コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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『さあ、本当を始めよう』





第十四話 ゼロ・レクイエム

 

 時間をフレイヤが撃たれる数分前に巻き戻す。

 シュナイゼル率いるブリタニア軍とゼロ率いる黒の騎士団の戦いは激化していた。両軍の戦闘の中で、最も激しい戦いを繰り広げている紅月カレンの紅蓮聖天八極式と枢木スザクのランスロット・アルビオンはフジの樹海に落ちても尚、争うことを止めない。

 

「カレン――ッ!!」

「スザク――ッ!!」

 

 二人はお互いを憎み合ってはいない。それでも戦うことを止めなかった。

 

「死にたがりが!!」

 

 ルルーシュにかけられた『生きろ』というギアスがなければ、とっくの昔にスザクは自死を選んでいる。

 一時の感情でフレイヤという大量破壊兵器を使い、数え切れぬほどの命を奪った罪はとてつもなく重い。一人では背負いきれぬほど重すぎた。

 

「そうだ、俺はずっと死にたかった!」

 

 あの夏の日、父であるゲンブを刺し殺した時から常にスザクは死を求めて来た。

 誰も傷つかないことを願っただけなのに、より血が流れてしまう。罪から目を逸らし、軍務という言い訳の果てに訪れる死を望んでいた。

 

「俺を受け入れてくれたユフィを殺され、友を裏切り、自分を慕ってくれた子を騙し、仕えた皇帝すらも裏切った」

 

 思えばスザクの人生は裏切られ、裏切ってばかりだ。

 

「もう、こんな世界を終わらせるんだ……! 苦しみに満ちた世界は沢山だ!!」

「勝手な理屈を!」

 

 ナイトメアフレームの四肢が、武器が激突する衝撃にコクピットのみならず、地面すらも轟いていた。

 

「じゃあ、どうやって変える! どうやったら変わるっていうんだ!」

「知るものか!」

「人は、世界は、こんなにも思い通りにならない!」

「だから 思い通りにしようって言うの?! それは傲慢なのよ!!」

「血が流れない明日がそんなに悪いっていうのか!」

「押し付けた平和は反発を生むんだって今までのことで思い知ってるでしょうが!」

 

 既に死んでいる男が己が眼前に立ち塞がり続けることにカレンは我慢出来なかった。

 

「諦めた奴が…………生きることを止めた奴が何時までも駄々を捏ねるな!!」

 

 足元の木々を吹き飛ばしながら紅蓮は片手で倒立するように立ち上がり、ランスロットを蹴り飛ばす。

 

「なら、俺を殺してみろ!!」

 

 ランドスピナーを使って地を噛み、即座に体勢を整えたスザクは自らを殺すように言いながらも、スーパーヴァリスを構えて紅蓮を狙う。

 

「やってやろうじゃないの!」

 

 輻射推進型自在可動有線式右腕部を使って輻射波動砲弾を放ち、ランスロット・アルビオンのスーパーヴァリスを破壊したところでコクピットに流れる警報音にようやく気づいた。

 

「くっ、これで輻射波動も弾切れ」

「シールドエナジーも尽きた」

 

 ランスロットが爆発するスーパーヴァリスを捨て、紅蓮と荒れ果てたフジの樹海の真ん中で向かい合う。

 武装も大半を失い、機体を動かすエネルギー源も尽きかけている。次が最後になると二人は予感していた。

  

「全てを捨てた俺とここまで闘えるなんて、改めて君を凄いと思うよ」

「スペックはこっちが上でギアスまで使っているのに互角。ふん、本当にアンタは私達の邪魔ばかりをする」

 

 ブリタニア軍と黒の騎士団のエースとして幾度となく戦って来た相手に、初めて敬意のようなものを抱いたのかもしれない。

 決着を着ける前の一瞬の静寂が訪れ、緩やかな風が一枚の葉っぱを舞い上げた。

 

「決着を着けましょう、私たちのすれ違いに!」

「これで、全てを終わらせる!」

 

 示し合わせたわけでもないのに葉っぱが地面に落ちたのを切っ掛けとして、二機は全く同時に飛び出した。

 

「「ォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」

 

 ランドスピナーで直進した二機は中間点で激突する。

 紅蓮は輻射波動の爪を突き立てんと伸ばし、ランスロットは固めた拳を叩き込まんと構える。手を伸ばせば触る距離の刹那、スザクは笑った。

 

