コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~ 作:スターゲイザー
遅れて申し訳ないです。
ゆっくりと枢木スザクの意識が覚醒していく。
「起きたか、枢木スザク」
瞼を開いた時、天井のライトの光で視界がハッキリとしない中、あまり馴染みのない声をかけられてスザクはそちらを向く。
「C.C.?」
直接会ったのは特区会場での一度のみ。皇帝によって記憶を改竄されたルルーシュがアッシュフォード学園に戻された理由である魔女の写真を記憶に焼き付けていたので見間違えるはずがない。
「どうして君が」
「状況は把握できているか?」
ここにいるのか、と聞く前にC.C.に問われたスザクは周りを見渡し、自身が後ろ手に拘束されていることを自覚する。
C.C.が着ているのは黒の騎士団の制服を改造したものであること、意識を失う前に見た人物のことも合わせれば簡単に答えは出た。
「俺は黒の騎士団に捕まった、のか」
「正解だ」
ナイトオブラウンズであるスザクが敵に捕まるなど、最悪に近いパターンに陥っていると言えるだろう。
ベッドに寝かされている中で体を動かしてみれば、足も同じように繋がれている。手も手錠だけに留まらず、壁等に何かで繋がっている感覚があった。
ナイトオブラウンズはナイトメアフレームに乗らなくても人外染みた戦闘力を持つ。妥当な対応だろうと、体を起こしてベッドに座る。
「お前もつくづく運がないな」
身軽な動きを見せるスザクが座ったベッドの近くにある椅子に座っているC.C.は彼を哀れむように、そして非難するように見つめる。
「どういうことだ?」
「皇帝を暗殺しに行って、敵軍に捕まる男を不運と言わず何と言えば良いんだ?」
全く以て否定できない理由にスザクは沈黙する。
「まあ、それはどうでもいい」
スザクが運に見放されているのは今に始まったことではないが、どうでもいい扱いされるとそれはそれで傷つく。
「運が良くないくせにタイミングだけは良い奴だよ」
そう言ってC.C.は制服のポケットに手を入れて小型のリモコンを取り出した。
リモコンのボタンを押すと、壁のスクリーンに別室の様子が映し出される。
「皇帝陛下っ!?」
映った映像の中では、スザクと違って拘束はされていないが明らかに黒の騎士団内部と思われる一室にいる皇帝の姿に瞠目する。
『待たせたな』
スピーカーを通して聞き覚えのある声がスザクの耳に入ってきた直後、その身分には合わない簡素過ぎるソファに腰を下ろしている皇帝の前に一人の少年が映った。
「ルルーシュ……」
自分を捕まえたのはゼロであろうからルルーシュが現れるのはおかしい話ではないのだが、皇帝とセットで映像に映るとは予測など出来るはずも無かった。
『さて、時間はたっぷりとある。俺の質問に答えてもらおうか』
ゼロに捕まり、斑鳩に連行された皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは士官室に軟禁され、ほどなくしてやってきたゼロの仮面をしていないルルーシュの言葉に無表情を以て相対する。
「母さんを殺したのは誰だ? 何故、お前は母さんを守らなかった」
C.C.経由で渡ったはずの暴走しているギアスを隠すコンタクトを失くしでもしたのか、対面の椅子に座るルルーシュは左目に眼帯をしていた。
「おかしなものよ。人には真実を求めるか、ここまで嘘ばかり吐いてきたお前が」
まさか自分で左目を傷つけたなどとは想像だにせず、シャルルは鼻を鳴らして
「俺がゼロの仮面を被ったのは、母の死の真相を知る為。そしてナナリーが安全に暮らせる世界を作る為だ。その目的の一つを叶えようとしている中で嘘を纏う必要はない」
一拍呼吸の間を置いたルルーシュは足を組んでシャルルを見る。
「母を殺した者の推測は立てていた。一つは、皇帝であるお前でさえ容易に手が出せない存在であること」
ルルーシュは右手を軽く掲げ、人差し指を立てる。
「だが、これは可能性としては低い。神聖ブリタニア帝国は絶対君主制。たとえ大貴族であろうとも皇帝の意が勝る」
実の息子すら容易に捨てた男が周りに配慮するような性格ではないはずだ。
「二つ目は、俺達親子を疎んでいた貴様自身が刺客を差し向けたという可能性だが、これもどうだろうな」
中指を立てたルルーシュは、この案にも否定的だった。
「俺達兄妹を日本に人質として送ったことを考えれば疎んでいたという可能性は否定できない。しかし、記憶の中においてお前と母の仲は良かったように思う」
