コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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遅ればせながらお気に入り3000件突破、感想数300件を超えました。
これも皆様のお蔭と思いまして、ギャグからシリアスへと移行します。





STAGE12 血染めのルルーシュ

 

 

 神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンにあるペンドラゴン皇宮には皇族ですら立ち入りが禁止されているエリアがある。

 

「………………」

 

 幻想的な空間で天空へと伸びる不可思議な棒を見上げる現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは背後に誰かがやってきたのを察しても振り返ることはなかった。

 

「また、ここに籠っているのかいシャルル」

 

 シャルルに認められた者以外は知ることすら許されていない場所に立ち入った少年が気安げに話しかける。

 

「この黄昏の間にいれば嘘に惑わされることもないからですよ、兄さん」

 

 シャルルは背後にいる少年を兄と呼んだ。しかし、皇室の系図ではシャルルに兄がいた形跡はない。

 

「気持ちは分かるけど、もう少しでラグナレクの接続は成るんだ。時には我慢が必要だよ」

「我慢なら今まで十分にしてきました。もう何十年も」

 

 シャルルが傲慢な話し方ではないというだけで帝国臣民は目を剥いて卒倒するだろう。それを当然の物と受け止めている少年――――V.V.は流れた月日を思い出すように目を細める。

 

「僕がコードを受け継いで長いからね。C.C.は短い方だと言うだろうけど」

「彼女は特別でしょう。私からすれば何時までも若い兄さんに羨望を覚えますよ」

「若いというより幼いだよ、これでは」

 

 十代前半の見た目のまま成長することのない己が身に苦労して来たV.V.としては羨望と言われても困るだけだ。

 

「ところで、中華連邦のことは聞いたかい?」

「天子とルルーシュを婚約させることなら知っています」

 

 幾らなんでもずっと黄昏の間に居続けることも出来ない。

 中華連邦の取り込みは、皇帝であるシャルルの承認が無ければ宰相であるシュナイゼルだけでは進めることは出来ないのだから。

 

「あれはシュナイゼルが主導したことですが、E.U.が落ちた以上、後の敵性戦力は中華連邦のみ。幾ら内側から腐っていようとも征服には時間がかかる。大宦官に爵位を与えれば、奴らは簡単に尻尾を振りましたよ」

 

 E.U.が和睦という形で併呑されたが、シャルルとしてはユーロ・ブリタニアに宿る反逆の芽を摘み取ってから征服した方が都合が良かった。そういう意味ではルルーシュのやり口は、犠牲の少ない方法なだけに口を挟み難い。

 

「そっちはまあ、どうでもいいんだけど」

 

 ラグナレクの接続という結果を齎す為に世界征服は必要な過程ではあったが、ことここに至って多少の反逆の芽があってもV.V.は気にしない。

 彼が問題にするのはただ一つ、自身の同類であるC.C.の行方だ。

 

「天子とルルーシュの婚約の夜会にゼロが現れて二人を誘拐したらしいんだよ」

「なんですと……」

 

 ゼロはルルーシュであると知っているシャルルも、流石に天子とルルーシュがゼロに誘拐されたと聞けば驚きを露わにする。

 

「しかし、ゼロはルルーシュですぞ。十中八句、そやつは偽物でしょう」

「僕もそう思うんだけど、じゃあ誰がゼロの振りをしているのかって話になっちゃうんだ」

「…………まさかC.C.と?」

 

 あのルルーシュを強制的に本国に連れてきた時からマリアンヌが幾ら話しかけてもC.C.は応答しようとしないとシャルルは聞いていた。完全な一方通行で、僅かに反応を感じるだけであるがルルーシュのことを気にしているのは間違いないとマリアンヌが言っていたことを思い出す。

 

「かと思ったんだけど、C.C.らしくないんだよね」

 

 ルルーシュが高いギアス適性を有していることは間違いないが、C.C.にとっては替えの利く道具であるはずなのだというのがV.V.の見解だった。

 

「全く何で逃げるんだろうね。死にたいならシャルルに頼めば一発なのに」

「そうですね……」

 

 未だにC.C.が自分達から離れた理由が分からないので、その点に関してはシャルルもV.V.に同意する。

 わざわざルルーシュを育て上げるなど手間でしかないがC.C.は頑として戻って来ない。

 

「それで二人を誘拐したゼロはどうしたのですか?」

「クーデターの部隊と合流したらしいよ。ただ、天帝八十八陵に逃げ込んだのと、ルルーシュも一緒だから大宦官も手を拱いているらしくて」

「シュナイゼルが現地にいるのでしたら、あ奴なら方策に二つや三つぐらい簡単に出しているでしょう」

「それが全然動いてないらしいんだ」

 

