相棒 episode Drive   作:カサノリ

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ここまでの状況のまとめ

泊進ノ介が何者かに襲撃された。幸いにも進ノ介は一命をとりとめるが、立て続けに病院にて追田警部の車が爆破され、犯人を名乗る女性は息子になったロイミュードの復讐のため、進ノ介を狙ったと語るのだった。捜査が進む中、協力者として、元ネオシェード関係者の名前が挙がるも、行方は掴めない。

そんな時、回復した進ノ介のもとへと監察官の大河内が現れ、進ノ介の仮面ライダーとしての活動が服務規定に違反すると糾弾する。自身のこれまでに疑問を抱いてしまった進ノ介は突如、病院を抜け出してしまう。

犯人の手により、追田とりんなが拉致され、進ノ介の身柄が要求される中、友が消え去った地で後悔に塗れる進ノ介の前に、右京が現れた。



吹原かおり
:犯行を自白した女性。動機として、死亡した息子をコピーしたロイミュードを仮面ライダーが倒した復讐だと語っている。

吹原健輔
:かおりの息子。非行に走っていたが、更生したのか、実家に戻りかおりと共に生活していた。一年前に交通事故で死亡。彼をコピーしたロイミュードが存在したというが……。

越谷伏美
:進ノ介が壊滅に関与したネオシェードの元幹部であり、金庫番。事件前後、複数の勢力の間を動き回っていた。

両島医師
:進ノ介の執刀医。

村上刑事
:りんなの護衛を務めていた警護課の刑事。


第十話「機械人形への鎮魂歌 VI」

 彼を一目見た時、私は心臓が止まったと思いました。だって、突然ベルが鳴って、玄関に出た私の前に、息子と瓜二つの男が立っていたのですから。

 

『母さん』

 

 なんて、息子と同じ声で話し始めるんですから……。

 

 もちろん、私だって疑いましたよ。彼は息子から意思を引き継いだなんて言うんですから。質の悪い悪戯か、私の気が狂ったのか。この世のものとは思えなくて、彼を疑っていました。

 

 ですが、彼は息子の全てを知っていたんです。好きな料理、好きなスポーツ、小学校の頃に好きだった女の子。そして、

 

『前の俺は渡すことができなかったんだ。知らなかっただろう? これを隠していたのを』

 

 息子の部屋の、小さな飾り箱から取り出した、綺麗なラッピングのマニキュア。私の誕生日にと取っておいたというソレを、彼は探し当てたのです。訳が分からずとも、私に彼を受け入れないわけにはいきませんでした。

 

 だって、そうしないと私は死んでしまいそうだったから。

 

 嘘でも、悪魔でもいい。この『息子』ともう一度人生をやり直したいと本気で願ったのです。

 

 けれど、ささやかな願い事は叶いませんでした。息子は誰もが知っている正義の味方に倒されてしまったのですから。仮面ライダーは、私の最後の希望を奪っていったのです。

 

 もう、私には何の望みも残っていません。ただ一つ、復讐をしたいという濁った欲望だけを残して、私の心は空っぽになったのです。

 

 

 

 相棒 episode Drive

 

 第十話「機械人形への鎮魂歌 VI」

 

 

 

「杉下さん、どうして……」

 

 進ノ介のかすれた声は雨音に混じって、消えていく。それでも、小柄な紳士には届いたのか、もしくは唇の動きを読んだのか。それをしなくとも、進ノ介の表情だけで、言いたいことが伝わってきたのか。

 

 右京はそっと距離を近づけながら、傘から露わになった口から、軽やかに。

 

「どうしたもこうしたも。申し上げたように、君を探していたんですよ」

 

 言葉は、そんな身も蓋もないものだった。答えになっていない。

 

「いや……、だから、なんでよりにもよって杉下さんなんですか!」

 

 思わず進ノ介は叫んでしまう。だって、杉下右京は友人でもなんでもない、あの戦いを共有した人間でもない。ただの奇妙な上司なのに。彼がこの場所を知るはずがなかった。進ノ介には、迎えが来るとしたら霧子だろうと考え、それに甘えたいという無意識もあった。

 

 だけども、あくまで飄々と、右京は進ノ介の言葉を受け流す。

 

「それは簡単なことです。たまたま僕の担当がこの場所であっただけ。ああ、まもなく君が待ち望んでいる詩島刑事も到着しますから、ご安心を。

 それに……。ええ、僕にもいくつか、気になることがありましたからねえ」

 

「……気になること?」

 

 進ノ介の怪訝な声には答えず、右京は無遠慮に、ずけずけと足を進めて進ノ介の横に並んだ。長身の進ノ介からは見下ろす形。だが、彼の小柄な体は、不思議な存在感を放っていた。進ノ介の心のゆるみがそうさせているのか。柳の様な態度なのに、ちっとも揺らぐ様子がない。

 

 そして右京は、いつものように、子供の様な興味の眼差しを向けながら、進ノ介に語り掛けるのだ。単純明快で、右京の児戯の様な好奇心から生まれた疑問を。

 

「君が、どうしてそのように落ち込んでいるのか、ですよ」

 

 その瞬間、進ノ介の心が逆立った。

 

