相棒 episode Drive   作:カサノリ

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お待たせしました解決編パート1

ここまでの状況のまとめ
被害者:岡田一仁氏
町長の素行の悪い息子。自宅の二階で自殺に偽装され殺害。かなりの巨体。薬物の常習犯。小児性愛者の疑いが?


岡田町長
英雄視される町長であり、被害者の父親。殺害時刻は住人総出での誕生日会を行っていた。大きな体格

飯森校長
被害者に激しい怒りを向けていた小学校の校長。犯行時にアリバイは存在しないが
左手に大きな古傷をもつ。

大樹少年
推理小説好きな少年。祖母と二人暮らしだが、祖母が入院している。
事件発生後、進ノ介に謎の言葉を残す。

沢村巡査
特命係の案内役となった町の巡査。


第一話「誰がこのシナリオを描いたのか V」

『杉下右京です、よろしく』

 

 杉下右京と初めて出会った時を泊進ノ介はよく覚えている。意気消沈しながら入った薄暗い小さな部屋。自分を見ることなく、新聞を眺めながら告げた自己紹介。

 

 以来、杉下右京という上司は時々奇行を繰り返す、どこか子供っぽい男であった。上司としての威厳や、警察官としての能力は見たことがなかった。

 

 だが、この町に来て、事件に遭遇して以来、杉下右京は手慣れたように事件を捜査し、捜査一課とも協力して……。とうとう、犯人がわかったと告げた。

 

 進ノ介の中で大きな疑問が生まれていた。

 

『杉下右京とは何者なのか?』

 

 多くの者が言うように能力がなく、窓際に追いやられたのか。それとも、自身と同じように何らかの事情があって特命係に甘んじているのか……。

 

 事件と共に進ノ介を悩ませていた疑問が、もうすぐ明らかとされようとしている。

 

 

 

 進ノ介が右京と共に向かったのは町長宅。

 

 突然大勢で押し掛けた面々に岡田町長はわずかに戸惑った様子を見せる。だが、少し迷い、彼らを家へと招き入れた。

 

「突然、どうしたんですか?」

 

 町長のもっともな疑問。その疑問に対して、右京は穏やかな笑みで返答する。

 

「先程、町長がおっしゃっていましたので。何かありましたら何時でも手伝ってくださると。そのお言葉に甘えさせていただきました」

 

「ええ、そう言いましたが? 私が何か手伝えることがあるのですか?」

 

「はい。犯人がわかりましたので」

 

 右京は何でもないように言う。町長は顔をこわばらせた。

 

 その様子に俄然進ノ介は不安になった。自分の中ではまだ形になっていないそれを、このぼんやりとした右京は解き明かしたという。

 

 失礼だとは思ってはいるが、普段の特命係で暇を持て余している姿を見ていると仕方ないだろう。そんな不安をよそに、右京は話を進めていく。自分の考えに間違いがないと、それを確信している表情だった。

 

「犯人というと、やはり、殺人だったのですか? 息子は殺されたのですか!?」

 

「ええ、その通りです。……それを説明するには、もう一人到着を待つ必要がありますが……。どうやら、いらっしゃったようですね」

 

 ドアが開く音がして、少し後にやってきたのは、先ほど会った校長である飯森氏だ。

 

 町長と、校長。町の有力者二人はお互いの顔を見合わせると、途端に顔をしかめる。

 

「杉下さん、でしたっけ? 私は先ほど、この町長の顔なんて見たくないと言った。そう記憶していますが」

 

「ええ、飯森校長はそうおっしゃっていましたね。ですが、必要ですので、少しの間我慢いただけると助かります」

 

「……なるべく早く終わらせてください。いったい、何の話なのやら」

 

 ため息をつきながら、飯森氏が居間に入り、椅子に腰をかける。すると、右京がその場を仕切るように立ち上がり、全員を見回した。

 

「では、そろそろ始めましょうか」

 

 

 

相棒 episode Drive

 

 第一話「誰がこのシナリオを描いたのか V」

 

 

 

「まず、前提として、岡田一仁氏は自殺ではなく、他殺でした」

 

 右京は声を少し張り上げるように告げると、米沢さん、と促す。

 

「杉下警部のおっしゃる通り、被害者は睡眠薬を飲まされ、その後、首を吊らされたものと考えられます」

 

 前置きの確認の後、右京は普段の口数の少なさと対称的に畳みかけるように話し始める。

 

「ここで、首吊りというのが重要です。この方法は自分で行うならばたやすいですが、他人に強要するのは難しい。被害者の意識が残っていれば抵抗されて、余計な外傷が残ります。それを防ぐためには薬物等で意識を奪う等の方法が考えられますが……。

