コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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始めに謝罪を。参考にしてたR2の台詞集が間違って投稿されてしまいました。
こちらが本編です。




第十話 シュナイゼルの仮面

 

 

 アッシュフォード学園の生徒会室は、現状で最も世界を動かし得る二人が会談を行うには適切であるとは言えないだろう。

 

「何分急だったもので、座り心地が悪いかもしれないが勘弁してもらいたい」

「いや、偶にはこういうのも悪くない」

 

 部屋の広さは十分にあるが、超重要人物が座るような椅子ではないし、間にある机も決して上等と呼べるものではない。

 中小企業の会議室よりは少しマシといった程度で、アッシュフォード学園内に限って言っても学園長室や会議室の方が上等な物が置かれている。

 座り慣れているルルーシュとはともかくとして、生まれた時から恵まれていたシュナイゼルに対する盤外戦術である。

 

「直接会うのは朱禁城以来になるのかな、ゼロ」

 

 カツン、とシュナイゼルはルルーシュが机に無造作に置いていたチェスの駒を動かす。

 

「あの時の決着をお望みかな、シュナイゼル」

「それは君も同じではないかな」

 

 ルルーシュは仮面の内側でニヤリと笑いながら、黒の駒を手に取ってカツンと強い音を立てて置く。

 

「君を見習って私もキングを動かすとしよう」

 

 同じように笑いながら、朱禁城でルルーシュが言った『王が動かなければ部下は着いて来ない』を引き合いに出して白のキングを動かすシュナイゼル。

 

「実際に自ら動き、皇位を簒奪した者らしい手だ」

 

 対抗するように黒のキングを動かしたルルーシュの皮肉にシュナイゼルは苦笑を返した。

 

「前皇帝があまりにも不甲斐なくてね。このままではいけないと思っていたが兄上が立つ様子はなかった」

「だから、自分が立つしかなかったと?」

「否定はしないよ」

 

 カツン、カツン、と時折十数秒程度の読みを挟みながらも、盤面だけではなく舌戦も行われている。

 

「シュナイゼル陛下、あなたは世間で自分が何と呼ばれているかご存知でしょうか?」

 

 切り崩しに失敗して別の場所に力を入れながら、ルルーシュは雑談のように話しかけた。

 

「悪逆皇帝だろ。陳腐なネーミングに思わず笑ってしまったよ」

「だが、正鵠を射ている」

 

 重戦術級弾頭であるフレイヤで帝都ペンドラゴンを恐怖の坩堝に落とし、自らへの皇位への継承を強いた男に付けられた超合衆国圏での仇名である。

 父であるシャルルを追い落として殆どの者に望まれないタイミングで皇位に着いたシュナイゼルにピッタリと言えるだろうと、ゼロはポーンを盤面の一番奥まで進めてプロモーションさせる。

 

「あなたの狙いは何ですか、悪逆皇帝シュナイゼル」

 

 ルルーシュは盤面から顔を上げ、仮面越しではあるがシュナイゼルの他人に感情の覗かせない目を見る。

 

「狙いとは…………世界征服を唱えた前皇帝シャルルと違い、私には世界を征服する野望などないし、エリア政策も続ける気は無い」

 

 テレビ放送で流された所信表明演説に偽りはないと告げたシュナイゼルの反撃の一手がルルーシュを襲う。

 

「今のブリタニアは、あなた達にとっても良い国になったのではないかな」

「言葉だけで捉えるならば、な」

 

 感情のままに突き進む一手を紙一重で躱し、罠を張って誘い込む。

 

「フレイヤによる恐怖で治めたところで一時的な物に過ぎない」

「だから、自分がブリタニアを負かすと?」

 

 罠は切り抜けられたが次なる一手を用意していたルルーシュの手がピタリと止まる。

 

「ゼロ、君は今のままで世界でいいというのかい?」

「それは……」

「人の本質とはね、何かに支配されたいということなんだよ。民族 宗教 伝統 権威…………ブリタニア皇帝はそれらを演じねばならない」

 

