コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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STAGE7 E.U.戦線に異常有り

 

 

 

 エリア11のアッシュフォード学園でナイトオブワンのビスマルク・ヴァルトシュタインによって捕らえられたルルーシュは、神聖ブリタニア帝国の首都ペンドラゴンに移送され、ペンドラゴン皇宮にある謁見の間へと連行されていた。

 C.C.が着ていたのと同じ囚人服を着せられ、後ろに回されて固定された手を掴まれて第九十八代シャルル・ジ・ブリタニアの前へと引き出された。

 

「元第7皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。久しいなあ、我が息子よ。いや、今はジュリアス・キングスレイを名乗っていたか」

 

 皇帝の座す玉座以外は電源を落とされた中で、ただ一人だけ光に照らされながらシャルルは鷹揚に跪かされたルルーシュを見下ろす。

 

「き、貴様ぁ!」

 

 怒りで人を殺せそうな憎悪に満ちた右目でシャルルを睨み付けるルルーシュの左目は眼帯によって塞がれている。

 ブリタニアへの移送中に付けられた眼帯はルルーシュが作った物ではない。

 

「その眼帯には流体サクラダイトを仕込んである。正式な手順以外で無理に外そうとすれば、周りを巻き込んで爆発しよう。無論、貴様も死ぬ」

 

 息子の体に爆弾を取り付けたシャルルは情を滲ませることなく、どこまで冷酷に告げる。

 

「そんなことはどうでもいい。答えろっ!」

 

 ルルーシュにとって自分のことなど、どうでもいい。

 

「あのV.V.とかいう奴はどこにいる! 奴を連れてこい。奴を殺させろ――っ!!」

 

 忘れない。リヴァルの体から命の灯が消えて行く、あの感覚を。

 忘れない。ルルーシュの親友の命を奪った、あの子供を。

 忘れない。この憎しみはV.V.を殺すまで、決して消えることはないのだから。

 

「我が兄を貴様如きに会わせるはずがなかろう」

「なん、だと?」

 

 ルルーシュの憎しみを全身に受けても、全く揺らがなかったシャルルが放った言葉に中に看過しえないものがあった。

 

「V.V.は我が兄、つまりは貴様の叔父に当たる」

 

 耳に言葉が入って来ても頭が理解してくれない。

 

「――――ははっ」

 

 それでも体は正直だった。

 

「くくくくっ、ははははははははははハハハハハハハ…………っっ!!」

 

 笑う。哂う。哂い続ける。

 V.V.がC.C.と同じ不老不死であることには名前から察しがついていたが、まさか自分の叔父だとは気づきもしなかった。

 ビスマルクが敬称をつけていたから下手な貴族よりも立場が上だとは思っていた。ルルーシュの知る限り、シャルルの兄弟は全員死亡している。V.V.が皇帝シャルルの兄、つまりは皇兄であると誰が想像できようか。

 

「壊してやる」

 

 ブリタニアという国が存在している限り、ルルーシュが望む世界が得られるはずがないと分かっていたはずなのに、一度でもブリタニアを内側から変えようと思ったことが間違いだった。

 

「貴様の全てを、ブリタニアに纏わる物を、この世から全て葬り去ってくれるっ!!」

「では、ナナリーを殺すとしよう」

 

 憎しみに染まっていたルルーシュの頭が一気に冷やされた。

 

「ナナリーに手を出すな! また俺から奪う気つもりか! 母さんだけでなくナナリーまで!」

 

 ルルーシュとは別に移送されてナナリーの行方がどうなっているのは分からない。

 憎しみだけで先行し過ぎて、ナナリーのことを頭の端に追いやっていたルルーシュに先程までの勢いはない。

 

「それは貴様の出方次第よ」

 

 自身の娘であるナナリーを餌としながらも、シャルルの表情にはさざ波一つ立たない。

 

「皇子でありながら反旗を翻した不肖の息子よ。しかし、貴様の存在が我がブリタニアに利益を齎しておる。まだ使い道はあろう」

 

 軍事国家として経済を維持しているブリタニアは、ルルーシュ扮するゼロが作った黒の騎士団の跳梁が軍拡の良い口実になった。

 

「ジュリアス・キングスレイに貴族位を与える」

 

 玉座に頬杖をついたまま傲然と見下ろすシャルルに何を言われても、ナナリーを人質に取られてはルルーシュに反抗は出来ない。

 

「存分に働き、儂の機嫌を取るが良い」

 

 皇帝の命にルルーシュはYes以外に答えられる口を持っていなかった。

 

「護衛としてジェレミアとナイトオブラウンズを付けてやろう」

 

