コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~ 作:スターゲイザー
映画もやってますし、コードギアスの再放送を見て衝動的に。
だが、後悔はない。
第一話 シャーリー生存√
弱者は決して強者には勝てず、搾取されるばかり。
黒の騎士団を立ち上げた稀代のテロリストであるゼロの正体であるルルーシュは獣の論理を壊す為に超大国ブリタニアに戦いを挑み、一度は完膚なきまでに敗北したものの再び立ち上がった。
人の意志では抗い様の無い定め。運命とは流れる川のようなものであると言った者がいた。
ゼロとして幾度もの奇跡を起こして反ブリタニア勢力を纏めつつあるルルーシュの前に過去からの因縁が立ち塞がるのは必然だったのかもしれない。
「ジェレミア・ゴットバルト……」
ギアス嚮団より放たれた刺客であるジェレミアと単身で対峙してしまったルルーシュは、モノレール乗り場の行き止まりを前にして振り返る。
「機械の体、ギアスキャンセラー…………純血派のリーダーを気取っていた男が改造人間に落ちるとは。執念は一流だな、オレンジ」
「なんとでも言うがいい」
禁忌のワードであるオレンジと呼んで思考を乱そうとしたルルーシュの策に、ジェレミアは髪の毛一本ほどの動揺も見せない。
策通りに進んだこの状況にルルーシュは一歩踏み出したジェレミアを視界に収めながら、事前に取り出していた装置を固く握る。
(ギアスキャンセラー、確かに俺にとって天敵とも言える力だが動力源があるはず)
バッテリーなどの動力を身に着けているようには見えない。
体に動力源を仕込んでいるとすれば、ここに来るまで何度もギアスキャンセラーの力を発動したことを考えれば最も有力なのはサクラダイト。
サクラダイトに干渉し、活動を停止させる装置であるゲフィオン・ディスターバーを後の作戦の為に列車駅員をギアスで操作してモノレールに仕込んでいる。
(動力源がサクラダイトであるかは賭けになるが)
ジェレミアがサクラダイトを体に仕込んでいるならば、ゲフィオン・ディスターバーを作動させれば身動きできなくなる。
(俺は奇跡の男ゼロ! この程度の苦難など乗り越えて見せる!)
失敗した場合のことを考えて別のプランを組み立てながら、事前に実験できるこの機会を活かさないはずがない。
「貴様に…………いや、あなたに聞きたいことがある」
ジェレミアが二歩目を踏み出しながら言った言葉に、ルルーシュはゲフィオン・ディスターバーを作動させるボタンを押すのを一瞬留まった。
「何?」
敵を見る目ではないジェレミアに困惑したルルーシュに、ジェレミアは安易に近づくことなく片膝と両手を地面についた。
ジェレミアが直ぐに動きにくい体勢になったことで、ルルーシュはボタンを押しかけたまま止まる。
「V.V.から先代ゼロの殺害を命じられた時、その名を聞いてまさかと思いました」
騎士が王に跪くような体勢のまま、ジェレミアは当時の心境を語り始めた。
「ルルーシュ・ランペルージ…………我が敬愛するマリアンヌ皇妃の御子の名と同じ。ナナリー様が生きておられたことも考えれば、ルルーシュ様が生きておられても何もおかしいことではない。私は歓喜に打ち震えました」
「…………」
「私は初任務だったマリアンヌ皇妃の護衛にも関わらず守れず忠義を果たせなかった」
込み上げる悔しさで地についた手を固く握るジェレミアが嘘をついているようにはルルーシュにも見えなかった。
「お前は、俺を殺しに来たのではなく……」
「私の主君は、V.V.ではなくマリアンヌ様に」
そして、ジェレミアは意を決したように顔を上げる。
「ルルーシュ様、あなたは何故ゼロを演じるのです? 祖国ブリタニアを、実の父親を敵に回すのですか?」
ジェレミアからは罠の気配は感じない。ただ真摯にルルーシュに真意を問おうとしている。
その問いにルルーシュは一度目を閉じた。
「ブリタニア皇帝シャルルは、母さんを見殺しにした。その為にナナリーは目と足を奪われ、俺達は人質として日本に送られた。その後のことは知っているだろう。ブリタニアは日本に戦争を仕掛け、占領した。俺達がいるのもお構いなしに」
母への忠義を果たせなかったと無念を明らかにしようとも、ジェレミアを信用も信頼もしないが正体は知られているのだから話を引き延ばしてロロが来るまでの時間を稼ぐ。
「仮にブリタニアに戻ろうとも政治の道具にされるだけ。ブリタニアに怯えて暮らし続けるなど御免だ」
