相棒 episode Drive   作:カサノリ

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いよいよ第一話完結パート

事件を解決した特命係、しかし、進ノ介は一つの違和感に気づく……。


第一話「誰がこのシナリオを描いたのか VI」

 遠くから足早に向ってくる音が聞こえる。暗い病院の廊下、不必要に冷たい底に響く音は寒々しい。

 

 進ノ介と右京は質素な長椅子に座り、『手術中』と書かれた扉の前で待っていた。

 

 そして、足音の主が彼らの前に現れる。

 

「はぁ、はぁ、杉下さん、泊さん」

 

「沢村巡査、お待ちしていました」

 

 右京が静かに声をかける。

 

 沢村巡査は息も絶え絶えという様子で肩を上下させる。その顔は真っ青に染まり、大量の汗が制服をドロドロに濡らしていた。そして、呼吸も整えようともせずに叫ぶ。

 

「っ、ほ、本当なんですか!? 大樹君が、自殺を図ったって!?」

 

 その言葉に進ノ介は俯きがちに頷く。

 

「俺達が大樹君の自宅に向かった時、大量の睡眠薬を飲んでいたんです。おばあさんのものだったみたいですね。すぐに応急処置をして、こちらへ搬送しました」

 

「まだ予断を許しませんが、命は取り止めています」

 

 発見が早かったのが幸いした。荒唐無稽とも言える、そんな進ノ介の勘だったが、右京もすぐに同意し、迅速に動くことができたのだ。ただ、治療が終わるまでは安心できない。まだ小さい子供なのだ、何が災いするかもわからない。

 

 扉を見つめ、心の底から心配している老巡査に、

 

「沢村さん、少し、向こうでお話しませんか?」

 

 進ノ介はどこかためらいがちに声をかけるのだった。

 

 

 

相棒 episode Drive

 

 第一話「誰がこのシナリオを描いたのか VI」

 

 

 

 進ノ介は沢村巡査を連れると、薄暗い廊下の角にたどり着いた。ここなら、他の人に聞かれることはないだろう。右京はすべてを進ノ介に任せると言った。別れるときに、少し試すような目線をよこして。

 

 懐から小さいメモ帳を取り出し、それを沢村巡査へと渡す。

 

「泊さん、なんでこんなところに。それに、それは?」

 

「大樹君の、遺書です」

 

「そんな!?」

 

 慌ててそれに目を通す沢村巡査。そこに書かれていた内容は以下のとおりだった。

 

『町長の息子が死んだのは僕のせいです。死んで罪を償います』

 

 少し震えた、幼い字だった。

 

 まだ小学生の男の子が、こんなものを書いて自殺を図るほどに追い詰められた。その事実が二人に重くのしかかる。そして、その文面も奇妙なものだった。

 

「こんな、でも、彼を殺したのは飯森校長と、町長でしょう!? 大樹君が関わる場面はなかったはずだ!!」

 

 犯行を行ったのは町の権力者二人。当人たちが自白を行っているし、その事実は騒然を伴って町中へと拡散している。あのような幼い子供が関わっているのは、ありえない。そのはずだった。

 

 進ノ介は自身が当たってほしくないと思っていた、けれど、事実であったそれを語る。

 

「沢村さん、シナリオを書いたのは大樹君だったんです。文字通り、シナリオを」

 

 進ノ介はあえて淡々と説明を始めた。

 

「伊丹刑事たちが取り調べで明らかとしたそうです。飯森校長に殺人計画を持ちかけたのは、確かに岡田町長です。ですが、殺人計画自体は、彼の家に小説が投函されてきたと」

 

 差出人不明の紙の束。そこに書かれていたのは、岡田町長と飯森校長が一仁氏を殺すというストーリー。自殺の偽装やアリバイなどのトリックが詳細に書かれていたという。

 

 もちろん、それをもって殺人を強要するようなものではなかったし、動機などの個人情報に関する詳細は事実とかけ離れたものだった。

 

「けど、脅迫によって追い詰められていた岡田町長にとっては、魅力的に思えたそうです。実際によく書けていて、これがうまくいけば、疑われずに息子を殺すことができるって」

 

「そんな小説を読んだくらいで!?」

 

 町長自身もその愚かな振る舞いを自覚していた。そして、もしかしたら誰が書いたのかもわかっていたのかもしれない。あの場で黙っていたのはせめてもの良心か。

 

 けれど、一度頭に浮かんだ想像を振りほどくほど、強い人間ではなかったのだ。

 

「きっと、これを送りつけた人間もそう思ったでしょうね。まさか、本当に人を殺すだなんて。……その小説を書いたのが大樹君だったんです」

 

