コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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1.ゼロを倒してブリタニアとの取引材料にする
2.1をしようとしてギアスで忘れさせられる
3.あまりの衝撃に思考停止したものの理解を示して受け入れる
4.思考停止の後で朝比奈に相談しようとしてジェレミアに殺される

答えは3.でした。




STAGE3 嘘と本当と

 

 

 大事な話をするならば通信ではなく直接話した方が良いと、ジェレミアの助言を受け入れたルルーシュはサウジアラビアへとやってきていた。

 藤堂達が泊っているホテルを訪れたルルーシュは仮面の内側で目を丸くしていた。

 

「千葉と二人で泊っているのか?」

 

 案内された室内には二人が過ごしていた形跡があり、成人した男女が同じ部屋にいる意味を理解していたルルーシュは思わず問いかけていた。

 

「資金が無限にあるわけではないから節約の為だ。千葉には申し訳ないが」

「い、いえ、そんな私は藤堂さんと一緒なら……」

 

 そんなの後はゴニョゴニョと口の中だけで言った千葉をチラリと見て、藤堂の言い分を素直に受け取ることにしたルルーシュは案内されるままにソファの一つに座る。その後ろには影のようにジェレミアが付き従っていた。

 

「忙しいところにすまない。今日は藤堂に話があって来た」

「話というのは君の後ろにいる男について、でいいのか?」

それ(・・)もある」

 

 もう存在しない日本解放戦線のメンバーだった藤堂は純血派のリーダーだったジェレミアのことを知っていた。

 

「それも、か」

 

 ゼロの秘密主義は今に始まったことではない。

 仮面の中身だけに留まらず、性別すらも不明な人物を前にして藤堂はベッドの端に腰を下ろす。

 

「神楽耶様をお呼びしたのも同じ要件だと?」

「説明の手間は少ない方が良い」

 

 効率的なゼロらしい物言いではあるが問題は人選である。

 

(扇ではなく俺を選んだのには何か理由があると見るべきか)

 

 藤堂は黒の騎士団でも人望・知名度の両方があるが、ことこういう秘密事を打ち明けて味方になってもらうとするならば人の良い扇要の方が適任であるはずだった。

 そうしないのならば、相応の理由があるのだと内心で推測しながらゼロの後ろに立つジェレミアを見た。

 

(生粋のブリタニア貴族が敵である黒の騎士団トップの傍で控えるなど、最もありえないことだがあの顔を見るにそのあり得ないことが起きる理由があったのだろう)

 

 左目辺りを覆う機械的なマスクと歩く姿から感じた左半身の違和感のことを考えれば、ゼロの傍にいる理由に幾つかの可能性が浮かび上がる。

 藤堂が思考の海に沈んでいると、千葉が部屋のドアを開けてやってきた神楽耶を迎え入れる。

 

「わざわざお越し頂き感謝する、神楽耶様」

 

 藤堂に遅れてソファから立ち上がったゼロが呼び出した当人らしく頭を下げる。

 

「夫がお呼びとあれば世界のどこにでも駆けつけますわ」

 

 入室する前からニコニコと笑顔な神楽耶がゼロの直ぐ近くまで歩み寄った。あまりに近い距離感にゼロが神楽耶から身を離しながら自身が座っていたのとは別のソファを勧める。

 相手に不快感を与えない動作の自然さに慣れを感じた藤堂はゼロの評価を内心で修正する。

 

「誰も彼もが忙しい身だ。話は手早くするとしよう」

 

 この部屋にはソファは二つしかない。一人掛けのソファに座るのはゼロと神楽耶の二人で、ゼロの後ろにジェレミア、神楽耶の後ろに藤堂と千葉が控える。

 

「このジェレミアを黒の騎士団に加えたい」

「…………ゼロ様の望みであるならば喜んで叶えたいところですが」

 

 まだルルーシュがゼロとして立つ前からキョウトの一人としてエリア11にいる重要なブリタニア人のリストの中に純血派であったジェレミアのことを知悉していた神楽耶は、チラリとゼロから視線を上げて明言はしなくとも分かる『否』を返す。

 

「ジェレミアの能力は既に知っていると思うが」

 

 ルルーシュとてジェレミアのことを持ち出せば反対意見の一つや二つあって然るべきと考えていたが、基本的にゼロの言うことには反対しない神楽耶の反応を見れば想定は甘すぎたということなのだろう。

 

「能力では無く、何を為して来たかが問題だ」

「何かしらの事情があっただろうということは察するのですけどね」

 

