コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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日刊ランキングが下がってきていることに危機感を抱いています。
なので、よりコードギアスらしく波乱の展開を用意してみました。

3/22に第十一話を投稿しましたので、本話は第十二話に変更しました。
この文章は一週間後に消します。





第十二話 ダモクレスの空

 会談前、ルルーシュは一人でアッシュフォード学園の地下にある機密情報局へと降りていた。

 

「ロロ」

 

 牢というには現代的すぎる収容施設の中にいたロロはルルーシュの呼びかけに応えて顔を上げた。

 

「少し痩せたか」

 

 部屋から出られず、与えられた食事だけを食べる以外に何もしていないロロは元から細かった体が更に絞られているように見えて、ルルーシュは心配げに訊ねた。

 

「外でのことはテレビを見て知っているよ。大変みたいだね」

「ああ、全くシュナイゼルの所為でいらない苦労を背負い込んでいるよ」

「向こうもきっと同じことを思っているよ」

「かもしれんな」

 

 殆ど一日中をゼロとして過ごさなければならないルルーシュに、こうも軽い口を叩ける者がどれだけいるだろうか。

 偽りの兄弟であっても久しいと思える会話にルルーシュの頬を自然と緩む。

 

「シュナイゼル……陛下と会談するんだって?」

「ああ」

「じゃあ、ここに来たのは僕を殺す為か」

 

 今までルルーシュはロロを殺すことなく虜囚の身としたまま、それ以上は何もしなかった。

 皇帝となったシュナイゼルとの会談を前にしてロロに会いに来た理由など、どこに行っても邪魔者にしかならないロロに始末を付けに来たとしか思えなかった。

 

「いいや……」

 

 そう言ってルルーシュは懐に手を伸ばして、取り出したリモコンのような物を操作する。

 

「なっ!?」

 

 すると、ロロの脱獄を防止する為に常に下ろされ続けていた特殊強化ガラスが上がっていくのを見たロロは目を見開く。

 やがてロロが潜り抜けられるところまで上がったところで椅子から腰を上げてもルルーシュは動かない。その後ろには誰もおらず、少なくともロロが感じられる範囲内において誰かの気配は感じられない。

 

「…………どういうつもり?」

「シュナイゼルが明確に敵となった以上、俺も何時まで生きていられるか分からない」

「だから、死ぬ前に僕を解放すると」

 

 頷いてロロの言葉を肯定したルルーシュは厳しい面持ちで顔を上げる。

 

「幼い頃の話だがシュナイゼルとチェスをして一度も勝てたことが無い、この俺がだ」

 

 勿論、既に大人であったシュナイゼルと子供であったルルーシュの年齢の差は考慮に入れるべきであるが、ゼロとしての中華連邦での戦いでも明確に勝利と言えるものではなかった。

 

「皇帝となり、シュナイゼルがその能力の全てを発揮してブリタニア軍を動かしたら俺でも確実に勝てるとは言えない」

 

 負けるつもりはない。勝負は勝つ為にするものであって、この八年の間に積み上げて来た物を賭けてルルーシュは挑むつもりだ。

 

「俺が帰って来れる保証はない。だから、戦う前に全てを清算しようと思った。ヴィレッタも機情の者達も既に解放している。お前が最後だ、ロロ」

 

 仮に帰って来ても、ルルーシュが想定している未来においてロロの兄として二度と会うことは出来ない。

 

「ランペルージの名は、ここに置いていく。V.V.も死んだ。ブリタニアはどうあっても形を変えていく。お前はもう自由だ」

 

 ランペルージの名は我が青春の場所であるアッシュフォード学園に思い出と共に。

 与えられた使命ではなく、自分が望むように生きろと言ってルルーシュはロロに背を向けた。

 

「出来るならば戦場で敵として出会いたくはないな」

 

 カツン、カツンと遠ざかっていく足音にロロは足を踏み出した。

 

「……兄さん」

 

 家族の温もりを、優しさをくれた人を追いかけたかったのかはロロにも分からない。

 

「…………兄さん」

 

 何を言いたいのか、何か月も考え続けても答えの出せなかった問いに直ぐに答えを出せるはずがない。

 

「………………兄さん!」

 

 追いついた先にいたルルーシュの背中に声をかけても、既にゼロの仮面を被った彼は振り向かなかった。

 

