再び相棒要素が強めのオリジナル話となりますが、進ノ介もいろいろと積極的になり始めた第二話、始まります。
穏やかな日の暖かさ。のんびりとした空気。そして口にはミルク味。
「あー、癒されるー」
泊進ノ介は数日前とは全く違ったのんびりとした表情で、椅子にもたれかかっていた。力を抜き、穏やかな休息に身を任せる。風も吹いてこない角部屋なのに、呑気な風が入ってきた気がした。
「よっ、暇か?」
そんな今日も今日とて暇を持て余す特命係の戸を叩いたのは、もちろん角田だった。彼はだらんと弛緩しきった進ノ介を認めると、苦笑いを浮かべながら、コーヒーを煎れ始めた。
「ため息吐くのやめたと思ったら、今度はダラダラになるとはね。あれだ、最近の若者は切り替えが早いな!」
「いやー、課長が仕事くれたおかげですよ。おかげで、だいぶ目が覚めましたー」
「あ、ああ、そうなの。あのさ、いっとくけど、特命係に仕事がないのには変わりないぞ?」
えらくリラックスへと振り切れた進ノ介に戸惑いながら、角田は忠告する。仕事、仕事とがつがつするのも精神衛生上悪いが、ここまで特命係へと馴染まれると先々が不安になった。
「仕事はないですけど、それはどうしようもないですし。当面は杉下さんの秘密を明らかにしようって思ってます」
と進ノ介はのんびりと返事。前回の事件以降、あの奇妙な警部が何者なのかを明らかとするのは、進ノ介の目標となっていた。それを聞くと、また難しい課題を、などと角田は苦い顔。
「杉下の謎、ねえ。俺もずいぶんと長い付き合いだけど、あいつの家もわからんなあ」
角田は、何か分かったら教えてくれ、などと言ってカップにコーヒーを注ぐ。コーヒーの香しさが室内に広がって、癒し空間がさらに充実していった。
そういえば、なぜコーヒーメーカーがあるのだろうか。進ノ介はふと考える。杉下右京は紅茶派で、めったにコーヒーは飲まない。そして、角田は、なぜコーヒーをここに飲みにくるのか。疑問を口にしてみると。
「ここで飲むコーヒーのほうがうまく感じるんだよ。もう癖みたいなもんだなあ。毎日やってるし」
「俺、コーヒー飲むの嫌いじゃないですけど、毎日同じの飲んでても飽きないんですか?」
「お、そんなこと言うか、仮面ライダー。へっへー、だが今日はね、ちょっと違うんだよ」
そう言って何やら自慢げな角田に進ノ介は何のことだと問いかけると、当ててみなと言いたげに意味深な顔を角田は見せた。
(銘柄も同じだ、というか、俺が買わされたもの。入れた量も昨日と同じ、コーヒーメーカーの設定も変えていない。ついでに髪は……、増えてる様子じゃないよな)
それじゃあ、ともっと範囲を広げて見るとようやく気づく。
「あ、パンダカップが」
「お、流石は泊進ノ介。よく見てるねー。おニューなんだよ、これ」
角田が愛用している取っ手がパンダになっているコーヒーカップだが、そのパンダがいつもと違っていた。少しの違いだが目を閉じており、眠っているようである。
どちらにせよコーヒーの味とは関係ないではないか。
「ひまかっプ改め、ねむカップですね」
「……そのひまかっプってのもそうだけど、ネーミングセンスないね、君」
角田の物言いに進ノ介は首をかしげる。特状課時代から、武器であったり何かにつけてみんなに半目を向けられてきたが、そんなに酷いだろうか。進ノ介はいまいち釈然としなかったが、自分のカップをとりだしてミルクを注いだ。
「名前といえばだ、君の名前は法則に当たらなかったなあ」
「法則?」
「前任者が神戸尊。で、その前は亀山薫」
「ああ、『か』で始まって『る』で終わるんだ」
「そういうこと。次はどんな名前かなーって思ってたわけだよ。甲斐とか、珍しい奴だと冠城とかね」
