コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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ナイトメア・オブ・ナナリーのキャラを次回辺りに入れようかなと行動していたら大分遅れました。

さて、前話後のシャーリーの今後の答え合わせ。

1.黒の騎士団に入る
2.ルルーシュにギアスをかけられて忘れる
3.現状のままである
4.現実は非情だ。ロロに殺される

答えは1.です。




STAGE2 嚮団対策会議

 

 

 世界で最も注目されている人物であるゼロが立ち上げた黒の騎士団の旗艦である斑鳩には艦長を任された南佳高にも入れない部屋があった。それこそがゼロの私室である。

 入室の許可が出されているのは主であるゼロを除けばたった二人、今は神聖ブリタニア帝国に捕まっている紅月カレンと最もゼロに近いC.C.だけである。にも関わらず、その部屋にはゼロであるルルーシュを含めて五人の人物がいた。

 

「随分とまた増えたものだな」

 

 C.C.はブリタニアに居場所を秘す必要があるのでこの部屋で暮らしている。ここまで人が増えた例の無いこの部屋の先住民のようなC.C.にとって千客万来のような状況だが、流石に自堕落な恰好を見せられるほど女を止めていないのでインナーの上に黒の騎士団の制服を着ていた。

 

「放っておけ」

 

 この部屋の名目上の主であるルルーシュは自身が連れて来た者達と協力して、C.C.が食べ捨てたピザの空き箱や紙コップを片付ける。

 

「兄さん、この本はどこに直すの?」

「後で俺が直しておくから本棚の前に置いておいてくれ」

 

 C.C.が暇潰しに読んだ後に片付けるのが面倒になって床に放り捨てられていた本を抱えたロロに指示を出す。

 

「僕が直すのに……」

「C.C.がピザを食べた後のベタベタな手で触っていないか確認しなければ気がすまん」

「ルルは変なところでマメだよね」

 

 掃除機をかけているシャーリーが呆れと感心を滲ませつつ、流石に吸い切れない大きさのゴミを拾い上げる。

 

「ルルーシュ様、纏めたゴミはどう致しましょうか?」

 

 シャーリーが拾い上げたゴミを自身が持つゴミ袋に入れてもらいつつ、分別まで指示して徹底させているルルーシュの庶民慣れに若干の悲しみを覚えていたジェレミアは気持ちを表に出さないまま聞く。

 

「後でC.C.に出させる。掃除はこれでいい。さあ、座ってくれ」

 

 掃除を一切しないC.C.にも役目を振る名采配に一人感心するジェレミアを残して、ルルーシュは集まった者達に着席を促した。尚、C.C.はゴミを自分で出せと言われて物凄く嫌そうな顔のまま先に座っていた。

 

「…………何故、誰も座らない?」

 

 促したのにC.C.以外の全員が自分に注目して一向に座ろうとしないので、ルルーシュは気まずさを覚えて視線が下がった。

 

「「ルル(兄さん)が座ったら……っ!?」」

 

 明らかにルルーシュの隣に座る気満々なシャーリーとロロの言葉が重なり、二人は顔を見合わせて視線が一瞬バチッと弾けた。

 二人が熱を迸らせている理由を分かっていないルルーシュが助けを求めてC.C.を見る。

 

「ジェレミアは座らないのか?」

「騎士が主君より先に座ることなどありえぬ」

 

 C.C.はジェレミアに話を振っていてルルーシュを助ける気は無かった。寧ろ面白がって二人のバトルを眺めている。

 

「分かった。座ろう」

 

 自分が座らなければ話も出来ないので、ルルーシュは入り口から見て左側の長椅子の真ん中に座る。

 

「「む」」

 

 途端に隣を座って確保したシャーリーとロロは、ルルーシュを挟んで火花を散らす。

 滅多に見られないルルーシュを中心とし愁嘆場にC.C.がクツクツと喉の奥で笑う。

 

「こんなので良く斑鳩まで来れたものだ」

「…………蜃気楼でも、あの調子で少しだけ疲れた」

「お前もとことん苦労性だな」

「ルルーシュ様の為ならば、どんな地獄であろうとも天国と変わらぬ」

 