「――――――達者で暮らせ、ロロ。体には気をつけてな」

 

 そんな愛情の籠った声をかけられてはロロが何かを言えるはずも、何かを出来るはずも無かった。

 ロロは何も言えず、機密情報局から出て行ったルルーシュの残影を目の奥に感じながら膝を付いて泣いた。

 

「僕はずっと誰かの道具だった。甘い言葉で利用してくれたら良かったんだ」

 

 ギアス嚮団に体感時間停止のギアスを買われて暗殺を繰り返していた。良い様に利用されていると分かってもロロは居場所が欲しかった。

 

「兄さんは嘘つきなんだ。偽りの弟だった僕を殺したいと思っていたはずなのに」

 

 嘘つきが吐いた言葉を信じてしまいそうになる。その愛が本物だと信じてしまいそうになる。

 

「道具で良かったんだ。死ぬまで騙してくれれば」

 

 道具は使う者がいて初めて価値が出る。

 ルルーシュにならボロ雑巾のように使われて捨てられても本望だった。どんな理由であっても必要とされているのだから。

 

「兄さん、僕は…………ロロ・ランペルージなんだよ」

 

 寄る辺を失くしたロロは、初めて自分の意志で進む道を決めなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国の第九十九代皇帝シュナイゼル・エル・ブリタニアと超合衆国所属の黒の騎士団CEOであるゼロの二大巨頭の会談は決裂したと語られている。その実態は会談中にブリタニア軍を動かして、超合衆国の領土となった支配から解放された日本に近づいたことにある。

 そして何よりも大きいのは、トウキョウ租界を消滅させたフレイヤ弾頭を搭載した天空要塞ダモクレスの存在。

 

「ペンドラゴン上空で使われたフレイヤは、映像や画像から予測するとトウキョウ租界で使われた時と比べ、効果範囲はおよそ10倍」

 

 シュナイゼルが指揮するブリタニア軍との決戦場としてルルーシュが選んだのはフジ山近郊。

 フジ山に赴く黒の騎士団の旗艦である斑鳩のブリッジにて、超合衆国よりこの戦いに限って全権を委譲されたゼロであるルルーシュはモニターにデータを表示させる。

 

「このままシュナイゼルが言っていたように地上三百キロメートル上空に上がられれば手が出せず、あちらからは世界中にフレイヤを撃ち込むことが出来る」

 

 どよめくブリッジ内にルルーシュの静かな声が響き渡る。

 

「各エリアの軍隊は、我々黒の騎士団と対峙しており簡単には動けない」

 

 次にモニターに表示したのは、世界地図と二大勢力の軍が対峙していることを示していた。

 

「シュナイゼルが動かせるのは本国にいた部隊とダモクレスだけ」

 

 そうは言っても残るナイトオブラウンズであるドロテア・エルンスト、ルキアーノ・ブラッドリー、モニカ・クルシェフスキーとその直属の部隊もいる。精鋭と名高きロイヤルナイツも随行しているだろう。

 

「黒の騎士団は日本解放戦でトウキョウ決戦に赴いたメンバーと星刻の部隊、そして我らに付いたジノとアーニャのみ」

 

 フレイヤの恐怖の前に超合衆国の結束も揺らいでいる。各エリアや加盟国の防衛に黒の騎士団を派遣しなければならなかった。

 

「数で劣り、シュナイゼルにはフレイヤがある」

 

 救いと言えるのは、シュナイゼル軍がフレイヤで従わせられていることと、兵の質においては決して負けていないこと。

 

「もしもこの決戦に負ければ、パワーバランスは簡単に崩れる。全てがシュナイゼルの前に屈することになるだろう」

 

 逃げても同じことだ。再戦は出来ず、決着はここでつけるしかない。

 

「鍵となるのは、ラクシャータに届けられたこのダモクレスの設計図」

 

 送り主は不明だが、お蔭で急造で作られたダモクレスには本来あるべき近接兵装が搭載されていないことが分かっている。

 

「ゼロ、本当に出るのか」

 

 今は斑鳩にいるが、直ぐに蜃気楼で出ることになっている総大将の前に扇要が立つ。

 

「王が動かなければ部下は付いて来ない」

「だが」

 

