コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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始まってしまった卜部生存√です。
まあ、ほぼオリキャラみたいなもんですが。

時系列は R2 TURN 19 『裏切り』からとなっています。




卜部生存√
第一話 卜部は物申す


 

 

 

 フレイヤによってトウキョウ租界が消滅し、一度撤退した黒の騎士団の旗艦である斑鳩。

 ブリタニアの宰相が直接乗り込んでくるという一大事に幹部級が対処に手を取られている間、今まで無かった戦略兵器の登場に動揺が広がっている団員のケアに奔走していた卜部巧雪は事務総長である扇要に呼び出された。

 

「ゼロの正体はブリタニアの元皇子ルルーシュ。ギアスという力で人を操るペテン師だ!」

 

 この忙しい時に何の用だと思いながら扇の執務室にやってきた卜部に扇が開口一番に言った。

 卜部は話の内容よりも扇の後ろにいるブリタニア人の女の方が気になりながらも、部屋の壁に背中を預ける心酔している藤堂鏡志朗を見るも彼は黙して語らうとしない。

 

「事実だ」

 

 代わりに藤堂の横に立つ同じ四聖剣の千葉凪沙が答えた。

 

「………………」

 

 心の主と定めている藤堂が否定せず、千葉も認めたのならば虚言ではないと判断しながら扇を見る。

 

「それで?」

「え?」

 

 率直に聞き返すと、扇が目を丸くした。

 

「ゼロの正体がなんであれ、黒の騎士団の方針は何も変わらないはず。敵国の皇子だというには驚いたが何か問題でも?」

 

 元より卜部はゼロの仮面の中の素顔を知っているし、敵国の皇子だというのも察しがついていた。

 ルルーシュが仮面を外している時にカレンやC.C.が迂闊に名前を呼んでいたことと、ナナリー総督が就任した時に彼女の来歴を調べた際に両者が繋がった。

 扇達が知ったことには十分驚いているが、戦友と認めた男の裡にあるブリタニアと戦う気概を何度も見て来た卜部にとっては重大な問題ではない。

 

「ゼロはずっと俺たちを騙していたんだぞ! ずっと俺たちを駒として」

「戦略家が兵士を駒として扱うのは当然のこと。仮に捨て駒にされたとしても、ブリタニアの脅威を跳ね返せる一助となれるのなら本望だ」

 

 あのバベルタワーの戦いで、切り捨てるという発想だけではブリタニアに勝てないと言ったゼロの言葉に偽りはないと卜部は感じた。

 仮にゼロに捨て駒にされたとしても、ブリタニアに対抗する合衆国を作った男は決して無駄な犠牲を出すことはないと信じている。

 

「第一、駒として使い捨てるというなら中華連邦でカレンを見捨てなかったことをどう説明する?」

 

 後になって聞いた話ではあるが、優れたパイロットとはいえ一兵士に過ぎなかったカレンを見捨てると判断したディートハルトの進言は最もと感じた。勿論、ゼロが言っていたようにインド軍が裏切っていた可能性も否定できなかったが、軍としてはカレンを見捨てる方が正しい。

 結果はどうあれ、切り捨てることが出来なかったゼロの、ルルーシュの甘さを人として卜部は好ましいと思った。

 

「藤堂さん、さっきからどういうことですか」

 

 卜部には反論出来ずに言葉に詰まっている扇が乱心したようにしか見えないが、藤堂が止めようとしないということは彼も同意見なのだろうと思いつつ訊ねる。

 

「卜部、お前はゼロの正体を知っていたのか?」

 

 問いに対する返答ではない。しかし、秘密事を抱えていたのは卜部も同じだった。

 

「ええ、知っていました」

 

 ブリタニアの学生との立場を使い分ける必要があって、時折C.C.がゼロの中身を演じていたことも含めて藤堂達よりも近い位置にはいた。

 

「あのバベルタワーの作戦でカレンやC.C.に教えられました。ゼロはブリタニアの学生であると」

「学生だと?」

「え、知らなかったんですか」

 

 そこに驚かれるとは思わなかった卜部の方が驚く。

 

「俺も驚きましたけどバベルタワーで強く感じました、モノが違うと。年若かろうがブリタニア人であろうが日本を取り返せる力があればなんであろうと構わない」

 

 現にゼロは中華連邦を味方につけ、合衆国を立ち上げて多くの国を味方につけた。

 

「ゼロは力を示し、結果を出した。その中身がなんであれ、ことここに至ってゼロを疑っても仕方ない」

「しかし、その力が、結果がペテンで得られたとしたら?」

「ペテン?」

 

