艦娘たちには、それぞれの寮部屋で生活をしてもらっている。
一人部屋はあるにはあるが、だいたいは姉妹か気の合う艦娘と同室の場合が多い。
涼月も姉妹と同室だが、現在は不在だ。
実に好都合だった。
いや、決してやらしい意味ではない。
いまの姿を他の艦娘に見られたら、間違いなく俺の心は折れていただろうから。
「はい、提督。あ~ん♡」
思春期の男子なら一発で恋に落ちるだろう笑顔を浮かべながら、涼月は手作りのパンプキンケーキを俺の口元に運ぶ。
ふんわりした生地の感触と、カボチャの甘い風味が口の中でじゅんわりと広がる。
「おいしいですか提督?」
「うみゃい」
モグモグと食べながら率直に感想を告げると、涼月はますます機嫌良さげに顔を輝かす。
「よかったぁ♪ もっと召し上がってくださいね。はい、あ~ん♡」
口の中だけではなく、部屋の空気まで甘く染め尽くされそうな中で、俺は涼月にケーキを食べさせてもらう。
いくら涼月が大人びた見た目をしていても、人間で言えば中学生くらいの少女。
そんな相手に、いい大人がこんなことをしてもらっているだなんて……
情けなくて涙が出てきそうだ。
泣けないんだけどな! 『艦娘に甘えたくなる』薬のせいで!
意識は鮮明にあると言うのに、完全に肉体のコントロールを奪われてしまっている現在、俺は成す術なく涼月に甘えてしまっている。
俺のビジュアルを漫画みたく二頭身化したって、こりゃキツい絵面だ。
それでも涼月はドン引きすることなく、慈しみ深い笑顔でご奉仕してくれている。
改めて、彼女の懐の広さには感服してしまう。
それに比べ、俺ときたら……
「提督? 涼月にもっとして欲しいことがあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね♪」
「じゃあ思いきり抱き締めてください」
いくら薬の効果だからって遠慮なさすぎだろ俺!
「まあ。うふふ♪ 本当に今日の提督は甘えんぼさんですね♡」
そして涼月! 君はいくらなんでも優しすぎぃ!
心の中でどんなに叫んでも、届くことはない。
涼月は言われた通り、小さな子どもにそうするように、その立派な胸元へと俺の顔を抱き寄せる。
衣服越しでもハッキリと大きさがわかる乳房はやはり豊満で、大の男の顔も包み込む。
そのまま涼月はたおやかな手で、俺の頭を撫でてくる。
「疲れが溜まっていらしたんですね、提督。涼月でよければ、たくさん癒されてください」
疲れの代わりに別のものが溜まりそうですけどね!
参ったな。
こんなことしている暇はないのに。
一刻も早く解毒剤の手がかりを見つけて、薬の効果を消さなくてはならないのに。
そう自分に言い聞かせても、やはりカラダは頑なに涼月から離れることはなかった。
マズイ。
この調子だと、明石のときと同じように……いや、それ以上に過激なことをしかねない!
よりによって駆逐艦相手に!
俺は脳内で「ダメだぞ! 相手は駆逐艦だぞ! いくらゴックンボディの美少女でもそれはアカンぞ!?」と声高で叫び続ける。
気分はさながら漫画とかでよく見る、主人公相手に注意を呼び掛ける善の心だ。
そうなると必然、主人公を誘惑する悪の心も登場することになる。
『へっへっへ。こんなおいしいシチュエーションでやることと言ったらひとつだよなぁ、提督よぉ~』
ほら出てきた!
翼と尻尾を生やした悪の心が囁く。
『我慢するこたぁねぇさ。相手はいいって言ってんだからよぉ。ここは薬のせいってことにして存分にトランジスタグラマーな美少女に甘えればいいじゃねぇかよおおお!!』
黙れ悪の心!
俺はその程度の誘惑に負けたりはしないぞ!
そうだよな俺!?
「涼月、もっとギュッとしてくれ」
バカバカ! 俺の軟弱者!