 右京に悪気がないことは分かっている。気になったことがあれば、調べずにはいられない。そう常々公言している人間だ。だから、彼に苛立ちを覚えるのは、ひとえに進ノ介の心が荒れているからだと、理性は判断できる。

 

 けれども、そんな冷静な自分とは別の、感情豊かな心が暴れまわっている。

 

 今、自身が停滞しているという間違いない実感。その始まりになった特命係の主。

 

 その彼が、特有の隠し事を根こそぎ暴こうとする眼差しを向けている。容疑者へ向けるのと、何ら変わることない様子で。いつぞや以来に、右京に対するいら立ちが募っていった。

 

 押し黙る進ノ介に、右京は続ける。

 

「旧特防センタービル跡地。君たちの最後の戦いが繰り広げられた場所ですか。ロイミュード達が占拠し、グローバルフリーズを再開しようとした場所。ここで仮面ライダーはロイミュードの残党と蛮野博士を倒し、世界を救った。

 ……君が使命を果たした場所ですね?」

 

 進ノ介は握る指に力を込めて、今にもあふれ出しそうな憤りを我慢する。けれども、右京はさらに嫌味な物言いを放つのだ。

 

「……ここへ来たのは、確認するためですか? 自分が何を成し遂げたのか。……仮面ライダードライブとして」

 

 瞬間、進ノ介の堪忍袋が炸裂した。

 

 右京が掲げていた黒傘を取り落とす。進ノ介が我を取り戻した時、彼は自分が息を乱しながら、右京へと掴みかかっていたことに気づいた。彼の丁寧に仕立てられたスーツに皺を作るように。長身の彼の行動によって、右京は少し浮きあがるほどに体を反らせて、しかし、視線だけは冷静に進ノ介の揺れる瞳を見ている。

 

 進ノ介に湧き上がる罪悪感。それでも感情は収まってくれない。

 

「……あんたに、アンタに何が分かるって言うんですか!!?」

 

 叫ぶ。

 

 進ノ介だって、こんなことをしたかったわけじゃなかった。それでも、自分が警察官として、仮面ライダーとして相応しくはなかったのではないかと、自己を否定してしまいそうな進ノ介にとって、不躾な右京の物言いは的確に心をえぐり抜くものだったから。

 

 感情的な元仮面ライダーへと、あくまで冷ややかに、窓際の変人は評価を下す。いつもと変わらず、一歩も譲るつもりはなかった。

 

「君の好きな言葉に合わせるなら……。今の君は、ブレーキがかかっている、というところでしょうか」

 

「そんな、分かったようなこと言わないでください! アンタ、何も知らないだろ!? 俺たちがどんな思いで戦ってきたのか、俺が、どんな思いで特命係にいたのか……!!」

 

「ええ、分かりませんねえ」

 

 だからこそ、右京は瞳に力をこめ、揺れる仮面ライダーへとさらに迫るのだ。早口で、もっともらしく、手前勝手な理屈をこねくり回しながら。

 

「……僕は真実が知りたい。それを知る方法は唯一つ、君が僕に教えること。僕の訳知り顔が気にくわないというのなら、君は今すぐ、それを僕に話すべきです!

 そうでなければ、僕は君の不愉快な勝手な想像を繰り返すことになりますよ? 僕は気になることがあると、夜も眠れなくなりますからねえ……。解決するまでしつこく、誰彼構わず聞きまわるかもしれません。僕のそういう面を、君も少しは知っていると思うのですが」

 

「……なんて言い草ですか」

 

 呆れて、物が言えなくなる。

 

 けれど、不思議なことではあるが……。そのために少しだけ、進ノ介の心は冷静になれた。

 

 それはもしかしたら、怒りが限度を超えて、思考がクールに戻っただけなのかもしれないが。右京の畳みかける言葉は、燃え上がるエンジンへと冷水を浴びせていた。荒唐無稽な自分勝手な言葉だからこそ、ムキになって怒るのも馬鹿らしくなる。

 

 進ノ介はバツが悪そうに手を離すと、ぶっきらぼうに頭を下げて、せめての謝罪をし。そして、右京に背を向けてアスファルトの一角を見つめた。

 

 数秒、数十秒。手を握り、開いて。そうして、ためらいを見せる中、右京と二人、雨に降られるままに任せて。進ノ介は絞り出すように語りだす。

 

「……ここは、ただの戦いの場所じゃありません。俺の、友達が死んだ場所です」

 

 ロイミュード達との戦いの始まり。彼らの中にも良いものがいると知った、とある事件。父の死の真相、真の悪心の正体、友情を結んだ好敵手や頼れる仲間の最期。

 

 小さく、悔恨に塗れながらの、それでも真実の言葉。それを右京へと淡々と語っていく。そうすると、心のエンジンが落ち着いていった。誰かに語ることで心のつかえが取れていく。心の中の靄は晴れてはくれなかったが……。

 

 右京は静かに、相槌を打つこともなく、遮ることもなく進ノ介の話を聞き続けていた。十分かそれ以上。話が一応の終着を迎えると、ようやく一つ頷き、進ノ介に頭を下げる。

 

