コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~ 作:スターゲイザー
日刊三位になってビックリ。
感謝感謝でございます。
トウキョウ決戦から帰還した後、ロロを追い出してからルルーシュは斑鳩内の自室のソファから一歩も動いていなかった。
動けないのではなく、動く気力が湧いてこない。
「ナナリー……」
ルルーシュの行動の指針であり、原動力であった妹であるナナリーがフレイヤによってトウキョウ租界と共に消滅したことで、廃人になったかのように生気を失っていた。
ゼロの私室には艦長の南や副指令の扇であっても入ることは出来ない。パスを持っているのはC.C.・カレン・ロロ、そしてジェレミアの四人だけ。
ロロを追い出し、ジェレミアはナナリーの捜索をしてくれている。カレンは分からないが用がなければ訪れることはない。最後の一人は――――。
「ご主人さま、服を脱いで下さい」
もう何時間もソファに座ったまま動かないルルーシュを心配したC.C.が、以前の彼女ならば決して言わないであろう下手に出た口調で話しかけて来た。
「えっ?」
理由は不明だが記憶喪失になって以前とは別人のようになっているC.C.にルルーシュは鈍い反応で僅かに顔を上げる。
C.C.はルルーシュの傍に両膝をついて心配げにルルーシュを見ている。
「どこか痛いんですか? 手の届かない所なら、私が」
そう言ったC.C.が手に持っている絆創膏を見たルルーシュは唇の端を僅かに上げる。
「ああ、そうだな。手の届かないところか」
超合衆国結成後、あの異様な空間と運命を共にしたはずのシャルルが現れたことに動揺したルルーシュは話しかけてきたC.C.に考え事を邪魔されてイラつき、振るった手が彼女が持っていたピザの皿を弾き飛ばした。
その際に割れた破片で指を切ったC.C.の治らない傷に貼った絆創膏の残りを箱ごと彼女に渡していた。
「まだ持っていたのか、それ」
「はい! 便利ですよね」
屈託のない笑みを向けて来るC.C.を見る度に、以前の彼女はいないのだと思い知らされる。
「ありがとう。気持ちだけで十分だ」
同じ顔をしているだけの別人と思おうとしても、人の心はそう簡単に区別がつくものではないが純粋な善意なだけに死んだような心に僅かな情動を覚えて礼を言う。
「ゼロ…………ルルーシュ、入ってもいい?」
扉の外から聞こえる声に顔を入り口に向けると、ルルーシュ以外には人見知りの傾向があるらしいC.C.は壁際の本棚の陰に隠れてしまった。
「いいぞ、カレン」
カレンの性格を考えれば寧ろ遅すぎるぐらいの来訪に入室の許可を出す。
「失礼する」
すると、二重扉が開いてカレンだけでなく、もう一人の人物も部屋に入ってくる。
「卜部?」
カレンの後ろで固い顔をした卜部が初めて入る部屋であっても興味深げに辺りを見渡すような不躾な行為はしなかったが、本棚の陰に隠れるC.C.に気付いて目を見張った。
「ご主人様、服を脱いでください。私 頑張ってみますから」
当のC.C.は卜部に見られていることに怯えながらも精一杯の勇気を振り絞って言った。
「はあっ!?」
あの傲岸不遜なC.C.にご主人様と呼ばせたり、服を脱いで何を頑張るのかとカレンは目を吊り上げる。
「何やってたのよ、アンタ達は! 私が捕まってる間に――」
「ち、違うっ!!」
尚も言い募ろうとするカレンを制したルルーシュだが死んだ心では意欲が湧き上がらず、顔を伏して元の体勢に戻ってしまう。
「このC.C.はその…………記憶を失っているんだ」
「えっ?」
「俺の所為で。だからお前達が知っているC.C.は、もういないんだ」
思い起こせば、ルルーシュの存在こそが悲劇の元だった。
