「君、何かお困りですか?」

 

 どこかの誰かに似た、ぼんやりした声が進ノ介にかけられた。

 

 

 

「なるほど、女性への贈り物ですか……。恋人? 奥さん?」

 

「そういう関係じゃないんですけど。……まだ」

 

「ああ、なるほど、告白。でも、いきなり宝石というのは、思い切りが良すぎじゃないかしら?」

 

「……いえ! 俺は、将来のことも真剣に考えているつもりですから」

 

「あらら、そこまで考えているんですか。それなら、指輪がいいでしょうね」

 

 出会いから数分がたったころ、進ノ介は声をかけてきた壮年の男性に相談を行っていた。

 

 その男はどこか不思議な雰囲気を纏っていた。落ち着き払っているようで、子供のような好奇心があるようで。失礼ではあるが、あの杉下右京と同じような。

 

 そして彼は、どこか心の奥底を見通す視線を持っていた。その視線は進ノ介の勘違いかもしれないが、思慮深く、紳士的で、人生経験豊富と思わされるもの。

 

「ああ、自己紹介がまだでした。私、小野田って言います」

 

 そう言い、その男、小野田は進ノ介に、表情の薄い顔で微笑みを浮かべるのだった。

 

 正直に言えば、進ノ介は出会ったばかりの小野田を信用したわけではない。ただ、彼は店の常連であり、店員が恐縮仕切りとなっていること。細君へと贈り物を何度となく行っているそうで、こうした行事に詳しいこと。

 

 何より、小野田はとても聞き上手であった。寄り添うように話を聞き、的確に尋ね、不思議なことに、この人に任せたら問題が解決しそう、と思わされる。仕立ての良いスーツを着こなし、嫌味のない高価な腕時計。高い立場の人だとは想像がついたが、彼のもとには問題解決を願う人が押し寄せていることだろう。

 

 そんな彼と話をしているうちに、進ノ介も、いっそ相談をしてみようという気持ちを抱かされた。どちらにせよ、進ノ介だけでは問題が解決する気配がない。それなら事細かくアドバイスをしてくれる小野田に少しだけ。名前こそ出さなかったが、彼女の好みや、性格を伝えてみる。

 

 すると、

 

「ああ、君。お願いします」

 

 小野田が近くで控えていた店員へと何事かを注文すると、その店員は急いでショーケースから幾つかの指輪を取り出し、進ノ介のもとへと持ってきてくれた。

 

 二十個ほどのそれらを見て、進ノ介は目を丸くする。多少の装飾に違いはあるが、どれをとっても霧子に似合いそうな物ばかり。

 

 小野田は進ノ介の様子に、どこか満足げに薄く微笑むと、進ノ介の肩に手を置きながら、

 

「このくらい候補が絞れたら、選ぶことができるでしょう。後は、貴方が決めてあげてください。一生に一度の思い出になるかもしれませんから、悔いのないようにね。

 そして、僕は家内への贈り物を買わないと……」

 

 そうして小野田には、店員から二つの小箱が渡される。なぜ、二つも贈り物が必要なのか、進ノ介は考えないことにした。進ノ介と同じように、彼にも事情があるのだろう、と。

 

 その後、十分ほど悩み、進ノ介は一つの指輪を選びとる。

 

 綺麗なダイヤの婚約指輪。

 

 一目見た瞬間から、これをつける霧子の姿が頭に浮かび、離れなかったのだ。

 

 決まったら一直線。進ノ介は緊張しながらも、贈り物を決めたことを店員に伝え、カウンターで剛から教わった霧子の指のサイズなどを記入する。引き取りと支払いは一週間後と決まった。

 

 なので、進ノ介に残された仕事は、家へと帰ることと、礼を言うこと。

 

「小野田さん!!」

 

 進ノ介は店から走り出ると、去ろうとする小野田へと声をかける。彼の買い物は少し前に終わっていたのだが、進ノ介を待っていてくれたのだろうか。

 

 小野田は駐車場の黒塗りの車のそばに立っており、その近くには運転手と付き人も待機していた。その様子を見て、進ノ介が考えていた以上に小野田が高い位の人間だということに気づかされる。その付き人の身のこなしは警官や自衛官といった訓練を受けた者のソレだった。

 

(……議員か、高級官僚か?)

