コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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第三話 その罪は重すぎた

 

 

 

 ジェレミアと入れ替わるようにやってきた者が一人。

 

「紅月カレンです。神楽耶様、お話したいことが」

 

 声を張り上げたカレンの言葉に、ジェレミアが残した情報が強く頭に残っていた神楽耶はどうするべきかと判断に困って星刻と卜部を見る。

 

「扇達の件でしょう…………ゼロの素顔をカレンは知っていました。恐らく俺よりももっと深いことも知っているはずです」

 

 扇・藤堂・千葉、そして玉城真一郎に背信の疑いがあるとして部屋に軟禁されて数時間。

 前者の三人に関しては、他人に話したのが卜部が最初だったので周りに広まることはなかったのに、玉城は大々的にゼロが裏切ったと触れ回っていた所為で斑鳩のほぼ全員がこの一件を知ることになってしまった。

 ブリタニアに捕まっている間に洗脳などされていないかの精密検査や改修された紅蓮の調査に手を取られていたカレンが知ったのは恐らく一番最後。

 

「分かった。彼女に聞いてみるとしよう」

 

 この場において、まだ年若い少女二人よりも実質的な決定権を持っている星刻がカレンを部屋に入れることを決めた。

 

「失礼します」

 

 パイロットスーツから黒の騎士団の制服に着替えたカレンが緊張の面持ちで室内に迎え入れられた。

 特使を追い返したとはいえ、フレイヤで消滅したトウキョウ租界の被害とエリア11中に走る混乱を収束させなければならないブリタニア軍と即時戦闘になることはないとして、カレンもパイロットスーツから制服に着替えることが出来た。

 

「良く来てくれた、紅月君。いや、この場合は無事だったことを喜ぶべきか、そうさせてしまったことを謝るべきだろうか」

「そんな、あの時は敵だったわけですし」

 

 カレンがブリタニアで捕虜としての扱いを受けたのは、元は中華連邦で敵だった星刻と戦っている時に紅蓮がエナジー切れを起こして捕まったからであった。

 状況が変わって今は仲間になったとはいえ、カレンが虜囚の辱めを受けた理由の一端に星刻が関わっていることは間違いない。だからこそ、星刻は無事に戻れたことを素直に喜んでいいものか、カレンに謝るべきかと対応に困ってしまう。

 

「かけてくれ。場合によっては長い話になるかもしれない」

 

 取りあえず、謝った上で戻って来れたことを喜ぶことで終わりとして、カレンは卜部の隣を勧められて座る。

 

「早速だが本題に入ろう。君はゼロの正体を以前から知っていたな」

「…………はい」

 

 星刻に問いかけられたカレンはそうとしか答えられなかった。

 

「卜部からは同級生だったと聞いたが」

「私も最初から知っていたわけではありません。あのブラックリベリオンの時に知りました」

「ほう」

 

 予想もしていなかった返答に星刻の目が細まる。

 カレンは話し過ぎたと理解したが、一度口にした言葉は戻らない。話し続けるしかなかった。

 

「最初にルルーシュがゼロではないかと疑ったのはシンジュク事変の直後です」

 

 このことはC.C.以外には話していないので星刻達だけでなく卜部も驚いた。

 

「通っていたアッシュフォード学園で彼から接触があったんです。その時の様子からルルーシュがゼロではないかと疑ったのですが」

 

 一度疑いを持てば、シンジュク事変でのゼロの声と似ていると思った。

 

「その時は違うと思ったと?」

「ルルーシュが一枚も二枚も上手だったということです。私はゼロとルルーシュを別人だと判断してしまったんです」

 

 正体を知られているとなれば処理するしかないと考え、接触を図った際にゼロから電話がかかってきたのは今となってはルルーシュの作戦だったということになる。

 

「私がゼロの正体を知ったのは、扇さんにいなくなったゼロの後を追えと言われて、あの時にトウキョウから離れる白兜…ランスロットの行く先にいるはずだと思って辿り着いた式根島近くの島でです」

