コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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なんとか毎日投稿を守り切れました。

今まで見て下さった皆様に感謝を。




最終話 皇帝ルルーシュ

 

 

 

 第九十九代となった皇帝シュナイゼルが死にダモクレスが消滅した後、世界の大半の地域で喝采が起こっている中で反対に沈痛な空気に満たされている場所がある。

 神聖ブリタニア帝国の首都である帝都ペンドラゴンの更に中枢であるペンドラゴン皇宮の謁見の間に集まった者達が沈痛な空気を放っていた。

 

「まさかシュナイゼルが負けるなど。これからどうなるのだ?」

「クーデターで皇位を簒奪した者が負けたからといって我らブリタニアが負けたわけではない」

「しかし、世界はそうは見ない」

「フレイヤに屈したとはいえ、皇帝継承を認めてしまった以上はシュナイゼルは我らの皇帝だったのだ。言い訳は利かん」

「そうだ、今は喜び浮かれている民衆もやがては気付く。我らブリタニアは敗けたのだと」

 

 逃げるように集まった貴族達が口々に不安を口にする。

 皇族であるオデュッセウスやギネヴィア、カリーヌが謁見の間に現れても貴族達の不安は消えない。

 

「早急に新しい皇帝を立てる必要がある」

「だが、誰に?」

「順当に行けばオデュッセウス殿下だが……」

「正直、敗戦国となった我が国を背負えるかと言われれば不安が残る」

 

 穏やかで争い事を好まない善良な性格をしていて他の人間から恨みを買ったりすることが殆どないオデュッセウスは皇子としてはともかく、やはりこの苦難の状況を背負える器ではないと貴族達は思っている。

 

「アイツらお兄様に」

「止めなさい、カリーヌ」

 

 不敬とも取れる発言を繰り返す貴族達に第5皇女であるカリーヌが動こうとしたのをオデュッセウスは止めた。

 

「彼らの言っていることは間違ってはない。私は、シュナイゼルと違ってあまりにも凡庸過ぎた」

 

 性格を考えれば、オデュッセウスがクーデターを企むことも実行に移すこともないだろうが、この苦難の状況において適任と言えるのがシュナイゼルだというのが皮肉だった。

 

「悔しいね。どうして私には、弟達や妹達と違って非凡な才能や能力には恵まれなかったのだろうか」

「兄上……」

 

 窮地に陥っているブリタニアを救うに足る器ではないと誰もが、そして自分でも思っていることに悔しさを覚えて拳を震わせるオデュッセウスの姿に第1皇女であるギネヴィアも同様に忸怩たる思いを胸に秘める。

 

「私やカリーヌも同じ思いです。黒の騎士団に協力したコーネリアやマリーベルがいれば、もう少し状況も変わるものの」

「彼女らはまだ日本にいる。直ぐには戻って来れないよ」

 

 黒の騎士団と共に悪逆皇帝となったシュナイゼルを討ったという功績がある第2皇女コーネリアと皇位継承権第88位マリーベルがいれば状況は幾らか緩和される。

 

「仮に二人が戻って来ていたとしても、一年間皇族としての義務を放棄していたコーネリアや継承権が低すぎるマリーベルでは、貴族達が皇帝になることを認めようとはしないだろう」

 

 実績や人物評価、能力という面ではコーネリアが次期皇帝最有力だが彼女はブラックリベリオン以後、先のシュナイゼルとの決戦までの一年もの間、自らの意志で行方を晦ましていた。幾ら相応しかろうが、これでは皇帝とするには不安が残る。

 翻って、マリーベルの問題は皇位継承権の低さに尽きる。

 実績や能力はコーネリアには及ばないとはいえ、候補には上がってもジヴォン家や他が後ろ盾になっても彼女が皇帝になったとしても安心できる要素を見い出せない。

 

「やはり、父上にもう一度立ってもらうしかない」

「―――――皇帝陛下、御入来!!」

 

