コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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多くの感想、ありがとうございます。
不定期と言いながら感想が多くてやる気Maxになり出来ました。

後、完結から連載中に戻しました。



第二話 暗中模索

 夕方になって急ぎ斑鳩に到着した皇神楽耶らは卜部巧雪から事情を聞き、自分達が独断専行をしていたことを自覚して大人しく従った藤堂達の事情聴取を行った。

 

「事情は全て聞きました」

 

 まさかこんなことになるとは誰も思っていなかったと、神楽耶は年に似合わない重い息を吐き出して下がっていた顔を上げる。

 

「ハッキリ言えば、ゼロ様の嫌疑は黒の方に近いグレーといったところでしょうか」

 

 軍艦として設計されたわけではない斑鳩には要人が過ごせるような貴賓室はなく、ゼロの私室以外で一番上等な艦長室であった。

 艦長である南に頼んで部屋を借り、卜部と向き合ってソファに座る神楽耶は懊悩に眉間に皺を寄せる。

 

「やはり、ブリタニアの皇子であることが問題であると?」

 

 どうしてもそこがネックになってしまうと、卜部との問いに神楽耶が頷く。

 

「ええ、今公表されれば、それだけで超合衆国は瓦解するでしょう。そういう意味ではゼロ様が仮面を被ったのは致し方ない面もあります」

 

 所詮、超合衆国はゼロのカリスマと、出して来た結果から彼ならばブリタニアを打倒できると見越した各国の思惑があってこそ纏まっている。

 ゼロがただのブリタニア人であるならば、ここまで重大な問題にはなりはしないと思うことに意味はない。

 

「下手をすれば、単なる皇族の後継争いと見られてもおかしくはない」

 

 神楽耶の隣に座る天子の後ろに立つ黎星刻が重くるしく言った。

 

「このことに関してはゼロ様…………ルルーシュ皇子に真意を確かめるしかないでしょう。真意次第では案がないわけでもありませんし」

「ブリタニアの皇帝に成る気がないのであれば妙案があると?」

「それ以前に――――私の知る彼ならば皇帝に成る気は絶対にないでしょうけど」

「は?」

 

 驚く卜部の顔を見た神楽耶は、ナナリー・ヴィ・ブリタニアがエリア11の総督に就任した姿の映像を見た時のように八年前の出会いを思い出していた。

 

「ルルーシュ皇子と知り合いだったのですか?」

 

 目を丸くした天子の問いに神楽耶の顔に複雑な表情が浮かぶ。

 

「それほど深い話をしたわけではありません」

 

 目を伏せて、八年前のことを回帰する。

 

「どうしてルルーシュ皇子を()皇子とシュナイゼルが言ったか知っていますか?」

「そういえば……」

 

 卜部も改めて言われて深くまでは考えなかった点に思い至る。

 

「その様子では、神楽耶様は知っていると?」

 

 にしてはゼロの正体がルルーシュであると告げられた時の驚き様は最近会ったような感じではなかったのように卜部は思った。

 

「八年前のことです」

 

 言葉にすれば漢字でたった三文字で終わってしまう過去を追想する。

 

「ブリタニアとの緊張が高まっている時期に、当時の日本国首相である枢木ゲンブと財界のフィクサーであった桐原泰三の下に皇子と皇女がやってきました」

 

 表向きには留学とされたが贔屓目に見ても外交手段、つまりは人質として日本に送られた二人との出会いを神楽耶は今でも昨日のことのように思い出せる。

 

「その皇子がルルーシュであると。しかし、それは」

「どんなに取り繕おうと人質であることは明白でした。当時の私は幼くてそんなことまでは分かりませんでしたが」

 

 それでも色んな人達がルルーシュ達を見る目がどういうものであったかを子供ながらにも察していた。

 

「ゼロの聡明さなら自身の置かれた状況を理解していてもおかしくはない。自分達がいるにも関わらず、戦端を開いた皇帝を、ブリタニアを憎む理由は十分にある」

 

 ゼロが立てた計略と超合衆国の構想を練れる頭脳を養うには何年もかかる。例え年齢が二桁になった程度の年であっても自身の境遇を理解できる知恵はあると推定した星刻は思案気な表情を浮かべる。

 

「そうか、桐原翁がゼロへの支援を即決したというのは正体を知っていたからか。ギアスなど必要ない」

 