 大樹君を搬送した後、部屋に残されていたパソコンを確認したところ、たくさんの推理小説の中に、執筆した文章が残されていた。

 

「大樹君はおばあさんを怪我させ、入院させた一仁氏を深く恨んでいた。それで、その怨みを小説に書くことでぶつけたんです。……最初に違和感に気がついたのは杉下警部でした」

 

 右京は大樹少年の部屋に入った際、小説がファイリングされた本棚から、一冊分、ファイルが抜け落ちていることに気がついた。その後、部屋の中を見回って、ファイルの数が合わないことがわかったという。

 

 ただ、その時点では事件との関与などは結びつくべくもなかったのだが。

 

「大樹君、事件現場まで来てました……。きっと、事件が自分の書いた小説のとおりに起きたから勘付いたのでしょうね。自分の小説を基に、誰かが一仁氏を殺したんじゃないかって」

 

 それは、小学生が抱えるには重すぎる責任だった。あの現場に来たのは、罪悪感に押しつぶされそうになったから。進ノ介にも打ち明けることができず、追い詰められてしまったのだろう。

 

「……大樹君」

 

 沢村巡査は、大きく息を吐くと、体を大きく丸め、祈るような姿勢を取る。

 

「……沢村さん、本当のこと、教えてもらえますよね」

 

 進ノ介は静かに尋ねた。

 

「……やっぱり、気づかれたんですね」

 

 その、寂しそうな声に、頷く。

 

「大樹君はシナリオを書いただけでした。それで、どうこうしたかったわけじゃない。あくまで、自分の怒りを整理するために。じゃないと、『トリックが暴かれて逮捕される』物語を書くはずがない。

 そして、ファイルを送りつけるつもりなら、本棚にその分を空けておくのは不自然です。彼は、きっと、どこかに失くした程度に思っていたんでしょう。

 小説を持ちだして、町長に送りつけたのは。……引きこもっていた大樹君を度々訪れて、部屋に招くほど信頼されていたあなたなら可能ですよね、沢村巡査」

 

 さらに言えば、大樹少年が書いたのは、殺害に至るトリックまでだ。彼の立場からは岡田町長や飯森校長が殺意に至るほどの激しい動機を持っていると知ることはできない。それを知っていないと、送りつけたところで、町長たちはただの悪戯と捉えるだけで終わり、意味がない。

 

 だが、警察官として普段は明らかとされない町人一人一人の隠し事にも精通している沢村巡査なら、わかっていたはずだ。町長に息子の殺人計画を送り付けることが、効果的であることを。

 

「俺、沢村巡査のこと尊敬していたんです。昨日会ったばっかりだったけど、警察官の理想みたいな人だって。

……町を守って、町の皆から慕われてたじゃないですか! 沢村巡査がなんでこんなことを……!」

 

 進ノ介は推理を否定もせず、静かに聞いている老巡査へ、憤りと共に荒げた声をぶつける。その言葉をじっと聞いた巡査は、

 

「……魔が差した。ええ、町長の家にそれを放り込んだ時は、私もどうかしとったんでしょう」

 

 そう、吐き出すように言うと、沢村巡査は力が抜けたように廊下へと座り込む。

 

「……大樹君のご両親、二年前に亡くなりました。原因は知っていますか?」

 

「たしか、交通事故だったと……」

 

「……大樹君の目の前ではねられたんです。薬物で前後不覚に陥った車が突っ込んできて。

彼の両親も小さい頃から知っていました。だから、なにか力になりたいと思って、大樹君の引っ越しの時に調べてみたんですよ。犯人の素性や、事件の経緯を。当人は事故で死んでいますがね。……ただ、調べて、驚きましたよ」

 

 警察官だからこそ、事件発生時の状況や、犯人の素性を詳しく知ることができた。元々は大樹少年のカウンセリングや、相談に乗るために知っておきたいという、そんな善意がきっかけ。だが、

 

「あの、一仁のところに出入りしていた男でした……! 見覚えが、私にはあった! 事故の前日も、上機嫌で家から出てきていた! わかりますか? あのバカ息子がばら撒いていた薬で、あの子の両親は殺されたんです!!」

 

「一仁氏の薬物使用について、知っていたんですね」

 

「……あの普段の姿を見ていれば、何か麻薬か、クスリをやっているってわかりますよ。何度か町長にも伝えようとしましたけどね、あの通り、一仁に首根っこを押さえつけられていましたし。