 ジェレミアにはギアスを解除できるギアスキャンセラーの力がある。そのことはアッシュフォード学園でビスマルクにギアスをかけた際に解かれた経験からルルーシュも知っていた。

 

「ナイトオブラウンズまで? はっ、よほど俺を警戒しているようだな」

「期待しておるのだ。ゼロとしてブリタニアを脅かしたその力、存分に発揮することをな」

 

 首輪を繋がれようともルルーシュは従順な犬ではない。隙あらば飼い主に噛みつく猛犬であることを示すようなルルーシュに生意気な口ぶりに、初めて口元を緩めたシャルルは腕を振るった。

 すると、振るわれた腕の先の地点に光が灯る。

 

「ナイトオブシックスに任命したばかりのアーニャ・アールストレイムだ。まだ若いが腕は立つ」

 

 演出っぽいやり口に鼻を鳴らしながら、ルルーシュは歩み寄ってくるまだ少女にしか見えないナイトオブラウンズを見る。

 

「久しぶりね、ルルーシュ」

 

 初めて会ったはずのアーニャが何故か親し気に話しかけて来たことにルルーシュは眉を顰めた。

 

「アールストレイム家のことは知っているがお前と会ったことはないはずだ」

 

 流石に幼少の頃となると少し自信はないが、少なくともルルーシュが記憶する限りにおいて皇帝の前で親し気に話しかけて来るような知己はいないはずだった。

 

「あら、忘れちゃった? まあ、この姿じゃ仕方ないか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 細く小さな体をクルッと一回転したアーニャは悪戯気に笑った。

 

お母さんよ(・・・・・)今はこの子の体の中にいるの(・・・・・・・・・・・・・)

「なっ!?」

「貴様は何も知らぬのだ、ルルーシュ」

 

 目に赤い光を宿しながらアーニャが告げた真実はルルーシュを打ちのめすに足る衝撃があった。

 固まったシャルルの方を見れば、その両目にはギアスの紋章が浮かんでいる。

 

「全てを語ろう。七年前の真実を、貴様らが日本に送られた理由を。そして我が計画を」

 

 シャルルは最も自身に似て近づいているルルーシュに、嘘を交えることなく全てを語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アールストレイム卿」

 

 E.U.を横断する線路を進む皇室専用列車。

 車窓から眺める緑豊かな風景を楽しむことなく、手元の携帯電話に目を落としていたアーニャ・アールストレイムは呼びかけられて顔を上げた。

 

「何?」

 

 顔を上げた先には車掌が立っていた。

 

「後、三十分ほどペテルブルクに到着します。その御報告に」

 

 皇室専用列車に配置されるだけであって車掌の動きに無駄は無く、相手に不快さを感じさせない態度で一礼する。

 

「分かった。ありがとう」

 

 おざなりに対応しても怒ることなく、もう一度一礼して下がる車掌のことを直ぐに忘れたアーニャは記録を取る気にはなれず、客室へと戻ることにした。

 開閉スイッチを押せば自動で開くドアを潜って客室に入ると、重たい空気がアーニャを包み込む。

 

「陰気」

「嫌いな奴の顔を見れば、陰気にもなる」

 

 重たい空気を放つ張本人である伯爵位を持つジュリアス・キングスレイ卿――――――――――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは眼帯に付けられた宝石の装飾を揺らしながら哂った。

 客室内は皇室専用列車だけあって豪華ではあるが華美ではない。

 デザインした者のセンスが存分に発揮された調和の取れた調度品の中で、一般人では逆立ちしたって買えない金額のソファに深々と座ったルルーシュが放つ空気は陰気そのもの。

 

「自覚があるなら少しは改めてほしい。こっちが滅入る」

 

 重たい雰囲気と半年以上も一緒にいれば少しは慣れるもののはずだが、幼少期を知るだけにアーニャとしても心穏やかではいられない。

 

「ならば、俺に顔を見せぬことだ。お互いにその方が楽だ。そうだろう、ジェレミア」

「私はジュリアス様の護衛ですので」

 

 偶に離れなければ気が滅入ってくるアーニャとは違って、片時も傍を離れようとしないジェレミア・ゴットバルトは護衛の鏡だろう。

 

「護衛? 監視の間違いだろう」

 

 嘲るように言われても、ルルーシュの背後に静かに立つジェレミアは崩れない。

 ジェレミアの配置は皇帝シャルルの命によるもの。幾ら絶大な権力を与えられたルルーシュといえども、たかが護衛を外すことも出来ない。

 

「ふん、つまらない奴だ」

 

