コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~ 作:スターゲイザー
さあ、そろそろルルーシュを悲劇に落とす準備を始めよう
行政特区日本が始まった数日後の夕方、クラブハウスのリビングにて篠崎咲世子に手伝ってもらいながら折り鶴を折っていたナナリーは外出から戻って来た兄の雰囲気が以前と違っていることに気が付いた。
「ナナリー、話がある」
ここ数日、外出の多かったルルーシュが改まって話とは何だろうと思いつつも、「何ですか、お兄様」と咲世子に折りかけの折り鶴を直してもらいながら聞いた。
「俺がユフィの手伝いをしていることは言っていたな」
「はい、スザクさんからもお兄様をお借りしますと言われました」
「…………アイツは何を言ってるんだ」
ナナリーには見えないが頭を抱えたルルーシュは溜息を吐いて顔を上げる。
「当然だが俺達のことをユフィ以外のブリタニアの者に知られるわけにはいかない。それで別人として働いているわけなんだが」
その為の変装として髪を切ると言われた時はナナリーも驚いたものだ。
ルルーシュは目の見えないナナリーの為に、大きくなっても姿を想像しやすいように髪型を変えることはしなかった。周りに正体を知られないように変装の必要はあるので、髪型を変えるぐらいはやって然るべきではあるが、ルルーシュの気遣いが嬉しかったナナリーとしては少し複雑だった。
「ジュリアス・キングスレイでしたっけ」
「ああ、経歴から何まで全部が偽物だけどな」
ルルーシュという人間が嘘で塗り固められた人間であるように、彼が扮するジュリアス・キングスレイもまた全てが嘘偽りで出来ている。
嘘から逃げられない己の宿業のようなものを感じていたルルーシュはナナリーに気付かれないように薄く笑った。
「別人として働いてもリスクは消えない。それでも俺が特区に参加しようと思った理由が分かるか?」
「お兄様が特区を手伝うのは、ユフィ姉さまやスザクさんに頼まれたからじゃないんですか?」
「それも勿論あるが一番の理由はお前だよ、ナナリー」
「私?」
ルルーシュは何も善意から、ユーフェミアに絆されたからで特区日本に参加を決めたわけではない。
確かに黒の騎士団として争うよりかは血は流れないだろうし、ルルーシュもユーフェミアやスザクと戦わなくて済む。しかし、ルルーシュの裡に灯る復讐の炎はそんな生易しいものではない。もしも、ルルーシュが復讐よりも優先することがあるとすれば、妹のナナリーのことをおいて他にない。
「ナナリーの足を治せるかもしれない医者を、やっと見つけることが出来たんだ」
今までアッシュフォードが用意した医者にしか罹ることが出来ない状況では、ルルーシュが望む最先端の医療は望むべくも無かった。
ルルーシュが自分で調べた範囲内で行える治療法、リハビリを幾つも試していたが効果は殆どというほどない。
紅蓮弐式や月下を開発したラクシャータ・チャウラ―を黒の騎士団に招聘したのも、元は医療サイバネティクスの権威である彼女ならばナナリーの足も治せるのではないかと考えたからである。
ギアスで操っているのでナナリーのことをバラされる心配も無く、特区日本で確固たる地位を手に入れたルルーシュならばユーフェミアとスザクの協力もあれば秘密裏に手術を行えることも可能であった。
「………………」
ナナリーはルルーシュが治療法や医者を探していたことに察しはついていた。
二人で日本に送られて来てから献身的な介護を続けてくれたルルーシュには感謝しかないし、一人では日常生活を送ることも出来ないナナリーの為に多くのことを犠牲してしまっていることも自覚している。
「お兄様、私は……」
「不安なのは分かっている」
何を言うべきかも定まらないまま話そうとしたナナリーをルルーシュは優しく包み込み、だがそのまま受け入れはしなかった。