 

 進ノ介はそう当たりをつけるが、今は小野田の身分は関係ない。

 

「あら、その様子だと。無事に決められたみたいですね」

 

 それはよかった、と変わらず輪郭を得ない声で話す小野田。進ノ介は彼に頭を下げて感謝を示した。

 

「ありがとうございました。その、色々とアドバイスいただいて」

 

「私は少しだけ貴方よりも年寄りで、経験があるだけですから。それに、最後に決めたのは貴方でしょ?」

 

「それでも、ありがとうございました」

 

 そうして進ノ介がもう一度頭を下げると、小野田はどこか遠くを見つめるような目になった。

 

「困ったな……。久しぶりですよ、こんなに素直なお礼を聞いたの。亀山さん以来かな……。最近は、一物抱えた人とばかり会ってきましたから」

 

 言葉とは裏腹に小野田の顔は崩れることがない。だが、彼は思いついたように車から荷物を出すように指示し、付き人が高級そうな鞄を小野田へと渡す。その鞄から出てきたのは、平凡な色紙で。

 

「けどね、実は僕にも下心があったんです。慈善事業じゃないんですよ。……仮面ライダーを助けたなら、サインの一つくらいは貰えないかなって。孫へのクリスマスプレゼントにね」

 

 そう言って、小野田が少しだけ微笑む。進ノ介はその申し出が、どこか取ってつけたものに感じた。あるいは小野田という人にとって、ギブアンドテイクという関係性が好ましいものなのか。

 

 けれど、仮に理由があったとしても、受けた恩は恩。進ノ介は小野田に感謝していた。

 

 だから苦笑いしつつ、その色紙へと自分のサインを書き込む。宛先は小野田の孫の名前。ありがたいことに、進ノ介の影響で警察を目指そうとしているらしい。進ノ介も、そんな嬉しいことを言ってくれる子に向けてなら、サインの何枚でも安いものだった。

 

「どうもありがとう。これで、孫の自慢のじいじになれますよ」

 

 最後にそう言って、小野田は車に乗り夜の街へと去っていく。

 

『縁があったらまた会いましょう。……杉下にも、よろしく』

 

 その走り際に残した小さな言葉を、進ノ介は聞き取ることができなかったが……。

 

 小野田という奇妙な紳士とは、どこかでまた会うことになる。そう思えて進ノ介は仕方なかった。

 

 

 

 こうして、進ノ介を悩ませていた大きな課題が一つ無くなった。後は約束の日に霧子を誘い、告白と共にプレゼントを贈るだけ。それはそれで進ノ介にとっては大きすぎる悩みではあったのだが、まだ時間はある。

 

 そのはずだったのに。

 

 彼を悲劇が襲ったのはその一週間後だった。

 

 

 

 その日、朝の特命係にて。杉下右京は電話を片手に椅子へと深く腰掛けていた。彼はいつものようにのんびりと、けれどどこか楽しそうに電話口へと語りかけている。

 

「……実に興味深い話ですね。君がその類の話を苦手としているのは、よく知っていますが。ここは一つ、先入観を捨てて、物事を見てみるべきだと思いますよ? 特に、幽霊という話には。

 それで、君は次はどちらへ? 大天空寺、ですか。随分と珍しい名前ですが、そこに手掛かりが? なるほど。僕もぜひ、行ってみたいですねえ。

 ……ですが、どうやらこちらも暇ではなくなったようです。それでは、また。ええ、君も気を付けて、神戸君」

 

 右京は携帯電話を閉じて、椅子から立ち上がる。そうして興味深げに見つめる先は、電話中に音もなく部屋へとやってきた泊進ノ介。

 

「……」

 

 彼は挨拶も名札をめくることもなく門をくぐって、自分の机へと崩れ落ちていた。

 

 顔は生気が抜けたように表情がなく、口から洩れるのは『どうして、どうして……』なんてうわ言ばかり。右京は進ノ介を興味深げに観察しつつ、けれど一言も声をかけることなく、紅茶を淹れ始める。