 厳しい面持ちの藤堂の後に少し困り顔の神楽耶が続け、千葉が口を開ける。

 

「大体、そこのオレンジにはゼロに復讐する理由はあれど仲間になる理由はないはずだ」

 

 ジェレミアを挑発する意図もあったのだろう。僅かに体に力を入れている藤堂と千葉を見ながら、至極尤もな理屈にルルーシュは仮面の内側で苦笑する。

 

「理由ならある」

 

 最初からギアスのことを話すつもりはなく、事実を繋ぎ合わせて脚色した物を話すつもりだった。その為にルルーシュはゼロの仮面に手をかけた。

 ゼロが何をしようとしているのかを察して三人が目を剥く中、後ろに立つジェレミアの前で素顔が白日の下に晒される。

 

「………………成程、そういうことでしたか」

 

 白皙の美貌の青年を目の当たりにした神楽耶は今までの疑問が氷解したかのように納得気な表情を浮かべていた。

 

「どういうことです、神楽耶様? 彼のことを知っているというのですか」

「随分と昔、ほんの数度だけ会いました」

 

 改めてルルーシュの顔を見た神楽耶は、記憶に今も深く焼き付いている紫の瞳を見据える。

 

「八年前…………そう、もう八年も前になるのですね。今でも昨日のことのように覚えています、あの暑い夏の日のことを」

 

 ただ登るだけでも大変な石畳の階段を神楽耶と変わらない年頃の妹をたった一人で背負った紫の瞳の少年を忘れるはずがない。

 

「まだ幼かった神楽耶様が覚えているとは驚きです」

「藤色の目をした鬼のことを忘れるはずがありませんわ」

 

 二人の間だけで通じる話題に乗ることが出来ない藤堂を見たルルーシュは答え合わせすることにした。

 

「俺の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。マリアンヌ皇妃が長子にして、八年前に帝国により捨てられし皇子だ」

 

 ルルーシュの本名と神楽耶と八年前に会っていること、帝国により捨てられた皇子という単語を脳裏で繋ぎ合わせた藤堂も答えに辿り着いた。

 

「そうか、だから桐原公はゼロを認めたのか」

 

 藤堂の推測通りだとするならば様々なことに納得がいく、後一息でランスロットごとスザクを殺せた機会で撤退した理由にも。

 

「ど、どういうことですか?」

 

 ルルーシュと直接会ったことのある神楽耶や面識はないが近い位置にいた藤堂と違って、何ら接点のない千葉には推測を立てることは出来ても理解が追いつかない。

 

「八年前、日本にブリタニアの皇族が留学していたことは知っているか?」

「そういえば、そんなこともあったような……」

 

 当時既に緊迫していた外交状態もあって大々的なニュースにはならなかったので、ルルーシュ達が住んでいた枢木神社の近くに住む者達以外で知っている者は限られる。

 

「留学など所詮名目上に過ぎない。実際は人質だった」

 

 そこら辺の詳しい事情までは話す気の無いルルーシュは要点を纏める。

 

「元皇族であり、ブリタニアに捨てられた過去がある。つまり、俺にはブリタニアを恨む理由があるということだ」

「それがゼロになった理由……」

「の、一つでもある」

 

 千葉とは違ってある程度はルルーシュのことを知悉している二人は眉一つ動かすことはなかった。

 

「ナナリー総督、ですね」

「ええ」

 

 神楽耶の問いではなく断定にルルーシュは静かに頷く。

 

「彼女が表舞台に出て来た時、キョウトが監禁していたなどという事実はありえないので、もしやルルーシュ様はどこかで生きているのではと思っていました」

 

 流石に神楽耶もルルーシュがゼロその人であったなどとは予想も出来ていなかった。

 

「ブリタニアの発表は事実無根。八年前から一年前まで俺とナナリーは一緒にいました」

「一年前というと、ブラックリベリオンの時に戦線を離れたのは」

「ナナリーがブリタニアの手の者に誘拐されたからです」

 

 今のところ、ルルーシュは何一つとして嘘を言っていない。

 

「追ったもののスザクに捕まり、皇帝の前に引き出されて記憶を弄られ、この地に戻された」

 

 言いつつ、シャルルのギアスを受けた右目をそっと抑える。

 

「記憶を?」

「信じられない話なのも無理はない」

 

 ギアスのことを話せないので、ここからは辻褄合わせの嘘が混じる。

 

「強力な催眠術のようなものらしい。恐らく俺にかけられたのは『皇族であること』『ゼロであること』、そして『妹がいること』を忘れさせられた」

 

