コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~ 作:スターゲイザー
ルルーシュは逃げた。結婚などする気は更々なかったので、一時拠点としていたサンクトペテルブルグのカエサル大宮殿から取るものも取りあえず、着の身着のまま飛び出した。
シュナイゼルが言った、天子と政略結婚をして中華連邦を乗っ取るというのは理解している。ルルーシュの目的に沿うが今はまだその時期ではない。しかし、宰相であるシュナイゼルの命令は絶対である。幾ら皇族に戻ったルルーシュといえど逆らえない。だから、聞いてないことにして逃げ出した。
「それで三ヵ月も逃げれるのだからルルーシュも優秀だねぇ」
中華連邦の首都である洛陽、その中心である朱金城にて、ブリタニア勢が逗留する迎賓館に文字通り連行されたルルーシュを出迎えたシュナイゼルは、呆れと感心を同時に滲ませた声を向ける。
「シュナイゼル宰相、仮にも皇族にこの仕打ちはないと思うのですが」
背後に回された腕には手錠をかけられ、縄でグルグル巻きにされて椅子に座らせられているルルーシュは目の前で優雅にお茶を飲むシュナイゼルに不貞腐れた顔で漏らす。
「結婚が嫌だからって逃げ出した放蕩皇子には致し方ない処置だよ」
「人的被害はありませんが物的被害は甚大ですからね」
シュナイゼルの一歩斜め後ろに立つ副官のカノン・マルディーニ伯爵の頬がピクピクと震えているのはルルーシュの見間違いか。
「対外的には訓練としてますので被害は計上出来ませんの、被害分を補填するにはシュナイゼル殿下の財政から出すことになります。ルルーシュ殿下にも責任は取って頂かないと」
途中から半ば意地になって逃げていたルルーシュもやり過ぎな自覚はあったが、だからといって人生に大きな転機を齎す結婚という一大事を前にして容易く頷けない。
「俺にはユーロピアを統一させた功績がある。大体、中華連邦ほどの大国の元首と結婚するならば宰相やオデュッセウス殿下の方が相応しい」
「オデュッセウス殿下はブリタニアの跡取り、シュナイゼル殿下は帝国の重鎮です。国を離れられるわけがないでしょう」
「ふん、どうせ結婚って言っても、実質は天子を本国送りにして人質に取るようなものだろう」
ブリタニア・中華連邦・ユーロピアの三大巨頭の大勢は崩れた。
ユーロピアを取り込んだブリタニアの勢力は中華連邦を除けば世界の殆どを呑み込んでいる。既に力の差は大きい中華連邦の元首である天子は人質としてブリタニア本国で暮らすことになり、逆らうことは出来ない。
「確かに当初は兄上が天子と結婚するという話ではあった」
逃げられないように椅子に縛り付けられているルルーシュに、穏やかに微笑みながらシュナイゼルは言い聞かせるに言葉を重ねる。
「外交姿勢を議論する席上で中華連邦の民の事情を知った兄上が内政干渉をしてでも介入すべき発言したことで、政略結婚の話が持ち上がったことは君も知っているだろう?」
「ええ、最初は言い出した兄上が天子の相手だったこともね」
まだルルーシュが特区にいた頃の話である。
E.U.方面の軍事的摩擦が予断を許さない段階に入ったところで、オデュッセウスの稚気ながらも的を射た発言に背を押されたものでもあったが、この談合が成った暁には事実上ブリタニア帝国が世界の過半を支配することになり、世界のパワーバランスにチェックメイトをかける決定的な一手となるはずであった。
「どうして、私なんですか? 皇族に戻ったとはいえ、中華連邦に見合うとは思えない」
ジュリアス・キングスレイとして多少の結果は出しているが、文句なしに褒められるとしたらユーロピアを統一させたことぐらい。その他の作戦に関しては態とツッコミどころが多い結果しか出していないルルーシュが政治の道具にされることに理解に苦しむ。
「幾らユーロピアを統一させたとはいえ、中華連邦は巨大な国だ。下手に侮れば足下を掬われないというのに」
中華連邦の腐敗はルルーシュも耳にしているが侮っていい理由にはならない。しかし、シュナイゼルは穏やかに微笑むだけ。
「中華連邦の政治を握る大宦官達と密約を交わして、天子の政略結婚と領土割譲でブリタニアの爵位を与えることになっている。まあ、これは結婚相手がルルーシュに変更された理由ではないから横に置いておこう」
