重傷を負ってから艦娘が過保護すぎる件   作:青ヤギ

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決意とサラトガの柔らかバスト

 拝啓、天国のお父さん、お母さん。

 幼少時、あなたたちを深海棲艦による空襲で(うしな)ってから早数年。

 あなたたちの仇を討つため、世界の平和のため──そして未来の嫁さんとイチャイチャするため、今日も俺は提督として戦う日々を送っています。

 

 時期としては、そろそろ桜の蕾が芽吹く頃です。

 この季節になってくると、毎年家族で見に行っていた熊谷桜堤の桜風景や、お母さんの作ったおにぎりや卵焼きの味が、とても恋しくなります。

 

 怨敵である深海棲艦との戦いは、ひとつの節目(ふしめ)らしきものを終えました。

 恥ずかしながら世間から『英雄』などと持て(はやさ)されています。

 

 ……ははは、笑っちゃうだろ? あんな泣き虫坊主だった俺が『英雄』だってさ。

 確かに小さい頃は世の中の男の子の例に漏れず『大きくなったら世界を救うヒーローになるんだ!』って言っていたけど……まさか現実になるなんてな。

 図らずもひとつ、夢が叶ったわけだ。

 

 なら、今度はもうひとつの夢を──お父さんとお母さんたちのように幸せな家庭を作るという夢を叶えたい。

 

 俺が素敵な夫婦生活に憧れるのは他でもない。あなたたちが近所でも評判の仲良し夫婦だったからだ。

 そりゃもちろん、ときどき喧嘩もしていたけど、それすらどこか微笑ましい感じでさ。すぐに仲直りしちゃうし、見ている俺まで胸やけしちゃうぐらいのラブラブぶりで。

 まったく、参っちゃうよ。

 

 でも、そんな二人の息子に生まれたから、俺は幸せだったんだ。だって、あんなにも温かで愛に溢れた家庭は、そうない。

 いっぱいワガママ言って迷惑かけて、いっぱい叱られもしたけど、二人がどれだけ俺のことを愛してくれていたか、いまなら良くわかるよ。

 二人が『人』として本当に大切なことを教えてくれたから、いまの俺があるって確信している。

 

 そんな二人の老後は、誰よりも報われて、幸せに包まれたものでなければ、ならなかった筈だ。

 俺も嫁さんを貰って、二人に紹介して、安心させて、育ててくれた恩返しをする筈だったんだ。

 なのに……

 

 ごめん、お父さん、お母さん。そっちに行くのは、もう少しの間待っていてくれ。

 

 一度は死にかけて、二人のところへ行きたいって思いはしたけど……俺は天寿を全うするよ。

 二人の分までちゃんと生きたいんだ。

 生きて、生き抜いて──そして提督として人類の未来を守りたい。

 もうあのときのように、ただ理不尽に奪われるのは嫌だから。他の人たちに同じ思いをさせるのは嫌だから。

 だから俺は、これからも戦うよ。

 それが、あの火災でただ一人だけ生き残った自分の使命だと思うから。

 世界に平和を齎して、平和な世界で嫁さんと幸せになってみせるよ。

 何も恩が返せなかった罰当たりな息子が、唯一できる恩返しとして。

 

 約束するよ。きっと素敵なお嫁さんと一緒にお墓参りに行く。

 辛いことがたくさんあったけど、それでも今とっても幸せだよって報告するから。

 だから、どうか安心してほしい。

 あなたたちの息子は、英雄の名に恥じず、逞しく、強く生きたって誇れるように、俺がんばるから。

 

 

 ……そう。だから、いま目の前にある試練だって、きっと乗り越えてみせる。

 

 

 

 話は変わりますが、お父さんはよく俺に「人の厚意は素直に受け取りなさい」と言いましたね?

 どんな形であれ、思いやりの気持ちを蔑ろにしちゃいけない。人の輪は他人を思いやることで出来ているんだから、と。

 

 そのことを良く理解していたからこそ、お父さんはお母さんのような素敵な女性に巡り会えた。

 いざというとき助けてくれる親友たちにも恵まれた。おかげで身寄りのなくなった俺を彼らは助けてくれました。本当に感謝しています。

 

 他人を拒絶して自分のことしか考えない人間は、最後には孤独になることをお父さんは知っていた。そういう人間は、いざ本当に助けを必要とする状況に陥っても、もう誰も手を差し伸べてはくれないのだと。

 

 お父さんとお母さんを失った後、幼い俺が胸に刻んだのはその教えでした。

 辛くて悲しくても、それだけは絶対に守ろうと決めました。

 

 おかげで、種族が異なる艦娘たちとも、心を通わすことができたのだと思います。

 

 ……そう。それだけなら良かった。

 でも最近、素直に厚意を受け取ることが本当に正しいことなのか、わからなくなっています。

 

 何故かって?

