重傷を負ってから艦娘が過保護すぎる件   作:青ヤギ

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 いろいろな意味で大丈夫かな今回。


明石「できました! 艦娘に甘えたくなるお薬です!」②

 俺は昔から、熱い男が登場する物語が好きだ。

 誰しも、理想のヒーロー像がある。

 漫画、小説、映画、時代劇、史実、はては現実の出会いで……きっかけは何でもいい。

 どんな人間にも──よほど捻くれていない限り──「自分もかくありたい」と思えるような、憧れの対象が存在するものだ。

 

 俺にも当然の憧れの人物がいる。

 一人は俺の父。

 もう一人は訓練生時代の俺を心身共に鍛えてくれた兵長殿。

 そして最後の一人は……

 

 

 

 あとはまあ、フィクション等に登場する、ハードボイルドな探偵や侍、熱い心を持ったヒーローなどだ。

 架空の人物に憧れていると、よく笑う者がいる。

 確かに、フィクションである彼らの生き様は、現実ではあり得ないものばかりだ。

 

 ……しかし、だからこそ「自分もこんな風に生きたい。こんな風に(たくま)しくなりたい」と、新鮮な刺激を受けたり、あるいは自分を見つめ直すきっかけになるのではないだろうか。

 

 正体不明の深海棲艦に(おびや)かされる、こんな時代だからこそ、架空の英雄譚は人類を勇気づけるものだと、俺は思っている。

 

 そういう理由から、俺はいまも変わらず、熱い男たちが描かれた少年誌や、漢気溢れるヒーローが登場する映画を愛好している。

 どんな苦難だろうと、決してブレない強さと信念を持ち、巨大な試練に立ち向かう彼らの生き様を見ていると、自分など、まだまだ未熟だと痛感させられる。

 そう自省する意味でも、この趣味は捨てられない。

 

 

 

 ……だが悲しいかな、昨今はその手のジャンルは敬遠されているらしい。

 書店などに行くと、ほとんどの売れ筋商品は『努力をせずに授かったチカラで楽に敵を倒し、美女たちを囲って絶賛される』というようなものばかりだ。

 他人の趣味趣向に口出しをするつもりはないが……正直、俺はこの手のジャンルは、あまり好きではない。

 幼い頃から『友情、努力、勝利』の三原則で育ってきた分、苦労も知らずにただ無双して凄い凄いと持てはやされる物語に、どうも魅力を感じないのだ。

 やはりヒーローとは、情が深く、内なる強さをひけらかさず、誰かのために苦難に立ち向って初めて、かっこよく映えるものだ。

 だと言うのに……

 

 時代は変わったのか、最近の主人公は根っこの部分まで卑屈で捻くれ者で欲深い人間等、どちらかと言うと悪役ポジションにいるべきキャラクターばかりで溢れかえっている。

 仕舞いには、いい大人の男が幼い少女に対して「〇〇ちゃん、好き~」と甘える漫画が大人気という有り様だ。

 

 一定の需要があることは理屈ではわかっている。

 そういうのが好きな手合いに喧嘩を売りたいわけでもない。

 好きなものに対しては、自信を持って好きだと主張していいと思う。

 

 だが、それでも言わせてほしい。

 

 

 

 ……けしからん、と!

 

 ただ快楽を貪るだけの物語?

 エッチな本ならともかく、普通の物語でそんなものを求めるなど……男の王道とは程遠い!

 真の男ならばもっと熱血を求めよ!

 ハードボイルドを求めよ!

 感涙を流すほどの人情話を求めよ!

 もっと手に汗握る、男心が高ぶる物語を!

 真の男に必要なのは、そんな生き様なのだ!

