コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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STAGE1 過去からの刺客

 

 

 ルルーシュがイケブクロにやってきたのは、来たる決戦に向けて準備の為である。

 ギアスのこともあって直接出向いた目的を早々に終え、後はアッシュフォードに帰るのみというところで枢木スザクと共にいるシャーリー・フェネットを見つけてしまった。

 アッシュフォード学園の級友なので二人が共にいてもおかしくはない。ただ、ナイトオブラウンズであるスザクが一ブリタニア国民でしかないシャーリーといるのには邪推をせずにはいられない。

 

(どうしよう。スザク君を呼び出してみたけど、何を言えば。ルルもいるし)

(シャーリー、どういうつもりだ? 誘ったのはスザクの方か?)

(リヴァルは、ルルーシュがずっと日本にいたと言っていた。機情の報告も白だと証言しているのにも、何故僕は信じられないんだ?)

 

 共に歩きながらも、その心の内は互いの真意を探り合う三者三様の思惑が重なり合っている。

 

(言わなくちゃ、スザクくんに。ルルはゼロで、お父さんの仇なんだから……)

 

 自国の敵であるゼロ=ルルーシュをナイトオブラウンズであるスザクに伝えることが当然の状況。

 しかし、ルルーシュがいてはそれも出来ないシャーリーが心の中で煩悶している間に、三人は駅の屋上に出て嘗て東京と呼ばれていた場所を見渡せる場所に立っていた。

 

「境界線だな、ここは」

「租界とゲットー。でもなくしてみせる、何時か」

 

 ブリタニアが牛耳る租界と、イレブンと呼ばれている日本人が多く暮らすゲットーを見ながらルルーシュとスザクがそれぞれ言った。

 二人の会話とも言えないような一方通行な言葉に、シャーリーは最悪の想定をしていないことに気付いた。

 

(はっ!? 待って、この2人が共犯だったら…………エリア11を日本に戻すために。そうよ、2人は昔からの親友で)

 

 昨日から急に降って湧いたような様々なことがシャーリーの思考を悪い方悪い方に持って行く。

 忘れてはならないこと、忘れるはずがないことを思い出したシャーリーを襲う欺瞞という仮面が剥がれ落ちる音が背後から二つ聞こえた気がして、肩をビクリと震わせて後ろに立っている二人の方に振りむいた。

 

「どうしたんだ、シャーリー」

 

 普通ではないシャーリーの様子にルルーシュが一歩二歩と近づく。

 反対にシャーリーは後退り、ルルーシュの足が仮面を踏み潰した錯覚を真実として認識した。

 

「いやっ!?」

 

 嘘と仮面と欺瞞に満ちた世界に恐れを為したシャーリーは走り出した。

 少しでもルルーシュやスザクから離れる為に、中心部にいる二人から反対の端の方へと。

 女性としては背が高い方のシャーリーの腰の位置にある塀に手を付いて、スカートを履いているのに気にせずに体を引き上げる。そのまま塀の上に立って振り返ると、ルルーシュとスザクが慌てた様子で駆け寄って来ていた。

 

「シャーリー!」

「来ないで! 嘘つき!」

 

 シャーリーが後退りながら叫ぶと二人は刺激すると落ちかねないと認識してピタリと足を止める。

 

「みんな偽物のくせに!私は……」

 

 誰もが嘘というの名の仮面を着けている。

 恐ろしい。何が本物なのかも分からず、少しでも二人から遠ざかろうとしていた後退っていたシャーリーの足が踏み場を失った。

 

「あ!?」

 

 ルルーシュはシャーリーがバランスを崩した瞬間には既に走り始めた。

 予想だにしていなかったスザクが目を見開いていて行動が遅れた瞬間には、塀に足をかけていた。そのまま、塀の向こうに身を躍らせてしまったシャーリーを追って最後の一歩を蹴る。

 その瞬間のルルーシュに論理的な思考など無かった。落ちていくシャーリーの腕を掴んだ自分もまた助かるまいという考えすらも浮かばないほどに。

 

「くっ」

「うっ……」

 

 ルルーシュがシャーリーの手を掴んだ瞬間、ルルーシュの足を行動が遅れながらも異常な身体能力のスザクが塀から身を乗り出して掴む。

 幾らスザクといえども片手だけで二人分の体重を支えるのは辛い。

 

「ぐぅ」

 

 右手で掴んだシャーリーの手を決して離すまいと、左手でもしっかりと持つ。その瞬間、シャーリーが恐怖に閉じていた目をゆっくりと開いた。

 

「はっ!?」

 