外れちまったなー、わはは、と陽気に笑う角田。そういえば、そもそも前任者こともあまり知らない。特に八年以上も在籍したという進ノ介の中では仙人として想像される亀山某と、その後も警察で働いているという神戸尊の二人とは会ってみたいところではあった。後学のために。
コーヒーをひとしきり堪能した角田は今度は部屋を見渡していう。
「そういえば、件の謎だらけ警部どのは、どこ行ったんだ?」
「あー、昼を食べたら、少し散歩してくるって」
ミルクを飲みながら進ノ介が言うと、角田はにやり、とひと笑い。進ノ介にカップを向けながら言う。
「ははぁ、まだまだ新入り特命係には分からなかったか」
「何のことです?」
「そう言って出ていった警部どのが何をしているか、だよ。事件だ、事件」
え? と進ノ介は呆然とし、一筋のミルクをこぼした。
相棒 episode Drive
第二話「蜘蛛の糸 I」
雑居ビルが生い茂る都心の一角。薄汚れた狭い路地に大勢の人間が集まっていた。身にまとうのはスーツか、もしくは青い制服姿。
倒れている人影を中心として、鑑識がせわしなく証拠をかき集め、刑事がその様子を見守っていた。言うまでもなく、事件現場である。
うつぶせに倒れた人影は頭部から黒い血を周辺へと広げており、もはやかすかにみえる頭部や手の色は青白く変わってしまっていた。
それを遠巻きに眺めながら集まった捜査一課の面々は情報を共有していく。
「被害者は黒木茂、二十七歳。職業は不詳ですが、ここあたりだと有名なチンピラですね。幼いころから補導と少年院への収監歴が多数。最近も傷害で一年刑務所にいましたが、つい半年ほど前に出所。両親も幼いころに亡くなっており、親しい親族もいないようです」
そう言う芹沢の言葉を聞きながら、伊丹は被害者の遺留品である運転免許や、ほとんど金が入っていない財布を手に取る。被害者の身にまとう派手派手しい皮のジャケットといい、金に染めた髪や、多数のピアスと、典型的な不良の格好という所だ。
「で? ガイシャは転落死ってことだが、目撃者はいないのか?」
そんな黒木茂の遺体が発見されたのは早朝のこと。ビルの清掃員が路地に倒れ、頭から血を流している状態で発見したという。
「それは、調べてきました」
と伊丹らと共に現場に来ていた霧子が手を上げてメモ帳を取り出す。と、伊丹は途端に顔をしかめてそっぽを向き始めた。相も変わらず子供のようなことをして、コミュニケーションも碌に取ろうとしない伊丹に、霧子も大きくため息を吐く。怒るのも疲れてきた。
そんな険悪な雰囲気を察して、芹沢はなだめるように、まあまあとジェスチャーをし、霧子の発言を促す。
「はあ……。近所のバーの店主さんが証言してくれました。昨晩の深夜三時ごろ、店仕舞いをしていたら上の方から男性が騒ぐ声と、続いて大きな物音を聞いたと。同様の証言が近隣の住人からも複数得られています」
それを補足するように芹沢が追加する。
「霧子ちゃんの言う通り、鑑識が屋上で真新しい足跡や、争ったような跡が発見されています。これは他殺の線が濃厚ですね」
それを聞くと、霧子の方へは顔を向けることなく、伊丹はふんっと鼻を鳴らす。
「喧嘩の末に、屋上から突き落とされた、か。この風体に前歴だ。ガイシャとトラブルを起こしていた奴は多いだろうな……。証拠も大量にあるなら、さっさと解決するだろ。
まずはガイシャが出入りしていたバーや、交友関係を洗っていくぞ。……ってまたかよ」
伊丹は声に苦みを走らせる。視線の先に、のんびりと歩いてくる杉下右京の姿を見つけたからだ。のほほんと特命係は何ともなしに現場へと入ろうとしている。
「なんで来やがるんだ、毎回毎回!?」
「いやー、そりゃ杉下警部ですから。しょうがないっすよ」
「しょうがないわけねえだろ! ったく、おい、お前」
と伊丹は顔を見ることなく、霧子を指さす。
「お前って! 私には詩島霧子っていうちゃんとした名前があるんです!」