 対応を誤ったのを見抜いて猛攻を仕掛けるシュナイゼルの手に対応を迫られ、ルルーシュは頭脳を働かせる。

 

「あなたなら、演じられるというのですか? 皇帝を」

 

 負けてなるものかと決起し、反逆の一手を仕掛けたルルーシュに対して暖簾に腕押しとばかりにシュナイゼルは引いた。

 

「それが求められているなら、多分」

「出来るか出来ないかがハッキリしているあなたらしくない言葉ですな、陛下」

 

 しかし、この場面において引いたシュナイゼルの手は、言葉と共に毒にも薬にもならない戸惑いを現しているようなものだった。

 

「以前の私ならば、望まれたからといってこのようなやり方で皇帝になろうとはしなかっただろう」

 

 獲得してしまった『自分』に振り回されているのは他でもないシュナイゼル自身。

 

「あのフレイヤの輝きを見た時から、私の中で何かが変わってしまった」

「あの破滅の光に魅入られたと?」

「かもしれないね」

 

 決して以前のシュナイゼルならば打つはずのない手に、勝つ為の一手を見たルルーシュは仮面の中で目を細める。

 

「過程はどうあれ、私の行動によって世界が平和になるのならば良いことだろう?」

 

 世界に覇を唱えたシャルルと違ってシュナイゼルにそのような大望はない。仲良く出来るならばそれに越したことはないと穏やかに微笑む。

 

「世界の人々の願いだろう、平和は」

「恐怖による一時的な平和に過ぎない。それを人は、押しつけと言うんだ」

 

 結果だけを見れば平和に違いなくとも、何時爆発するか分からない爆弾に怯え続ける日々は決して平穏とは言えない。

 

「飢餓や貧困、差別、腐敗、戦争とテロリズム…………世界に溢れる問題を無くしたいと願いつつ、絶望的に人は分かり合えない」

 

 仮面を使い分けても、決して理解し合えない人々をシュナイゼルは見て来た。

 

「親兄弟ですら分かり合えない…………君のようにね」

 

 勝ち筋が見えて来たルルーシュの手が動揺を示すように駒を取り落とした。

 

「ゼロ、クロヴィスの時から何かがおかしいと思っていた。しかし今の私は理解しているよ。納得も得心もいっている。今、全てのカードは 我が手の中にある」

 

 今、もっとも知られてはならない人間に正体を知られたゼロは、駒を拾うことも忘れたルルーシュは顔を上げられない。

 

「悲しいね。皇族殺しのゼロ、その正体が私が最も愛し、恐れた弟―――――――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだとは、なんという悲劇か」

「何故……」

「枢木卿が全てを明かしてくれたよ。ゼロの正体が、まさか学生とは誰も思わなかっただろうな」

 

 そう言うシュナイゼルは笑っていた、嗤っていた、哂っていた。

 

「ギアスの力は確かに便利だ。私たちみんながアンフェアな戦いに身を投じてきた中で君だけがズルをしていた。君は、どこまで悲しみの連鎖を続けるつもりなんだい?」

 

 動けない。ルルーシュの手は完全に止まった。

 

「動機は母であるマリアンヌの死の真相を解き明かすことと、ナナリーの安全を守ることかな」

 

 全てを知ったシュナイゼルの手の中でルルーシュは踊るしかない。

 

「仮面を暴いたあなたは俺に何を望む?」

 

 もう仮面に意味はない。

 ゼロの仮面を外して机に置いたルルーシュの顔を見たシュナイゼルは淡く微笑む。

 

「ブリタニアに抵抗する組織のトップが敵国の皇子だと知られれば誰も付いて来てはくれない。仮面を被ったことには納得するが」

 

 だからこそ、ゼロを系譜ではなく起こした奇跡によって認めさせるしかルルーシュは表舞台に立つことすら出来なかった。

 

「仮にこのまま超合衆国がブリタニアを倒したところで世界はどうなる? 賠償金を要求するなどして、結局は強者と弱者が立場を入れ替えるだけだ」

 

 勝者という大義名分を得た超合衆国やブリタニアの恐怖に晒され続けて来た各国は、それ見たかとばかりに立場が弱くなって弱者に落ちた大国をハゲワシの如く毟り取っていくことだろう。