子供には分からない摩擦などが母との間にあった可能性もあるだろうが、ならばルルーシュ達も母と一緒に殺してしまえば良かった。しかし、わざわざ日本に送るという面倒なことをしている。
「他国の人間等が犯人ならば、それこそ徹底的に捜査されているはずだ。だが、そうはなっていない。何故か?」
一度は上げた中指を下ろし、人差し指だけを伸ばしている状態に戻す。
「一つ目の案でしかないだろう」
シャルルはルルーシュの言葉を聞いていないかのように目を瞑っていたが、そこでようやく瞼を開いた。
「貴様の推測を言ってみるがいい」
答え合わせをするかどうかは、その推測次第と暗に込められた言葉にルルーシュは右手を下ろした。
「母さんを殺したのはV.V.だ」
「………………」
シャルルは正誤を答えず、ただ沈黙を以てルルーシュを見つめ返す。
「V.V.は俺を呪われた皇子と言った。シャルルと呼び捨てにし、母に対して明確な悪感情の言葉を吐いている」
ギアス嚮団殲滅作戦において、KGFジークフリートに乗って自ら戦いに出たV.V.は『マリアンヌの子が調子に乗っても』やジェレミアがマリアンヌの名を出した時に『お前までその名を口にするか』と言っていたことをルルーシュは覚えていた。
「お前にギアスを与えたのは自分ではないとC.C.は言った。ギアスを与えた者、ギアスが効かない不老不死の存在を容易に敵に回すわけにはいかない。ギアスという存在に深く関わるV.V.がマリアンヌを殺しても表沙汰に出来るはずがないというのもあるが」
ルルーシュにとってのC.C.がそうであるように、シャルルにとってもV.V.がそうであるならば。
「もう一度だけ聞く。マリアンヌを殺したのはV.V.だな?」
アリエス宮の警備をしていたはずのコーネリアが外されたマリアンヌが下した命令の理由も、V.V.が母を殺すほどの動機も分からない。であるにしても、最も母を殺してシャルルが捜査しない理由を持っている人間をルルーシュは他に知らなかった。
「…………今より半世紀ほど前、儂と兄さんは地獄にいた」
突如として関係のない話を始めたシャルルに、ルルーシュは何も言わずに続く言葉を待つ。
「親族は全て帝位を争うライバル。暗殺が日常となった嘘による裏切りの日々…………皆、死んでいった。私の母もその犠牲となった。儂と兄さんは世界を憎み悲しみ、そして誓った。嘘のない世界を作ろうと」
C.C.がV.V.をシャルルの最初の同志と言ったことを思い出し、ルルーシュは残った右眼を見開いた。
帝国貴族の間では、双子は忌み子として何らかの方法を以て対処されてきた歴史をルルーシュは思い出していた、たとえ皇帝といえども例外ではないのだと。
「つまり、V.V.は」
「儂の双子の兄だ」
V.V.は血縁上では叔父に当たるのだと理解したルルーシュの口からは失笑しか出なかった。
「それで、V.V.がマリアンヌを殺したことは否定しないのか」
「マリアンヌは死んではおらん」
「何?」
意味が分からないことを言い始めたシャルルに、ルルーシュは遂に頭の中身がトチ狂ったかと考えた。
「肉体は確かに死んだ」
「その言い方だと精神は死んでいないとでも言いたいのか」
問いに対して無言を以て肯定するシャルルに考えを巡らせたルルーシュは一つの答えに辿り着く。
「ギアスか」
肉体の死とは終わりを意味する。但し、時に常識を超えるギアスならば精神だけでも生き延びることは出来るのではないかと推測を立てることが出来てしまう。
「マリアンヌはC.C.と契約したがギアスは発現しなかった。資質が足りなかったのだろう。だが、肉体が死を迎えた時、初めて発動して精神だけで生き延びた」
ルルーシュは考える。考えて、もっと一番嫌な推測を思いついてしまった。
「幾らギアスでも肉体だけでは生きていけるとは思えない。まさか目撃者だったナナリーに乗り移ったのか」
「いいや、違う。ナナリーは兄さんが仕立てた偽りの目撃者に過ぎん。本当の目撃者は別にいたのだ」
新たな事実にルルーシュは視界が歪むのを感じた。
左目は治療は行ったにしても本来ならば安静にしていなければいけない傷である。痛み止めの注射を打ってまで戦場に出たルルーシュの体調は決して万全とは呼べないにしても、視界が歪んだのは怒りからだった。
「誰だ? その目撃者は」
「ルルーシュよ、お前は既にエリア11でそ奴と何度も会っておる」
「会っているだと?」
V.V.がナナリーを偽りの目撃者に仕立て上げたのならば、本当の目撃者はV.V.の関係者やテロリストなどではなくアリエス宮にいた人物となる。