 皇族ですら先行きに不安を覚えている中でオデュッセウスが出した結論に一周回って誰もが戻って来た直後、護衛兵の声が謁見の間に響き渡って口を紡ぐ。

 カツン、カツンと歩く音の主をチラリと見た何人かが上げたドヨッとしたざわめきが謁見の間を走った。

 玉座の前の最前列にいたオデュッセウスがどうしたのだろうかと疑問に思って顔を上げた時、丁度第九十八代皇帝だったシャルル・ジ・ブリタニアが前を通り過ぎるところだった。

 

「父上……」

 

 覇気のない背中と、一ヶ月と少し見なかった間に十年以上も年を取ってしまったかのような征服皇帝の姿に、オデュッセウスのみならず謁見の間に集った全ての者の口から息が漏れた。

 

「シュナイゼルは死んだ」

 

 嘗ての姿の面影もないほどの姿で玉座の前に立つシャルルは、力の無い声で事実だけを述べた。

 

「皇位を簒奪したとはいえ、あ奴が皇帝だったのは紛れもない事実。我らブリタニアは敗れたのだ」

 

 強いブリタニアを象徴する覇気溢れた皇帝シャルルはもういない。

 今のシャルルでは、窮地に陥ったブリタニアを救い導く力を欠片も持ち合わせていないと気づいた貴族達の中には、絶望に深く肩を落とす者まで現れ始めた。

 

「我らは弱者となった」

 

 弱肉強者の論理を声高に唱えていたブリタニアだからこそ、弱者から搾取することに何の罪悪感も抱いていなかった。それでも何時かは自分達が弱者に陥るのではないかという懸念がなかったわけではない。

 しかし、たった一代で世界に覇を唱えられる地位にまでブリタニアを押し上げたシャルルさえいれば、そんな未来は訪れるはずがないと信じていた。

 だからこそ、シャルルが放った決定的な一言が彼らの心を折った。

 

「我らは、ブリタニアは 陛下がもう一度立ちさえすれば……!」

 

 最前列にいた貴族の一人が不敬を承知で進言するも、貴族達よりも先に心が折れてしまっているシャルルには響かない。

 

「皇位は既にシュナイゼルに継承されておる。儂は既に皇帝ではない」

 

 玉座に座する資格があるのは皇帝のみ。既に皇帝ではないシャルルは玉座に腰を下ろすことはしなかった。

 

「で、では、ブリタニアはどうなるのですか?」

 

 シャルルさえいれば、また強いブリタニアに戻るのだと理由も無く信じていた貴族の一人が泣きそうな顔を浮かべる。

 

「敗北者の末路は貴様らも良く知っていよう」

 

 そう、今まで散々他の国にしてきたことを、今度はブリタニアがされても何の文句が言えようか。

 征服し搾取して支配してきたブリタニアに下る因果応報の理。

 

「新たな皇帝を決めねばならぬ」

 

 敗者の国を背負う者。その者次第で、ここにいる皇族や貴族、そして数多のブリタニア国民達の運命を握る皇帝を選出しなけばならない。

 

「ですが、誰に……?」

「最も相応しい者が直に来る」

 

 この場にいるオデュッセウスやギネヴィア、カリーヌではなく、他の者となれば貴族達が思い描いたのが日本にいるコーネリアだった。

 

「コーネリア皇女殿下でありますか?」

「いや……」

「――――私だ」

 

 皇帝が否定した直後、怜悧な声が謁見の間に響き渡った。

 開かれたままの謁見の間の扉から一人の青年が玉座へと向かって歩いて行く。

 

「な、なんで?」

 

 真っ直ぐに玉座に向かう学生服姿の青年の顔に記憶を呼び起こしたカリーヌが目を見開く。

 玉座の前の段差で足を止めた青年は、目の前に立つシャルルを見上げて口を開く。

 

「どけ。そこは私が座する場所だ」

「…………ここに座る意味を理解した上でその言葉を吐くか、ルルーシュ」

「え、ルルーシュ? まさか本当に」

「生きていた?」

「ナナリーが見つかった時に、もしかしたらと思ったけど」

 

 シャルルが告げた名前から、青年が元皇子であるルルーシュであると幼い彼と交流のあった皇族三人は驚きながらも二人を見上げるしかない。

 

「全てを理解してこの場所に来た。もう一度だけ言う、どけ」

 

