あかんこれ   作:シャケ@シャム猫亭

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2018/3/15 現在の草カウンター  3草


この世界の艦は艦にあらず

 また会ったな諸君。

 私だ、チート持ちの転生者だ。

 艦これの世界かと思ったら漢これの世界だった転生者だ。

 

 私は今、鎮守府の執務室にいる。

 あの漢体との対面の後、漢これショックでフリーズした私を、拳王型駆逐漢島風は俵担ぎで鎮守府にお持ち帰りした。

 送迎のため軍用ジープが用意されていたのだが、

 

「我が走った方が速い」

 

 つまりは、そういうことだ。

 乗り心地?

 そうだな……安全バーやベルトが無いジェットコースターとでも言えば伝わるだろうか。

 

 鎮守府まではあっという間であった。もしかしたら途中気絶していただけかもしれぬが、到着時刻から逆算すれば、なるほど確かにジープより早い。

 私は島風に門前で下ろすよう伝えるも、

 

「提督は執務室の場所が分からぬであろう? なに、大した(ろう)では無い(ゆえ)、このまま案内しよう」

 

 まさかの続行宣言である。

 確かに案内はありがたいし、そこに気が付くのは気配りができて良いことだ。だが、案内とはそこに至るまでの道順を教えるのも重要なのである。

 パルクールも真っ青な、塀を飛び越え建物の壁を駆け上がり、屋根から屋根へ飛び移る漢体専用一直線ルートを通られても何の参考にもならない。

 そして最後は、三階にある窓をぶち破ってのダイナミック入室である。粉微塵になった窓ガラスが、陽の光を乱反射して綺麗だった。

 

 執務室、つまりはここに着いた時、島風は私のことを優しく地に下ろした。

 まるで陶器でも扱うかのような変わりように、一言聞いてみれば、

 

「人は我らと違って脆いことを思い出した」

 

 まるで人の強度を知っているかのような素振りに、私の背中は粟立(あわだ)った。

 しかし私はそれを表情に出すわけにはいかぬ。私は彼らの提督であるが故に。

 ……すまぬ、九割嘘だ。

 不興を買ったら剛掌波を射たれると恐々としていただけだ。

 

 表情筋を無理やり動かし、引きつっているのを自覚出来る笑みを浮かべながら、島風に案内の礼を言う。

 (ろう)(ねぎら)うのではなく礼を言われたことが意外だったのか、島風は一瞬驚いた顔をした。そしてすぐに獰猛な笑みを浮かべる。

 

「気に入った。外出の用がある時は我を呼ぶがよい。何よりも(はや)く送り届けてみせよう」

 

 そう言って島風は執務室を後にした。

 私は島風が去ったのを見届けると、懐より手帳を取り出して以下を記した。

 

 

 提督の心得。

 一つ、外出を島風に悟られてはならぬ。

 

 

 手帳を丁重に懐へしまう。

 さて、提督として最初の仕事だ。

 飛び散った窓ガラスを掃除するとしよう。

 

 ……と思ったのだが、掃除道具が見当たらぬ。別の部屋になら置いてあるのだろうか。

 机や椅子にもガラスが散らばっているため、掃除をしないという選択肢は無い。

 どうしたものかと悩んでいると、執務室の扉が叩かれた。

 

「失礼する。提督が着任されたのと島風から聞き、ご挨拶に参った」

「む、ちょうどよかった。何か掃除道具を…………その服、陸奥(むつ)……いや、スカートが白い、長門(ながと)か?」

「ほう、私を知っているとは。既に全所属艦が頭に入っているということか」

 

 感心と頷く長門。その腰まで届く艶やかな黒髪がさらりと流れる。

 艦これを知らなくとも長門なら知っているという人もいるくらい、この長門は有名だ。その凛々しき姿と圧倒的な火力に諸兄は色々(・・)お世話になったことだろう。栄えある図鑑No.001は、艦隊これくしょんの顔と言っても差し支えはない。

 

 だが、漢体だ。

 

 美しき姿は何処にもなく、私の目に映るのは、島風と同じく筋肉ではち切れんばかりに伸びた服を着た雄々しき姿。

 熊など一捻りで倒せると言わんばかりの上腕二頭筋には、極太の血管が浮き出て走っている。

 頭の電装は、もはや鬼の角にしか見えぬ。

 

 ただ一つ、私が長門を長門だと判断できたのは、服装だけは艦娘と同じであったこと。それだけだ。

 私は努めて冷静なフリをして長門と軽く敬礼を交わす。

 

「本日付で着任した。これからよろしく頼む」

「戦艦長門だ。こちらこそよろしく頼む。敵艦隊との殴り合いなら任せておけ」

 