 単純な策謀に関しては自身以上であるシュナイゼルに任せておけば上手くやると思ったシャルルだが、動かないと聞いて眉を顰めた。

 

「妙ですね。シュナイゼルとルルーシュは最近は仲が良かったようですが」

 

 ルルーシュが帝都に戻って来た時はシュナイゼルがずっと付きっ切りになっていることはアーニャを介してマリアンヌから聞いていた。

 マリアンヌは悪影響があるから切り離せと言ってきたが、会う気がないなら絶対に会おうとしないルルーシュが付き合っているのなら好きにさせておきたいシャルルは静観の態勢を取っていた。

 

「変わったのかな、シュナイゼルが」

「その可能性はありますが……」

 

 マリアンヌと出会ったシャルルのように、シュナイゼルもルルーシュと接したことで変わってしまったのかもしれないと、前例があるだけにV.V.はその可能性を否定しきれない。

 二人が思案に暮れていると、黄昏の間にもう一人の人物――――――ビスマルク・ヴァルトシュタインが現れた。

 

「陛下、V.V.様」

 

 二人がいるのを見たビスマルクが跪く。

 

「口上は良い。何か報告があったのだろう、面を上げい」

「はっ」

 

 一度頭を下げたビスマルクがシャルルの促しに畏まる。

 

「陛下は中華連邦の一件をどこまでご存知で?」

「兄さんからクーデターが起きたことと、ゼロにルルーシュと天子が攫われたことは聞いた。その様子からして進展があったか」

 

 ビスマルク自身が報告に来たということはそれ以外に考えられない。

 

「はい、つい先程、大宦官が排除され、クーデター側が政権を握りました。それに伴ってシュナイゼル殿下から報告を預かっています」

「話せ」

「中華連邦の情勢を鑑みて婚約状態を続け、結婚は天子が成人してからに行うことになりそうだと」

 

 報告を聞いたシャルルは腕を組んで考える。

 

「その理由は?」

「政権を握った一派が天子の年齢を理由に延期を強硬に申し出たようです。その代わり、かなりの譲歩を引き出したと」

 

 一気に破談にしなかったのはブリタニアとの力の差を分かっているからであろうが、それまでの間に内部統制を行って反抗の力を蓄えることも可能な時間ではある。

 天子の年齢を大体で思い出したシャルルは大した問題ではないと思考の隅に追いやる。

 

「まあ、良いだろう。どうせ、その頃にはラグナレクの接続が成っておる。シュナイゼルに任せると伝えておけ」

「はっ」

 

 承ったビスマルクは深く一礼して黄昏の間から去って行く。

 その背中を見送ることなく天高く伸びていく棒を見上げたシャルルは隣に立つV.V.が考え込んでいることに気付いた。

 

「どうかしましたか、兄さん?」

 

 問いかけの暫くの後、ようやく顔を上げたV.V.がシャルルを見上げる。

 

「少し気になることがあるから中華連邦に行って来る」

「何をしに行かれるので?」

「確認したいことがあるんだ。何も無ければ直ぐに帰ってくるよ」

 

 踵を返してビスマルクとは別の方向へと歩いて行くV.V.は途中で足を止めて振り返った。

 

「もしも、シュナイゼルやルルーシュが僕達を裏切っているなら始末をつけるけど、いいよね?」

 

 始末がどういう意味かを分からないほどシャルルは愚鈍ではない。そしてV.V.が気にしている何かがブリタニアへの裏切りという意味でなら、現時点において損とまで言える状況になっていないのでシャルルが言えるのは一つだけ。

 

「まだあの二人には利用価値があります。C.C.が見つかるまでは下手な動きは控えて下さい」

「ん、分かった」

 

 まだ全ての準備が出来たわけではないので、シャルルの返答を了承して軽く答えたV.V.は暫く歩いて黄昏の間を出る。

 

「お帰りなさいませ、嚮主V.V.様」

 

 中華連邦にあるギアス嚮団の黄昏の間から出たV.V.を出迎えたのはローブを目深に被った嚮団員数名だった。

 

「丁度良かった。誰でもいいからロロを連れて来てくれないかな。仕事を頼みたいんだ」

「分かりました」

 

 嚮主である自分には従順な嚮団員達の返答を聞くことも無く、歩き続けるV.V.はそこで一つのことに気が付いた。

 