それじゃあ、警察の権限で調べよう、と上へ訴えても、彼の人脈が邪魔してきた。一介の交番巡査の証言なんて、権力者の若者たちにとっては怖くもなんともなかったんでしょう。……私には、何もできなかった。みすみす見殺しにしたようなもんです」

 

 沢村氏の独白は続く。

 

「泊さん、町の小さな警察官には限界があります。岡田町長のあの悪癖だって、知ってました。けれども、公表なんてできない。町の皆の英雄が、あのような下劣な趣味をもっているなんて! 明らかにできるわけがない。

そんな中で、私にも、何か、彼らに対する怒りのような感情が溜まっていったんです」

 

 その言葉に、

 

『英雄、ですか』 

 

『ええ、まあ、時間がたつにつれて変わることもありますがね……』

 

 そうやって寂しくつぶやいた巡査の姿を思い出す。事件現場でもそうだ、

 

『……これ、下ろしてしまってもよろしいのでしょうか?』

 

 無意識かもしれない。だが、沢村巡査は一仁氏を守るべき市民だと認めてはいなかった。事件発生の報を聞いたときの巡査の狼狽も、今思えば、激しすぎた。そんなところから、なにか気づけていればよかったのに。

 

「そんなとき、春名さんが事故に遭って、大樹君が引きこもってしまい……。そして、何をしているのかって様子を見に行ったら、本を書いていました。一仁を町長と校長が殺す、あの事件のとおりの内容が。

見つけたのは偶然で、最初はこんなもの書いちゃいかんって説教するつもりだった。けど、よく書けていて、おもってしまったんです」

 

「これが現実にならないかって」

 

「あの一仁も、町長も、天罰が下らないかって」

 

 その後はお察しのとおりです、と沢村巡査は言葉を閉じた。

 

「ああ……」

 

 進ノ介は悔しい思いを飲み込む。沢村巡査だって、本当に事件が起こるとは思っていなかったはずだ。もしかしたら、少年の怒りに満ちた小説を読んで、町長たちが何かを起こすかもしれないと、変わるかもしれないと、期待をしただけ。まさか、本当に小説通りに人を殺すなどとは思わなかっただろう。

 

 ロイミュードたちと戦っていたときとは違う。ただ、ちょっとした悪意が招いた悲劇。倒すべき敵もいない。

 

 進ノ介の目に、悔しさから涙がにじんでいく

 

「……沢村さん、きっと法律じゃあ、あなたを裁くことはできません。あなたはただ、小説を送りつけただけです。殺人教唆にも当たらない。

けど、貴方の行為はすぐに広まります! 町の人たちに、警察官のあなたの、その行動が。そして、信頼していたあなたに裏切られた大樹君がどう思うか……っ!!」

 

 進ノ介は声を荒げる。

 

「市民を愛し、慈しみ、そしてどんな事情があろうとも、市民を守り抜く。それが俺達、警察官の使命です! 魔がさしたじゃあ、済まされない! それを忘れ、目を背けたあなたの罪を、俺は許すことはできません!!」

 

 身を振り絞るように告げた進ノ介の言葉。青臭いともいえるその涙ながらの言葉に、沢村巡査は大きく目を見開き、そして、小さく頷いた。

 

「ああ……。ああ、そうでしたねえ。それが私の仕事だったはずなのに……。

 ……泊巡査。仮面ライダーとかは私にはよくわかりません。けど、アンタ、良い警察官になるよ。こんな老いぼれと違ってね……」

 

 そう言って沢村巡査は一筋の涙をこぼした。

 

 そんな二人の警察官を杉下右京は遠くから見つめていた。

 

 

 

 幸いなことに、手術は無事終了した。大樹君が目を覚ましたのは翌日のこと。報告を聞いて、すぐに二人は病室へと向かった。

 

「大樹君、無事でよかった」

 

 そう声をかける進ノ介と右京を見るなり、大樹少年は大粒の涙をこぼし始めた。それは、罪悪感か、安堵かはわからない。そうして、ひとしきり大きく泣き喚いて。少年は震えながら言った。

 

「僕を捕まえに来たの?」

 

 二人を恐れるような言葉に、進ノ介はしっかりと首を横に振る。

 

「沢村さんから事情は聞いてる。君がどんな物語を書いたのかも知ってる。けど、今回の事件が起きたのは決して君のせいじゃない」

 

「でも、僕があんな小説書かなかったら……。おばあちゃんが怪我して、悔しかったんだ。あの人、ずっと皆に嫌がらせして。それで、」

 

「……けれど、君は復讐に手を染めようとはしなかった。それが全てです」

 

 右京が、ゆっくりと諭すように言う。

 