 僅かに目を細めたルルーシュは最後の段差を乗り越え、シャルルと同じ位置に上って腕を横に振るった。

 嘗ての自身を超える覇気を身に纏った息子の姿に目を閉じたシャルルは、一歩横に退く。シャルルの行動の意味を理解して、再びどよめく謁見の間の皇族と貴族達。

 

「ま、待つんだ、ルルーシュ」

 

 そのまま玉座に座ろうとするルルーシュを慌てて呼び止めるオデュッセウス。

 

「何か、オデュッセウス兄上」

「生きていてくれたのは嬉しいけど、些か冗談がすぎるんじゃないか? そこは皇帝の…」

 

 振り返り自身を見下ろす腹違いの弟から放たれる威圧に一瞬怯んだオデュッセウスは背中に冷や汗を掻きながらも言わなければならないことがあった。

 

「今は空席の座だ。誰が座ろうが、皇帝の器ではないあなたが気にすることではない」

「空席であろうとも其方が座っていい席でもない!」

「そうよ! 何の実績もない。皇位継承権も持たないアンタがいて良い場所じゃないのよ!!」

 

 母親同士の仲が悪く、自身もルルーシュやナナリーを嫌っていたギネヴィアやカリーヌが噛みつくと謁見の間の空気が緊迫する。

 

「シュナイゼルを殺したのは私だ」

 

 その緊迫の糸をルルーシュが冷ややかな声で断ち切る。

 

「何、だって……?」

「聞こえなかったのか? 超合衆国を作り、黒の騎士団を率いて悪逆皇帝シュナイゼルを討ったのは私だと言っているんだ」

 

 ルルーシュが登場した以上の衝撃を持つ言葉が染み渡るよりも早く、弁舌と人心掌握術に長けたゼロそのままに場の流れを完全に掴んだ。

 

「まさか自分がゼロだなんて言う気? 仮にも皇族として生まれた者がそんなことをするはずが」

「人質として日本に送られ、戦争を起こして見捨てられた私がブリタニアに何の恨みも抱かないと本気でお思いか?」

 

 信じたくはないと思ってもカリーヌの中で生まれた疑念はどんどん膨れ上がっていく。

 

「奇跡の男が日本に現れたのは何故だ? 幾人ものブリタニア兵が裏切ったのは? ゼロが捕まり処刑されたと発表されるまでの間にナナリーが見つかったのは本当に偶然か? 一度死んだはずのゼロが再び現れたのは?」

 

 事実だけを羅列すれば、後は勝手に線が繋がってしまう。

 

「私がゼロだ」

 

 自らが作り上げた象徴を誰にも使われないように堕としながらルルーシュが高らかに謳い上げる。

 

「な、ならば皇帝の座よりも反逆者として処刑して然るべきでしょう。ゼロに一体、どれだけブリタニアが迷惑を被って来たことか」

 

 ルルーシュの言葉を否定しようとしないシャルルに、言っていることは本当なのかもしれないと思ってしまったギネヴィアは苦し紛れに言い放った。

 

「同時に私の能力の証明にもなる」

「そんなのは屁理屈でしかない」

「しかし、必要ではないのかね? 敗者となったブリタニアには」

「それは……」

 

 シャルルが皇帝に戻らず、シュナイゼルが亡き今、ルルーシュは誰よりも皇帝に相応しい能力を示した。

 臣下のように控えるシャルルの姿がどうしても視界に入ってしまうのもあって、ギネヴィア他、カリーヌらも二の句を告げなくなった。

 

「私もルルーシュが皇帝になるのを支持しよう」

「及ばずながらも私もルルーシュお兄さまを支持します」

「コーネリアっ!?」

「マリーベルまで!?」

 

 そこへ現れたコーネリアとマリーベルがルルーシュの支持を表明したことで状況は一気に加速する。

 

「約束しよう、私がブリタニアを敗者にさせないと」

 

 皇帝候補だった二人と前皇帝の支持を受けたルルーシュが玉座に座るのを誰も止められない。

 

「本当にいいのかい、ルルーシュ? ゼロにまでなってブリタニアへの恨みを果たそうとしたというのに」

 

 凡庸であろうとも真理を突くことの多いオデュッセウスを見下ろしたルルーシュはフッと笑った。

 