「このご時世と、ユフィの内とはいえブリタニアの組織に入っている以上、何が起こっても不思議じゃない。ナナリーには自分で逃げられる足を取り戻してほしいんだ」
ルルーシュだってナナリーを置いて捕まったり死んだりする気は更々ない。だが、戦争や政争はルルーシュをしても何が起こるか予測しえないイレギュラーが起こるもの。
ラクシャータを手元に置けた今でなければナナリーの足を治せる機会は訪れないかもしれないという気持ちがルルーシュを逸らせた。
「今は見えない眼も心因性のものだ。足が動く様になれば、見えるようになるかもしれない」
コーネリアにもナナリーのことをユーフェミア並みに愛せとギアスをかけている。あの姉ならば例えナナリーのことが皇帝にバレたとしても、今度は味方になってくれるユーフェミアと二人で戦ってくれるだろう。スザクもいるのだから、ルルーシュが分が悪いとしても賭けに出る価値は十分にあった。
「手術の必要があるとか、そこまで考える必要はない。診察だけでも受けてみてはくれないか」
最愛の兄の申し出にナナリーは暫しの黙考の後、重い口を開いた。
「――――――――――」
ナナリーの返答を聞いたルルーシュは笑顔を浮かべたが、自身が最大の失策を犯したと気づくことはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
全ての始まりは、行政特区日本が始まって一ヶ月と半月が経過した頃、特別派遣嚮導技術部の主任を務めるロイド・アスプルンドの一言から始まった。
「退屈だよ」
行政特区が始まって以来、殆ど起こらなくなったテロに対して特派が戦場に出張ることもなくなり、ランスロットを動かせる機会が試験運転以外にパッタリと無くなったロイドは呟いた。
「僕としては有難いことですけど」
「そうですよ、ロイドさん。平和なのは誰にとってもいいことじゃないですか」
名誉ブリタニア人になって結果的に日本人を裏切った形になっているとはいえ、進んで同胞を殺したいわけではない枢木スザクとしては戦場に出るような機会がないのは嬉しいことである。
ナイトメア好きだが殺し合いがしたいわけではないセシル・クルーミーもスザクに同調する。
「折角、ランスロットを調整しても動かす機会がこうもないんじゃ干上がっちゃうよ」
「基地内で動かせるじゃないですか」
「実戦でないと限界を見極められないでしょ?」
「でしょって言われても……」
どうにもスザクは、こういう技術畑の人の気持ちが良く理解できない。
アッシュフォード学園でもニーナは何時も小難しいことをしていてスザクと碌に話が続かないし、スザクの部下という微妙な立ち位置に収まったルルーシュ扮するジュリアス・キングスレイが言うことも九割近くがチンプンカンプンなのだ。
「そんなに暇なら、ガウェインを私に全部押し付けないで手伝ってくれません?」
「ランスロット以上に扱える人がいないんじゃねぇ……」
あの行政特区の式典でガウェインを置き去りにしてゼロは姿を消した。
パイロットの痕跡が残らないようにコクピット部分を爆破する徹底ぶりだが、奪取される前は未完成だった部分が黒の騎士団の技術者によって完成されており、その技術はブリタニアにもフィードバックさせる為に解析を急かされている。
徹底的な検査で爆発物などはないと分かっていても、コクピットに爆弾を仕込んだことからシステム的な罠が仕込まれている可能性も高く、どうしても解析作業には時間を擁していた。
「どうしてですか? ガウェインって複座式なんでしょ。そこまで難儀する代物には見えませんけど」
「動かすぐらいならスザク君でも出来るよ。但し、ガウェインの真価を発揮させようと思ったら、僕が知る限りではシュナイゼル殿下を乗せた方が手っ取り早いね」
「それ事実上、無理って話ですよね」
特派がシュナイゼル旗下の組織だとしても、幾らなんでも必要だからと第二皇子をナイトメアに乗せられるはずがないのでセシルも肩を落とした。