母の死と妹を襲った悲劇と父から与えられたトラウマが大きすぎて、あの頃の記憶はそれらに集中していた。
落ち着いて過去の記憶を掘り起こしたルルーシュは、八年前のアリエス宮にいた一人一人の顔と日本に来てから二度以上、会った人物を重ね合わせていく。
「まさか……」
幾らルルーシュが頭脳明晰で記憶力抜群であるとしても、出会った人物全てを覚えることは出来ない。だが、たった一人だけルルーシュが皇子であったことに近づいた者がいたことを思い出した。
「ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム」
中華連邦攻略後、咲世子によって勝手にされた女生徒とのデートの約束をこなした後、アーニャに皇子時代の写真に写っているのがルルーシュなのかと聞かれた。
あの後、色んなことが重なって頭の奥に追いやられていたが、シャルルの話と合わせればルルーシュもアーニャが事件の一週間前に行儀見習いで来ていたことを連鎖的に思い出した。
「ギアスの力でマリアンヌはアーニャの中に潜んで兄さんをやり過ごした。マリアンヌは意識を表層に上げた時、C.C.と心で話すことが出来る。事実を知ったC.C.は嚮団を兄さんに預け、儂達の前から姿を消した」
肉体は死んでも、精神が生きているのならば厳密にはいなくなったわけではない。
もしもルルーシュもナナリーが同じ状態になったのならば、C.C.を害しただろうかと考えて無為な思考を放り捨てる。
「儂は兄さんと話をした。しかし、兄さんは嘘をついた。嘘のない世界を作ると約束したのに」
今度こそ本当にルルーシュは失笑した。
「母さんの精神が生きていて嘘だと分かっていたのなら、どうしてV.V.を糾弾しなかった?」
「お前達の為だ」
ギアスの力を知悉しているV.V.ならばシャルルの糾弾を否定出来ない。マリアンヌという生き証人がいたにも関わらず、糾弾しなかった理由はルルーシュ達の為であるとシャルルは語った。
「ナナリーは偽りの目撃者とはいえ、事件の核心に関わる存在だ。兄さんにとっては生きていては都合が悪い。だからこそ、全てを守る為に目撃者であるアーニャとナナリーの記憶を書き換えねばならなかった」
ルルーシュはシャルルが語る理屈を理解はした。
目が見えず、偽のテロリストによって歩けなくなったナナリーは情報弱者となり、あの慎重なV.V.でも生きていても真相には辿り着かないと判断して狙うことはないだろう。現にそうなった。
「では、俺達を日本に送ったのは」
「事件の起きたブリタニアの中枢から、儂の傍から離す為だ」
遠い異国の地に送られたナナリーには、少なくとも手掛かりを得る可能性が限りなく低くなる。仮に真相に辿り着いたとしても、シャルルに伝えるには時間がかかる。
「同時にマリアンヌの遺体も密かに運び出させ、保存させている。体さえ残っていればマリアンヌが戻れる可能性があるからだ」
シャルルの行動は一貫していた。
嘘のない世界を作るという目的の下、シャルルはルルーシュに一切の嘘を吐いていない。
「だが、計算外のことが起こった。ラグナレクの接続には不老不死のコードは一つで良かったが研究が進むにつれ、もう一つのコード。つまり C.C.がいないと100%の保証がないと分かった。マリアンヌがC.C.を説得しようとしたが上手く行かなかった」
何時しか伏せていた顔でルルーシュは嗤った。
「C.C.は全てを知っていたのか」
マリアンヌの死の真相も、ナナリーの目が見えない理由も、全てはルルーシュの空回りであることも。
分かっていて、ルルーシュの傍に何食わぬ顔でいたのだ。
「C.C.の願いは死ぬこと。そのことを知っていたマリアンヌがルルーシュ、お前のことを教えたのだ」
お前はC.C.に裏切られていたのだと思い知らせる為にシャルルは言葉を重ねる。
「お前のギアス資質は現存するブリタニア皇族の中でも恐らく随一。下手をすれば儂をも上回るだろう」
「C.C.が俺と契約したのは――」
「マリアンヌが計画し、C.C.と取引した」
ルルーシュを絶望させ、引き込むために息子を絶望の洞へと突き落とす。
「もしも、ルルーシュがC.C.の願いを叶えられないのならば儂達に協力する。そういう契約だ。この契約を、兄さんは知らないからC.C.を釣り上げる為の餌とすることに納得した」
黄昏の間でC.C.はルルーシュに向かって、お前は優しすぎると言って突き放した。ルルーシュではC.C.を殺せないと彼女は分かっていたのだ。
