コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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第五話 ゼロという記号

 

 

 

 もう戻れぬ安息の日々。ルルーシュの人生はあまりにも悲劇に満ち満ちていた。

 

「ユフィの時もそう思った、あの時に戻れればと。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も!!」

 

 ガン、とルルーシュは振り上げた腕で自分の膝を強く打った。

 

「教えてくれ、ルルーシュ。ユーフェミアに日本人を虐殺しろってギアスをかけたのか?」

「かけた。言い訳のしようもないほどにな」

 

 結果はそうだとしても、皆が知るような過程では決してない。

 

「ユフィには神根島で正体を知られていた」

「えっ!?」

 

 自分よりも早くゼロの正体を知った者がいると知ってカレンが目を剥く。

 

「彼女は簡単にゼロの正体に辿り着いた」

 

 七年振りの川口湖での対峙の際、仮面越しの対面で疑念を抱かれ、神根島で正体を知られた。

 ルルーシュの迂闊な発言があったにせよ、普通ならば気づかない疑念から答えに辿り着けたのは単独ではユーフェミア以外にいなかった。

 

「学園祭でユフィが特区日本を明かしたのは俺達とアッシュフォードで会ったからだ」

 

 ユーフェミアもまた無自覚な悪意でルルーシュの、ゼロの目論見を挫こうとしていた。だからこそ、ルルーシュも対抗する策を練って特区に臨んだ。

 

「特区会場で本来ならユフィをギアスで操って、持ち込んだセラミックと竹で作ったニードルガンで俺を撃たせ、特区はゼロを騙し討ちする為の大掛かりな作戦だったとするつもりだった。だが、直接話したことで彼女は俺とナナリーの為に行動していたと分かり、俺を撃たせる作戦は取り止め、特区を活かした戦略を立てる約束をした」

 

 皇籍奉還特権を使い、皇族であることを捨ててまでルルーシュを守ろうとしてくれた。

 皇族でなくなることがどれだけ大変な事かを身を以て知っていたルルーシュだからこそユーフェミアの覚悟に絆された。

 

「なのに、予定外のことが起きた」

 

 そう言って左目に嵌めているコンタクトを外し、暴走したままの目を曝け出す。

 

「ギアスが危険な力だとは重々承知していたはずだった。絶対の味方であると慢心して、彼女ならば絶対にありえない行動を取らせることが出来る力があるのだと冗談で言った」

 

 日本人を殺せ、とギアスが暴走してしることに気が付かずに。

 

「そ、そんな冗談で言ったことまでギアスが発動してしまうなんて馬鹿なことがあるっていうの?」

「ギアスが暴走していることに気が付いていなかった。ユフィの異変に気付いて止めようとした時には遅過ぎた」

 

 理由はとてもちっぽけで、カレンが思わず呆然とするぐらいにタイミングが悪かった。

 

「会場に向かったユフィは俺が持ち込んだ銃を撃ち、兵士達はギアスで操られていた彼女の命令に従って虐殺を始めた」

 

 ルルーシュが冗談であんなことを言わなければ。

 ギアスが暴走さえしていなければ。

 スザクやSP達が気絶さえしていなければ。

 兵士達が命令に従わなければ。

 

「せ、せめて私達にだけでも言ってくれれば……!」

「言ってどうなる?」

「…………それは」

 

 カレンは言葉に窮しながらも、真実を教えられても戦えるはずがないと分かっているから何も言えなくなった。

 

「会場でまだ生き残っていた日本人に言われたよ。救世主だと、希望だと。俺は、背負うしかなかった」

 

 様々なIFに最早、意味はない。

 

「罰を望むのは簡単だ。真実を公表し、俺を、ゼロを糾弾させればいい。だが、それをしてどうなる?」

 

 ゼロと黒の騎士団は、後者が無くなっても前者が存在していれば日本人は希望を抱き続けられる。しかし、ゼロあっての黒の騎士団であってその逆はない。

 あの時、あの瞬間において、ゼロこそが日本人達の希望だったのだから。

 

「あの状況を最大限に利用するしかなかっただろう。あの時点で全てがゼロの責任であると知れれば日本人は二度と立ち上がれなくなる」

 

 真実の重みに押し潰されそうになりながらも、卜部もルルーシュの選択こそが最適であったと認める。

 黒の騎士団こそが日本人達の希望だった。その中心にいたゼロこそが虐殺を命令したと分かれば、二度と希望を抱くことも出来なくなる。

 

