コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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STAGE9 全ては掌の上で

 

 

 

 サンクトペテルブルグにあるカエサル大宮殿の作戦指令室は常ならぬ慌ただしい空気が広がっていた。

 

「バベル作戦遂行率65%を経過」

「情報拡散、更に進行しています」

「航行中のガリア・グランデがE.U.上空に到達しました」

 

 複数のオペレータ達が作業する場所より高い場所にいるルルーシュ扮するジュリアス・キングスレイは薄く笑みを浮かべて進行状況を見守る。

 

「皇帝の飼い犬が」

「大公閣下まで呼びつけるとは」

「ふん、直ぐにボロが出る」

 

 四大騎士団の長とユーロ・ブリタニア内で高い位置にある貴族達が背後で漏らす侮辱でしかない呟きを聞いてもルルーシュは気にしない。彼らの背後に下がっているアーニャ・アールストレイムもルルーシュ同様に気にしていないが、忠義に熱い男であるジェレミア・ゴットバルトは自らの主君を貶める言葉を聞いて拳を強く握り締める。

 

(何を企んでいる)

 

 聖ラファエル騎士団長アンドレア・ファルネーゼの内心の呟きが、ユーロ・ブリタニアにおけるジュリアス・キングスレイの評価であろう。

 ユ―ロ・ブリタニアで、ジュリアス・キングスレイに好意を抱くものは恐らく誰一人としていない。ルルーシュ自身が傲岸不遜に振る舞い、周りに嫌われるような態度を取っているが理由の一つに過ぎない。

 神聖ブリタニア帝国はイングランドを追われた女王とその廷臣。ユ―ロ・ブリタニアの貴族達は、そのイングランドと敵対関係にあったヨーロッパの貴族達を祖としている。

 ユ―ロ・ブリタニアはブリタニアと名前を同じくしながらもその起源が異なり、E.U.に対する考えも違う以上、この時期に本国から派遣されたルルーシュを皆が邪険に思っている。

 

「ヴェランス大公閣下!御着座!!」

 

 木槌の後に響く兵の声に、四大騎士団の長と貴族達が直ぐに立ち上がって振り返る。

 ゆっくりとした足取りで作戦指令室に入って来たヴェランス大公は、背後にルルーシュ達をペテルブルグ駅にて出迎えたミヒャエル・アウグストゥスを従えている。

 四大騎士団の長と貴族達だけではなく、作戦指令室にいる全ての兵達とナイトオブラウンズのアーニャ、そしてジュリアス・キングスレイの護衛であるジェレミアも胸に手を当てて敬礼する。

 しかし、ただ一人だけ敬礼しない者がいた。それだけではない。椅子から立ち上がることすらもせずに、足を組んだまま薄ら笑いを浮かべている。

 ユーロ・ブリタニア宗主であるオーガスタ・ヘンリ・ハイランドを前にして不遜な態度をしているのは、ルルーシュ扮するジュリアス・キングスレイその人。

 

「不敬である! 立たんか、キングスレイ卿!!」

 

 ヴェランス大公の傍に控えるミヒャエルがそう叫んだのも無理はない。

 ここはユーロ・ブリタニア。ヴェランス大公へのルルーシュの態度は、ブリタニア本国で皇帝の前でしているような物。ただでさえ、本国への対抗意識を持っているミヒャエルが激怒するのも当然のこと。

 

「私は皇帝陛下より全権を委ねられている。これが、その証拠だ」

 

 敢えて不敬な態度を取っているルルーシュは足下に置いてあったアタッシュケースを開け、中から変わった形の杖を取り出す。

 ルルーシュがその杖を取り、周りの者達に見えるように掲げると貴族達からどよめきが生まれた。

 

「インペリアルセプター……っ!?」

 

 真っ先に気付いたミヒャエルが瞠目する。

 神聖ブリタニア帝国皇帝の代行者である証が示すのは、ルルーシュの立場が決してユーロ・ブリタニアの盟主であるヴェランス大公に劣る物ではないということ。

 

「私の発言は皇帝陛下のお言葉とお思い、従ってもらおう!!」

 

 迎合することも可能であるのに、敢えて反発を生むような態度と言葉にジェレミアがひっそりと息を吐く。

 