クロヴィスにユーフェミアと、腹違いとはいえ嘗ては親しかった兄妹をこの手で撃ち殺し、シャーリーもルルーシュの因果に巻き込まれて運命を弄ばれた。そして最愛のナナリーすらも。
「カレン、よく無事でいてくれたな。救助が遅くなってすまなかった」
顔も上げず、声に情動はない。
それでも今のルルーシュが他人を気遣えること自体がありえないことだった。
「ルルーシュ」
シャーリーが死んで、ナナリーもいなくなり、C.C.も以前とは違う。
カレンには何と言えば良いのか分からなかったけれど、彼女だから伝えられることもあった。
「私ね、ナナリーと話したわ。私のこと、助けてくれたの」
「そうか」
「あの、こんな時に言うのもなんだけど、私もお兄ちゃんがいるから」
「カレン、悪いが」
気持ち的には続けても構わないのだが、あまりにも個人的事情が絡み過ぎるから卜部がカレンの肩を掴んで止めた。
「ゼロ…………いや、ルルーシュ
卜部がゼロではなくルルーシュと呼んだことは別に問題ない。ただ、
「何が聞きたい?」
どこから、誰から聞いたのかと考えたルルーシュは意味の無いことだと全てを諦めて問いを待つ。
逆に卜部からすれば最低でも誰から伝えられたのかと聞かれるぐらいは思っていたのに、当のルルーシュは驚くほど素直に、そして無気力に問いを待っている。
「帝国の皇子であることを否定しないのか?」
「知られているのなら否定に意味はない」
本当にそうだろうか、とルルーシュの死んだ目を見たカレンは思ったが口に出すことはなかった。
「まあ、情報源が気にならないわけではない。カレンではなさそうだし、ディートハルトも喋る奴ではない。となれば、捕虜にしていたコーネリア辺りが脱走でもしたか」
一抹の興味はあったが然して知りたいと思っているわけでもないから口の赴くままに話していた。
「シュナイゼルだ」
「…………どうやら事態は随分と進んだようだな」
情報源がシュナイゼルだと明かされれば自室で動いていない間に事態がルルーシュの手を大きく離れてしまったことを自覚しても、まだ活動への意欲が湧いてこない。
「大元の情報源はスザクか」
些か予想外の相手からの情報流出に僅かなりとも思考へのリソースを割いたルルーシュの頭脳が正解を導き出す。
「シュナイゼルに俺の正体が知られてしまっている。あのトウキョウ決戦でシュナイゼルを倒せなかった以上、黒の騎士団を切り崩そうとするのは当然か」
シュナイゼルと同じ立場だったならばルルーシュも同じことをするだろうから驚きはなかった。
相手の心理を読み切り、敗けない勝負しかないシュナイゼルのこの手にルルーシュは自身の末路に見当がついた。
「初めは停戦交渉という名目でやってきた、シュナイゼル本人が」
「自信があったのだろうよ。そうだな、トウキョウ租界を消し飛ばした重戦術級弾頭を持っていたんだろう」
「ああ、その通りだ。護衛のナイトメアがフレイヤ弾頭を積んでいたから捕まえることも出来なかった」
ゼロであるルルーシュに連絡を取ろうとしても繋がらなかった、とも捕捉する。
「俺の引き渡しを要求されたか?」
連絡がつかなったことを詫びもせず、ルルーシュは淡々と問う。
「最初は誰も、その要求に応えようとはしなかった」
ここからは又聞きの話になってしまうが、それでも言わなければならない卜部は苦い物を食べた時のように顔で続ける。
「ギアスのことを聞くまでは」
「………………」
ルルーシュは眉をピクリと動かしただけで、それ以上の動きを見せなかった。
「教えてくれ、ルルーシュ。皇族である君がゼロとなってブリタリアと戦う理由を」
卜部の服に仕込まれた小型カメラを通して神楽耶達が見守る中で、ルルーシュはふぅと重い息を吐いた。
「八年前、母を殺された」
一見関係ない様に思えても、ある程度の事情を後になって知ることが出来た神楽耶は目を伏せた。
「元ナイトオブラウンズとはいえ、庶民出身の母が亡くなったことで後ろ盾も失った俺達は人質として皇帝の命で日本に送られた」