 眉を顰めた卜部に、厳しい面持ちの千葉は腕を組んで睨み付けるように見て来る。

 

「ゼロには、ルルーシュには人を操るギアスという力があるらしい」

「またSFみたいな話になりましたね」

 

 幾ら藤堂が言ったとしても、とてもでは信じられる話ではなかった。

 

「人に命令を強制する力。強力な催眠術のようなものとのことだ」

「奇跡のタネがその力だと?」

「シュナイゼルから音声データで証拠を聞かされた。ゼロの奇跡にはギアスというタネがあった。そのコピーがここにある」

 

 千葉がポケットから端末を取り出してボタンを押す。

 

『ルルーシュ、君がユフィにギアスをかけたのか?』

『ああ』

『日本人を虐殺しろと?』

『俺が命じた』

 

 少ない会話はそこで終わった。

 まだ続きがあるものだと思った卜部が千葉を見るも、彼女はポケットに端末を直している。先はないようだ。

 

「つまり、ゼロがギアスとかいうやつをユーフェミアにかけて、あの虐殺を行わせたと?」

「信じ難いかもしれんが他にもギアスをかけられた疑いのある事件、人物のファイルを見せられた」

 

 仮にも敵国の宰相から与えられた簡単に捏造できる証拠を安易に信じたのかと呆れ顔の卜部に藤堂が近くの机に置かれていた簡易端末を取り、差し出してくる。

 受け取った簡易端末に表示されたデータに卜部は微かに目を見開いた。

 

「草壁中佐に、片瀬少将までか」

 

 ペラペラと紙を捲り、見知った者から見覚えのない人物の写真に驚く。

 

「…………成程、確かに高亥の変わり身等に関して疑問に思っていましたが、人を操れるというなら納得がいく面もある」

「あのロロとかいう訳の分からない奴や、生粋のブリタニアの貴族であるジェレミアが寝返って来たことも全て説明がつくだろう!」

 

 マジックのタネも明かされてみれば陳腐に感じると言うが、目の前でこうも憤っている扇を見ると驚きも冷めて冷静になってしまう。

 

「ユーフェミアはルルーシュの腹違いの妹。身近な人間にギアスをかけている以上、私達も操られていないという保証もない」

 

 そのことに関しては卜部も他人ごとではないのに千葉に何も言えない。

 先程から扇の側にはとても立てる思考ではないが、容易に自身を操れる人間の傍にいたいかと言われればNoと答える。

 

「確かにゼロには秘密が多い」

 

 特に最近のゼロは秘密裏の単独行動も多く、あのトウキョウ租界が消滅した後の言動には理解はすれども全く思うところがないわけではない。

 

「そしてもう一つ」

 

 畳みかけるように藤堂が口を開く。

 

「ブリタニアは無駄な争いを避ける為に事前にフレイヤ弾頭のことをゼロに通告したと言っている。ランスロットに通信記録が残っているともな。しかし……」

「我らには伝えていない。例えブラフだったとしても、あのような兵器があるかもしれないという可能性は伝達しておくべきだろう」

 

 続けた千葉の言葉に、今度こそ卜部は反論するべき論理を持ってはいなかった。

 

「俺は、彼を信じたかった…………信じていたかった。でも、俺たちは彼にとって……」

 

 そう言って落ち込む扇の肩に手を置くブリタニア人の女の姿を視界に留めながら、卜部はどこか白々しく聞こえる言葉が聞こえないように耳を塞ぎたかった。

 

「ゼロさえ引き渡せば日本を返すとシュナイゼルも約束してくれた。一度は信じた仲間を裏切るんだ。せめて日本くらい取り返さなくては俺は自分を許せない」

 

 何が正しいのか、何が間違っているのか、何も分からない中で扇のその言葉だけは看過できなかった。

 

「ところで、ディートハルトとラクシャータがいないのは何故?」

 

 体の内側から湧き上がる感情を抑えつけて、改めて部屋にいる面子を見渡した卜部は幹部ならばいるはずの者が二人いない理由を扇に問う。

 

「ラクシャータは紅蓮のチェックでシュナイゼルとの話し合いに参加していないから後で話す。ディートハルトはゼロの擁護しかしないので席を外してもらっている」

 

 らしいと言えばらしい行動をしている二人に卜部は不思議な安堵を覚えた。

 

「それで、藤堂さん。あなたもこんな馬鹿げた茶番に何時まで付き合うつもりで?」

「茶番だと?」

 

 何も気づいていない様子の藤堂に落胆する。

 