「式根島の近くの島…………ブラックリベリオン前にゼロがガウェインを奪った時の島か」

「はい」

「確かその島にシュナイゼルもいたとゼロのレポートがあったな。いや、すまない。話を腰を折ってしまった。続けてくれ」

 

 ガウェインは特異な機体であったから、ブリタニア軍が起動実験などを行っていたと記されていたが不明な点も多い。

 

「私が追いついた時、ゼロは枢木スザクと対峙していました。そしてスザクはゼロの仮面を撃ち」

 

 あの時に受けた衝撃は今でもカレンの心の奥深くに残っている。

 

「仮面が剥がれた時、その顔は」

「ルルーシュ皇子だった、と」

 

 詰まった言葉の先を神楽耶が代弁し、カレンは小さく頷いた。

 

「枢木スザクはゼロがルルーシュ皇子であると知っていたのですか?」

「疑ってはいたようですけど確信はなかったようです。私の目には学園にいる時の二人は仲が良い様に見えました。昔からの知り合いだから彼ではないと信じたかったと言っていました」

 

 二人いれば出来ないことなんてない、とルルーシュがスザクに向けて言った言葉をカレンは何故か思い出した。

 

「まあ、そこはいい。問題はどうしてルルーシュがトウキョウから離れたかだ」

「それは」

 

 知っているカレンは言おうとして口を閉じた。当然、星刻が見逃すはずがない。

 目で先を促す星刻にカレンは言わざるをえなかった。この場での黙秘はルルーシュの立場を悪くするだけだとカレンにも分かっていたから。

 

「ルルーシュの妹のナナちゃんが攫われたからです」

 

 卜部がそんな理由で戦場を離れたのかと、横で目を見開いているのを感じながらカレンは言葉を紡ぎ続ける。

 

「ルルーシュはナナちゃんを溺愛してました。星刻さんにとっての天子様のように、ルルーシュの行動の大元には常にナナちゃんの存在があります」

 

 ブリタニアへの憎しみもあるが、ルルーシュの行動は全てナナリーの為にと帰結する。

 

「だから、ナナちゃんが総督になった時、戦えないから自暴自棄になってリフレインを使おうとすらしました」

「そうか……」

 

 百万のゼロを作って追放される前の一幕であったことは、星刻にはナナリーの総督就任時期から簡単に予測が付く。そしてリフレインを使おうとした理由も、自分をルルーシュに、天子をナナリーに置き換えれば気持ちも理解する。

 

「ゼロの行動原理は理解した」

 

 幼少期に人質として日本に送られ、お構いなく侵攻されては見捨てられたと思っても不思議ではない。

 日本人ですら大変だった戦後の混乱期を生き抜いた苦労を思えばブリタニアへの恨みが骨髄となるのが普通。敵国だったブリタニアから送られて日本での扱いがまともだったとも思えないので、日本人を利用しようとしても無理からぬ面もある。

 あくまで手段でしかなかったブラックリベリオンで日本を解放するよりも、攫われたナナリーを救出することを優先した。

 

「もう一つ聞こう、紅月カレン。君はギアスのことを知っているか?」

「はい…………スザクがルルーシュに向かって言っているのを聞き、C.C.から詳しく聞きました」

 

 C.C.とは一緒に逃亡生活をしていたので話す機会は幾らでもあった。その時に聞いたのだ。

 

「C.C.? 黒の騎士団にそのような者がいたのか?」

 

 V.V.とジェレミアが言っていた者と名前が似ていると思いながら星刻は話を進める。

 

「以前の黒の騎士団でも明確な役職はありませんでした。ナリタ戦の後に現れて、そのままなんとなくゼロの側近のような形で、玉城などはゼロの愛人ではないかと言うほどでした。ただ、超合衆国前から病気だとかでゼロの部屋から出て来ることはないので」

「ふむ、ギアスのことに関してはそのC.C.という者に聞いた方が良さそうだな」

 

 卜部の説明に星刻は結局、同じ帰結へと至る。

 問題は今もゼロの部屋にいるというならば、ルルーシュに知られずにC.C.だけを呼び出すことは難しいことだ。

 部屋の近くに洪古を、ブリッジから通路を周香凛に見張らせているがルルーシュだけでなく誰一人として部屋から出て来たという報告はない。

 