 

 それは、このままだと、俺……

 

 

 艦娘たちの思いやりの心に、ダメにされてしまいそうなんです。

 

 

──────

 

 

 朝、美人な女性に起こしてもらう。

 これだけ聞くと何とも夢のような話だ。

 しかもそれが……

 

「提督? Good Morning♪ そろそろ起きる時間ですよ?」

 

 サラトガさんみたいな清楚なアメリカンビューティーに起こしてもらえるとしたら、男として舞い上がるほどに幸せな瞬間に違いない。

 

 お父さんも洋画の女優とかお好きでしたでしょ?

 俺も好きだったよ。たまにエッチなシーンとかあるものね。二人で鼻の下伸ばしながら見ていて、お母さんの拳骨を食らったあの日々が懐かしく感じられるよ。

 

 しかしだ。

 サラトガさんは、その記憶にある女優とは比べ物にならないくらいに美人で、面倒見の良い物腰の柔らかな淑女だ。

 しかも途轍もないダイナマイトボディの持ち主と非の打ちどころがない。細身のカラダにどうやってそんな大きな二房がくっついているの!? と衝撃を受けるくらいデカイです。

 デカイです(強調)。

 

 そんなお姉さんに優しく透き通るような声で起こされたら、そらもう最高の目覚めのひと言。

 洋画の主人公なら迷わず押し倒して「Oh Yes♡」なシーンに移行していたことだろう。

 

 

 

 しかし、自分にそんな不埒な行いは決して許されない。

 なぜなら、彼女は大切な部下だから。

 

 俺の代わりに海に出て、命をかけて戦う艦娘たち。

 そんな人類の希望である彼女たちに爛れた欲望をぶつけるなんて……艦娘たちの尊厳と誇りを踏み躙る裏切り行為に等しい。

 そりゃ見目麗しい彼女たちの魅力に何も感じないわけじゃないし、いろいろ桃色の想像を膨らませたことはあるけれども──それでも俺が提督である以上、越えてはならない一線というものがある。

 なにより男女というのは結婚するまでは清い関係でいなければ。

 

 と、思ってはいるんだが……

 

「あのサラトガさん」

 

「はい♪ 何ですか提督?」

 

「起こしてくれるのは、たいへん嬉しいんだけど」

 

「けど?」

 

「……そんなに抱きしめなくても宜しいと思いますことよ!?」

 

 しかも赤ん坊にするように、胸の中で抱きかかえるように。

 おっぱいが! サラトガさんの特大ダイナマイトおっぱいがお顔に!

 

「でも、男性はこうされると元気が湧くとお聞きしていますが?」

 

 その通りです。

 男として生まれたなら誰もが求めて止まない女性のおっぱい。

 その感触を顔面いっぱいに堪能できるだなんて「最高かよ」のひと言。

 しかもスタイル抜群の見た目も中身も超絶美人の超特大おっぱいだ。このまま昇天したって悔いはない。

 

 しかし俺は誓った。

 深海棲艦をすべて倒すまで、立派な提督として勤めると。

 たとえ艦娘たちが魅力的でもあくまで上官と部下の関係でいると。

 そして未来の嫁さんのためにも純潔を貫くと!

 

 だからサラトガさん。

 そんなに胸を押し付けないで! 特に朝はマズイから!

 

「提督。サラでよろしければ、たくさん元気にしてさしあげますね♪」

 

 いろいろな意味で元気になってしまう!

 

 

 

 お父さん。ご覧のとおりさ。

 俺の一日は、こうして艦娘の誰かしらに起こされて始まる。

 それも、だいたいは昨晩一緒に眠っていたのと同じように、抱きしめられた状態で。

 誤解しないでもらいたい。そう命じたわけではなく、艦娘たちがあくまで俺を心配して同衾しているだけなんだ。

 

 俺が重傷を負って生死の境を彷徨って以降、すっかり心配性になってしまった艦娘たち。

 俺が見えないところで、また危篤状態になってしまうのではないかと気が気でない彼女たちは、こうして常に傍にいて何かと尽くしてくれる。

 

 サラトガさんはもともと俺に対して好意的だったけど、まさか同じ寝床で一緒に眠るほどの関係になるとは思わなかった。

 彼女ほどの美女と同衾して、狼にならなかった俺の鋼の精神力をどうか褒めてほしい。

 厚意に付け込んで男の欲望をぶつけるなど言語道断と己を叱咤して、ようやく朝を迎えられた。

 