 自分から転属を願い出るように仕向けても、ジェレミアはまるで罰を求める咎人のようにルルーシュの傍を離れない。

 あまりの強情さに、最近ではルルーシュの方が諦めかけている。

 

「アーニャ、お前が来たということはペテルブルクにはもう着く頃合いか」

「うん、後三十分だって」

 

 アーニャが客室に戻ってくるとすれば到着まで僅かだろうというルルーシュの推測は当たっており、行動が読まれていることに慣れたアーニャも驚きもせずに答える。

 

「ジェレミア、命令内容の復唱を」

「はっ、ユーロピア戦線の指揮を取り、E.U.を攻略せよとのことです」

 

 今は主君であるルルーシュの命を受け、命令を復唱したジェレミアの声が客室に響く。

 

「そしてユーロ・ブリタニアの動向の監視もか。確か本来はマリーベルのグリンダ騎士団が派遣される予定だったはずだが」

 

 ルルーシュが記憶している限りでは、今回の派遣は神聖ブリタニア帝国の皇女にして皇位継承権第88位であるマリーベル・メル・ブリタニアの指揮するグリンダ騎士団が選ばれていたはずだった。

 

「彼らはエリア24のテロ鎮圧でダメージを受けた為、シュナイゼル殿下より我らに命令が下りました」

「また尻拭いか」

 

 この半年間、秘密裏に皇帝よりルルーシュの正体を教えられたシュナイゼルから良い様に使われているルルーシュは機嫌悪げに鼻を鳴らした。

 

「それだけ殿下に信用されている証拠です」

「どうだかな。どうせこの間、チェスで負けた腹いせだろ」

 

 ジェレミアはシュナイゼルを擁護するが、ルルーシュからすれば幼少の頃と違って勝率を五分に持ち込まれていることに対する嫌がらせとしか思えない。

 

「最近のシュナイゼル殿下はルルーシュ殿下とチェスをするのを楽しみにしていると、マルディーニ卿は言っていました」

「だからって、ペンドラゴンに戻る度にチェスの勝負仕掛けて来るのを止めさせろ。こっちは疲れているんだ」

 

 シュナイゼルの息抜きに付き合わされ、負けで終わると腹いせのように任務を押し付けられてはルルーシュでなくとも堪ったものではない。

 

「私では宰相閣下の申し出を断ることが出来ませんので」

 

 辺境伯では実質的なブリタニアの№2に逆らうことは出来ない。ことにその勝負に対してルルーシュ自身も前向きな姿勢を見せており、良い気分転換になっていると分かっているだけに。

 

「ちっ、これだからただの貴族は」

「じゃあ、皇族に戻れば?」

「それが出来たら苦労はしない」

 

 ズバリと切り込んでくるアーニャに、権力の力に煮え湯を呑まされてきたルルーシュも嘆息する。

 

「幾ら俺が結果を出そうとも、それはジュリアス・キングスレイの手柄となる。奴が認めない限り、俺はルルーシュを名乗れない」

 

 ジュリアス・キングスレイに与えられた爵位は伯爵。

 しかし、領地も持っていなければ直属の部下もいない。当然ながら何の後ろ盾もない伯爵に強い力など無く、舐めたことをされた経験は一度や二度ではない。

 そんな奴らには人を侮った相応の報いを与えたが、皇族の力があれば楽が出来ると思ったことも一度や二度ではない。

 

「殿下のしたことが諸手を上げて称賛できないからでは」

「命令は果たしている。文句を言われる筋合いはない」

「殿下……」

 

 背後でジェレミアからそんな呟きが漏れてもルルーシュが顧みることはない。

 文句なしの快勝ではなく、味方側にも損耗があったり、意図的としか思えないほど敵を見逃したり、ジェレミアのナイトギガフォートレスが囮に使われて敵陣のど真ん中に取り残されて大破したり等々。

 作戦目的は達成されているので誰も文句を言えないのに諸手を上げて称賛出来ないところである。

 ジェレミアはルルーシュがわざとそうしていると分かっていて、でもそうする理由も分かっているから二の句を告げずに黙るしかない。

 

「でも、結果を出してるのは事実。なんで、皇帝陛下は認めないの?」

「当人に聞け」

 

 とはアーニャに言いつつも、その理由がV.V.対策であることをルルーシュは知っている。

 Cの世界のことやラグナロクの接続まで嘘偽りなく話されて全てを知った上でルルーシュは反逆の牙を研ぎ続けている。

 

「そういえば、聞きましたか? エリア11のこと」

 

 何も知らないアーニャがこれ以上、この話題のことを穿り返す前にジェレミアは咄嗟に話題を変える。

 

「何かあったのか?」

 