 卜部もようやく得心がいった。

 多少の実績はあれど、どうして正体不明のゼロを全面的に支援すると決めたのか疑問だったのだ。桐原はルルーシュのことも知っているのだから、彼が正体を隠していることも、ブリタニアと戦う理由にも大いに納得がいったのだろう。

 

「いや、待て」

 

 星刻は今更ながらのことが気づいた。

 

「ヴィ・ブリタニアとは、ナナリー総督と同じ……」

「妹君です、ルルーシュ皇子の。彼と共に日本にやってきた皇女はナナリー皇女でした」

 

 あの暑い夏の日に孤高の光を灯した紫の瞳を持った鬼に守られていた車椅子の少女が八年の時を超えてエリア11の総督となった姿を見た時、神楽耶はルルーシュが生きているかもしれないと思った。ただ、ゼロの正体がルルーシュであるとまでは思い至りはしなかったが。

 

「兄妹の仲は良かったと思います。少なくとも私が知る限りでは」

 

 何時間も話したわけではないし、二人が一緒にいるのを見たのはたった一度に過ぎないが。

 

「もしも大切な妹さんが目の前で死んだとすれば混乱するのも仕方ないですね」

 

 言った天子ならば星刻、またはその逆のように。

 卜部であっても、もしも藤堂があのフレイヤの光に飲まれていたら、朝比奈が死んだことから逃げるように仕事に没頭することで心を紛らわしていた今ほどに冷静な状況にはなれなかっただろう。

 

「トウキョウ租界が消滅した後のゼロのあの時の言動にも一定の理解はしよう」

 

 点と点が繋がれば、怪しいと思った疑問の幾つかが解決する。

 ゼロだけがあのフレイヤに大切な者を奪われたわけではない。戦友が、もしかしたらもっと大事な者を失った団員がいるかもしれない。

 本来、軍のトップとはそのような状況になったとしても、冷静に振舞って見せなければならない義務がある。そういう意味では、掣肘すべきだった藤堂が撤退の指示を代わりに出したのは正しい判断だった。

 

「恐らくナナリー総督を奪うという作戦には私情が入っていたのでしょう。ただ、この点に関しては奪還した日本の政情を安定させる為には彼女が必要だったのは事実であると思います」

「政庁に攻撃するなというのは、些か行き過ぎではありますが」

 

 それにしたところで特区日本の象徴でもあるナナリーを害すれば、たとえ日本を取り戻したとしても民意を得られない可能性が高い。

 カレンのこともある上に、フレイヤさえなければ紅蓮聖天八極式の活躍で勝つことは難しくはなかったのだから、政庁を攻撃しなかったというのは結果的には正しかったことになる。

 

「それでも虐殺のことは看過できん」

 

 零番隊の木下が朝比奈に残し、藤堂に託された任務のデータを見た星刻は厳しい面持ちで言った。

 

「我が中華連邦の領内で起きたことだ。何の話も通さずに勝手をされてはな」

 

 任務が行われたポイントは中華連邦の領内を示していた。幾らまだ超合衆国が成っていなかったとしても、合衆国日本と同盟関係にあった中華連邦の元首である天子と実質的に国を動かしていた星刻に話が来ていないのが問題だった。

 

「でも、データを見る限りではブリタニアの施設のようですね」

「いたのは武装もしていない者達だけで碌な抵抗もなかったとあります」

 

 女子供関係なく殺せというゼロの指示もデータに残っていたのも問題である。

 

「ゼロは死なない兵士の研究・実験をしていると言っている。研究員やデータを抹消、全てを破壊し、焼き尽くせとまで」

 

 今まで理性的なゼロとは思えないあまりにも非道な命令であった。

 

「しかし、些か解せない」

 

 データに記されているゼロの言葉のある部分に星刻は眉を顰める。

 

「どこがですか、星刻?」

「実験体と思しき者を発見次第、高圧力ケースに全て封印せよという言葉です」

 

 端末を手に取ってゼロの命令の一部を表示して天子に見せる。

 

「ゼロは直々に検証するとまで言っていますが、常識的に考えて死なない人間はいません。研究・実験をしていたとしてもです。しかし、ゼロはあの場所でそのような者がいるとみていることは命令から見ても明らかです」

 

 多少、寿命が延びたり、ジェレミアのように体を改造して死難くすることは可能だろう。だが、現実的に考えてそのような者達をゼロが検分するほどの理由が見えてこない。

 