「あっ、例えC.C.がいてもロロのギアスが効かないから一人じゃ連れて来るのは無理か」

 

 あれでC.C.はかなり強い。流石にナイトオブラウンズクラスではないが、ギアスが効かないロロではC.C.を見つけたとしても連行してくるのは難しい。

 

「こういう時に使えるプルートーンは二人のオズにやられちゃってるし、しょうがない。僕も行くか。C.C.用の麻酔銃はどこに直したっけ」

 

 と、V.V.は頭を掻きながら自室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にルルーシュが目を覚ました時、今度の天井には見覚えがあった。

 

「迎賓館…………さっきのは夢か」

 

 ルルーシュの記憶にある朱金城の迎賓館にあるブリタニア勢の控え室の天井と合致したので、目覚める前に見ていたのは都合の良い夢だったのだろうと落胆する。

 

「夢ではないよ」

「へ?」

 

 クーデター騒ぎに巻き込まれて意識でも失ったのだろうとルルーシュが体を起こすと、直ぐ傍の椅子に優雅に腰かけているシュナイゼルに話しかけられてらしくもなく呆けた顔を向けてしまった。

 

「クーデターは無事成功して大宦官は排除され、中華連邦の実権は天子様が握ることになった」

 

 つまりは天子がルルーシュとの結婚を望まぬのならば簡単に破談に追い込むことが出来るというのに、政略結婚を主導したはずのシュナイゼルは何故か余裕を保っている。

 

「当初の予定とは違ったにも関わらず、随分と余裕そうで。天下に名立たるシュナイゼル殿下ならば、周りに悟られないように天子様を操る方法の三つや四つもあるのでしょうね」

「いいや、何もないよ」

 

 キョトンとした顔で言われてルルーシュは混乱するばかりである。

 

「どういうことです?」

 

 短い言葉に込められたルルーシュの混乱にシュナイゼルは面白い物を見たように微笑む。

 

「簡単なことよ」

 

 ガチャリ、とドアを開けて部屋に入って来たのはユーフェミア、その後ろにはスザクやカレン、C.C.にミレイの姿まであった。

 

「全ては私達が仕組んだことなの。全体の計画を立てたのはシュナイゼルお兄様だけど」

「なに?」

 

 全員が中に入ってドアを閉める際に、チラリと部屋の外にいるジノとアーニャの姿が見えた。彼らが護衛なのだろう。

 ルルーシュがシュナイゼルの方を見ると、彼は組んでいた足を解いて椅子から立ち上がった。

 

「皇帝陛下からルルーシュ達が生きていると聞いた時は良く生きていてくれたものだと思ったけれど、直ぐに何かがおかしいと気づいたよ」

 

 刺々しいルルーシュの態度と、引き離されているナナリーのことである。

 ルルーシュがブリタニアに対して反抗的なのは死んだとされていた経緯とその後を考えれば容易に想像がつき、ナナリーに会わせないのもその罰であるとも推測を建てられたがジュリアス・キングスレイとして偽名は特区時代から引き継ぐにしても、爵位を与えて戦場を転々とさせよという命令は少し不可解だった。

 

「独自に調べ始めた時にユフィから接触があったんだ」

「盗聴される危険もあったから当分は当たり障りのない話しか出来なかったけれど、ロイドさんとラクシャータさんに特殊な回線を作ってもらった時にルルーシュが連れ戻された時の状況を教えたのよ」

「他にも色々と聞いたよ。ゼロであったことや皇帝陛下の双子の兄のことや荒唐無稽な計画のことをね」

 

 そこまでのことを知っているのは、この場には一人だけ。

 瞬間的にC.C.を見ると、左目を閉じて微かに首を振っていた。流石にギアスのことまで言っていないようで内心で胸を撫で下ろす。

 

「皇帝陛下が危険な研究にのめり込んで度々玉座を離れていたのは明らかだ」

 

 ルルーシュが何度も気絶している間に陽が明けてしまったようで、シュナイゼルが立つ近くの窓が白み始めている。

 

「E.U.は併呑した。中華連邦も癌である大宦官を排除し、ルルーシュと天子様の婚約はこのままだから良い関係を築けるだろう。事実上、ブリタニアの敵はいなくなった」

 

 看過しえないワードがあった気がするのだが誰も何も言わないのでルルーシュも場の空気を読んで口に出せない。

 

「世界はブリタニア一色に染まった。今後は内政に注力しなければならない状況で、この世界に興味を失った男に王たる資格はない」

「それはシュナイゼル宰相が皇帝になるということでしょうか?」

「まさか」

 

