相棒 episode Drive   作:カサノリ

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ここまでの状況のまとめ

霧子のために買ったプレゼントの指輪。不運に巻き込まれた進ノ介はそれを紛失してしまい、その影には強盗事件と逃亡犯が関与していた。逃亡犯は無事に逮捕されるが、その裏で、とある人物が暗躍していて……。

三田九郎
:サンタなど、アルバイトをかけ持ちしながら生活している中年男性。逃亡犯谷口と旧知の仲だと語り、特命係を事件へと導いたが……。

谷口洋平
:闇金を営む暴力団員。自宅で殺害されたように見せかけて失踪した。共同経営者を襲い、逃亡した疑いがあったが、捜査一課に逮捕される。


第八話「ギフトの行方 IV」

 逃亡を図ろうとしていた強盗傷害事件の容疑者、谷口洋平は無事に逮捕され、先ほどパトカーで移送されていった。

 

 けれど、彼が伊丹達に語った事件の概要は想定と、まったく違うもの。

 

『あ!? なんだよ殺人の偽装ってのは!!? 俺は荒木を殴った後、ずっとこのホテルにいたぞ!!? ……サンタ? 誰のことだよ!!』

 

 谷口はそんなことを喚きながら、終始、困惑を顔に張り付けていたのだ。事件がこれほど早く発覚するなんて、想像がつかなかったという。

 

 だが、困惑したいのは、当然、伊丹達の方。彼らからすれば谷口は自分が殺害されたように偽装して、まんまと逃げおおせようとしていた逃亡犯。そのつもりで必死に追いかけて、ようやく捕まえたのだ。

 

 だが、谷口は偽装はしておらず、三田の存在も知らない等とのたまっている。

 

 話が通らない。もはや、何が真実なのやら。

 

 伊丹が顔を殊更に歪ませて、目の前の男へと詰め寄ったのは、仕方のないことだろう。

 

「いったい、どうなってるんですかねぇ、サンタさんよぉ……」

 

 逮捕劇が行われているすきに客室へと侵入しようとしていた三田。特命係の二人によって連れてこられた彼は、心底申し訳なさそうに喫茶店の椅子に座っていた。

 

 すでに伊丹によって威圧されていて、この様子では、まともにしゃべれそうにない。それを見て取った伊丹は、右京と進ノ介へとその怒りの矛先を変える。

 

「特命係の警部殿、泊!! 説明してもらわないと困りますよ!!!」

 

 びりびりと耳に障るほどの大声、ただ、そんなことは既に慣れっこの右京はといえば、変わらぬ涼しい顔のままで、伊丹の前に手をかざし、彼をなだめた。

 

「まあまあ、伊丹さん。もちろん、皆さんにもご説明します。つまるところ、この事件は彼によって仕組まれていたのですよ」

 

 右京は椅子で丸まった三田へと鋭い視線を向ける。

 

「このサンタさんによって。彼が、無事にプレゼントを手に入れるために」

 

 

 

 相棒 episode Drive

 

 第八話「ギフトの行方 IV」

 

 

 

 右京の言葉を聞いても、捜査一課の面々と角田は未だ事態を消化しきれていないようであった。全てを理解しているのは進ノ介と右京、この結果へと彼らを誘導した三田だけ。

 

 進ノ介は大きくため息を吐きながら、三田の向かいに座り、机に肘を乗せた。

 

 そうして、じっと、伏せられた三田の顔を見つめる。すると、やはり三田も申し訳なさを感じていたのだろう。彼はゆっくりと顔を上げて、進ノ介へと顔を合わせた。

 

「……泊さん、いったい、いつから?」

 

 三田の考えていたことに気づいていたのか。そう尋ねてくる。進ノ介は肩をすくめて、それに答えた。

 

「……実のところ、三田さんが怪しいって俺たちが気づいたのは、最初からです」

 

「えぇ!? 最初から!?」

 

「むしろ、あれで怪しまれていないと思っている方がうかつですよ!」

 

 後ろの面々も一斉に頷く。彼等とて、こうして三田の証言で事件が発覚していったから、納得していただけ。三田の行動から疑いを解いたことはなかった。

 

 そして、終始、三田を興味深く観察していた右京も彼の横に立つと、微笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「最初に特命係を訪れたとき、貴方は事件発覚の経緯を話してくれました」

 

 時系列に直すと、それは次のようになる。

 