 そう言って長門は握り拳を作ってみせた。

 これは、主砲など積まなくてもこの拳一つで海域を制覇してみせるということなのだろうか。冗談だとしても、不可能とまったく思えぬあたりが笑えぬ。

 

「頼りにさせてもらう」

「うむ。して、提督よ。先ほど掃除道具がどうたら言っていたが……」

「あ、ああ。実はだな……」

 

 私はここまで来るまでにあった経緯を包み隠さず話した。

 それを聞いた長門は、大きなため息を吐く。

 

「災難であったな、提督。島風には私から言って聞かせる故、今回のことは不問と致してはくれぬか?」

「わかった。不問としよう」

「ありがたい。今、掃除道具を持ってくる。提督よ、しばし待たれよ」

 

 長門は文句の付け所のない敬礼をした後、執務室を出て行った。

 バタンと音がして扉が閉まる。

 同時に私は、へなへなと床に崩れ落ちた。

 

 緊張の糸が切れた、ただそれだけだ。

 心の準備ができておらぬところに、あの巨漢が現れたのだ。皮だけでも取り繕った私の精神力を褒めて欲しい。

 

 神よ、なぜだ!

 何故(なにゆえ)私を漢体これくしょんの世界に転生させたのだ!

 私に艦娘とのハーレムを約束してくれたのではなかったのか。吹雪(ふぶき)が、叢雲(むらくも)が、(さざなみ)が、(いなずま)が、五月雨(さみだれ)が私を待っているのではなかったのか!

 レア艦が迎えに来たからよいだろうとでも言うつもりか?

 ふざけるなっ!

 あれは艦ではない、漢だ!

 艦娘ではない、艦息ですらない、漢体だ!!

 

 百歩譲って、艦息だったならばまだ許せた。元々、軍は男社会なのだ。女の子がきゃっきゃしている方が異常なのである。

 それに、私は前世の妹に鍛えられたお陰でBLもいける口なのだ。彼らの中に混ざるのは勘弁だが、鎮守腐で起きた絡み話を肴に酒を飲む楽しみはあっただろう。

 

 だが、現実は漢体だ。

 

 彼らからいったいどんな話を聞けば肴にできるというのだ。

 筋肉とプロテインとタンパク質の話しか出ないのではなかろうか。あるいは鍛錬と鍛錬と鍛錬の話かも知れぬ。

 そも、何故彼らは服だけ艦娘なのだ。筋骨隆々でこの身こそが武器だと言わんばかりの漢ならば、ズボンで良いではないか。

 スカートを履いて敵に精神的ダメージを与えているわけでもあるまい。

 

 ……はっ!

 まさか、あれだけ男より漢らしいというのに、実は漢女(おとめ)なのか!?

 あの脂肪の欠片もない大胸筋が胸だとでもいうのか。

 認めん、認められるか、こんなこと。

 

 ……真相が何にせよ、私が提督の任に就くメリットは、もうない。

 今すぐにでも大本営に戻りたい。降格上等、何なら軍を辞めたっていい。とにかくこの鎮守府から一秒でも早く去りたい。

 

 しかし、それを許さぬのが、着任前に判を押した書類だ。

 

 漢体がこの世に生まれ、五年の月日が経った。

 謎の生物、いや、もう名前が明かされたのであったな、深海棲艦(しんかいせいかん)の侵略を水際で止めていた皇国は、彼らの戦果のお陰で反撃に転じることができた。前提督が大本営に栄転となった理由、それは本土近海と鎮守府海域を奪還した功績によるものである。

 

 それほど大きな功績を残しているのに、彼らは未だマル秘の存在であり、それを知るのは将官と一部の佐官のみ。「新兵器」のことは明かされていても、彼らの姿は全く広まっていない。

 その辺の理由は、今は重要ではないので語るのは後にして。

 マル秘とは、端的に言えば「バラしたら銃殺」ということである。

 しかも、本情報は特級指定なため栄転以外で大本営に戻ることがあれば、対情報漏えいのため軟禁か腹切である。

 何なら一生提督やってやるぜと言いながら判を押した当時の私をぶん殴りたい。

 

 己の境遇に絶望し、私は床に手を付いた。

 

「っい!」

 

 鋭く走った痛みに、慌てて手を床から離す。

 そうだった、床にはガラスが散っていたのであった。切った両の(てのひら)から血がポタポタと床に落ちる。両手とも深くはないが、テーピングくらいした方がいいかもしれない。

 ポケットに入っているハンカチを使おうと立ち上がったところで、長門が箒と塵取りを持って執務室に戻ってきた。

 

「提督、掃除道具を持って来た……どうしたのだ、その手は!?」

「い、いや、ついうっかりな。ガラスで切ってしまった」

「ガラスだと? あんなもので身体は……そうだ、人は私達より脆いのであったな」

 

 何ですか、それは。

 つまり漢体はガラス程度では傷一つ付かぬと?