「君はルルーシュがユーフェミアにギアスをかけたという日本人の虐殺のことに何か知っているか?」

「いえ、ただ、一度だけC.C.に聞いたことがあります。その時、当初の予定とは大きく違ったとだけ言っていました」

「当初の予定?」

 

 と、別に意味を問うたわけではない星刻は、もしも自分ならばどうしたかを考えた。

 

「そうだな。私が同じ立場でギアスが使えるならば犠牲はもっと減らしただろう。例えばユーフェミアに自分を撃たせれば、ブリタニアが騙し討ちしたとして簡単に暴動が起こる。撃たせる位置だけは指定しておけば大した怪我も無く、特区は失敗して多数の日本人を味方につけられる…………」

 

 虐殺を指示させるのは、やはりあまりにも効率的ではない。自身を上回る戦略家であるゼロが分からないはずがない。

 

「これはやはり直接聞かなければならんか。しかし、分からん。ゼロは枢木スザクに捕まり、皇帝によって殺されたことになっている。どうして皇帝はルルーシュを殺さずに学生に戻した? まさか今更、情でも芽生えたか?」

 

 帝位争いを推奨する皇帝の考えとはとても思えない。

 

「皇帝のギアスで記憶を消されていて監視もされていたから殺す必要もなかったのでは? アッシュフォードに戻された理由は分かりませんけど、C.C.には分かっていたように思えます」

 

 ルルーシュがアッシュフォード学園にいると知って驚いたカレンとは対照的にC.C.は反応が薄かったように見えた。

 元より安易に感情を表に出すような女でないことは一年間一緒に逃げ続けた間柄だけに良く知っていたが、それにしても驚きが無さ過ぎたから改めて考えてみるとC.C.は理由を知っていたのではないかと邪推してしまう。

 

「皇帝もギアスを使うのか……」

「世界は知らずにファンタジーで一杯だったようですな」

 

 これには星刻だけに限らず、卜部も遠い目をする。

 

「皇帝に記憶を改竄する力があるということを知れただけでも良しとしましょう。この様子では他にもいそうですけど」

 

 上に立つ者としては頭の痛い話であると、神楽耶も遠い目をする。

 

「あ、あの!」

 

 天子があわあわとしながら皆を慰めようとする中で、カレンが手を上げて発言を求める。

 

「扇さん達はどうなるんでしょうか……?」

 

 初めから擁護することは確定としてルルーシュとの話し合いには自分も参加する気満々のカレンは目下気になる兄代わりの進退を訊ねる。

 

「藤堂統合幕僚長以下の者達については、シュナイゼルの言ったことが全て事実だとしたら減俸などといった処分に落ち着くでしょう」

 

 玉城は別にして、藤堂や千葉は得難い人材である。事実無根であったならば厳しい処分になるが、全て事実だった場合は軽い処分となるだろう。それでも戦争が続く間という枕詞を神楽耶は意図的に続けなかった。

 

「但し、扇元事務総長だけは別です。彼に関してだけは、弁解の余地はありません」

 

 今のところ、大体のことは事実であるので藤堂達が重い処罰を受けなくて済むことをカレンは喜ぶべきかどうか表情の選択に迷っている中で、彼女には残酷な真実を聞かせなければならなかった。

 

「評議会の許可なく、独断でブリタニアと交渉して自分達の国を取り戻す為にCEOを売り渡そうとしたことは、超合衆国への明らかな裏切りです」 

 

 そして今回の一件を扇が事実上、主導したと取られてもおかしくない言動をしたことも合わせて、軽い処罰など与えようものなら身内贔屓と取られてもおかしくないレベルにある。

 

「それだけではありません」

 

 カレンには厳しい話になるが扇には他にも嫌疑がかけられている。

 このことに関して神楽耶に話させるのは酷だと判断した星刻が引き継ぐ。

 