「ああ、ようやく――」

 

 永遠を刹那に切り刻み、超速度の領域にありながらスローモーションのように迫る紅蓮の輻射波動の爪が見える。

 カレンの技量を示すように、正確にランスロットのコクピットに迫っている。ギアスの力があったとしても回避も防御も不可能。何もしなくてもスザクが待ち望んだ死がやってくる。

 

「っ!?」

 

 笑って死を受け入れたスザクは引き込まれ、何かと一つに成った。

 コードを持つC.C.だけが合一されず、そのC.C.にギアスを与えられた繋がりのあるルルーシュだけが自我を取り戻せた。そして常時発動するほどのギアス効果に晒されていたスザクにも影響を及ぼす。

 

『――――お前達が望んでいる世界を願え!』

 

 何かと一つに成ったことすらも実感できないまま、そして切り離された感触を覚えた。

 

『スザク、あなたは生きて』

 

 現世がCの世界から切り離される刹那、とても愛おしい人の声と温もりがスザクを包み込んだ。

 

(ユフィ!)

 

 スザクには何も分からない。分からないまま、ギアスが消え去ったスザクは動いた。

 

「俺は、生きるッ!」 

 

 願われた。ただ、生きてほしいと願われたその想いを受け取ったスザクの体が動き、ランスロットの挙動が微妙に変化して……。

 

「「っ!?」」

 

 激突した両機はまるでお互いを支え合うようにして膝を付いた。

 

「届かなかった……」

 

 グラリと倒れ込んだ紅蓮のコクピットの直ぐ近くにまでランスロットの拳がめり込んでいる。対して紅蓮の爪はランスロットの肩に突き刺さるに留まっていた。

 

「ぉぉぉぉお」 

 

 明滅するコクピットの中でスザクは声を漏らした。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」

 

 勝利の雄叫びではなかった。

 俺は生きていると、世界に知らしめるために上げたスザクの魂の叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、何が起こっている……」

 

 天空要塞ダモクレスのオペレーター室にいたシュナイゼルは、刻一刻と不利になっていく戦況に眉を顰めていた。

 そもそも、最後のフレイヤ弾頭がその本領を発揮せず、原因不明の消失をしてからの動きがあまりにも不可解過ぎる。

 

「どうして我が軍が悉く後手に回る? 対処の全てが裏目に出てしまう?」

 

 シュナイゼルが指示を出している分も、現場指揮官の判断での行動も、悉くが読まれているとしか思えない。

 

「ありえない。この混沌とした戦況で全ての者の思考を予測するなど」

 

 仮に指示を出しているシュナイゼルの思考を読まれたとしても、ドロテアやモニカ、ルキアーノといったナイトオブラウンズには現場での指揮権を預けている以上、どうしたって全てがシュナイゼルの考えた通りの展開にはならない。

 黒の騎士団だって現場判断で動くことはあるだろうし、一人の人間が戦場を支配することなど出来ない。

 

「ブラッドリー卿が撃墜されました?!」

 

 ナイトオブラウンズの一角、ブリタニアの吸血鬼の異名を持つナイトオブテンの反応が無くなったのを見たオペレーターの声は最早裏返っていた。

 相手にもラウンズやラウンズ級の者が何人もいるのだから、味方側の将が落ちることも十分にありえる。だが、戦況が不可解で、しかも不利になってきた状況で心の支柱の一つが抜け落ちた影響は大きい。

 

「黒の騎士団の後方よりブリタニア軍のシグナルが……」

 

 別のオペレーターがこのタイミングで現れた援軍に喜色を露わにしたが直ぐに絶望の表情へと変わる。

 

「シグナルが黒の騎士団の物に変わりました」

「船籍照合…………これはコーネリア皇女殿下のものです!」

「グリンダ騎士団の旗艦グランベリーも確認! マリーベル皇女殿下のシグナルも黒の騎士団の物へと変わりました?!」

 

 援軍と思われたブリタニア軍が黒の騎士団のシグナルへと変える理由などたった一つしかない。

 

「シュナイゼル陛下、コーネリア皇女殿下より通信です」

「繋いでくれ」

 