1.進ノ介と出会い、荷物を取り違え

2.谷口と再会

3.仕事終わりに谷口の家へ

4.酒を飲み、寝落ちする

5.目が覚めたら、進ノ介の荷物と共に谷口が消え、部屋が血まみれに

6.三田は一時帰宅し、その後、特命係へ

 

「間違いありませんね?」

 

 右京が手で三田を示しながら尋ねると、三田は困惑しながら頷いた。

 

「……そう言いましたけど、何かおかしい事でもありましたか?」

 

 そこで進ノ介が身を乗り出して、三田へと顔を近づける。

 

「……おかしいでしょ? あなた、いったい、いつ、俺の荷物だって気づいたんですか?」

 

「……あ、あぁー」

 

「あぁー、じゃないんですよ!?」

 

 進ノ介はたまらずに大声を出す。元々、進ノ介にとって大事なことは、事件解決と共に指輪を取り戻すことだったのだから。

 

 頭を抱えてしまう進ノ介に代わって、右京が説明を始める。

 

「三田さん、あなたは紙袋の中身が泊君のものであり、それが『大切な物』と認識していた。

 ですが、荷物を間違えた。それも有名人であり、警察官である泊君のものを。それを認識したら、普通は驚き、荷物を安全な場所に置こうとするものじゃありませんか。

 ですが、あなたはそれを酒の場へと持っていった。繊細なあなたには似つかわしくない行動です」

 

「で、でも、酒を飲んでいる途中で分かったってパターンなら……」

 

「むしろ、余計に驚くでしょう? 気づいた後も、呑気に酒を飲んで、寝るなんておかしい話です。

 ……つまり、三田さんが『俺の物と認識した』荷物をもって酒の場で寝落ちするという話は筋が通りません。

 最初にそれを聞いた時は、荷物を盗んだ言い訳をしているのかと思いましたけど、あなたは『殺人事件』が起きた、なんて言い出しました」

 

「これはいよいよ、何かがあると考えて、僕たちはあなたの出方を伺うことにしたのです。あなたが谷口の失踪事件の裏で何か良からぬ企みをしているのではないか、とね」

 

 そうして、二人が部屋へ向かうと、血まみれの部屋があり、住人が失踪していた。

 

「おいおい、ちょっと待て!? お前ら、三田に何かあるって最初から気づいていたっていうのか!?」

 

 伊丹が不機嫌を隠さずに二人へと詰め寄る。彼からすれば散々に振り回されたのに、最初から特命係の手のひらの上というのは、どうにも納得できないことだった。

 

「僕たちが彼自身を探っていると知ったら、三田さんは逃げ出す可能性もありましたので。事件解決のために黙っていました」

 

「あと、俺の荷物のために。……すみません」

 

「……」

 

「……泊君はともかく、杉下警部は相変わらずひどいっすねえ。もう慣れたけど」

 

 あんまりな右京の物言いに口をぱくぱくとさせて言葉もない伊丹に、呆れたというような芹沢。そして霧子は、これまでの間に右京の性格を理解できたのだろう、またか、という具合に頭を抱えてため息を吐いていた。

 

 そんな面々を見て進ノ介の良心が痛む。しかし進ノ介にも右京にも、事件が進展するまで三田の行動理由は判然としなかった。

 

 だが、結果として一課の面々には悪いことをした。後で菓子折りでも持って、謝罪することを決める。

 

「えっと、とりあえず気を取り直して……。問題は三田さんが俺たちを導いた、あのアパートです。行ってみると、実際に部屋は彼の証言通り。

 殺人が起きたように偽装されて、谷口が姿を消していました」

 

「あの場で泊君が言った通り、『谷口が』現場を偽装したのなら、可能性が高いのは死んだと見せかけ、逃亡すること」

 

 だが、もう一つ可能性がある。

 

 それは、第三者が現場の工作を行った場合。つまりは、何者かが谷口の部屋へと侵入し、荒らし、血を撒いたという可能性だ。

 

「谷口の証言は、後者こそが真実だと示すものです。じゃあ、工作を行った第三者のメリットは何か?

 改めて考えてみると、誰かが死んだように見せるには、あの現場は稚拙でした。すぐに警察は偽装工作と谷口の失踪に気づく。と、いうことは、逆にそれこそが狙いだったんじゃないか。俺たちはそう考えました」

 

「……どういうことですか?」

 

 霧子はいぶかし気に進ノ介に尋ねる。すると、右京が声を張り上げながら、面々の顔を見つめる。

 

「つまり、この工作を行った人間の狙いは『谷口を警察に探してもらうこと』だった!

