重傷を負ってから艦娘が過保護すぎる件   作:青ヤギ

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※サブタイを「謎の艦娘《S》を探せ!」から変更しましたが内容は同じです。


謎の艦娘《S》を探せ!
明石「できました! 艦娘に甘えたくなるお薬です!」①


「艦娘に、甘えたい」

 

 ダメだ。

 もう抑えきれない。

 自分を自分で、コントロールすることができない。

 艦娘に抱きしめられたい。

 艦娘に頭を撫でられたい。

 艦娘に優しく囁いてもらいたい。

 そして……

 

 愚かしく、そして激しい欲求がどんどん溢れてくる。

 脳内を過激な一色で染め尽くさんとばかりに。

 

「くっ! うわあああ!」

 

 だが堪えた。

 最後の意思を振り絞って、床に身を叩きつける。

 スグに起き上がられない勢いでの転倒。

 それにも関わらず……ああ、なんということか。

 倒れても(なお)、床を這ってでも、肉体は本能的に『彼女』へと向かっている。

 腕を広げて、愛しそうに、俺を見つめる艦娘に。

 

「──────」

 

 笑顔を浮かべながら『彼女』は囁く。

 

 もう我慢しなくていい。

 自分がすべてを受け入れる。

 自分があなたを幸せにする。

 だから……

 

 ──溺れてしまおう。

 

 そう『彼女』は語る。

 どこまでも深い慈愛と……狂気を孕んだ瞳を浮かべながら。

 

「あ、あぁ……っ」

 

 意識が混濁していく。

 自分が自分で無くなっていく。

 

 いけない。

 このままでは、『彼女』の思いどおりになってしまう。

 今回、俺を限界まで追い詰め、提督としての存在意義を奪おうとしている、『彼女』の計画どおりに!

 

「なぜだ……」

 

 徐々に失われていく自我を必死に繋ぎ留めながら、俺は尋ねる。

 いまだに、この現実を受け入れられないあまりに。

 

「なぜお前が、こんなことを!」

 

 記憶の中にある『彼女』は、決して非道な真似をする奴ではなかった。

 誰よりも、堅実で、眩しいほどに、まっすぐな娘だった。

 だというのに……

 

 俺の手に握られた、一冊のメモ帳。

 そこに書かれた、たったひとつのヒントを手がかりにして、俺はここまで辿り着いた。

 メモには、こう書かれている。

 

 

 ──依頼人《S》

 

 

 それが、今回すべてを裏で操っていた、恐るべき黒幕の称号だった。

 

 

 俺は甘かった。

 あれだけ『平和ボケしてはならない』と言い聞かせておきながら。

 その実、警戒心が緩んでいた。

 

 なぜ思い込んでしまったのだろう。

 たとえ過保護になっても、艦娘たちは基本みんな良い子だと。

 これまでの艦娘たちのやること為すことのほとんどが、男をケダモノに変えかねない過剰なご奉仕ばかりだった。

 それでも、彼女たちの心根には常に思いやりの気持ちがあった。

 彼女たちに悪意はない。それは理解していた。

 だから思ってしまったのだ。

 俺が理性を強く持ってさえいれば、何も害はないと。

 

 しかし、俺はもっと危機感をいだくべきだったのだ。

 なぜ考えなかったのだろう。

 俺を守るためなら……

 

 

 

 手段を選ばない艦娘が、存在することを。

 

 

 

 俺はこの日を、きっと忘れないだろう。

 いままでの試練など、今日という日に比べれば実に生やさしかった。

 そう痛感するほどに苦境な、この、長い長い一日を……

 

 

 

 

──────

 

 

 爽やかな朝だった。

 開けた窓から、心地いい風が入ってくる。

 

「う~ん、いい天気だ。こんな日は、きっと素敵なことしか起きないに違いない」

 

 こう過ごしやすい天気だと、書類仕事も捗るというものだ。「こいつ、いつも書類仕事しかやってねーな」という手厳しいツッコミは勘弁願いたい。

 

「とはいえ、そろそろ書類仕事以外にもやれること考えないとな、と我ながら思う今日この頃」

 

 そんな風に独り言ちりながら、毎度のように書類と睨めっこをしていると、

 

 

「提督~お疲れ様です~。お茶を淹れたのでよろしければどうぞ~」

 

「おう、明石(あかし)。珍しく気が利くじゃないか」

 

 

 いつもなら工廠に引き篭もっているはずの工作艦、明石がお茶を持ってきてくれた。

 大淀さんと同様、腰周りが露出した袴型のミニスカートから見える生白いお肌が今日も眩しい。

 朝から眼福である。

 