 

「力を失くしていくブリタニアは弱者に落ち、強者となった超合衆国に良いようにされる。因果応報と言えばそれまでだが、これが本当に君の望んだことなのかい?」

 

 ルルーシュにだって言い分はある。

 シャルルとブリタニアという国の在り方のみを破壊し、穏健派で宰相のシュナイゼルがいれば敗戦国になろうとも超合衆国と渡り合って行くことが出来る。ルルーシュが戦後に黒の騎士団CEOの立場を下りるのも、超合衆国が暴走した時のストッパーに成る為。

 しかし、シュナイゼルがシャルルを追い落として皇帝の座に着いたことで状況が変わってしまった。

 

「ブリタニアの実権を握り、ゼロの正体を知った時点で私の勝利は揺るがない」

 

 シュナイゼルが勝つのはゼロの正体を世間に明かすだけでいい。言っていたように、敵国の皇子をトップに抱いたまま戦うことは出来ないのだから。

 

「それでもブリタニアに勝利するまではと君を御輿に掲げ続けることはするかもしれない。では、私はその前に君自身が自分で舞台から降りるように仕向ければいい。確かシャーリーといったか」

「シュナイゼル、それは……!」

 

 シャーリーがブリタニア本国に帰っていることはスザクも知っているので、身内に甘いルルーシュは人質にされれば自分から舞台を下りざるをえない。その読みは間違ってはいないのだから。

 

「安心するといい。人質に取って舞台から下りろと言う気は無いよ。唯一の敵となりそうなゼロに舞台を下りられればつまらなくなる」

「何?」

 

 以前の合理性の塊だったシュナイゼルならば決して取ることのない選択にルルーシュは困惑する。

 

「テレビを付けていいかな」

 

 完全に手が止まったルルーシュを置いて席から立ち上がったシュナイゼルが部屋の隅に置かれていたテレビの下へ行き、電源を入れた。

 

『ブリタニア軍が移動を開始しました! 黄海から日本の領海に入りつつあります!!』

「自分を囮にして奇襲を仕掛ける気か、シュナイゼル!」

 

 誠意として通信機の類を持ち込まなかったルルーシュはテレビで流れているブリタニア軍の情報に立ち上がり、シュナイゼルを睨み付ける。

 

「まさか、そんな無粋なことはしないよ」

 

 テレビのリモコンを取ってチャンネルを何度か変えたシュナイゼルは、目的の物が映っているのを見てニヤリを笑う。

 

『巨大な要塞でしょうか! 全長3キロメートルはあります! カンボジアから飛び立った飛行物体は東シナ海をゆっくりと北上し、その進路上には日本が』

「私が作らせた天空要塞ダモクレスだよ」

 

 子供がお気に入りのオモチャを自慢するように言いながら、シュナイゼルはルルーシュを見る。

 

「ダモクレスには製造したフレイヤを搭載している。一週間後には合衆国中華の領空に入り、第二次加速に移行する。その後、地上300キロメートルまで上昇する予定だ。その位置からならば、世界中の全ての国にフレイヤを撃ち込むことが可能となる」

「そんなことをすれば、ブリタニアは国際的な信用を完全に失うことになるぞ」

「必要かな、そんなものが?」

 

 ペンドラゴンに行ったようにフレイヤでの脅しを全世界に行うと宣言したシュナイゼルには、最早国際的な信用など必要なかった。

 

「人はそれぞれの欲望は否定出来ないと皆思い知っただろ。だったら、心や主義主張はいらない。システムと力で、平和を実現すべきではないかな」

「人を恐怖で従えるつもりか!」

「恒久的な平和など幻想に過ぎない。幻想を現実にするためには全人類に躾けが必要だ」

 

 二大国の戦争がその意味を変えるほどの、あまりにも傲慢な発言だった。

 

「ダモクレスとフレイヤという恐怖を前にした民衆はゼロという希望に縋るだろう。そしてその希望が完膚なきまでに敗れた時、人の心は容易く折れる」

 