「やはり、西城さんに伺ったときもそうですが、当事者の話を聞くというのは大切ですね。風評や通り一辺倒の伝聞ではなく、様々な面が見えてくる。仮面ライダーの戦いは、決して、世間が言うような勧善懲悪の物語ではなかった。それを知れたことは、とても貴重な経験でした。どうもありがとう」

 

「……俺はあなたに掴みかかった男ですよ。よく、そんなお礼が言えますね」

 

「君は冷静に見えますが、その実、情熱豊かな人です。それに、時折、考えすぎてブレーキをかけてしまう。ああいう物言いをすれば、激昂することくらい、人に疎い僕でも分かりますよ。

 ……それでは、その話を聞いた上で改めて聞きましょう」

 

 そして右京は、何物も見逃さない鋭い視線を向けながら、進ノ介に問いかけてくる。

 

「君が落ち込んでいるのは、自分が誰かを傷つけていたからですか?」

 

 違う。

 

 警察官である以上、誰かのために働いても恨みを買うことがある。容疑者や時には被害者遺族。事件関係者。そうであっても市民の平穏を守る。その覚悟もなしに警察の道に踏み込んだわけではない。

 

「君の職務が批判を受けたからですか?」

 

 違う。

 

 警察官である以上、規則を守る重要性は認識している。けれども、人の命と天秤とかけた時、警察官の使命として、進ノ介は命を選ぶと決めている。何度あの時に戻っても、規則を守るために人を見殺しにはできない。例え、その結果、懲罰を受けようとも。

 

「ヒーローであることを否定されたからですか?」

 

 それは、

 

「違う。俺は、ヒーローになんてなるつもりじゃなかった。ただ、自分に出来る精一杯で市民の平穏を守りたかっただけです。……刑事として」

 

 だから、泊進ノ介という刑事が悔やむとしたら、一つだけだ。

 

「悔しいんです。あの母親だってそう。ハートや、他のロイミュードだって被害者だ。

 俺は……、そんな彼らを救えなかった!! 警察官として、あの場にいたのに!! もっと考えを尽くせば、戦い方を考えれば、蛮野のことに気づけていたら……! 別の道もあったって、今は信じられるのに……!!!」

 

 刑事としてその場に立ちながら、ロイミュードという、悪意に翻弄された被害者を助けられなかった。

 

 それは、人を守る道を選んだ人間として、耐えがたい後悔だろう。被害者百八人。まして、それらを倒したのは自分達だ。

 

 あの雨の日の別れから、ずっと、心の中に抱いていた後悔と罪。この事件で過去と向き合う中で、それは抑えがたい淀みとなって、進ノ介の足かせとなっていた。

 

 こんな自分が、刑事でいていいのだろうか、と。

 

 こんな自分が、仮面ライダーでいていいのだろうか、と。

 

 右京に背を向け、肩を震わせる進ノ介。しかし、その背後からかけられたのは、進ノ介が予想しなかった言葉だった。

 

 

 

「なるほど。だから、君は仮面ライダーとなれたのですね」

 

 

 

 そんな、心から納得するような、答えが解けたような満足げな優しい言葉。

 

 驚き振り向く進ノ介へと、右京は見たことがない笑顔で頷いていた。

 

「僕は帰国してからずっと考えていました。『仮面ライダー』とは、いかなる存在だったのか。言葉だけを捉えるなら、仮面をつけたバイク運転手。

 方々を探してみると、いくつかの地方で都市伝説的に名前が広まっていましたが、それくらいの言葉。確かに語感は良いですが、ヒーローには結び付きがたい」

 

 そんな仮面ライダーを、何故、多くの人々はヒーローとして認めたのか。杉下右京は知りたがった。

 

「どうして君が仮面ライダーとなったのか、ヒーローと呼ばれるに至ったのか。随分と長く観察してきましたが……。ええ、先ほどの君の発言で、腑に落ちました」

 

 右京が一歩、進ノ介に近づく。

 

「全ては君の行いゆえに……。

 ただの力では暴力装置。ただの正義では独善。人々がヒーローとして認めるはずがない。だから仮面ライダーがヒーローとなりえたのは、君こそが、泊進ノ介がヒーローとして認められる人間だったから」

 

「……っ、けど、俺はどこにでもいる警察官です」

 

 進ノ介は思わず否定してしまった。身体能力だって、もっと秀でている人間はいる。頭脳では、右京の方が推理力も観察力も上かもしれない。何も、泊進ノ介は特別な人間ではないのだから、と。

 

 右京とて、泊進ノ介がスーパーマンだとは思っていない。

 

「ええ」

 

「ロイミュード達を助けられなかった……。それどころか、倒してしまった」

 

「ええ」

 

「迷ってばかりの、ただの人間です」

 

「ええ」

 

 右京は仮面ライダーを見た。真っ当な若者だ。真っ直ぐに、人を想い、自分の使命を忘れない警察官が目の前にいる。

 

「だからこそ!