 

 

 ……と、このように、人によっては、熱くてやかましいと言われかねない主義を持っているがゆえ──

 

 

 

 

 

 

「イヤだ! 艦娘に甘えるだけのダメ男なんかになりたくな……艦娘に甘えたい。ああ! また口が勝手に!」

 

 

 ただいま、一番敬遠しているダメ男にクラスチェンジしかけており、たいへん苦しんでいる。

 

 艦娘に甘えたくてしょうがなくなる薬。

 その効果は絶大だった。

 

 これまで数多の色欲を煽る試練を乗り越えてきた鋼の理性。

 我ながら褒めてやりたいその歴戦(?)の自制力が、しかしいま、凄まじい強迫観念によって打ち崩されようとしている。

 

 

 艦娘に甘えろ。艦娘に甘えろ。艦娘に甘えろ。

 

 

 そんな誘惑が脳内で、譫言(うわごと)のように繰り返されている。

 頭の中で聞こえる以上、耳を逸らすことはできない。

 意識から振り払うことも不可能だった。

 まさに悪魔の囁きが、徐々に俺の思考能力を奪っていく。

 それが証拠に、肉体は辛抱たまらんとばかりに、目の前の明石を抱きしめたまま、いまだ離さずにいる。

 

「て、提督」

 

 抱きしめられた明石は、色白の頬を桃色に染めて、ただオロオロとしている。

 よもや、ここまで直球に肉体的接触をされるとは思っていなかったのだろう。

 滅多に見せない、純朴な少女のような反応を示している。

 しかし、拒む様子はない。

 それをいいことに、明石の華奢ながらも女として成熟したカラダをさらに抱き寄せる。

 いつも機材、装備ばかりを弄って、汗や油まみれになっているとは思えないほど、明石からは良い匂いがした。

 普段から気を遣っているのだろう。

 

 日々、明石の型破りな行動に振り回されて、つい忘れがちだったが……彼女もやはり乙女なのだ。

 そして、途方もなく魅力的な女性だ。

 密着すればするほど、明石はオスを煽るような恥じらいを見せ、悩ましく発育したカラダの感触は、ますます理性を揺さぶってくる。

 もっともっと、彼女の新鮮な反応、温もりが欲しいと思ってしまう。

 存分に、明石に甘えてしまいたいと思ってしまう。

 

 

 

 ……いや、ダメだ。

 このままでは、本当に衝動のままに流されてしまう!

 

 甘えちゃダメだ。甘えちゃダメだ。甘えちゃダメだ!

 

 そう言い聞かせても、やはりカラダは脳の指令を拒否する。

 薬の効果は、いよいよ危険なレベルまで浸透しているようだった。

 

 こうなっては、もう手段は選んではいられない。

 

「あ、明石、俺を振り払え! このままだとお前に何をするかわからない!」

 

 もはや俺にできることは、わずかに残った自我の意識で明石に指示をするぐらいだった。

 戦闘には向かない明石だが、それでも艦娘の端くれ。俺を振り払うぐらいの腕力はある筈だ。

 

「頼む明石! 遠慮はいらん!」

 

 しかし、いつまで経っても明石は俺を突き放す素振りを見せない。

 

「どうしたんだ明石? 言う通りにやってくれ! いっそ気絶させる勢いで俺を投げ飛ばすんだ!」

 

「できませんよ」

 

「え?」

 

 明石は俺を突き放すどころか、腕を回して抱きしめてくる。

 そして耳元に唇を寄せて、言う。

 

「私が提督を、振り払えるはずがないじゃないですか」

 

 視線を明石の先へ配る。

 

 見たことのない、明石の憂いめいた横顔がそこにはあった。

 いつも調子よく悪戯する小娘のような笑顔は微塵もない。

 

 そのまま明石は、俺を落ち着かせるように背中を撫でる。

 ぎこちない手つきだったが、そこには確かに温かな思いやりが込められていた。

 

「いいんですよ提督。このまま私に甘えても」

 

「明石、お前なにを……」

 

 耳を疑うほどに優しい声色で、明石はそんなことを呟いた。

 

 なんだ?