「部下が失礼した、キングスレイ卿。私からも謝罪する」

 

 絶妙なタイミングで謝罪をしたヴェランス大公にルルーシュは鼻を鳴らす。

 

「言葉程度で不敬が許されると思っているなら安く見られた物だな、皇帝の威を」

「…………深く謝罪する」

 

 席から立ち上がってひれ伏したヴェランス大公を椅子の上から見下ろしたルルーシュは周りが内心で激怒しているのをしっかりと観察する。

 

「良いだろう。ヴェランス大公の謝罪を受け入れよう」

 

 ルルーシュが鷹揚に頷きながら無礼を働いたミヒャエルを見るとヴェランス大公もその意を理解する。

 

「下がっておれ、ミヒャエル。追って沙汰を下す」

「はっ」

 

 きっとミヒャエルは心の中でありとあらゆる感情が渦巻いているだろうが、決して表に出すことなくヴェランス大公の命に従って下がる。

 

「さて、ヴェランス大公。私がこうも拘るのはブリタニア皇帝の任を受けているに他ならない」

 

 過大な評価だが、と謳うように嘯いて軽薄に笑う。

 

「先のミヒャエル・アウグストゥスといったか。私は彼の者に罰を望まない」

 

 では、何を望むのか。

 決まっている、このユーロ・ブリタニアでの力だ。

 

「代わりに、この作戦における全権を私に委ねて頂きたい。反論も反対も許さない絶対的な力を」

「それは……」

「逆らうというのですかな? 皇帝陛下より全権を委ねられたこの私に」

 

 即答出来ないヴェランス大公に尚も言い募るルルーシュに遂に堪忍袋の緒が切れる者が現れる。

 

「貴様! 我が大公閣下に向かってなんという」

 

 聖ガブリエル騎士団の長であるゴドフロア・ド・ヴィヨンが逆上し、席から立ち上がってルルーシュの下へと足音も高く迫ったが、その間にジャンプ一つで着地したジェレミアが袖から出した剣を突きつける。

 

「キングスレイ卿に歯向かえば、皇帝陛下への逆臣の罪を免れないと知れ」

 

 流れを誘導して仕組まれた場に参加させられる己が身を顧みても仕方のないジェレミアは、同じ護衛でありながら動く気のないアーニャに代わって言わなければならなかった。

 

「この場はキングスレイ卿の命令に従うが大公閣下の為と思われます」

 

 ギアスによってルルーシュの軍門に入ったシンが立ち上がりながら告げると、他にも動こうとしていた貴族達や四大騎士団の内の残る二つの長も何も言えなくなる。

 

「大公閣下、どうか」

「シャイング卿……」

 

 ヴェランス大公は決してルルーシュの言い分を認めたわけではないが、場の流れ的にシンの言うことが道理であった。

 忸怩たる物を抱えようとも、先にミスをしたのはユーロ・ブリタニアである。

 そして今もまた不敬を働こうとしたゴドフロア・ド・ヴィヨンの行動が足を引っ張った。味方であるユーロ・ブリタニア側であるシンが従うべきとの意見を出した以上、ヴェランス大公に否と言えるはずがない。

 

「キングスレイ卿、貴公に全権を委ねる」 

 

 全てがルルーシュの策略であると知りながらもヴェランス大公には従う他に道はなかった。

 

「承りました、ヴェランス大公。ジェレミア」

「はっ」

「下がれ、ヴィヨン卿」

「…………申し訳ございませんでした」

 

 ゴドフロア・ド・ヴィヨンも自身の行動がヴェランス大公の決断の最後の駄目押しをしてしまったのだと悟ったから、ルルーシュの命令で剣を下げたジェレミアから離れて物凄い目つきで睨み付けながら席に戻る。

 

「始めて頂こうか」

 

 既に場の流れは完全にルルーシュの物になっている。それでもこの場のトップは自分であることを示すようにヴェランス大公は主導権を取り戻そうと言葉を発した。

 

「焦ることはありません。直ぐに結果は出ます。あなた方とは違う」

 