「藤堂さんは統合幕僚長、千葉も俺も一部隊の隊長、扇も事務総長に過ぎない。俺達に黒の騎士団のCEOであるゼロのことを独断で敵国に引き渡す権限など、どこにもない!」

 

 気が付けば卜部は叫んでいた。

 

「し、しかし、ルルーシュにはギアスが」

「そんなことはどうでもいい!」

 

 それ以前の問題であると理解していない扇に卜部は言葉を叩きつける。

 

「ルール違反だと言っているんだ、扇事務総長。ギアスのことは関係ない、ゼロの正体もだ」

 

 とても簡単な事だった。

 どこの組織である極々簡単で当たり前のこと。

 

「どこの世界に敵国のNo.2の言うことを真に受けて軍のトップを引き渡す馬鹿がいる」

 

 ゼロに非はあるだろう。

 ゼロに咎はあるかもしれない。

 しかし、扇がしようとしていることはそれ以前の問題だった。

 

「扇事務総長、あなたを背信容疑で拘束する」

「ふ、ふざけるな! どうして俺が」

「超合集国最高評議会の決議なしに、日本の返還を条件に黒の騎士団CEOを売り渡す約束をしたのは事実だろう! ブリタニアと内通したと言われても仕方のない状況だ!! アンタはそんなことも分からないのか!!」

 

 ただ、事実だけを並べて糾弾すると扇もようやく理解が追いついたようで顔を真っ青にする。

 

「藤堂統合幕僚長、千葉隊長にも同様の嫌疑がかけられる。三人とも、この部屋から出ないでもらいたい」

「…………致し方なし、か」

 

 卜部の叫びで、シュナイゼルからぶつけられた衝撃の事実を前に惑っていたと自覚した藤堂は深い息を吐く。

 

「すまん、卜部。どうやら俺は冷静さを失っていたようだ」

 

 日本軍の上司であった片瀬少将の死にルルーシュが関わっていて、朝比奈のこともあって冷静さを失っていたことを自覚する。

 単独行動が多く秘密主義なゼロに不満を持っていたこと、朝比奈から齎された虐殺が行われたデータを見た藤堂はギアスのこともあって味方にしておくわけにはいかないと決めつけていた。

 まずその前に総司令である黎星刻に報告し、合衆国日本代表にして超合集国評議会議長である皇神楽耶に裁可を頼むべきであった。それが本来、軍として正しい在り方。藤堂達がしようとしていたのは私兵の理屈だったと遅まきながらに理解しても遅い。

 

「すまない」

 

 直前までゼロを糾弾すべきと言っていた朝比奈の死もあって思考が硬直化していた千葉も卜部に謝罪する。

 

「いえ……」

 

 卜部は事前にゼロの素顔を知っていたことと、後で事実を知らされたことで幾分客観的に事実を見れただけに過ぎないと自省していた。

 

「皇代表と天子様が来るまでお待ちを」

 

 どの道、フレイヤなんていう大量破壊兵器の存在で戦略の立て直しが必要になってくる。

 悠長に評議会を招集してから決議していては遅すぎるので、CEOのゼロと総司令の星刻で戦略を練り直し、評議会の代表として神楽耶と天子が裁可を下すことになるはずだった。

 その前に敵と内通した疑いのある彼らの処罰を行わなければならないなど、少女達には気の毒すぎる。 

 

「前後の状況も含めて全てを話して下さい」

 

 扇と親しい態度のブリタニア人の女のことも含めて、と言外に滲ませて卜部は部屋を出た。

 

「まずは、何をするべきか……」

 

 部屋の外からロックをかけ出入りできないようにして、肩を落として疲れた息を吐いた卜部は考える。

 

「ブリッジに行って神楽耶様達に仔細の報告をして」

 

 その前に艦長である南やブリッジにいる者達にも扇達の背信行為について伝えなければならない。

 

「いや、ディートハルトに説明させて俺はシュナイゼルを追い出すことが先決か?」

 

 考えが纏まらない。所詮、自分は隊を預かれても一兵卒の器でしかないということなのかと自嘲する。

 

「そのことも含めてディートハルトとラクシャータに相談するとしよう」

 

 超合衆国成立以前の黒の騎士団内において、戦闘以外のことで頭を使える人間が日本人以外なことに悲哀を覚えながら歩き出す。

 

「初期からゼロに頼り切っていた弊害か」

 

 自分達が考えるよりもゼロの方が何倍も早く、何倍も上手くことが運ぶからといって頼り切っていた怠慢を見せつけられた思いだった。

 

 

 






本√は不定期掲載となります。


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