 神楽耶はともかくとして、あまりにも非科学的なことに藤堂と千葉の顔には容易に信じることは出来ないと書いてあった。

 

「事実、俺は記憶を弄られてゼロであったことを忘れて馬鹿な学生をやっていた。記憶を取り戻したのはバベルタワーの一件でのことだ」

「ゼロが再び世に出て来た時のことか。しかし、ゼロほどの男を記憶を弄れるかどうかは別にして放っておくのか?」

 

 コクリ、と頷いて話を続ける。

 

「無論、機密情報局という部署が俺を常時監視していた。監視役を懐柔し、情報局のトップの弱みを握って支配下に置いているから直ぐにブリタニアにバレる心配はない」

「懐柔や弱みを握るなど、出来ているのか?」

「藤堂の疑念は尤もだ」

 

 大分、ゼロ=ルルーシュの今までの行動に納得がいっていたが、監視の人員は厳選されているはずで容易に懐柔したり弱みを握ることは不可能なはずだった。

 

「妹の代わりとして、監視役は俺の弟として身近にいた。が、家族の愛に飢えていたことで簡単にこっちに転げ落ちたよ。トップの弱みは意外なところで手にすることが出来た」

 

 それが扇がこの場にいない理由でもある、と続ける。

 

「どういうことだ? 扇がどう関係する?」

 

 藤堂が分からないのも無理はない。ルルーシュも独力では辿り着けなかった。

 

「ヴィレッタ・ヌゥ…………ブラックリベリオンの時に扇を撃った女だ。一時期、事情があって扇と関係があったらしい」

「聞き覚えのある名です。確かジェレミア卿と同じ純血派の」

 

 神楽耶の問いに近い言葉を向けられても、ジェレミアは黙して語ろうとはしない。が、今の場では沈黙こそが肯定を意味していた。

 

「ヴィレッタはゼロの正体を突き止めた功績で男爵位を得たが、一時とはいえ黒の騎士団幹部と通じた過去は消せない。折角手に入れた地位を捨てるよりも、俺に従う道を選んだ」

「正に外道の行いですね」

「軽蔑しますか?」

「いいえ、流石はゼロ様、ルルーシュ様ですわ」

 

 人の弱みに付け込むのは悪いことではなく、弱みを見せることが悪いのだと権力者である神楽耶は良く知っている。

 どちらかといえばゼロに不審を抱いている千葉は神楽耶のようにルルーシュの言うことを全面的に信じることは出来なかった。

 

「しかし、やはり信じられない。記憶を弄ることなど出来るはずが」

「ユーフェミア」

 

 ルルーシュが口にした日本人にとっての忌み名に千葉の口から続く言葉が止まった。

 

「副総督になる前はただの学生に過ぎなかったユーフェミアが突然、虐殺を指示したことをおかしいとは思わなかったか?」

「まさか、あの虐殺はユーフェミアの意図するものではないというのか」

「あの時、俺はユーフェミアの、ユフィの手を取った。おかしくなったのはその直後だ。何かに抗う素振りを見せた後、会場に戻って虐殺を始めた」

 

 ただ、発端のギアスのことだけは避けて推測の余地を残す。

 

「話を戻そう」

 

 ギアスのことを話せたら楽だろう。

 ルルーシュの罪を告白できたのなら楽になれるだろう。

 だが、まだだ。ナナリーを取り戻せるその日が来るまでは、ルルーシュは舞台から降りるわけにはいかないのだから。

 

「ジェレミアは俺が日本に来る前に少しだけ付き合いがあった。だからこそ、オレンジの合図で一度だけ俺達を見逃すという契約を交わした」

 

 ゼロが初めて世に出た事件、もう一人の当人であるジェレミアがこの部屋に入って初めて口を開く。

 

「私はルルーシュ様の母君であるマリアンヌ皇妃に忠誠を捧げていた。しかし、護ることは出来ず、この日本に送られたお子方にも何も出来なかった負い目があった」

 

 忠誠を誓った主君の為ならばどんな嘘であろうとも吐くことが出来るジェレミアの言葉が朗々と語られる。

 

「純血派を結成したのも、今度こそ皇族を守り抜く為。ナンバーズは皇族にとって不穏分子になりかねなかったからな………………枢木スザクの容疑が固まった段階でルルーシュ様から接触が有り、クロヴィス殿下を殺したのは自分だとも仰られた。ならば、後は私が泥を被ればいいのみ」

 