「ナナリー皇女と一緒に?」
「ああ、護衛もなく、ほぼその身一つだけでな。後ろ盾のない俺達を外交の道具として利用しようとしたんだろう」
目と足が不自由な妹を抱えた、まだ年齢が二桁になったかどうかの子供の苦労は推し量ることすら出来ない。
「しかし、分からない。当時の日本とブリタニアの関係はかなり悪かったと記憶している。子供である君達をどうして日本に送るなんて」
「
理解できない、と卜部が続けようとするのをルルーシュは意味不明な言葉で遮った。
単語自体は理解できる。しかし、話の流れとしては意味不明であった。
「お前は、生まれた時から死んでおるのだ」
話の流れを打ち切ってでも、ルルーシュは今も記憶の奥底でジクジクと疼く傷を自ら開く。
「身に纏ったその服は誰が与えた? 家も食事も、命すらも、全て儂が与えた物」
儂、という一人称を吐いたルルーシュの口から言葉が誰のものであるかは出自を考えれば鈍いカレンにも分かった。
「つまり、お前は生きたことは一度もないのだ。しかるに、なんたる愚かしさ…………分かるか? あの男にとって俺は、俺達の存在はその程度に過ぎない。だから、俺はアイツの全てを否定し、自分の力で生きてやると決めた」
一人で皇帝と対峙し、しかし何も出来ずに臆した愚かな過去。あの時の悪夢を見て飛び起きたことは一度や二度ではない。所謂、トラウマというものなのだろう。
「当時の日本国首相である枢木ゲンブが俺達を受け入れたはっきりとした理由は分からん」
国境線で睨み合い、軍拡と情報戦の真っ只中で当時の首相であった枢木ゲンブにとってルルーシュ達兄妹を受け入れる利点はなかったはずだった。
「名目通り人質として利用しようとしたのか、ナナリーと婚約しようとしていたこともあったからブリタニアに入ろうとしたのか、今となっては知る由もない」
「ナナちゃんと婚約!?」
ルルーシュと同い年のスザクの父親となれば、確実にナナリーとは一回り以上は違う年回りなはずであった。
貴族間ではそれだけの年の差婚があると理解していても、好きな相手と添い遂げたい当たり前の願望があるカレンとしては承服できることではない。
「当然、破談にしたさ――――――俺とスザクでな」
その瞬間だけ、僅かに表情を綻ばせたルルーシュも直ぐに死んだ目に戻る。
「ねぇ、ルルーシュ。あなたは私達を、日本をどう思っているの?」
ゲンブのこと、スザクのことでルルーシュが日本をどう思っているのか思い計ることが出来なかったからカレンは直接の問いをぶつけた。
「与えられた住居は土蔵だったし、俺は袋叩きにあったこともある。トドメにトップはロリコンときた」
好意的に捉えられる要素は皆無であった。
この場においてルルーシュが嘘をつく必然性はなく、卜部であってもちょっと祖国が嫌いになりそうな心境である。
「ただ、まあ、あの時なら死んでも良かったかもしれないと今なら思う」
淡く笑ったルルーシュの目の奥に誰がいるかなど卜部には知る由もない。
「ブリタニアと開戦して日本が敗れた後は?」
「俺達のことは死んだことにしてアッシュフォードの庇護下に入った」
「どうして? ブリタニアに戻るって選択肢もあったはずなのに」
「一度、外交手段として利用されたんだ。二度目がないと思うほど馬鹿じゃない」
間接的にそこまで頭が回らなかった自分は馬鹿なのだろうかとカレンは少し落ち込んだ。
「それでも身元が発覚すれば元の木阿弥だ。名前を偽り、経歴を偽造し、隠れるように過ごさなければならなかった」
敢えてルルーシュは口にしなかったが、日本が戦火に巻き込まれる前に実際に暗殺者が送り込まれている。
ゼロとして立ってからも何時身元を暴かれるか、命を狙われるのかと不安を抱えて過ごさなければならなかった。