「君は自分のやりきれない思いを小説としただけ。そして、それを完成させた後に、きっと、恥じたと思います。だから、小説を誰にも見せずに保管していた。激しい怒りと理不尽にさらされながら、それでも、君は自分のその思いと向き合い、折り合いをつけようとした。

それは、なかなかできることじゃありません」

 

 右京は涙を流しながら静かに話を聞く少年の頭を、優しくなでた。

 

「かつて、君と同じくらいの年で、殺人を犯した子がいました。警察官の立場を神だと嘯き、わずかな金のために犯罪に手を染めた人がいました。年も、立場も関係なく、人は時に選択を迫られることがあります。悪意に身をゆだねるか、必死に耐え、悪意を振りほどくのか。

君はその誘惑に抗おうとしていた。この事件に関わった全ての大人が、簡単にゆだねてしまったそれに、自分なりに向き合おうとしていた。

……きっと、それでも自分を許せないと思うでしょう。これからも、罪悪感は付きまとうでしょう。けれど、君が行った選択は、間違っていません。そして、いつか、そのことを誇りに思ってほしいと、僕は願っています」

 

 祈るような言葉だった。

 

 大樹少年は涙をぬぐうと、まだ、恐る恐ると進ノ介へと目を向ける。

 

「……本当は迷ってたんだ。あの話、犯人が捕まるか、逃げるかって。考えて、逃げるって終わりにしようとしたんだ。

けどね、泊さんが、仮面ライダーが頑張ってみんなを守ってるところがテレビに出てて。そうしたら、きっと犯人は逃げられないって、そう思ったんだ」

 

「……大樹君」

 

「ありがとう、仮面ライダー。僕を守ってくれて」

 

 小さな少年はそうして、涙にぬれながらもしっかりと笑ったのだった。

 

 

 

 その後、沢村巡査は職を辞し、警察へと出頭した。彼の行為が罪に問われる可能性は低いが、それでも、罪と向き合うことを決めたのだろう。その後、彼がどうするつもりなのかはわからない。だが、生きて、罪を償うと約束してくれた。

 

 数少ない幸いなことは、大樹少年に後遺症は残らないことと、彼の祖母である春名さんの回復が著しいこと。春名さんは、一時は寝たきりになることまで危ぶまれていたというが、その心配はなくなったようだ。傍で支えてくれる家族がいるのなら、彼も立ち直ることができるだろう。

 

 そして、しばらく後に一仁氏の自宅から見つかった証拠品から、多くの犯罪行為を犯していた若者たちが検挙されることとなった。

 

「この町、大丈夫でしょうか」

 

 出発の時刻が迫っている。荷物を車に乗せると、最後に進ノ介は町を見回す。短い間に町長、校長、警察官、信頼できる者たちを失った小さな町。それはどうしようもなく心細いものに見えた

 

 右京は、その隣に立つと、小さく言葉を紡いでいく。

 

「きっと、多くの人が苦労するでしょう。長く町を支えた柱が無くなり、立て直しには時間がかかるかもしれない」

 

 ですが、と右京は指を差す。そちらには小さい子ども達が元気よく駆け回っている姿があった。

 

「この町には、まだ未来が残っています。きっと、彼らも町で起こった悲劇を知り、悩むことがあるでしょう。ですが、きっと、その真実を教訓として、町を支えてくれると、僕は信じたい」

 

「そうですね、そう信じたいですね」

 

 最後に、その笑顔を頭に焼き付けて、進ノ介達は車へと乗りこみ、シートベルトをがっちりと締める。

 

「泊君、今日は晴れていますが、くれぐれも運転は安全に」

 

「ははっ、任せておいてください。『こうみえても』運転は得意なんですから」

 

「それ、この間の意趣返しですか?」

 

「そんなことはありませんよ。……そういえば杉下警部、いえ杉下さんは、なんで特命係に?」

 

 右京はその問いに対して、かすかに微笑みを返し、

 

「さあ、ずいぶんと昔のことですから。忘れてしまいました」

 

 それで問いは終わりと、右京は深くシートに身をゆだねる。

 

 その顔はわずかに微笑み、気になるのなら、自分で解き明かしてみろと言っているようで。

 

(上等じゃないか)

 

 進之介は振り切った笑顔を浮かべると、強くネクタイを締めなおし、力強くキーを回した。エンジンはようやく勢いを増しながら動き始めたのだ。

 

 

 

 そのころ、東京は警察庁。その上層にある長官官房と書かれた部屋で二人の男が対面していた。

 