「千草…………ヴィレッタ・ヌウとブラックリベリオン前から内通していた疑いがある」

「千草? ヴィレッタ? 誰ですか?」

 

 そんな人物が扇の近くにいたとは知らないカレンが眉を顰める。

 

「日本解放戦線の救出の後に負傷していたブリタニア人の女性がゼロの正体を仄めかすようなことを口にしたことから保護したらしい。しかし、彼女は記憶を失っていたために聞き出すことは出来ず、仕方なく保護を続けることにしたと。名前も分からなかったから千草と呼んでいたようだ」

「そんなこと聞いたこともありません……」

 

 当然、ゼロも知らないはずだったろうし、カレンが知らない以上は他の者にも報告はしていなかったのだろう。

 

「この時点で問題は幾つもある。ゼロでなくとも他の幹部、最低でも君か、他の女性幹部に保護を代わってもらうべきだった。幾ら第一発見者だとしても男が女性を保護し続けるなど言語道断。ゼロと何の関係もなかったら彼女を探している家族や友人がいてもおかしくはない。軍人として以前に、人として問題のある行動だ」

 

 ヴィレッタが記憶喪失を装っていた可能性もあるのに、扇は選択を間違えすぎた。

 

「あのブラックリベリオンの時、扇が千草なる者と会った後に撃たれたとの証言もある。その千草の人相はヴィレッタと一致している」

「私、多分、その人に会っています。ブラックリベリオン前のアッシュフォード学園の学園祭で親しそうにしていました」

 

 学園祭で扇と一緒にいた日本人ではなかった女性が件の千草、もしくはヴィレッタ・ヌウなのだと悟ってカレンは顔を真っ青にした。

 

「より内通の疑いが濃くなったわけか」

 

 卜部も扇の人の好さを知るだけに、騙されたのだと思いたかった。

 

「その後の経緯は語ろうとしなかったが、続きはディートハルトが語ってくれた」

 

 星刻としても話していて気の良い話ではなかった。

 

「ゼロが極秘行動中、合衆国憲章の批准を急いでいる時に扇がその前の会議から様子がおかしく、それ以前から何かを隠していると踏んだディートハルトは諜報部に扇の内偵を命令している。そして諜報部は扇がヴィレッタと秘密裏に会っているのを見つけた」

 

 味方だった男を吊るし上げるなど好んでしたいことではない。好む好まざるを得ずにしなければならないのが星刻達の立場だった。

 

「ヴィレッタを捕縛し、ディートハルトは扇を副指令の任に戻した。まあ、このことに関しては報告は必要だが、報告を受ける立場の当のゼロがまた単独行動を取っていたのでは安易には咎め難いところがある」

 

 ディートハルトは食えない男であった。明らかな責があるのにトップであるゼロに報告できなかったと言われれば追及しずらい面を残している。

 

「トウキョウ租界が消滅した後、乗り込んできたシュナイゼル達のドサクサに拘束を脱したヴィレッタからゼロの正体やギアスのことを聞いて真に受けた。そう信じさせた面がゼロにあったせよ、仮にも敵国の人間と宰相の言ったことを藤堂に信じ込ませた最後の後押しと、自分からゼロの身柄と引き換えに日本を返すように迫ったと確認が取れている」

 

 背信行為だけでなく、これでは内通していると疑われてもおかしくない。

 経緯を聞いて何も言えなくなったカレンと、ここまでとは知らなかった扇の行為に卜部は顔を俯けるしかない。

 

「扇要はその権限の全てを剥奪、その身柄は評議会預かりとなります…………未遂に終わったとはいえ、厳しい処罰が下ることは避けられないでしょう」

 

 各自の証言、扇自身が話したことも合わせればそうなっても仕方なかった。

 立場上、接することの多かった神楽耶も沈痛の面持ちだった。

 

「…………しんどいな」

 

 ポツリと漏らした卜部の呟きはカレンの思いと同じものだった。

 

 

 




関係者からの事情聴取から見えて来るゼロの秘密と扇の秘密、状況的に仕方のない面があった藤堂と完全に黒の扇の違い。

次回はルルーシュ回です。

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