「うふふ♪ もう提督ったら。いいですよ? はい、ぎゅ~♪」
ふわとろボイスで涼月はまた俺をぎゅっと抱きしめる。
むにゅっと顔中に満ちる柔らかな乳肉の感触。
「よしよし。今日は涼月がずっとお傍にいてあげますからね?」
涼月も涼月で頼られることで気分が高揚しているのか、俺に対する口調も、どんどん幼子をあやす調子に変わっている。
とても駆逐艦とは思えない母性に満ちた声と温もりで、涼月はどこまでも優しく俺を受け止める。
いよいよ本格的にマズイ。
このままだと善意の塊である涼月は、俺のもっと無理な要求も受け入れてしまうかもしれない。
そうなったら、行く着く先は……
な、なんとかせねば。
けど、薬の効果が解けない以上、いまの俺にはどうすることもできない。
ダメなのか。
俺の提督人生はここで終わるのか。
まさか無害の象徴ともいえる涼月に、ここまで追い込まれる羽目になるなんて。
男にとって真に恐ろしいのは、意図的な誘惑ではなく、むしろこういった純粋な善意なのかもしれない。
……いや、でも待て。
さっきまでは涼月は依頼人《S》ではないと決めつけたけれど……いまの状況って、俺を甘やかしたい犯人からすれば理想的なものではないか?
俺の中で、再び涼月に対する疑念が込み上がってくる。
天使のように優しい涼月。
……けれど、その実態は男を魅了する堕天使という可能性はないか。
「提督。他にも涼月にして欲しいことがあったら、何でもおっしゃってくださいね?」
こう言ってくる涼月の言葉に、はたして本当に裏はないのか。
見定める方法はないものか。
そう思ったときだった。
「……じゃあ、涼月の秘密を教えてくれないか?」
「え?」
俺の口から突然、状況を一変させる言葉が出てくる。
もしかしたら『真実を知りたい』という俺の強い願望が、甘えるという形で出てきたのかもしれない。
なるほど。
明石のスリットに手を突っ込みたいという、隠してきた願望を実行に移したのと原理は同じだ。
俺が本気で望んだことが、そのまま行動に現れる。
込み上がる衝動に抵抗するのではなく、敢えて従う。
その上で、逆に策略として利用してやる。
なるほど、これが発想の逆転ってやつか。
ジョナサンパパの言葉は間違いじゃなかった。
よし、なら思いきり望んでやろう。
俺は涼月の本音が聞きたい。
涼月が本当に依頼人《S》でないのなら、その証拠を見せて欲しい。
ありのまま涼月が知りたい!
「俺も普段見せないところを見せたんだから、おあいこで教えておくれよ涼月」
「秘密、ですか」
「ないわけじゃないんだろ?」
「それは、そうですけど……」
「なら、おせーておくれよぉ。言わないとくすぐっちゃうぞ~」
「ひゃんっ! て、提督、ダメ、そんなところくすぐっちゃ……あんっ! うふふふ、わ、わかりました、きゃんっ、言いますからぁ、ふふふ、ゆ、許してくださぁい」
ちょっと際どい方法だが、なんとか涼月に証言させる状況に持ち込んだ。
しかし、くすぐりで悶える姿まで色っぽいな涼月は。
……まあ、そこはいい。
さあ、曝け出すんだ涼月。
嘘を言っても無駄だぞ。
得意ではないが、声の質、表情の動きなどから嘘をついているか判断できる洞察力は訓練生時代で身に着けている。
不審な点があれば、薬の効果を利用して、思いきりねだって聞き出してやろう。
涼月が依頼人《S》ならば、それで堕ちる可能性はある。
涼月は真に天使か? それとも堕天使か?
尋問開始!