 暴力団員である彼が逃亡した場合、自力で捕らえることは難しい。そして、目的を考えると暴力団員に捕まえられるのも都合が悪い。

 ならば、警察に探させようと、そういうことです。暴力団員が殺人を装って逃亡したとなれば、事件と結びつけて捜索する可能性は高いですからねえ」

 

「だから、俺たちを直ぐにアパートに呼び出して、事件を発覚させた。ただ、それだけだと不安だったのか、谷口が俺の荷物を持ち去ったなんてウソをついてまで、無理やり警察を事件に関与させた。

 そうですよね? 第三者で、あの事件現場を偽装した三田さん?」

 

 進ノ介と右京がじっと視線を向けると、ゆっくりと肩をびくつかせながら三田は首を縦に振った。

 

「ってことは、こいつが話していたことは……」

 

「全くの嘘でしょう。谷口が逃げたという点を除いては。

 同業者を殴り、金品と書類を持ち逃げした谷口が、呑気に知人を家に招き、酒をふるまうわけがありませんから」

 

「あれ? でも、三田さんは谷口の行先とか、状況を知っていましたよね?」

 

 芹沢が、それはどういう理屈なのか、と尋ねてくる。

 

 すると、右京は懐から、あるビニールに包まれた物体を取り出す。それは、小さく目立たない機械で。

 

「あぁ、なるほど、盗聴器」

 

 芹沢が渡された機械を腹立たし気に指ではじき、溜息をついた。米沢が右京の連絡を受けて、部屋から探し出したものだった。

 

「このホテルの場所が分かったのも、同じ理屈です。三田さん、俺の車に発信機と盗聴器を仕込んでいました。アパートに案内した時に用意していたんでしょうね」

 

 進ノ介が愛車の後部座席に仕掛けられていたソレを三田の前に置く。これがあれば、特命係の行先を知ることは容易かっただろう。

 

「それに加えて、谷口のアパートを囲む塀を調べたところ、こんなものが付着していました」

 

 右京が改めて取り出したビニールには、安っぽい赤い繊維が収められている。それは、間違いなく三田が着ていたサンタコスチュームのもの。

 

「古いブロック塀ですから、あのようなふわふわした服は引っかかったことでしょう。

 これが付着していたということは、塀に隠れるように、家を覗いていたということ。あなたは随分と長く、谷口を監視していた。そうなると当然、あなたは谷口の旧友などではない」

 

「それと三田さんが客引きとして働いていた大通り。あそこ、谷口達の事務所の直ぐ近くでした。毎日働くことで、谷口達の活動時間帯を調べていたんですね、三田さん。あなたはむしろ、谷口を追う者だった」

 

「ここからは僕の想像です。

 三田さんは谷口達を監視し、行動の機会を見計らっていた。けれども、その状況があの夜、一変してしまったのです」

 

 全ては、谷口が事務所から金品を持ち、逃亡したことが原因だ。そして、深夜、谷口の家を監視していた三田は盗聴と監視によって、その事態を把握したのだろう。そして、途方に暮れたはずだ。三田には追跡の準備などできていなかったのだから。

 

「ですが、あなたは諦めなかった。偶然にも泊君の荷物を取り違えたことを利用し、警察に谷口を発見させる手段を思いついたのです。

 少なくとも、貴重品を失くした泊君は必死に谷口を追うでしょうからねえ。彼を起点に捜査網を敷いてもらえば、見つける可能性は上がります」

 

 それを裏付ける証拠もある。三田が入っていた複数のアルバイト、その中には献血所が含まれていた。そして、そこから血液が紛失していると報告が挙がっている。

 

「三田さんが見せてくれた服もそうです。こんな寒い季節にあんな薄手の服。あの谷口のアパートで着ていたら風邪ひきますよ。谷口の失踪後、汚してもいい服を選んで、血をかけたんですね?