 それでも、意識を失った成人男性一人を吊るす、という行為は重労働です。一仁氏のように大柄の男性が相手なら猶更。他にも、上手く吊るすための場所を選び、ロープの強度を調べ、体重を支える結び方を工夫しなくては。ああ、本当に面倒な下調べと、時間が必要になりますねえ。

 そんな手順を踏むのは、ひとえに犯人にとって、この方法が大きな得だからでしょう。上手く自殺と判断されれば、捜査は行われず、安全に逃げおおせることができる」

 

「あのぉ、警部どの? そんな首吊り談義をして何がおっしゃりたいんですか?」

 

 伊丹が茶々を入れる。右京は、それに対して、もう少しだけ、と小さな謝罪を入れる。

 

「……今回の犯人も、色々と工夫を行ったようですが、上手くはいかなかったようです。いくつかミスを犯しました。死後に付いた足の傷。首筋に大きな擦過傷。過剰投与した睡眠薬。そうしたことから、我々はこの事件が自殺ではなく、他殺だと断定するに至りました」

 

 けれど、今回、偽装工作を暴いても犯人につながらなかった。

 

「犯人はとても用心深い性格をしています。あれだけの手間をかけて自殺工作を行うだけに留まらず、今度は入念なアリバイ工作まで行いました。

 犯罪者が逮捕から逃れる大きな方法は三つあります。一つは犯罪の露見を防ぐ、二つに捜査行為の発生を防ぐ、三つに疑いの対象から外れること。一つ目は行わなかったようですが、後者の二つに入念に取り組んでいる。

 昨晩のアリバイを調べてみると、この町の大部分の人間に強力なアリバイが存在しました。数少ないアリバイが存在しない住人で、被害者に殺意を抱くほどの動機があるのは飯森校長のみ。……ですが、校長、貴方には犯行は行えませんね?」

 

 住民の大半は公民館に集まり、互いにアリバイを保証しあっている。数少ない他の人間もアリバイが保証されているか、あるいは被害者と面識がない。

 

 犯行に足る理由があり、アリバイが存在しないのは、この町においては飯森校長だけだが、

 

「そりゃ、私は腕がこんなだからな」

 

 飯森氏は苦笑いを浮かべながら、大きく傷がついた左手をふるう。進ノ介が確認したように、力がうまく入らない左手ではロープを結ぶことも不可能だろう。

 

「そう、校長にはロープに吊るすことは不可能です。人を吊るせるほどに強くロープを結び、一仁氏をそこへ吊るす。それができない校長に犯行は不可能!」

 

 ただ、と右京は一拍の前置きをして。

 

「……飯森氏に不可能なのは、自殺のように現場を偽装することだけです」

 

「は?」

 

 例えば!と右京は飯森氏の前に移動して指を立てる。

 

「あらかじめ、一仁氏を睡眠薬で眠らせ、首に輪に作ったロープを結んでおくとどうでしょう?

 そして、それを梁に緩くかけ、窓の外に放り投げていたら? そこまでお膳立てが成されていればどうでしょう?」

 

 遺体が吊るされていた梁と窓とは垂直に交わっていた。

 

 そこまで行くと、進ノ介にも右京が言わんとすることがよく分かる。つまりは、犯行の分業化だ。

 

「機械でなくとも、車を使えばロープを引っ張るだけで彼の体を持ち上げ、窒息させることができます。ですが、それだとあの現場は成り立ちませんね? 一仁氏は、あくまで、車に引っ張られて吊るされたのではなく、首吊り自殺とならないといけないのですから……」

 

 つまり、

 

「その後、改めて一仁氏の遺体を自殺したように見せかける必要があります。それは、車からロープを外し、梁のロープを切断し、改めて、遺体をぶら下げたロープを結び直すことができる、そんな大きな力と時間的余裕を持った人間にしかできません。

 ええ、おそらく、この過程で彼の首の損壊や足の傷がついたのでしょう。

 つまり、犯人と共犯者の行動は次のようになります」

 

 1.被害者の意識を失わせ、ロープを首にかけ、車に結び付けておく。

 

 2.車を動かし、ロープをひき、被害者を殺害する。

 

 3.ロープを外し、自殺工作を行う。

 

 1、3を共犯者が担当し、2を実行犯が担当する。2の過程を腕力が足りない人間が行い、殺害時間に共犯者がアリバイを作れば、実行犯、共犯者共に疑われることはない。

 