 そこまで言ったジェレミアですら『少し疲れた』と表現するほどなのだから、その苦労が偲ばれるが他人を労わる気持ちを殆ど持ち合わせていない魔女は大して同情しなかった。

 

「確かシャーリー・フェネットだったか」

 

 対面の長椅子に座っているC.C.は遠目に見たことは何度もあるが、こうやって面と向かって話をするのは初めてだったはずなので確認の意味を込める。

 名前を呼ばれたシャーリーがロロから視線をC.C.に移す。

 

「はい、これからよろしくお願いしますC.C.さん」

 

 曇り無き眼と笑顔を向けられたC.C.は心持ち顔を逸らした。

 長き時を生きる魔女にはシャーリーの裡から溢れ出る光は目に毒なのであった。

 

「それは黒の騎士団に入るということか?」

「勿論です。ルルの傍にいるって決めましたから」

 

 なんとなく話の流れ的に自分が聞かなければならないような気がしたC.C.に追撃が入った。

 

「おい、ゼロ」

 

 割とノックアウト寸前のダメージを受けたC.C.は据わった眼でルルーシュを見据える。

 

「シャーリーの記憶が戻った。理由はジェレミアのギアスキャンセラーだ」

 

 ニコニコのシャーリーと黒い雰囲気のロロに挟まれたルルーシュの無表情を装いながらの説明になっていない説明に、C.C.の顔から表情が消えたのを隣に座って見たジェレミアが口を開く。

 

「ギアス嚮団によって改造されて与えられたギアスキャンセラーの力をV.V.の命令で何度も使っていたのだが、恐らくその時に効果範囲に入ったのだろう」

 

 忠義の人であるジェレミアはたとえ主君の情けない姿を見ようとも失望することはない。

 美人と言って差し支えないC.C.にギロリと睨み付けられても揺るがない、それが騎士である。

 

「つまりはV.V.の刺客と?」

「奴が私の主君であったことなど一度としていない」

 

 所詮は偽りの忠誠であるのだからルルーシュの真意を知って鞍替えすることに良心の呵責は覚えない。

 

「シャーリーはルルーシュ様の大切な人である。守るならば身近にいてもらった方が有り難い」

 

 シャーリーの意向を汲んでいないわけではないが騎士たるジェレミアにとって守護とは直接的に身辺を守ることにある。

 様呼びに恐縮したシャーリーの意向も汲んでいるジェレミアは騎士たる本懐を果たさんと静かに燃えていた。

 

「まあ、別に私はいいんだが」

「良くありません」

 

 たとえシャーリーが黒の騎士団に入ろうとも、別に部下を持っているわけでもないC.C.に大きな影響はない。少々、普通の少女の眩しさに目が眩むぐらいのものなので実害は少ないが、絶対反対を標榜するほどではない。

 しかし、ただでさえ自分以上にルルーシュに近づこうとしているシャーリーを疎ましく思っているロロには歓迎できる状況ではない。

 

「兄さんはゼロとして疑われているのに、シャーリーさんを黒の騎士団に入れたりなんかしたらボロが出る可能性が高くなる。そんな危険は冒すべきじゃない」

「機密情報局は既に掌握している。ヴィレッタが上手くやるだろう」

「あの女がそこまで信用できますか?」

 

 現状でも割と危ない橋を渡っているのだ。ルルーシュが言ったヴィレッタもジェレミアがアッシュフォード学園に現れた際に助けを求めた前歴があるだけに信用に欠ける面があるとロロは見ていた。

 

「こっちには脅しのネタがあるんだ。ヴィレッタも馬鹿じゃない」

 

 記憶を失っていた間とはいえ、黒の騎士団副司令の扇要と懇ろな関係になっていた過去はより上の爵位を求めているヴィレッタの足枷となる。

 

「だとしても、仮にシャーリーさんが黒の騎士団に入るとしても何をするんですか? 大したことは出来ないでしょう」

「うぅ、否定できない……」

 