 で、後は友人を装って、盗聴を通して得た情報を警察に提供。事件をコントロールしようとした」

 

 つまり、特命係が考える、三田が歩んだ真のタイムテーブルは以下の通りとなる。

 

1.進ノ介と出会い、荷物を取り違え

2.進ノ介の荷物に気づき、安全場所で保管

3.谷口の監視へ

4.谷口の失踪を知る

5.献血所から血液を盗み出し、部屋を荒らした

6.特命係へ向かう

 

「けっ、そんじゃあ、俺たちはこいつに良いように使われてたってことかよ。とんだサンタクロースだぜ」

 

 伊丹が吐き捨てるように地団太を踏んだ。

 

「彼の行動は確かにはた迷惑な行為でしたが、おかげで強盗傷害事件が発覚となりました。我々にとっても、まったくの無駄骨とはならなかったのです。そこは喜ぶべきではありませんか?」

 

「結果から見れば、ですがね」

 

「でも、最初から谷口達を付け回していたってことは、この人には元々の目的があったわけでしょう? あ、まさか……。谷口の闇金から金を奪い取ろうとしてたんだろ? だから、谷口が見つかった後、ホテルにも侵入しようとした!」

 

 芹沢はそう言って、勢いよく机をたたく。すると、三田は怯えた顔をしながらはっきりと頷きを返すのだ。

 

「……その通りです。最初は事務所に忍び込んで、金を盗むつもりでした。けど、ようやく彼らの習慣も分かって、実行に移すって時に、谷口が金をもって逃げ出して……。それで警察を利用すれば、裏をかいて盗めると思って……」

 

 ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

 

 そうして、三田は深く頭を下げる。

 

 その言葉に、伊丹と芹沢は納得したように、腕を組み、頷いた。大金を求めるならば、これほどの大仕掛けをする価値はある。経済的に苦しい三田には、当てはまる動機でもある。

 

 けれども、まだ真実は最後まで解明されていない。右京と進ノ介は、彼の本当の目的を知っているのだから。

 

「三田さん」

 

「あなたの目的は、金じゃなかったんでしょう?」

 

 右京と進ノ介は、三田へと優しい口調で話しかける。

 

「あなたは先ほど、僕たちに言いました。金のために犯罪を行うなんて、割に合わないと知ったと。僕は、その言葉は真実だと思います」

 

「それに、ただ金目当てなら警察を利用するなんて大それた仕掛けをする必要はないでしょう? リスクも高いし、警察が谷口を見つければ、金は当然押収されるんですから」

 

 だから、二人は三田が谷口を狙った理由は別にあると考えていた。その理由にも察しがついている。

 

「……三田さん、あなたのご家族と連絡が取れました」

 

「え!?」

 

 進ノ介が告げた言葉に、三田は思わず目をむく。その顔を見て、進ノ介は自分の想像が真実なのだと、確信が持てた。

 

「……奥さんと息子さん、借金で大変な状況になっていたんですね? その金を貸していたのは、谷口の闇金。あなたはその債務書類を盗もうとして、谷口を追っていた」

 

「全ては、ご家族を助けるために。だからどれほど大ごとになろうとも、諦めず、警察まで利用した。そして今も、ご家族に迷惑をかけないために動機を偽っている」

 

 そうですね?

 

 右京が尋ねると三田は今度こそ、肩を震わせながら机へと崩れ落ちる。ここまで全てを見透かされていた。それに加えて、いい加減に三田も嘘をつくことに疲れていたのだろう。

 

 進ノ介は想像する。きっと、三田は自分で書類を奪わない限り、安心できなかったのだろうと。警察が押収したら、誰のものが含まれるかなど分からない。間違えて闇金に残っていたら元も子もないのだ。

 

 だから、最後には自分で部屋に押し入り、奪い去ろうとした。

 

 三田は声を震わせながら、告白する。

 

「……全部、私が悪いんです。子供が生まれて、その生活を豊かにしようと犯罪に加担しました。結局、妻には愛想をつかされて、息子とも長く会えずじまい。その後は、会いに行く勇気もなくて、その日暮らしに逃げてしまい……。二人の窮状を知ろうともしなかった!!」

 

 だが、一月ほど前、バイトを繰り返して金を貯めたことで、少しだけ自信を取り戻し、彼は家族の様子を覗きに行ったのだという。

 

 そこで見たのは、闇金の取り立てに苦しむ妻と息子。けれど、三田はあまりにも無力だった。必死に貯めていた貯金でも、彼らを助けるには程遠い。

 

「だから、二人を助けるためには書類を盗むしかない。そう思って谷口を追っていたんです。けれど、結局は皆さんにもご迷惑を……。申し訳ありませんでした!!」

 

 そうして今度こそ深々と頭を下げる。右京はそんな彼の様子を冷静な目で見つめ、優しくも容赦のない口調で語りかける。

 