「死んだ者達に報いるには進み続けるしかない。許されないことだと分かっていても」

 

 最適だから傷つかないわけではない。最適だと分かっていて、修羅の道を進まなければならないからこそ傷つくのだ。

 

「修羅の道だと覚悟していた。クロヴィスを殺した時から、シャーリーの父親を巻き込んだ時から、俺に辿り着いたヴィレッタを撃ったシャーリーの心を守る為に記憶を消した時から」

 

 どれだけの犠牲を出そうとも、積み上げて来た犠牲の数だけルルーシュは止まることが出来なかった。

 

「あんなユフィは見たくない。あの時はギアスを解除することも出来なかった以上、更なる犠牲を出す前に俺が撃つしかなかった」

 

 ルルーシュが知らず組み合わせていた手を離すと、強く握り過ぎて指の痕がしっかりと残っていた。

 

「これが事実だ」

「…………ゼロがトウキョウを離れたのは?」

 

 何と言っていいものか分からない卜部は、次の疑問を口にする。

 

「ジェレミアに襲われたというのもあるがナナリーが攫われたからだ」

 

 もうルルーシュに隠す理由はない。

 

「我々を見捨てたと?」

「優先度の違いだ。俺にとって日本解放よりもナナリーの方が優先度が高かった。ただ、それだけだ」

 

 ギリッと卜部の噛み締めた歯が鳴った。

 

「が、何も思わないわけではない。彼らには申し訳ないと思うし、今まで俺がやったことも考えれば碌な死に方はしないだろうな」

 

 その報いが世界を敵に回してでも守りたいと思っていたナナリーの死だとするならば相応しいとすら言えるだろう。

 

「中華連邦でブリタニアの物と思われる施設で虐殺を行ったのは何故だ?」

 

 ただ、妹との為に。ルルーシュの行動は一貫していた。それに納得できるかどうかは別にして。

 

「あそこはギアス嚮団と呼ばれるブリタニアの研究施設だ」

「ギアス嚮団?」

 

 ジェレミアが話していた時にはおらず、初耳の単語にカレンは問い返していた。

 

「ギアスの存在が人を苦しめる。シャーリーは最後までギアスに翻弄されて殺された」

「やっぱり自殺じゃなかったのね」

 

 スザクから聞かされたシャーリーの死の真相に目を見張ったカレンは目付きを鋭くする。

 

「誰? 誰がシャーリーを殺したの?」

 

 ブリタニアの鑑識は自殺と判断し、スザクはルルーシュを疑っていた。

 

「ロロだ」

「何っ!?」

「シャーリーの記憶が戻ったから殺したと、俺にハッキリ言ったよ」

 

 名前を聞いてもカレンは誰のことか分からなかったが、虐殺の前後から黒の騎士団に参加していたロロを知る卜部は幼い少年の顔を脳裏に思い浮べて目を剥く。

 

「ギアスが効かないジェレミアの情報で嚮団の位置は掴めていた。アイツだけは絶対に許さない! ボロ雑巾のように使い倒して殺そうとして、その時を逃してしまった…………」

 

 強く握られた拳は振り下ろす先がなく、怒りが長続きしないルルーシュの声だけが虚しく響く。

 

「ギアス嚮団に殲滅の指示を出したのは俺なりの贖罪であり、ブリタニアにギアスを使われる前に対処しておくためだった。そして嚮団にはブラックリベリオンの時、ナナリーを攫ったV.V.もいた」

「V.V.? ジェレミアも言って名前だが、C.C.と名前の響きが似ているから彼女の縁者か?」

「二人は兄妹や親子ではないし、血縁もない」

 

 卜部がもしやと考えた可能性は切り捨てられた。

 

「あの二人はコードと呼ばれるものを所有している。不老不死でギアスを与える力がある」

「じゃあ、ルルーシュにギアスを与えたのは」

「C.C.だ。シンジュクでカレン達のテロに巻き込まれた俺は毒ガスとされていたC.C.からギアスを与えられた。皇帝にギアスを与えたのはV.V.だろう」

 

 これで謎とされて来たC.C.とルルーシュの関係性も見えて来た。

 

「V.V.を追い詰めた時、気が付けば異常な空間に皇帝と共にいた。理由は分からないが千載一遇のチャンスを見逃すわけにはいかない。ギアスをかけて皇帝を自殺させた。だが、奴は既にV.V.からコードを奪って不老不死になっていた……」