「良いも悪いもない。俺は俺が望む世界の為に皇帝であることを選んだのだから」

 

 そうして、第百代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは本当の名で世界に出て行くことを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宵闇の超合衆国の最高評議会が行われたアッシュフォード学園の屋上に複数の人影があった。

 

「ルルーシュゥゥゥッ!!」

「引っ付くな、リヴァル」

 

 屋上にドアを開けた途端に飛びついてきたリヴァルに抱き付かれたルルーシュは嫌そうな顔しながら引き剥がそうとする。

 

「俺達親友だろ!」

「だとしても、男に抱き付かれて喜ぶ趣味は俺にはない」

「俺もそんな趣味はないっての!」

 

 一か月間もの間、姿を晦ましたと思ったら世界の重要人物として躍り出た友人の変わらない姿に、リヴァルは鼻を啜りながら離れて笑顔を浮かべた。

 

「すまないな。色々なことを黙っていて」

「いいさ。親友だからって何もかも話さなきゃいけないってもんでもないだろ」

 

 間違いなくルルーシュ・ランペルージの親友だったリヴァルの言葉に肩の荷を下ろしたルルーシュは周りを見渡した。

 

「リヴァルだけか?」

「ああ、今じゃ学園に残っているのは俺だけだからな」

 

 秘密裏に連絡を取ったリヴァルに頼みごとをしたルルーシュは寂し気な彼の肩を軽く叩く。

 

「消去法とはいえ、生徒会長に成ったんだ。そんなしみったれた顔をするな」

「おい、消去法ってなんだよ、消去法って」

「そのままの意味だが」

 

 昔よりも遠慮の無くなったルルーシュにある種の肩透かしを食らったリヴァルは昔を思い出して嬉しくなった。

 

「それで約束のやつは?」

「おう、ばっちりだ。とっておきのやつをかき集めたぞ」

 

 リヴァルが親指を立てて肯定すると、床に所狭しと並べられたそれらを見て鷹揚に頷いたルルーシュの背後で扉が開けられた。

 

「お待たせ、諸君!」

 

 仕事を終えてやってきたミレイ・アッシュフォードが元気に片手を上げて現れた。

 

「会長…………じゃなくて、元会長。流石に卒業したのに制服を着るのは如何なものかと」

 

 振り返ったルルーシュの目には、学制服を着て学生時代と変わらないテンションで現れたミレイの姿があったので本音が口を零れた。

 

「最初の一言がそれ!? 旧生徒会で集まろうって話だったから制服を着てきたのに……」

「会長の制服姿が見れて俺は嬉しいっす!」

「リヴァル、変態っぽいぞ」

「私もそう思う」

「なんでさ――っ!!」

 

 慰めるつもりが何故か避けられてしまう男リヴァルの魂の咆哮が屋上に響き渡った。

 

「うん、このやり取りも懐かしいわ。流石に社会人になったらハッチャけることも出来ないし」

 

 うんうん、と満足した様子で一人で頷いたミレイは表情を改めてルルーシュを見る。

 

「ルルーシュ陛下、と呼んだ方がいいのかしら?」

「やだな、元会長。昔と同じでいいですよ、この場では」

「この場では、か」

「ええ」

 

 ルルーシュが民主主義を標榜する最高評議会を引っ掻き回した場を図らずともその目で実際に見たミレイは場を弁えていた。

 

「ルルーシュ、本当に皇帝になっちまったんだな」

 

 間違いなくセンセーショナルなニュースとなって世界を駆け巡った報道に、友人が遠くなったように感じてリヴァルは寂しそうな表情を浮かべる。

 

「ああ、そして今日がアッシュフォード学園に来れる最後の日ともなる」

 

 皇帝となったことで、もう学生のままでいることは許されなくなった。それは同時にランペルージでいられるのも今日が最後ということになる。

 

「皇族だったことやゼロだったってこと以上に、もう一緒に遊ぶことは出来ないんだな」

「すまない」

「ルルーシュが謝ることじゃないだろ」

 

 申し訳なさげに謝るルルーシュの背を軽く叩いたリヴァルは精一杯笑った。

 

「皇帝が親友な奴なんて他にいないだろ? 俺の一生の自慢にさせてくれ」

「子孫に語り継げるほどの自慢にさせてやる」

「ははっ、期待してるよ」

 