 目を開ければ下まで数十m近くあり、落ちればまず命はないという状況を理解する。

 自分がとんでもないことになっていることを自覚して生唾を呑み込み、今も落ちないように掴んでくれている手を見上げれば、そこには必死な顔をしたルルーシュがいた。

 

「いや! 離して!離して!」

「だめだ!離さない!」

 

 特にルルーシュから離れる為に条件反射で動いていたシャーリーは暴れて手を離させようとするが、必死な声に動きを止める。

 

「俺はもう、失いたくないんだ。何一つ失いたくないんだ、シャーリー……」

 

 今まで聞いたことのない声、見たことのない表情に嘘はなかった。嘘はないとシャーリーは直感した。

 

「うん」

「スザク!」

「うっ……くっ」

 

 この手は信じられると思ったシャーリーが左手が手を掴むと、ルルーシュがスザクに呼びかけて徐々に引き上げられていく。

 やがて引き上げられて九死に一生をえて、塀に凭れかかって息を整えるルルーシュとスザクを見たシャーリーは一年以上前のことを思い出していた。

 

「ねえ、前にもこんなことあったよね。ほら、二人がアーサーを捕まえようとして」

「ああ、そういえば」

「たしかにあったな。そんなことが」

 

 疲れているというのもあるだろう。

 学園内ならばともかく、学園外で会ったからは碌に会話もしようとしなかった二人が僅かに目を合わせ、雰囲気も和やかだった。

 

「引き上げる役は何時もスザクくんだね」

「ルルーシュが上だったら、二人とも落ちてるよ」

「体力バカが。そこまで言うんだったら、落ちる前に助けろ」

「無理言うなよ。あっ」

 

 しかし、和やかな雰囲気も長続きしない。

 笑っている自分に気付いたスザクが目を逸らし、そんなスザクにルルーシュもまたそっと目を逸らした。

 

(違う。一人なんだ…………ルルは)

 

 流れを見ればスザクがルルーシュを嫌っているように見える。

 そして偽りの弟ロロ・ランペルージ、皇族だとかでエリア11の総督になっているナナリーのこと。少なくともシャーリーにはルルーシュが一人でいるように思えた。

 

「あっ」

 

 何を言うべきか、何を聞くべきなのかシャーリーが決められない中で携帯電話の着信音が鳴った。

 

「ああ、ごめん」

 

 シャーリーでもスザクでもない。一言断ったルルーシュが立ち上がり、着信に出る為に二人から離れて行く。

 

「大丈夫、シャーリー? ケガとかしていない?」

「うん、ごめんねスザク君」

 

 同じように立ち上がって遠ざかっていくルルーシュの背中を見ながら話しかけてくる厳しい面持ちのスザクの顔を見て、やはりルルーシュは一人なのだとシャーリーは強く感じる。

 

「何かあったのかい? 友達からの電話ってわけじゃなさそうだけど」

 

 それほど長い時間会話せず携帯電話を切ったルルーシュに向かって歩み寄るスザクの頭に軽くチョップを入れる。

 

「ダメだよ、スザクくん。親友でもプライバシーっていうものがあるんだから」

 

 頭を抑えて振り返ったスザクの鼻先に指を突きつける。

 

「あ、ああ、ごめん」

 

 鼻先に指を突きつけられたスザクは心持ち顔を後ろにそらしながら謝る。

 

「そういえば、二人で待ち合わせしてたんだよな」

「ヤキモチ焼いてくれた?」

 

 少し予想外なシャーリーの返しに、ルルーシュは前会長であるミレイ・アッシュフォードの命令とはいえ付き合っている仲だということを思い出したルルーシュは頬を指で掻く。

 

「少しな」 

「……っ!?あ、ありがとう、ルル」

 

 予想外の返答に、自分で振っておきながら逆に恥ずかしくなったシャーリーは頬を染める。

 

「待ってくれないかな、先に……」

「ごめんね、スザク君」

 

 電話の相手を知りたいスザクの機先を制して謝ったシャーリー。

 

「実はルルとの交際記念に何か贈ろうと思って、スザク君にプレゼントを選ぶのを手伝ってもらおうと思って呼んだんだ」

 

 本当は全然違う理由なのだが、明らかに電話の相手はゼロと敵対しているはずのスザクが知るのはまずいと直感したシャーリーは嘘をついた。

 

「本当はサプライズで渡そうと思ったけど、スザク君といるとルルがヤキモチ妬いちゃうからルルに選んでもらうね。わざわざ呼び出してごめん」

 

 スザクの横を通ってルルーシュの腕を掴む。

 

「さあ、行きましょう、ルル」

「あ、ちょ、ちょっと……」

「スザク君にもお詫びの品を買ってくるから楽しみにしててね」

 