 苦笑されたルルーシュにはシュナイゼルの考えが読めない。

 

「今までのブリタニアと違うと思わせるには私では不適任だよ」

「まあ、確かに」

「そこは否定してほしいところなんだけど」

「腹黒宰相と呼ばれているのをなんとかした方がいいかと」

「ははっ、これは一本取られたか」

 

 超大国ブリタニアの№2に軽口を叩くルルーシュにミレイなどは驚いているが、以前の次兄を知るユーフェミアには快活に笑うシュナイゼルの姿の方が驚きである。

 

「では、ユフィが皇帝になると? しかし、それは」

「流石にまだ早すぎるよ。まずは穏健派のオデュッセウス兄上に即位して頂き、何年かしたら後を継げるかもしれないね」

 

 若すぎる、経験が足りない、まだまだ未熟、思慮が甘い等々と散々に貶された経緯があるユーフェミアが肩を落としており、スザクとカレンが慰めている。

 

「世界を統一したのならば差別政策は愚策だよ。ブリタニアとそれ以外では、どちらが多いかは誰にでも分かる。ナンバーズ政策を廃止して、ルルーシュが考案していた超合衆国構想に少しずつ移行していく。形は違うが世界統一政府となるか」

 

 共犯者であるC.C.にだけ話していた超合衆国構想をシュナイゼルが知っているとなれば、漏洩したところは一つしかない。

 

「信頼を得るには秘密事を明かすに限る」

「魔女めっ!」

「どうせお前が抱えていてもしょうがない構想だろう」

 

 空いた椅子に座って足をブラブラとさせるC.C.に言われたことも最もである。

 ブリタニアの飼い犬であるルルーシュでは、どう足掻いても超合衆国構想は机上の空論にしか過ぎなかったのだから。

 

「世界統一政府といっても実態はブリタニアが上に立ち、それ以外が下になるだけのこと。それでは何も変わらない」

「少なくともここにいる者達とオデュッセウス兄上は父上の路線を引き継がない。父上の退位は決定事項なのだから、その後のことはその時に考えればいい」

 

 シュナイゼルはルルーシュと同じく計画を立てて、問題が起こっても順次修正を加えながら当初の目的を達成するタイプである。にも関わらず、計画を立てずに動くなど信じられない。

 

「あなたは本当にシュナイゼル殿下なのですか?」

 

 相手によって仮面を使い分けて自分のなかったシュナイゼルが言うこととは思えない。

 

「ルルーシュは父上を許さないのだろう? 私が最も恐ろしく思い、最も愛したルルーシュの願いを叶えたいと思うのは間違いかな」

 

 ルルーシュが幼少の頃、既に第一線で働いていたシュナイゼルはそれほど深い交流があったわけではない。それこそ、同じ異母弟であるクロヴィスに泣きつかれて何度かチェスの代打ちをしたぐらいだ。

 とても愛らしい容姿の幼い子は、こと勝負事になると鮮やかに燃える混沌の炎が見え隠れしていた。既に仮面を使い分け、自分を見失っていたシュナイゼルには決して灯らない炎を見ながらのチェスは胸を躍らせた。

 ルルーシュがエリア11で死んだと聞いて残念な思いをしていた。同じ炎を持つ者はいたが、ルルーシュほどではない。

 その想いはルルーシュが生きていると分かり、何度もチェスをして勝つか負けるかはその時次第になった時、シュナイゼルはもう失いたくないと思わせるには十分なほどの自分の感情だった。

 

「気持ち悪い」

「ちょっとルルーシュ、そんな言い方」

 

 シュナイゼルの愛が重くて率直な感想を漏らすと、幾ら気安く接しようとも帝国の宰相にあまりにもぶっちゃけ過ぎるルルーシュをミレイは諌めようとする。

 

「ははっ、その通りだよ。これが私だ。愛しているよ、ルルーシュ」

「止めろ寄るな近づくな!」

 

 自分と同じ視点に立てて、しかし真逆の精神性を持つ異母弟に兄弟愛を拗らせたシュナイゼルが満面の笑顔を浮かべて近寄ってくるのを、ルルーシュは何としても阻止しようする。

 

「ジェレミアは、ジェレミアはどうした!」

 

 こういう時に相手が皇族であろうともルルーシュを優先すると決めたジェレミアが頼りになるというのに、どうしていないのかとルルーシュは叫ぶ。

 