 一人の人間として、警察官として、君は悩みながらも事件と向き合ってきた。今も、自分を正当化せずに、過去を悔やみ、立ち止まらずに先に進もうとしている。

 君が仮面ライダーだったから……。今、この世界に一人であろうとも、ロイミュードを悪だと思わない警察官が存在するんですよ」

 

 右京の言葉に、進ノ介は今度こそ、驚き絶句した。右京の言葉は、進ノ介の迷いと後悔こそが、仮面ライダーとしての資質だと肯定しているのだから。

 

 右京は、ゆっくりと歩きながら言葉を続けた。

 

「……警察官であることに驕り、罪を犯した者を何人も見ました。身分の差をもって、人を人とも思わない者が何人もいました。

 巨大な力とは、それだけで人を傲慢に変えてしまうもの。だからこそ、仮面ライダーはヒーローではなく、悪魔にもなり得たと、僕は思います」

 

 泊進ノ介は理不尽に遭ってきた。

 

 突如として戦いの日々に身を投じなければならなかった。支援を受けるべき警察組織は、何度も彼に疑いを向け、敵にすら回った。父を殺した人間も警察官だった。

 

 その理不尽をねじ伏せられる暴力を、進ノ介は持っていた。

 

 だが、機会は幾らでもあったのに、その誘惑に進ノ介は耐えた。その考えすら頭をよぎらなかった。

 

「けれど、君はどんな時でも、警察官の使命を忘れなかった。誰もが想定していなかった異常事態の中で、君は人間の強さを示し続けた。だから、君の姿に人々はヒーローを見たのです。だから、敵であろうとも、君を友だと認めたのではありませんか?」

 

「けど、俺じゃなかったら……。もっと、別の人間が仮面ライダーになっていたら。違う結末があったかもしれない」

 

 ロイミュードとの共存の未来もあったかもしれない、泣いているあの母親が罪を犯さなくてもいい未来があったかもしれない、と。その言葉に、右京は少しだけ言葉をつぐんで……。

 

 自分にも言い聞かせるように、穏やかな声で言う。

 

「もしかしたら。ええ、そのような人もいるかもしれません。僕とて現場にいなかった人間です。先の言葉も、僕の勝手な推論に過ぎない。ロイミュードの命についても、何も言えることはありません。

 そんな僕が唯一言えるとしたら……。仮に僕に力を与えられても、君のようには成れなかった。それだけは確信をもって言えます」

 

「どうしてです? 杉下さんだって、立派な警察官じゃないですか。俺よりもたくさんのことを考えられる。犯人を見破ることができる。蛮野の暗躍だって、気づけたかもしれない」

 

 進ノ介の全てを上回っている訳じゃない。それでも、進ノ介とは違った強みが右京にはあるのだから。

 

 だが、

 

「ですが、僕のやり方では、多くの人が傷ついたはずです」

 

 そう言って、右京は可能性を自ら否定した。

 

「僕は暴力を嫌います。拳銃を持つことも肯定しない。仮に僕が力を与えられても、決して使おうとはしなかった。正直に言うと、君と出会うまで、僕は仮面ライダーに肯定的ではなかったのですよ」

 

 戦いに積極的になれない右京では、ロイミュードを止めることはできなかった。右京は自分をそのように評価する。

 

「真実を追求する。それが僕の選んだ道です。決して曲げることのできない信念です。だから、妥協ができない僕に、仮面ライダーは務まらない」

 

 杉下右京では、泊進ノ介には成れない、と。

 

「ですが、それは自然なことではありませんか? 人が信じるものは個人によって異なります。僕のかつての相棒が、真実よりも命を優先したように。僕がそれでも真実を優先するように。

 君は市民の平穏を選んだ。

 ただ、それだけのこと。そんな君の心からの選択を、誰が否定できますか?」

 

 もしかしたら、百年後。ロイミュードに命が認められるかもしれない。その時に、仮面ライダーは罪人として評価されるかもしれない。

 

 だが、それは未だ先の未来であり、未来を残せたのは、他ならぬ、仮面ライダーがいたから。その未来をより良くするために、力をうしなっても、仮面ライダー達には出来ることが残されている。

 

「もし君に後悔が残っているのなら。君がするべきは、今と変わりません。考え続けることです。戦いを決して忘れず、より良い世界を考え続けること。そして、信念をもって力を尽くすこと。

 そのために、警察官で在り続けろとは、僕は言いません。選べる道は多くあるのですから。ですが、君よりも長く、警察官であった僕に言えることが一つあります……」

 

 右京は進ノ介へと向き直り、鋭い視線と共に、強い言葉を突きつける。

 

「仮に君が、ロイミュードへの償いや義務感だけで、警察官を続けようとするのなら、はっきり言いましょう」

 

 

 

「君は今すぐ、警察など辞めるべきです!!」

 

 

 

 それだけは許さないと、音と共に放たれた信念に進ノ介の心はびりびりと震わされる。

 

 だが、言い終えたとたん、右京は表情を解いて、語り掛けるのだ。

 

「なぜなら、警察官でありたい理由はあっても、守るべき使命があっても、警察官である義務など無いのですから。警察もあくまで、個人が選ぶ権利を与えられた職業の一つ。

 そして、多くの誓いを守らなければいけない、責任ある仕事です。重く、苦しい仕事です。償いや義務で行うべき仕事では、断じてありません」

 

 それを突きつけた上で、右京の瞳は問いかけてくる。

 