 シュナイゼルがゼロの正体を明かさない本当の理由がそれだ。

 ゼロに希望を集めさせ、その上で倒せば民衆は無駄な反抗を起こす気持ちを失ってしまう。

 嘗てルルーシュが自身に希望を集めることでゼロという象徴を作り上げたように、シュナイゼルはゼロという象徴を利用して民衆の心を折ろうとしている。

 

「製造したフレイヤ弾頭は全部で五発」

 

 そう言ってシュナイゼルは広げた右手をルルーシュに向ける。

 

「トウキョウ租界を消滅させたのが一発目、ペンドラゴンの脅しに使った二発目、残りが三発ある」

 

 親指と人差し指を折り、まだ折っていない三本の指が残るフレイヤの数であることを楽しそうに明かすシュナイゼル。

 

「ダモクレスの製造の為に資金を動かした所為で現状では三発しか残っていないが、君を倒した後に幾らでも量産できる」

「この場であなたを捕縛すれば、ブリタニアは動けない!」

 

 ブリタニアはフレイヤの脅しに屈してシュナイゼルの皇位継承を認めたに過ぎない。ここでシュナイゼルを捕縛すれば、世界の悪に成ろうとしている行為からブリタニアも手を引くだろう。

 

「私がその程度のことを予測していないとでも?」

 

 武器の持ち込みは出来なかったので物理的に抑え込もうと腰を落として飛び掛かろうとしたルルーシュに対し、シュナイゼルは窓を開けた。

 直後、窓の外にエナジーウィングを光らせるランスロット・アルビオンが降り立つ。

 ランスロット・アルビオンの着地の衝撃で地響きが立ち、飛び掛かろうとしたルルーシュはバランスを崩して膝をついてしまった。

 

「残る三発の内、一発は彼に預けている」

「…………脅す気か?」

「舞台を整えようというだけだよ。こんなところで決着を着けてもつまらないだろ?」

 

 敵ナイトメアの襲来に黒の騎士団のナイトメアも直ぐに動き出すだろうが、ランスロットに紅蓮聖天八極式と同じエナジーウィングがあることから見て、トウキョウ決戦でルルーシュが危惧したように第九世代ナイトメアとなっている以上、精鋭ですら雑兵と変わりない。

 犠牲を悪戯に増やすだけだ。

 

「そうそう、紹介しておこう。私のナイトオブラウンズの筆頭、ナイトオブワンの枢木スザクを」

 

 ゆっくりと開かれるコクピット部分よりパイロットがその姿を現す。

 

「やあ、ルルーシュ」

「スザク……」

 

 コクピットの中からそう言ったスザクの感情の抜けてしまった姿を見たルルーシュは目を見開く。

 

「お前、その目は」

 

 コクピットを開放している為、モニター類は付いていないので薄暗い中でスザクの目が赤く光っているのが見えた。

 

「ああ、死にたいのに死ねないんだ。君のギアスの所為で」

 

 ロボットですらもう少し情緒の籠った話し方をする。

 スザクにかけた『生きろ』というギアスが発動し続けているのだと理解したルルーシュは、その尋常ではない精神状態に歯噛みする。

 

「スザク、お前はシュナイゼルのやり方を認めるというのか」

「俺は結果を求める。もう、誰も血を流さない結果を。結果が伴わなければ過程に意味はないと教えたのは君だよ、ルルーシュ」

 

 もう日本を取り返す意味は無くなった。ならば、次は誰も血を流さなくて済む世界をスザクは求める。

 

「だが、恐怖で強いる平和など……」

「強制されようと、平和は平和だ」

 

 押し付けだろうと構わないと、結果を求める為に過程を顧みなくなったスザクはシュナイゼルの世界に賛同しているのだ。

 

「そう言うわけだよ、ルルーシュ。世界の希望を集めて私に挑んで来るがいい」

 

 悪意の象徴と希望の象徴の対決を心待ちにしていると、ランスロット・アルビオンが差し出した手に乗ったシュナイゼルは優雅に語り掛ける。

 

「逃げることは許さないよ。ナナリーと共にダモクレスにて待つ」

「ナナリー、だと……?」

 