 しかし、あの明石がお茶を淹れてくれるだなんて、本当に珍しいな。

 艦娘たちが過保護になって各々ご奉仕をしてくる中、以前と変わらず装備の改修やら、奇天烈(きてれつ)な発明品を作ることばかりに熱中しているような娘だというのに。

 

 もっとも、その発明した品物で俺の負担を無くそうという気遣いは、普段からしてくれている。

 いうなれば、それが明石なりのご奉仕だ。

 他の艦娘の例に漏れず、俺のことを心配してくれているのは間違いない。

 

 ……ただ、渡される発明品が『心の疲れを吹っ飛ばす薬』といった使うのに躊躇うような怪しげな一品ばかりなのが、ちょっと困りものなんだよな。

 明石って創作意欲が暴走すると一気にマッドサイエンティストな側面が出たりするし……

 正直、受け取る身としては不安しかない。

 

 わざわざ、いろんなものを作ってくれる明石の気持ちは嬉しいのだが……ぶっちゃけ毎度、実験に使われるモルモットの気分になるため、発明品を試したことは一度もない。

 すまんな明石。

 

 

 そんな具合に、日々『修理』『研究』『開発』等に勤しんでいる生粋の技術者である明石が、突然こんなごく普通の気配りをしてくるのだから、まことに驚きである。

 何か、心境の変化でもあったのだろうか。

 

 

 とはいえ、艦娘たちの異様なレベルの過保護奉仕が日常となった今では、こうした細やかな気配りが一番ありがたく感じる。

 ここは喜んで戴くとしようじゃないか。

 

 

「ささ、どうぞどうぞ~♪ 有名ブランドの玉露ですから、凄くおいしいと思いますよ!」

 

「おう、そいつは飲まずにはいられないな」

 

「そうでしょそうでしょう~? さっ、提督! 一気にグイッと、どうぞ♪」

 

「いや、熱いお茶で一気飲みはできんだろうが。んぐっ……」

 

 

 と言いつつも、とくべつ猫舌でもない俺は、そのままグビグビとスポーツドリンクを飲む勢いで、あっという間にお茶を飲み干してしまった。

 なんというか、それぐらい一気飲みにしたくなるほど、そのお茶の味は……

 

「ゴクッ、ゴクッ……んぅ! これは! うまいぞおおお!」

 

 なんだコレは!

 あまりのうまさで、リアクションが異常なグルメアニメみたく雄たけびを上げながら破壊光線を放出してしまいそうだ。

 これは一杯では満足できん!

 青汁のCMとは逆バージョンの「うまいっ! もう一杯!」という感じに、明石におかわりを要求しようと口を開くと……

 

 

 

「艦娘に、甘えたい」

 

 

 

 口を衝いて出たのは、そんな言葉だった。

 

 

 ……何事でござるか?

 

 俺は自身の耳を疑った。

 嘘だろ。いまの俺が言ったのか?

 そんなバカな。

 日々、艦娘たちの過保護な甘やかしには屈しはせんと、意志を強く持っている俺が、あんなことを呟くなんて!

 もしや俺が思っているよりも、とっくに理性は限界を迎えていたのか?

 無意識に口にしてしまうほどに?

 

 な、なんてことだ!

 とうとう俺はダメ提督になってしまったのか!?

 大本営や人類の皆に、いったいどんな顔を向ければいいんだ!?

 

 己の精神のあまりの脆弱ぶりに絶望し、頭を抱えて悶えそうになると……

 

「フ、フフフフフ……」

 

 不敵に笑う明石と目が合った。

 先ほどまでの明るい笑顔ではなく、どこか邪悪に満ちた笑い方だ。

 

「明石。さてはお前……」

 

 明石がお茶を持ってくるなんて、珍しいというよりも、不自然だとは思っていた。

 先ほどの飲み干したお茶の器を見る。

 うまいお茶だったか、お茶にしては不可思議な味がした。

 高級の玉露だから、そういうものなのだろうと何食わぬ顔で飲んでしまったが……

 

「お前、お茶に何を淹れた?」

 

「ふっ」

 

 俺の疑問に答えるように、明石はシャツのジッパーを開け、胸元から一本の瓶を取り出す。

 反動でポヨンと揺れる明石の豊かな乳房。

 ……すげえ。胸が大きいと本当に谷間で物を仕込めるのか。

 緊迫すべき場面なのに、どうでもいいところに感心してしまう。

 哀しきは、色めいた瞬間を見逃せない童貞のサガよ。

 

 

 明石が取り出した瓶のラベルには、彼女の顔がデフォルメされたイラストが描かれている。

 激烈にセンスの悪いそのラベルは、瓶の中身が明石によって作られたことを意味している。

 見るからに怪しげな液体が入ったその瓶は……

 

「大成功です! 『提督が艦娘に甘えたくなってしょうがなくなる薬』! その完成度がここに証明されましたぁぁ!」

 

「明石ぃいいぃ! お前という奴はあああああ!!」

 

 なに達成感に満ちたドヤ顔で拳を天に突き上げてるんだこんにゃろおお!