 不安そうな扇の変わらなさに、仮面の内側でルルーシュは笑った。

 

「私の役目はこの戦いで終わる。最後の仕事だ。好きにさせてくれ」

 

 本来ならば超合衆国の加盟国の代表達しか知らないことを告げても扇の表情は変わらない。既に伝えるべきことは全部話したから。

 

「…………最初にゼロを認めたのは俺だ。だから、俺から言えるのは一つだけだ」

 

 黒の騎士団がその名前になる前からの、最も初期の頃に最初にゼロに従うと決めた扇は大きく息を吸って吐き、緊張を解してた頭を下げた。

 

「ありがとう、今まで。俺達は最後までゼロを信じる。勝ってくれ」

「ふっ、まさかあの頼りない男にそこまで言われるようになるとはな」

 

 命令を発する者と受ける者以上にも以下にもならなかった二人は、最後の最後に対等に成れたのかもしれない。

 

「あれが天空要塞ダモクレス……」

 

 十数分後、フジ山を挟むようにしてブリタニア軍と黒の騎士団は対峙し、斑鳩のモニターには拡大されたダモクレスが表示される。

 

『この戦いこそが、世界を賭けた決戦となる』

 

 斑鳩から発進し、その前に浮遊する蜃気楼のコックピットから出て立つゼロ=ルルーシュの演説が始まった。

 

『シュナイゼルはフレイヤによる恐怖で人々を縛り、強制的な平和を押し付けようとしている。しかし、そんなものが本当に平和と呼べるのか? 自由と呼べるのか?』

 

 仮面の内側に内蔵されたマイクで拡大されたゼロの声が戦場全体に響き渡る。

 

『違う、断じて違う。確かに人の歴史は争いで彩られていると言っていい。今後も恒久的な平和は訪れないのかもしれない。だが、だからといって諦めるのか? シュナイゼルに与えられた恐怖に従っていれば幸福なのか?』

 

 黒の騎士団の大半はブリタニアによって占領された国々や脅かされて来た者達で占める。

 恐怖で従わされる恐ろしさを良く知っていた。

 

『努力を止めた時、人類は停滞する。これは世界の、人類史の、そして我々の明日を掴む為の戦いである!』

 

 何も変わらない停滞する日常に腐っていく心。その恐ろしさを知るからこそ彼らは戦うのだ。

 

『打ち砕くのだ! 敵を! シュナイゼルを! 天空要塞ダモクレスを! 明日を掴む為に!』

 

 奇跡を起こす男であるゼロの名が連呼される。

 シュナイゼルの読み通りに、世界の希望を集めて象徴となった男を砕くためにブリタニアもまた演説を行う。

 

『人が猿であった時から今まで、歴史の中において血が流れなかった時はない。何故か? 人は争わずにはいられないからだ』

 

 他者より強く、他者より先へ、他者より上へと望み続けて人は歴史を歩み続けて来た。だが、その間にどれだけの血が流れたのか、どれだけの悲劇が繰り返されてきたか。

 

『強者と弱者は常に互いの立場を入れ替えながら何度も同じことを繰り返す。この決戦に負ければ、今まで弱者を虐げて来たブリタニアが弱者に落ちる。そうなれば待っているのは強者に虐げられる日々だ。ブリタニアに虐げられてきた者達は言うだろうね。因果応報、お前達もやってきたことだろうと』

 

 未来を見てどうする。明日を夢見てどうする。大事なのは今だ。喪うのは現在だ。

 

『争わなくていい、苦しまなくていい、泣かなくていい。君達に待っているのは血の流れない平和な世界だ。願わくば、これが人類にとって最後の戦争であることを祈りたい』

 

 国元には大事な者達がいる。守らなければならない。例え悲惨な未来が待っているとしても、彼らが今を平和に過ごせるならば不確定な未来に身を投じるよりも、確実な今日を守るためにブリタニア軍は戦う。

   

「カノン、全軍にパターンΔ(デルタ)を通達を」

「…………了解しました」

 

 パターンΔ(デルタ)が示す意味を直ぐに理解したカノンは一瞬の躊躇の後、全軍と一機に向かって部隊を動かす通達を出した。

 真っ先に動き出したランスロット・アルビオンとブリタニア軍の動きは蜃気楼に乗り込んだルルーシュにも見えていた。

 

