コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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本作はあくまで劇場版要素を混ぜた上での投稿となりますのでご注意ください。

多分、半年ぐらいの最新話の投稿になるのか。
おかしくなければいいのですが。


STAGE6 関係の名

 

 

 ギアス嚮団内部上空を飛び回っている蜃気楼のコクピット内でルルーシュは苛立ちを滲ませていた。

 

「まだV.V.は見つからないのか?」

「申し訳ありません。捜索しているのですが中々……」

 

 ジークフリートとの戦いで乗っていたサザーランドの電気系統の一部が損傷したので放棄して降りたジェレミア・ゴットバルトは通信機を手に、黒の騎士団と中華連邦の混成軍によって複数の場所に集められた嚮団員の中にV.V.がいないかを確認して回っていた。

 

「ロロ、C.C.、そっちはどうか?」

「駄目だ。見つからん」

「こっちもだよ、兄さん。隠し通路も通った形跡はなさそうだよ」

 

 元はギアス嚮団の先代嚮主だったというC.C.、嚮団員だったロロならば外部の者が知らない通路を知っているだろうから期待していたのだが結果は芳しくない。

 

「生体反応が多すぎる。これでは絞り込めない」

 

 この嚮団に攻撃を仕掛けたのは、大枠としてはV.V.を捕縛する為と言ってもいい。

 V.V.はC.C.と同じ不老不死の存在。コードやギアスのことを言えない以上、見た目的には年少の少年でしかないV.V.を捕まえるにはこの四人で探すしかないのだが人手が足りなすぎる。

 殲滅作戦を取っていれば、絶対に死なないV.V.を捜索するのはもう少し容易かっただろうが今更後悔しても遅い。

 

(一度全員を外に出して改めて探すか? いや、それに乗じて逃げられたら意味がない)

 

 広大な嚮団内部には隠れる場所が山ほどある。

 捜索の為の色んな方法を頭の中で検討しては却下していく。最優先は身柄の確保であり、逃亡される危険性がある方法を取るわけにはいかない。

 

「ゼロ様」 

 

 ルルーシュがああでもないこうでもないと考えながら、よりよい選別方法を模索しているとジェレミアから通信が入った。

 

「V.V.を発見しました」

「そうか! よくやった! 場所は」

「黄昏の間と呼ばれる、V.V.が良くいた場所です。ですが……」

「元の場所に戻っていたのか。直ぐに向かう!」

 

 ジェレミアが言葉を濁した理由に気が逸っていたルルーシュは気付くこともなく、通信先から場所を特定して蜃気楼を動かしていた。

 蜃気楼がV.V.がいると思われるポイントに到着するとジークフリートとの戦闘での流れ弾が当たったのか、都合良く機体ごと中に入れそうな大きな穴が壁に開いているのを見つけた。

 穴を通って建物の中に機体ごと入り、着地した蜃気楼から下りるとジェレミアが駆け寄って来る。

 

「良くやったジェレミア。それで、V.V.は?」

「あちらに」

 

 ジェレミアが指差した先にV.V.だったものはいた。

 広大な空間の奥、見様によっては玉座や祭壇にも似た作りの廊下に仰向けで寝かされている。顔面には銃創と思われる多数の傷跡があり、再生する様子もない。

 

「死んで、いるのか……?」

 

 ピクリとも動かないV.V.に歩み寄ったルルーシュは訝し気に胸の上で指が組まれた物言わぬ遺体を見下ろす。

 

「私がここに来た時には既に息はありませんでした」

 

 ルルーシュの斜め後ろに控えながらジェレミアが発見時の状況を説明する。

 

(V.V.はC.C.と同じ不老不死のはずだ。死ぬはずがない)

 

 しかし、現実として息をしていないのは事実で、何らかの策や罠の類でないことは明らか。

 不老不死の人物が死ぬという事実を前にしてルルーシュは仮面を被ったまま首を振って現実を受け入れようとして、視界の端に過った人影に意識が向いた。

 

「あれは?」

 

 V.V.から少し離れた場所に、まるで何かから逃げようとして背中から撃たれたように地に伏している数人の男達がいた。

 

「バトレー・アスプリウス…………元はクロヴィス殿下の側近で、周りの者達はその部下です」

 

 そう言ってルルーシュから離れたジェレミアはうつ伏せのバトレーを仰向けにして、胸に上で指を組ませる。

 

「バトレー、私をこのような体に改造した憎むべき男。だが」

 

 取り出したハンカチでバトレーの口から流れている血を拭き取る。

 

「皇族に対する忠義は本物だった。ならばこそ 私は決意しよう。バトレー、君を尊敬すると!」

 