 一庶民でしかないリヴァルは明日になれば皇帝となるルルーシュとこうやって馴れ馴れしく話すことが許されなくなる。それどころか面と向かい合う機会すらも無くなるだろうことを予感している二人なりの別れの仕方だった。

 

「ところで、ルルちゃん。私、何も聞いてなかったんだけど」

 

 麗しい友情に感動する気持ちを横に置いておき、リヴァルほどには蚊帳の外に置かれたことに納得がいっていないミレイはルルーシュを下から睨め付ける。

 

「アッシュフォード氏には事前に話は通してあった」

「わ・た・しは何も聞いてなかったんですけど」

 

 私を強調するミレイから顔を逸らしたが、直ぐに顔を掴まれて引き戻される。

 

「…………政略結婚を破談にして勝手に家を飛び出した娘には何も教えなくていい、だそうだ」

「あの糞ジジイ……っ!」

 

 ルルーシュがアッシュフォード氏と呼ぶのは祖父のことであると知っていたミレイは、とっておきの意趣返しにギリッと歯を噛んだ。

 

「今までのアッシュフォードの献身は忘れない。家の再興はなるが、それでもアナウンサーを続けるんですか?」

 

 まさかの大穴からの大逆転に大歓喜しているであろう実家の両親のことを考えたミレイはあっけらかんと笑った。

 

「暫くは続けるわ。私の目的の為には大事な事よ」

 

 耳元で艶っぽく告げられた声に、大型の肉食動物に狙われたような悪寒がルルーシュの背筋に走ったが理由は分からない。

 

「ルルーシュ様」

 

 疲れているから風邪でも引いたかとルルーシュが内心で考えていると、屋上に二人の人物を伴ったジェレミア・ゴットバルトが現れた。

 

「ニーナ、ロロ」

 

 ルルーシュが皇帝となって実権を握ったことで解放することが出来たニーナと、偽りの弟役をこなしていたロロが姿を見せた。

 

「ミレイちゃん、私」

「いいのよ、ニーナ。でも、二人とも制服着てないのね」

 

 現役生であるリヴァルと一応まだ学籍のあるルルーシュとロロ。もう籍は残っていないニーナは私服で、ロロも同様とあっては卒業生なのに制服を着て来たミレイの身の置き場がない。

 

「変わらないね…………でも、ルルーシュがゼロだったなんて」

「そうだ。俺がユフィを殺した」

 

 一気に緊迫する二人の間で何も言えないリヴァルとミレイ。

 まだ屋上に足を踏み入れないロロを残して一歩踏み出したニーナは肩の力を抜いた。

 

「話はジェレミアさんから聞いた。ユーフェミア様が望んだ世界を作ると言うのは本当?」

「ああ」

「…………私は、ゼロを許しはしない。多分、一生」

 

 睫毛を伏せたニーナは肘を抱きながら大きく息を吸う。

 

「でも、それとは別に私自身が仕出かしたことの答えを出さなきゃいけないと思う。だから、手伝う。それをユーフェミア様も望んでくれると思うから」

「ニーナは、強いな。俺はそこまで辿り着くのに大分時間もかかって遠回りをしてきたのに」

「強くなんかない。弱いからこうなっちゃったんだから」

 

 自分の弱さと小ささを自覚したニーナの確かな変化に笑みを浮かべたミレイに見惚れていたリヴァルは、ハッと思い出して屋上の扉の向こうから出てこようとしないロロを引っ張り出す。

 

「ほら、出て来いってロロ」

「で、でも僕は皆さんを騙していて」

 

 C.C.とV.V.関連のギアスの能力は使えず、解けたことで偽りの記憶が解けている。どんな視線が向けられるか容易に想像が出来るロロは二の足を踏んでいた。

 

「ロロ、お前はロロ・ランペルージ。俺の、ルルーシュ・ランペルージの弟だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「兄さん……」

「そういうこと。今となっちゃ数少ない生徒会メンバーなんだから逃げるなよ」

「え、えっ!?」

 