決して横に置いておいていい理由ではないが、ゼロとして中華連邦と交渉もしたことがあるルルーシュは大宦官の腐敗振りを知っていたので驚きはしなかった。
「天子と兄上の二人の年齢差がね。やっぱりネックになってしまうんだよ」
まさかの思い当たらなかった理由にルルーシュは神聖ブリタニア帝国第一皇子の年齢を逆算して弾き出す。
「…………確かオデュッセウス殿下は三十行ってましたっけ」
「天子は十二、三歳だから流石に可哀想という意見もあったわけだよ。いや、兄上が悪いわけではないんだけど」
何か気まずくなった二人の間に沈黙が下りる。
天子にもオデュッセウスにも責任はない。別にオデュッセウスがロリコンの気があって内政干渉を申し出たわけでもないし、大宦官に勝手に決められたであろう天子にオジサン趣味があるわけでもない。
「というわけで、兄上と年齢の近い私もアウト。中華連邦の元首の相手ともなれば、やはり皇族でなければならない。年齢も近く、中華連邦が納得する程度の実績を出していたのが」
「それが私だったと」
「うん」
うんじゃねぇよ、とは思いつつも、婚約者変遷の理由に納得してしまったルルーシュは項垂れた。
もしも、ナナリーが同じようにオデュッセウスのような一回り以上も年上の男と結婚するとなったら、ルルーシュはギアスを大判振る舞いしてシャルルに右目でもギアスが使えるとバレたとしても後悔しないかもしれない。あくまで仮定ではあるが。
(ぶち壊してやる! そんな結婚はぶち壊してやるぞ!!)
と、仮定ですらルルーシュを荒ぶらせてしまうのは余談である。
「E.U.がちょっと予想外な形で落ち着いてしまったし、ルルーシュにその責任を取ってもらおうと思ったわけさ」
征服ではなく、和睦という形でE.U.を併呑されてはユーロ・ブリタニアに反逆の芽を残してしまった。
そっ、と目を逸らすルルーシュは何も知らない振りをしていたがシュナイゼルに分からないはずがない。
「余計な仕事を増やしてくれた責任は果たしてくれよ」
E.U.の諸々や逃げる際に出した被害を盾に取られてはルルーシュに拒否権は与えられなかった。
中華連邦はユーロピアを併呑して世界最大の人口を誇っていた座をブリタニアに明け渡したとはいえ、連合国家として世界に名だたる国である。しかし、その実態はすでに老人といっていい。
国家の象徴たる天子、その地位を影であやつる支配層が専横を極めており、人民は貧困と停滞にその活力を奪われていた。
「今夜は夜会という話だが」
「婚約者のお披露目と顔合わせになります」
言外に三ヵ月も逃げなければ結婚式にまで扱ぎ付けられたのにと言われているようで、未だに結婚することに納得のいっていないルルーシュは近くにいたカノンから顔を逸らした。
逸らした方に天子が座っていた。
「あ、あの…………よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
緊張はしているようだが怯えるまではいっていない天子に、アーニャ以外の年下の少女と接するとナナリーを思い出してしまって表情と雰囲気を変えて言葉を返すルルーシュ。
「こんな不精な男と共にいるなどお嫌でしょうが、今暫くの我慢を」
「いえ、そんな……」
能力に自信はあるが男としての自分を過小評価しているルルーシュの気遣いに、天子は膝の上に置いた手をギュッと握る。
「まだ年が近い人で少し安心しました」
今度はルルーシュの眉根が僅かに寄ってしまう。
「それに神楽耶からも少しだけ話を聞いていたから、まだなんとか」
なんとか、とは何だろうかとルルーシュは考える。
我慢出来るのか、嫌悪が少ないのか、少し気になるところであったが他にも聞かなければならないことがあった。
「神楽耶と言うと、皇コンツェルンの皇神楽耶様ですか?」
「年が近いということで知り合う機会があって…………初めての友達なんです」
知っている名前が出て僅かに目を見開いたルルーシュが驚くほど意外な繋がりであった。
「輸出交渉の場でエリア11の代表だった桐原公と一緒にこの地を訪れた際に出会ったそうです」
変なことをしないようにシュナイゼルが派遣したカノンとは別に、普通の護衛として背後で控えていたジェレミア・ゴットバルトが耳打ちしてきたのに頷く。
「藤色の瞳の鬼によろしく、と伝言を頼まれたのですけど、鬼とはどういう意味なのでしょう?」
日本の伝承に登場する鬼のこともよく分かっていなさそうな天子に、神楽耶が八年前のことを覚えていると分かったルルーシュは苦笑を零す。