 強張っていた肩から力を抜き、椅子に深く凭れかかったシュナイゼルはおずおずと訊ねてきたオペレーターに力ない笑みを向けて言った。

 

『お久しぶりです、兄上』

「ああ、君を撃って以来だね、コーネリア」

 

 オペレーターがギョッとした目で振り返ってくるのを感じながら、この戦いの趨勢を見極めたシュナイゼルは優雅に足を組む。

 

「まさか君が敵に回るとは予想外だったよ」

 

 通信先であるコーネリアは車椅子に座っているようだった。

 無理もない。背後から自動小銃で撃たれたのだ。本来ならば病院から出ることも出来ない状況で無理を押しているのは、あまり良くない顔色からも想像がつく。

 

『初めてあなたの予想を外れた行動を取れたことは喜ばしいはずなのに、私はなんら達成感を覚えません』

 

 隣に立つギルフォードが主を心配するようにチラリと見た姿にシュナイゼルは苦笑を漏らす。

 

「カノンがノネットにまだ生きていたコーネリアを連れ出させたのは知っていた。君を殺さなかったのは私の甘さだったかな。それとも油断だったか」

『最早、どちらであろうとも意味はないでしょう」

「そうかもしれないね」

 

 今度、シュナイゼルの口から漏れたのは失笑だった。

 まるで図ったかのように通信が乗っ取られ、ナイトメアフレームのコックピットにいるゼロの姿を映し出す。

 

『そう、あなたは敗けたのです。躾けなければならないと断じた人々に』

「人は恐怖を望まなかった、か」

 

 戦況図を見上げれば、次々にシュナイゼルの指揮下にはないブリタニア軍やその軍と対峙していた黒の騎士団がこの地に集まってきている。

 

『あなたは世が世なら卓越する王に成れたかもしれない。だが、仮面を被ることを止めた以上、皇帝の器にはない』

 

 フレイヤ弾頭はもうない。敵軍は自軍の数倍にまで膨れ上がり、投降して戦線を離れる者も多く離反者は止まらない。

 これほどの戦力差を覆すことは如何なシュナイゼルを以てしても不可能だった。

 

「そうか。私はチェックメイトをかけられたのか」

「ああ……」

 

 味方はいないし、この様子では援軍が来る気配もない。

 逆転する要素が皆無とあってはシュナイゼルも諦めざるをえない。すると、副官のカノンが溜息のような声を漏らした。

 

「教えてほしい。私の敗因はなんだい? あのフレイヤが不発だったことか?」

『いいや、敗因はもっと簡単なことだ』

「簡単なこと?」

 

 カノンにすら分かる極単純なことにシュナイゼルは気付けていない。

 

『以前のあなたには勝つ気が無かった。正確には、常に負けないところでゲームをしていた。しかし、今のあなたはそうではない』

 

 シュナイゼルは状況に合わせて必然ではなく最善の手しか打たなかった。だから、『負ける』前に引くことも厭わない。『勝つ』ことに拘らないから、『勝つ』ことに拘る者に負けることはない。

 

『シュナイゼル、俺もずっと仮面を被って来たからこそ、あなたの仮面が見える。その虚無の内側に芽生えたものがな』

 

 ずっと仮面を被り続けて、遂には『自分』を見失ってしまった哀れな男がシュナイゼルだった。

 

『あなたは子供だよ。ようやく見つけた『自分』に振り回される小さな子供でしかない。獲得した自分に振り回されて自制が利かなくなり、俯瞰してきたゲームに熱中するあまり以前のスタイルに徹しきれない』

「…………くっふふふふ、子供ときたか」

 

 言い得て妙であると自覚してしまったシュナイゼルはようやく気づく。

 

「勝つだけなら本当に簡単だった。ゼロさえ消えればいいのだから」

『そうすればこんなイレギュラーが起こることも、援軍が間に合うことも無かった。あなたは俺に敗れたのではない。自分自身に負けたのだ』

「ゼロのナイトメアがブレイズルミナスの破損した下層より侵入!」

 

 各個人で判断して動き始めている戦場に、もうゼロの指揮も必要ない。

 ダモクレスに接近して防衛部隊を瞬く間に突破した蜃気楼が単機でダモクレスに突入する。

 

「デルタブロック、通信途絶!」

「第六フロートの制御ルームが破壊されました! 真っ直ぐにここに向かってきます!」

 