「この中華連邦にある嚮団という施設を抑える為にカノンと協議しているところだよ。もう直ぐ戻って」

 

 流石に抱き付く気まではなかったシュナイゼルが笑いながら言おうとして、突如としてその首から血が噴き出した(・・・・・・・・・・)

 

「は?」

 

 その声を上げたのは一体誰だったのだろうか。

 ルルーシュはシュナイゼルの間近にいたので血を一身に浴びながら呆然としていた。

 

「兄上!?」

 

 直ぐに立ち上がり、崩れ落ちていくシュナイゼルの体を抱き留める。

 

「曲者だ! シュナイゼル殿下が襲われた! 誰か医者を!!」

 

 誰かが何かを言っている。ルルーシュの耳は言葉が入って来ても理解しない。

 

「ルルーシュ、ゴメン!」

 

 誰かがルルーシュの手からシュナイゼルの体を奪い、ベッドに寝かせて血が流れ続ける首筋にシーツを剥がして抑える。

 真っ白なシーツがシュナイゼルの血によって染まっていく。それはルルーシュにリヴァルが死んだ時のことを思い起こさせた。

 

「兄上!」

「下がって!」

 

 何時までそうしていたのか、迎賓館に常駐していた医師も駆けつけて救命措置を施している中でシュナイゼルに駆け寄ろうとするが止められる。

 

「誰だ! 誰が兄上を!」

 

 医療の心得など少ししかないルルーシュに出来ることは何もない。あの一瞬でどうやってかシュナイゼルの頸動脈を切り裂いた者を八つ裂きにせねば収まらない怒りがルルーシュを叫ばせた。

 部屋にいるのはルルーシュと医者、看護師とシュナイゼル、そして口を押さえて震えているユーフェミアと彼女を守っているスザク、困惑しているカレンとミレイ、厳しい顔つきのジノとアーニャ…………。

 

「C.C.がいない?」

「え、あっ、そうだ何時の間に」

 

 ルルーシュは自失していて医者と看護師やジノやアーニャが何時部屋に入って来たのかも分からない。カレンもC.C.の不在に今気づいたように周りを見渡す。

 まさか、C.C.が考えたところでルルーシュは否定する。

 

「C.C.に兄上を害する理由がない」

 

 しかし、一人だけいないとなれば、C.C.がやったとしか考えられないがルルーシュはその可能性を廃した。

 

「でも、誰がやったにしてもどうやって」

「ルルーシュ以外、誰もシュナイゼル殿下に近づいてないし、首を切った動作も見えなかった。明らかに変よ」

 

 スザクとカレンの発言に、ジノやアーニャも難しい顔をする。

 血が噴き出す瞬間までシュナイゼルの近付く他の誰かも、斬られた瞬間もルルーシュは見ていなかった。通常の方法では不可能だ。

 

(通常の方法では?)

 

 例えばギアスのような超常の力でもなければ、とルルーシュは自分が至った結論に背筋を粟立たせた。

 直後、ルルーシュが持つ携帯電話が着信音を鳴らす。

 

「…………もしもし」

『ルルーシュ様!』

 

 呆けたまま電話に出ると、相手はジェレミアで聞こえる音からして走っているのか。

 

『V.V.とギアスユーザーらしき少年がC.C.を抱えているのを発見して追跡しています! あっ、奴らナイトメアを隠して』

 

 その後、物凄い音がして携帯電話はツーツーツーと不通音を響かせ続ける。

 ジェレミアの安否も気になるが、これでシュナイゼルを傷つけた犯人が分かった。

 

「くくくくっ、ははははははははははハハハハハハハ…………っっ!!」

 

 ルルーシュは笑った、哂った、嗤った。

 

「ははっはハハハハハハハッ!」

 

 そしてピタリと止める。

 

「俺が間違っていた」

「ルルーシュ?」

 

 スザクが恐る恐る訊ねてくるのをルルーシュは馬鹿みたいに澄み渡った頭で理解しながらも無視する。

 

「情けも、甘さも、迎合も、何もかも、間違っていた」

 

 今ルルーシュの目に映るのは動かなくなったリヴァルの死に顔だった。

 V.V.が自身の叔父であると聞かされた時に誓ったはずなのに、コソコソと準備をして少しの抵抗で満足していた。

 

「決めたはずだ。何もかもぶっ壊すと、奴に連なる全てを破壊すると決めたのに」

 

 流れた涙が頬に付いたシュナイゼルの血と混ざりあって、まるで血涙のように見えた。

 