「軍を広範囲に展開した? 航空部隊による通常戦闘にしては、ランスロットだけ突出させて…………まさか!?」

 

 自分達に有利な戦況を作る為に部隊を動かしてくるところまでは予測していたルルーシュは、シュナイゼルがしようとしていることを見抜いて驚愕した。

 

「フレイヤが放たれる! 全軍後退!」

「遅い」

 

 ルルーシュが全軍に通達し、軍が後退を始める前に急速に距離を詰めたランスロット・アルビオンがランチャーを構えていてフレイヤは発射されていた。

 旗艦である斑鳩ではなくトップであるゼロが乗る蜃気楼を狙って放たれたフレイヤがその威力を発揮すれば、黒の騎士団の中核が消滅する。

 

「間に合わない!?」

 

 後退を続ける蜃気楼は逃げ切れる。間に合わないのは最前衛にいた部隊。

 戦力として期待され、最前衛にいた特務隊隊長の杉山賢人は己の命に見切りをつけた。

 

「被害を最小限に抑える為には!!」

 

 自身の隊を下がらせて暁を駆って向かって来るフレイヤを見据えた。

 

「無駄だよ。このフレイヤは、ダモクレスから射出された時には臨界状態にある」

 

 起爆前に弾頭を破壊しようとしている暁をモニターで見るシュナイゼルは無駄な行動を嘲笑った。

 

「っ!? 井上、吉田……」

 

 廻転刃刀で弾頭を切り裂いても光を溢れさせるフレイヤに己が失敗を悟った杉山の脳裏にブラックリベリオンで戦死した仲間達のことが脳裏を過った。

 

「杉山ぁっ!?」

 

 杉山のお蔭で想定される地点よりも大分前でフレイヤは爆発したが、それでも無傷というわけにはいかない。

 前衛の一部を、文字通り抉り取られた形になった黒の騎士団に大きな動揺が奔った。

 

「静まれ! フレイヤの影響はそれほど大きくは」

 

 黒の騎士団の動揺を収める為にはゼロが一喝するしかない。しかし、その瞬間を狙うようにフレイヤの影響範囲の上から回り込んで接近していたランスロット・アルビオンが蜃気楼を強襲する。

 

「死ね、ルルーシュ」

 

 シュナイゼルの読み通りに、ルルーシュは指揮官としての役割をこなさなければならず、これほどの事態の動揺を抑える為に自身の周りに気を配れない。

 総大将の立場にありながら前線に出て来たルルーシュを狙うのは常套手段。だが、あまりにも速過ぎる。

 

「スザク!?」

 

 メーザーバイブレーションソードを構えたランスロット・アルビオンの速さは、蜃気楼の絶対守護領域を使う暇をルルーシュに与えない。

 

「兄さんをやらせない!」

 

 シュナイゼル側がチェックメイトをかけた瞬間に、秘密裏に潜入して暁に乗り込んでいたロロが体感時間停止のギアスを発動してランスロット・アルビオンに体当たりをかける。

 

「…………なんだ!?」

 

 体感時間が停止している間に突撃を受けたスザクは、暁がしがみ付いているのを見て僅かに動揺した。

 

「逃げて兄さん!」

「ロロ、何故!?」

「邪魔をするなら」

「させない!」

 

 機械ならではの動きでメーザーバイブレーションソードを逆手に持ち替えたスザクに対抗するように、ロロが再びギアスを発動させる。

 

「この近距離なら幾ら最新世代って言っても」

 

 体感時間を停止させられたパイロットに合わせて動きを止めたランスロット・アルビオンに、廻転刃刀を使ってコックピット部分を狙おうとしたロロ。 

 

「駄目だ! 逃げろロロ!」

「ギアス能力か…………呪われた力が!」

「そんな!?」

 

 迫る危機にスザクにかけられた『生きろ』というギアスが反応してロロの体感時間停止のギアスを打ち破り、ランスロット・アルビオンのメーザーバイブレーションソードが逆に暁の胴体を切り裂いた。

 機体が爆発する前にモジュール式の緊急脱出装置が作動して、ロロは巻き込まれる前に逃げることが出来た。

 

「ギアスを持つ者は全て死ね」

 