 急造で建設されたダモクレスには近接兵装が搭載されていない。一度接近され、内部に侵入されてしまったらどうしようもない。

 

「これは設計図でも漏れたか。大方、ロイド辺りかな。彼はこういう兵器を嫌っているようだし」

 

 迷うことなく真っ直ぐにオペレータールームに向かって来る蜃気楼に、組んでいた足を解いて深く身を沈めたシュナイゼルは如何に自分が浮かれていたかを自覚する。

 

「総員に退艦許可を与える」

 

 一度溜息を漏らしたシュナイゼルが下した命令は事実上の敗北宣言だった。

 

「陛下」

「カノン、君も行っていいよ」

「いえ、私は最後まで陛下と共に」

「君も物好きだね」

 

 全てを見届けると決めたカノンと共にシュナイゼルは静かにその時を待ち続ける。

 数分後、シュナイゼルとカノン以外、誰もいなくなったオペレータールームに繋がる壁を壊して現れた蜃気楼。

 

「ああ、もっと遊びたかったな」

 

 淡く微笑んだシュナイゼルは悔いを漏らした直後、蜃気楼は右腕を向けてハドロンショットを撃った。

 

「私に勝った褒美だ。最後の仕掛けを楽しんでくれよ」

 

 第九十九代皇帝シュナイゼル・エル・ブリタニアは、不穏な言葉を残してこの世から影も形も無く消え去った。

 

「分かっているとも、全てをな」

 

 結局、独力では乗り越えることが出来なかった腹違いの兄の最期を見届けたルルーシュは蜃気楼を駆って、ダモクレスの頂上に向かって進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ、うぅ……」

 

 意識を失っていたカレンは体に走る痛みに呻くようにして目を覚ました。

 今は失ってしまった懐かしい人の夢を見たような気がしたが、今が戦争中であることを思い出したカレンは寝かされていた地面からバッと体を起こす。

 

「痛っ……!?」

 

 その拍子に全身に奔る痛みに絶句する。

 コックピット近くまで壊された影響でカレンも無傷というわけにはいかなかったようで、感じからして骨折はしていないようだが涙が出そうなほど痛い。

 

「目を覚ましたのなら手伝ってくれないかな」

 

 暫く痛みに蹲っている間もガチャガチャと何かを動かしている音が聞こえ続けていたが、気に入らない男の声も聞こえてはカレンも顔を上げずにはいられない。

 

「スザク……」

 

 見上げた先にはランスロットから伸ばしたチューブを紅蓮に繋いでいるスザクがいた。

 

「おはよう、短い午睡から覚めた気分はどうかな」

「最悪よ。最初に目覚めたのがアンタじゃなかったら、もう少しマシなのにね」

「それだけ口が回るなら大丈夫そうだ」

 

 不器用な手付きでオイルに塗れながら勝手に人の愛機を弄っているスザクにカレンは青筋を立てる。

 

「紅蓮に何してるのよ」

「見て分かるだろ。エネルギーを拝借してる」

 

 ラクシャータに整備の仕方を教わったカレンも、スザクが紅蓮のエネルギーをランスロットにバイパスしようとしているのは分かった。

 

「武器もないし、右手もないのに、そんなことをしたって」

「飛べればいい」

 

 黙々とバイパス処置を施しているスザクの目に赤い光はなかった。

 

「ねぇ、アンタ、何か変わった?」

 

 戦う気概やさっきまでの後ろ向きに突っ走る気配を感じなくて思わずカレンは問いかけていた。

 

「もっと真面目に生きろ、何やってんだって殴られちゃってね。勿論、君じゃないよ」

「分かってるわよ」

 

 前後の脈絡的にそれをしたのは自分しかいないのだが、あまりにも愛情の籠った声で言うものだからサブイボが立っているところだったので、否定されて逆に安心する。

 

「で、心変わりしたんなら何をするの?」

「言っただろ、飛ぶのさ。昔の約束を果たす為に」

「約束?」

 

 分かっていないカレンの様子を見るに、あの一瞬の間にあったことを深く心に刻んだスザクは憑き物が落ちたように笑った。

 

「君も手伝え。ルルーシュの騎士を自称するなら、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スザクとカレンが口喧嘩をしながら作業をしている頃、遂にエナジーが尽きた蜃気楼を乗り捨ててダモクレスの頂上に辿り着いたルルーシュは一人の人物と対面していた。