 ジュリアス・キングスレイが皇族に見出されて本国に栄転したというのが嘘だとしても、彼の地に関してはルルーシュも無関心ではいられない。

 

「始動した工業特区や経済特区が成功し、各エリアからの視察の使者が絶えないと本国で噂になっています」

 

 ユーフェミアの提案を、ルルーシュがジュリアス・キングスレイとしてプランを立てていたが実行に移す前に本国送りになった。自分が計画していただけにその動向には流石に無関心ではいられない。

 

「悪い意味で、だろう。ナンバーズを差別するのが当たり前なブリタニアにとって、特区は根幹を揺るがす政策だからな。主導者がエリア11の総督となったユフィでなければ認められはしない」

 

 本国に送る為の金を作る為に、ナンバーズを差別していては生産性は上がらない。頭打ちになっている現状を打破する為に、目に見えて生産性を上げているエリア11のやり方を倣う者が出て来ることは自然の流れだった。しかも皇族が主導している計画なのだから倣おうとも責任転嫁も容易い。

 

「コーネリアもペンドラゴンにいる以上、ユフィを止められる者はいない。皇帝ならば簡単だが、奴にその気は無い」

「断言できるの?」

「ああ」

 

 シャルルに政治に対する関心はない。止められる立場の宰相のシュナイゼルは特区を最初に認めた立場なので前言を翻したりはしない。№1と2が止めようとしない以上はギネヴィアやカリーヌといった皇族、大貴族達ではユーフェミアを止められない。

 権力など関係なく止められるとしたらユーフェミアの姉であるコーネリアだけだが、今は帝都ペンドラゴンにいる。ルルーシュがかけたギアスでユーフェミア並みにナナリーを溺愛しているので、文句は言っても特区は成功しているのでエリア11にまで赴いてユーフェミアを止めることはしないだろう。

 

「エリア11のことよりも俺達の方が問題だ」

 

 懸案事項があったとしても他人事に過ぎないエリア11よりも、これから向かう地の方が問題が多い。

 

「ユーロ・ブリタニアはブリタニアと名が付いているが、本国とはその方針は大きく異なる」

 

 世界に覇を唱えるべく攻勢をかけているブリタニア本国とは違って、ユーロ・ブリタニアは市民革命によりブリタニアに亡命した貴族の末裔達が祖先の地を取り戻すことが目的である。

 

「向こうはこちらのやり方を受け入れぬと?」

「横やりを認めんだろう。まあ、これがある以上は押し通せる」

 

 ソファの横に置かれた、常に携帯を義務付けられたアタッシュケースをポンポンと叩く。

 

「で、また摩擦を生むようなやり方で敵を作ると」

 

 内外に敵を作るやり方で作戦を遂行するルルーシュに呆れながらもアーニャは告げる。

 

「今回は大義名分もある」

 

 皮肉気に笑いながらも否定しないルルーシュは懐から出した書状を机の上に投げる。

 

「これは?」

「エリア11から送られてきたものだ。読んでみるといい」

 

 自分の口で言う気はないらしいルルーシュに息をついたアーニャは机に放り捨てられた書状を手に取り、目を通す。

 

「長ったらしく書いてあるけど……」

「要は、E.U.で劣悪な扱いを受けている日本人を取り戻せだとさ」

 

 E.U.国内において、日本人改めイレヴンは敵性外国人という区分になっている。

 日本がE.U.の敵国ブリタニアの版図に組み入れられたことで、E.U.当局は当時様々な事情でE.U.国内にいた日本人を敵国の人間と見なし、彼等をシテ島に建設したゲットーへ収容した。他のナンバーズにはこの様な措置は取られておらず、民主国家とは思えない程の人権無視の姿勢を見せている。

 

「エリア11は衛星エリアに昇格して特区構想も成功している。民衆の人気取りと、人手不足を解消できる上手い手だ」

 

 シテ島のゲットーには学校もあるので、ある程度の学力も保証される。即戦力とまではいかなくても、一から教育を施すよりかは楽だろう。

 E.U.のイレブンの取り込みは、特区が上手く行けばやがて見えて来る人手不足を見越したルルーシュの策の一つではあったがユーフェミアは上手く利用しているようだ。

 

「E.U.に対する戦略は出来ている。つまらん勝ち戦だよ」

 

 ゼロの時や黒の騎士団の時と違って補給などの心配をする必要もなくく、戦略に集中できるのでルルーシュからすれば負ける要素を探す方が難しい。

 

「油断は禁物ですぞ」

「これは油断ではない。余裕だ」

 

 ジェレミアに諌められようとも、ルルーシュは気持ちを改めるつもりはない。

 