 一高校生でしかないシャーリーが、既にテロリストの域を超えて軍隊の領域に達している黒の騎士団に入っても出来ることは少ないだろう。特にトップであるゼロの身近にともなれば皆無である。

 当の本人であるシャーリー自身にもロロの言葉は否定出来る要素を見つけられない。

 

「C.C.の部下…………いや、上司にしてC.C.の面倒を見てもらうか?」

 

 ルルーシュと違って体力に自信はあれど一般的な少女でしかないシャーリーの出来ることを考えたルルーシュは絶賛混乱中である。

 まさか後から入って来た少女が直属の上司になるなど、現在の地位に頓着しないC.C.でも看過できない案件であった。

 

「アホか、寝言は寝てる時に言え!!」

「良い案だと思ったんだが」

「最悪、シャーリーはそれでいいとしても、ジェレミアのことはどうするのさ」

「………………」

 

 後から入って来た者がトップの依怙贔屓で上司になるなど御免蒙るC.C.の叫びに気圧されているルルーシュにロロが更なる追撃を放ち、どんな立場に甘んじようとも主君から離れる気のないジェレミアの不動の体が視界の中でズンと根を張っていた。

 

「同時期にブリタニア人が入団して、片方が生粋の貴族の上に元純血派のリーダーだなんて、もう片方にも何かあると普通は考えるよ」

 

 それこそギアスを使うしか周りを納得させる方法はないほど、シャーリーの立場は不安定になる。

 蜃気楼のコクピットで火花を飛ばしあったとはいえ、純粋にルルーシュに傷ついてほしくないロロなりの精一杯の気遣いであった。

 

「む、そうだな」

 

 入団するという結果ありきで話が進んでいたので、そこまで頭が回っていなかったルルーシュも考え始めれば別の問題にも気づいて眉を顰める。

 

「嚮団のこともある。ジェレミアを刺客として送った以上、次の刺客が送られる前にこちらからアクションを起こすべきだ」

 

 ジェレミアの言からするにV.V.も今のゼロが明確にルルーシュであるという証拠は掴んでいない。

 しかし、先代のゼロは間違いなくルルーシュであったから、たとえ今のゼロであったとしても最も脅威なギアスが効かないジェレミアならば容易に近づけると考えたのだろう。

 

「俺個人の意見ではあるがジェレミアが傍にいてくれるのは有難い」

 

 皇帝の手元にギアスユーザーがいない保証はないので、ギアスキャンセラーを持つジェレミアの存在は代え難い。

 何よりもまだジェレミアに全幅の信頼を寄せれていないので監視の意味もある、敢えて口には出さないが。

 

「「()は?」」

「では、問題を順番に片付けていくとしよう」

 

 自分はと言う二人から目を逸らして言ったルルーシュは右手の人差し指を立てる。

 

「嚮団が、というよりもV.V.はジェレミアを刺客として送った。これは間違いないのだな?」

 

 C.C.の隣に座るジェレミアに視線を向け、問いかける。

 

「ゼロが中華連邦に手を伸ばしたのは嚮団本部攻略の足掛かりにする為ではないかとの懸念があったようです」

「俺がゼロだという確信までには至ってはいないようだな」

「限りなく黒に近いグレーというところでしょうが。ですが、ルルーシュ様をアッシュフォードに戻した皇帝陛下の意向を無視することは出来ず、明確な証拠が無ければ行動に移すことはないと思われます」

「ジェレミアがこちらに付いたのならば報告があるまでV.V.は動かないとして、タイムリミットはそう長くはない」

 

 決して良くはない状況にルルーシュは難しい顔をして考える。

 

「嚮団の場所は?」

「場所から通信回線まで全てこちらに」

 

 元ブリタニアの軍人であるジェレミアの用意は確かだった。

 ジェレミアが懐から出した地図と秘匿回線の暗号が書かれた紙を受け取ったルルーシュは、こんなに簡単にいってよいものかと考えながら事前にロロから聞いていた地点からの予測場所に嚮団の本拠地があることを確認した。