 スザクは空気が読めないところがあるが、流石に恋人になった二人の邪魔をするほど野暮ではなかった。

 

「…………ルルーシュのギアスは同じ人間には二度使えない。だから、シャーリーにギアスは使えないはずだ」

 

 結局、二人を見送ることしか出来なかったスザクは屋上に残って一人で考える。

 シャーリーの変貌とギアスを結び付けることは出来ない。交際しているのにイマイチ好意を表に出さないルルーシュに精神が不安定になっていたのだと結論付けるしかなかった。

 

(スザクの追及を避けることは出来たが、ここは戦場に成る。シャーリーの安全を考えればベストな選択とは言えない)

 

 アッシュフォード学園に現れたジェレミア・ゴットバルトの目的がルルーシュであるのは確実で、シャーリーから離れて安全を確保するのがベストである。

 

(どうする? ジェレミアがここに来る前に準備を整えておきたいがシャーリーがいては)

 

 シャーリーの安全もあるがジェレミアにギアスが効かないことを確かめる準備もしておきたいが、ベッタリと張り付かれていてはそれも出来ない。

 

「ルル、何か心配事?」

 

 方策を考えていると、腕を抱えたままのシャーリーが顔を覗き込んで来る。

 

「いや、なんでもない」

「嘘」

「嘘じゃ……」

「だって、こんなに人気のない所に来てるのに全然気づいてないんだもの」

 

 言われてルルーシュが辺りを見渡せば、最上階のエレベータホールの前にいて二人以外には誰もいない。

 反論できないルルーシュから腕を放して離れたシャーリーが二、三歩離れて向き合う。

 

「ねぇ、ルルはゼロだよね」

「っ!?」

 

 動揺でルルーシュの指先がピクリと動いた。

 

「何を言ってるんだ、シャーリー。俺は」

「私、全部思い出した」

 

 一拍大きく呼吸をしたシャーリーにルルーシュは続ける言葉を持たなかった。

 

「ルルがゼロであることも、お父さんを巻き込んだこと、そして私の記憶を消したことも全部」

 

 今度こそルルーシュは動揺も隠すことも出来ずに目を見開いた。

 理由は分からない。ルルーシュの絶対遵守のギアスは余程下した命令に不服を抱かなければ反抗することすら出来ない強力な力である。しかも、仮に抵抗できたとしてもやがては屈服する。

 シャーリーの記憶はルルーシュのことに関して一度完璧に消している。その後、皇帝によって記憶を弄られたとしても、消された記憶が復活する兆候はなかった。

 

「そうか……」

 

 としか、ルルーシュは返せなかった。

 先程の自殺未遂は記憶が戻ったことで混乱したのだと理解が及び、ここに来てその告白をする理由がルルーシュを糾弾する以外には考えられなかった。

 

「私ね、記憶が戻って凄く怖かった」

 

 そう理解したルルーシュは肩から力を抜いた。

 シャーリーは散々ギアスに翻弄されて来た。肉親を失い、騙され、記憶を消され、記憶を弄られた。ルルーシュを断罪する材料は幾らでもあったから、その資格は十分にある。

 

「偽物の先生、記憶のない友達…………みんなが嘘をついてる。世界中が私を見張ってるような気がして」

 

 そこでシャーリーは声のトーンを変える。

 

「ルルはこんな世界で一人で戦ってたんだね、たった一人で。だから私は、私だけはルルの本当になってあげたいって」

 

 一度は広げた距離を自分で縮め、頭をルルーシュの胸にトンと当てた。

 ドクンドクン、とルルーシュの早い心臓の鼓動が奏でる確かな生きている証をシャーリーは全身で不思議と感じ取っていた。

 

「シャーリー……」

「私、ルルが好き。お父さんを巻き込んだって分かってても嫌いにはなれなかった。ルルが全部忘れさせてくれたのに、それでもまたルルを好きになった。記憶を弄られてもまた好きになった。きっと、生まれ変わっても…………これって運命なんだよ」

 

 顔を上げたシャーリーの頬を赤らみ、目は潤んでいた。 

 

「私も仲間に入れて。私もルルを守りたいの」

「…………駄目だ」

「なんで? 私はルルの幸せを取り戻してあげたいだけなの。ナナちゃんだって、一緒に」

「気持ちは嬉しい、本当だ。でも、ダメなんだ」

 

 否定の言葉は小さかった。ルルーシュの近くにいたからシャーリーは数多の悲劇に見舞われて来た。今でさえ危険が多いのにもっと近くにいて失ったらルルーシュは正気を保っていられる自信が無い。

 

「俺は罪に塗れている。敵も多い」

 

