コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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最終話 全てがゼロになる

 

 

 

 ルルーシュにとって、例え何があろうともあり得てはいけないことだった。

 ギアス教団の最下層にシャルルが現れたあの時、ルルーシュはマリアンヌをギアスで支配下に置いていたことを伝えていた。

 今までの鬱憤を晴らす目的もあったが、あの状況においてシャルルが現れたこと自体がルルーシュにとって誤算だった。だからこそ、マリアンヌを取り戻したければルルーシュに逆らわない、最低でもナナリーには手を出さないと踏んだのに。

 シャルルのV.V.への想いを読み違えていたことに気付いても既に遅い。

 

「――――ルルーシュ!」

「っ!?」

 

 C.C.の呼びかけに自失していたルルーシュは我を取り戻し、目の前に迫る回避不可能としか言いようのない拡散ハドロン砲を絶対守護領域を展開して防ぎ切る。

 しかし、幾らルルーシュ達が乗る第九世代と言えど、広範囲に広げられた拡散ハドロン砲の全てをシャットアウトすることは叶わない。

 

「さあ、避けて!」

 

 KGF(ナイトギガフォートレス)モルガンの下層に設置されたポットの装甲が開き、百近い大量のミサイルが放たれた。

 

「全軍避けろ!」

 

 ルルーシュは全軍に向かって通信を放ちながら、拡散構造相転移砲を撃つが全弾は撃ち落とせない。

 後ろに抜けたミサイルに対処しようとしたところに、モルガンは下層ポットを破棄してマーリンに向けてメガハドロンランチャーを撃ち込まれる。

 

「ぐぅっ!?」

 

 マーリンの絶対守護領域の防御力は全ナイトメア1と開発者のロイドとラクシャータが言っていたが、モルガンのメガハドロンランチャーを受けたコクピットがヒッグスコントロールを抜けて衝撃に揺らされて全身を固定されたルルーシュとは違うC.C.が呻く。

 一瞬静止したマーリンの横を全く速度を緩めなかったモルガンが通過する。

 

「あははっ!」

 

 再びの拡散ハドロン砲が放たれて混成軍のみならず、ブリタニア軍のKMFや艦艇を撃ち抜いていく。

 

「みんな、死んでください!!」

 

 ランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式のようにブレイズルミナスや輻射波動障壁がある機体や艦艇は防げたが、それでも衝撃は大きい。しかし、中には両者がないのも多く、大きな爆発が次々に落ちた。

 

「見境も無く…………もう、止めろっ!」

 

 軍に関係なく目に付いた者に攻撃をするナナリーのことを知らずに止めようとスザクが背後から強襲するも、展開されたブレイズルミナスが破壊される一瞬の間に機体を捻らせたモルガンの電磁装甲を滑るようにメーザーバイブレーションソードが流れていく。

 

「五月蠅いカトンボですね!!」

 

 本気でそう思っているナナリーはモルガンのコアユニットであるランスロットでハドロンブラスターを撃った。

 

「人の機体でっ!」

「鬱陶しい!」

 

 スザクは自身が長年使っていたオリジナルのランスロットをコアユニットとしていることを見抜きながら回避行動に移るも、まるでその行動を読んでいたかのように、モルガンは拡散ハドロン砲を撃っていた特徴的なマニピュレータで追撃する。

 

「トンボは羽を毟る!」

 

 超反応を見せたスザクは回避するがマニピュレータ先から伸びた、規模は小さいながらもギャラハッドのエクスカリバーが出したのと同じハドロンブレードがランスロット・アルビオンのエナジーウィングの片翼を貫いた。

 直後、ナナリーは手元の機械を操作してハドロンの制御を意図的に解いて自壊させた。

 制御を失ったハドロンブレードが爆発する。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 スザクはブレイズルミナスを展開して防御しようとするも、マーリンと紅蓮聖天八極式も巻き込むほどの周囲一帯を覆い尽くすほどの大爆発の渦中にいたランスロット・アルビオンは耐えられなかった。

 

「スザク……! このぉっ!」

 

 モルガンもハドロンを自壊させれば撃っていたモルガンの片方のマニピュレータはただではすまなかった。爆発の寸前でマニピュレータをパージしても半壊に近いダメージを負っていた。