「だから、ゼロとして立ち上がり、ブリタニアを討つと?」
ルルーシュの烈火の眼差しが言葉よりも雄弁に物語っていた。
「倒すべきはブリタニアという国と、その国の有様を歪めている弱肉強食の論理を振るう皇帝だ」
ふと、話している途中でルルーシュの脳裏を過ったのは、ジェレミアの襲撃で別れたシャーリー・フェネットのことだった。
日本が侵略され、身を隠さなければならなかったルルーシュは他人に対して臆病で疑い深く、ブリタニアからエリア11にやってきた者に対して好意的ではなかった。
シャーリーと関わったことで、間違っているのは個人ではなくブリタニアという国の体制そのものであり、その頂点に立って国を力尽くで動かしている皇帝シャルルであると気づいた。
「弱肉強食は獣のルール、俺達は人間だ。獣じゃない」
立場を変えれば誰もが強者になり弱者にも成り得ることをルルーシュは何度も思い知った。
だからこそ、理性を持った人として獣のルールを否定する。
「ナナリーが望む世界はそんな世界じゃない」
「ルルーシュ様……」
畢竟、ルルーシュが立ち上がった理由はナナリーに収束する。
「ブリタニアと戦っていれば母さんの死の真相を知る者も出て来るだろう。コーネリアは知らなかったようだが」
「申し訳ありません。私が何か知っていれば良かったのですが」
ジェレミアがあの日に関わっていたことは知らなかったが、これほど忠義に燃えている男がマリアンヌのことで嘘をつくようにも見えない。
(は!? 俺は敵と何を呑気に話している!)
襲撃者の言うことを疑うことなく鵜呑みにして、のほほんと会話に興じている自分がルルーシュは信じられなかった。
「このジェレミア・ゴットバルト、微力ながらもルルーシュ様のお力になりたく」
「では、ギアス嚮団本部とV.Vの居場所を言ってみるがいい」
「中華連邦の砂漠地帯に本部が有り、V.V.もそこに」
あっさりと答えられ、漫画であるならば「…………」と付きそうな顔でジェレミアを見るルルーシュ。
「あの子供の姿をした小賢しい悪魔を討つ時には必ず私も。嚮団には絶対数は多くありませんがギアスユーザーがいます。私のギアスキャンセラーの力が役に立つでしょう」
「む……」
ルルーシュが知るだけでもギアスには、自身の絶対遵守、マオの読心、シャルルの記憶改竄、ロロの体感時間停止と多種多様。
刺客を送られた以上は、ギアス嚮団との決戦は避けられない。ジェレミアのギアスキャンセラーの力は、あればかなりの力を発揮してくるだろう。
(どうする? ジェレミアの力は使えるが信用出来るのか)
人は容易く嘘をつく。
ギアスで従わせるのが一番安心できるのだが、ジェレミアにはギアスキャンセラーがあるので絶対遵守の力が意味を為さない。
「…………良いだろう。ジェレミア卿、貴公の忠義を信じる。裏切ってくれるなよ」
様々な思考の果てにジェレミアを受け入れた上での損得を考え、仲間として受け入れることを決めた。
「イエス・ユア・ハイネス!」
顔面を喜悦で染めて応えるジェレミアの態度は本物であると、疑い深いルルーシュにも見えた。
「この駅から目立たずに脱出しなければならない。ジェレミアは先行し、危険がないかを確かめてもらおう」
「はっ」
「仲間のロロが向かって来ているから合流しろ」
駅員を倒すジェレミアの姿は多くの人に見られたことだろう。残っていたルルーシュも見つかって尋問されるのはよろしくない。
テロ騒ぎで避難誘導が行われている中で、ルルーシュへの危険性を減らす為にジェレミアを先行させると向かって来ているロロと鉢合わせする可能性も高い。
仲間にしたことを連絡はするが、不意の遭遇戦に体が反応してしまうことは多々ある。
ロロの体感時間停止のギアスは不意を打つのに適しているので、仲間にしたジェレミアを殺されるのは困るのでギアスキャンセラーを発動させておくように言って先行させる。
「こちらからも連絡を入れておくが一応、ギアスキャンセラーは発動しておけ。ロロのギアスは体感時間を止めるからな。他にも俺のギアスの命令下にある者もまだいるかもしれない」
ゲフィオン・ディスターバーを使わなかったこと、ジェレミアへのアドバイスをしたこと、この判断がルルーシュを違う運命の流れへと導くことになる。
ルルーシュがジェレミアに追い詰められ、ゲフィオン・ディスターバーを発動させるか迷っていた時にシャーリーとロロは出会っていた。
「ロロ!?」
「シャーリー、さん……」