『君はどうなのですか?』

 

 と、仮面ライダーの名前を冠した今でも、刑事の苦しさと責任が骨身に沁みた後でも。進ノ介には今でも、警察官としてやりたいことがあるのか、成し遂げたいことがあるのか、と。

 

 もし、それがあるのなら……。

 

「僕は君に、警察官を続けてほしい。弱者を見捨てず、心に寄り添い、命の重みを決して忘れない。君の持つそれらは、警察官として何よりも素晴らしい資質です。

 それに、君はとても尊いことを行いました。僕たちが望んで止まない行いを成し遂げた」

 

「それは……?」

 

「泊君。君は仮面ライダーとして、正義を伝えたんですよ」

 

 人々を守るために、異形の怪物に立ち向かっていくヒーローに。

 

 理不尽に遭っても、決して折れず、真っ直ぐに突き進むヒーローに。

 

 必ず守ってくれると、安心を与えてくれるヒーローに。

 

 人々は夢を見た。

 

「君の行いは人に勇気を与え、子供たちに夢を与えた。それは多くの人にとって、悪の誘惑を振り切る力になったでしょう。これまでに出会った、君を頼り、助けを求めた子供たちが、何よりの証拠です」

 

 右京のかつての相棒が望んで止まなかった夢。

 

 正義を教える。

 

 それを、進ノ介は仮面ライダーとして成し遂げた。

 

「……杉下さん」

 

 それきり、言いたいことは全て言い切ったと、右京は口を閉ざした。そして、進ノ介は右京をもう一度見る。

 

 今、そこには子供の様な、興味だけで動き回る不思議な色はなかった。

 

 あるのは唯一つ、真摯に未来を想う目だ。責任感ある、使命に燃えた目だ。父と同じような。いや、もっと昔から、それのみを求めてきたような警察官の目が、そこにあった。

 

 進ノ介は、大きく深呼吸をして、肩から力を抜く。

 

(……まったく、杉下さんにここまで言われるなんて)

 

『警察官の肩には大いなる責任が乗せられている』

 

 父の言葉が、もう一度、進ノ介の脳裏によみがえった。

 

 けれど、それは自分を苛むものではない。市民の平和、被害者の無念、助けられなかった後悔、人々の憧れ、社会正義の守護者。警察官はそんな責任を負うことを選んだ人々。

 

 その誇りを、進ノ介は捨てる気になんて、なれなかった。

 

 一度だけ瞼を閉じ、失われた命を想う。

 

 ハートは、チェイスは、ベルトさんは。

 

 不幸なすれ違いから、この世界に居られなかった彼らは。

 

 友は自分に未来を託してくれた。

 

(だから、俺の選ぶ道は。選びたい道は一つだ)

 

 そうして瞼を開けた時、右京は満足そうに一つ、頷きを返しただけだった。先ほどの饒舌はどこへやら。右京は無言のまま、踵を返して雨の中を去ろうとする。どうやら、進ノ介の決意表明には興味がないようだ。

 

 ふとした瞬間に人間性と熱情を見せて、それでも孤高の変人のように、消えていこうとする右京。

 

 最後に一つだけ、と右京は背を向けたまま、どこか嬉しそうに進ノ介に言う。

 

「……集合場所は君の病室、ということにしましょう。君は、まもなく来る詩島刑事と一緒に戻ってください。僕も着替えが済みましたら、すぐに向かいますので」

 

「え?」

 

「何を惚けているのですか? 君も十分動けるようですし、もちろん、捜査を行いますよ。

 未だに機械生命体犯罪に苦しんでいる被害者がいる。彼女を止めるのは、仮面ライダーをおいて……。他に誰がいるんですか」

 

 それだけを言い残して、右京は静かに去っていった。

 

 最後まで言いたいことだけ言って、進ノ介の返答も聞かずに帰っていった警視庁一の変人。その背中を進ノ介は少しの苦笑いを浮かべながら、黙って見送った。

 

 数分後、鬼の形相の霧子が到着するまで。

 

 

 

「いくら何でも、病人にあの仕打ちは酷いんじゃないか?」

 

 濡れ鼠となった進ノ介はタオルで髪をぬぐいつつ、助手席でぼやいていた。

 

 今は霧子の運転に任されるまま、病院へ戻る道の途上。頭を押さえて、顔をしかめつつも、心なし楽し気に。一方の霧子は美人の顔をむっすりと結びながらハンドルを握っている。まだまだ、怒りは冷めやらぬという様子で、進ノ介へと文句を言う。

 

「あれだけ元気に病院を抜け出した人には、病院に戻る口実にちょうどいいです」

 

「俺、脇腹撃たれてたんだけど……」

 

「だから、そこには当てていませんよ?」

 

 そう言いつつも、一転、眉をひそめながら、

 

「……もう大丈夫ですか?」

 

 霧子の細い言葉に、進ノ介は手に持ったタオルをぎゅっと握りしめた。ワイパーがせわしなく働くフロントガラスを見つめる。

 

「……いや、まだ俺にも判断はつかない。もっとできることはあったって、思ってる」

 

「私だって同じです。この世界にチェイスや072がいない。それは、私たちの力が至らなかったから。……今も後悔しています」

 