 

 もう驚くことばかりでカレンも卜部も驚くに驚けなかった。きっと映像を見ている神楽耶達も同様だろう。

 

「そこへC.C.が現れた」

 

 一瞬、痛みを持って放たれた言葉にカレンがルルーシュの顔を見るも、目は死んだままだ。

 

「C.C.の望みは死ぬことだった。それが俺と契約してギアスを与えた理由だ。ギアスの暴走を超えて制御した達成人だけがコードを継承して、コードを持った者を殺すことが出来る」

「そんな、C.C.!!」

 

 カレンが未だ本棚に隠れるようにして身を顰めているC.C.の名を叫ぶと、記憶の無い彼女は怯えてますます身を引っ込める。

 

「ブラックリベリオンの後、スザクによって捕まった俺は皇帝の前に連れ出され、記憶を改ざんされてアッシュフォード学園に戻された。本来ならば殺してしまった方が後腐れが無い。そんな無駄なことをしたのは、俺を囮にしてC.C.を誘き出す為だろう。話を聞いた限りでは。皇帝の計画にはC.C.のコードも必要だったようだからな」

 

 そんなC.C.の姿をチラリと見たルルーシュは、やはり直ぐに視線を切って俯く。

 

「…………最終的にC.C.は皇帝を裏切った。だが、あの空間から出た後、C.C.は記憶を失っていた。理由は、分からない」

 

 だから、今のC.C.を責め立てたところで意味はない。

 

「皇帝は死んだと安心していた。もしくはあの空間に置き去りになったことでナナリーの安全は確保されたと俺は思い込んだ。超合衆国結成後、皇帝が姿を現すまでは」

 

 この時点においてもルルーシュの中でナナリーの優先順位が一番なのは変わっていなかった。

 

「人質が通じる相手ではないからコーネリアがいても利用できない。超合衆国に俺の存在を明かしても黒の騎士団が瓦解して、ナナリーを助けても受け入れる国が無ければ何の意味もない」

 

 打てる手を考えて、考えて、記憶を失っているC.C.との会話で一つの方法を取った。

 

「俺はスザクに助けを求めた」

「それは……」

 

 カレンにだってナナリーを助けるにはそれしかないと思う。だが、二人の関係性を知るからこそ、不安は大きい。

 

「失敗だったよ。スザクとの約束通り、俺は一人でエリア11の枢木神社に赴き―――――――裏切られた!」

 

 憤怒にルルーシュの肩に力が入る。

 

「隠れていたシュナイゼルの手の者に捕まえられた。またスザクは俺を売り払った!」

 

 ルルーシュの身と引き換えにナイトオブラウンズの地位を得たように、一度は心の底から信じられると思ったところで前例があっただけに裏切られたと思っても無理はない。

 

「俺はもう信じることを止めた。友情は裏切られたから」

 

 嘗てとはいえ、命よりも大事なナナリーを預けても良いと思えた親友に裏切られたルルーシュは他人を信じることが出来なくなった。

 

「だから、トウキョウ決戦でスザクがフレイヤのことを言っても信じることが出来なかった?」

「…………ああ」

「俺も同じ状況になれば信じれたとは言えんな」

 

 経緯を知れば納得するかどうかは別にして理解はする。

 

「それで」

 

 十数秒後、無言の間を挟んでルルーシュが口を開く。

 

「俺をどうするのか。決めたか?」

「どうするって」

「殺すか、シュナイゼルに引き渡すのかってことだ」

 

 あまりにも軽く自分の去就を口にするルルーシュの裡に広がる虚無を間に辺りにした卜部は唇を噛んだ。

 

「ナナリーのいない世界などに未練はない。好きにするといいさ」

 

 自身の命とナナリーの命ならばどちらを選ぶと聞かれれば、即答でナナリーの命と答えるルルーシュにとって今の世界は全てが色褪せていた。

 

「ルルーシュ、これを被って」

 

 カレンは自分ではなくシャーリーがこの場にいれば、ルルーシュはこのような馬鹿なことを言い出さないと確信を持って言える。

 結局、自分ではシャーリーの代わりにも、ナナリーの代わりも出来ないとカレンは知っていた。知っていたから彼女なりのやり方でルルーシュを発奮させる。

 

「ん? ああ……」

 