「でも、どうしてシュナイゼル殿下なら真価を発揮させられるですか?」
スザクが知る限りで、シュナイゼルがナイトメアの操縦に秀でているという話を聞いたことはなかった。
セシルもロイドの言に疑問を持っていない様子なので、気になって聞いてみた。、
「ここだよ、ここ」
そう言ってロイドが指差したのは自分の頭。
「頭?」
「ガウェインのドルイドシステムは最新鋭の電子解析システムなんだ。常人よりも高い状況判断力や演算処理能力を要求される。端的に言えば、馬鹿が扱っても宝の持ち腐れになる機体なんだよ」
そう言われればスザクにも納得がいった。
ブリタニアの宰相であるシュナイゼルの桁外れの智謀はE.U.を震え上がらせるほど。それだけの頭脳があればドルイドシステムを使いこなすことも可能なのだろう。
「でも、ゼロも使ってましたよね」
「そうなんだよね…………彼自身がシュナイゼル殿下並みの頭脳を持っているか、最低でももう一人がそういうことになっちゃう」
その事実が何を意味するのか、ロイドの頭脳は直ぐに結論を出す。
「ゼロが消えてくれて良かったね。あのまま黒の騎士団が大きくなってたら、本当にブリタニアを倒すことも出来たんじゃない?」
ブリタニアに対する忠誠心など欠片も無いロイドだが、シュナイゼルが敗れれば研究が出来なくなるので敗けることは望んでいない。
「本当にゼロはどこに行ったんでしょうね。もう一ヶ月以上も動きを見せないなんて」
完全に仕事をする空気では無くなったので手を止めたセシルも会話に入ってくる。
「まあ、行政特区を認めちゃった時点で何かしても日本人の支持を失うだけだし、仕方ないんじゃないの」
「仕方ないって……」
「僕としては法の裁きを受けさせたかったですけど」
「でも、ユーフェミア様にはその気はないんでしょ?」
「はい……」
スザクは後になって皇籍奉還特権を使用してまでゼロを受け入れようとしたと聞いて、頭の中が真っ白になったことを思い出す。
結局、コーネリアと彼女達の母親の働きかけと、そして奇しくもゼロ自身が特区に入らなかったことで皇籍奉還の話は立ち消えた。しかし、ゼロを法の裁きにかけようとするならば、またユーフェミアが皇籍奉還特権を使う可能性が残っている。
「僕は平等主義も大概だと思うけどね」
この話がどこからか漏れて、それだけユーフェミアは本気で日本人を救済するという本気が見えて賛同者は増えたが、やはり差別を寧ろ推奨しているブリタニア人はロイドのように冷ややかな面がある。
「私はみんなが仲良く暮らせるのは良いことだと思いますよ」
逆にセシルのように受け入れてくれる者も確実に増えていることがスザクは嬉しかった。
「あっ、そういえば」
あまりこの話を長く続けるのは良くないと思って話題の転換を図ろうとしたスザクは、もしかしたらシュナイゼルに伍するかもしれない頭脳の持ち主が身近にいることを思い出した。
「――――――――それで私を呼び出したというのか、騎士スザク」
仕事中に上司であるスザクから呼ばれれば赴かないわけにはいかない立場にあるジュリアス・キングスレイは、深い関係のあるガウェインを前にして実にイイ笑顔を浮かべていた。
「ご、ごめんなさい」
部下に凄まれて腰が引けているスザクは反射的に謝罪を口にする。
「謝れば許されると思っているのですかな? 本来、私が行っているものはあなたがやらねばならないというのに」
「返す言葉もありません……」
「これで予定していた行程が三パーセントも遅延してしまう。あなたにこの責任が取れるというなら何も言うことはありませんが」
「うぅ……」
肩を竦めて身を縮めてやり過ごそうとしているスザクと、ネチネチと言いながら喜悦の笑みを浮かべているルルーシュ扮するジュリアス。
普段の力関係が容易に透けて見える二人に、ロイドは面白そうに見てセシルは苦笑を浮かべているとこちらも対照的。