 

 こぽこぽこぽ

 

 右京が掲げたティーポットから、鮮やかな紅茶が、彼の手のカップへと流れていく。

 

 そうしてできた自慢の紅茶の香りを堪能し、椅子へと座り、紅茶に口をつけて。

 

 満足げに右京は頷きを一つ。

 

「……何か聞いてくださいよ!!?」

 

 その段になって、進ノ介は椅子から勢いよく立ち上がり、右京へと大声で詰め寄った。

 

 見るからに何かあったという体でやってきたのに、全く気にする様子もなく紅茶を淹れ始めるなんて。まったく、酷い上司だ、と進ノ介はわかりきった憤りを感じる。

 

「そうは言いましても、君の問題のようですから。勝手に踏み込むのはいかがなものかと……」

 

「何時もの自分の行動を振り返ってください!」

 

「おやおや……」

 

 右京は驚いたように目を見開くが、進ノ介の腹は収まらない。何時も、気になることができたなら事件現場だろうとお構いなしの右京が、尋ねてもこない。わざと自分を怒らせているではないかとさえ思えた。

 

 そして、そのタイミングでやってくる人が、もう一人。

 

「暇か? って、どうしたよ泊君。ぷんすかしちまって。朝っぱらから腹立てると、一日が暗くなっちまうぞ」

 

 角田が相変わらず呑気な顔でカップ片手に部屋へと入ってくる。彼も適当にアドバイスを言ったものの、進ノ介の悩みにはあまり興味がないらしくコーヒーを淹れ始めた。

 

 呑気な暇人が二人、残るは一人煩悶する進ノ介。

 

 なんだか腹が本当に立ってきて、こうなったら二人も問題に巻き込んでやろうという気持ちになってくる。

 

「実は、昨日の夜に色々あったんです……」

 

 その思いに従って、進ノ介は二人にかまわず、一人ごち、自分の事情を説明し始めた。

 

「いきなり語りだしたよ……」

 

「まあまあ、彼が聞いて欲しいというのなら、一つ、聞いてみるとしましょう」

 

「本当に大変なことがあったんです!!!」

 

 進ノ介が右京達に話したのは以下のような出来事である。

 

 

 

 小野田という紳士の助けで指輪を購入して一週間後。

 

 進ノ介は再び宝飾店を訪れていた。指輪の引き取りと支払い。店員が受け渡してくれた指輪は、注文した通りに直され、それでいて輝きは一つも色あせることがない。

 

 クレジットカードを出して、給料三か月分という目のくらむような金額を支払ったとき、進ノ介はどこか夢心地だった。先々の告白に不安はあるが、プレゼントを無事に手に入れられたことに達成感を感じていた。

 

 そうして進ノ介はテンション高く、鼻歌を歌いながら包みをもって店を出る。

 

 そんな進ノ介の目に、後のことを考えれば都合悪いことに、ある光景が飛び込んできた。進ノ介が出た宝飾店は、百貨店が隣接した場所にあった。そのエントランスにて、よくある抽選会が開かれていたのだ。

 

 無料で一回。

 

 ガラガラと抽選箱から球を取り出して、当たりならプレゼント。

 

 進ノ介は宝石を買った全能感で、何ともなしに抽選にも挑戦してみようという気持ちになってしまった。

 

「俺も大丈夫ですか?」

 

「ええ! もちろん。どうぞ回してみてください」

 

 受付の女性に声をかけて、その勧めに従ってハンドルを回す。ガラガラと球が動く音。そして、転がり出てきたのは、

 

「おめでとうございます! 三等の食器セットですよ!!」

 

 他の多くの人と同じく、進ノ介とて、こうしたことで当選した経験は珍しい。それなのに、このタイミングで当たった。

 

(指輪が幸運を運んでくれたのかな?) 