兄であるルルーシュを狙うジェレミアを追ってやってきたロロと、奇しくもジェレミアのギアスキャンセラーで封じられていた記憶が蘇ったシャーリー。
同じ人物を求めてこの地へと集った二人は運命に導かれるように出会ってしまった。
「どうしてここに?」
「僕は兄さんに呼ばれて。シャーリーさんこそ」
屋上につけたヘリコプターからテロ騒ぎで止まったエスカレーターを駆け下りて来たロロは、問うシャーリーの手に握られた銃を見た。
「ルルに話したいことがあるの」
その言葉を聞いてロロの目の奥に嫉妬と羨望が宿る。
「それと、あなたにも聞きたいことがあるのロロ」
これは絶好の機会である、とロロの中の悪魔が囁いた。
「答えて、
「!?」
体感時間停止のギアスを発動させ、シャーリーが持つ銃で彼女を撃とうと考えていたロロは動揺したように指先を揺らした。
「な、何を言ってるの、シャーリー? 僕はロロ・ランペルージ。兄さんの弟だよ」
「本当に?」
動揺しながらも答えたロロは疑問を呈されたことに腹を立て、キッと強い眼差しでシャーリーを睨む。
「一年前までルルに弟なんていなかった。いなかった、はず」
途中で自信を無くしたのはシャーリー自身、ルルーシュの全てを知っているわけではないから。
ナナリーという妹がいるのは確実だが、ルルーシュのアッシュフォード学園入学以前の過去を知らないから弟が絶対にいないと断言できなかった。
「私は、ルルが好き。ロロはどう?」
「好きだよ」
たった一人の兄だから、ロロに家族の温かさを教えてくれた人だから、色んな理由はあるにしても好意の気持ちにおいて他の誰にも負けるつもりはなかった。
「ルルの秘密を知っても?」
ロロの存在に疑問を覚えていたことから怪しんだが、その言葉でシャーリーがシャルルにかけられた記憶改竄のギアスが解かれているのを確信する。
「知ってるよ、僕は。きっとシャーリーよりもずっと」
ルルーシュへの独占欲の発露から、気付けばロロは勝ち誇るように唇の端を上げながらシャーリーに向かって言っていた。
「あなたは味方なのね、ルルの」
「え」
ロロには分からないが、如何なる理由によってか警戒を解いたシャーリーが銃の引き金から指を離したのを見逃さない。
「お願い、私も仲間に入れて。私もルルを守りたいの!」
熱情を高めて行くシャーリーとは裏腹にロロの心はどこまでも冷めていく。
「取り戻してあげたいの、ルルの幸せを」
何を取り戻す必要があるのか、とロロは内心で毒づいた。
偽りの関係でありながらも兄の傍にいられる今の生活で十分なのに、目の前の女は全く違うことを言っている。
(僕と出会う前に戻すだって?)
満ち足りた今ではない。取り戻すということは、ロロがルルーシュと出会う前を意味している。
(兄さんを煩わせるモノが多すぎるぐらいなんだ)
ブリタニア、黒の騎士団、ギアス嚮団…………極論で言えば、ルルーシュの周りにある自身以外の全てが邪魔だとすら思っている中で、シャーリーの言葉はロロの神経を逆なでする。
「妹のナナちゃんだって、一緒に!!」
その言葉がロロにシャーリーを害させるトリガーとなった。
ナナリーこそルルーシュの家族という自分の立場を脅かす存在である。
「ナナリーなんていらない」
「え?」
「シャーリー、君は邪魔だ!」
体感時間停止のギアスを発動させてシャーリーを止める。
シャーリーの位置は十分にギアスの効果範囲内に含まれる。一定範囲内の相手の体感時間を止めて、行動や思考を止められたシャーリーに向かって歩く。その目的は倒れている警備から奪い取ったであろうシャーリーが持つ銃。
「君が悪いんだ」
ルルーシュに特別な感情を向けられるシャーリーは、ロロにとってその存在そのものが邪魔なのだ。
彼女が持つ銃に手を伸ばす。
銃を奪ってから撃ちたいが、そうなれば他殺の疑いが強く成ってしまう。どうせならば自殺したと警察を思わせる為に、止まっているシャーリーの腕を持って銃口をその腹へと押し付ける。
後は引き金を引けば銃口が発射されるその瞬間だった、ロロの携帯電話が鳴り出したのは。
「えっ!?」
言葉のままに引き金を引こうとした指がかかったところで、突如として体感時間が停止しているはずのシャーリーが動いた。
鳴り出した自身の携帯電話にも驚きながらも、ロロはそれでも構わずに引き金を引いた。
「あぐっ!?」
「貴様! 何をしている!!」
弾丸がその身を貫いたシャーリーの苦痛の呻きの直後、男――――ルルーシュに先行してこの階へと上がって来たジェレミアの叫びにロロはそちらを見た。