 ユーフェミアを殺したギアスに対する憎しみだけは残っていたスザクは狂相のままに、スーパーヴァリスに持ち替えてパラシュートを開こうとしている暁のコクピット部分に狙いを構える。

 

「スザクゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」

 

 放たれたスーパーヴァリスの射線上に蜃気楼を滑り込ませたルルーシュは絶対守護領域を展開させ、背後のロロを守る。

 

「やはり邪魔をするか、ルルーシュ」

 

 暗く赤く光る目で、しかし穏やかに笑ったスザクは放たれたハドロンショットを易々と躱し、最初に与えられた自分の役割が終わったことを自覚する。

 

「何故、お前はどうして……」

「人は狂わずにはいられない時がある」

「じゃあ、あなたはもう死ぬべきよ」

 

 もう戦えなくなったロロすらも簡単に殺そうとする嘗ての親友の姿に痛ましさを覚えるルルーシュの下に黒の騎士団のエースが救援に現れた。

 

「いいのかい? 黒の騎士団を守らなくて」

 

 スザクはあくまで先兵に過ぎない。

 通信を聞いたルルーシュがハッとして戦況図を見れば、フレイヤによって動揺した黒の騎士団をブリタニア軍が呑み込んでいた。

 

「黒の騎士団が崩れていく……シュナイゼルめ、初めからこれを目的に」

 

 フレイヤで黒の騎士団を動揺させ、第九世代のランスロット・アルビオンの機動力を活かして総大将のゼロを襲って指揮をさせない。

 スザクに気を取られている間に、両翼からナイトオブラウンズが進軍して各部隊で各個撃破していく。

 

「流石だな、この策を早々に使わせるとは」

 

 このままでは黒の騎士団は敗れると判断したルルーシュは、今日の為に仕込んだ仕掛けを発動する為にスイッチを取り出した。

 

「全軍に通達する! 五分後に作戦名『フジ』を発動する。繰り返す五分後に『フジ』を発動する!!」

 

 出来るならば使いたくなかった作戦だが、こうなっては致し方ない。

 この世に二機しかない第九世代であるランスロット・アルビオンと紅蓮聖天八極式が超速戦闘を行っている最中、ルルーシュが全軍に通達してから一分経った時点でブリタニア軍は黒の騎士団の中層にまで到達していた。

 もう戦術も何もあったものではなく、特に前線は乱戦の様相を呈している。

 

「ゼロ! ダモクレスに動きが」

 

 作戦名『フジ』が発動するまで後二分というところで斑鳩より通信が入った。

 

「まさか、早すぎる!? 今、フレイヤを撃てばブリタニア軍も巻き込まれるぞ!!」

 

 しかし、センサー類が強化されている蜃気楼のモニターにはダモクレスから放たれたフレイヤ弾頭がハッキリと見えた。

 

「すまん!」

 

 作戦開始を早めることすら言う時間も惜しくて、この作戦で死ぬ者達に謝りながらルルーシュはスイッチのボタンを押し込んだ。

 

「っ!? エネルギー反応、フジからです」

「ブレイズルミナスの出力を強化、早く!」

 

 ダモクレスのコントロールルームで管制官の報告を聞いたシュナイゼルは僅かに目を見開き、素早く最善と思われる指示を下した。

 直後、ブレイズルミナスに守られたダモクレスの直ぐ近くのフジ山が突如として噴火して、火柱や岩石がぶち当たって揺らぐほどの衝撃を与える。

 

「地形を利用するのはゼロの基本戦術だったね。失念していたよ」

 

 コンソールにしがみついて倒れることは避けたシュナイゼルの目を、溶岩が直撃して目標の地点よりも大分近くで爆発してしまったフレイヤの光が照らし出す。

 

「フレイヤも撃墜されてしまったか、こうでなくては」

 

 黒の騎士団は両翼から襲い掛かるブリタニア軍によって中央に抑え込まれるように戦っていたので、両側から迫られて押し出された形の前衛がフレイヤにまたも消し飛ばされた。想定では中層まで一気に消し飛ばすつもりだったが、溶岩によって着弾地点が伸びず、更にはブリタニア軍もダモクレスの防衛部隊と一部の部隊が致命的なダメージを受けた。

 

「下層部のブレイズルミナス発生装置がオーバーロードしました!」

「修理にどれだけかかる?」

「未定ですが最低でも30分以上はかかると思われます」

 