 そう、彼女たちの行動は、あくまで無茶を働いた俺を思いやってのこと。

 お父さんの教えの通り無下にしてはならない思いやりの気持ちというやつだ。

 

 しかし、それでも……度が過ぎるとそれは重みに変わるのだと、ここ最近痛感した。

 

 たとえば、俺が食事をするとき……

 

 

『おう、今日はカツレツかぁ。では早速このナイフとフォークで……』

 

『いけません提督!』

 

『え?』

 

『もしナイフで指を切って失血死されたらどうするんですか!』

 

『どんだけ脆弱なんだよ俺は!?』

 

 

 こんな具合に些細なことでも心配してくる艦娘たち。

 食器すらまともに持たせてくれないのだ。

 逆に心が休まりません。

 

 だが一番堪えたのはコレだ。

 

 

『お願いイク! トイレのときぐらい一人にさせて!』

 

『ダメなの! 用足してるときは、とっても無防備になるの! イクがじっと見守っててあげるから安心して出すの!』

 

『出せるか! こんなガン見された状態で!』

 

『出す! 出すのおおおお!』

 

『みぎゃあああああ! もう限界いぃ! でりゅうううううう!!』

 

 

 お母さん。あなたに見守られながらトイレをした幼き頃を思い出しました。

 とっても悲しい心境で。

 

 

 

 重い。とにかく重い。

 艦娘たちのご厚意が、過保護ぶりが、とても重くて、辛かとです。

 

 確かに、ここまで艦娘たちを心配性にさせてしまった俺にも非はある。

 

 しかし、ここまで来ると、もうただの過保護とは言えない。

 新種の過保護だ。

 過保護改だ。

 きっと改二が控えている。

 怖い。

 

 でも一番怖いのは、そんな艦娘たちに身を委ねてしまいそうになる自分自身だ。

 どうあれ、美人揃いの艦娘たちにここまで思われて尽くされるなんて、一種の男の夢が叶ったと言える状況。

 このまま流れに身を任せれば、そこには甘く心地いい至高の楽園が待ち受けていることだろう。

 

 けれど、断言できる。

 一度その坩堝(るつぼ)に嵌まってしまったら、二度と抜け出せないことを。

 そして、一度でも艦娘に手を出してしまった日には最後。

 

 間違いなく、猿になる。年がら年中、発情しまくる。

 

 そればかりは、やはり躊躇われる。

 

 だって言わば、艦娘はかつての母国を救ってくれた英霊だ。

 そんな彼女たちに劣情を覚えるのは、ひどく無礼な気がするというか、罪悪感が生じるというか。

 極端なこと言ってしまうと、偉人の絵を見て興奮するようなものだ。

 ……まあ、世の中にはモナ・リザの手を見て下品にも勃起するような人がいますけどね。

 

 

 

 とにかくだ。

 人類が生存するためには、どうしても艦娘たちのチカラが必要となってくる。そんな彼女たちを指揮できるのは俺だけなのだ。ならば俺がしっかりしないでどうする!

 

 絶対に、絶対に艦娘たちの甘やかしで我を失ったりしない!

 

「んっ……提督。そんなに息を荒くされたら、あんっ……くすぐったいです♡」

 

 ……お父さん。早くもこの魅惑的おっぱいに負けてしまいそうです。

 やめてよサラトガさん! そんな色っぽい声出されたら本当に洋画みたいな展開になっちゃいそうじゃないか!

 

「うふふ♡ もっと提督のこと抱きしめてあげたいですけど、そろそろ総員起こしをしないといけないですね。名残惜しいですけど起きましょうか?」

 

 そう言ってサラトガさんは、かけ布団を捲っていく。

 え? ちょっと待ってくれ。いま布団を捲られたら……。

 

「No! サラトガさんストップ! いま捲られるのはマズイYO!」

 

 なぜかエセ外人風に止めたが、時にすでに遅し。

 

「Oh……」

 

 サラトガさんが頬を真っ赤にする。

 朝の効果とサラトガさんの特大バストの影響で完全に目覚めた我が分身と見事にご対面してしまったのだ。

 Oh……と俺も思わず呻いた。

 

「……あ、その。て、提督も男の人ですものね」

 

 自由の国出身でも清楚なサラトガさんはこういうのに慣れていないのか。普段の余裕ある大人の表情は影を潜め、生娘のように恥ずかしげにオロオロとしている。

 

 しかし、それも束の間。

 顔を赤くしつつも、グッと拳を握って決心をしたかのように頷くと。

 