 こんな明石、俺は知らない。

 彼女がこんなにも、母性に満ちた雰囲気を放つだなんて。

 

 じっと様子の変わった明石を見つめていると、彼女もこちらを向いた。

 視線が絡み合う。

 息を呑んだ。

 さっきまで幼稚にはしゃいでいたはずの少女が、一気に大人びた淑女としての気品を漂わせていた。

 なんて優しい眼差しだろう。

 

「こんな形で提督を甘えさせるなんて、確かに褒められたことじゃないかもしれません。でも提督? 私も、今回依頼してきた艦娘の気持ち、わからないでもないんですよ」

 

 俺の背中をヨシヨシと撫で続けながら、明石は語る。

 

「だって提督、本当に見ててヒヤヒヤすることばかりするんですもの。提督にとっては当たり前のことなのかもしれませんけど、見ている側はやっぱり心配しちゃいますよ」

 

 俺が入院する前の出来事も含んで、思い返しているのだろう。

 それは過保護な心配ではなく、本気で俺の身を案じている口振りだった。

 

「だから、強引ではありますけど、一日ぐらい提督が素直になる日があってもいいんじゃないかって思って、今回のことを……いえ、これは言い訳ですね。

 ──私自身、こんな形じゃないと提督と向き合えないんですから」

 

「え?」

 

「だって、照れくさいんですもん。いつも、モノづくりに没頭してる私が、いきなり皆みたいにお世話したり、優しくなったって……らしくないじゃないですか?」

 

 顔を赤らめながらそう語る明石には、いままで打ち明けられなかった思いを吐露する者特有の、羞恥の色があった。

 

「私だって、その……提督に普段のお礼とか、お返しとか、お世話だったり、したいと思うんですよ?」

 

 もにょもにょと口ごもりながらも、明石は熱い眼差しを向けて、そう言った。

 

 俺は言葉を失った。

 いつだって自分の創作意欲が第一かに思えた明石が、そんなことを考えていたなんて。

 

 

 内秘めてきた本心を語ったことで、明石の中で火が着いたのか。

 意を決したように瞳を閉じると、明石はその豊かな美乳へと、俺の顔を導いた。

 

「っ!」

 

 あまりに大胆なことをするあまり、反応が遅れた。

 

 顔中に広がる豊満な感触。

 濃密に香ってくる乳房の匂い。

 

 これまで幾度と艦娘の胸に抱かれてきたが……やはり、この柔らかな二房に、オスを蕩かすフェロモンが最も凝縮されていることを実感する。

 

 いつのまにか、抵抗するチカラが無くなっていた。

 すとんと足が脱力し、そのまま明石のカラダにもたれかかる形になってしまう。

 明石はぎゅっと、俺の頭を抱きしめ、柔らかな声で語り掛ける。

 

「提督、いつも、ありがとうございます。私のワガママや無茶に、何だかんだ付き合ってくれて。これでも、感謝してるんですよ? 本当に……」

 

 形の良い美乳に包まれながら、明石の澄んだ告白を聞く。

 

 

 

 ドクンドクンドクン、と心臓の音がうるさいくらいに響く。

 それが自分のものなのか、至近距離で聞こえる明石のものなのか、それすら判別がつかず、いよいよ意識が朦朧としていく。

 

「いろいろご迷惑かけたお詫びです──提督、今日は私にたくさん、ワガママ言っちゃってください。我慢しなくて、いいですよ? 精一杯、受け止めてあげますから」

 

 追い打ちをかけるように、明石が慈しみに富んだ声で、囁いてくる。

 

「明石に、いっぱい、お世話させてください」

 

 いけない。

 このままでは本当に……

 

「明石にしたいこと、何でもおっしゃってください」

 

 したいこと。

 明石にしたいこと。

 

 

 

 そう、明石がずっと秘めてきた思いがあるように、俺にも彼女に対して「やってみたい」と密かに秘めてきたものがある。

 とても口では言えない、実行に移すこともおこがましい、想像の中だけで思い描いてきたこと。

 

 それを、やってしまう。

 (かせ)を外された、この瞬間、きっと迷いなく。

 

 ダメだ。

 逃げるんだ明石。

 きっと止まれない。

 このままでは、お前を……

 

 声高に叫ぼうとしても、やはり、もう抑止の声が出ることはなかった。

 代わりに出てきたのは……

 

「……甘えたい」

 

 剥き出したにされた本能だけだった。

 

「明石に、甘えたい」

 

 理性は、屈した。

 もう誰にも止めることはできない。

 

 俺の呟きに、明石は「ふふ」と微笑んだ。

 

「いいですよ。どうぞ、お好きなだけ」

 

 許しを得た。

 その瞬間、理性による拘束から解き放たれた両手が、長年の思いを成就せんと、ゆっくりと明石へと伸びていく。

 