 流石に溶岩の直撃を何度も受けては装置の方が持たなかったらしい。

 

「予定から少し目算が狂ったけど、数の上では我が軍が圧倒的に有利になったのだから良しとしよう。ウォード隊とドレッドノート艦隊をダモクレスの防衛に当たらせて」

 

 両翼から押し込むブリタニア軍と突如として襲って来るフレイヤの脅威もあって黒の騎士団は総崩れに近い。

 ルルーシュが必死に戦線を立て直そうとしているが、フレイヤだけでなく溶岩等の二重被害にあって難しく益々乱戦の様相を呈してきた。

 

「シュナイゼル陛下、我が軍が交戦中であるのに」

 

 ドロテアやモニカが次々と通信を送ってるがシュナイゼルの返答は決まっていた。

 

「必要だった。が、私も我が軍が巻き込まれるのは避けたい。10分だけ次弾発射を待とう」

「たった10分!?」

「そんな、陛下!?」

「黒の騎士団は恐慌状態に陥って総崩れになっている。陣形も我が軍が圧倒的に有利だ。それだけあれば君達ならば出来るだろう。仮に出来なくてもフレイヤの効果範囲内から逃げればいい」

 

 問いではない。出来ないで何も問題はないのだから。

 

「…………分かりました。10分間は手を出さないで頂きたい」

「ああ、勿論だとも」

 

 明らかに自国のトップを見る目付きではないドロテアに続き、モニカも通信を切るとシュナイゼルは苦笑した。

 

「次弾発射までの準備にかかる10分の時間を随分高く貸し付けたものですね」

「彼女達ならば出来ると踏んだまでだ。それに別に出来なくても何も困りはしない」

 

 黒の騎士団が戦線を保ててているのは個々の指揮官が檄を飛ばし、各兵が奮戦しているからであるが限度がある。

 

「これは、もう勝ち戦だよ」

 

 あの状況からひっくり返すには、それこそルルーシュがシュナイゼルやブリタニア軍の頭の中を全て完全に読みでもしない限り不可能だ。

 ギアスに似た力があるらしいことは知っているが、ルルーシュがそうでないことを知っているシュナイゼルからすれば、もうこの戦争は勝ったも同然だった。

 

「残るフレイヤは後一発…………ダモクレスのブレイズルミナスに穴が出来たというのに、このままではフレイヤを使われずに負けてしまう」

 

 焦るルルーシュだが、既に『フジ』作戦を使ってしまった以上、奇襲となるようなものは残っていない。

 尋常の方法で押し返そうにも数で圧倒的に劣ってしまい、フレイヤによる混乱を深めている黒の騎士団にそれだけの力が無い。

 ジェレミアのジークフリートと、藤堂や四聖剣の千葉と朝比奈の隊は数少ない有利に運べているが後は劣勢である。

 

「カレン!」

「スザク!」

 

 星刻とルキアーノ、ジノとドロテア、アーニャとモニカが激闘を続けている中、他のどこよりも動き回り、激しい戦いを繰り広げているのはスザクとカレンだった。

 互いの陣営に一機しかない第九世代の力を存分に発揮している。

 

「何故、カレンが僕の動きに付いて来れる?」

 

 幾ら三人の天才が図らずとも協力して作り上げた分だけ紅蓮の機体性能が上であることを加味しても、ギアスが常時発動しているスザクに敵う道理はない。

 

「自分だけがギアスを使ってると思うな!」

 

 そう叫んだカレンの目が赤く光る。

 

「そうか、君もルルーシュにギアスをかけられたのか。勝つ為に仲間を利用するなんて、卑劣な」

「違う! 私が望んでかけてもらったんだ!」

 

 再び憎しみが燃え上がりかけたスザクは、予想外の発言に紅蓮の呂号乙型特斬刀への対処を誤った。

 右手に持っていたメーザーバイブレーションソードが切り裂かれ、使えなくなったので放棄する。

 

「『勝て』とかけられたギアスが私を強くしてくれる!」

 

 そのお蔭で常時発動はしないがスザクに負けないほどにカレンは強く成った。

 

「…………そうか、君が()を殺してくれるのか」

 

 死に場所を追い求め続けて来たスザクを殺し得る力を持ったカレンが牙を向けて飛ぶ。 

 