 

 贈り物をするなら幸運のお守りになる方がいい。霧子への土産話にもなる。進ノ介の機嫌はさらに良くなり、まさに有頂天であった。

 

 その紙袋に、進ノ介は指輪の入ったビニールを一緒に入れて。

 

 さあ、いよいよ家に帰ろうと百貨店から出るという時だった。

 

 進ノ介の目に赤い人影が写った。

 

 太って、赤い上下の服を纏い、口元には白い大きな髭。頭をすっぽりと覆うのは先にふわふわの球がついた、赤い帽子。加えてその肩には白い大きな袋が載せられている。

 

 サンタだった。

 

 サンタクロースがいた。

 

「おお……」

 

 後ろからやってきた、ホンモノのようなサンタに、進ノ介は思わずため息。いくつになっても、男というのはサンタやら空想の存在が好きなものだった。

 

 すると、サンタの方も進ノ介を見て、その眼が驚きのそれに変わった。

 

「おや、これは……。もしかして、泊進ノ介さんですか?」

 

 サンタは思ったよりも高い声で尋ねてくる。進ノ介はぎくりとしつつも、声をかけられたなら仕方ないと笑顔で頷いた。

 

「ええ、そうです」

 

「いやー! こんなところでお会いできるとは、光栄です! 私、この通りサンタと言います。泊さんと同じく、赤い子供たちのヒーロー」

 

 サンタは陽気に微笑み、進ノ介と手袋越しに握手を交わす。ふと、進ノ介が彼の手を見るともう片方の手には、進ノ介と同じく抽選の紙袋が握られていた。

 

「あ、それ! サンタさんも抽選当たったんですか?」

 

「ええ、私は四等の洗剤セットです。年末という時になって、良いことがありましたね。ほっほっほっ」

 

 サンタらしい笑い声。そうして二人して冬らしい雰囲気に朗らかとしていた時だった。

 

「どいてどいてー!!」

 

 大声が背後から迫ってくる。振り向くと、進ノ介達の後ろから大学生ぐらいの集団が走って来た。待ち合わせか何かで、焦っていたのだろうか。彼らは勢いがよく、そのままでは進ノ介達と正面衝突のコース。

 

「危ない!」

 

「うわ!?」

 

 進ノ介は思わずサンタを抱えて倒れ込む。その傍で、大学生たちがわき目も振らず、走り去っていった。

 

「いててて。何だったんですか、いったい!?」

 

「さあ、学生みたいでしたけど……。あ、もういない」

 

「はぁ、まったく、困ったもんですね若いもんは。師走だからって学生まで走らなくても良いものを」

 

 まったくです。と頷きつつ、進ノ介は立ち上がろうとするサンタへと手を貸す。ふと気づくと、進ノ介は握りしめていた紙袋を置いてしまっていて。それをもう一度、しっかりと胸に抱え込む。大事なものを入れていたのだから、失くしたら大変だ。

 

 そうして二人で格好を整えていると、通りの向こうから大声が。

 

「おーい! 何やってんだサンタ!! サボってんじゃねえぞ!!!」

 

 それは隣の彼と同じように、サンタの恰好をした男性だった。彼は看板を掲げてサンタを呼んでいる。その様子を見て、進ノ介は隣のサンタを見た。彼はその視線に、どこか恥ずかしそうに頬を掻いている。

 

「あ、あはは。サンタはサンタでも、私は夜の楽しみへ誘うサンタ、というわけで」

 

「ああ、なるほど」

 

 進ノ介は苦笑い。警官として、違法な客引きはしないように注意して、サンタも恐縮しながら紙袋を手に、去っていった。

 

 それが昨日の出来事。冬らしい、ちょっとした出会いのはずだった。

 

 

 

「でも、家に帰って紙袋を見てみたら」

 

 時は戻って特命係、進ノ介が項垂れながら机にその紙袋を置く。けれど、その中から出てきたのは、

 

「……これは、洗剤セットですねえ」

 

 右京はそれを見て、品目をぼんやりと呟く。ついで角田が、進ノ介に憐れむ視線を向けた。

 

「間違えたか」

 

「……ええ」

 

 取り違えた相手は分かっている。あの時、同じ紙袋を下げていたサンタだ。

 

 それを知った進ノ介はパニックである。急いで現場に戻り、サンタを探すが、時はクリスマス。同じような格好をした売り子や客引きは山ほどもいた。その中から、自分と出会ったサンタを探すことなどできない。

 

「何も見つけられずに……」

 