 ボロボロになって落ちていくランスロット・アルビオンを追うマーリンから視線を切ったカレンが乗る紅蓮聖天八極式が躍動し、モルガンのパージしたマニピュレータ側から攻め込む。

 

「お兄様を私から奪う紅い奴!!」

 

 残ったマニピュレータからハドロンブレードを形成し、紅蓮聖天八極式に向かって横合いに振る。

 

「そんな大振りが」

「磔、ドーン!」

 

 簡単に避けた紅蓮聖天八極式が輻射波動を放つ体勢になったところで、自分ごと覆うように放たれたスラッシュハーケンが四肢に突き刺さる。モルガンとコアユニットごと貫くほどに深々と。

 

「バーンとビーン、ギャンとドウ!」

 

 コアユニットの腰部から二本のメーザーバイブレーションソードを抜き放つと同時に自身のスラッシュハーケンごと紅蓮聖天八極式の四肢を切り落とし、コックピットに向かって伸ばす。

 

「カレンっ!」

 

 あまりにも行動が早過ぎて介入の余地すらなく、貫かれる前に緊急安全装置を作動させてコクピットを排出したカレンの名を叫ぶルルーシュ。

 

「…………お前の妹は化け物か、ルルーシュ」

 

 ビスマルクのギャラハッドを除けば、間違いなくランスロット・アルビオンと紅蓮聖天八極式は世界最強である。損傷しながらも落とすのは、如何にモルガンの機体性能があったとしても並のパイロットに出来ることではない。

 

「認められるものか……」

 

 ナナリーは幼少期、ルルーシュよりもよっぽど閃光のマリアンヌに似ていた。

 

「認められるものか」

 

 開きっぱなしの通信回線から聞こえるナナリーの言葉はまともとは思えない。

 そうなった理由として思い至るのは、シャルルの記憶改竄のギアスを受けたこと。

 

「認められるものか!」

 

 ルルーシュの心を激情が荒れ狂う。しかし、悠長にしていることは出来なかった。

 

「来るぞ!」

 

 バチバチと損傷箇所から電気を弾けさせながらモルガンが敵を探して移動を始めた。

 

「見えた見えた見えた見えた見えた!」

 

 コアユニットの下の砲口が光を溜め、メガハドロンランチャー・フルブラストがマーリンに向かって放たれた。

 

「後ろの軍を……っ!?」

 

 今、戦争はモルガンの暴走と旗艦であるグレートブリタニアのシグナルが消えて混乱しているブリタニア軍が下がったことで止まっている。ゆっくりと両軍が後退を始める中で、未だ小競り合いを続けている中央部をメガハドロンランチャー・フルブラストが薙ぎ払っていた。

 

「ナナリーを止める!」

「出来るのか、お前に!」

「やらなければならんだろ!」

 

 どっちの道、これだけ両軍に関係なく攻撃を加えていては討伐の対象になることは避けられない。

 ならば、ルルーシュ自らが戦うことを選ぶしかなかった。

 

「死んでよ。私を嘲笑う全ては消えて生まれちゃえ!!」

 

 両軍が巻き込まれないようにしながら移動速度は第八世代より多少早いだけのマーリンを、大きな機体に似合わない機動力を持つモルガンが振り回す。

 それは戦っているのではなかった。

 犠牲を増やすわけにはいかない。ナナリーを狙わせるわけにはいかない。ルルーシュに出来る消極的な逃げだった。

 

「避けてるだけでは何時か落とされるぞ!」

「分かっている!」

 

 永続的に絶対守護領域を張っていられるわけではない。自傷すら厭わないモルガンの攻勢に屈する可能性の方が高い。

 ルルーシュが煩悶していると、センサーが接近してくるモルガンとは別の機体の反応を捉える。

 

「ナイトギガフォートレスの相手ならばお任せあれ!」

 

 急行して来たジークフリートが回転しながらモルガンに体当たりを敢行する。

 

「後ろにバック!」

 

 マーリンの相手をしていて反応が遅れたモルガンは、大質量のジークフリートに体当たりをされればブレイズルミナスも電磁装甲も持たないと判断して、自ら残っていたマニピュレータをパージしてコアユニットのランススロットがメーザーバイブレーションソードを投擲。