 一代で世界に覇を唱えるほどにブリタニアを強大にした皇帝シャルルや、戦略家としてシュナイゼルに伍するルルーシュに比べれば無能ではないが特別有能な男ではないヴェランス大公の無駄な努力を嘲笑うかのように、流れるように挑発を繰り返すジュリアス・キングスレイ。

 

「これより惰弱故に決戦を避けて引き籠るユーロピアを、戦場という処刑場に引き出してご覧に入れよう」

 

 立ち上がったルルーシュは、自身には偶には役に立つ程度にしか思っていないインペリアルセプターを殊更に振る。

 

「さあ、舞台の開演だ」

 

 言う通り、これは一つの舞台でしかない。

 

「諸君、楽しんで頂こう!!」

 

 シンからユーロピアの情報を貰ったルルーシュが敗北する要素は一つもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E.U.の地から遠く離れたエリア11の政庁の総督の執務室にいる四人が同じ映像を見ていた。

 

『ユーロピア共和国の市民へ告げる。我らは世界解放戦線、方舟の船団だ』

 

 わざと荒くして撮影したであろう映像の中で、方舟の船団の物と目される旗を背景にしながら背後から当てられる光の加減で人物像だけで人相の良く分からない人物が高らかに謳う。

 

『我々が北海の洋上発電所を爆破した。これがその証拠だ』

 

 映像が切り替わり、空を飛ぶ巨大な飛行船から落とされたたった一つの爆弾で、北海の巨大な太陽光発電所が跡形もなく消滅する場面が映し出された。

 

「これは……」

 

 映像を見ていたエリア11の総督であるユーフェミア・リ・ブリタニアには目を見張る。

 北海はE.Uが治める場所である。幾らユーロピア共和国連合が敵国であろうとも、テロリストが防空網を潜り抜けてライフラインを突破するだけの能力を獲得したという事実は、一国を治めているユーフェミアとしては堪ったものではない。

 本当にこの映像が真実だとするならば、だが。

 

『愚かしき文明に浸り、堕落という平穏に暮らす者達に神々の審判が下される』

 

 再び映像は旗を背後に、そして北海に落ちたのと同型の爆弾を傍に置いた人物へと戻る。

 

『もう直ぐ、滅びの星がパリを襲う。悔い改めよ、それが君達が生き延びる為のただ一つの手段だ!!』

 

 大仰な動作で、恐らく掲げた拳を握ったであろう直後に映像は終わった。

 

「…………なんというか」

「うん、イマイチ主義主張が良く分からない犯行声明だね」

 

 カレンが頭を捻る横でスザクが率直な意見を吐露する。

 

「明確にどこを敵としているのか、何を目的としているのかさっぱり分からない」

 

 言葉通りに受け取るならば文明によって堕落したパリの人々を殺したいのだろうが、何故パリの人々なのか、悔い改めれば生き延びられるような言い方もさることながら支離滅裂である。

 

「ネットではロンドンでバイオテロが起こっただの、北海の海洋発電所の次はドイツだとか、大西洋艦隊とかデマっぽいのが溢れてるみたい」

 

 携帯電話でネットを見るカレンの目にはどう見ても眉唾としか思われない物が散乱している。

 

「随分とユーロピアは混乱しているようですね。もしも、この人物の目的がそれ(・・)ならば見事と言う他ないでしょう」

「事実、混乱させる為にやっていることだからな」

 

 ユーフェミアの意見を認めた、今まで黙っていた眼鏡をかけた黒髪の少女――――変装をしたC.C.は繰り返し流されている映像の人物を見て目を細める。

 

「人を支配する最善の方法は恐怖だ。それも正体の見えない恐怖ほど人を圧する物はない」

 

 似て非なるやり方ではあるが、恐怖に惑った人々によって幾度も死んだ方が楽になれると思える苦痛を味わわされてきたC.C.だからこそ断言できる。

 流言飛語を流すだけで民衆は容易く暴徒となる。人間は不幸な出来事に強く反応し、事実を確かめずにその噂を広げる。ルルーシュがゼロとしてやっていたことは真逆だが、基本的なやり方は何も変わっていない

 

「このやり口はゼロと良く似ている。やっぱり彼が」

「そうだ、ルルーシュがゼロだ。そしてこれをやっているのも」

 