 身振り手振りを加え、一つ一つの言葉を大きく踏みしめるように言う右京に影響を受けて、進ノ介も思わず口を出してしまう。既に彼の頭の中でも、もう構図はできていた。

 

「その犯行ができる共犯者は限られていますよね」 

 

「ええ。そこの泊君が言う通り、共犯者は被害者に疑われることなく睡眠薬を与えることができ、家の構造をよく知り、体格に恵まれ、殺害時刻以降なら余裕をもって動けた人間。そして、飯森校長、貴方と面識があり、協力関係を結べる人間」

 

 つまりは、

 

「貴方が適格ですね、岡田町長」

 

 右京は町長を指さした。

 

 指名を受けた岡田町長は、わずかに体を身じろぎさせ。けれど、息を落ち着かせると、笑みを浮かべて言う。

 

「想像力豊かですね。まるで小説みたいだ、……そんな面倒なこと現実にやる人間がいるとは思えませんが。校長先生と私を犯人扱いするには面倒な理屈をこねくり回さないといけないようですね。

 ですが刑事さん、それはこの町の人間が犯人と仮定したときの話です。私には息子を殺す理由もないですし、飯森校長もそうだ。自分でいうのもあれだが、地位もあり、尊敬を受けている。息子の友人が脅迫に耐えかねて、のほうが現実味がありそうじゃないですか?」

 

 確かに市長の言い分も通っている。右京はその言葉にうなずく。

 

「もっともです。自分で話していても、回りくどく、面倒で、やたら時間がかかる上に、少しのミスでご破算になる犯行計画です。

 もとより、犯罪を共同で行うのはハードルが高い。どちらかが裏切ればすべて終わりですからね。犯人と共犯者は強い目的意識を共有し、信頼関係を結ぶ必要がある」

 

 右京は町長と校長を指で指す。

 

「仮に犯人がお二人の場合、長く共に町の発展に寄与していたという信頼がありますね。後者はクリア。では、前者、ここでは強い殺意になるでしょう。

……伊丹さん」

 

 と捜査一課の刑事を顎で使うように指示する。伊丹はそれにしぶしぶといった態度を崩さなかったが、承知したように発言する。

 

「……岡田町長、あんたの口座から息子の口座へ毎月振り込みがされてますね。幾ら息子が可愛いといっても、常識外の金額を」

 

「親バカの誹りを受けることは受け入れられる。だが、それで人を殺す理由になるかね」

 

「ただの馬鹿親ならいいが。あんたも他の連中と同様に脅迫を受けていたのなら殺害の理由にはなるでしょう。そして、飯森校長」

 

 今度はタブレットから一仁氏の自宅から見つかった映像を示す。

 

「息子さんを亡くして以来、貴方は子ども達を自分の子供のように思っている。こんなことをやっている人間、町におくことも嫌なんじゃないですか?」

 

 伊丹が映像を突き付けると、飯森校長は表情を崩し、隠し切れない不快感と怒りを示す。

 

 それを見た岡田町長は、表情を変え、右京へと声を荒げた。

 

「そこまで言うなら証拠は! あんたの妄想なら家宅捜索もできんのではないか?」

 

「ええ、今は証拠はありません。ですが、すぐに出てくると思いますよ」

 

 落ち着いた右京の言葉。

 

「一体どういうことです?」

 

「先程言った通り、この犯行を行う際、犯人の二人は強烈な目的意識を持っていたのでしょう。つまり、一仁氏の排除! 飯森校長の動機となりうるのはこの動画と一連の犯罪行為ですが……。被害者が厳重に保持しているこれらを見つけるのは、まず身内でしょう。

つまり、この動画を飯森校長に伝えたのも、もしかしたら犯行を提案したのも岡田町長。

では、町長の動機とは何か? 町を守る責任や、子ども達を守るため。お立場から幾らでも動機を作りだすことはできるでしょうが、きっと、この本当の動機は明かしてはいないでしょうねえ。共犯者が飯森校長であった場合は、特に」

 

 そういうと、右京は伊丹からタブレットを受け取り、再び動画を流した。

 

「そんな不快な映像を見せて、なんだというのだね!」

 

 飯森氏はたまらず怒声を上げる。

 

「貴方にとっては子ども達を盗撮したこの映像は許せないものでしょう。そんな人間が町の庇護を受けて、子ども達の傍にいる。警察も役に立たず、いつ子ども達に被害が及ぶか分からない。

 おそらく、これが貴方の動機だったのでしょうね」

 

「……」

 

 右京の言葉に飯森氏は言葉を噤むが、目だけは右京を睨み付けている。

 