「日本に出て来る悪魔のような存在のことですよ」
「はぁ……」
首を傾げて分かってなさそうな天子を見たルルーシュは悪い子ではないのだと分かり、少しだけ結婚をぶち壊す決心が揺らぎそうになる。
「カノン伯爵、私は少し離れる」
「殿下」
「この場は、あくまで夜会。交流を深める為には何時までも座っていられないだろう」
立ち上がったルルーシュをカノンが止めようとするが、まだ二人の婚約のお披露目に過ぎないのだから分が悪い。
「天子様も行きましょう」
「え、でも
「生憎と座ってばかりいるのにも飽きました。どうか私に付き合って頂けませんか」
意地でも引き下がろうとしないカノン攻略の為に天子と共に行動しようと考えたルルーシュは跪き、手を伸ばす。
「どうぞ、天子様。趙皓には私の方から言っておきます」
「い、いいの?」
「はい」
仮にも婚約者であるルルーシュが膝までついてエスコートしようというのだ。天子の傍に控えていた
黄遷に背を押された形の天子は戸惑いながらも椅子から下り、慣れない仕草でルルーシュの手を取る。
「では、行きましょうか。足下にお気をつけ下さい」
背後にカノンとジェレミア、黄遷を従えながら二人は歩いて行く。
すると、直ぐ近くにこちらに向かっていたシュナイゼルとアーニャ、そしてシュナイゼルよりも色の濃い金髪を独特に編んでいるのが特徴的な青年が笑みを浮かべる。
「やはり、動いてしまったかルルーシュ」
「申し訳ありません、シュナイゼル殿下」
「いいよ、カノン。そろそろだろうと思っていたから丁度良い。彼を紹介しておこう、ルルーシュ」
青年はルルーシュの前に跪き、その右腕を胸に当てる。
「初めまして、ルルーシュ殿下。ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグです」
「噂は聞いている」
素っ気ない対応をするルルーシュの内心はとても良くない。
変わらずルルーシュの護衛であるアーニャも合わせれば、この朱金城には帝国最強のナイトオブラウンズが二人もいる。シュナイゼルもいる以上は、これではルルーシュも迂闊な行動は取れない。
「ここは祝いの場だ。もう少し楽にしてくれ。天子様が怯えられている。私も鯱張った対応をされても嬉しくはない」
「はっ、それでは」
添えられた天子の手に僅かに力が入ったのを感じ取ったルルーシュの言葉にジノは笑みを浮かべて立ち上がる。
「ところで、私の噂の部分について、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「同僚のアーニャから聞いてくれ」
ある種、皇族にするには不敵とも取れる質問を放って来たので、ボールをアーニャに放る。
「後で存分に聞いておきましょう」
ボールを放られたアーニャとしては堪ったものではなく、僅かに眉を寄せるという彼女にとっては物凄く嫌そうな顔をしていた。
「シュナイゼル殿下、ラウンズが二人とは随分と過大な護衛だと思うのですが」
まだ中華連邦は味方となったわけではない。警戒を続けるのは分かるが、友好的に歩み寄るというならばナイトオブラウンズ二人は挑発されていると取られかねない。
「皇族二人になら、それほど過大ではないよ」
ルルーシュの意見は何故か却下された。
「う~ん、最初はどうなるかと思ったけど、意外に似合ってるんじゃないかい」
シュナイゼルは微笑むというには少し邪な笑みを浮かべながら繋がっている二人の手を見る。
天子は僅かに頬を赤らめるが、ルルーシュからすれば妹をエスコートしているような気分なので恥ずかしがる理由はない。
「政略結婚を推し進めた人とは思えない言い草ですね」
「アールストレイム卿と一年近く一緒にいたのに何もしていないようだから、そっちの欲はないのかと思っていたんだよ」
「俺を馬鹿にしていますか? 買いますよ、その喧嘩」
肉体言語には全く自信はないが、ここまで虚仮にされてはルルーシュも拳を握らざるをえない。
「喧嘩を売られてるのは私の方じゃないの?」
ジュリアス・キングスレイの頃はともかくとして、徐々に携帯電話に何故かあった少年の写真に似てきた上に皇族だと分かって、もしかしたらと少し意識していただけにルルーシュの発言はアーニャの琴線を悪い意味で刺激した。
「あ、えっと、シュナイゼル殿下は女性のエスコートを為さらないので?」