 こいつだけは逃がすまいと捕まえて離さないリヴァルの腕の中でテンパっているロロの姿に笑みを零したルルーシュは、次に現れた者の姿に表情を綻ばせた。

 

「シャーリー」

「ルル!」

 

 カンカンカンと階段を駆け上がって来たシャーリーは屋上に出て来た勢いのままにルルーシュを見つけて飛びつく。

 流石にここでバランスを崩すのは格好悪いので、しっかりと待ち構えて体勢を整えていたルルーシュは二、三歩よろめいただけで受け止めきった。

 

「ずっと心配してたんだよ」

「すまない…………って、この調子だと今日何回謝ることになることやら」

「それだけのことをしたんだよ、ルルは」

 

 首にしがみ付いていたシャーリーが一歩離れて鼻先に指を突きつけて来る。

 

「そうだよ。何時も僕達はルルーシュに振り回されて来たんだから」

 

 ナナリーの車椅子を抱えて階段を上って来たスザクが苦笑を浮かべながらシャーリーに追従する。

 

「やらかしたことでいえばお前も大概だと思うがな、スザク」

 

 過去を振り返れば同じ穴のムジナであると苦笑を返すルルーシュに苦い顔になるスザク。

 

「そう考えるとナナちゃんは総督になって一番頑張ってたのにねぇ」

「うっ、ごめんナナリー」

「すまん、ナナリー」

「いえ、大丈夫ですよ、お二人とも」

 

 そんな二人に笑ったシャーリーの視線の先でお姫様に許される二人の姿があった。

 

「後はカレンだけか」

「ちょっと病院に行って来るって言ってから先に始めてって連絡あったぞ。何で病院に行くのにあんな弾んだ声が出てるんだろ?」

 

 懐かしい旧友に話が弾む旧生徒会メンバーを嬉し気に見たルルーシュの呟きに、現場責任者としてカレンから連絡を受けたリヴァルは頭を捻っていた。

 

「でも、まさかルルーシュが皇帝になった日にみんなが集まれるとは思わなかったよ」

 

 用意していた物の準備を始めたリヴァルは複数のライターが入った袋をスザクに任せ、ルルーシュやロロと一緒に床に並べていく。

 

「私は疑ってなかったよ。ルルはちゃんと約束してくれたもん」

「そうなのですか、お兄様?」

「まだナナリーが総督だった頃にな」

 

 その約束を果たす為に、ルルーシュはわざわざ日程調整をしたり、予定をこっそりと入れ替えたり、様々なとこにお願いしたり、神楽耶にちょっとヤバい約束をさせられたりしながら超頑張った。

 

「あの時いた面子だけじゃない。ナナリーやスザク、ニーナやカレンも一緒に花火をするって決めたから」

 

 ルルーシュの原動力となった約束。

 

「ちゃんと千羽折った私の功績だよね」

「はいはい」

 

 子供染みたと笑われるような願いを果たす為にルルーシュは戦って来た。

 

「シャーリー、俺は皇帝になった」

「うん」

「その為に色んな物を犠牲にしなくちゃならない」

「うん」

「もう昔のように学校に通うことも出来なくなってしまった」

「うん」

「これから俺は宮廷の魔物達や世界と戦っていくことになる」

「……うん」

「今日のように皆で集まる時も俺だけは無理だ。望む世界の為に俺は自分の自由を捨てた」

「…………うん」

「皇帝の身分には必ず権力が付き纏う。誰かと付き合うとか、結婚も俺自身の一存では決められない」

「………………うん」

「シャーリーのことは好きだ。異性として好意を持っているとハッキリと言える。でも、それだけじゃダメなんだ」

「……………………うん」

「俺は今に至るまでに多くの命を奪い、人生を狂わせてきた。止まることも降りることも許されない」

「…………………………うん」

「すまない、君の気持ちは応えられない」

「………………」

 

 屋上を沈黙が支配した。

 何時の間にか、誰も話すことも作業の手も止めてルルーシュの静かな声を聞いていた。

 

「それでも」

 

 立場や色んな物が邪魔した程度で諦めるなら、シャーリーはここまでの気持ちを抱いたりはしなかった。

 

「私は、ルルが好き」

「…………でも、俺はシャーリーに何も返せない」

 