 認めたくはないが認めざるをえないという顔のスザクに、固有名詞を出したC.C.に事前に話を聞いていたカレンも目を見開く。

 

「本当にルルーシュがゼロだというの?」

「あれだけ言って、まだ信じていないのか」

「だって……」

 

 カレンとしては一度は崇拝しているとまで言われるほどに心酔していたゼロを、どちらかといえば嫌いな部類に入るルルーシュであったなどと思いたくはなかったのだ。

 

「取りあえず、あれを行っているのがルルーシュで間違いはないんですね、C.C.さん」

「ああ、それは間違いない」

 

 話が進まないのでゼロ=ルルーシュを既定のこととして進めようとC.C.に確認を取るユーフェミアは、あの日の起こった全てをスザクやカレンに頼むのではなく、直接あの場にいた者達から聞いた。

 

「まだブリタニアに使われているのね」

 

 きっと今でも妹のナナリーを人質にされてブリタニアの為に戦わされている腹違いの兄のことを想う。

 

「スザク、総領事館にいる黎星刻に連絡を」

「ユフィ……」

 

 個人的な気持ちで言えば親友であるルルーシュを助けてやりたいが、ゼロであったことに騙されたという気持ちがないわけではない。

 ユーフェミアがこれからする選択は一歩間違えれば致命的な破滅を引き寄せることもあって、奨励することは出来ないスザクとしては安易に従えない。

 

私は(・・)決めました(・・・・・)

 

 あの日、あの場所で。

 特区日本が始まる前のG1ベースで持たれたゼロとの話し合いの後、笑みを含んだその声にユーフェミアは何と答えたか。

 向けられた問いと答えを当人以外に唯一知るスザクは肩を落とした。

 

「命令です、枢木卿。黎星刻に連絡を」

「イエス・ユア・マジェスティ」

 

 命令に応えるスザクが口にした言葉が示す物を理解したカレンが笑みを浮かべる。

 カレンがユーフェミアに従うと決めたのは、その目的を聞かされたからでもあったから。

 

「ルルーシュなら態とユーロ・ブリタニアに反感を煽るやり方を取っているだろう」

 

 ルルーシュの傍にいる者から情報を得られるC.C.が吉報を伝える。

 

「恐らくE.U.も左程持たずに落ちる。その時、ユーロ・ブリタニアはどのような対応に出るかな」

 

 傍から聞いているだけでも分かるほどに、ジュリアス・キングスレイを派遣した神聖ブリタニア帝国に感謝するなんてことは絶対にないとC.C.は断言できる。

 となれば、ユーロピア共和国連合を完全に併呑したユーロ・ブリタニアはその名を捨て去ってブリタニアに牙を剥く。

 

「ユーロ・ブリタニアにもコンタクトを取るべきと?」

「お前が望みを達成する為には必要な協力者だろ」

「…………ええ、そうですね」

 

 ルルーシュがいなくなってから如何に頼りきりだったかを自覚して急速に成長したユーフェミアは、一度天井を見上げて目を閉じる。

 

「ロイドさんやラクシャータさん達にも手を借りて世界中に連絡を取ります」

 

 目を開いて顔を戻したユーフェミアは既に覚悟を決めていた。

 

「取りますよ、ブリタニア皇帝の座を」

 

 決定的な一言を告げたユーフェミアに従う二人の騎士を眺める外様に過ぎないC.C.は、繰り返し流され続ける動画に目を向ける。

 いなくなって初めて大切なことに気付く、ルルーシュもC.C.も。

 

「もう一度私の名を呼んでくれ、ルルーシュ」

 

 まだ何も決めれていない。ただ、その気持ちだけが半年もの間、ブリタニアの追っ手から身を隠し続けていたC.C.を突き動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 方舟の船団は存在せずユーロ・ブリタニアの策であることを見抜いたレイラ・マルカルは恐怖の象徴である巨大飛行船への強襲作戦を決断して実行に移した、ルルーシュの読み通りに。

 通信してきたユーロピア軍の将軍ジィーン・スマイラスに強襲作戦の報告をして真実を公表するように進言した際に、ユーロピアの市民の混乱を沈める言葉を持っていたレイラは彼の思惑通りに動いた。