 ユーフェミアを撃ったあの時からルルーシュは修羅の道を行くと決めた。後戻りなど出来るはずもない。する気も、ない。

 

「シャーリーに何も与えることが出来ない」

 

 過去が原因でルルーシュにとって、愛とは与えるものであり、得るものではない。

 

「私はルルの傍にいれればそれでいい」

 

 愛とは無償であり、打算ではない。利益ではない。損得ではない。シャーリーの愛に余分な物は何一つとしてなかった。

 

「一人になんかさせないから、一人で戦わなくていいんだよ」

 

 触れられた手の優しさにルルーシュは意味も無く泣きたくなった。

 母が生きていた遠い過去には与えられていたであろう愛が胸に痛い。

 

「ラブロマンスはそこまでにしてもらおう」

 

 絆されかけたルルーシュの頭が第三の者の声によって引き戻される。

 ルルーシュがシャーリーを背後に庇いながら慌てて振り返ると、階段から大柄な男がゆっくりと上がって来ていた。

 

「ジェレミア・ゴットバルト……っ!?」

「然り」

 

 チラリとルルーシュがエレベーターを見ると、電光掲示板はこの階ではなく大分下の階にいることを示していた。階段はジェレミアの背後にあり、逃げる場所はない。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」

 

 シャーリーの前で使ってはならないと考える前に、彼女の安全を守る為にはギアスが効かないと分かっていても使うしかなかった。

 

「どけ!」

「――――私に、ギアスは効かない」

 

 特殊なコンタクトを外して行使した絶対遵守のギアスは、ジェレミアの顔面の左側を覆うマスクの目元部分が開いた後、その効果を発揮しなかった。

 

「やはりギアスが効かない……っ!?」

「それだけではない。解除する力もあるぞ」

 

 ルルーシュ達がいる場所は十分に効果範囲内。一度閉じた目元部分が広がり、ギアスキャンセラーを発動させる。

 

「…………何の変化もないということは、その少女はギアスにかかっていないようだな」

 

 ジェレミアはルルーシュに守られているシャーリーを見る。昨日、知らずにシャーリーのギアスを解除していることを知る由もない。

 

「そうか、お前がシャーリーのギアスを」

 

 反対にシャーリーの記憶が戻っている原因がジェレミアにあると悟ったルルーシュの頭は脱出方法を模索している。

 

「この子には何の関係もない。見逃してくれ」

「ルル……っ!?」

「欲しいのは俺の命だろう、ジェレミア・ゴットバルト。誇りあるブリタニア貴族が、まさか自国民を害するはずがない」

 

 ジェレミアがギアスキャンセラーを手に入れたのはギアス嚮団であり、その刺客として送り出された。それ以外にルルーシュには情報が無いからシャーリーを守る為に自分を差し出す以外になかった。

 

「否」 

 

 シャーリーが何を言っているのかとルルーシュの肩を掴んでいるのを無表情で見ながら、ジェレミアは否定を叩きつけた。

 

「今の私は敗残兵に過ぎない。オレンジという嘘で私を陥れ、戦闘中行方不明MIAとなり、軍籍も残っていない。そうしたのは貴様だ、ゼロ」

 

 ギアスという呪われた力を使ってジェレミアを貶め、誇りを穢した憎き敵の名はゼロ。ルルーシュが扮する存在であるとV.V.から聞かされていたジェレミアには確かめねばならないことがある。

 

「問わねばならぬ、ゼロ…………いや、神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに」

「え?」

 

 ジェレミアが語った身分とその名が示す物に気付いたシャーリーが目を見開いてルルーシュを見る。

 当のルルーシュは苦々しい表情で何も言えない。

 

「ルルーシュよ。お前は何故、ゼロを演じる? 祖国ブリタニアを、実の父親を敵に回す?」

 

 問いに答えなければシャーリーも逃がす気は無いと、不動とも思える太い足でジェレミアは立ち塞がって退路を断っている。

 シャーリーを逃がす方法を見つけない限りは時間稼ぎをするしかない。 

 

「ブリタニアが間違っているからだ」

 

 この問いに答えないわけにはいかなくなり、ルルーシュはたとえシャーリーに嫌われようとも本心を語った。

 

「俺の父ブリタニア皇帝は、母さんを見殺しにした。その為にナナリーは目と足を奪われた。たとえブリタニアに戻ろうとも何の力もない俺達ではまた政治の道具にされるだけ。今のブリタニアが存在する限り俺達に未来はない」

 

 一度あったことに二度目がないとどうして言えるのか。

 