「これは一仁氏の邸宅から出てきました。隠し扉の奥。他の写真と違って、動画。そして子ども達のあらぬ姿を除いて人は写っていませんし、僕たちは最初に考えました。貴方も考えたはずですよ、『これは、一仁氏の性的嗜好』だ、と」

 

 右京はある場面で止める。

 

「撮影は五年前、一仁氏が帰郷してすぐです。普段の行状から、こういうことをしてもおかしくない。ですが、よく見てください。ここ、この窓を!」

 

 右京は狭い視界の中にある窓を指す。それは光り輝いていて。

 

「昼。ええ、児童がいる時間帯を考えると当然ですね、昼間です」

 

「それが?」

 

「分かりませんか? 被害のあった小学校では口をそろえて言っております。侵入の報告はなかった、と。今はどこの学校も監視カメラと警備は厳重なのにも関わらず。

 そして、録画時間がどれも一定で終わっていることから、カメラはおそらく充電式。およそ二時間、その間に求める映像を撮るためには、学校の授業などスケジュールを把握し、その場所に行き、怪しまれずにカメラを設置。そして最後には見つからないように取り出す必要があります」

 

 僕の言いたいことがわかりますか? と右京は告げる。

 

 まさか、と全員がその考えに思い至る。

 

「ええ、体格も大きく、見るからに目立ち、正当な立ち入る理由がない一仁氏には、そんなことは不可能ですよ。それこそ、透明人間にでもならない限り。そして、この動画が収められていたのは、彼が恐喝の材料を保管していた隠し扉」

 

 右京は岡田町長を見る。もうわかりますね、と告げた。

 

「調べればわかることですよ? 該当の小学校に誰が訪問していたか」

 

 言うや否や、飯森校長は立ち上がり、町長へと拳を振りかぶる。

 

「岡田、貴様ァ!!」

 

「落ち着いてください!」

 

 芹沢と伊丹がそれを抑える。

 

「そんなもの、証拠にならんぞ!!」

 

 一方の岡田町長は右京へと声を荒げる。だが、その顔は焦りに満ちており、説得力を持たないことは明らかであった。

 

「ええ、この動画だけでは。ですが、この邸宅を調べればいくらでも証拠は出てくるでしょう。そして、飯森校長、今の状況なら、この町長を庇う必要はありませんね」

 

 右京が冷たく告げると、校長は伊丹達に抑えられながらも声を荒げる。

 

「……こいつは、子ども達の動画を持ってきて言ったんだ! 息子の仕業だと! 『子ども達を守るために、私たちにしかできない』とな!! よくもそんなことを、この、下劣な!!」

 

 顔を真っ赤にしながら飯森氏はすべてを告白する。

 

「そういう貴方の子ども達への責任感と、愛情、そして激しい性格を利用したのでしょうねえ。

 さて、岡田町長。何か、言いたいことはおありですか? 飯森校長との協力関係が崩れた今、いくらでも家宅捜索を行うことができますよ」

 

 もはや、言い訳も効果がないことを悟ったのだろう。岡田氏はうなだれると、小さく頭を振る。

 

「……アイツ、実の親を恐喝してきたんだ。これをばらされたくなかったら、全て俺に従え、一生の面倒を見ろって。『英雄』だなんて、皆が私を聖人君子のように見てくる。それが息苦しくなって……。出来心だったのに。

 ……もう金はなくなって、恐喝にも限界だったんだ」

 

「だから、殺した。……これは可能性の話ですが、高校生の一仁氏が突然、家を出て、そして素行を乱れさせたのは、あなたの、そうした面を見たからかもしれませんねえ」 

 

「……そんなもの、私にはわからんよ」

 

「ええ、過去のことはいくら考えても罪の在処はわからないでしょうね。ですが、今回の犯行は間違いなくあなたの罪です。あなたが脅迫の事実を、自身の罪と共に素直に告白していたら、地位と引き換えに脅迫からは解放されたはずです。

 飯森氏もこんな手を使わずに子ども達を守ることができた。

 ですが、貴方はそれをせず、あろうことか自己保身のために飯森氏をだまし、巻き込み、手を汚させた! ……あなたの罪は重いですよ」

 

 ははっ、と小さな笑い声と共に岡田氏は崩れ落ちる。大きい体をしていた英雄が、今では小さな老人にしか見えなくなった。

 

 

 

「さて、じゃあ後は取調室で語ってもらいましょうか」

 

 伊丹と芹沢は容疑者に手錠をかけると、その体を立たせて連行させていく。そんな様子に、進ノ介の隣に立った霧子は呟く。

 