「テロも小康状態にある今は行政特区に力を入れるべきと」
「ああっ! ルル……ジュリアスは頭が良いからロイドさんが僕に呼んでほしいと言ったんだよ。いやぁ、いいな頭が良いっていうのは」
逃げたね、逃げた、逃げる気か、と三者三様にスザクが話を逸らすのを簡単に見抜きながら、ルルーシュは嘗て自分が使っていたガウェインを改めて見上げる。
「ゼロが使っていたガウェインですか。これはまた懐かしい」
元より物に執着のないルルーシュだったが、この機体の特殊性もあって少しは思い入れがあった。
「へぇ、まるで実物を前にも見たことがあるような言い方だね」
「私がどこからの出向かを考えれば自ずと察しはつくでしょうに」
ドルイドシステムを扱える人間が左程多くないことは実際に使ったルルーシュだからこそ良く分かる。
ガウェインが黒の騎士団に奪取されて改造されたのは有名な話で、援助していたキョウトの下で為されたのであろうことは、このことを知っている者ならば容易に想像がつく。
そしてルルーシュ扮するジュリアスがキョウトからの出向であることは、その能力もあって良く知られている。両者の因果関係を結び合わせれば誰も不審には思わない。
「じゃあ、ナイトメアの操縦もお手の物ってことか」
「流石にそこにいる騎士様には手も足も出ないでしょうが」
自身を天才と自負しているルルーシュといえど、スザクやカレンといったエース級やコーネリア達一流相手には単機では分が悪い。
ナイトメアの本領である近接戦闘がルルーシュには合わないし、そういう意味ではガウェインの機体コンセプトはルルーシュに合っていた。
「ガウェインにスザク君ほどの腕は必要ないし、物は試しでやってみようかジュリアス君」
ロイドの命令をルルーシュが聞く必要はない。
ジュリアスの上司はスザクではあるが、スザクは特派にも所属している。特派はシュナイゼルの旗下にあるので、ユーフェミアやコーネリアとは命令系統が違うのにスザクが特派の人間というのが話をややこしくさせていた。
目論見通りであるのでガウェインに乗り込もうと決めたルルーシュだったが、その前にスザクを見る。
「では、代わりに溜まっている仕事を騎士スザクにやってもらいましょう」
「それは仕方ないよね」
あっさりと安請け合いするロイドにスザクがムンクの叫び如き顔になったりするが自業自得だとセシルも止めはしなかった。
「―――――――本当にドルイドシステムを使いこなしてるね」
スザクが絶望に沈んでいる間にドルイドシステム他、幾つかの機動実験を行ってガウェインから降りてきたルルーシュに向かってロイドは真意を掴ませ難い笑みを向ける。
「システムの制御に一杯一杯ですよ」
「余裕あるように見えるけど」
「外面を取り繕うのに慣れているだけです」
実際、ルルーシュを以てしてもシステムとナイトメアの操縦を両立させることは難しい。
「ただ、まあ、凡人では現状のドルイドシステムを有効に活用するのは不可能でしょう」
「出来る出来ないではなく、不可能と言い切るかい」
「私でさえ、このガウェインのように複座式でなければ戦場に出ようなどと無謀なことは天地が引っ繰り返っても思いはしません」
「だよねぇ。幾らか簡略させないといけないか。それにしても適性がない者には扱えないだろうけど」
後に機能を限定化する事で扱いやすくしたウァテスシステムが開発される始まりの瞬間であるが、限定して戦力が下がったところで意味はないと考える二人にはどうでもいい話であった。
「優秀だっていう噂は前から聞いてたけど、ジュリアス君の情報処理能力はずば抜けているね。どうだい、特派に来る気は無いかな?」
「天才であるロイド伯爵にそこまで見込まれるとは、光栄といった方がいいのでしょうかね」
分野の違う天才であるルルーシュが言うと凡人には嫌味にも聞こえるが、ロイドはいたくジュリアスを気に入ったようである。