 目尻を吊り上げたカレンがテーブルに置きっぱなしになっていたゼロの仮面を持ち上げてルルーシュに手渡す。

 

「一体何のために?」

「いいから、早く被りなさい!」

「わ、分かった」

 

 手渡された仮面を持って仁王立ちしているカレンを見上げると、急かされたことで訝し気ながらも被る。

 

「これで良いのか?」

「ええ、じゃあ」

 

 仮面を被ったルルーシュに向けて一歩踏み込み、カレンはその右拳を振り上げた。

 

「この――――大馬鹿野郎ぉおおおおおおおお!!」

「ぐはっ!?」

 

 カレンの固められた鉄拳がルルーシュをゼロの仮面ごと殴り飛ばした。

 事態の流れを静観していた卜部が唖然とするほどに、文字通りに殴り飛ばされたルルーシュが背中から床に大きな音を立てて倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

 仮面の上から殴りつけたカレンの手と、仮面を被っても殴り飛ばされたルルーシュのダメージ、はたしてどちらを慮って言ったのか卜部にも分かっていなかった。

 

「へっ、平気っ!!」

 

 真っ赤になって痛みにプルプルと震わせる拳を抱えたカレンは涙目を浮かべつつ、自分は何ともないと平然を装った。全然、装えてはいないが。

 

「…………ぐぅ、無茶をする」

 

 当のルルーシュは殴られた衝撃によってグワングワンと揺れる頭を抑えながら体を起こす。

 打ち付けた背中は痛い。ブラックリベリオンでスザクに仮面を撃たれて無理矢理に外された経験から防弾仕様になっていたお蔭で、衝撃はあったものの殴られたダメージ自体は大したことはない。

 揺らされた頭は気持ち悪くなるほどの気持ち悪さで、ルルーシュは仮面を外そうとした。

 

「外すな!」

 

 カレンの大喝によってルルーシュの手は止まる。

 

「私はシャーリーみたいに優しくないし、ナナちゃんみたいに可愛くもない」

 

 カレンは体を起こしたルルーシュの下へと、ズキンズキンと痛む拳を抱えたままゆっくりと歩み寄る。

 

「藤堂さんや卜部さん達みたいに部下を率いることも出来ない猪武者よ」

 

 個人の武勇だけは誰にも負けないと自負しているが、言ってしまえば個人で出来ることがカレンの限界だった。

 

「ギアスのことも、アンタの出自のことも、他の人よりは知っていたはずなのに何もしようとしなかった」

 

 ルルーシュは信じず、ゼロを信じると言い切った。そのことに後悔はない。

 後悔はないが、あのバベルタワーの一件以来、カレンはルルーシュに踏み込まなかった。ルルーシュから踏み込んでくれることを期待していた。実際、百万のゼロを作って中華連邦に渡った当初、ルルーシュは少しだけ歩み寄ってくれた。

 

「頼って甘えて、秘密を明かせないとしても無理ないぐらい私達は弱かった」

 

 誰もがルルーシュに、ゼロに縋っていた。

 ブラックリベリオンの時、ゼロがいなくなっただけで負けたほどに。

 

「アンタには日本人に夢を見せた責任がある。それは私達も同じよ」

 

 もう、ゼロだけが希望なのではない。

 ゼロが希望の中心にいるのは変わらないとしても、その規模を増した黒の騎士団にも相応の責任が求められる時が来た。

 

「ごめん、ルルーシュ。アンタ一人に何もかも背負わせてきた」

 

 一度は神根島で見捨てた負い目もあった。

 私的な事情よりも仕事を優先したなんていうのは言い訳に過ぎない。黒の騎士団の中で、C.C.に次いでルルーシュに近いところにいながら何もしようとしなかった罪は重い。

 

「カレン」

 

 カレンの熱は確かにルルーシュの心を震わせた。

 

「俺は、あの日からずっと嘘をついていた。生きてるって嘘を、名前も嘘、経歴も嘘、嘘ばっかりだ」

 

 それでも捨てられない物は多かった。

 ルルーシュという名前も、ナナリーのことも、胸に常に燻り続けて来た気持ちも。

 

「全く変わらない世界に飽き飽きして、でも嘘って絶望で諦めることもできなくて。だけど手に入れた。ギアスという名の力を……」

 

 たとえギアスがなかったとしても、ルルーシュは何時か反逆を始めただろう。

 過程も末路も違ったものになっただろう。ギアスはあくまでも反逆を始めるきっかけに過ぎないのだから。

 