「ナイトオブラウンズとジェレミア、お前までいるんだ。俺が敗れることはない」

 

 問題はあれど、その能力に対しては全幅の信頼がおけるのでイレギュラーが起こっても対応できる自信がある。

 

「私はともかく、ジェレミアはジークフリートがないのに?」

 

 頼られて悪い気はしない。少し得意気そうなアーニャにジェレミアもムッとしたようだ。

 

「ヴィンセント・ジークがある。問題は何もない」

「久しぶりのKMF戦だけど、扱い切れるといいね」

 

 ジェレミアのナイトギガフォートレス(ジークフリート)は前回の作戦で敵陣に単機特攻させられてボロボロになり、今は大改修の真っ只中。

 今回の作戦では、問題のなかったジークフリートの中身であるヴィンセントを乗機とすることになるが、ナイトギガフォートレスならばナイトオブラウンズ級でもKMFでの戦闘は久しぶりなジェレミアをアーニャは揶揄する。

 

「ふん、次の戦いは市街地が多くなるのだからモルドレッドは大人しくしておくのだな」

「む」

 

 アーニャの乗機モルドレッドは凄まじい砲撃性能と防御力を誇る重量級KMFで、火力とパワーによる強襲戦闘を得意としている。

 E.U.では市街地での戦闘が多くなると予想されるので、破壊力が強すぎて攻撃オプションがどうしても限られてしまうことをアーニャも自覚している。

 

「何をやっている、二人とも」

 

 ルルーシュが意地の張り合いをしている二人に呆れていると、車窓からペテルブルグの街並みをチラリと見たジェレミアが矛を収める。

 

「キングスレイ卿、水などは飲みますか」

「いらん」

 

 護衛というよりは従者のようなことを言うジェレミアが切り替えたのを見たアーニャは不満そうに顔を逸らしていた。

 

「はぁ、降りるぞ」

 

 スピードを落としている皇室専用列車がサンクトペテルブルクの中央駅に入ったのを見たルルーシュは立ち上がり、ジェレミアがアタッシュケースを持つ。

 行動が早過ぎるルルーシュに呆れるアーニャが先に立って歩いて客室を出て、皇室専用列車が止まるまでの間に入り口に辿り着いたアーニャの前でドアが開く。

 

「長旅お疲れでしょう。直ぐに迎賓館にお連れします」

 

 カンカンカン、と足音を立てながらアーニャが列車から降りると、物々しいレベルの護衛に守られたサンクトペテルブルクの中央駅構内に立つ如何にも神経質そうな男が出迎える。

 

「初めまして、アールストレイム卿。ヴェランス大公の名代として、お出迎えに参りました、ミヒャエル・アウグストゥスです」

「アーニャ・アールストレイム」

 

 握手を求めてきたので返すと、直ぐにミヒャエルは手を引っ込める。

 年若いアーニャ個人が侮られているというよりは、アーニャが所属するブリタニア本国に対して思うところがありそうなミヒャエルに何か言う気は無かった。

 

「皇室専用列車でナイトオブラウンズの騎士が護衛とは。お連れ頂いた方は大層、皇帝陛下の覚え目出度きお人のようですなあ」

 

 露骨には態度に出さない大人なミヒャエルは皇室専用列車を見て皮肉染みたことを言う。

 

「なんだ、迎えはこれだけか」

「ん?」

 

 ジュリアス・キングスレイの皮を被ったルルーシュが列車から降りて来る。

 帝国を象徴するナイトオブラウンズの一人であるアーニャを先行させてユーロ・ブリタニアの反応を見ていたルルーシュは、背後にジェレミアを従えて尊大な仕草で腕を振るう。

 

「私が帰還する時には、勝利に歓喜し、我が名を連呼する民が、このペテルブルクを埋め尽くすことになるだろう」

 

 ユーロ・ブリタニアが最も好まない展開を煽るように告げて、自信家で憎たらしいほどの笑みを浮かべる。

 アーニャには、傲慢な言葉とは裏腹にミヒャエル達の反応を冷徹に見据えるルルーシュがどうしても哀れに思えた。

 

「皇帝のご命令により、これよりユーロピア戦線の作戦計画はこの私! 軍師ジュリアス・キングスレイが全て執り行う!」

 

 奇しくも、とある世界にてゼロが再び世に出た日に、ルルーシュはユーロピア戦線に降り立ったのだった。

 

 

 




ジュリアス・キングスレイを出した時点で予定されていた亡国のアキト編。

半年飛ばしてのE.U戦です。

同行者はジェレミアとアーニャ。スザクは特区にいます。

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