「――――――――――時間だ」

 

 崩れそうで完全には崩れない黒の騎士団の抵抗に、10分かかってもブリタニア軍の進軍が止まった。

 

「チェックメイトだ。さあ、破滅の光を魅せてくれ」

 

 ルルーシュが後手に回り過ぎる戦況を覆せないまま最後のフレイヤ弾頭が放たれた。

 そして半数のブリタニア軍と黒の騎士団を破滅の光が襲う。

 

「シャーリー……っ?!」

 

 爆心地に近かったルルーシュが咄嗟に遠く離れたシャーリーを想ってしまうほどに打つ手はなかった。

 その瞬間、蜃気楼の近くで戦闘していたC.C.の額のマークが光った。

 

「っ!?」

 

 C.C.だけがこの戦場を呑み込んで何かを理解したが、何も出来ないままCの世界へと引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレイヤ弾頭が放たれる数分前、神根島のシャルル・ジ・ブリタニアは悲願の時を迎えていた。

 

「陛下。同調準備、完了しました」

「ようし、始めよ」

 

 装置の調整は済んだ。シュナイゼルとルルーシュの決戦に微塵の興味も抱いていなかったシャルルは黄昏の間の前で、その時を待つ。

 

「世界中に散らばる遺跡を同化させます」

 

 直後、ゼロとシュナイゼルの戦闘を遠巻きに撮影しているテレビ放送を見ていた人々は異変を感じていた。

 

「地震か?」

 

 揺れる地面を見下ろした人達の上空に一斉に飛び立つ鳥達。

 地球自体が鳴動し、世界中のあちこちで地中から奇妙な光が溢れ出す。

 森の中で人間達よりも明確に異変を感じ取った動物たちは少しでも安全な場所へ逃げようと走り出す。どこまでも、どこまでも。

 

「各遺跡システム、同調完了しました」

 

 ブリタニア発祥の地とも言える旧E.U.の島国で、中央アジアの砂漠地帯で、氷に覆い尽くされた永久凍土の地で、その他にも数か所の神根島と同じ古代の遺跡が眠る土地が、その人知を超えて張り巡らされたネットワークに繋がって、神根島に収束されて黄昏の間の門に描かれたギアスのマークを赤く輝かせる。

 

「これで既存の神の世界は終わる。破壊と創造、ラグナレクの始まりだ」

 

 その門に向かってシャルルは自身の右の掌に簒奪したV.V.のコードを押し付ける。

 途端、神根島ごと遺跡が鳴動して、光が全てを呑み込む。

 

「さあ、神よ。決着の時は来た」

 

 次の瞬間、全人類は抗い様も無く一つに成った。

 

 




もう大体変わっているところばかりですが

原作との変更点
・ロロの生存と最終決戦への参入
・原作では裏切った扇がルルーシュの正体を知った上で託す。
・まさかの開幕フレイヤ。
・↑からのスザクが総大将であるゼロへの強襲。
・シュナイゼルは自分の軍にも頓着していないのでフレイヤを遠慮なく放てる
・富士山が噴火はフレイヤの影響を少しでも抑える為にされた作戦である
・噴火の影響でダモクレスのブレイズルミナス発生装置が一部破損
・カレンがルルーシュに『勝て』というギアスを望んでかけてもらった
・そして間髪入れずの最後のフレイヤ
・ニーナがいなくてフレイヤ・エリミネーターがないので防ぐ手立てがない。特攻も出来ないので対策が立てられない。
・シュナイゼルの勝利が確定するかと思われた瞬間のシャルルの嘘のない世界の成就確定?

うん、シュナイゼルが物凄く勝ちに来てる所為であっさりと勝負がつきそうになったところで、まさかのシャルルの卓袱台返し。

当初の予定では最初のフレイヤ撃墜は、トウキョウ決戦を生き残ることが出来た朝比奈にやってもらう予定だったけど、まさかの杉山に変更。


ネタバレ:自身の身バレをしたルルーシュはディートハルトにだけ、戦後の自身がどのような動きをするのかを伝えています、それを聞いたディートハルトはハッスルして一生付いて行きますと語ったそうな。

後、ネタバレじゃないけど、シュナイゼルはブリタニア軍にフレイヤが何発あるかを言ってません。


残すところ後三話。

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