「ずっと嘘を続けて来た。多くの人の人生を歪ませてきた。謝っても許されることではない」

 

 己が望む通りに進める為にギアスで操った人々や、ルルーシュの行動によって人生を狂わされて来た者は多い。

 

「俺はどうやって彼らに償えばいい?」

 

 ルルーシュが心の奥底に押し込めて来た罪悪感がそう言わせていた。

 

「私に分かるわけないじゃない!」

 

 カレンにだって罪がないわけではない。

 最前線で多くのブリタニア兵を殺して来た。嘘をついて抵抗活動を続け、学園を占拠して一度は友達だった生徒会の皆にも牙を見せた。

 

「みんな大なり小なり罪を犯してるわ。償う方法なんて私にだって分かんないわよ。それでもまだアンタは、ゼロはブリタニアと戦う多くの人の希望なのよ!」

「俺は奇跡など起こせない! 全ては計算と演出、ゼロという仮面は記号なんだ。嘘をつくための装置に過ぎない……」

「そんなこと、みんなが知るわけないでしょうが!」

 

 枢木神社でスザクにも言ったことをもう一度繰り返し、諦めているルルーシュに向かってカレンはもう一回殴りつける。

 

「嘘が嘘だって分からなければみんなにとっては真実になるわ」

「俺に嘘を吐き通せというのか?」

 

 嘘を本当にしてしまえば虚構も真実となる。

 ルルーシュが騙ったゼロの正義の味方という仮面を貫き通せと、奇しくもスザクと同じことをカレンは言ってしまった。

 

「今度はその秘密を一人で背負わせたりしない。ルルーシュが背負っていた物を、私にも背負わせなさいよ」

 

 嘗てルルーシュに最後まで騙しとおせと言った責任がカレンにはある。

 

「だとしても、俺にはもう嘘を吐き通す理由が」

「私を理由にしなさい」

 

 完全に口を挟むタイミングを逃した卜部と、彼の服に仕込まれた小型カメラを通して神楽耶が見ていることも忘れている様子のカレンは更に言い募る。

 

「シャーリーの代わりや、それこそナナちゃんの代わりにならないのは百も承知よ。でも、一度はゼロであることを止めようとしたルルーシュを引き止めたのは私だから」

 

 ルルーシュがゼロを続けることを決めたのは、学園に戻って屋上で花火を上げていた生徒会のみんなと話したことが理由だったのだが言わぬが花なのだろう。

 

「爪の先から髪の毛まで私の全部をあげる。だから」

「…………まるでプロポーズみたいだな」

「ぷ、プロっ!?」

 

そこまでは考えていなかったカレンはルルーシュに改めて指摘されて顔を真っ赤にしたが、口をギュッと引き結んでゼロの仮面に手を伸ばす。

 

「これは契約よ」

 

 外した仮面を脇に置き、ルルーシュの頬に手を添えたカレンはその唇と自身の唇を重ね合わせた。

 

「…………もう俺の戦いはナナリーの為だけじゃなかった。分かっていたはずなのにな」

 

 離れた唇を自嘲気味に歪めたルルーシュは一度きつく目を瞑り、また開いた。

 

「ありがとう、カレン。目が覚めた」

 

 瞳に鋭気を取り戻したルルーシュは離れたカレンの脇に置かれたゼロの仮面を持って立ち上がった。

 

「あの日から俺はずっと彷徨っていたのかもしれない」

 

 まだ仮面が必要なかった幼き幸福の日々から弾き出され、多くの者達と出会いと別れを繰り返して来た。

 

「名前も、経歴も、手に入れた力も、全部、俺にとっての本当を見つける道だったのかもしれない」

 

 今、ルルーシュの手に残った物は少ない。

 答えは見つかっていた。誰に求められるでもなく、罪を償う道はたった一つしか残されていなかったからルルーシュは言わなければならなかった。

 

「カレン、素直に気持ちは嬉しいと思う。どれだけ感謝してもし足りない」

「ルルーシュっ!?」

 

 恐らく勘違いしているであろう真っ赤になって悶えているカレンを置いて、背を向けて歩き出したルルーシュは執務机へと向かって目的の物を見つけた。

 

「罪は償わなければならない」

 

 手を伸ばして、ペンボックスに差し込まれている万年筆を取り出す。

 

「俺という存在がシャーリーを殺した。俺という存在がナナリーを殺した」

 