「あー、あー、何でもいいから、適当にあの警部の相手をしておけ。ほら、巻き込まれる前にさっさと行くぞ、芹沢」
いうや否や、伊丹は芹沢を引き連れて去ってしまう。芹沢はごめんね、と手を合わせるしぐさをするも、逆らうことなく行ってしまった。
「まったく、なんなの……」
本当に今後もやっていけるのか、と先々に不安を感じながら、とりあえずは言われたとおりに右京へと歩いていく霧子だった。
一方の杉下右京は事件現場へと立ち入ると、鑑識や捜査員の怪訝な視線をものともせず、周辺を歩き始める。姿形だけは刑事のそれだが、特命係の実情を知っているとただの不審者としか見えない。
「あの、杉下警部」
霧子は少しためらって右京へと近づくと、声をかけた。
「これは詩島刑事、先日以来ですね」
それに対して気さくに返事を返した右京に挨拶をして。しかし、その隣には彼の姿がないことに気づく。
「あの、ここは殺人現場なんですけど、特命係は入っちゃいけないんじゃないんですか? それに今日は泊さんは一緒じゃ……?」
「まあまあ、細かいことはお気になさらず。泊君は……、ああ、そういえば。伝えるのを忘れていましたねえ……」
などと霧子の詰問に右京はぼんやりと答える。
大丈夫なのか、特命係。と二人の関係性に不安感を覚えた霧子だが、ちょうどその時、後ろの方から駆けてくる音が。件の泊進ノ介がスーツをヘロヘロにさせながら走ってくるところだった。
角田が「おそらく、ここだね」等と右京が興味を持ちそうな事件現場を教えてくれたのだ。
「杉下さん!! それに霧子も!!」
「おや、噂をすれば影、ということでしょうか。そんなに疲れた様子でどうしました?」
「どうしたもこうしたも、なんで現場へ行くのに言ってくれないんですか!?」
と進ノ介は声を上ずらせて言い募る。右京は特に表情変えることなく、
「ついうっかりと伝えるのを忘れて。それに、君と来ると、あのように騒がしくなるのは目に見えていましたから」
右京が指さす方を見ると、進ノ介が引き連れてきた人だかりが手に手にカメラをもって撮影を始めていた。「仮面ライダーだ」「事件だ、事件」等と騒ぎ始めていて、所轄の警官たちが追い払うのに苦労していた。
「君、現場に出るのは向いていないのかもしれませんね」
「……っ!!」
等と呆れたように言う右京へ、途端にむかっ腹が立っていく進ノ介。右京が別の方向を向いた隙に地団太を踏むくらいは許してほしい。
進ノ介も先日の一件以来、杉下右京という人間の能力の高さや、その意外な人間味といった一面は理解している。だが、常に出てくるのは、この空気や人間関係を読もうとしない不躾な発言だ。やはり、まだまだ好きになれそうにない。
「というか、お二人とも此処にいちゃいけないんですよ!? ちゃんとわかってますか!?」
霧子がそんな二人へ苦言を言う。忘れてはいけないが、特命係に捜査権はない。
「あー、大丈夫。大丈夫。きっと、」
「泊さんまで……。杉下警部が移ってますよ……」
一応は自覚があるのか、進ノ介はバツが悪そうに眼をそらしながら言う。ただ、現場から出ていく気はないようだ。特状課時代も捜査陣に無下にされては現場で粘っていた進ノ介ではあるとはいえ、早くも、かつてのバディへ右京シンキングの影響が見られていることに霧子は頭を抱えた。本当に、これで特命係を脱出できるのだろうか、と。
「それで、霧子はどうしたんだ? あの芹沢さんと、伊丹刑事とかいうのは?」
「……置いていかれました。杉下警部の相手をしておけって……。ほんと、なんなんですか、あの伊丹っていう人は!!」
「あいかわらずですね、伊丹さんは。それで、僕としては事件現場を見たいのですが。どうなさいますか? 詩島刑事」
霧子はしばらく眉を寄せて、