 盛りやがった!

 コイツ上官相手に薬を盛りやがった!

 

 艦娘に甘えたくなる薬?

 普通の人ならそんなバカな代物があるか、と鼻で笑うことだろう。

 だが製作者が明石となれば、話は変わってくる。

 ただでさえ超常的なチカラを発揮する艦娘たち。

 その艦娘たちの装備改修や修理を引き受ける工作艦の技術力ならば、突飛な効力を秘めた薬を作ることなど造作もないことだ。

 その気になれば、冗談抜きでドラ〇もんの秘密道具並みのアイテムを作れるからなコイツ。

 

「なんということをしてくれたんだ明石! こんなことして許されると思ってるのか!? 罰として頭をいっぱいナデナデしなさい! ……ああっ!? また意思とは無関係にぃ!」

 

 現にいま、さっきから気を抜くと、艦娘に甘えたい、おねだりしたいという感情が込み上げてくる。

 どれだけの量を飲まされたのかは知れないが、どうやらすっかり明石の思惑に嵌まってしまったようだ。

 

「ふふふ。さっそく効果覿面ですね~。ご気分は如何ですか提督~?」

 

「お、お前なぁ! こんなの軍法会議ものだぞ!?」

 

 このことを大本営に報告すれば、上層部は然るべき対応をしてくれるだろう。

 理由はどうあれ、飲料に薬を秘密裏に投入するだなんて、ヘタをしたら反逆罪にもなりかねない。

 明石にお灸を据える意味でも、ここはきっちりとした処置をすべきだとは思うのだが……

 

「と、言うわりには提督いっつも大本営には報告しないじゃないですか」

 

 ああ、そうだよ!

 だって本当に報告しちゃったら大本営の方々容赦ないんだもの!

 最悪、解体という判決だって降しかねない。

 さすがにソレは明石が可哀想じゃないか!

 

 

 

 そう。

 俺がこう甘いもんだから、以前から明石は発明品の効果を試すため、頻繁に誰かしらを実験台にしていたのだ。

 そのことをすっかり失念していた。

 くっ! 誰もが過保護になったいま、さすがにもう、そんな真似はしてこないだろうと油断していた!

 

 大本営に報告したりはしない。

 だが、今日という今日は許してはおけん!

 

「明石ぃ! こんなことしてくれた責任は取ってもらうぞ! 今日一日その立派な膨らみで俺を癒し……なんでもない」

 

 危ねえ。

 薬の効果の後押しで、とんでもないことを要求するところだった。

 いかん。堪えるんだ俺。

 薬なんかのチカラに屈してはいかん。

 

 そんな風に焦る俺に反して、明石はたいへん満足気な顔でニタリと笑っている。

 

「何ですか何ですか提督~? いいんですよ~? 明石にして欲しいこと、何でもおっしゃてくださっても~。いまなら薬のせいでってことで誤魔化せるんですよ~? うふふ♪」

 

 挑発的な笑顔でカラダを寄せてくる明石。

 彼女が前屈みになると、セーラー服の中の豊かな乳房がたぷんと波打つ。

 サラトガさんやビスマルクのダイナマイトクラスと比べれば控えめだが、それでも男を惑わすのに充分なボリュームだ。

 思わずゴクリと喉が鳴る。

 コ、コイツ。意味わかって言ってんのか?

 弁解の余地を与えられた男が、どれだけ好き勝手に暴走すると思ってるんだ。

 いまだって、「ん? じゃあ放送コードがなんぼのもんじゃい! なコトしてもいいってことぉ?」とゲスイ一面が顔を出そうとしているんだぞ!

 男を甘く見るな明石!

 

「もう提督、そんなに怖い顔しないでください。確かに強引だったかもしれませんが、今回のことは、ある艦娘たってのお願いでやったことなんですから」

 

「なに?」

 

 つまりコレは明石の独断ではなく、ある艦娘の依頼ということか?

 

「聞いてください提督。その艦娘はたいへん嘆かれていたんです。提督がなかなか素直にならず、いまだにカラダに負担をかけることばかりしていると。

 ええ、それはもう心配していました。ひょっとしたら、この鎮守府で誰よりも提督の身を案じていたのではないでしょうか?