 主君の為ならば泥を被っても構わない騎士の在り方に、侍足らんとしている藤堂はジェレミアの理屈に理解できるところがあったのだろう。小さく頷いた。

 

「その後は敵としてナリタで戦い、敗れた私は戦闘中行方不明MIAの認定をされた最中、とある機関に移送されて体を勝手に改造された」

 

 ギシリ、とジェレミアの強く握られた拳が音を立てる。

 

「勝手に体を改造したブリタニアが憎む敵となった以上、亡き主君の子であるルルーシュに付くというか」

「今度こそ忠義を貫く。私が言えるのはこれだけだ」

 

 藤堂を敬愛する朝比奈辺りと話が合いそうだな、と千葉は内心で思いつつ、ジェレミアが純血派として日本人にやってきたことを許せるわけではないが味方になろうという理由に納得した。

 

「神楽耶様」

 

 ジェレミアに大きく共感できる藤堂が神楽耶の横に回って跪いた。

 

「日本人としてはジェレミア卿のやったことは許せるとは言えません。ですが、この忠義に関しては信じれる物と思います」

「…………黒の騎士団は弱者の味方であり、如何なる差別もしません。過去の行いを完全に問わないというのは難しいでしょうが信頼に値すると私も感じました」

 

 これから黒の騎士団はもっと大きな組織になる。過去の遺恨など腐るほどあり、その一つ一つに拘っていては纏まれる者も纏まれないことを神楽耶は知っていた。

 

「ですが、一部の者達から厳しい目を向けられるのは避けられないでしょう。味方となるのならば黒の騎士団として相応しい対応を求めます」

 

 ジェレミアをして、神楽耶ほどの齢で清濁を合わせ飲める者を見たことは殆どいない。

 

「寛大な処置に感謝します」

 

 混じりけの無い敬意と感謝と形に現す為、頭を軽く下げて胸元に手を当てた。

 

「神楽耶様、ジェレミアを受け入れてくれたこと私からも感謝します」

「黒の騎士団の理念に従ったまでです」

 

 ルルーシュからも改めて感謝を捧げられた神楽耶は少し気恥ずかし気に笑った。

 

「さて、ここからが本題となる」

 

 神楽耶が落ち着いたのを見計らい、ここまでが盛大な前振りであったので本題に入る。

 

「今までのは本題ではないと?」

「俺は正体を明かす気は無かった。が、事情が変わったのだ」

 

 本題と事情が密接に関わっていることを暗に示しつつ、ルルーシュは渇いていた唇を舐めて湿らせる。

 

「ジェレミアが再び俺と接触してきたのは、とある組織の刺客としてやってきたからだ」

 

 その意味を反芻した千葉が目を見開く。

 

「まさかゼロに戻ったことを気取られた?」

「正確にはその疑いをかけられている」

 

 ゼロは黒の騎士団の生命線であり、現在構築中の超合集国構想の中軸を担う存在である。如何に危ういバランスで成り立っている存在かを強く認識した千葉がゴクリと唾を呑み込んだ。

 

彼奴(きゃつ)にもルルーシュ様がゼロであるという明確な確証があったわけではなかろう。だが、あれほどのことを早々出来る者はルルーシュ様を置いて他にいない。だからこそ、ゼロに恨みのある私を刺客として送り、確証を得たかったと見ている」

 

 その存在を見知っているジェレミアが嫌悪も露わに続ける。

 

「ルルーシュ様に仕えると決めた以上、裏切ることに何ら良心の呵責は感じんが一度でも刺客が送られたということが重要なのだ」

「ゼロがルルーシュ様である限り、何度でも疑いをかけられると」

「その度に刺客を向けられては、これから確実に起きるブリタニアとの戦いに差し障りを来たす恐れがある」

 

 神楽耶達にもルルーシュ達が懸念していることに辿り着いた。

 

「ジェレミアの協力で、その組織と首魁の居場所は判明している」

「先手必勝、ということだな」

「話が早くて助かる」

 

 二人の話からして、ゼロ=ルルーシュを疑っているのはジェレミアを刺客として送った組織のリーダーであると察しがついた藤堂がその意を汲み取った。

 

「話では単なる研究機関に過ぎないようだがブリタニア本国に俺の正体を伝えられる前にケリをつけたい」

「そういうことなら俺の部隊で」

「いや、気持ちだけで十分だ。敵の居場所は中華連邦にある。星刻に話を通せば、向こうが戦力を出してくれるだろう。後は零番隊がいれば対応出来るはずだ」

 

 お前達に頼みたいのは別のことだ、とルルーシュは少し気まずげにゴホンと咳払いをする。

 