 メーザーバイブレーションソードがパージしたマニピュレータを貫き、起こった爆発を利用してジークフリートの回転体当たりを避ける。

 

「前に進撃!」

「ぬぅっ!?」

 

 避けられたと知って回転を止めたところに突撃して圧し掛かるモルガンに、激突の衝撃に首をガクンと揺らさせたジェレミアは歯を食い縛る。

 

「我が忠義の機体に触れるべからず!」

 

 コアユニットであるヴィセント・ジークの手にメーザーバイブレーションソードを握らせ、目の前のモルガンのコアユニットに向けて振り下ろさせる。

 

「同類同属、私は嫌悪!」

 

 ジェレミアを上回る反応速度で振り下ろされるメーザーバイブレーションソードを白羽取りしたナナリーによって簡単に奪い取られる。

 

「そんなっ!?」

「生めよ増やせよこんにちわ!」

 

 明らかに自分以上の反応速度にジェレミアが驚いている間に、ナナリーは奪ったメーザーバイブレーションソードをジークフリートに深々と突き刺す。

 

「さよなら、そしていただきます!」

 

 離れ、その砲口に光を溜めてメガハドロンランチャーを撃つ体勢になる。

 

「させない!」

 

 撃つ一瞬前に身を翻して離れたモルガンのいた場所にシュタルクハドロンが通過する。放ったモルドレッド・バーサーカーのマリアンヌは舌打ちをする。

 

「動けるジェレミア?」

「な、なんとか……」

「じゃあ、少し離れてなさい。そしてタイミングを合わせない」

 

 大きく後退したモルガンが加速して向かって来るのを見たマリアンヌは手元のスイッチを切り替える。

 

「我が娘ながら良い反応だこと。だけど、まだまだ親には勝てないってことを教えてあげるわ!」

 

 今までかけられていたリミッターを解除して、自身の体と機体の負荷を無視した動きを見せるモルドレッド。

 機体名に冠されたバーサーカーの由来通りに、狂戦士の如く奔走するモルドレッドに半壊しているモルガンも猛る。

 

「親殺しは二度目なり!」

「このぉっ!」

 

 極短時間に限って第九世代並みの性能を発揮するバーサーカーモードになったマリアンヌと互角の戦いを演じるナナリー。

 しかし、所詮は機体のリミッターを解除して限界を超えさせた代償で得た力に過ぎない。

 

「くっ、アーニャじゃなく私の体ならもっと戦えるのに」

 

 機体とまだ年若いアーニャの体が先に限界を迎える。

 

「ええいっ、一か八か!」

 

 致命的な損傷を受けたジークフリートを放棄してコアユニットであるヴィンセント・ジークで飛び出していたジェレミアがフロートユニットで飛んでいる。

 ナナリーと戦えないルルーシュが乗るマーリンに賭けるのはあまりにもリスクが大きい。だから、自分が危険を承知でリスクを冒した。

 

「おんぶに抱っこ!?」

 

 背後に回ってコアユニットのランスロットを羽交い絞めされたナナリーはそう叫んでいた。

 

「ジェレミア、ギアスキャンセラー!」

 

 ナナリーの狂躁する理由はシャルルに植え付けられた偽りの記憶であると考えていたマリアンヌはジェレミアのギアスキャンセラーがあればと考えた。

 ギアスによってルルーシュに下っているマリアンヌはギアスキャンセラーを受ければ、アーニャの体に乗り移っている自身の消滅を意味しているとしてもルルーシュを勝たせる為なら自身のことなど二の次という思考をしてしまう。

 

「マリアンヌ様っ!!」

 

 ジェレミアはマリアンヌの精神がギアスによるものだと知っている。そして己のギアスキャンセラーがどのような効果を発揮するかも百も承知でギアスキャンセラーを発動させた。

 

「い、矢ぁ嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアっっ?!?!?!?!?!」

 

 マリアンヌは抵抗も出来ずにCの世界に還り、我に返ったアーニャが見たのは狂乱するナナリーが暴れるコアユニットのランスロットの姿だった。

 長時間、体の主導権を奪われていたアーニャに状況が理解できるはずもなく。

 

「いかん!!」

 