逃げたな、と身長差の関係で下から睨み付けるアーニャから目を逸らしているルルーシュを見た全員が思った。
「特定の女性を伴うと周りが騒ぐのでね。中々、選べないんだよ」
「しかし、殿下の年を考えれば身を落ち着けても良いはず。はっ!? まさかオデュッセウス殿下とシュナイゼル殿下は異性に興味が無いのでは」
「ルルーシュ、それ以上言うなら私も拳を固めなければいけなくなる」
人は、時に拳で語り合わなければならなくなる。そういう趣味のないシュナイゼルも常の微笑みを完全に消してこめかみに青筋を浮かべている。
「け、喧嘩は止めて!」
今にも殴り合いの喧嘩に発展しそうな皇族二人にどうしたものかと周りが困っていると、ルルーシュと手を繋いだままだった天子が精一杯に声を張り上げた。
(この話題には触れないようにしよう)
(仕方ないでしょう)
会話もせずにアイコンタクトで同意を得た二人は拳を収めた。
「ルルーシュ殿下」
本当にシュナイゼルには相手はいないのかと考えたルルーシュの思考を遮ったのは聞き慣れた、しかし最近は聞いていなかった声だった。
声の主の方を見たルルーシュの体が僅かに固まった。
「会…………ミレイ・アッシュフォードか」
「ご婚約おめでとうございます、殿下」
そこにいたのは青いドレスを身に纏ったミレイ・アッシュフォードであった。
動揺してしまい、思わず生徒会長と呼びかけたのを直して平静を装ったルルーシュの前でミレイは優雅に一礼する。
もう以前の関係には戻れないのだと自覚しながらも、一年近くぶりに再会できたことにルルーシュの胸は知らずに高鳴り、同時にあの楽園をぶち壊した元凶であることを自覚する。
「天子様、旧知の彼女と少し話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい」
「アーニャ、天子様の護衛を頼む」
「ん」
「ルルーシュ」
「何もしませんよ、何もね」
見張りであるアーニャを自然と自身から離れさせ、困惑している様子の天子の護衛に付ける。
婚約者を前にして他の女性と話があるというのは褒められたものではない。苦言を呈そうとしたシュナイゼルに言い捨てて、ミレイを伴ってジェレミアだけを連れて迎賓館のバルコニーに出る。
「久しぶりですね、会長」
ジェレミアが二人から背を向け、会場内に顔を向けているのを見ながら小さな声でルルーシュは言った。
「ええ、そうね。もう、ルルちゃんとは呼べなくなっちゃったなぁ」
「遠いところまで来てしまいましたよ、本当に」
二人の間を夜風が通り過ぎ、もう戻れない時間の経過を感じ取る。
「聞いたわよ。随分と大活躍じゃないの。まさか我が生徒会から世界中に響くほどの有名人が出るなんて誇らしいわ」
核心を突かない互いを慮る言葉がどこか空々しい。
「こんな有名の成り方は誰も望まないでしょう」
「分からないわよ。人間、なんだって有名になりたいって思っているかもしれないんじゃない」
「俺は有名になんてなりたくなかった」
ルルーシュが本当に求めたのは、もっと有り触れたちっぽけな物だった。
今なら胸を張って、あの学園の日々だけで良かったのだと言える。何時だって、ルルーシュは失ってから価値に気付くのだから。
「ここには一人で?」
「アッシュフォード家はヴィ家の後援だから」
それは理由のようで理由ではなかった。
確かにアッシュフォード家はルルーシュの母の時代から後援につき、マリアンヌの死と共に衰退した。ナナリーの皇族復帰は未だ表には出されていないので、ルルーシュが皇族に復帰して婚約ともなればいの一番に駆けつけてもおかしくはない。
「ルルちゃん、少し痩せたんじゃない? 元から細いんだから、もっとお肉を食べないと」
昔と何も変わらない言葉がとても嬉しくて、失った物の大きさをまざまざと見せつけられるようでルルーシュは泣きたくなった。
「逃亡生活では碌な物を食べられなかったもので」
「そんなに結婚が嫌だったの?」
「押し付けられると反発したくなる
最後に付け加えられた一言はミレイに届いていたのかいないのか、それは彼女だけが知ることだ。
また夜風の音だけが響く沈黙の後、重い口を開いたのはルルーシュだった。
「…………みんなは何て?」
この問題に対してだけはルルーシュは逃げることは出来ない。二人だけで話せる時間はそうはないから核心を突いた。
「それは――」
『神聖ブリタニア帝国、エリア11総督ユーフェミア第三皇女様ご到着!』