 

「お兄様、ですね」

「そうだ」

 

 実妹であるナナリーが目を開いて自身を見据えてもルルーシュが驚くことはない。

 あの空間と共にC.C.とV.V.に連なるギアスは消えた。その効果も、二度と発揮することはない以上、ナナリーの目を覆っていた闇は既に晴らされている。

 ルルーシュは仮面を外し、素顔を晒す。

 

「八年振りにお兄さまの顔を見ました。それが人殺しの顔なのですね」

 

 罵倒にも等しいナナリーの言葉に、目を細めたルルーシュは気付かれないほど微かに唇の端を上げた。

 

「では、お前は人殺しの妹…………いや、あの征服皇帝シャルルの子供である時点で俺達に大きな違いはない」

「それでも、少なくとも私は誰かを殺めたことも、破滅に追いやったこともありません」

 

 人生で最も辛い時期を二人で乗り越えたとは思えない会話が繰り広げられる。

 

「お兄様、私はあなたの敵です」

 

 愛情の欠片もない絶対零度の瞳がルルーシュを見つめる。

 

「お兄様もスザクさんもずっと私に嘘をついていたのですね。本当のことをずっと黙って…………でも、私は知りました。お兄様がゼロだったと」

「ああ、そうだ」

 

 返すルルーシュの瞳も全く温かさを見せることなく、逆にナナリーの方が怯むほどに知らない姿を見せつける。

 

「シュナイゼルお兄様から聞きました、ギアスのことを。私にも使いますか、その卑劣な力を」

 

 少しでもルルーシュを揺さぶるように、決して明かしてはならない秘密を口にする。

 

「私は一度でもそんなことをしてほしいなんて頼んではいません。誰かを殺め、利用し、平和を得たところで虚しいだけです。私は、ただ皆さんがいればそれでよかったのに! あなたは何故そんな簡単なことが分からないのですか!」

 

 車椅子のひじ掛けを力一杯に叩くナナリーは泣いていた。

 

「お兄様に、この世界を手にする資格はありません。ゼロを名乗って、ギアスを使って人の心を踏みにじってきたお兄様には」

「では、あのまま隠れ続ける生活を送れば良かったのか? 暗殺に怯え続け、何時か切り捨てられる未来が望みだったとでも?」

 

 ひぐっ、とナナリーの喉が鳴った。

 冷たすぎるルルーシュの眼光と言葉は全く揺るぐことなく、ナナリーをどこまでも射抜く。

 

「何時、私がそんなことを頼みましたか!」

 

 ナナリーは、兄と二人だけで暮らせられればそれで良かったのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 

「しかし、現実は様々なものによって支配されている。抗うことは必要だ」

 

 ルルーシュはそう言って僅かにナナリーから視線をずらし、全人類と一つに成った時に見て来たことを思い出していた。

 

「もっと他に良い方法はないかと言われれば、あるだろう。俺に出来たのはこんな方法だけだ」

 

 居場所を守るためにルルーシュは自分で取れる方法を狭めていた。

 

「人の心を捻じ曲げて尊厳を踏みにじって来た人が今更後悔など」

「どんな責め苦も、罰も受けよう。俺はそれだけのことをしてきた」

 

 そしてルルーシュは止めていた足を進める。

 

「待ちなさい! 来ないで!」

 

 近づかれるのを忌避するように顔を歪めるナナリー。その姿を見てもルルーシュの足は止まらない。

 

「あっ……ダメ、来ないで! お兄様まで巻き込まれるなんて……」

 

 たった数段の階段を上り、ナナリーまで後数歩という距離にルルーシュは足を進める。

 

「お兄様は悪魔です。私の言うことなんて一つも聞いてくれない。卑劣で、卑怯で、なんて……なんてひどい」

「もういい」

 

 遂にルルーシュはナナリーの下へと辿り着き、泣き伏す彼女の足下に膝をついた。

 

「もういいんだ、ナナリー」

 

 兄であるルルーシュとしての顔で、泣き濡れるナナリーの頬を撫でる。

 

『ダモクレスの自爆シークエンスが開始されました。乗員は直ちに退避して下さい。フレイヤ着火まで残り100、99、98……』

 