 父親を奪っておきながら、好意を向けてくれてもルルーシュには人並みの幸せを与えることすら出来ない。

 

「そこまでシャーリーも言ってるんだし、諦めて結婚しちゃったら?」 

「そういうわけにはいかない。俺の母マリアンヌは庶民の出だった。騎士としては最高位のナイトオブラウンズだったにも関わらず、皇族や貴族から嫌われていた。俺自身も庶民の母の子として何度も嫌な思いを味わって来た。そんな思いをシャーリーに感じてほしくない」

 

 リヴァルは簡単に言うが、貴族階級でない女性が皇族に入ることの大変さを身近で知っているルルーシュだからこそ安易な選択を選べない。

 

「じゃあさ、仲間がいれば大丈夫じゃないの」

 

 そこへ遅れてやってきたカレンが口を出す。

 苦笑しながらカレンの背後から現れたC.C.の姿に目を止めながら本気で理解できていない顔のルルーシュは目を瞬いた。

 

「仲間? 何を言っている」

「そのままの意味だ。女二人に手を出しておいて逃げるなという話だ」

 

 C.C.が放った言葉の意味が浸透するまでに数秒がかかり、シャーリーがギギギギギと油の切れたからくり人形のように頭をルルーシュに向ける。

 

「ルルゥ~?」

「待て!? ちょっと待ってくれ!!」

 

 思い当たる節のあるルルーシュが冷や汗をダラダラと流しながらも釈明の理論を組み立てようとするが、持ち前の頭脳もこの問題には解決策を導き出せずお手上げ状態になった。

 

「パパになるんだから責任を取ってよね。逃げたら承知しないんだから」

「あ」

 

 カレンがお腹辺りを擦りながら言った意味を理解したスザクは、口を開けて唖然としてしまって持っていたライターに力を入れてしまって、点いた火が打ち上げ花火の導線に着火した。

 

「「ルルッ!!」」

「ま、待ってくれ!! ていうか、なんで会長まで――」

「問答無用!!」

「「「「「「ははははははははっ」」」」」」

 

 シャーリーとミレイに追い回されるルルーシュの姿に皆が笑い、スザクとリヴァルとロロが次々に着けて打ち上がった花火がそんな彼らを照らし出す。

 少し想定外だが、皆が笑っている世界をこそルルーシュが望んだ本当だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝陛下、御入来!!」

 

 護衛兵の声の後、謁見の間の中央を白を基調とした豪奢な意匠を纏ったルルーシュが無人の野を進むように歩く。

 野心に溢れる貴族や利権に聡い商人や他国の政治家など、魑魅魍魎な宮廷の中だけに留まらず、日夜戦い続けているルルーシュは胸を張って進み、玉座の前で振り返った。

 

「――――――」

 

 この先は誰も見たことのない新しい世界。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる――」

 

 本当を始めた神聖ブリタニア帝国第百代皇帝になったルルーシュは今日も戦い続ける。

 

 

 




原作との変更点
・黒の騎士団の勝利にてブリタニア側が敗北者の立ち位置になった。
・シャルル生存、ルルーシュの後ろ盾となる。
・コーネリア以下同じ。
・原作では実現しなかった花火の約束が果たされる。
・ロロ、シャーリーなど、死んだ人物も生きている。
・ルルーシュが皇帝になったまま戦い続ける。
・一発か二発か三発かで当てたルルーシュ、パパになる。
・合法的ハーレムルートが確定。
・でも、一人でも喪うとルルーシュは魔王化して世界を滅ぼすかも?
・一人の悪意を集めたゼロレクイエムではなく、敗けたブリタニアにゼロがついたことで超合衆国も分裂できず、東西冷戦のような拮抗状態を作り出す。
・花火に呼ばれなかったアーニャとジノの後で憤怒。
・ジェミレア、ルルーシュの女癖を諦める


大体、これぐらいでしょうか。

さて、シャーリー生存√のはずなのに、メインヒロインをC.C.やカレンに奪われてシャーリーが息していないと言われた本編はこれにて終わりです。


次回は、少し時間を開けてユーフェミア生存√が始まる……………のかな?
多少のネタはあるんですけど、未だ固まっていないので始まるかは未定です。


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