 政府が行っているイレヴンへの弾圧、ブリタニアの思惑を看破したレイラが放つ自由の責任の演説は市民の心を動かした、嘗て父であるブラドー・フォン・ブライスガウのように、全てはスマイラスの思惑通りに。

 直後、突如として現れたユーロ・ブリタニア軍に拠点であったヴァイスボルフ城を攻撃を受けた時、レイラの手元の戦力は一つも残されていなかった。

 

『レイラ・ブライスガウが死んだ』

 

 ワイヴァン隊の一人、成瀬ユキヤのハッキングで方舟であるガリア・グランデを乗っ取ってヴァイスボルフ城に急ぎ向かっている。時間を稼ぐ為の策を自室で練っていたレイラの目に映ったのがスマイラスの裏切りの映像だった。

 

「ユーロピアはスマイラス将軍の軍事政権が完全に掌握したようです」

 

 レイラの自室を訪れた副指令であるクラウス・ウォリックは酒を飲みながら哂う。

 

「将軍はブリタニアと取引したんだよ」

「証拠はあるのでしょうか?」

 

 未だ生きているレイラを死んだと嘘をついたスマイラスの行動の裏は簡単に察しがついた。

 そしてユーロ・ブリタニアがユーロピアの国境線から遠く離れたヴァイスボルフ城にレイラがいると知って攻撃を仕掛けるとしたら、どうしても内通者の存在が必要になる。それがクラウスだった。

 

「俺がここの情報をブリタニアに売った。スマイラスは俺を通してブリタニアと取引したってことさ」

 

 ユーロ・ブリタニアの攻撃から数時間が経過しても援軍が訪れる気配はなく、ユーロピアとの通信網どころかヴァイスボルフ城は外部とのネットワークを完全に断絶されている。

 攻撃されたヴァイスボルフ城は壊滅し、生存者0。攻撃したユーロ・ブリタニア軍も壊滅、もしくは逃走した。後はデータ上のことを本当にしてしまえばいい。それがスマイラスとユーロ・ブリタニアの取引。

 

「お嬢さんの医療費の為ですね」

「そこまで知ってて俺を泳がしていたんですか」

 

 隠していたことをあっさりと見抜かれて舌打ちをしたクラウスは偽悪的に振舞う。

 

『自由の為に命を捨てることを躊躇うな、とは勝手に人を死んだことにした者が言うとは思えんな。君達も、そうは思わないかね』

 

 レイラの端末が勝手に通信を行い、スマイラスではなく別人の顔を映し出す。

 

「なっ!? まさかハッキングか……っ!」

『ご名答』

 

 画面に映る眼帯姿の男は予定にない行動に焦るクラウスの動揺を弄びながら続ける。

 

『私はユーロ・ブリタニアより全権を与えられた軍師ジュリアス・キングスレイだ。お初にお目にかかる、死んだはずのレイラ・ブライスガウ』

「…………あなたが方舟の船団の作戦を考えた人ですね」

 

 ジュリアス・キングスレイなる者が真実を告げていると決まったわけではないが、レイラは直感的に画面に映る眼帯姿の男が全ての首謀者である感じ取った。

 

『察しが良くて助かる。では、私が何の為に通信を行ったかも分かるかな?』

「降伏勧告と…………スマイラス将軍を追い落とす為に私をユーロピア市民の前に出すこと」

『話が早いと楽で良い』

 

 もしも、レイラがジュリアス・キングスレイの立場なら同じことを考える。

 

「スマイラス将軍は、このヴァイスボルフ城を孤立無援にさせれば、やがて落ちると考えている。間違ってはいないですけど、拙速すぎた。あなたのような人がいると予測出来ていない」

『私ならば確実に君を殺してから声明を出すな。部隊を派遣するのではなく、暗殺者を送って殺してから』

 

 例えば、と続けてレイラの横に立つクラウスを見る。

 

『シュヴァルツヴァルトのモグラの娘を人質に取ってな』

「お前……っ!?」

『おっと、怒るなよ。まだ何もしていないだろう』

 