 頂上部にアナウンスが響き渡る。

 

「シュナイゼルの仕掛けた最後の罠か」

 

 全人類と一つに成った時、ルルーシュはシュナイゼルが一つだけ真実を言っていないことを知った。

 フレイヤ弾頭は確かに会談の時点で残り三つだった。だが、未完成品、もしくは基準値に満たないフレイヤについては口にしなかった。

 弾頭として撃つことは出来ず、こうやって自爆用に残していたシュナイゼルの残した最後の仕掛け。

 

「ああ…………ごめんなさい、お兄様。お兄様まで巻き込んでしまった」

「馬鹿だな、似合わない嘘までついて」

 

 泣き続ける妹の髪を撫でつけるルルーシュに焦りはない。

 

『フレイヤ着火まで残り50、49、48……』

 

 非情なまでにカウントは進む。

 ルルーシュの蜃気楼はエナジーを失っており、どんな奇跡が起こっても二人が救われる道はこの場にはない。

 

「なあ、ナナリー。昔のことを覚えているか?」

 

 そんな中にあって、ルルーシュは何時かにナナリーに子守唄を歌った時のように穏やかに話しかけた。

 

「お兄様?」

「前にもこうやって二人でどうにもならなかった時があったな」

 

 日本に来たばかりの頃は右も左も分からず、子供二人ではどうにもならない時が何度もあった。その時のことを思い出すルルーシュは、ゼロでもなくナナリーの兄でもなくただの男として緩やかに微笑み、囲いに覆われた空を見上げた。

 

「あの日も、こんな強い日差しだった」

『フレイヤ着火まで残り25、24、23……』

 

 兄の温もりを感じながら、迫るタイムリミットを前にしてもナナリーからも恐怖は消えた。

 あるのは、たった一つの予感だった。

 

「動けない俺達の下へやってきたアイツは言うんだ」

 

 太陽が陰った。あの日と同じように、あの時と何も変わらないままに。

 囲いを破壊して頂上部に侵入してきたランスロット・アルビオンのコックピットから身を乗り出してスザクが叫ぶ。

 

「ルルーシュ! ナナリー!」

「スザクさん!」

「遅いぞ、スザク」

 

 ルルーシュが皮肉を言うのも、あの時と同じだ。

 

『――――――――――5、4、3、2、1、フレイヤ着火』

 

 ダモクレスは自爆し、不完全なフレイヤに呑み込まれてこの世から完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日本にて行われていた黒の騎士団との決戦は、シュナイゼル陛下の死亡とダモクレスの消滅を以てブリタニア軍は降伏――』

 

 ブリタニア本国にある自宅にて、テレビに釘付けになっていたシャーリー・フェネットは微動だにせず見つめ続ける。

 

『ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー卿の死亡も確認されており――』

 

 一学生でしかないシャーリーはテレビやラジオといった情報媒体でしか遠く離れた日本の状況を知る術を持たない。

 何回もチャンネルを変えた末に最も最新の情報を発信している番組に固定し、母親が心配になるほどテレビの前から動こうとしない。

 

『前エリア11のナナリー総督、ナイトオブワンの枢木スザク卿、そして黒の騎士団のゼロの行方が分かっていません。とある情報筋によれば、三人はダモクレスの自爆に巻き込まれたとの話も――』

 

 その日、シャーリーはテレビの前から動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュナイゼル皇帝と黒の騎士団の決戦から既に早一ヶ月が経ちました」

 

 アナウンサーとして現場からの中継にも慣れた感のあるミレイは、またしても良く知る地に降り立っていた。

 

「ここ、アッシュフォード学園で行われる予定の超合衆国の最高評議会にブリタニアの皇帝が召喚されるという情報がそこかしこに流れています」

 

 シュナイゼルとゼロの会談が決裂した、ある意味では歴史上のターニングポイントと呼べる場所になってしまった愛校に複雑な思いは抱けども、仕事は仕事と割り切ってリポートを行う。

 

「注目されますのは、アッシュフォード学園にやってくるのは誰なのか? 大戦後に戻られた前皇帝シャルル陛下か、第一皇子であったオデュッセウス殿下や黒の騎士団に協力して悪逆皇帝シュナイゼルを討ったコーネリア殿下が即位するとの話もあり、情報が錯綜しております」

 