「そうですね。せっかくの機会ですし……提督、涼月のお話、聞いてくださいますか?」
涼月をそう言って、改まるように「ん」と息継ぎをする。それすら、やたらと色っぽい。
やっぱこの娘、堕天使かもしれん。
「提督、初めてお会いしたときのことを覚えていますか?」
以前、初月にも尋ねられた問いだ。
幸い俺の口は、そのときと同様「もちろん」と返答した。
艦娘は基本的に、海で発見される。
敵が光の粒子となって消滅すると、稀に光と共に忘我状態の艦娘が出現するのだ。
そのまま発見した艦娘たちによって保護され、鎮守府に着任すると意識を取り戻す。
そして自分が何の艦であるのかを思い出し、提督である俺の前で名乗りを上げる。
この現象に関しては、諸説ある。
中には『もしや艦娘の正体は……』と人類との信頼関係を崩しかねない説を唱える者がいるが……
俺は別に真相に興味はない。
究明するつもりもない
艦娘たちが何者であれ、人類の味方であり、命を懸けて戦ってくれる戦士であり、かつて祖国を守った尊き軍艦の生まれ変わりであることに、変わりはないのだから。
ただ……
「信じてもらえないかもしれませんが……実は鎮守府に着任する前にも、私、意識があったんです。そこは冷たくて、動くこともできない……真っ暗な場所でした」
艦娘として誕生する以前の話を聞くと、どうしても考えてしまう。
この世に艦娘が現れたのは、はたして人類の敵である深海棲艦と戦うためだけなのか、ということを。
「そこにいると、とても苦しくて、悲しくて。ずっとこんな真っ暗闇が続くのかと思うと、涙が止まらなくなって……でも、ある日、光が見えたんです」
同じ話を他の艦娘からも聞いたことがある。
艦娘になる以前は、ずっと暗闇の中で沈んでいるような感じだったと。
そして、誰もが言う。
「声が聞こえて、手を差し伸べられたような温もりを感じたんです。すると、それまで動かなかった筈のカラダが動いて……そして気が付いたら──提督。あなたが、目の前にいらっしゃいました」
艦娘として覚醒する瞬間。
それは、誰かに救い出されたような感覚だったと。
「いま思うと、あの声は、差し伸ばしてくださった手は……提督だったんですね?」
そっと俺の手を握りしめる涼月。
その温もりは、以前も同じように体感したものだった。
あの激戦のときと、同じように。
提督となる人間は、妖精さんの姿を視認できるという特質がある。
そして、もうひとつ。
艦娘と意識を共有するという特質だ。
旗艦である艦娘と意識をリンクさせることで、提督である俺は現場の戦況を把握しつつ、思念で指示を出すことができる。
ただし、旗艦の艦娘が攻撃を食らうと、俺も精神的にダメージを食らうというデメリットがある。
並みの人間なら間違いなく精神崩壊を起こすほどのものだ。
その精神ショックに耐えうることができる精神力を持った人間が、提督に選ばれるのか。それは定かではない。
ただ、俺は気合いで、その精神的苦痛を乗り越えてきた。
俺の判断ひとつに世界の命運が懸かっている以上、それしきのことで根を上げるわけにはいかない。
……ただ、敵のボスが潜む最深部に進めば進むほど、まるで怨念のような精神汚染が襲ってくる。
冷たい。悲しい。恨めしい。憎い。
そんな負の感情が脳内に押し寄せ、正気を破壊し尽くそうとする。
そればかりは、気合いでどうにかなるものではなかった。
俺が苦痛から膝を打つと、いつも横にいる大淀さんが「提督、艦隊を撤退させてください! このままでは……あなたが壊れてしまいます!」と涙目で進言した。
だがそのたび、俺は愛刀を自らのカラダに刺すなどして、痛みで正気を取り戻すのだった。
『……これしきの痛み、あの日の火災で味わった地獄と比べたら、どうってことねえんだよ! 負けてたまるか……俺たちは勝つんだ!』
それは横で震える大淀さんだけではなく、海の向こうで俺を心配する艦隊に向けた言葉でもあった。
『俺に構うな! 越えるんだろ? 無念を晴らすんだろ? だったら進め! お前たちの戦いだ! 終わらせてこい。暁の水平線に……勝利を刻め!』
いつだって海の向こうで戦い、傷つくのは艦娘たちだ。
なら、安全な場所でのうのうと指示するだけの俺が、同じように戦わないでどうする?