 

 

 ああ、やってしまうんだな。

 本当に、アレを。

 

 許してくれ明石。

 俺はもう、自分で自分を、止められない。

 

「提督。来て?」

 

 明石の声に導かれるまま、衝動に導かれるまま、俺は、ふたつの手を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズボッ。

 

 明石のスカートの切れ込みへと、突っ込んだ。

 肌が露出した部分を、手で覆うように。

 

「え?」

 

 さすがの明石も、これには呆然とした声を上げる。

 

 ……ああ、やってしまった。

 俺はついに、禁断の地へ足を踏み入れ……いや、手を突っ込んでしまったんだな!

 

「あ、あの提督? これは、どういう?」

 

「……かったんだ」

 

「はい?」

 

「ずっと、これをやってみたかったんだ!」

 

「ええ~!?」

 

 薬の効果のせいだろう。

 躊躇すべき発言も、構うことなく叫んでしまう。

 

 

 

 明石が履くミニスカート。

 袴のように腰骨あたりに大きなスリットが入っているため、常に白い地肌が丸見えとなっている。

 少しでもズレれば、ショーツどころか太ももの付け根すら見えかねない非常に際どい構造。

 目のやり場に困る、そんなスカートに、いったい何度うつつを抜かされたことか。

 ……何度なんど、その容易に侵入できそうな隙間に手を入れてみたいと妄想を膨らませたことか!

 

 それがついに……現実に!

 

「て、提督? さ、さすがにコレは私も予想外というか。で、できればもう少しロマンチックなのが望ましいんですけど……ひゃうううぅううん!?」

 

 明石から蠱惑的な悲鳴が上がる。

 スリットに侵入するだけに飽き足らず、手が前後に動き始めたのだ。

 

「あっ、ちょっ、待っ……あん! て、提督、どうしてこんな……」

 

「スケベだからだ」

 

「ふえ?」

 

「こんなスケベなスカートを前にしたら……こうせざるをえないだろ!?」

 

「ふええええええええええええええええ!?」

 

 そうだ。

 いままで我慢してきた自分がおかしかったのだ。

 こんなスケベな構造をしたスカートを前にして、いつまでも冷静さを保てると本気で思っていたのか?

 いや、できん。

 健全な男ならば、真の男ならば!

 そこに露出した肌があるのなら、スリットがあるのならば!

 勇気を振り絞って、手を突っ込むべきなんだ!

 磁石のS極とN極が引き合うように、それは自然の理なんだ!

 

 だから、俺は……

 さする!

 ついに辿り着いたこの秘境の地をあますことなく堪能するため。

 明石の、生白い腰周りの素肌を、容赦なく、さする!

 サス、サス、サス。

 サスサスサスオニサスサス! と!

 

「んきゃうぅん! て、提督! ダ、ダメですそんな! んっ! そ、そんなに動かされたら、私……あんっ!」

 

「コーホー……コーホー……」

 

 やめられない。

 止まらない。

 明石の素肌が、あまりにも触り心地がいいから。

 掌を押し返すぷにぷにのお肌が、あまりにも柔らかいから。

 決して手を休めることなく、その感触を、味わいつくす!

 

 

 

 人はこの行いをセクハラと称すだろう。

 優しさにかこつけたゲスの極みと揶揄するだろう。

 しかし、考えてみてほしい。

 俺が触れているのは、あくまでも腰周りだ。

 胸や尻ではない。

 いや、このまま勢いをつければショーツに包まれたヒップを鷲掴みすることも可能だが、そこまではしない。

 あくまで俺が堪能しているのは腰元のみ。

 性的な部位に触れば、それは確かにセクハラだ。

 だが、腰元ならば、肩や手首に触れるのと、そう違いはないのではないか?

 

 ならば、これもギリギリ、セクハラではない!

 

 暴論?

 では、明石の反応を見てみるがいい。

 セクハラ──セクシャルハラスメントとは性的いやがらせのことを言う。

 

 しかし……

 

「んっ♡ ……や、やだ、だんだん提督の手が、んっ♡ なんだか、気持よく感じられて……ひゃん♡ な、なんでぇ♡ 提督の手つき、なんで、こんなに……あ~~ん♡」

 

 こうして快感に悶える明石を見ても尚、俺の行為が嫌がらせと言えようか?