 一人は本願寺純、かつてベルトさんこと、クリム・スタインベルトと共に特状課を結成し、ロイミュードへ対する泊進ノ介達を率いた男である。

 

 普段はおちゃらけた態度を装い、身内に潜んだ敵の目をかいくぐりながら、ロイミュード事件解決へ向けて辣腕を発揮した男は常とは違う剣呑な雰囲気を纏わせて、対する男へと視線を向ける。

 

 だが、その視線を向けられた男は、感情を悟らせないような微笑みを浮かべたまま微動だにしない。

 

 もはや老人といっても差し障りのない男は、しかし、眼光に剣呑な光を湛える本願寺に笑みを返した。ゆっくりと口を開くと、少しぼんやりとした、けれどよくとおる声で言葉を告げる。

 

「特命係、事件を解決したみたいだってね。例の泊君も大活躍だったとか」

 

 本当に楽しい、とそんな感情が伝わってくる言葉だった。

 

 しかし、その内容に本願寺は眉を顰める。

 

「ええ、泊君は優秀ですから、きっとどこにいても警察官の本分を果たすでしょう。たとえ捜査一課であっても」

 

 本願寺は批判を隠さず男にぶつける。もはやこの男に腹芸などは通用しない。自身と比べてキャリアも、地位も、そして政財界に巣食う魑魅魍魎と対峙してきた経験も、何もかもが格上だ。

 

 この警察を支配する立場にあるこの男にとって、多少の腹芸や応酬は通じないことはわかりきったことだった。

 

 あらゆる事件を利用し、踏み台にし、自身の立場を堅固なものとしている男。

 

 あの警視庁で発生した人質籠城事件すら利用して、改革に反対する上層部を一掃してみせた。

 

 本願寺はためらう心に、喝を入れる。この行為によって、彼らと同様に長年積み上げた本願寺のキャリアは吹き飛ぶかもしれない。

 

 だが、

 

 己の正義をぶつけなければこの男には響かない。

 

「確かに、泊君が得た仮面ライダーという名前は、警察という巨大機構においては不必要な存在かもしれない。

 今後、もしかしたらあらゆる議論の矢面に立たされるかもしれない。だが、それでも一警察官として扱えばよかったはずだ、詩島君と同様に。

 だが、あなたはそうしなかった。彼をよりにもよって特命係へと送ったのはなぜです」

 

 一息に言うと、男は少しの笑みをこぼす。ただ、目元だけは変化しない。感情表現が豊かのようで、決して変わらない目は、対した人間を威圧し、恐れさえ抱かせる。

 

 その目を大きくゆがませた人間は、過去に一人しかいない。

 

「……そんな怖い顔しないでよ。特状課、ヒミツで作るのにも協力してあげたでしょ? あれ、結構骨が折れたんだから。

けど、僕には僕の考えがある。といってもそれだけでは納得しないだろうねえ、君は」

 

「だから、私は直接あなたに聞くためにここに来たのです」

 

 本願寺は真正面からその言葉を突き付けた。

 

「貴方は、彼を、仮面ライダーを何に利用するつもりですか、小野田官房長!」

 

「……それを君に言う必要はあるかな?」

 

 そう言い、男は、小野田公顕は本願寺へ変わらぬ笑みで返した。




とうとうたどり着いた第一話完結編。話の作りがまだまだ甘かったり、反省点は多々ありますが、皆さまの応援のおかげで無事に終わらせることができました。どうも、ありがとうございます!

第一話のテーマは「小さな悪意の連鎖」。相棒の中ではメジャーなテーマであり、倒すべき明確な敵が存在しない。仮面ライダーである進ノ介が相棒世界に馴染む際に、ふさわしいテーマだと考えています。

隠しモチーフはSeason7第19話「特命」。神戸登場回であり、閉じられたコミュニティ、疑心暗鬼の相棒同士、魔がさすことで起きる悲劇。そのような点を参考にしてみました。


そして、とうとう情報が解禁できますね。
本作は「相棒劇場版IIノベライズ」からの分岐です。つまり「小野田官房長が生存」し、警察組織を支配した世界になります。そのため、内村刑事部長は刑事部長から追われてしまいました。

仮面ライダーを特命送りにするのに、ふさわしい人物は官房長以外に思い浮かびませんでした。ノベライズは一種のパラレルですので、設定を入れても良いかな? と決断しております。

明日、そのあたりを含めた設定資料を投稿させていただきます。


それでは、少しお時間をいただいて、第二話へと進みます。少しは特命係のことがわかってきた進ノ介が出くわす、次の事件とは?

第二話「蜘蛛の糸」

どうか、お待ちいただけると幸いです。
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