 けれど、今、胸に残っているのは後悔だけじゃない。

 

 杉下右京が進ノ介に与えたのは、ちょっとした肯定だ。悩み苦しむことも、仮面ライダーとして必要な資質なのだと。そう言い放った杉下右京という人間は、変人だが、決して上辺の同情や慰めを与える人物では断じてない。

 

 だからだろうか。右京の言葉が真実だと、信じてみたい自分がいる。

 

 何より、隣のバディも同じ思いを抱いていることを、冷めた頭がようやく思い出させてくれた。だから、あの最後の事件と同じ言葉を告げることに、進ノ介は決める。

 

「ロイミュード達がいなくなっても、世界は平和にはならない。本当の悪は人間の心にあるって知った」

 

 だから、

 

「……いつかロイミュード達は俺たちの世界に戻ってくる。その時に、同じ過ちが繰り返されないように。皆の幸せを守るため、悲しいロイミュードが生まれないように。

 俺は、これからも悪と戦っていきたい。それが、仮面ライダーになった刑事として、俺がやりたいことだ」

 

 進ノ介は言い切る。けれども、それは同時に、途方もないことだとも覚悟している。人間が人間である限り、悪の心に負ける者は必ず現れるから。

 

 それでも、それこそを進ノ介は行っていきたいと。進ノ介は少し息を吐き、隣の霧子を見る。

 

「けど、きっと、今日みたいに止まってしまいそうな時があると思う。……その時は俺を支えてくれないか? みんなと一緒に」

 

 いつもの少しだけキザな調子ではなく、しおらしい言葉だった。霧子はそれを聞くと、いきなり車を道に寄せて急停車。そうして、心底呆れたというような様子で肩を落とし、ハンドルに頭を押し付けて。

 

「き、霧子?」

 

 進ノ介は戸惑い、恐る恐ると尋ねる。決意を固めて言った言葉だから、霧子の反応が怖かった。けれども、

 

「もうっ、そんなこと聞かれなくても、分かりきったことじゃないですか!」

 

 返ってきたのは、そんな今さら聞かないで下さいと言いたげな、照れた顔だった。

 

「付いて行きますよ。……私はあなたのことを信じています。この先に、何があっても。いつも言っている通り、私は貴方のバディなんですから」

 

 静かな、想いに溢れた言葉。進ノ介は頬が緩むのを止められなかった。これなら、怖くないと。自分よりもしっかりしているバディが隣で支えてくれるなら、きっとこれからの人生も乗り越えていくことができると。

 

「ああ、そうだった。よろしく頼む、霧子」

 

「ええ、泊さん。それじゃあ、まずは病院に戻って対策を立てましょう。りんなさんと追田警部をあのままにはしておけませんから」

 

 再びエンジンを動かす霧子。

 

 ただ、一瞬前の穏やかな雰囲気と異なって、進ノ介の顔には呆けた表情が張り付いていたのだが。今度こそ、霧子はどうかしたのか、と疑問を言う。

 

「どうしたんですか? そんな変な顔をして」

 

「……りんなさんと、現さん?」

 

 ボンヤリした声だった。まるで、その二人が事件の渦中にいるのだと、認識をしていないような。何も、話を聞いていないと言いたげな。

 

 一、二、三、四……

 

 と、奇妙な沈黙が車内を包み込む。次の瞬間、霧子は顔を硬直させながら、驚きの声を上げるのだ。

 

「ま、まさか、泊さん! 知らなかったんですか!? りんなさんと追田警部が捕まっていること!!」

 

「……え!? なんだそれ!? 聞いてないぞ!!?」

 

「杉下警部は!?」

 

「何も言ってない!!」

 

「――っ!! もうっ! なんなんですか、あの人は!!!??」

 

 

 

 別れ際の言葉の通り、杉下右京が進ノ介の病室へと訪れたのは、進ノ介が戻ったすぐ後だった。服装を整え、いつもと変わらぬ様子。彼はベッドに座る進ノ介を認めると、少しだけ微笑み、

 

「さて、事件のことについては、詩島刑事からお聞き及びと思いますが……」

 

 なんて、白々しいことを言う。

 

 そんな変人へと、進ノ介はじとりとした視線を向けた。

 

「俺は、それを杉下さんが伝えるべきだったと思いますけどね!」

 

「おやおや」

 

「おやおや、じゃないですよ!」

 

 進ノ介は肩を怒らせながら、ネクタイに手を置く。病室に帰って直ぐ、進ノ介は入院着を脱いで、スーツへと着替えていた。未だに入院期間なのだから、許可ない外出は禁止。けれども、事件について考えるのなら、いつものスイッチは必要だ。

 

 調子は万全。今は、大河内やら甲斐やら、様々な方向からもたらされた悩みは邪魔をしない。少し緩めたネクタイを締めあげながら、

 

「ようやく、脳細胞がトップギアだぜ、ってね」

 

「……それは、決め台詞というものでしょうか? 君に変に気障に決める面があるのは知っていますが、仮面ライダー時代から変わらなかったということなのでしょう」

 

「あの、小声で言ったのに拾わないでくれません?」

 