 トウキョウ租界でフレイヤと共に消滅したナナリーがダモクレスにいるかのような言い方に、既に死んだものと諦観していたルルーシュは反応してしまった。

 

「フレイヤのことを知っていた私が何の対策も取っていないと思っていたのかい?」

「ナナリーが……生きて、いる」

「グリンダ騎士団の筆頭騎士オルドリン・ジヴォンに聞いてみるといい。ナナリーを救ったのは彼女だ」

 

 ニーナがフレイヤを開発できたのもシュナイゼルの後援があってこそ。一研究者に過ぎない彼女の一存だけでランスロット・コンクエスターにフレイヤを搭載できるはずがない。

 全てはシュナイゼルの(たなごころ)の中でしかなかった。

 

「ナナリーはダモクレスに乗っている。妹の為に戦う気になっただろ?」

「シュナイゼル……!」

 

 シャルル以上に人を憎むことはないと思っていた今、シュナイゼルにそれ以上の憎しみを募らせていた。

 

「精々、民衆の為に華々しく散ってくれ。それが愛しい弟への私の願いだ」

 

 ゼロでも駄目だったのだから抗うだけ無駄だと民衆に思い知らせる為に、ナナリーという人質をダモクレスに乗せたシュナイゼルはランスロット・アルビオンと共に去って行く。

 

「くっ、シュナイゼルめ」

 

 窓枠に取りついてランスロット・アルビオンの姿が見えなくなるまで追い続けていたルルーシュは窓枠を力一杯に殴りつけた。

 

「ダモクレスの存在とナナリーが生きていたことを今まで隠していたのは、俺に舞台を下りさせない為だったのか。カードとして効果的に使うために」

 

 ジンジンと痛む手すらも意識に上らないルルーシュは苦し気に息を漏らす。

 

「ならば、貴様のカードの切り方は絶妙だったぞ。こんなにも、こんなにも…………」

 

 ナナリーの優先度が下がろうとも、ルルーシュの内で彼女が占める範囲は未だに大きい。

 ダモクレスとフレイヤの存在は人々に恐怖を植え付けるだろう。ペンドラゴン上空に撃たれた物を観測すれば、トウキョウ租界を消滅させた物ですらリミッターが付いていることが分かる。リミッターを外した恐ろしさは容易に一国を滅ぼし得る力を持ち、実際には使わなくとも脅しとしては十分。

 恐怖に駆られた人々は奇跡の男であるゼロに縋る。ナナリーを救わなければならないルルーシュも戦わずにはいられない。

 

「ルルーシュ!」

 

 C.C.とジェレミアを伴ったカレンが生徒会室にやってきてもルルーシュは顔を上げられない。

 

「今、ランスロットが…………怪我したの!?」

 

 窓際で動こうとしないルルーシュを心配したカレンが慌てた様子でやってくる気配を感じ取り、ゼロとしての仮面を被らざるをえないことを自覚して顔を上げる。

 

「大丈夫だ、カレン」

 

 シュナイゼルを倒さなければならないという戦略目的に何も変更はない。

 

「嘘をつくな」

 

 例え自分の手でナナリーを殺すことになってもシュナイゼルを止めなければならないことに張り裂けそうになりそうな心を無視して平静を装っていると、近づいてきたC.C.に腹を殴られた。

 

「おい」

「シュナイゼルに何を言われたのか知らんが、私達の前で無理をする必要はない」

 

 殴った力自体は大したことはないが、文句を言おうとしたルルーシュにC.C.が顔に指を突きつける。

 

「そうよ。私達はルルーシュの剣で盾。遠慮なんかしてほしくない」

 

 C.C.に次いで、誇らしげに胸を張るカレンにも指を突きつけられる。

 

「勝手な言い分だな」

「共犯者だからな」

「恋人だもん」

 

 気心の知れた二人に言われ、ルルーシュは背負っていた世界の重みに耐えられる力を得た。

 得たのだが、元とはいえブリタニア皇族であるルルーシュに恋人と言い切ったカレンにジェレミアが目を細めた。 

 