 

「何を呆けている、両の手を(しん)(ぞう)より高く上げるのだ」

 

 そう言うと長門は、私の両手首を右手でまとめて掴み、上へと持ち上げる。

 

 私の足が床を離れた。

 

 宙ぶらりんである。

 長門は自身の手を顔の高さまで持ち上げただけだ。ただ、長門と私の間には、あまりにも身長差があった。

 

「このまま医務室まで行くぞ、軍医に見てもらうのだ」

 

 そのまま扉を開けて廊下を進む長門。

 何も知らぬ人が見たら、私のことを指差してこう言うだろう。

 猟師に囚われた兎。耳の代わりに両腕を掴まれ、これから血抜きと解体が待っているのだと。

 

 何も間違いではない。

 この時、私の目は間違いなく死んでいたのである。

 

「おや、長門。その手に持つのは、もしかして新任の提督では?」

 

 執務室を出て廊下を進み最初の角を曲がろうとしたとき、向こう側から新たな艦が現れた。

 白のセーラー服に、胸元には赤いリボン。紺のスカートは、裾の生地が小豆色。

 この服装は一艦しかいないから分かる。

 

明石(あかし)か。そうだ、我らが提督殿だ」

 

 そう、明石だ。泊地修理によるバケツ節約や改修工廠での装備改修で大活躍の明石だ。

 非戦闘艦のため、レベル上げが少々面倒であったあの明石だ。

 

「先ほど怪我をしてしまってな、医務室へお連れするところだ」

「何? どれ、私が治してやろう」

「おお、そうしてくれるか」

 

 獲物の受け渡しでもするかのように、長門は私のことを明石に差し出した。

 言い忘れた、いや、言う必要などないのかもしれないが、明石も漢体だ。私の身体は地に付くことなく、今度は明石によって吊り下げられる。

 

「ふむ、怪我は掌の切り傷……よし、じっとしておれよ」

 

 左手で私をぶら下げたまま、明石はゆっくりと右手の五指を私の腕へ近づける。

 

「ま、待て、何をする気だ」

「動くな」

 

 さながらドラゴンに睨まれたカエルだ。ぎらりとした眼光で睨まれては、私はもはや動くことは叶わぬ。

 

「そうだ、じっとしておれ。人は私達よりも小さき故、動かれると秘孔が定まらぬ」

 

 ずぶずぶと明石の太い五指が、私の腕にめり込んでいく。

 まったく痛みを感じないところが、逆に恐怖である。

 

「……終わったぞ」

 

 治療が終わり、ようやく私は地に足を付けることができた。

 掌を見れば、確かに傷が塞がっている。

 

「手の傷が塞がる秘孔を突いた。だが、応急処置ゆえ、今日は鍛錬等激しい運動はなさらぬように」

「あ、ああ。感謝する」

「うむ……おっと、ご挨拶がまだであったな。明石型工作艦 明石だ。艦隊の修理が本業であるが、人も少しはできる故、先のようなことがあったら私を頼るがいい」

 

 秘孔を突いて治療とは、明石は北斗神拳の継承者か。必殺技は有情破顔拳なのか。

 非戦闘艦とか嘘であろう。

 

「もっとも、人は小さいからうっかり別の秘孔を突いてしまうかもしれんが、そのときは許してくれよ」

「何、明石が人の治療をするのは何度も見ているが、間違えたのは数度だけだ。提督、安心して治療を受けるがいい」

 

 はっはっはと笑う二人に、私は問いたい。

 その間違えた人はどうなったのだ……「たわばっ!」なのか、それとも「ひでぶっ!」なのか。

 

 どちらにせよ、決まった。

 

 

 提督の心得

 一つ、外出を島風に悟られてはならぬ。

 一つ、怪我を長門に見つかってはならぬ。

 一つ、明石の治療を受けてはならぬ。

 

 

 いったい、何ヶ条まで増えるのであろうか……。




面白かったら感想に草とでも書いといてください。


ハーメルンには、艦娘も艦息もあるのに漢体はほとんどないですね。
漢体のイラストは結構あるんですから、人気はありそうなジャンルですのに。

そこのあなた、書いてください。

私? 続けてもニワカ晒すだけなんで……。
だからいつでも止めれるように短編で更新してるんだし。
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