「……はあ、わかりました。言っても聞かないのでしたら、今回は私が付いて監視します。それで良いですね?」
あとでどうなっても知りませんよ。という霧子。
「あれだ、伊丹刑事への意趣返しだろ?」
「何のことですか。泊さんのことはよく知っていますし、杉下警部の能力もこの間の事件でわかりました。合、理、的な判断です!」
と強い口調で言うと、霧子は二人に事件現場を案内した。転落死した被害者と、争っていた声がするという目撃情報を伝え、そして事件現場となった屋上へと。
屋上には鑑識の米沢がおり、手すりから指紋を採集しているところだった。
「あ、米沢さん!」
「おお、これは特命係のお二人と、詩島刑事。泊さんは例のサイン色紙、どうもありがとうございました。友人たちに大層自慢できましたよ。
それに、詩島刑事も先ほどのやり取りは見ておりました。伊丹刑事の偏屈さは筋金入りですなあ」
「ところで、米沢さん。何か証拠は見つかりましたか?」
「これは失敬。それがですね、この通り、手すりが壊れる等の争った痕跡は多数あるのですが、指紋や血液等、犯人に直接つながるものは見つかりませんでした。
ただ、新しいゲソコンが多数に、服の繊維も採取されています。土埃の中に毛髪が含まれているかもしれません。どちらにせよ鑑定待ちですが、ずいぶんと犯人は慌てていたようですね。
それと、もしかしたら事件と関係はないのかもしれませんが……」
そう言って、米沢は一枚の写真を取り出す。
「これ、被害者の腕ですか?」
進ノ介が聞くと、
「ええ、杉下警部はこういった奇妙なものに興味を抱かれるので。ここ、杉下右京テストに出ますよ」
「そのテスト云々はわかりませんが、……なるほど」
その写真に写っていたのは如何にもというタトゥーが刻まれた太い二の腕だが……。そこに細いリボンが巻き付けられていた。
「しかもピンク色」
「強面の被害者が巻くには、少し可愛らしいとは思いませんか?」
米沢はどうだ、気になるだろうと言いたげな笑顔で右京へと告げる。
「たしかに、気になりますねえ」
右京はそれに、にやりと笑みを返した。
件のリボンについての照会は米沢が行ってくれるという。三人は屋上を降りると、右京が口を開いた。
「被害者の最近の交友関係は一課の皆さんが捜査されているでしょうし、僕たちは別の方向から調べていきましょう」
「……やっぱり、捜査は続けるんですね」
霧子のあきれたような苦言は聞かなかったことにして、三人は進ノ介のGT-Rに乗りこむ。
「別の方向というと?」
「さっきのリボンなど、被害者の人となりから。資料によると、幼いころから児童養護施設で育ったそうですから、そこへ行けば趣味や好みも分かるでしょう」
「けど、それって事件と関係ありますかね?」
進ノ介はかすかに不安を覚えて意見する。走り回った挙句、青年の意外な趣味がわかりました!では意味がないのではないか、と。だが、右京は淡々と。
「その可能性も大いにありますが、まあ、暇な僕たちなりに調べてみるとしましょう。もちろん、君は来なくても構いませんよ?」
「そういうこと言われると俄然やる気になるのが俺なんです。よし、それじゃあ、杉下さん、霧子、行きますよ」
通り魔的犯行や金銭目的以外の事件の場合、動機を探していくことが解決への近道でもある。被害者の人柄と近況を調べていくことは決して間違いではない。
それに加えて、果たして杉下右京はどんなアプローチをしていくのか。そんな興味も進ノ介にはあった。
進ノ介が車を向かわせた先は被害者が幼少期を過ごしたという「光の里児童園」。そこでは、彼の幼少期を知るという職員の里山さんが出迎えてくれた。子ども達があちらこちらで楽しそうに遊んでいる音を聞きながら、三人は事務室で話を伺うことができたのだ。
「しげちゃん、本当に亡くなったんですか?」