 シャーリーはルルーシュの傍にいたから、ギアスに纏わる争いに巻き込まれて死んだ。

 彼女の一生を弄んだギアスとそれに関わる者を抹殺する為にギアス嚮団という存在自体をこの世から抹消した。これしか彼女に償う方法はないと思ったから。

 

「ギアスが罪と言うなら、もっと先にすることがあった」

 

 手の中の万年筆をクルリと向き変えて、筆先を上に向ける。

 

「まさか……っ! 止めなさいっ!!」

 

 ルルーシュが何をしようとするのか分かったカレンが止めようと床を蹴るがルルーシュの行動の方が早い。

 

「もっと、早くこうするべきだった!」

 

 ルルーシュは、万年筆の筆先を(・・・・・・・)自身の左目に突き立てた(・・・・・・・・・・・)

 

「ぐぅっ!? ぬっ、ぎぃっ!!」

 

 後一歩が足りなかったカレンの目の前で、呪われた力(ギアス)を宿した左目を自身の手で傷つけたルルーシュから血が迸る。

 紅蓮聖天八極式の機体装甲の色と同じ真っ赤な血がカレンの頬に飛んできた。

 

「ゼロ、何を……」

「…………これは、ケジメだ」

 

 突き刺した万年筆を抜き、痛みで全身を震わせながら卜部に答えたルルーシュは笑っていた。

 

「シャーリーもナナリーも死んだ。ルルーシュもギアスも、たった今死んだ。俺は――――私はゼロだ」

 

 血が流れ続ける左目をそのままに、ルルーシュはゼロの仮面を被る。

 

「悪いがカレン、君と契約は結べない。正義の味方に特別な者はいてはいけないのだから」

 

 誰も何も言えない中で、今まで怯えて部屋の隅に蹲っていたC.C.が立ち上がった。

 C.C.は自身のコードの機能の大半を封印して、ギアスの魔女としての力を失って奴隷時代の頃に戻っていた。しかし、コードの持ち主とギアスユーザーには目に見えない繋がりがある。その繋がりを通して、ルルーシュのギアスの元である左目が潰れたことを感知した。

 

「ルルーシュ」

 

 死に匹敵するダメージを負うなどしなければ目覚めなかったC.C.が、自ら封印していたコードの機能を蘇らせて語り掛ける。

 

「雪が白いのは何故だ?」

「…………雪が何故、白いのかと問う意味はない。雪は白い。その結果だけがある」

 

 ナリタでの二人だけの問答を分かった上で、ルルーシュはゼロとして答えた。

 

「ギアスを与えた私を恨んでいるか?」

 

 はぐらかされたのではない。

 正義の味方として自らを定めたゼロは他に答えるべき答えを持ち合わせていないから。

 

「たとえ最初から騙されていたとしても、ギアスが、お前がいてくれたから俺は歩き出すことが出来た。そこから先のことは全て俺の責任だ。必ず約束は守る――――――――――と言うのがルルーシュという男の遺言だ」

「馬鹿者め……」

 

 それが最後のゼロの譲歩であり、偽らざるルルーシュの本音であると理解して、C.C.は泣けない彼の代わりに左目から涙を一粒零した。

 

「先の戦いで皇帝はエリア11に来ていながらもトウキョウ租界に現れなかった。方角的に向かったのは神根島の遺跡だろう。藤堂以下の者達は別艦に移り、トウキョウ租界に留まっているシュナイゼルを見張れ。斑鳩は神根島へと向かう」

 

 カレンも卜部も、卜部が持つ小型カメラを通して神楽耶達も置き去りにして、唯一残っていた名前すらも捨て去ったゼロが黒の騎士団CEOとして命令を下す。

 

「ルルーシュとしての私心を完全に消し去る為に」

 

 正義の味方であるゼロとして完成する為に、ルルーシュは過去に決着を着けに行く。

 

 

 




シャーリー生存√ではフレイヤでナナリーが死んだと思っても、色んなものがルルーシュを繋ぎ止めた。

卜部生存√ではルルーシュは何も残っていないと思った。結果、正義の味方ゼロになることを決める。
カレンは説得の仕方を間違えた。シャーリー生存√のようなやり方をしていれば、ルルーシュを引き止めることが出来たのに。

ゼロとして生きることを決めたルルーシュは、ルルーシュとしての心に決着をつけるために皇帝が向かった式根島方面に向かう。


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