 つまり、ジュリアス・キングスレイの要求にレイラがごねるようであれば、クラウスの娘を人質に取ってくるだろう。

 

『私からの要求はたった一つだ。それさえ叶えば君達の身の安全は保証しよう』

 

 外道なやり口に目付きが鋭くなるレイラを愛でるように笑ったジュリアス・キングスレイが要求を伝える。

 

『我が軍門に下れ、レイラ・ブライスガウ』

 

 レイラの中で、今まで欠片に過ぎなかったピースが次々と嵌っていく。

 方舟の船団を落とす為に奇襲作戦を立てた自分、戦力を吐き出し、直後に襲撃を受けたヴァイスボルフ城。スマイラスの演説と、ハッキングして通信して来たジュリアス・キングスレイ。

 

『でなければ君達のみならず、ユーロピアをブリタニアのやり方に乗っ取って征服しよう』

 

 ここまで精緻に戦略を描き切ったジュリアス・キングスレイの要求に、レイラの返事は一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユーロピア軍とユーロ・ブリタニアの和平が成立しました!』

 

 サンクトペテルブルグのカエサル大宮殿の客人の間でルルーシュと護衛の二人は、ここ数ヶ月の集大成ともいえる放送を見ていた。

 

『たった今、ユーロピアを代表してレイラ・ブライスガウとユーロ・ブリタニア宗主ヴェランス大公の調印が行われております!』

「スマイラスも大したことはなかったな」

 

 興奮している様子のアナウンサーの甲高い声が耳に響き、結果を既に知っていたルルーシュは放送を切る。

 

「ジュリアス様だからこそ、そう感じるのではないでしょうか」

「これだけ条件があればシュナイゼルでも簡単に出来る」

「基準が高すぎ」

 

 今回、これだけ上手く行ったのはシン・ヒュウガ・シャイングにギアスをかけたからであるが、知らないアーニャにはルルーシュとシュナイゼルならば簡単に出来ると言われても基準が高いと感じたのだろう。

 

「これで俺もお役御免だ。一度、本国に帰るのか?」

 

 数ヶ月はいたユーロピアに大した感慨も湧かないルルーシュが背後に直立不動で立っているジェレミアに訊ねる。

 

「そのことについて、シュナイゼル殿下が調印式の後に通信をするとのことですが、と」

「話をしていればってやつ?」

 

 アーニャの言うように丁度良いタイミングでジェレミアの端末から音が鳴り、操作して先程まで調印式を映し出してた正面に通信相手の姿を映し出す。

 

『やあ、ルルーシュ。元気かい?』

「シュナイゼル殿下、私はジュリアス・キングスレイです」

『おっと、すまない。うっかりしていた』

 

 画面に映るシュナイゼルが本気で言い間違えているのか、わざとルルーシュの名を出しているのか。

 明らかにわざとやっているシュナイゼルと何度もこのやり取りをしているので疲れた。

 

「最近、性格が変わってきてませんか?」

 

 主にルルーシュにとって不快な方向に。

 

『そうかい? だとしたら私は今の自分が嫌いではないよ』

 

 何時も薄らと笑っている程度のシュナイゼルが妙に笑顔で機嫌が良いように見えて、ルルーシュとしては嫌な予感を禁じ得ない。

 

「早く本題を」

『では、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに次の指令を与える』

 

 本題に入ったはずなのに何かがおかしいとルルーシュよりも早く気づいたのは、我関せずに携帯電話を弄っていたアーニャだった。

 

「ジュリアス・キングスレイじゃないの?」

『いいや、間違っていない。今日、今この時を以てジュリアス・キングスレイからルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに戻ってもらう。そして中華連邦懐柔策の1つとして』

 

 その言葉の意味の裏を探ろうとするルルーシュよりも早くシュナイゼルの指令が下る。

 

『――――――天子と政略結婚して中華連邦を乗っ取ってくれ』

「「はぁっ!?」」

 

 シュナイゼルの指令を聞いたアーニャが驚きのあまり携帯電話を落とす程で、張本人であるルルーシュとジェレミアの声がカエサル大宮殿に広く響き渡った。

 

 

 




あっさりと終わる亡国のアキト編。

そして次は中華連邦編です。

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