 我が掌で、我が指圧で、明石は悦楽の海へと浸っている。

 ならば、俺がやっているのは、マッサージと変わらない。

 

 訓練生時代、同期の間でも評判だった俺のマッサージテク。

 どんなに我慢強い屈強な人物も、この手にかかれば極楽浄土に昇るかのような笑顔を浮かべ、反抗的な人物はヨダレを垂らしながら俺に忠誠を誓い、不感症だった人物もピースをしながら「も゛っど~!」とねだり、そして誰もが等しくパンツを使い物にできなくしたものだ。

 

 乙女のデリケートな素肌を触らせてもらっている、せめてものお礼として、この手で、この技術で、明石もとことん喜ばせてやろう。

 彼女にこうして甘えることで、俺は満たされた気持ちになる。

 そして明石も、俺にマッサージされることで、至福の心地を味わっている。

 

 そう。

 これこそが《WinWinの関係》というものだ。

 

「んにゃああああああああああぁン♡ ら、らめえええエェ♡ 提督の手、気持ちいいのおおおオォ♡ おかしく、おかしくなるぅ~♡ もう、立ってられにゃいのぉ~♡」

 

 ビクンビクンと背筋を震わせ、悩ましい声を上げながら、明石はぎゅっと俺の頭を抱きしめる。

 むにゅうう、と明石の形のいいバストに、顔面が押しつぶされる。

 カラダのバランスを支えるためにも、これは致し方なし。

 なので、これもセクハラには分類されない。触れているのも手ではなく、顔だし。

 セーフである。

 

 息がし辛いが、それでも、手の動きは止めなかった。

 このまま、明石を最高潮の領域へと導くまでは、どんな状態だろうと動かし続けるつもりだ。

 

「スウゥゥ……ハアアア! スウゥゥ……ハアアア!」

 

 息苦しいのは大きく呼吸することで解決だ。

 うむ。甘いミルクの匂いがたいへん(かぐわ)しい。

 

「提督♡ 提督ぅぅぅ♡ 私、もう♡ ダメです♡ 我慢、できない♡ 昇っちゃう♡ 昇っちゃのオォォ♡」

 

 ああ、昇ってしまえ明石!

 

 そのまま天に向かって……()ってしまえ!

 

 手の運動を最大出力に!

 明石の嬌声も最高潮に……達する!

 

「ああああああああぁぁぁぁぁン♡ イクウウウウウウウウウウウ♡」

 

 快楽の絶頂と同時に、ひと際強く俺を抱きしめる明石。

 

「んぐっ!」

 

 もはや一部の隙間もなく乳房に顔を抑えつけられ、呼吸を絶たれた俺は、明石と同調するように意識が落ちていった……

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 や っ ち ま っ た

 

 意識が回復すると同時に、俺は激しい後悔に襲われた。

 薬の効果は、どうやら一旦、治まったらしい。

 気絶したためか、あるいは内秘めてきた願望を存分に解消したためか。

 だが、どの道、一時的な鎮静に過ぎないだろう。

 また自我を失ってしまう前に、俺は目の前で気絶している明石を起こすことにした。

 

「おい明石! しっかりしろ!」

 

「あへ~……」

 

 艶やかな笑顔で倒れ伏す明石は、記憶にある訓練生たちが快楽のあまり意識を昇天させたときと同様の有り様だった。

 違うとすれば、むさ苦しい野郎どもの痴態と比べ、途方もなく扇情的というところだろう。

 思わず唾を飲み込むほどの色香を漂わせていたが、いまは見惚れている場合ではない。

 俺はまだ彼女から肝心なことを聞いていないのだから。

 

「明石、頼む。起きてくれ! お前に依頼をした艦娘はいったい誰なんだ!?」

 

 カラダを揺すって問い詰めても、明石はエクスタシーに浸ったたま目を覚まさない。

 

 こ、これはまさか、俺ってばあの後、無意識でさらにとんでもないことを明石にしてしまったのではないだろうか?

 スカートのスリットに手を突っ込んで腰元をサスサスする以上のことを……

 

 いかん。ますます早いところ明石に起きてもらって真相を確かめなければ!