「ええ、残念ながら」
落ち着いた雰囲気の婦人は、そうですか、と一言、悲し気につぶやくと、被害者の話を聞かせてくれた。
「しげちゃんねえ、まだ小学生でご両親が亡くなってしまって。預けられた親戚の家でも、無下にされたり、暴力も。それで、仕方なくここに来たんです。高校に入学するまではこちらで育ちました。
こういうところに来る子は、境遇から他の子と馴染めない子も多いのですけど。あの子は、特に大変でね。いつも一人で過ごしていたんです」
「彼には幼いころから補導歴がありますが」
「ええ、万引きに喧嘩。派手な服も好きでしたし、目立ちたがり。けれど、きっと、寂しかったのだと思います。私たち職員や、他の子供たちには手を出すことはしませんでしたし。根はいい子なんですよ」
「ですが、その後も非行は止まなかったようですね」
「……はい。高校も中退して、その後は音信も途絶えてしまって」
黒木茂は高校中退後、工事現場や飲食店などの仕事を転々とし、軽犯罪を重ねていった。そう言った退廃的な現状は生い立ちにも影響されたのかもしれない。
実際に、死亡時の所持品にも金目のものはなく、一課の古いアパートを探しても古びた衣類を除いては何も置いていなかったという。将来に対する具体的な見通しはなかったようだ。
頼れる人も、あるいは生活を立て直す気もなかったのだろうか。そんな感傷を抱きながら、霧子は例のリボンの写真を取り出し、質問を投げかけてみた。
「殺害時、黒木さんは腕にリボンを結んでいたんです。小さい頃から、そのような習慣などはありましたか?」
里山さんはその写真に対しては怪訝そうな顔を向ける。
「……リボン、ねえ。あの子がつけたり、巻いている姿は見たことがありませんよ。それに、私が知る限りで好きな色は黒と黄色。ピンクは女々しいと言って嫌っていたわ」
なるほど、昔の被害者からすれば、このような装飾品は似合わないという。続いて進ノ介が、
「それじゃあ、最後に。ここも含めて、学生時代に彼と親しい人間がいたか、等はわかりますか?」
「そうねえ……。そういえば、一度だけ写真と手紙が来たの。感謝の手紙と、友達と映っている写真。しげちゃん、写真も嫌いだし、そんな手紙贈ってくるタイプじゃなかったから、驚いたのよ。ちょっと待っててくださいな。取ってあるの……」
里山さんは部屋の隅に置かれていた箱を取り出し、その中から古い便箋を取り出した。
写真には若い黒木茂と、同じように派手な格好に身を包んだ若者が三人写っていた。仲がよさそうにがっしりと肩を組み合っている。
「高校に行って、ようやく友達ができたのか、って安心したの。ただ、その後はご存じのとおり、高校も中退して、刑務所にも何度も。中退のきっかけになった事件では、この三人も一緒に補導されたみたいで。……あんまり良くない友達だったのかもね」
少し後悔するような里山さんと別れて、三人は園から出た。
「さて、思わぬ収穫でしたね、杉下さん。次は、この写真の人達について調べますか?」
「ええ、そうするとしましょうか」
そうして三人は被害者の所属していた高校や、かつての担任教師等を訪ね、写真に写っていた友人たちを特定していった。
翌日、薄暗い特命係を霧子は訪れていた。昨日集めた情報を整理するということで、集合を言い渡されていたのである。ちなみに、伊丹達は繁華街で片っ端から不良グループを相手にしているようで、まだ見ていない。
右京は、昨日得られた古い写真をホワイトボードに張り付けると、被害者の来歴と、その友人たちの名前と現在を書き並べていく。高校時代に、被害者と仲がよかったのは特に三人。
「太田光彦氏、現在は工務店勤務で既婚、二児の父」
「佐内義男氏は一般的なサラリーマンですね。こちらは上司の娘と結婚間近」