「あの、泊さん、良いんですか?」

 

「霧子?」

 

「杉下警部が突き止めたんです。特命係の手柄にできたら、きっと泊さんの評価にも」

 

 言いたいことはわかる。手柄を立てて、特命係から脱出する。そんな欲も心の内にはある。だが、

 

「いや、今回は俺はあまり役に立たなかったし、事件を解いた杉下警部がこれで良いっていうのなら……。俺は何も言うことはないさ」

 

 そう言うと霧子は少し安心したように息を吐く。

 

「分かりました。けど、もし私が力になれることがあったら、いつでも言ってくださいね。……離れていても、私は泊さんのバディなんですから」

 

 霧子は伊丹と芹沢の後を追い、足早に去っていく。

 

 少し進ノ介は赤くなった頬をかき、右京と共にゆっくりと部屋を出た。

 

 

 

「杉下警部はいつから、あの町長が怪しいって気がついたんですか?」

 

 帰るにしても、沢村巡査の待つ派出所まで戻らないといけない。その道すがら、ふとした疑問を進ノ介は右京へと投げかけた。先ほどの右京の推理は町長が関与しているという確信を基に理屈をくみ上げたものだ。

 

「彼と会った時、酒気を感じませんでした。前夜、夜遅くまで宴会をしていたのに。ご近所の方は『寿司や酒』がふるまわれたと仰っていたので、誕生会では酒は出ている。

 けれど、彼は『昨晩は』飲まなかったといいました。酒が飲めないのなら、『酒は飲まない』等と言うでしょう。居間には嗜好品の酒が多くありましたし、ふと棚の中を覗いたら二日酔いの薬もすぐに見つかりました」

 

「ああ、なるほど」

 

 勝手に棚を物色したというとんでもない発言は無視しておく。とりあえず、今は。

 

「もちろん、体質的に分解が速い可能性もありましたが。何か、宴の後にやらなければいけない仕事があったのではないか。そう、少し気になったものです」

 

 あの質問はそういう意味か。とようやく進ノ介は納得する。と、同時に杉下右京という人間の能力というものがようやくわかってきた。鋭い観察力に、好奇心という名の探求力。そして、荒唐無稽とも思える可能性も追求する推理力。

 

 お見それいたしました。

 

 等と、内心で謝罪する。特命係に送られたという事実に捕らわれて、周りが見えていなかったのは進ノ介だったようだ。もっと、自分も鍛え直さないといけないな。と息を大きくはいた。

 

 その瞬間だった。

 

 冷静さが戻った頭の中で先ほどまで存在したもやもやが形を作っていた。それは事件の真相ではなく、どこか現実離れした考え方だったが。

 

 殺人の分業、アリバイ工作、自殺の偽装、車を使ってハンデを克服した殺人。全てが繋がっていく。

 

 進ノ介は立ち止まる。 

 

「きれいすぎる……」

 

 そっと、声がもれた。

 

「……泊君、君、今、なんて言いました!?」

 

 右京もその言葉を聞くやいなや、目をむき、尋ねてくる。それは二人がともに真実の一端を掴んだから。

 

「繋がった! そうだ、綺麗すぎるんだ! 分業殺人、アリバイ、犯人、動機、トリック! まるで……まるで推理小説みたいに!!」

 

 トリックを利用しようなんて考えは空想の産物だ。多くの犯罪ではそこまで複雑に犯行を行おうとはしない。事実、今回の犯行は不必要といえるほどに、手間をかけすぎている。そして、その手間ゆえに犯人逮捕に至った。

 

 一瞬考える、そのような人間がいるとして、それは主犯の岡田町長なのではないか? と、だが、犯行において彼が担当した場面では粗が目立った。遺体を損壊させ、自分の犯行の証拠となる動画の存在は見落とした。緻密な犯行を計画するタイプではない。

 

 この考えは荒唐無稽だ。だが、その可能性に思い至ったならば、考えずにはいられない。

 

「犯人とは別に、筋書きを描いた人間がいる?」

 

 そうつぶやいたとき、進ノ介の脳裏には、寂しく殺人の可能性を訴えた少年の姿が浮かんでいた。




ようやく犯人逮捕まで進めた解決編1

オリジナルの事件というものは書いていて楽しいのですが、やはり投稿するのには少し怖さもありますね。皆様にお楽しみいただけるとよいのですが。


次回の解決編2。そして、第一話最終回となります。
とうとうあの人物が登場。早いうちに投稿させていただきます。
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