 ぐすっ。だから私にお願いしてきたんです。一日でもいいから、提督が素直に私たちに甘えて、心身共に癒されるようにして欲しいと! 泣かせますね~。なんて上官思いなんでしょう!」

 

 瞳をウルウルとさせながら、明石は事の経緯を力説する。

 

「やり方は確かに褒められたことではないかもしれません! でも! ここまで貴方を心配してくれる艦娘の純粋な思いを、提督は無下にするつもりなんですか!?」

 

「明石。目薬片手に言われても、ぜーんぜん心に響かないぞ」

 

「てへっ♪」

 

 あざとく舌を出す明石。

 バレバレの演技で同情を誘おうとしたってそうはいかん。

 

 しかしまあ、事の発端である艦娘は別にいるってことはわかったな。

 明石が言うには、他の艦娘同様、俺のことを非常に心配しているようだが……

 けれど、こればかりは、さすがに褒められないな。

 あまりにも、やり過ぎである。

 

 マッド気味な明石に依頼なんてしたら、どれほど突拍子もない事態が起きるか、知らなかったわけではあるまい。

 今回のような薬を作ることを、確信していた節さえある。

 誰かは知らないが、そこまでして、俺に無理をさせたくないというのか。

 う~ん。どうやらその艦娘、よほど過保護を拗らせているようだな。

 

「明石。その依頼人は誰だ? ちょっとソイツにお説教というか、話をつけてくるから」

 

「え?」

 

 ここは、ひと言ガツンと言ってやらないと、上官としての示しがつかない。

 その艦娘本人のタメにもならない。

 早いとこ、ケリをつけに行こう。

 

 しかし、俺の要求に明石は顔を青くしたかと思うと、ブンブンと首を横に振る。

 

「ダ、ダメです! 依頼人の詳細は提督には黙っているって約束したんです! 守秘義務ってやつです! こればっかりは提督にも教えられません!」

 

 んぅ? なんだこの明石の慌てよう。

 義理堅いと思わせるような言動だが、これはむしろ焦っているような……

 

 ……さては

 

「明石。その艦娘に何本の『ネジ』を渡された?」

 

「ギクッ!」

 

 明石の顔から見る見る汗が噴き出す。

 とてもバツが悪そうに眼を泳がせているあたり、どうやら間違いない。

 おかしいとは思った。

 いくら実験好き開発好きとはいえ、明石が無償で依頼を受けるだなんて。

 だが真相は単純だ。

 

 

 明石の奴、その謎の艦娘と取引しやがったな。

 

 

 装備の強化、または機種転換をする際には『改修資材』──通称『ネジ』と呼ばれる特殊な物質が必要とされる。

 これらは明石にしか扱えない代物で、多ければ多いほど、強力な装備を開発することができる。

 

 同時に今回のような奇天烈な薬を作る際にも活用できる、極めて謎の物質だ。

 いわば、技術者明石にとっては無くてはならない、宝石に等しい貴重物。

 とうぜん、明石はしょっちゅう欲しがっている。

 しかし、ネジは滅多に見つかるものじゃない。

 敵のボスを倒したときや、大規模な作戦が成功したとき、まるで報酬のように光と共に出現するのだが、そんな現象が起きるのも実に稀だ。

 一時期、ネジがたいへん不足することも珍しくない。

 その際、作りたいものが作れないあまり欲求不満になった明石が「提督~! これでもネジを用意できないって言うんですか~!? チラッチラッ!」とスカートの中身をチラつかせて無理にでも要求してくることもある(頑張って1本、2本は集めた)

 

 それほど、明石にとってネジとは求めて止まないもの。

 謎の依頼者は、どう集めたのか知らないが、ありったけの数のネジを明石に与えたものらしい。

 

 なにが上官思いか。なにが純粋な思いか。

 完全に私利私欲にまみれたブラックな交渉じゃねーか!

 

「おのれ明石ぃ! ネジの魔力に我を忘れてこんな非道な真似をするとは! この資本主義の権化め! 今日という今日は温和な俺も怒ったぞ!」

 

「て、提督。お、落ち着いてくださいよ~」

 

 落ち着けるか! 俺の男としての尊厳が懸かっているんだぞ!?

 さっきからお前の豊かな胸に飛び込みたい衝動を必死に抑えてんだからな!?