「俺がアッシュフォードに戻されたのも、C.C.との約束を違えない為……」
記憶を改竄してもC.C.がショックイメージを叩きこめば、思い出す可能性は高い。
黒の騎士団と行動を共にしていたC.C.がゼロを復活させる為にルルーシュと会おうとするのは不自然ではないから。
「アッシュフォードに敷いた、一見厳重な監視体制も枢木スザクや兄さんを納得させるための物。ギアスを使えば監視体制を誤魔化すのは簡単なことだ」
ゼロを捕まえたスザクや、V.V.はゼロが再び現れればルルーシュを疑うだろうが、ルルーシュならば誤魔化すだろうと信頼もしていた。
「ルルーシュがC.C.の願いを叶えられたならば、それはそれで良い。その時は全ての真相を、C.C.からコードを引き継いで不死となったお前に話し、C.C.に代わってラグナレク計画に参加させる」
「…………俺が協力するとでも?」
計画通りに打ちひしがれているルルーシュを前にしてシャルルは笑みを浮かべていた。
「お前の復讐はナナリーとマリアンヌの為。しかし、マリアンヌは死んではおらず、日本に送ったのも護る為だと知った。それでも、お前はこの儂を仇と憎むか?」
全ては親心であったのだから憎めるはずがないとシャルルは確信していた。
「………………」
俯いたまま顔を上げることが出来ないルルーシュは言葉を返さない。
「ナナリーを失い、C.C.に裏切られ、真実を知った今、救われるにはラグナレクの接続を果たすしかない。ユーフェミアもナナリーも望んでいた優しい世界を作るのだ」
言葉を返せないだのだろうと踏んで、何もかも無くしたルルーシュを引き込もうとする。
「ブリタニアと黒の騎士団の戦いですらC.C.を誘い出す為のものに過ぎなかった。俺は初めから世界の
ルルーシュが今まで築き上げてきた全ても、為して来たことも、積み上げて来た犠牲も何もかもが無駄でしかなかった。
「一つだけ聞かせろ。母さんもお前と同じ考えなのか?」
「無論だ」
ここが重大であると確信しながら、声が大きくなり過ぎないように努める。
「ラグナレクの接続が成り、アーカーシャの剣が神を殺せば、死んだ人とも一つになれる。ユーフェミアやナナリーとも、もう一度話すことが出来よう」
「そうか……」
言ったルルーシュの肩が断続的に揺れる。
「…………ククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」
ルルーシュは嗤っていた。全身を震わせ、左目の眼帯の下から血の涙を流して哂っていた。
「滑稽だな! 下らない! ああ、下らないな!!」
心底おかしいとばかりに笑うルルーシュに、シャルルは追い込み過ぎて精神が壊れたかと思った。
「戯言はそれでおしまいか?」
「何だと?」
ルルーシュは壊れてなどいない、悟ったのだ。
「俺達を守る為に日本に送ったと言ったな。なら、なんで日本とブリタニアの戦争を止めなかった? あの情勢で俺とナナリーが日本でどのような扱いを受けるか、戦争が起これば巻き込まれて死んでもおかしくないと分かっていたはずだろう」
人質として送られたのならば、開戦と同時に見せしめとして処刑されてもおかしくはない。結果的には死ななかったにせよ、死んでもおかしくない状況にルルーシュ達があったのは誰の目にも明らか。
「計画を優先したお前達は、もう俺達が生きていようと死んでいようと関係なかったんだ。だから捨てた。自己満足の言い訳だけを残して」
「違う!」
「自分で言ったことだろう! 死んだ者とも一つになれると! 生きている人間を見ようとしていない!!」
立ち上がったルルーシュは否定しようとしたシャルルに指を突きつける。
「未来はラグナレクの接続、その先にある。ナナリーの言った優しい世界は」
「違う! お前達が言っているのは自分に優しい世界だ!でも ナナリーが望んだのはきっと他人に優しくなれる世界なんだ……」
シャルルと絶望的にまで分かり合えない感性にルルーシュは肩を深く落とした。
「始めから、間違っていた」
どれだけ言葉を尽くそうとも、思考を読めなくともルルーシュの気持ちを欠片も理解していないシャルルの顔を見て改めて決断する。
「スザクの言う通り、俺という存在が間違っていたんだ。世界にいるべきではなかった」
ブラックリベリオンの時、神根島で対峙したスザクに言われた言葉がルルーシュという根幹に響き渡る。
「これで未練は捨てた。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはここで死んだのだ」