「ルルーシュ様、後でお話があります」

「何をだ?」

「皇族とはいえ、婚姻関係を結ぶ前に二股は如何なものかと」

「…………ご尤もです」

 

 どちらが主君か分かったものではない会話をしつつ、シャーリーの問題も残っているルルーシュは今更ながらに気付いて愕然とした。

 シュナイゼルに勝っても残る問題にルルーシュが愕然としていると、ドタバタと近づいて来る音が聞こえてカレンが机に置かれたゼロの仮面を取りに走る。

 

「ゼロ!」

「どうした、朝比奈?」

「いや、こっちがどうしたと聞きたいんだが」

 

 慌ただしい様子で生徒会室に入って来た朝比奈省吾達は、カレンが急いで被せた所為で仮面の前後ろが反対になっているゼロに聞かずにいられなかった。

 

「こちらには何の問題もない。シュナイゼルもランスロットも、もういなくなった」

 

 被らされた時に打った鼻が痛いが、まさか仮面が前後ろになっているとは思いもしないルルーシュは言い切った。

 

「シュナイゼルと決戦になるか」

 

 滑稽な姿にクスクスと笑っていたC.C.はテレビに映る天空要塞ダモクレスを見てそう言った。

 

「ああ、奴もそれを望んでいる」

 

 前後ろを間違えて被せてしまったカレンがどうしようかと迷い、ジェレミアが主君に指摘するべきだろうかと思案する中でルルーシュは重く頷いた。

 

「ナナリーを人質に取っているとも言っていた。嘘ではないだろう」

 

 ナナリーを助けたというオルドリン・ジヴォンに確認を取る必要はあるが、容易にバレるような嘘をつくほどシュナイゼルは愚かではない。

 

「ちょっと、ゼロ!?」

 

 失言に気付いてカレンが誤魔化そうとするが、朝比奈は聞き逃さなかった。

 

「ナナリー、というとナナリー総督を人質に? ブリタニア皇女を人質に取ったところで何の意味もないというのに」

「いいや、人質になる。この私に対して彼女以上の人質はいない」

 

 そう言ってゼロは仮面に手をかけた。

 

「む、ん? 何故だ外れない……」

 

 前後ろが逆なのだから通常通りでは外せないので、気を利かせたC.C.が仮面を外す為に手を伸ばす。

 ゼロが何をしようとしているかを理解して目を見開いている朝比奈の前で、C.C.の手によって今まで秘密にされて来た素顔が明らかになった。

 

「ナナリーはこの私、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの実の妹なのだから」

「なっ!?」

 

 白日の下に晒された青年の顔は、黒髪であっても明らかに日本人ではなかった。そしてブリタニアの名が示す意味はただ一つ。

 

「ブリタニア皇族がゼロ……」

「神聖ブリタニア帝国の第11皇子であり第17位の皇位継承権を持っていた、嘗ては」

 

 決して自棄になったわけではない。

 

「朝比奈、黒の騎士団幹部を集めろ。直ぐに来れないのならば通信を繋げ――――シュナイゼルに勝つ為の話し合いがしたい」

 

 例え受け入れられなくても、シュナイゼルとの戦いだけはゼロを担ぎ上げる必要がある。

 戦いの中でシュナイゼルはゼロの正体がルルーシュであると暴露するかもしれない。幹部クラスだけでも知っていれば、動揺を抑えて戦える可能性が残る。

 

「あ、ああ、分かった。ただ」

「ただ、なんだ?」

「…………鼻血は拭いておいた方が良いと思うぞ」

 

 ゼロの正体が敵国の皇子であったことに動揺しつつも、朝比奈は真面目な話の場で間抜けにも見える鼻血を垂らしていることを指摘せずにはいられなかった。

 

「ルルーシュ様」

「すまん、ジェレミア」

「えと、ごめんルルーシュ」

「なんでカレンが謝る」

「いや、だって……」

「俺のことを思ってしてくれたことを怒るわけがないだろ」

 