 

「明石! 解毒剤みたいなものがあるならスグに寄こせ! そうしたら三日間食事禁止程度の罰にしてやるから!」

 

「充分ひどい罰なんですけどソレ!?」

 

「四の五の言わない! 一秒過ぎるごとに罰のレベルを上げていくぞ! だから早く寄こしんさい! いーち……」

 

「鬼ですか!? ま、待ってください! 一応もしものとき用に解毒剤は作っておいたのですが……」

 

「なんだ、あるんじゃないか。じゃあ早くそれを……」

 

「で、でも。依頼人の艦娘に取られちゃったんですよね……あははっ♪」

 

 あはは、じゃないわ!

 くそっ、なんて手の込んだことを。

 準備といい、画策といい、逃げ道を塞ぐあたり、どうやらその依頼人、相当な切れ者と見た。

 こうなってくると、本当に俺の身を心配しての行動なのか、怪しく思えてきたぞ。

 何か他に、もっと大きな目的がある。そう黒い野望めいたものを感じる……。

 

 ここはやはり、無理やりにでも明石から聞き出すしかない。

 解毒剤もその艦娘が持っていると言うのなら尚更だ。

 

「吐けぇ明石ぃ! 誰に、誰に頼まれた!? 正直に吐けぇ!」

 

「ちょっ、て、提督。そんなに肩を掴んで揺らさないでください。こ、このままでは別のものを吐いてしまっ……うぷっ」

 

 知るか! これは尋問だ!

 さあ、ささっと(二重の意味で)吐いて楽になってしまえ!

 

 

 ……と、ヤケクソ気味に明石を揺らしていると、

 それは起きた。

 

 

 ──いや、楽になるのはお前だ。

 

 

「え?」

 

 自分の声でありながら、しかし自分のものではない声。

 それが、頭の中から、あるいは心の中から、響いてくる。

 

 ……ええ? ちょっとヤダ~。

 何、この感覚。めっちゃ怖いんですけど。

 まるでもう一人の自分が語り掛けてくるみたいな感じ。

 おいおい。千年アイテムなんて手に入れた覚えはないぞ?

 腕にシルバーなんて巻きたくねーぞ俺。

 

 ──装うな。眼を逸らすな。真実の姿を、曝し出せ。

 

 俺の戸惑いを無視して声は囁いてくる。

 多感な14歳の少年少女たちなら、さぞかし大歓声を上げるだろうシチュエーション。

 しかし、いざその身で体感したら恐怖の何物でもない。

 まるで、どんどん自分の意識がそぎ落とされていくような……

 

 いや、違う。

 これは、本能を引きずり出されているんだ。

 塗り固めていた理性を剥がし、いままで抑圧してきた、俺の巨大な本能を表に……

 

 

 待て。

 おい、待て。

 それはつまり、このままでは、俺が、

 

 

 ケダモノになってしまうということを意味している。

 

 

「待っ……」

 

 いつものように理性をフルに働かせようとした。

 だが、遅かった。

 いや、もはや意味を成さなかった。

 

 俺が摂取した薬は、余すことなく、俺の神経を蝕んでいたのだから。

 

「あ、ああっ……」

 

 もうひとつの声が囁く。

 

 ──その欲望、解放しろ。と。

 

「あ、ああああっ……」

 

「提督? どうしまし……」

 

 様子が変わった俺に明石が心配げに声をかけてきたが、その先は続かなかった。

 

 なぜなら、俺が思いきり明石に抱き着いたからだ。

 

「え? て、提督?」

 

「……たい」

 

「はい?」

 

 

 

「艦娘に、甘えたい」

 

 切な声色で、呟いた。

 誰でもない、俺自身の口で。

 

 




 別作品と同時進行しつつ執筆しているという理由もあり、たいへん更新が停滞してしまい申し訳ございません。

 それに加え、どの話を書いても提督がなかなか素直にならず、どうも話が進行しなくて苦戦してしまっている。というところもあります。

 潮ちゃんに押し倒されるとか、ヴェールヌイちゃんが猫になるとか、対馬ちゃんが裸で添い寝してたとか、シチュエーションはいくらでも考え付くのですが(ロリばかり? 気のせいでしょう)

 この調子では読者の方々が求めているものが出来上がらない。
 ……じゃあいっそもう、提督に無理やり甘えさせるか!
 という思いつきで始まったのが、今回のシリーズです。

 少年誌とかでよくある『〇〇編』みたいなノリで、当面は甘えたい衝動を持った提督が、あらゆる艦娘に意思とは無関係に甘えまくりつつ、黒幕と対決する、みたいな内容になっていきます。

 いきなり不穏な感じで始まっていますが、いつもどおりおバカなノリで進行していきますので、そこはご安心ください。

 改めまして、更新不定期でたいへん恐縮ですが、できるだけ早めに更新できるよう頑張りますので、お待ちください。
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