精神的苦痛など、煮えたぎる闘志で誤魔化せばいい。
俺が諦めて撤退を指示したら、勝てる戦いにも勝てなくなってしまうのだから。
そして何より。
俺に救いを求める声が聞こえる以上、尚更引くわけにはいかなかった。
いつもそうだ。
敵地の最深部に向かうと、精神汚染の声とも、旗艦の艦娘とも異なる声が、脳内で響く。
助けて。帰りたい。戻りたい。また海を、駆けたい──そんな、痛切な声が。
声の正体など、どうでもいい。
ただ直感でわかるのは、俺が諦めたら、その声の主を救い出せないということだけ。
激戦の中で、俺は声の主に向かって、心の手を伸ばす。
こっちに来るんだ。そこから抜け出せ、と呼びかけながら。
そして戦いが終わると……誰かの手を掴んだ感触が掌に満ちる。
それと同時に、新たな艦娘が、光と共に姿を現す。
涼月のときも、同じだった。
俺に救いを求めてきたあの声は、やはり……
「提督、あなたが諦めず、進んでくれたから、私、いまここに居られるんですよね?」
涼月は俺の右手を持ち上げて、華奢な手で包み込む。
あの日、自ら刀で突き刺した右手を、労わるように。
「ありがとうございます。ずっとお礼を言いたかったんです。我ながら不思議な話だと思っていたので、うまく話すきっかけが作れなかったのですが……でも、よかった。やっと、伝えることができました」
涼月の瞳に、嘘はない。
その熱い眼差しを、嘘と言えるわけがない。
「こうして姉さんたちと、妹たちと一緒に過ごせるのも、提督のおかげです。あなたの諦めない強さがあったからこそ、この日常があるんです」
そう言って涼月はまた、見惚れるような笑顔を向ける。
「だからどうか……守らせてください、あなたの命を」
真剣な声色で、涼月は告げる。
「あの激戦……あのときほど、悔やんだ日はありません。あなたを、失うかもしれなかった。……だから今度こそ、守ってみせます」
命を守ること。
それこそが涼月を動かす原動力。
彼女はその誓いを
そう思わせる強い意思を感じさせる。
「あなたは必ず、涼月が、お守りします」
濁りの一切ない瞳と見つめ合う。
心から安堵する、慈しみの眼差し。
それを前に、疑念の心など、とうに消え失せていた。
逆に湧いてきたのは、そんなまっすぐな思いに対する戸惑い。
そして。
いまの自分に対する呆れだった。
「……涼月。俺は本当に、守られる価値のある男なのかな?」
「提督?」
薬の効果なのか、それとは関係なく出てしまった言葉なのか。
気づくと俺は、そんなことを呟いてしまっていた。
「俺は、そんな立派な人間じゃないよ。いつだって自分のことばかり考えて、心配してくれる周りを無視して、無茶ばかりしてる」
その結果、今回のような事件まで引き起こしてしまった。
涼月の真摯な言葉が、自身を見つめ直す機会を作った。
その上で、わかった。
謎の艦娘をここまで駆り立てさせたのは、他でもない。
俺の責任だ。
俺がちゃんと、その艦娘と向き合わなかったせいだ。
そいつを安心させてやらなかったからだ。
止められたはずじゃないか。
俺がもうちょっと素直になって、艦娘たちの言葉に従っていれば。
防げたはずじゃないか。
俺が他人に甘えることを覚えれば。
……だが。
そうわかっていても、俺は……
他人に甘えるということができない。
一度でも、甘えることを覚えてしまったら、きっと俺は誰かに縋らないと生きていけなくなる。
それほどに、俺は弱いから。
「涼月は俺のこと強いって言うけど……違うんだ、強いフリをしてるだけだ。昔はもっと泣き虫だったんだ。何かあるとすぐに泣いて、母親に慰めてもらってさ。でも……」
もう慰めてくれる母はいない。
勇気づけてくれる父もいない。
だから泣き虫であることをやめた。
一人でも強くなると決めた。
父さんと母さんの仇を討つためにも、前を向いて進まなくていけないんだと言い聞かせて。
男なのだから。
そしていまの俺は、大人なのだから。
だから俺は、艦娘の思いに報いてやれない。