 

「防衛戦力は無きに等しいので、黒の騎士団でも制圧は難しくはないでしょう」

「今は部隊を動かせん。俺達だけでやるべきだ」

 

 黒の騎士団は合衆国構想の為にブリタニアと陣取り合戦をしているような状況である。

 ゼロの直下である零番隊ならばルルーシュの命令だけで好きに動かせるが、嚮団の制圧作戦に参加させるのはあまりよろしい事態とはいえずにルルーシュは難しい顔をする。

 

「幾ら嚮団が研究機関とはいえ、非戦闘員は多いぞ。ギアスを知っているのはここにいる者を除けば、後はカレンだけだ。こんな少数で制圧するのは恐らく不可能だ」

 

 ルルーシュとしてはギアスの力を余人に知られたくはないので、ここにいる面子だけで済ませてしまいたい。しかし、先代の嚮主であったC.C.の時代からして非戦闘員の数は多かったのだから、今代のV.V.が極端に減らしているとは思い難く、ルルーシュの案はとても賛成できない。

 

「だがな、C.C.。どうやってあいつらを説得する?」

「それこそお前の仕事だろう」

 

 一応、C.C.も明確な役職はないが黒の騎士団幹部の扱いになっている。だとしても騎士団員の説得その他はゼロが行った方が手っ取り早い。

 

「ただでさえ、ブラックリベリオンでのことや単独行動が多い俺に疑念を持っている奴がいるはずなのに、ブリタニアとの決戦を前にして可能な限りマイナス要素を作りたくない。特に星刻辺りに疑念を持たれたら厄介だ」

 

 だからといって黒の騎士団に掛かりきりになれば皇帝に気付かれる恐れがあるので単独行動は止められない。

 

「結局、どうするんですか?」

「…………当初のプランを修正する」

 

 ロロの問いにルルーシュは初心に返ることにした。

 

「元々、嚮団は皇帝との戦いに利用するつもりでいた。それもV.V.を排除した後の話だったが」

 

 V.V.以外の嚮団員の説得は先代嚮主のC.C.に任せるつもりでいた。

 何らかの方法でV.V.を捕まえた後はC.C.に嚮団員を説得させ、説得できなければルルーシュのギアスで従わせるつもりだった。

 

「ある程度の情報流出は諦める」

 

 一刻の猶予も無いというほどではないが、今は拙速が求められる。結果を得る為には妥協は必要だった。

 

「それはギアスのことを知られても構わないと?」

「俺に繋がらなければ問題はない。嚮団を手の内に収め、V.V.を抑えることが出来ればリスクに見合ったリターンは十分に得られる」

 

 ロロのような暗殺に特化したギアスはそうないとしても、これから迎える本格的なブリタニアとの戦いを前にして背中を気にしたくはない。

 目の前の敵ブリタニアに集中できるリターンに対して、正式な命令として黒の騎士団を動かしてギアスを知られるリスクはあまりにも不透明ではあった。

 

「本部の場所と情報を俺が手に入れたのはジェレミアからの情報提供があったと黒の騎士団を誤魔化せる。人体実験をするような施設だ。正義の味方としての大義名分はある」

 

 ジェレミアが仲間になる理由も違和感を失くせるとルルーシュは信じていた。

 

「オレンジ疑惑の発端のゼロを頼るって思うのかな」

 

 ゼロと関わったばかりにスパイ容疑をかけられ、人生が転落したジェレミアのことを一ブリタニア国民として知るだけにシャーリーは少し懐疑的だった。

 

「ゼロに頼るほどブリタニアにされた仕打ちに恨みがあるとも言える。これもまた俺がどう言うかだな」

 

 ジェレミアの顔を見れば明らかに普通ではない過程を辿って来たのだと分かる。

 

「作戦目標が人体実験を行う中華連邦にあるブリタニアの施設だと分かれば星刻も動かざるをえんだろう」

「しかし、どうやってジェレミアがお前まで行き着いたことにするんだ」

「……………」

 