「それは災難でしたね。ところで、君が紙袋に入れていた『大事なもの』というのは、何だったのでしょう?」

 

「……内緒です」

 

 右京が頭を抱えた進ノ介に尋ねる。今ここで、そんなことを気にするのか、と進ノ介に気力があれば文句を言っていただろう。そして、答えない進ノ介に勝手に代わり、角田が口を開く。

 

「警部どの、ここは察してあげるのが大人ってもんだよ。もうすぐクリスマスだろ? 若者にとっちゃ、嬉し恥ずかしのイベントだ。仮面ライダーだって、そういう約束もあるんだよ。青いねえ~」

 

 進ノ介に同情しつつも、最後はどこかニヤニヤと。俺は分かってるよー、等と言いたげな角田に、進ノ介は乾いた笑顔を浮かべるしかなかった

 

「なるほど。ですが、泊君。話に聞く限り、取り違えた方は君の名前と所属が分かっています。そのような相手から間違っても窃盗をするとは思えませんし、待っていれば、いずれ返ってくると思いますよ?」

 

「……ええ。それを期待して此処まで来たんです。一応、俺の所属と居場所は特命係ですから」

 

 そうでなければ、有給でも取ってサンタを探しに街に出ていた。

 

 そして、進ノ介のその判断は正しいものだった。

 

 会話の直後、特命係の戸が叩かれる。その音に振り返った一同。視線の先には小太りの中年男性が立っていた。頭が薄く、気が弱そうな平凡な男性。

 

「あのー、ここが特命係でよろしいのでしょうか?」

 

 それは、自信なさげなボソボソとした声。

 

(あれ?)

 

 その声に進ノ介は聞き覚えがあった。もう少し自信満々に話し、丸い顔にサンタの衣装を着せれば。

 

「あー!!!! あなた、昨日のサンタ!!!!」

 

 進ノ介は立ち上がり、大声で男性へと叫ぶ。その声に男性も驚きつつも、こくこくと頷いた。

 

「え、ええ。私です。泊さん、昨日はどうも失礼を……」

 

「いえいえいえいえ、そんなことはどうでもいいんです! それよりも、わざわざ届けてくれてありがとうございました!!!」

 

 昨日のサンタがわざわざ特命係まで来てくれた。となれば、目的は取り違えた荷物を届けてくれること以外、想像がつかない。一転、進ノ介は歓喜に溢れて男性の手を取った。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! ほんとに助かりました!!」

 

 だが、高いテンションで腕をぶんぶんと振る進ノ介に対し、男性の顔は晴れない。その様子に怪訝に思ったのは進ノ介。

 

「……えっと、届けてくれたんですよね、俺の紙袋?」

 

「それが、そのぉ……。非常に言いにくいのですが……」

 

「ま、まさか……」

 

 進ノ介が漏らす絶望の声に、男性はゆっくりとうなずいた。

 

「実は、あの紙袋が消えてなくなってしまったんです。しかも、その、殺人現場から!!」

 

 男性は心底申し訳なさそうに土下座する。

 

「え、えええええ!!!??」

 

 驚き、叫ぶ進ノ介。右京はといえば、進ノ介には我関せず。男性の奇妙な発言へと目を輝かせるのだった。




と、言うことで消えてしまった進ノ介の贈り物。

無事に彼は指輪を取り戻し、霧子へと贈ることができるのか!!
また、短期間で投稿を行っていきますので、お楽しみいただけると幸いです。


また、筆者としてはとても嬉しいことに、前回の話でお気に入り登録が1000人を超えました!!
私も、当初から目標にしていた記録になります。
それほど多くの方々に評価していただき、また、お読みいただいて、嬉しくも身の締まる思いです。今後も、この結果に驕らず、相棒、仮面ライダードライブ共にリスペクトしながら創作を続けてまいります。


せっかくの目標達成の記念。そして、日ごろお読みいただいている皆様への感謝を込めて、活動報告にてリクエスト企画を行おうと思います。

詳しくは『活動報告』をお読みいただき、そちらへのコメントという形で参加いただけると幸いです。感想での回答はご遠慮いただきますので、ご注意を共にお願いいたします。
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