「立場はスザク君の上を用意するし、シュナイゼル様の組織だから金に困ることも無い。退屈はさせないと約束するよ」
「最近の口癖が退屈だという人の言葉とは思えませんね」
「おっと、これは一本取られた」
部下に追い抜かれそうなスザクは物凄く複雑そうな顔で二人を見て、セシルはそんな彼らを微笑ましそうに見ていた。
「魅力的な提案ですが、この地を離れることはありませんので」
「土地に縛られたって良いことは何もないよ」
「人に縛られるのであれば悪いことではないでしょう」
「君も難儀な生き方をしているね」
「自覚はあります」
シュナイゼルを別とすれば、ここまでロイドと話が弾む人間も珍しい。
奇人変人を地で行くロイドは相手を怒らせることもあり、興味を失くしたらあっさりと話すことを止めることも珍しくない。
だから、セシルも止めようとはしないし、スザクも自分をダシに使われても文句一つ言わない。後者に関しては口では絶対に勝てないから反抗することを諦めているのもあるが。
「協力はしますよ。対価は要求しますが」
「ドライだねぇ」
「タダ働きはしない信条なもので」
見返りを求めない者はいない。求めないとすれば、他に何か思惑を隠していると誤認される。
「特派といえば、ユーフェミア様から行政特区に参加した者達との技術交流の打診がありましたが」
ルルーシュの行動に無駄はない。一つの行動に二つ、三つの結果を出す。
特派に来た目的はガウェインと、もう一つ。
「技術交流? そんな話は聞いてないけど」
「つい、今日に上がってきた話です。私がここに来たのもその話をする為です」
「へぇ……」
そこで初めてロイドが僅かに表情を変えた。
「ユーフェミア様より、技術交流を行うかどうかは特派で判断しても構わないと指示を受けています。如何致しましょうか?」
全く話を聞かされていなかったスザクが一人ショックを受けている中、ロイドは常の楽し気な笑みに戻って口を開く。
「特派にってことはナイトメア関連だよね。主導したのは君かな?」
「私は頼まれただけですので、仲介をしたのみです。そんな大それたことは、とてもとても」
聡くそして賢い、とルルーシュとロイドはお互いの仮面の内側を僅かに垣間見て同じことを思った。
「準備の良い君のことだ。大方、既に来てるんだろ? その技術者たちは」
「ええ、彼らが作った機体とそのパイロット込みで」
笑みを深めたロイドも、呼びに行ったルルーシュが連れてきた技術者を見た時には流石に目を剥いた。
「ハロー、プリン伯爵」
「ら、ラクシャータさんっ!?」
ナイトメアはまだだが先んじてやってきた三人の内のリーダー格らしい技術者が軽く挨拶する姿に、ロイドよりもセシルの方が目を剥いて既知である知り合いの名を呼んだ。
「どうして、君が……」
「キョウトに協力しているのがバレちゃってね」
因縁のある相手にロイドも動揺を隠しきれない中、キセルを揺らしながらラクシャータ・チャウラ―が軽く言った。
「で、運悪く捕まっちゃったのよ。お姫様の曲赦のお蔭で刑罰は受けなくて済んだけど、見逃してほしかったら協力しろってコーネリアに言われちゃって」
要は技術交流という名の脅しであると告げたラクシャータの背後に、専用のトレーラーに乗せられた赤いナイトメアが特派のエリアに入ってくる。
「まさか、紅蓮っ!?」
赤いナイトメアと戦った経験のあるスザクは目を剥いている間に、彼らから少し離れた場所で停止したトレーラーから紅蓮弐式が立ち上がる。
「ということは、パイロットは」
動いてランスロットの隣にハンガーに固定された紅蓮弐式のコクピットからスザクの良く知る人物が姿を見せた。
「やっぱり、カレン…………でも、どうして」
「カレン・シュタットフェルトです。よろしくお願いします」
紅月カレンは明らかに『不本意です』と表情と雰囲気に出しながらも、スザクが余計なことを言う前に挨拶をする。