 放たれたスラッシュハーケンがコクピットを貫くその前にモルドレッドを庇ったヴィンセント・ジークの胴体を貫く。

 

「ガギャグケゲゲゲゲゲ――――っっ?!?!?!?!?!」

 

 最早、言葉ですらない叫びがナナリーの口から洩れ、ヴィンセント・ジークに弾き飛ばされたモルドレッドが流れていく中でコアユニットであるランスロットがモルガンから離れる。

 その直後、モルガンは爆発した。

 スラッシュハーケンで胴体部を貫かれていたジェレミアが爆発の中に消える。

 

「ジェレミア――ッ!?」

 

 どう考えても助かるタイミングではなかったジェレミアの名を叫んだルルーシュの目にランスロットが迫る。

 

「ルルーシュ!」

「――――駄目だ、俺には撃てないっ!!」

 

 C.C.に言われてもナナリーと戦うことなどルルーシュには出来なかった。

 

「この馬鹿が!!」

 

 マーリンは前席のC.C.が操縦を、後ろの席のルルーシュが指揮及び各種武装の管理を行うが緊急時に一人で全てを操作することも可能なシステムになっている。C.C.はマーリンの杖を操作してハドロンブラスターを撃とうとした。

 

「止めろっ!!」

 

 制御権を奪い返すも既に遅い。放たれたハドロンブラスターはランスロットの下半身を消し飛ばし、流石に制御を失った機体がバランスを崩して落ちていく。

 

『―――――――全軍に告げる。私はシュナイゼル・エル・ブリタニア、次の皇帝である』

 

 海に落ちる前にモルドレッドが受け止めたが、ナナリーは先の一撃で衝撃で気を失ったのか動く気配がない中で、一帯にオープンチャンネルで男の声が響き渡る。

 

『前皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは死んだ』

 

 通信の主であるシュナイゼルが乗る空中要塞ダモクレスがこの宙域に現れる。

 

『ブリタニア軍よ、このダモクレスに集結せよ』

 

 戦争は終わっていない。だが、シュナイゼルにはこの戦いを続ける理由はない。

 

「どうして」

 

 ダモクレスに集結したブリタニア軍と混成軍は睨み合いを続け、やがて停戦交渉に入るだろう。その未来をセフィロトシステムを使わずに予見したルルーシュは呆然と呟く。

 

「どうして、こんなことになってしまったんだ」

 

 その呟きを聞いたC.C.は静かに目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルルーシュの予想通り、睨み合いを続けた両軍は停戦交渉を行い、戦争は終わった。

 元より前皇帝シャルルの暴走から始まったこの戦争は、その死と共に呆気ない幕切れとなったのである。

 

「これからどこに行くんだ、ルルーシュ」

 

 日本を離れてE.U.に渡ったルルーシュとC.C.はどことも知れぬ場所を歩く。

 

「さあな、取りあえずは各地のギアスの遺跡巡りだ」

 

 自分の足で歩くルルーシュは、どこまでも続く草原に目を細めて答える。

 

「俺達のコードを解くヒントがどこかにあるはずだ。気の長い話になるだろう」

「何年かかることになるやら」

「それでもやるしかないだろう」

 

 幸い時間だけは幾らでもあるのだからルルーシュは左程気負いはしない。

 

「シャルルのギアスで心を壊されたナナリーの傍には行けない。俺は邪魔になるだけだからな」

 

 ユーフェミア達にも止められたが、ルルーシュはもうナナリーがいる日本には訪れないと決めている。

 

「後、俺のことはL.L.と呼べと言っただろう。ルルーシュは死んだんだ」

「ふん、格好つけが」

 

 ルルーシュ(Lelouch)ランペルージ(Lamperouge)だからL.L.とは安直であると思いつつも、ブリタニアに切られても名前だけは捨てなかったルルーシュの覚悟を重んじたからこそC.C.はそれ以上何も言わなかった。

 

「今日は歩くには良い日だ」

 

 燦々と照り付ける太陽の光の下、ルルーシュとC.C.は歩き続ける。

 

 

 

 

 

 ルルーシュとC.C.のその後についての記録はない。ただ、時折、悪を挫く奇跡を起こす男ゼロが世に出て来ることはあった。その傍らには何時も緑髪の少女の姿があったという。

 

 

 






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