「三田さん。あなたのご家族を助けたいという動機は、僕にも理解できます。ですが、あなたはまたも、思い違いをしてしまった。その目的が金であろうとも、人助けであろうとも、犯罪という行為は正当化できません。

 あなたが今回行ったことは、捜査妨害に住居侵入、器物損壊に盗聴・盗撮。そして何より、この行為であなたは築き上げた二年間の生活と信頼を、再び失ってしまった。

 ……貴方の罪は重いですよ? 今度こそ、心から罪を償うことが必要です」

 

「それをご家族も望んでいます。三田さん、あなたは大きな勘違いをしていますよ。奥さんと息子さんが一番望んでいるプレゼントが何か、分かっていないんですから」

 

 進ノ介が三田の頭を上げさせる。涙にぬれた丸い顔。彼には、まだ、その最高のプレゼントが何かを分かっていないのだ。

 

「俺たちが連絡したら、息子さん、あなたに会いたいって言っていました。奥さんも、電話口で泣いていましたよ。

 ご家族が必要だったのは、近くで支えてくれる父親だったんです。……あなたが必要だったんです」

 

「わ、私なんかを……?」

 

「ええ。しっかりと罪を償って、今度こそ、最高のプレゼントを届けてあげてください」

 

「……はい、はい! ありがとうございます……。でも、なんでこんなに良くしてくれるんですか? 私、泊さんの大切なものを……。ご迷惑ばっかりかけたのに……」

 

 進ノ介はその言葉に肩をすくめる。

 

「だって、サンタの格好していた人が、ただの泥棒なわけないですから。サンタは子供たちのヒーローなんでしょ?」

 

 仮面ライダーよりもずっと昔から、子供たちを守っていたヒーローなのだから。

 

 そうして、三田は最後まで涙を流しながら連行されていった。その最後に家族へと電話を一本かけて、

 

『今度こそ、プレゼントを持って帰るよ』

 

 前向きな言葉を残した彼は、今度こそ本当のサンタになれるだろう。進ノ介は伊丹に怒鳴られながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

「それで、そちらがようやく戻ってきたプレゼントですか?」

 

 仕事終わりの花の里。幸子は茶碗蒸しを用意しながら尋ねてくる。その眼は、疲れた顔をした進ノ介が握っている小さな包みに向けられていて。進ノ介も大きく肩の力を抜きながら、ぼやくように呟いた。

 

「……三田さんが押し入れに隠していたんです。これで、ようやく戻ってきてくれましたよ。……少し包装が崩れちゃったので、もう一度直さないといけないんですけど」

 

 ただ、進ノ介の顔は晴れていない。包みを見つめたまま、溜息が止まらない。

 

 なにせ、これは、結婚を前提に霧子へと贈る予定だったプレゼントだったのだから。事件の経緯を考えると迷う心の一つも生まれる。

 

「……これを買ったせいで、俺たちは事件に巻き込まれました。そんな不吉なものは、大切な人への贈り物には、ふさわしくないかもしれません……」

 

 贈り物は、相手を想い、幸せになってほしいと願って渡すもの。けれど、この指輪は事件を招いた。そんなものを贈っても、相手は良い気がしないだろう。進ノ介は、そう思えてならなかった。

 

 だが、それに否を唱えたのは、進ノ介には意外なことに、右京。

 

 彼は徳利を傾けつつ、それが当然だと考えるように疑問の声を上げるのだ。

 

「本当にそうでしょうかねえ?」

 

「……え?」

 

 進ノ介が顔を上げて右京を見ると、彼は微笑みながら進ノ介を見つめ返した。そこに在るのは、子供のような、ポジティブな瞳の輝き。彼は進ノ介を諭すように、言葉を続けた。

 

「確かに、そのプレゼントは今回、君を事件へと導きました。けれど、それはむしろ、幸運なことだったのではないでしょうか?

 君が三田さんと出会わなければ、どうなっていたでしょう? 三田さんはあのような大それたことを行わず、当然、事件の発覚も遅れたはずです。そうなれば、殴られた荒木さんが助かることはなかった。谷口は逃げ延び、三田さんもご家族と会おうとは思わなかったはずです」

 

「杉下さんは、もしかして、これのおかげだと思っているんですか?」

 

 右京は進ノ介のいぶかしむ顔に、迷いのない顔で頷く。

 

「ええ、君はそのプレゼントを不吉だと考える。僕は幸運と事件解決を運んだと考える。偶然の出来事を結びつけるのならば、それら二つは等価ではありませんか?