「マリアンヌ様のことは私も良く知っています。私もアリエス宮におりましたから」

「何っ?!」

「初任務でした。敬愛するマリアンヌ皇妃の護衛。しかし、守れなかった。忠義を果たせなかったのです」

 

 悔し気に唇を噛み締めるジェレミアを見つつも、ルルーシュは安易には信じることは出来なかった。

 この場では真偽を確認する術はない。だが、母の死を惜しんでいる男を安易に否定もまた出来ない。

 

「ルルーシュ様、あなたがゼロとなったのはやはりマリアンヌ様の為であったのですね」

 

 敬称までつけてルルーシュを呼んだジェレミアが、仕えるべき主を見い出した騎士の如く膝をつく。

 ジェレミアの取った姿勢の意味を、元とはいえ皇子であったルルーシュが知らないはずがない。信じられないとばかりに目を見開いたルルーシュは震える唇を開く。

 

「お前は、俺を殺しに来たのではなく」

「私の主君は、V.V.ではなくマリアンヌ様です」

 

 ジェレミア・ゴットバルトが純血派を名乗ってエリア11で辣腕を振るっていたのは有名であったが、あそこまで純血派となって日本に厳しかった理由にも納得がいった。

 公的にはルルーシュ達は戦争のドサクサに死んだことになっている。日本側もブリタニア側も責任を相手に押し付けているが、死んだことにされたことは間違いはなくブリタニア軍人であったジェレミアが自国の言うことを信じるのが普通だった。

 

「あの時、日本に送られるお二人に無理にでも同行すべきだったと深く深く後悔していました」

 

 軍務として見送ることしか許されなかったジェレミアはずっと悔いていた。

 

「今度こそ、ルルーシュ様に忠義を貫くことをお許し下さい」

 

 たとえ祖国に背くことになろうとも、自分を陥れた相手であろうとも、ジェレミアの忠義は一欠けらも揺るぎはしない。

 

「俺は……」

 

 猜疑心が強いルルーシュは忠誠を誓われようとも、そう簡単にジェレミアを信じられるはずがなく罠だと言われた方がよほど納得する。

 

「ルル、この人が言っていること嘘じゃないと思う」

 

 しかし、それを言えばシャーリーだって同じだ。

 彼女の父を殺し、ギアスの争いに巻き込んで記憶を消し、ルルーシュに近かったから記憶を弄られたにも関わらず、赦した彼女を受け入れようとしておいてジェレミアだけを拒絶する理由はない。

 安易に信じるわけではない。この場においてはシャーリーの安全を優先して、内心で警戒は解かないまま思考を決着させる。

 

「…………分かった。貴公の忠節を受け入れよう、ジェレミア卿」

「はっ、有難き幸せ!」

「だが、まだ全面的に信用したわけではないぞ。信用してほしくば」

「行動で示して見せましょう」

「なら、いい」

 

 ルルーシュの肩から力が抜けたのを感じ取り、シャーリーも一息をついた。

 

「素直じゃないね、ルルは」

「悪かったな」

 

 自覚はあるルルーシュの横を通って未だ跪いたままのジェレミアの前に立ったシャーリーが手を差し出す。

 

「私は騎士とかじゃないけど、これからは仲間になるんですよね。よろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む」

 

 シャーリーの手を取りながらもスクッと立ち上がったジェレミアは二人の近い距離感を見て、「いや」と訂正を入れた。

 

「ルルーシュ様の恋人ならば未来の妃。お名前を聞かせて頂いても」

「え? あ、えっと、そんな妃なんて……」

 

 気を利かせ過ぎたジェレミアに体をシャーリーが恥ずかしさからクネクネと身をくねらせる。

 

「兄さん!」

 

 そんな最中に屋上のヘリポートに降りて急いで救援に駆けつけたロロが現れ、どう見ても敵対していない場に動きを止めて目が点になった。

 

「…………どういうことなの、兄さん?」

 

 ルルーシュとジェレミアがいるにしても、シャーリーがいるとは予想もしていなかったロロの声が自然と低くなる。

 

「ジェレミアとシャーリーが仲間になった。詳しくはアッシュフォードに戻って話そう」

 

 ジェレミアからギアス嚮団の話も聞かなければならず、シャーリーの状況もロロ達に伝えなければならないルルーシュは重く深い溜息を漏らすのだった。

 

 

 




シャーリー生存√ではロロに撃たれたシャーリーは、√2ではルルーシュと行動を共にしていたのでそのような機会は訪れず。

この後のシャーリーの行動

1.黒の騎士団に入る
2.ルルーシュにギアスをかけられて忘れる
3.現状のままである
4.現実は非情だ。ロロに殺される

答えは次話『第二話 嚮団対策会議』にて

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