「このことはゼロ本人に聞く以外にはないでしょう」

 

 卜部が言うように、この場にいる者が幾ら考えても答えは出て来ないだろう。

 

「これは勘ですが、恐らくシュナイゼルが言っていたというギアスが関係しているのではないでしょうか」

「可能性は高いかもしれません。ですが、やはりゼロ様に聞く以外に私達に方法はありません」

 

 卜部の勘に神楽耶も賛同する。

 未知なる力が本当に存在するかどうかの是非はともかくとして、星刻としては一つだけ言っておかなければならないことがあった。

 

「高亥の変わり身を見るにそういう力があってもおかしくはない。あの変わり様は明らかに不自然だった」

 

 大宦官を排除し、あるべき地位と力を取り戻せた今となっては高亥のことに関して問題にすることはない。しかし、やはり高亥にしたように簡単に人を操れる者が近くにいるというのは良い気がしない。

 

「ギアスのことも含めて、聞くことは多そうだ」

 

 結局のところ、そこに帰結することになる。

 

「出来れば話をする前に、もう少し情報を集めたい。誰かもっとゼロ個人に近しい者に話を聞きたいな」

 

 ゼロの頭の良さは星刻の上を行っている。妹を失って傷心している今ならば突け込める隙は多そうだが、事前準備は怠らない方が良いに決まっている。

 

「素顔を知っていたのは君だけなのか、卜部」

「いえ、俺以外には」

 

 そこまで考えて卜部よりも詳しそうな者以上に詳しそうな者と超合衆国結成以前から会っていないことに気が付いた。

 

「C.C.は一体どうしたんだ?」

 

 体調が悪いと聞いた覚えはあるが超合衆国結成と日本解放戦の忙しさにかまけて深く考えることはしなかった。

 

「あら?」

 

 外からドアを叩くノックの音がして神楽耶が立ち上がった。

 

「ジェレミア・ゴットバルト、参上仕った」

 

 艦長室に入って来たジェレミアは言葉以外は決して阿ることなく室内にいる者達を見渡す。

 

「ジェレミア卿、と呼んだ方がいいか」

「呼び方はなんとでも。私はあくまでルルーシュ様の騎士に過ぎぬ」

 

 ブリタニアの貴族でも、黒の騎士団の団員でもなく、ルルーシュに仕える者であると暗に明言したジェレミアに星刻は眉を顰めた。

 

「貴殿はルルーシュにギアスをかけられたのではないのか?」

 

 クロヴィス殺害容疑で拘束された枢木スザクをゼロが助け出した際、豹変して全力で見逃したジェレミアのことがあるだけに異様な忠誠心に疑念は消えない。

 

「ふっ、過去のことだ。ルルーシュ様から授けられたオレンジは我が忠誠の名前となった」

 

 意味不明だった。神楽耶にも天子にも、そして星刻と卜部にも良く分からないが後者の二人に関しては全く共感する部分がないわけではなかった。

 

「私がルルーシュ様にギアスをかけられたことがあるかと言えばYESだ」

「ゼロと枢木スザクを見逃した時のことですね」

「然り」

 

 話を進める為にジェレミアは星刻の問いに対する分かりやすい返答して、神楽耶に問いかけにはっきりと頷く。

 

「では、今はギアスにはかかっていないと?」

 

 ジェレミアの言い方からするにそう捉えた卜部は率直に訊ねる。

 

「今の私にはギアスを解除する力がある。後付けで与えられた力ではあるがな」

 

 そう言ったジェレミアは機械仕掛けの目元を触る。

 

「どこからそんな力を? いや、聞いてはいけないものなら」

「構わん。これもまた私を構成する一つだ。安易に誇るものでもないが恥じるものでもない」

 

 自身を勝手に改造したバトレーを恨んだこともあるが彼の皇族への忠誠心は本物だったと敬意を抱いている。ルルーシュの修羅の道にギアスキャンセラーが役に立つのならば己が力を忌避する理由は彼にはなかった。

 

「ギアスを解除する力があるということだが、具体的にはどうやってするのだ?」

 

 卜部の問いにジェレミアは触っていた目元を指し示す。

 

「キャンセラー発動時に私を中心とした一定範囲内のギアスを強制的に解除することが出来る」

「ギアスにかかっていなければ何の影響もないということでしょうか」

「その考えで正しい」

 

 聞いた神楽耶は一寸考え、同じように考え込んでいる星刻をチラリと見てジェレミアに視線を戻す。

 