「そして最後の右藤翔馬氏は……。N&Aトラスト。警備システム開発で成長著しいベンチャー企業の創業者」
かつての不良仲間たちはそれぞれの道に進み、その人生も多様化している。そして、被害者だけがその後も更正せずに暴力の道へと進んでいったようだ。その物語も興味深いが、事件へと関与しているかも不明。
「里山先生の言う通り、黒木さんが高校を中退した原因は彼らを含めた四人で商店を襲撃し、現金強奪事件を起こしたから。その時は黒木さんが主犯であり、三人は逆らえなかったという旨の供述がありますね。結果、黒木さんが主犯として送検されています」
進ノ介がそう言うと、続けて、
「加えて、鑑識の米沢さんからの連絡です。被害者の腕に巻きつけられていたリボンは極めて一般的なもので、百円ショップなどで簡単に手に入れられる類のものだと。
ただ、使いこまれた跡もあって、何度も丁寧に洗われた跡も。どうも、大切に扱っていたみたいですね」
霧子が怪訝な顔で報告を読み上げる。
「ますます分かんないな、いや、被害者の趣味ならとやかく言うつもりはないけれど。被害者像と合わない」
犯罪と服役を繰り返していた被害者。それがリボンを大事に大事に扱っている。かなりのアンバランスさだ。進ノ介の疑問はもっともだろう。
「とはいえ、まだ一課のほうでも有力な容疑者は見つかってはいないようですから。僕たちはこの線で、もう少し調べてみましょうか」
「そうですね……」
ただ、何か謎を解決するピースが足りない気がする。そうして、三人で頭を悩ませていると、
「暇!、じゃないみたいね……」
と話の腰を折られたような角田が入室してきた。
「課長」
「二人とも、よく働いているようで、何よりだねえ。にしても、こんな美人を連れ込むなんて、仮面ライダーも隅におけないな! コレか?」
と角田は霧子の姿を認めると、進ノ介へ笑みを浮かべて、小指を立てるジェスチャーをした。古臭いポーズだが、意味は分かっている。
「違います!」「違います!」
「あ、ああ。そうなの」
それに対して顔を赤くしながら大声で抗議する進ノ介と霧子。もっとも、角田からすればその様子だけでバレバレではあったのだが。途端にからかい辛くなり、口を閉ざす。
「まあいいや。で、警部どのが興味持ったのは、この事件だったのね、やっぱり」
「そのように僕が興味だけで動いていると言われるのには、一言申し上げたい所ですが」
「日ごろの行いを振り返ってみなさいよ。……しかし、またこの地域で事件とはねえ。物騒になったもんだ」
小さくつぶやく角田の発言に目ざとく気が付いたのは右京だった。
「……角田課長、その話、詳しく!」
「う、うん? いや、うちで扱っている案件なんだが、数日前に盛大に稼いでいた城東金融ていう闇金が金庫荒らしにあってな。
で、元締めの暴力団が犯人探しに躍起になってる。相手が相手だし、正確な被害金額はこちらに上がって来てはいないが、おそらく五千万以上になるだろうな。それが、この現場から十分ほどの場所」
思っていた以上に近い位置関係。何かありそうだと、刑事の勘が囁いた。
「……ほう」
「へえ……」
「な、なんだよ、二人そろってそんな目をぎらつかせて」
ただの偶然、という可能性もある。だが、この二つの事件に何か関連があるのではないか。そう考えると進ノ介の脳細胞は急速に回転を始める。
そして、その同時刻、捜査一課が容疑者を逮捕したという報告が特命係にももたらされたのだった。
通常枠ということで、今回は三パートで終わります。
第一、二話はキャラクターを馴染ませるために、基盤世界になる相棒要素を強調しています。まだまだ関係構築中の特命係。捜査にも積極的に絡んできた進ノ介ですが、相棒としての本領発揮はもう少しお待ちください。
それでは、次パートは数日中に投稿いたします。ご意見ご感想お待ちしています!