 ゼロは正体不明。その仮面の内側を知る者はいないとなっているので、C.C.の言うことは尤もだとルルーシュは沈思する。

 

「カレンがいたアッシュフォードにやってきて、外部協力員だったシャーリー経由で俺の下まで話が来たことにしよう」

「その時に嚮団から追っ手がかかっていて私が黒の騎士団の外部協力員だったことにして、安全の為に本部任務にしたことにすればいいんじゃない?」

 

 このままシャーリーとロロの話はうやむやにするつもりだったルルーシュの思惑を裏切るかのようにシャーリーが妙案を思いついてしまった。

 これに、C.C.が感心した顔をした。

 

「カレンはゼロの右腕だ。リスクを負ってでも助け出そうとしたことは幹部なら誰でも知っている。そのカレンの学友で仲間ともなれば不審に思う者も少ないかもしれないな」

「C.C.ぅゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」

「私は一般論を言っているだけだ。そう怒鳴るな」

 

 ルルーシュ自身も納得してしまいそうになった案をC.C.が半ば賛成してしまった形に叫ばずにはいられなかった。

 

「私がいたら迷惑?」

「い、いや、そういうわけではないのだが……」

 

 太腿に手を乗せて身を乗り出したことで無意識に少しだけ胸を腕に触れさせながらのシャーリーにルルーシュはタジタジである。

 

「迷惑だってはっきりと言ってやったら、兄さん」

 

 女の武器を意識的に使っているわけではないが自分の領分を侵そうとしているシャーリーに、この泥棒猫がと言わんばかりにロロが据わった眼をしていた。

 

「モテモテだな、ルルーシュ」

 

 騎士であるジェレミアは語らず、騎士ではないC.C.は二人の間で視線を彷徨わせているルルーシュを揶揄った。

 

「黙れ、魔女」

 

 返したルルーシュの言葉には力が無く、その目は泳いでいた。

 

「…………シャーリーに関してはさっきの案で良いだろう」

「ルルっ!」

「兄さん!?」

 

 喜ぶシャーリーとは反対に怒るロロ。

 

「ロロもシャーリーと同じように黒の騎士団の外部協力員という形にする。カレンが戻って来た時に説得しなければならんが俺も手伝うからシャーリーも頼む」

「それはいいんだけど」

 

 と、ルルーシュからようやく体を離したシャーリーがロロを見る。

 

「ロロってルルの血の繋がった本当の弟じゃないのよね」

 

 皇帝に与えられた偽りの記憶はジェレミアのギアスキャンセラーで消されたとはいえ、共に過ごした記憶が消えるわけではない。ルルーシュにナナリーという本当の妹がいることを思い出したので、シャーリーもロロとどう接したらいいか分からずに少し困惑していた。

 

「だとしても、僕は兄さんの弟だよ」

 

 シャーリーの存在はロロにとって不愉快でしかない。どうにもルルーシュがシャーリーのことを遠ざけないことも苛立ちを積み重ねていた。

 出来るならば殺してしまいたいくらいないのだが最愛のルルーシュの手前では出来ない。

 

「ロロは皇帝、というかV.V.が俺の監視の為に派遣した偽りの弟だ」

 

 ルルーシュとしてはボロ雑巾のように使い倒してから殺すつもりだったがシャーリーがいるとそれも難しい。悩ましい問題だった。

 頑迷なロロとルルーシュの二人の顔を見たシャーリーは思案気に人差し指を顎に当てた。

 

「じゃあ、ナナちゃんとロロが結婚したら万事解決?」

 

 その瞬間、ロロの脳裏に稲妻が落ちた。

 

「っ?!?!?!?!?!?!?!?!」

 

 ロロだって馬鹿ではない。ルルーシュがナナリーに向ける愛が自分以上であることは承知しているし、だからこそ隙を見つけて彼女を殺せばその愛が自分に向けられると疑いもなく信じていた。

 ナナリーはルルーシュと唯一同じ血を共にしている。この事実は曲げようもない。しかし、家族という枠は必ずしもそうではない。

 