「これは失礼」

 

 ともかく、そうして進ノ介が準備を整えると、右京は彼の前に大きな紙の束を置いた。

 

「これは?」

 

「事件の資料です。米沢さんや伊丹刑事にいただいてきました。吹原かおりの指定まで、まだ時間があります。となれば、この中から何かしらの突破口を見つけるべきでしょう。やられてばかりというのは性に合いませんからね」

 

「なんか、杉下さん、すごい気合入ってますね」

 

 右京が事件捜査に置いて一瞬も手抜きをしないのは、進ノ介も知ってきた通りだが、今はいつもより、やる気十分という様子。先ほどの特防センタービル跡地といい、今日は杉下右京の新しい一面を知ってばかりだ。

 

 そう言うと、右京は挑発的な視線を向けながら、

 

「僕は君が思うよりもずっと、負けず嫌いですから。売られた喧嘩は買いますよ? そして……、必ず勝ちます」

 

「俺に売られた喧嘩でも、ですか?」

 

「もちろん。ああ、仮に僕が不要だというのなら、僕は勝手に捜査を続けますが?」

 

「そこは、手を引くって言う台詞じゃないですかね? でも……、杉下さん、手伝ってください」

 

 そうして差し出された手を、右京はしっかりと握って答えた。

 

「それでは、事件について整理しましょう。泊君、僕にはこの事件、どこかちぐはぐな印象を抱きますがどうでしょう?」

 

 言われ、進ノ介は考える。資料を見ながら、事件の要点を頭の中でまとめていくのだ。被害者であったため、それゆえに初動捜査の現場にはいなかった進ノ介。だからこそ、事件を客観的に見ることができた。

 

「第一の事件、つまり俺の狙撃ですが」

 

第一の事件

・ターゲットは泊進ノ介

・目的は殺害

・手段は狙撃

・ハッキングによる誘導を行った

・証拠はなし

 

「犯人の行動は綿密でしたね。場所を誘導して、狙撃。俺が行動を変えなかったら、命はなかったかもしれません」

 

「ええ、あの犯行声明の通り、冷静ながらも強い殺意を感じる犯行でした。ですが、次の追田警部の事件。そのような犯人が行ったにしては、お粗末極まりない」

 

第二の事件

・ターゲットは追田警部

・目的は殺害

・手段は爆弾

・爆破直前に設置したとみられる

・証拠多数

 

 そこまで考えて、進ノ介は疑問を持つ。

 

「これ、吹原かおりが告白したように、彼女の犯行なら。なんで狙撃をしなかったんでしょう。俺が入院したから、そこには特状課関係者が集まる。十分予想できたことですし、俺の狙撃場所とそう離れた位置じゃありません。彼女なら狙えたはずです」

 

「にもかかわらず、犯人が選んだのは爆弾。追田警部はたまたま車から離れたから、巻き込まれずに済んだ。それは事実ですが、タイマーをもっと遅く設置していたら、より確実だったでしょう。

 むしろ、追田警部が足早に動きすぎたから、爆発までに彼が車にたどり着けてしまった。などと考えることも出来てしまいます」

 

 仮に、爆弾のタイマーがあと三十分伸ばされていたら。

 

 病院では爆発せずとも、追田はどこかの路上で吹き飛んでいただろう。

 

「彼女の言う強烈な殺意とは不釣り合いですねえ」

 

「そもそも、なりふり構わないのなら、全員が集まった病院を襲撃するべきだったでしょうし」

 

 ただでさえ警察全体を敵に回すような犯行だ。実際、追田の殺害に失敗した以降、究や本願寺は厳重に警備されて狙うのが困難になっている。元特状課全員がターゲットなら、病院に揃ったあのタイミングが、彼女にとっての最大のチャンスだった。

 

 もし、手術中に爆弾を巻き付け、病院に入ってこられたら。

 

「ですが、そうはならなかった。加えて、今日の事件。ここで犯人の行動には致命的な矛盾が生じます」

 

第三の事件

・ターゲットは追田警部とりんな

・殺害ではなく拉致目的

・手段は爆弾

・警察情報を入手している

 

「なぜ。なぜ、犯人は追田警部を殺害しなかったのか。非力な沢神博士はともかく、追田警部は警察官。監禁するにはリスクのある相手です。人質は一人で十分であったにもかかわらず、犯人は追田警部も拉致した」

 

「現さんは、第二の事件で犯人が討ち損なった相手。殺意があるのなら、ここで殺害しておくべきだった」

 

 だが、犯人が行ったのは拉致と泊進ノ介の身柄の要求。

 

「一般的にこういった連続犯は犯行哲学が一貫しているものです。手段は変えつつも、目的やターゲットは変えない。その芯こそが犯人を犯罪へと駆り立てるのですから。

 ですが、この事件を詳しく眺めていくと、目的すらも変遷している」

 

「これを説明できるのは……」

 

「ええ」

 

 

 

「「それぞれ、実行犯が異なっている」」

 

 

 

 どの犯行でも、目立つ位置にいるのは吹原かおりだ。

 

 彼女はビデオレターで世間へと顔を晒し、印象的な動機で注目を集めた。第三の事件でも、彼女は自らを実行犯だと語っている。しかし、

 