 

「起きてくれ明石! あの後ナニがあった!? お互いの貞操は無事か!? お前は処女か!? 俺は童貞か!?」

 

 激しく揺さぶっていると明石のスカートのポケットから、ボトリと落ちるものがあった。

 

「ん? これは……」

 

 それは一冊のメモ帳だった。

 表紙の塗装が剥げかかっていることから、普段から使いこまれていることがわかる。

 ……ひょっとしたら、このメモ帳に何か手がかりになることが書かれているかもしれない。

 明石には悪いとは思ったが、状況が状況だ。

 俺は思いきってメモ帳を手に取り、中の内容を確認することにした。

 

 メモ帳には小難しい設計図や数式やら、試してみたいアイディアなどがびっしりと書かれていた。

 あとは装備の改修依頼をしてきた各艦娘のリストを、ずらりと並べているページがあった。

 長門、霞、神通等、最近俺のもとにもやって来て、改修の許可を申請してきた面子の一覧が、明石のほうでもきっちりと記録されているようだった。

 気になったのは、その後半のページ。

 そこには、以下のことが書かれていた。

 

 

 ──依頼人《S》さんから頼まれた『提督が素直に甘える薬』完成。近日実行予定。

 

 

 重要項目とばかりに赤文字で、ひとつのページに大きくそう記載されていた。

 その横には遊び心なのか、炎に包まれた明石が気合を入れているデフォルメイラストが描かれている。

 

「依頼人《S》……」

 

 どうやら、それが今回の事件の立案者らしい。

 律儀なことに、明石はメモであっても、依頼人の素性を隠したようだ。

 

 しかし《S》とは何だろうか?

 何かの暗号か?

 ……いや、普通に考えればその艦娘の名前の頭文字(イニシャル)か。

 だが、そうなると、該当する艦娘が多すぎる。

 

 漣、皐月、酒匂、蒼龍、翔鶴……

 

 うーむ。一人ひとり片っ端から当たっていては、日が暮れてしまうぞ。

 

「いや、待てよ……」

 

 明石がこの薬を作ったのが、ちょっと前のことならば……

 犯人はここのところ明石に改修依頼をした艦娘に限られてくるのではないだろうか?

 こっそりと交渉するため、表向きは装備の改修依頼をするフリをして……

 

 依頼人リストは、ちょうど日付順に並べられている。

 そこの若い順から見ていくと……

 イニシャルが《S》の艦娘は何名かいた。

 決して探しきれない人数ではない。

 

 中には、とてもこんなことをするとは思えない艦娘もいたが……しかし、ここはすべてを疑ってかかって、総当たりしていくべきだろう。

 

 明石の言を信じるならば、解毒剤はその黒幕である艦娘が持っている。

 一刻も早くそれを手に入れなければ……目の前の明石のように被害が甚大になってしまう!

 

「すまない明石……欲望に打ち負けた脆弱な俺を許してくれ……」

 

 いまだに絶頂で気を失っている明石に頭を下げる。

 ついでこのメモ帳を借りていくことも許してくれ。

 また何か手がかりを見つけて、役立つかもしれないからな。

 

 ……あ、ついでに、鎮守府にとって害しかなさそうな発明品の設計図は、提督権限で後々焼却させてもらうんで、そこんとこよろしく。

 

 とりあえず気絶した明石は妖精さんに頼み、入渠室まで運んでもらった。

 

 

 

 

 しかし、何て恐ろしい薬だ。

 本当に我を忘れるほどに、艦娘に甘えてしまうだなんて。

 またいつあの衝動が襲ってくるかわからない状態で、該当する艦娘に聞き込みをするのは、正直不安が募るが……

 しかし手段を選んでいる暇はない!

 

 

 待っていろ、謎の艦娘《S》!

 お前の思いどおりにはさせん!

 

 

 提督としての尊厳を守るため、ひいては艦娘たちの純潔を守るため、俺は行動を開始した。

 

 よし、行こう。

 必ずや黒幕を見つけ出し、そして……

 

「思いきり甘えてやる! ……ってまた口が勝手にいいい!」

 

 前途多難である。

 

 


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