「そんな状況ではまともな職にもつけない。独自に金を稼いではいたが、たかが知れている。アッシュフォードも何時までも匿ってくれるか分からない。だから、俺は」
不安定な立ち位置を万全な物とする為にはブリタニアがどうしても邪魔になる。
ブリタニアの日本侵攻の時に死亡したことにしたから正規の戸籍なんて無い。そうなれば、パスポートは発行出来ない上に結婚も出来ない。将来、自由な職に就くことも不可能である。
匿ってくれたアッシュフォードも何時までも皇族に戻る気もない元皇子と皇女を匿ってくれる保証もない。下手に身元がバレたら、帝国に叛意を疑われかねないリスクも抱えているのだから。
「ゼロという仮面を被ってブリタニアに反逆を始めた、と」
ルルーシュが反逆を開始した経緯を聞き、ある程度は納得した卜部は渋い表情を浮かべる。
「クロヴィスやユーフェミアもそうして殺したの?」
厳しい問いであると自覚してもカレンは聞かずにはいられなかった。
「目的を遂げる為に例外はない。たとえ昔は仲が良かったとしてもだ」
ルルーシュは過去の記憶を想起する。
あのアリエスの離宮で、クロヴィスは何度もルルーシュにチェスを挑んできた。負けたことはないが、傍から見れば仲が良かったと言えるだろう。その腹違いの兄をルルーシュは撃ち殺した。
「我ながら細い神経だったよ。クロヴィスを殺した後、思い出して何度も吐くなんて」
思えばギアスの力を得たことよりももっと、クロヴィスを殺したことがルルーシュにとっての大きな契機となった。
過去の繋がりを自らの手で切り払ったことでルルーシュはもう後戻りが出来なくなったのだから。
「ギアスは? ギアスを使えばクロヴィスを殺さずに隷属させることも出来たはずだろう」
「そんな都合の良い物じゃない。同じ相手には二度は使えないからな」
「つまり、既にクロヴィスにはギアスを使っていたのか?」
同じ相手に二度は使えない、という文言を頭に刻んだ卜部は質問を重ねるとルルーシュは薄く笑った。
「俺がブリタニアを壊そうとしたのは、ナナリーが安全に暮らせる世界を作ることと、もう一つ母を殺した犯人を見つけることだ。皇族であるクロヴィスなら何かを知っていると思ったが大したことは知らなかった」
つまり、クロヴィスには母の犯人を知るかどうかのギアスを使ったと納得した卜部。
「一人に一回しか使えないにしても、君ほどの頭の良さならもっと簡単に、より直接的にブリタニアに抗する方法もあったはずだ」
卜部が考えられる範囲でも、ブリタニアの貴族の使用人等にギアスをかけて従わせて主の下へ連れて行かせ、ギアスをかける。似たような流れで次々とギアスをかけていけば、大きな苦労もリスクも背負うことなくブリタニアと戦えるはずである。
「現実では仮面を被り、黒の騎士団を作るっていう回りくどい方法を取っている」
仮面を被って戦闘集団を作って国家連合を作ってと、卜部からすればルルーシュのやり方は面倒臭い方法にしか見えない。
「ギアスの力は大きい。それに溺れれば目的を見失う。第一、俺が壊したいのはブリタニアの今の在り方と皇帝であって、ブリタニアで暮らす人々に進んで危害を加えたいわけじゃない」
例外はないと言いながら手段を選んでいるのだと言うルルーシュの理屈に、卜部だけではなく聞いている神楽耶達にも意味が分からないだろう。
「私、ちょっと分かるかも」
卜部の隣でカレンがボソッと呟いた。
「学園に通ってた頃、体が弱い設定の私をみんな心配してくれてて、敵国の人間だって分かってても憎むことは出来なかった」
彼らに悪意はなく、彼らに害意はなかった。それだけに無自覚な悪意があるのだとも知った。
「本当に、あの頃に戻れれば」
遠い目をしたルルーシュはここではない過去を想う。
まだ罪を背負う前、嘘を抱えながらも今ならば満ち足りていたと思えるあのアリエス宮を、学園の日々を。