ルルーシュの個人としての想いは、戦う理由は無くなった。
それでもルルーシュが為してきた罪は消えないのだから、ユーフェミアとナナリーが求めた世界を作る為には仮面を被って嘘を突き通すしかない。
「俺は、他の誰でもない」
仮面を被ると同時に個人を捨て去る。
シャーリーが死に、ナナリーを失い、ギアスを捨て去ったルルーシュに残っていた柵は消えた。ここにいるのは、ゼロという記号。個人の想いなど抱かず、ただ弱者の味方としてある者。
「私は、ゼロだ」
最後までシャルルはルルーシュを理解できなかった。
『私は、ゼロだ』
ルルーシュは仮面を被り、二度と外すことはないだろう。それは枢木神社でスザクが望んだことだったはずだ。
「なんだ、あれは……」
映像がプツリと途切れた後、傷ましい姿にスザクの口から知らずに言葉が漏れる。
「ルルーシュの成れの果てだ」
その表情は悲しそうで、今にも泣きそうなほど哀しそうで、だがルルーシュを追い込んだ責任の一端を間違いなく担っていたC.C.には何も言えなかった。資格がなかった。
「シャルルが言ったように、私はルルーシュを利用していた。全てを知っていながら私自身の死という果実を得るためにあいつが生き残ることだけを優先して……」
「…………後悔を?」
そしてスザクもまたルルーシュを追い込んだ一人であった。寧ろルルーシュをゼロに押し込んだ原因とも言える。
「まさか、私は永遠の時を生きる魔女。捨てたんだ、人間らしさなんか…………私に出来るのはあいつを見届けることだけだ」
追い込んだC.C.の言葉はルルーシュには、ゼロになった彼にはもう届かないのだから。
「もう、あいつは迷わないだろう。世界の為に、弱者の為に、戦い続ける」
見届けることしかC.C.には出来なかった。
「お前は、どうする?」
黒の騎士団に捕まったスザクに出来ることは、そう多くない。
「俺は――」
スザクもまたルルーシュを追い込んだ責任を果たさなければならなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
なんとか黒の騎士団を振り切って神根島に向かったシュナイゼル・エル・ブリタニアは自分が後手に回ってしまったことを痛感する。
「皇帝陛下がゼロに捕まった、と」
「はい……」
撤退した斑鳩は黒の騎士団本体に合流し、容易には手が出せない中で式根島の基地で生存者から報告を纏めたカノンより聞いたシュナイゼルはアヴァロンの天井を仰いだ。
「間違いないのかい?」
叶うならば嘘であってほしいという願いは叶うことはない。
「クルシェフスキー卿から聞いた話では、陛下はヴァルトシュタイン卿と共に神根島に降りていたようです。そしてゼロの蜃気楼の反応があったと」
グレートブリタニアが撃墜され、重傷を負いながらも生きていたナイトオブラウンズの一人であるモニカ・クルシェフスキーから聞き取った内容を伝える。
「ヴァルトシュタイン卿の手は発見できましたが、状況から見ても亡くなられたと思われます。陛下は神根島をくまなく捜索しても発見できませんでした。死亡した痕跡も見られないとすれば」
「捕まったと考えるのが自然か。枢木卿も?」
「恐らく」
「…………厄介だね」
考え得る中でもかなり悪い状況に陥っている今にシュナイゼルは嘆息を漏らしていると、ピーピーと音が鳴った。
「どうしたの?」
「黒の騎士団から通信文が送られてきました」
「こちらに回してくれ」
「了解しました」
シュナイゼルが頼むと、手元の端末に黒の騎士団から送られて来た通信文が表示される。
「これは……」
隣で通信文を見たカノンが絶句する。
「アッシュフォード学園で会談を望むか。皇帝を人質に取られては致し方ないね」
シャルルをブリタニア国民が英雄皇帝として称賛しているからこそ、シュナイゼルは難しい会談になると予測していた。
「カノン、コーネリアに連絡を。ナナリーの説得を急がせてくれ」
ルルーシュの変遷を知る由もないシュナイゼルは、もう一度通信文に目を戻して思考に耽るのだった。
ルルーシュを引き込めばギアスを使って黒の騎士団からも抜け出せると考えたシャルルだったが、ルルーシュをゼロに押し込む最後の一助となったようです。
このルルーシュ=ゼロはもう迷わないし、個人の情を抱くこともない。その資格もないと自分を断じている。
はたしてシュナイゼルの策は効果があるのか?
ところで、アーニャって生きてるのか。神根島に向かってて、紅蓮にやられちゃったかも。