仰向けに倒れるシャーリーに構わず、ルルーシュを狙うジェレミアが現れたことに舌打ちをするロロ。
(ジェレミアに僕のギアスは効かない。武器が無いと)
武器は身近にあった。シャーリーの銃で生身の部分に当てれば倒せる。
まだジェレミアとはかなりの距離がある。シャーリーが手放した銃を手に取って構えて撃つ時間は十分にあった。
「シャーリー!」
撃たれたシャーリーが手放した床に転がっている銃を拾い、向かって来るジェレミアに構えた瞬間に遅れてエスカレーターを上って来た携帯電話を耳に当てていたルルーシュの声さえなければ。
「はっ!」
「うっ!?」
この階に上がって来たルルーシュの視界に自分も映っていたはずなのに、倒れているシャーリーしか目に入っていないルルーシュに動きを止めたロロは身を低くして接近したジェレミアの蹴りに拳銃を弾き飛ばされる。
「ロロ、貴様!」
銃を持っていたロロと腹部を抑えて倒れているシャーリー。
両者を見て、持ち前の洞察力で一瞬で状況を読み取ったルルーシュの激怒の眼差しが、身に沁みついたジェレミアの追撃を避けるために後退したロロを射抜く。
「ち、違う兄さん! シャーリーが記憶を取り戻していて、拳銃を手に兄さんを追っていたから僕は」
「黙れ!! ジェレミア、ロロを殺せ!」
兄を守る為だと弁明しようとしたロロに対して、例えどんな理由であろうともシャーリーを傷つけたという一点だけでルルーシュにはロロを排除する理由に成り得た。
「イエス・ユア・ハイネス!」
主の意向のままに騎士たるジェレミアは行動する。
「兄さん!?」
悲壮な叫びを上げるロロは向かって来るジェレミアに対処せざるをえない。
銃を失ったロロにジェレミアと戦うだけの力はない。
逃走を選んでこの場からいなくなるロロと追うジェレミア。
「シャーリー!」
いなくなったロロとジェレミアのことよりも、仰臥位で腹部の右側を抑えるシャーリーの下へと駆け寄ったルルーシュ。
ジェレミアが仲間になったことをロロに伝える為に電話をかけていた携帯電話で救急車を呼ぶ。
「ルル……」
「今、医者を呼んだ。だから頑張ってくれ! くそっ、まだか!」
目を開けたシャーリーに言いながら、たった今呼んだばかりの医者はまだ来ないのかと辺りを見渡す。
論理性の欠片もないと自覚するよりも焦りがルルーシュを支配していた。
「私ね、記憶が戻って凄く怖かった……」
抑えている腹部を中心として徐々に服が血で真っ赤に染まっていく。その最中に放たれたシャーリーの言葉にルルーシュは目を見開いた。
「偽物の先生に、記憶にない友達に、みんなが嘘をついている。世界中が私を見張っているような気がして」
痛みに顔中に脂汗を浮かべながらシャーリーは必死に話していた。
「ルルは こんな世界で、一人で戦ってたんだね。たった一人で。だから私は、私だけは、ルルの本当になってあげたいって」
「…………シャーリー」
苦し気に語るシャーリーにルルーシュが言える言葉がない。
「私、ルルが好き……お父さんを巻き込んだって分かってても、ルルを嫌いになれなかった。ルルは……全部忘れさせてくれたのに、それでも、またルル……を好きになった……記憶を、弄られても、また……好きになった。これって、運命だよね……」
血がどんどん流れていくに従ってシャーリーの言葉も途切れ途切れになってきた。
ギアスに翻弄されて来たシャーリーには二度と使うまいと決めていた力を使ってでもシャーリーを救おうと、ルルーシュは左目の特殊なコンタクトを外す。
「もう喋るなシャーリー! 死ぬな!死ぬなっ!!」
「ロロを、許して……あげて…………」
「シャーリー! シャーリー!!」
やがて意識を失ったシャーリーを前にして、かけていたギアスすらも効かなくなったルルーシュに出来ることは何もなかった。
原作との変更点
・ジェレミアが忠義の姿勢を見せること早かったのでルルーシュはゲフィオン・ディスターバーを起動させていない
・ロロと出会ったシャーリーとの会話内容(直ぐにナナリーの件を出さないなど)
・二人の会話時間が長引き、ジェレミアがギアスキャンセラーを発動させながら移動していたので時間停止していたシャーリーが動いたことで狙いが外れた(撃たれたのは変わらない)
・ロロが銃を持ち、シャーリーが倒れているのを見たルルーシュの命令
・ルルーシュは医者を呼んだ
つまりはシャーリー生存√に突入。