「提督……サラでよろしければ、その──すっきり、させてあげましょうか?」

 

「……」

 

 Hey 鎮まれマイサン。

 それ以上、起き上がるんじゃない。

 

 コレだ。

 俺が一番恐れているのはコレなのだ。

 

 艦娘たちは、どこまでも純粋に俺を心配して献身的に尽くしてくれる。

 だが、異常なまでに過保護になった彼女たちは、俺が望みさえすれば『そういう行為』だって懸命にしようとする。

 

 しかし誤解しないでほしい。

 何も彼女たちが淫乱と化したわけじゃない。

 いまのサラトガさんのように当たり前のように恥じらいはあるのだ。

 

 この間、俺に誘惑らしきことをしてきた大淀さんだって「提督と久しぶりに会えて舞い上がっていました! どうかお忘れください!」と後で顔真っ赤にしながら謝って来た(何故かやたらと股間の辺りをチラチラ見てきたのは気になったが)。

 

 そう、あくまで彼女たちは俺を思って男の喜ぶことを健気に実現しようとしてくれているだけだ。

 

 逆に言えば、それだけ彼女たちに心を許されているということ。

 男として誇らしいことこの上ない、至上の栄誉と言える。

 

 据え膳食わぬは男の恥。

 ここまで艦娘が勇気を振り絞って尽くそうとしてくれているのに、それを受け入れない男は真のヘタレに違いない。

 ああ、きっとその通りなのだろう。

 

 だから……

 

 

 

 

 

 

 

 俺はヘタレでいいんだい!

 

「シーユー、サラトガさん! 先に着替えて待ってるからね!」

 

「えっ! 提督!?」

 

 ごめんよサラトガさん。

 一線を越えるってことは、つまり責任を取るってことなんだ。

 サラトガさんのことはもちろん嫌いじゃないというかスグにお付き合いしたいぐらい好みドストライクだが、やはり平和な世を作るまで俺に恋愛は許されないんだ!

 

 ショボンとするな分身。

 この戦争が終わって無事結婚したら、ちゃんとお前も幸せにしてあげるから。

 

 さぁ今日も元気よく提督業開始だ!

 

「いけません提督」

 

「おうふ!?」

 

 いざ退室しようとすると、背後からサラトガさんに思いきり抱き締められた。

 必然的に『むにゅうううううううううん』と背中に押し当てられる巨大な双丘。

 やわらかあああああい!!

 

「まだ怪我が治ったわけじゃないんですから、ちゃんと安静にしていてくださいね? サラのお願いです♡」

 

 そう言って俺を落ち着かせるように頭を撫でて『いいこいいこ♡』してくるサラトガさん。

 こら、また元気になるな分身。

 

 ……ああ、だがしかし、本当に柔らかい。ナニこれ、本当にこの世に存在する物体?

 あまりの気持ちよさに、身体から、チカラが抜けていく……

 

 俺が大人しくなると、サラトガさんはまた俺の顔をたわわなバストに導いて、子どもをあやすように頭を撫でる。

 

「うふふ♡ 本日はサラが提督のこといっぱいお世話しちゃいます。どうかサラにいっぱい甘えてくださいね♡」

 

 逃れられない。

 どんなに決意を固めても、悲しき男のサガがこの甘い癒しに溺れてしまいたいと訴えてくる。

 これが悪意ではなく純粋な厚意だというのだから、安易に拒むこともできない。

 

 だからこそ……俺が理性を強く持っていればいいだけなんだ。

 諦めるな。負けるな俺。

 

 きっとこの試練を乗り越えれば、ハッピーエンドな未来が待っているんだから!

 

 

「提督? その……提督が望まれるようでしたら、本当にサラはいつでも、いいですからね?」

 

「……」

 

 あ゛あ゛~っ!

 やめろ! 別のハッピーエンドを想像するなあああ!

 

 

 

 

 

 お父さん、お母さん。どうか天国から見守りください。

 息子が見事本能に打ち勝ち、栄光の勝利をつかみ取るその日まで。

 

 そして、息子が無事運命の相手と巡り合えることを誰よりも信じていてください。

 わりと本気で。

 

 

 

「さぁ、提督♪ しっかり身支度をして、本日も素敵な提督として頑張りましょうね。朝食はもちろんサラが食べさせてあげます。うふふ♡」

 

 ちなみにこの後、滅茶苦茶お着替えを手伝ってもらい、朝ご飯を「あ~ん♡」して食べさせてもらった。

 




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 本当にありがとうございます!
 不定期ではありますが、できる限り頑張りたいと思います。

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