当然、ロイドもセシルもスザクの様子には気が付いたが、彼らもラクシャータの登場に冷静とはいえない。
「技術交流を行うかどうか。技術交流の期間は半年と見ていますがその後も続けるかどうかは都度、協議して決めるということで如何でしょう」
全てを演出したルルーシュは、全員の動揺を感じながら僅かに頬の端を上げるに留めて告げる。
「正式な通達と協議の場までには少し時間があります。ロイド主任、彼らはここに来たばかりですので施設の案内をして頂いても構いませんか?」
「…………ああ、いいよ」
協議の場では第三者の目もあるから話せないこともある。これはルルーシュが与える機会と分かりつつもロイドは乗るしかない。
「ジュリアス君、食えない奴だって言われるでしょ」
「こんな正直者を捉まえて何を言うのですか」
しらばっくれるルルーシュにロイドは肩を竦めてみせた。
「シュナイゼル殿下に良く似ているね、君は」
ルルーシュにとっては最大の罵倒に等しい言葉に、流石に表情が動いて眉を顰めてしまうのを抑えきれない。
「まさか、私などシュナイゼル殿下の足下にも及びませんよ」
そう、今はまだ勝てないにしても牙を研ぐ雌伏の時と自覚しているルルーシュは、頭を下げて顔を見られないようにしながら心の中の獣を押さえつける。
ロイドとセシルがラクシャータやカレン達を連れて離れた直ぐ後、青い顔をしたスザクがルルーシュに縋りついた。
「る、ルルーシュ…………カレンは」
「俺のことはジュリアスと呼べと言っただろ。カレンが黒の騎士団にいたことは調べがついている」
服に縋り付いて来るスザクを振り払い、しっかりと呼び方を訂正する。
「安心しろ、ブリタニア側には黙っている。まあ、あっちは不本意だろうがな」
「どういうこと?」
「迂闊な言動は控えろということだ。お前も、そしてカレンもな」
ラクシャータとカレンは替えの利かない駒だ。捨てるには惜しいから有効に活用する。
「周りに誰もいないと思っても、どこにでも目はあるものだ。ボロを出せば突け込まれるだけだぞ、俺もお前も」
こうやって一応は上司であるスザクにタメ口を利くのも問題ではあるが、普段からスザクに対するジュリアスの扱いはぞんざい極まるので問題にはならない。
「カレンは何をやったの?」
「アッシュフォード学園の庭でゼロと叫んでたのを偶然聞いてしまった。普通の団員程度なら見逃してやっても良かったが、調査の段階であの機体のパイロットと分かってしまっては無視するわけにもいかん」
悪戯をした犬が主人に気付かれてしまったような顔をしているスザクに、やはりルルーシュが真実を話すことはない。
初めから決めていたシナリオに沿って行動し、ギアスを行使しているルルーシュの矛盾を追求できるとしたら、同レベルの智謀を有する者しか不可能である。
「ジュリアスはカレンには嫌われてしまったが悪い扱いをする気は無い。スザクの方で気を回してやってくれ」
「ルルーシュ……」
少し優しい感情を見せれば直ぐに絆される。ルルーシュに対する信頼の証でもあるが、疑念を抱いても信じたいと思う他人を優先するようになったスザクの甘さだった。
全てを欺くと決めたルルーシュにとって、幼き頃の親友であるスザクであっても例外ではなかった。
「うん、分かった。任せて!」
信頼の眼差しを向けてくるスザクと決して目を合わせないのは、ルルーシュの中にある微かな罪悪感からか、それとも……。
信頼できる上司と仲間、ギアスで洗脳した医者。
ナナリーを治せる環境を整えたからルルーシュは特区に入り込んで地位についた。今の地位ならば秘密裏に手術を行うことも可能となる。
これほどの環境は二度とない。だから、ルルーシュはナナリーに診察を進めた。
だけど、その選択は本当に正しかったのか?
と、不穏なことを言いながらの特派と技術協力するラクシャータ(ギアスで洗脳済み)。ついでのカレン。
ランスロットと紅蓮が魔改造とまではいかなくても、技術進歩の速度は早くなるか。