「ジェレミアがやって来た時に外部協力員にも俺の正体を知られてしまった。以前からの知己であったから引き込むことは出来たが」

 

 奇跡の男に相応しい威圧を放っていたルルーシュが年相応の少年の顔で言い難げに頭を掻く。

 

「学生に過ぎない彼女は俺の為に黒の騎士団に入ると言って聞かない。もし、俺の正体がバラされた時に味方はいなくなるだろう。その時、彼女を守ってほしい」

 

 ルルーシュは今まで誰にも本心から頭を下げたことはない。

 そのルルーシュが小さくとも確かに頭を下げた。

 

「その方はルルーシュ様にとって大切な方なのですね」

「…………ああ」

 

 頭を上げて問いに一瞬顔を歪めたルルーシュは、話題の張本人であるシャーリーがこの場にいれば小躍りしそうな返答を返す。

 

「この場合、三人官女ではなく四人官女になるのでしょうか?」

「は?」

「こちらの話です」

 

 大分前にC.C.とカレンにした話を思い出した神楽耶は笑って誤魔化し、後で必ず会ってみようと心に決める。

 

「その方を守ることを皇の名に賭けて確約します。藤堂さんもよろしくて?」

「断る理由は、ありませんな。千葉もいいな」

「はい」

 

 未だに衝撃の事実の連続を受け止めきれているとは言えない千葉であったが、ルルーシュが言ったようにその外部協力員の少女が本当にただの学生だったのならば守らない理由はない。

 

「感謝する」

 

 全てはルルーシュの掌の上のお話だったというだけ。今更、一つや二つの嘘を吐いた程度で罪悪感を感じるような細い神経をしていない。

 ただ、少しだけ小さな小さな針がルルーシュの心に突き刺さるだけのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サウジアラビアから遠く離れた極東の地であるエリア11の政庁。

 総督であるナナリー・ヴィ・ブリタニアがとある少女の見送りに、ヘリポートへとやって来ていた。

 

「アリスちゃん」

「ナナリー総督……」

「昔のようにナナリーと呼んでくれないの?」

 

 金髪の髪をポニーテールにしたナナリーと同い年ぐらいの少女の見送りに、総督であるナナリーがやってくるなど異常事態ですらあった。

 

「すみません。もうアッシュフォードにいた頃とは違いますから」

 

 淡く微笑みながらも、立場の違いが態度や話し方にまで影響することをアリスと呼ばれた少女は良く知っていた。

 

「こんな若輩の私に目をかけて頂いて感謝しています」

 

 アリスはブリタニア人ではない。今はアリス以外が全員死んで無くなった特殊名誉外人部隊イレギュラーズの名の通り、生まれはE.U.ながらもブリタニアに籍を置いている。

 

「離れるのは少しの間だけです。機体の調整が終われば直ぐに戻ってきます。私はあなたの騎士ですから」

 

 たとえ表向きは誰に認められないとしても。

 

「はい、待っています」

 

 ナナリーの前から辞し、目的地である中華連邦のとある場所へと向かうヘリに乗り込んだアリスは眼下の主君を何時までも見続けた。

 

「それで、私の機体はどうなるのかしら?」

 

 ナナリーに向けていた温かい笑顔など欠片も無く、特殊名誉外人部隊イレギュラーズとして様々な修羅場を潜って来たアリスとしての顔で迎えの嚮団員に問いを向ける。

 

「ヴィンセントの改修機になる予定だ」

「へぇ、出来損ないのギアスユーザーに与えるにしては良い機体じゃない」

 

 ギアスには適性がある。適性が無ければ、そもそもギアスが発現しない。だが、その適正は後付けで得ることが出来る。勿論、その代償はあった。

 

「で、機体名は何になるのかしら? 安直にヴィンセント・スピードとか?」

「嚮主V.V.から『マークネモ』と聞いている」

 

 自身のギアスの効果から改修機の名前を適当に出したアリスに対して、聞かれたから答えたという風情で嚮団員は機体名を伝えた。

 

マークネモ(誰でもない)、ね。私が乗る機体にピッタリの名前じゃない」

 

 やがてナナリーどころか政庁すらも見えなくなったヘリの窓から外を見下ろしたアリスの目は荒涼としていた。

 

 

 




ナイトメアオブナナリーより出張搭乗のアリス。次回の活躍は

1.全く登場しない
2.登場したものの瞬殺される
3.ギアスの力を使ってルルーシュ達の敵として脅威になる
4.V.V.を陥れる

答えは次回にて。

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