 置かれていたティッシュ箱を差し出すジェレミアに礼を言ってティッシュを鼻に詰めるルルーシュと、しおらしいカレンの仲睦まじい姿に疑うのも馬鹿らしくなった朝比奈は苦笑を漏らす。

 直属の部下に秘密厳守の厳命を出して自分も部屋を出て行った。

 

「ここにいた」

 

 朝比奈と入れ替わるように生徒会室に入って来たのは、クラブハウスにあるルルーシュの私室で寝かされていたアーニャだった。

 

「どうして、アーニャがここに?」

「ジノと一緒にホテルにいるはずじゃ」

 

 ホテルの一室に軟禁しているはずのアーニャがアッシュフォード学園にいることに目を顰めたルルーシュとカレン。

 

「あなたに用があって来た」

 

 その横でC.C.とジェレミアが何と言い訳しようかと考えていると、アーニャはテクテクとルルーシュの前まで歩み寄る。

 

「ゼロがあなたとは予想外だったけど、都合が良い」

「都合が良い?」

 

 身長差の関係で見上げることになったアーニャはジロジロとルルーシュを見て、何かに得心がいったようで携帯電話を取り出して何かを操作して差し出す。

 

「これはやっぱりあなただった」

 

 映し出されているのは八年前のまだブリタニア本国にいた時のルルーシュの写真。篠崎咲世子の天然で多数の女子生徒とデートする羽目になった後に見せられたものだ。

 あの時は皇子であったことを知られるわけにはいかなかったので否定したが、仮面を外したルルーシュに否定する理由もない。

 

「確かにそうだが……」

「そして、これを撮ったのは私」

 

 アーニャが言いながら当時の髪型を再現するように髪を持つ。

 

「…………思い出した。母さんが殺される一週間前に行儀見習いとして来ていた」

 

 あの頃は色んなことが起こり過ぎて印象に残っていなかったが確かにアーニャと同じ年頃の子供が来ていて、アリエスの離宮の花壇で写真を撮ってもらったことをルルーシュは思い出した。

 

「で、俺が皇子だったことを知ってどうする? ブリタニアに売るか?」

「まさか」

 

 ルルーシュに余計なことを言ったりすれば直ぐにでも行動しようとしているC.C.とジェレミアを見て苦笑を浮かべたアーニャは跪いた。

 

「私の忠誠は最初からルルーシュ様に」

 

 行儀見習いとしてアリエス宮に入ったアーニャはルルーシュの下へ付いた。

 アリエス宮の悲劇の後、誰かの下に仕えずにナイトオブラウンズにまで駆け上がったアーニャは計らずとも記憶を取り戻したことで、幼心に誓ったルルーシュへの忠誠も取り戻していた。

 

「…………………………これは何事だ?」

 

 アーニャ(マリアンヌ)によって気絶させられ、見張りの騎士団員よりも先に目覚めて後を追って来たジノが状況を理解できるはずがなかった。

 

 

 




原作との変更点
・アッシュフォード学園での会談
・シュナイゼルが悪逆皇帝と呼ばれている
・ゼロの正体をバラすタイミング
・ギアスとゼロの正体をシュナイゼルに教えたのはスザク
・天空要塞ダモクレスの登場のタイミング
・フレイヤの搭載弾数
・ゼロという象徴をを利用して人々の心を折ろうとしているシュナイゼル
・このタイミングでのルルーシュとスザクの再会
・ナナリー、生存確定。ルルーシュを戦いに引き出す為の人質。
・ジェレミアが三人の関係に口を出す。
・シャーリーの問題も残っているルルーシュ愕然
・朝比奈にゼロの正体を明かす
・黒の騎士団幹部に正体を明かす決意を固めるルルーシュ
・アーニャ、記憶が戻ってルルーシュに忠誠を誓う



 この直ぐ後ぐらいにシュナイゼルの下から逃げて来た咲世子がナナリーの生存とダモクレスにいることを報告。
 傷自体は原作と違って浅かったので、シャーリーのことを気にしているルルーシュの為にブリタニア本国に渡る。

 ちなみにニーナの褒賞はお金ではなく、ダラス研究所に戻らされての更なる研究という名の強制でした。



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