 簒奪したとはいえ、皇帝を名乗ったシュナイゼルが死んだ以上、早急に次の皇帝を立てねばならないのだが、問題があった。

 大戦後に何事も無かったかのように姿を見せた前皇帝シャルルが再び皇帝になるのは、ブリタニアの民も超合衆国の者達も否定的なのだ。

 となれば、順当に第一皇子であるオデュッセウスか、大戦で黒の騎士団を助けたコーネリアのどちらかが有力と見られていた。

 

「ブリタニア政府は皇帝が出席すると明言しており、実質的にこの会議の場が新皇帝のお披露目の場ともなるのです」

 

 しかし、オデュッセウスやコーネリアに問題がないわけではない。

 オデュッセウスはその人柄や性格において何の問題もないのだが、敗戦国となったブリタニアが被るであろう戦後賠償の交渉を行うには力不足との見方も出ており、ブリタニアの民から不安の声が出ていた。

 かといって、征服の先鋭だったコーネリアでは各エリアに対して配慮に欠けてしまい、余計に超合衆国の勢いを煽ることになりかねない。

 

「…………ブリタニアの皇帝専用機がやってきました!」

 

 ブリタニアの命運を握っていると言っても過言ではない新皇帝が乗っているであろう専用機がアッシュフォード学園にゆっくりと下りて来る。

 

「まず護衛が…………あれってジェレミア・ゴットバルトじゃない?」

 

 護衛と思われる者が真っ先に降りてきたが、オレンジの仇名を付けられたジェレミアであることに直ぐに気づいたミレイは思わず近くにいたスタッフに確認してしまった。

 

「あ」

 

 同じく困惑しているスタッフの声にミレイが顔を戻すと、滅多に本気で驚かない彼女をして目を剥かざるをえない者が皇帝専用機から下りて来た。

 

「ゼロ!?」

 

 フジ山決戦でダモクレスと共に消えたはずのゼロが皇帝専用機から降り立ち、多数の護衛に囲まれながら進んでいく。

 

「え、一体どうなってんの?」

「ミレイ・アッシュフォードだな」

 

 ミレイだけでなくゼロの姿を見た全員が混乱している最中、背後から名前を呼ばれて反射的に振り返ると、ブリタニア人の男が立っていた。

 

「皇帝陛下よりあなたがリポーターをすることを条件に中継の許可が出ています。同行して頂きたい」

 

 ゼロが齎すカオスに内心では飛び回りながらも外面は平静を装っていたディートハルト・リートの提案に、ミレイは幾つかの確認を行った後に同行することにした。

 流石に生徒会室で超合衆国最高評議会は行えない。体育館を改装して行われることになる。

 厳重な警備の中、ミレイらが裏口から体育館の中に入った瞬間にどよめきが襲った。

 

「ゼロっ!?」

「何故、ゼロがブリタニア人と共に現れるのだ!」

 

 外の民衆と同じくゼロを死んだ者と認識していた超合衆国の議員たちは口々に驚愕を露わにする。

 

「単純な事だ」

 

 議長と向き合う代表席に一人で立つゼロは、少し演技が過ぎるぐらいの動作で右腕を横に広げて仮面に手をかける。

 その動作が意味するものを予測するのは容易く、興味や動揺といった様々な感情の坩堝の中心にいるゼロの仮面が遂に外された。

 

「ゼロとは仮の名、私の本当の名は」

 

 晒されたゼロの素顔に誰もが瞠目する中、恐らく体育館の中で最も驚いているであろうミレイを見つけた彼は魔王のように笑った。

 

「――――――――――第百代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

 

 全ての偽りを解いたルルーシュは、本当を始める為にその姿を世界に示した。

 

 

 




原作との変更点
・スザクとカレンの決着の場がフジ樹海で、勝利したのはスザク
・シュナイゼル死亡
・コーネリアが援軍で現れる
・シュナイゼルが残した罠に兄を巻き込まないように頑張るナナリー。でも、ルルーシュは全部知っていた。
・そして彼らは……
・ダモクレスは自爆して消滅。
・本当の姿を明かすルルーシュ。その目的とは一体?


ゼロという象徴を地に落とした、二度と誰にも利用されないように。それがこのルルーシュのゼロ・レクイエム。


次回、『最終話 皇帝ルルーシュ』

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