「俺が、間違っていた」

 

 世界ではない。間違っているのはルルーシュだ。流れるシャルルから受け継いだ血が、ルルーシュの存在が、多くの悲劇を生む。

 

「俺が、俺が、俺が!」

 

 自己否定と共に胸の奥から熱い物が込み上げる。激情がルルーシュの体を食い破り、迸る。

 

「ダメ、ルルーシュ。それ以上は」

 

 少しずつ歩み寄りかけていたルルーシュの心がまた離れていくのを感じたユーフェミアが止めようとするが、もうルルーシュの憎しみは止まらない。止まりようがない。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」

 

 既に決めてしまったルルーシュに迷いはない。

 

「ジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイム、エリア11総督ユーフェミア・リ・ブリタニアには反逆の疑いがある。拘束せよ」

「ルルーシュ!?」

「どうした、ナイトオブラウンズ。命令を果たせ」

 

 裏切りとも言える状況に声を上げるスザクを無視し、ナイトオブラウンズ二人に命令を実行するようにルルーシュは迫った。

 

「しかし」

「ユーフェミア皇女が連れて来た女性が部屋からいなくなっている。状況証拠に過ぎないが彼女がシュナイゼル殿下を襲った可能性が高い。状況を把握する為にも事情聴取は必要だ。その為に拘束することは何もおかしいことではない」

 

 明らかに正気ではなかったルルーシュに抗弁しようとしたジノだったが、語られた論理は理屈に合っている。

 アーニャは判断をジノに預けたようで動かない。

 

「申し訳ありません、ユーフェミア殿下とお付きの方々」

 

 結局、ジノはルルーシュの意見を呑むことにした。

 

「犯人が分かるまで別室の方に」

 

 皇族を手錠で拘束するようなことはしない。

 しかし、皇族で宰相であるシュナイゼルが害されたのだ。慎重に慎重を期する必要があり、少しでも疑いがあるのならば精査の必要がある。

 

行くんだ(・・・・)ユフィ(・・・)

 

 促されても動こうとしないユーフェミアに右目でギアスをかける。

 

「ええ、分かったわ」

「ユーフェミア様っ!?」

「ユフィ!」

「仕方ないわ。疑いが晴れるまでは私達は余計なことをしない方が良い」

 

 ギアスをかけられたユーフェミアが今のルルーシュを放って唯々諾々と従ったことにカレンとスザクが目を剥くが、仮にも主君の命を騎士二人が無視することも出来ない。

 

「ユーフェミア殿下がこう言っておられるのだ、さあ」

 

 ルルーシュを放っておけないと分かっていても、ここでダダを捏ねてはユーフェミアの状況が悪くなるだけだった。それが分からないスザク、カレン、ミレイではないからジノに促されて部屋から出て行くしかない。

 

「シュナイゼル殿下!?」

 

 入れ替わるようにシュナイゼルの副官のカノン・マルディーニが荒れた息で室内に入り、ベッドを血に染める主君の姿に息を呑んだ。

 

「カノン伯爵」

「ルルーシュ殿下、一体何が……っ!?」

 

 シュナイゼルの血に塗れたルルーシュに名前を呼ばれたカノンはそちらを見てギクリと体が固まらせた。

 

「中華連邦にいるブリタニア軍のシュナイゼル殿下が持つ指揮権を私が引き継ぐ」

「で、ですが、ここにはユーフェミア殿下も」

 

 明らかに普通ではないルルーシュに指揮権を渡してしまうのは危険だと感じ取り、同じ皇族で総督の地位にいるユーフェミアを理由に回避しようとする。

 

「彼女には本件に関与している疑いが有り、別室に拘束している。故に犯人を捜す為には私が指揮権を引き継ぐ。私に従え」

「分かりました。兵達にも伝えます」

 

 途中でギアスを使い、カノンを支配下に置く。

 

「まずは、何を?」

 

 敵の本拠地は分かっている。問いかけて来るカノンに、ルルーシュの口が裂けるように開かれた。

 

「この中華連邦にあるギアス嚮団を、ただ一人も残さずに殲滅する」

 

 一気に振り切れたルルーシュに、最早躊躇いはない。

 

 

 




実は今回のクーデター騒ぎの黒幕だったシュナイゼル。
そしてやっぱり悲劇の元であるv.v.、流石は裏切らない人です。
シュナイゼルの血を浴びたルルーシュだから、血染めのルルーシュ。


次回『STAGE13 憎しみの連鎖』

ストックがないが、間に合うだろうか。
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