「僕の目が曇っていました、シャーリー…………いえ、これからはお義姉さんと呼ばせてください!」

 

 ナナリーは女でロロは男である。そして世の中には夫婦という制度が有り、ブリタニアや日本でも変わらない。

 唯一の愛を向けられる対象では無くなるが、合法的に義理とはいえ弟に成れる機会がここにあったとロロの目は晴れた。

 

「そんな、気が早いわよ」

 

 ルルーシュの義弟になったロロに義姉と呼ばれる状況などシャーリーとルルーシュが結婚した場合しかありえない。照れ照れと頬を赤くしながらもまんざらではないシャーリーに、なんとなく外堀が埋められるているような気がしたルルーシュだった。

 

「順調に外堀を埋められているな」

 

 揶揄うC.C.と違ってジェレミアはやはり黙して語らず。

 

「雑談はそれまでにして、ルルーシュ様」

 

 黒の騎士団に入る予定が同じとはいえ、個人的感情ダダ洩れのロロとシャーリーと違って大人なジェレミアは一歩下がって主君の状況を見ていた。

 

「黒の騎士団をブリタニアと戦えるほどにまでの巨大にするにしても、ゼロの正体を知るのがここにいる者とあの紅蓮のパイロットだけというのは少なすぎます」

「ルルーシュの身元を考えれば仕方なかろう」

 

 世界の半分以上を支配するブリタニアと戦うには黒の騎士団も相応に巨大になる。トップの座は変わらないだろうゼロの正体を知る者が片手の指の数で足りるというのは万が一の事態を考えれば良くないとC.C.も分かっていたが、ルルーシュの出自を思えば仕方のない面があると諦めていた。

 

「元とはいえ敵国の皇子がトップでは間違いなく瓦解するぞ」

「何も全員に知らせる必要はない。受け入れてくれそうな者はいないのですか?」

 

 最後はルルーシュに向けられた問いである。

 

「現状では黒の騎士団の主である日本人がいません。可能ならば二人、最低でも一人は味方に付けておいた方が良いと思われます」

 

 ロロはここにいる面子を見た。見事に日本人から見たら外国人ばかりであった。

 シャーリーはカレンのことを思い出した。どちらかといえばブリタニア寄りの顔立ちである。

 

「俺の最終目的はナナリーと共に平和な日常で過ごすことだ。正体を知られては面倒なことになる」

「何かあった際に味方になってくれる日本人がいないのはリスク管理的によろしくありません。正体を知っても配慮し、黒の騎士団内で権力を持っていてルルーシュ様に理解のある大人はいないのですか?」

 

 ゼロの所為で一度明確に失敗しながらも、完全には部下に切り捨てられることのなかった過去を持つジェレミアの助言であった。

 ルルーシュは自分で仮面を脱いで正体を見せることの出来た桐原泰三の有難さがよく分かった。危機管理の意味でもジェレミアの言うことは真っ当だったのでルルーシュは真剣に考える。

 

「口が堅く、権力があるとするならば藤堂辺りか」

 

 玉城真一郎は最初から除外で考え、他人に追及されても言わないであろう人物を大人で限定すると、ルルーシュの脳裏に真っ先に浮かんだ顔が奇跡の男と呼ばれている藤堂鏡志朗であった。

 

「八年前、直接の面識はないがスザクを通して俺のことも聞いていたはずだ。ゼロになった事情を話せば分かってくれるかもしれない」

 

 桐原との接点もあったとの話だから、そちら経由でルルーシュ達のことを聞いている可能性も高い。

 藤堂は実戦部隊の主を担っている。中華連邦を引き込み、実戦の場からは離れているルルーシュと違って現場に出ているので下の者とも近い。ゼロに対する印象も手に入れやすいだろう。

 

「奇跡の藤堂ですな。実直な男であると聞いています。話をしてみる価値はありましょう」

 

 一年前のまだ軍人だった頃の資料で藤堂のことを見知っていたジェレミアも反対はしなかった。

 

「他には誰かいますか?」

「大人となると扇辺りだが……」

「少し不安だな。あいつは人が良すぎる」

 