「何ッ!?」
ミレイが何かを言おうとした瞬間、迎賓館に響き渡った声が示す人物に意識を持って行かれたルルーシュが驚愕の声を上げて振り返る。
バルコニーからではユーフェミアの姿は確認できないが、ジェレミアも驚いている様子だったので彼も知らなかったのだろう。
「私のことは良いから行ってきたら?」
「…………会長、話はまた後で!」
気になる。気になるがミレイの話も後には回せないという板挟みの中で背中を押されたルルーシュは、改造しまくって盗聴されないようにしている携帯電話の電話番号を紙に書いて渡してバルコニーを離れる。
「大丈夫、また直ぐに話せるようになるから」
バルコニーに残ったミレイがそんな呟きを漏らしているとは露とも知らず、ジェレミアを従えて皇族として無様に見えないように急ぎながら騒がしい夜会の会場に戻ると、ざわめきの主が階段を上って来ているところだった。
「ユフィ……っ!?」
ユーフェミアの姿を見たルルーシュの口から驚きの声が漏れる。
「久しぶりね、ルルーシュ」
後ろに二人の護衛を従えたユーフェミアが微笑む姿はルルーシュの記憶の中と殆ど変わらない。
しかし、重みというのだろうか。向かい合っているとシャルルと対峙しているかのような圧迫感を感じる。
「シュナイゼル宰相もお久しぶりです。直接会うのは特区設立以来ですから、一年と少し振りになりますか」
「あ、ああ、見違えたよ、ユフィ」
シュナイゼルもルルーシュと似た所感を抱いたらしい。彼らしくもなく少しどもっていた。
「通信では何度か話をしたけど……」
一人ごちた後、瞬きを繰り返したシュナイゼルは何かを納得したように頷いた直後、迎賓館の外から銃声が響いた。
「我は問う!」
バン、と迎賓館の扉が外から開かれ、数人の男を従えた長髪の男が叫ぶ。
「天の叫び、地の叫び、人の心! 何をもってこの婚姻を中華連邦の意志とするか!」
偶々、階段の近くにいたルルーシュにも入り口から侵入してくる男の姿が見えた。
「血迷うたか、星刻!」
「黙れ、
階段下にいた大宦官である趙皓に叫び返した星刻は剣を抜き放ち、危険から逃れようと壁際に寄る招待客を無視して走り出した。
「ジェレミア、ミレイを! アーニャ、来い! ジノは宰相を守れ!」
「「「イエス、ユア・ハイネス!!」」」
もしかしたら天子の婚約者である自分が狙われる危険があると考えたルルーシュも最善と思われる指示を下しながら天子を傍に引き寄せる。
カノンがシュナイゼルの前に出ているのを見ながら、ミレイを守る為にジェレミアが動いてくれたことに感謝の気持ちが胸を支配する。
「止めい!ブリタニアの方々に当たったら大事よ。取り押さえ」
「死ね、奸賊!」
「ぎゃぁああああああああっっ!?」
足の遅い招待客を盾にして進み、指示を出していた所為で行動に移るのが遅れた趙皓の下へ凄まじい速さで接近した星刻が一刀の下に切り捨てる。
その瞬間、ルルーシュの頭に何かが落ちて来た。
手をやると何かの破片ようで、ルルーシュは頭上を見上げて、何かが屋根から天井を貫いているの見つけた。階下の騒ぎに気を取られてまだルルーシュ以外、誰も気づいていない。
「なんだ?」
咄嗟に天井を見上げたルルーシュは、大きさからして恐らくナイトメアフレームの刀剣系の武器らしき物が引き抜かれ、出来た穴から誰かが飛び降りたのを見て目を見開く。
迎賓館の天井はかなり遠い。数メートル以上の高さから飛び降りた人物にルルーシュが絶句していると、引き寄せられたことで偶々頭上の異変に気付いた天子が口にする。
「ゼロっ!?」
天子とほぼ同時に気付いたアーニャが頭上を見上げたところでゼロが手に持っていた銃を撃った。
「くっ」
天子を抱えたルルーシュとアーニャの間に正確に放たれた銃弾が自分の方へと向かって来るので、アーニャは反射的に回避行動を取ってしまう。
足元に打ち込まれた弾丸に天子を守っているルルーシュが踏鞴を踏んだこともあって、二人と一人の間の隙間が出来てしまった。
そこへ、間違いなく嘗てルルーシュが演じたゼロの衣装を纏った何者かが直ぐ傍に降り立つ。
「誰も動くな」
ゼロがルルーシュの眉間に銃を突きつける。ゼロに気付いた者も、銃が天子とルルーシュに向けられていた所為で誰も動けない。
「花嫁と――――花婿を頂いていく」
伝説のテロリストであるゼロが再び世に出た瞬間だった。
次回『STAGE11 花婿を奪還せよ』