「成田空港での犯行なんて、警察の警戒の中、指名手配を受けている吹原かおりが、行えるはずがない」

 

「ええ。あえてビデオレターを出し、自分の顔を晒したのも、共犯者が行動しやすくするため。と、考えれば納得ができます。あの段階では、泊君の殺害も果たされていないのですから、彼女が犯行声明を出すメリットはなかった。

 ですが、先に述べた犯行のちぐはぐさが一連の事件には存在します。泊君、これは何を表すでしょう?」

 

「実行犯ごとに犯行目的が違う、でしょ?」

 

 一件目は進ノ介の殺害。

 

 二件目は追田警部の爆破。

 

 三件目は警察の翻弄と拉致。

 

「吹原かおりを除いた動機は、まだ分かりません。しかし結びついた犯人達は互いに必要な部分を補い、犯行を繰り返してきました。吹原かおりはハッキングの技能はありませんからね。二件目、三件目も犯人側に何らかの形で警察情報が洩れていなければ、君の入院先や、沢神博士の帰国情報は手に入らない」

 

「共犯者の一人として、元ネオシェード関係者が挙がっているというのは?」

 

「角田課長の調べで、越谷という男が捜査線上に上がっています。ライフルの入手など、犯行グループに不可欠な役割を担っているとすれば、不審な動きにも納得できます」

 

 右京の言葉を受けて、進ノ介はネオシェードという集団の活動を思い出す。彼らはどこか狂気的に、世界の秩序を破壊し、新秩序の構築を狙っていた。

 

「……三件目。警察の裏をかいて、散々にかき回し、護衛対象を強奪する。派手な手段も、連中ならやりかねないと思います」

 

「越谷という男は、自分では殺害を行わない主義だそうです。それも、三件目の特徴とも合致するかもしれません。警察を上回った立ち回りは、彼らが求める復権に追い風となるもの。

 裏社会における影響を増すのが目的なら、彼の狙いは既に達成されたと見て良いでしょう」

 

「だから、追田警部たちを吹原かおりへ引き渡した」

 

「彼女の目的である、君の殺害は未だ達成されていませんからねえ。君を引きずり出すのに、仲間二人の身柄は有効です」

 

 ただ、越谷が三件目の実行犯にして、犯人グループの資金、物資面の要だとする。その場合、吹原かおりとの接点は何処にあるのか。それが問題だ。

 

「どこで二人が結びついたのか。それに、共犯者はきっと、越谷だけじゃありませんよね」

 

「ええ。越谷もハッキングなどの技能はあるでしょうが、警察情報の入手は困難です。情報の保護、特にネットセキュリティは万全の態勢で臨んでいましたから」

 

 おそらく、右京が予期したように、

 

 吹原かおり→越谷

 

 これが繋がらない以上、

 

 吹原かおり→X→越谷

 

 というもう一人の共犯者が存在する。

 

「二件目の犯行目的が他と異なることからも、第二の共犯者の存在は確実でしょうね」

 

「第二の事件。これも、おかしい事件ですよね。……なんで、失敗するリスクを込みで、現さんの車を爆破したんだ? 連続犯だと印象付けるため? それとも病院が……」

 

 瞬間だった。

 

 進ノ介の頭の中で、いくつもの情報が踊り狂う。

 

 事件時の状況。

 

 発生場所。

 

 事件の影響。

 

 手段。

 

 動機。

 

 一見すると奇妙な形だが、被害者が泊進ノ介という特異な人間だったのなら、荒唐無稽な仮説も成り立つ。

 

「繋がった!」

 

「泊君?」

 

「杉下さん、カギは被害者、俺自身の中にあったんじゃないでしょうか?」

 

 言われ、右京は数秒沈黙し。

 

「……なるほど、僕としたことが。君という特異性を見過ごしていたようですね」

 

 そう言って、子供のように笑うのだった。

 

「それじゃあ、それも調べるとして……。吹原かおりはどうやって説得しますか? 彼女の目的はあくまで俺の殺害です。けれど、それ以上に彼女は捨て身で動いています。……俺は、何とか彼女だって助けたい」

 

 右京が言ったように、吹原かおりとてロイミュード事件が存在しなければ、息子を亡くした唯の母親だ。事件の被害者の一人といえる。進ノ介が一つのきっかけとなった以上、最悪の事態だけは避けたいというのが進ノ介の本心であった。

 

 それを汲んだように、右京は静かに、一枚の紙を渡す。

 

「実は、一つだけ、有効な手段があるかもしれません。……これを」

 

「……杉下さん、これってもしかして」

 

 そこに記されていた内容を認識し、目を見開く進ノ介。そんな彼に、右京は重苦しく頷く。そこには、ある残酷な真実が記されていたから。

 

「ええ。これが、真実なのでしょう。なぜ、彼女のもとへロイミュードが訪れたのか」

 

「こんなことって……」

 

「ですから、やるべきことは一つだけ」

 

 そして右京は進ノ介をまっすぐに見つめ、彼がやるべき使命を告げるのだ。

 

「泊君、君は彼女に自分の身を差し出すべきです」




次回から、本話のクライマックスです。
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