 扇の長所でもある人の良さは、時に短所にも成り得る。黒の騎士団内においても人の良さで知られている分、何かの時に標的にされやすい危険もあったので避けることにした。

 

「後は、大人ではないが神楽耶だな」

「珍しい名前が出たな。いや、そうでもないのか?」

 

 権力を持っていることには変わりないが、ルルーシュの口から扇を押し退けて信用出来るかもしれない面子の中に入って来たことにC.C.も驚く。

 

「ゼロの妻だとか言ったことに絆されたか」

「ルル……」

「待て、誤解だ。あっちが勝手に言っているだけに過ぎん」

 

 C.C.の揶揄いに慣れてしまったルルーシュが嫉妬しそうになったシャーリーを押し留める。

 ロロは状況を見極めている。

 

「神楽耶とは昔に面識がある。向こうが覚えているとは限らんが」

 

 八年前、初めて日本に来た時に登らされた石畳の階段の上で、鳥居の下にいた枢木ゲンブの後ろに隠れるようにして立っていた神楽耶のことをルルーシュは覚えていた。

 抜群の記憶力を誇るルルーシュと比べて年少だったのと、数日しか枢木神社にいなかった神楽耶が覚えている保証はないが。

 

「その二人にギアスを使ったことは?」

「ない。最悪、ギアスで忘れさせればいいか」

 

 候補は二人、藤堂と神楽耶と決めてこの話は終わりである。

 

「藤堂に俺のことを話して、さっきのカバーストーリーを話して協力を得るとしよう」

「話が矛盾しませんか?」

 

 ロロの言う通り、ルルーシュの状況を話した後ではカバーストーリーのおかしさに気付くだろう。何せゼロであるルルーシュが同じアッシュフォード学園の学生なのだから。

 

「ギアス以外のことは、真実を話すつもりだ。どうせなら徹底的にこちら側に引き込みたい」

 

 シャーリーの黒の騎士団入りを止められない流れの中で、最悪の場合に彼女を守ってくれる人材が必要だった。

 もしも黒の騎士団が分裂してルルーシュの敵と成れる求心力があるとすれば、人柄の良さで扇が担ぎ上げられて藤堂が軍を動かすか、星刻が動くかの二択である。

 星刻は天子の一件で早々裏切るとは考え難く、あるとすれば前者。藤堂を味方に引き込めば、彼の人柄を考えれば最低でもシャーリーの安全は確保できる。

 

「藤堂の反応次第で神楽耶に話すかどうかも決める。藤堂が受け入れてくれれば、俺と藤堂の二人で嚮団のことを星刻に話す。ひとまずはこれで行く」

 

 最後はルルーシュが方針を決めて話し合いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、C.C.さん」

 

 早速、藤堂にアポイントメントを取ったルルーシュはゼロとなり、ジェレミアを連れて部屋を出て行った後、ロロは部屋の隅に纏められている本をパラパラと捲っている中でシャーリーがC.C.に話しかけていた。

 

「さんなどいらん。C.C.と呼べ」

 

 様、と呼ばれたことは何度もあるし、まだアッシュフォードにいた時にナナリーにさん付けされていたがそれはそれ。

 

「じゃあ、C.C.。お願いがあるんだけど」

「順応力高いな、お前」

「私もシャーリーでいいよ。じゃなくて」

 

 相手がOKしているんだからと素直に応じたシャーリーに少し驚くC.C.は続く言葉を待った。

 

「黒の騎士団って女の子の制服は肩だしなの?」

 

 割とどうでもいい質問にC.C.の肩は落ちた。

 

 

 




ゼロの正体がブリタニア人の学生で、過去見知ったルルーシュと知った藤堂の取る行動は?

1.ゼロを倒してブリタニアとの取引材料にする
2.1をしようとしてギアスで忘れさせられる
3.あまりの衝撃に思考停止したものの理解を示して受け入れる
4.思考停止の後で朝比奈に相談しようとしてジェレミアに殺される

答えは次回にて。

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