上官と部下だけの関係なら、何も問題はなかった。
でもそれ以上の関係を求められたら、拒むほかない。
他人の優しさに、甘んじるわけにはいかない。
強くあり続けるためにも。
そういう薄情な人間なのだ、俺は。
だから、涼月。
そんな人間に恩を感じる必要はないんだ。
「いいんだ涼月。そこまで俺のために必死にならなくても。俺は結局、その思いに応えてやれるほどの器じゃ……」
「提督」
柔らかな温もりが俺を包む。
慈愛、憐憫、切情──あらゆる感情が詰まった抱擁を、涼月はしてくる。
「提督、一人で抱え込まないでください」
万感の思いを込めて、涼月は語りかける。
「誰もが弱いんです。だから支え合って生きていくんです。あなただけが強くある必要は、ないんですよ?」
視線が重なる。
いままでに見たこともない、世界中の優しさを集めたような笑顔が、そこにはあった。
なぜだろう。
どうしていま俺は、母に抱かれたあの頃と同じ感覚を、味わっているのだろう。
「気持ちに応えるとか、報いるとか、気にしなくていいんです。もう充分、あなたは私に特別な場所をくれたのですから。私は、そんなあなたを守りたいと思った……それで、いいじゃないですか?」
そっと頭を撫でられる。
まるで赤子に触れるように、その手つきは、どこまでも優しい。
「ずっと、頑張ってこられたのですね? 誰にも弱音を言わず、ずっと一人で……」
弱音なんて、言えるわけがなかった。
俺が提督であり、人々の希望を背負っている以上。
……でも。
「提督、もう一人で頑張らなくていいんです。涼月がずっと、お傍でお守りします。あなたの支えに、なります。だから、安心して? 私の前だけでもいいですから……
──素直になって?」
もう、いいんじゃないか?
俺を受け入れてくれる、艦娘の前だけでは。
再び涼月と見つめ合う。
いつのまにか、唇と唇が触れ合いそうなほどに、密着していた。
「あっ……」
涼月もいまになって自覚したのか。
白い頬を桃色に染めて、瞳を切なげに潤ませた。
そこには、忠義や恩義とはまた異なる感情の色が宿り始めていた。
「……どうしてしまったのでしょう。いまの提督を見ていたら、何だか、私……」
どこか夢見心地の表情で、涼月は俺の頬に触れる。
「提督、私、変です。胸が、とても熱いんです」
密着した乳房を、涼月はより強く押し付ける。
お互いの鼓動が、肉体を通していまにも聞こえてきそうだった。
「この気持ちは、何なんでしょう……提督なら、わかりますか?」
わからない。
たぶんそれは俺も、憧れはしても、まだ経験したことのない感情だから。
でも……
「心に従ってみれば、わかるんじゃないか?」
なんの迷いもなく、俺の口はそう告げた。
「……」
涼月はゆっくりと瞳を閉じる。
俺も同じように、心に従うまま、瞳を閉じた。
そして……
「お取込み中のところ失礼えええええ!!」
部屋の扉が勢いよく開けられた。
「ひゃん! な、なんですか!?」
「いいところゴメン涼月! 悪いけど司令は連れて行くわ!」
「え? ええ?」
一瞬にして雰囲気をぶち壊した闖入者は、俺の手をガシっと掴むと、動揺している涼月を放って部屋から抜け出した。
「ちょちょちょ! な、なんだぁ!? いったい何事だ!?」
俺はそのまま手を引かれて、廊下を全力疾走する形になる。
「危なかったわね司令! あとちょっとで取り返しがつかなくなるところだったわ!」
「え!? あ、いや、まあ、確かにあとちょっとで卒業しかけるかもしれなかったけどさ……」
とつぜんのハプニングで冷水をかけられたように正気を取り戻すと、先ほどの涼月とのやり取りを思い出し、悶絶しそうな気分になるが……
手を引っ張る艦娘は、そんな暇も与えずに俺に走ることを強いる。
「卒業? まあ、いいわ! とにかく私についてきて司令! このままじゃマズイのよ!」
「マズイ? いや、そもそもお前、どうして……」
いきなり現れるなり、俺を引っ張る、その艦娘は……