「効果範囲はどれぐらいでしょうか?」

「今、使うとするならば机の手前辺りまでだ」

 

 神楽耶の意図を読み取ったジェレミアも星刻を見る。

 二人の視線の意図を正確に読み取った天子を見下ろしたものの、頷いてジェレミアの申告から更に距離を取って部屋の隅へと移動する。

 

「ギアスを解除する力、私達に使って頂いてもいいですか?」

「よかろう」

 

 元より主の代わりに釈明にやってきたと言っても過言ではないジェレミアに否はない。

 

「…………何も変わりませんね」

 

 左目を覆っていたカバーが外れ、ジェレミアの左目が数秒だけ露出しても何も変化はなかった。

 

「つまり、ゼロは俺達にギアスを使っていないのか」

 

 星刻も戻ってきて僅かに目を細める。

 

「ルルーシュ様は必要もなく不用意にギアスを使う方ではない」

 

 つまりは、ルルーシュは必要があると判断すればギアスを使う男であるとも取れる。

 

「ギアスのカウンター的な力ですが、あなたはどこでその力を?」

「私を改造したのはギアス嚮団という今はもう存在しない組織だ」

「ギアス嚮団……」

 

 また聞いたことのない組織が出て来て天子が単語を繰り返す。

 

「ギアスを研究・開発するブリタニアの組織である。が、さっきも言ったように今はもう存在しない」

「それは、ゼロが極秘裏に零番隊を動かして虐殺を行ったと解釈しても?」

「構わん。そして私も参加していた」

 

 新たな情報が出て来たことで神楽耶は僅かに目を細めてジェレミアを見る。

 

「結果について多くを語ることはないだろう。私にはこの体にされた恨みがあり、ルルーシュ様には奴らを決して許せぬ理由があった」

「その理由とは?」

 

 許せない理由、と聞いて天子は興味を引かれた様子だった。

 

「私にも詳しいことは話して下さらなかったがルルーシュ様の身近な方が弑されたと聞いている。それに私という刺客が失敗したと分かれば次の刺客が送られると推測するのは容易。先手を打つ必要があった」

「だからといって虐殺を指示するのは」

「それはそちらがギアスの恐ろしさを知らぬからだ」

 

 彼らが知るルルーシュの絶対遵守のギアスにしても、使い方次第ではとても恐るべき力となる。

 ギアスとは得てして一点特化の脅威が有り、たとえ知っていたとしても、知っているからこそ恐れるものなのである。

 

「ギアスは目を合わせることで効果を発揮するものが多いが、中には超常的とすら思える類いの物がある」

 

 ロロの体感時間停止のギアスも、ジェレミア以外が効果範囲に入った時に発動されれば防ぐ手段はない。

 

「子供から大人まで、誰がギアスを使うのか分からない以上、ルルーシュ様の判断は間違っていない」

「碌な反抗もなかったとのことだ。降伏を呼びかければ良かったはずだ」

 

 降伏勧告も行わず、一方的な虐殺を行ってはブリタニアがやっていることと何も変わらないと星刻が目で語る。

 

「戦力はあったが数はそこまで多くない。我らのもう一つの目的であったV.V.に逃げられては何の意味もない」

「V.V.?」

「不老不死の存在だ。皇帝とも近しく、作戦上、監視されていたルルーシュ様が正体を明かすことで奇襲は奇襲足り得た。奴だけは決して何があろうとも逃がすわけにはいかなかった」

 

 ルルーシュへの忠義以外は淡々と答えていたジェレミアが初めて怒気を覗かせる。

 

「奴こそ皇族に巣食う小賢しい子供の姿をした悪魔。ルルーシュ様からナナリー様を奪った元凶だ。決して許すわけにはいかぬ」

 

 そこで怒気を収めたジェレミアはゆっくりと口を開く。

 

「奴はもう死んだがな」

 

 叶うならば、この手で殺したかったと微かな悔いを覗かせ、言うべきことを言ったジェレミアは部屋を出て行った。

 

 

 




徐々に明かされていくルルーシュの秘密。

最初は神楽耶、次はジェレミア。その次は誰になるのか。

ルルーシュは七年振りの再会で神楽耶に一発で気づいたのなら、神楽耶もルルーシュの名前と身元を聞けば分からないはずがない。

後、神楽耶の策とはなんでしょうね。

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