 後は、受け取る方がどのように考えるか。……僕は人を救い、事件解決に導いたプレゼントなら、彼女が気味悪がるとは到底思えないのですが」

 

 進ノ介はその言葉に、不思議と説得力がある様に思えた。右京の言う通り、霧子がその指輪の由来を聞いて、気味悪がるとは思えない。そして、人を死なせなかった指輪とは、刑事という危険な仕事を続ける霧子にふさわしくも思える。

 

「物事は、心の持ちようですから。不幸だ不幸だって嘆き続けるよりも、起きた出来事をポジティブに考えれば、人生楽しくなると思いますよ? 私も、幸運のプレゼントだと思います」

 

「あなたが言いますと、なかなか含蓄がありますねえ」

 

 右京がそう言うと、幸子はあらあら、と意味深に笑う。最近、幸子も過去に含みを持たせるので、何か隠れているのではないかと、少し思ったりもしている進ノ介だった。そして、二人が言うことも、また真実なのだろう。

 

「確かに、そういう風に考えるなら……。三田さんも無事にプレゼントを贈れるでしょうし。これが、幸運を呼び込んだのかもしれませんね」

 

 進ノ介はようやく笑顔を浮かべると、今度こそ鞄に、大事にプレゼントをしまい込む。後は、彼も覚悟を決めて、贈るだけ。そう考えると、進ノ介にはふと疑問が。先ほど右京が言っていた言葉が引っかかってしまった。

 

「……ん? あれ? さっきの杉下さんの口ぶりって、なんだか、俺が贈る相手に見当がついているような……? いやいや、まさか……」

 

 この人情が分からない警部に、プレゼントの相手が特定されているなんて。進ノ介は一転、冷や汗をかきながらブツブツと呟き始める。だが、現実は無常であり、

 

「ああ、詩島刑事のことでしたら、芹沢さん達が現場で随分と話をしていましたので。つい小耳に……」

 

 なんて、右京はなんでもない事のように言ってしまう。

 

 今度こそ、進ノ介の顔から血の気が引いた。

 

「ちょっと!? ってことは、現場のみんなにも噂が広まってるってことじゃないですか!?」

 

 その言葉が意味するところを理解して、進ノ介は絶叫を上げる。つまりは伊丹や芹沢といった捜査一課や鑑識の人々にも伝わっているということ。日ごろ良く出会う人々に、自分が告白する予定などと知られてしまったのだ。

 

 そんな彼に幸子まで、同情するような視線を向ける。

 

「ま、まあまあ、泊さん。これで後がなくなったと思えば!」

 

「何の慰めにもなりませんよ、それ!!」

 

 そう言って、とうとう力尽きたように、机へと進ノ介は突っ伏してしまう。仮面ライダーとは思えない、哀愁に満ちた、悲しい姿。

 

 ただ、この背水の陣が功を奏したのか……。

 

 数日後、気合を入れた進ノ介は、霧子をデートに誘うことに成功する。この指輪が彼女の指に収まるかは、進ノ介に最後の勇気が持てるかどうか。

 

 進ノ介にとって、人生の転機となる誕生日。

 

 それは、あと少しだけ未来のことだ。




あとがき

これにて第八話の完結です。

今話のテーマは「プレゼント」
movie大戦の時期に入りましたので、進ノ介の私生活にも変化が起きるだろう。そう考えて、今回はプレゼントをテーマにしました。
プレゼントは本当に悩まされるものですが、最後に重要なのは、受け手がどのようにとらえてくれるのか、それにかかっているのでしょう。そして、真心を込めたプレゼントならば、きっと思いは届くはず。皆様にも素敵なクリスマスプレゼントが届きますように。

隠しモチーフはSeason8第8話「消えた乗客」。
事件と警察を利用して、目当ての人物を探すという着想は、この話から得ました。ゲストキャラに振り回されるというのも、相棒らしい話だと思っています。

さて、今回の話はいかがだったでしょうか?
神戸君や小野田さんの登場など、スペシャルへ向けて裏でいろいろ動いていることも考えていただけると嬉しいです。

それでは、最後に第究話、もとい第九話の予告!
彼が登場しますよ! ギャグも多めの話であり、スペシャル前の重要な話になります。

第九話「西城究はなぜ追い詰められたのか」

どうか、お待ちいただけると幸いです。

……カウントダウン 2
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