 憎むべき敵であろうと尊敬に値する点があるならば認め、その最期を穢してはならないと背中で語っているジェレミアに、そういう考えもあるのかとルルーシュは感心していた。

 ルルーシュにとって敵はどこまで行っても敵であり、味方ですら全幅の信頼を置ける存在はかなり少ない。優秀過ぎるからこそ下手な人間には尊敬の念を抱くことが出来ないルルーシュにとって憎むべき敵を尊敬できるジェレミアの思考経路は理解し難いものがある。

 

(俺には出来ないな)

 

 ただ、そういう考えもあるのだとルルーシュは自分には出来ないと思いながらも否定はしなかった。

 

「ゼロ様」

 

 ルルーシュが物思いに耽っている間にバトレーから離れたジェレミアが戻って来ていた。

 

「状況的にバトレーは何かから逃げようとして撃たれた様子で、体温からして死後殆ど経過していません。V.V.を殺したのがバトレー達なのかは分かりませんが、銃が無い状況からして第三者が先程までここにいた可能性が高いと思われます」

「しかし、この近辺には俺達の他に生体反応はなかったぞ」

「ええ、私が来た時には既に人の気配はありませんでした。他の通路は瓦礫で塞がっていたので行き違いになるはずはないのですが……」

 

 消えた犯人なんてミステリーが現実に起こった場合、都合良く探偵は現れてくれない。探偵役を出来る頭脳を持つルルーシュだが今は他に考えることが多い。

 

「ジェレミアが知らない通路があるのかもしれん。そうなると嚮団幹部の線が濃くなるが」

「V.V.が死んでいる理由が分かりませんね」

「C.C.と同じなら、この程度の傷で死ぬはずはないんだが」

 

 今まで散々致命傷を受けて来たC.C.が生きているのを良く知っているので、顔面に複数の穴が開いた程度で死ぬとはルルーシュにはとても思えない。

 

「C.C.の見解を聞きたい。ジェレミア、C.C.をここに呼んでくれ」

 

 手元に通信機が無かったルルーシュはもう一人の不老不死者であるC.C.を呼ぶようにジェレミアに命令して蜃気楼に向かって歩き出す。

 

「私はもう一度、周囲の生体反応を調べ――」

 

 直ぐ近くにあった蜃気楼に下に辿り着き、コックピットに上がる為に必要なタラップを手に持った瞬間、部屋の奥のギアスの紋様が刻印された壁から光の筋がルルーシュに伸びる。 

 

「ルルーシュ様!?」

 

 ジェレミアの叫びにルルーシュが振り返るも光の筋は既に両足に絡み付いていた。

 

(これは神根島の!?)

 

 一年前、神根島の遺跡で同じような光に包まれた時と同じ何かに引き込まれる異様な感覚。

 ルルーシュの目が視界に眩んだ直後、元に戻った視界は先程とは激変していた。

 

「な、なんだここは?」

 

 先程までいたのは地下にある遺跡を利用した建物の中である。断じて雲の上に浮かぶ空中神殿のような場所ではない。

 

「ホログラムや幻影ではない……」

 

 ではギアスかと言われれば疑問が残る。

 直ぐ傍には蜃気楼があり、タラップを持つ感触は現実そのものである。

 

「その通り!」

 

 未だ変化を受け止めきれていないルルーシュの痩身を揺るがすような大喝が空間全体に轟いた。

 ルルーシュの知らぬ声ではない。寧ろ魂にまで刻み込まれている類いの声に、ルルーシュは声が聞こえた階段の向こうに目をやる。

 

「このシステムこそ、アーカーシャの剣。ナイトメアなど無粋なものよ」

「き、貴様は……!?」

 

 ブリタニア第九十八代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアはルルーシュが幾度も脳裏に思い描いた傲岸不遜そのままの目で見下ろす。

 

「久しいな、我が息子(ルルーシュ)よ」

 

 言葉には息子に向けるような親愛の情はなく、ただただ絶対者としての威厳をその身に纏っていた。 

 

「時は来た、贖いの時が」

 

 意味の分からないことをほざくシャルルから視線を逸らさないまま思考を加速させる。

 ルルーシュがゼロの仮面を被っている以上、互いにギアスはかけられない。

 

(奴が何故ここにいる?)

 

 ルルーシュは動かなかった。動けなかったのではない。

 動揺はあった。だが、第三者の存在がいることを事前に推測していただけに、シャルルの登場は寧ろ点と点を繋ぐ線となり、ルルーシュに思考を生む切っ掛けを与えて冷静さを取り戻させた。

 

(この空間にいれば生体反応を感知できないのだろう。奴がV.V.を殺したのは間違いない。だが、今になって何故V.V.を殺した? いや、待て。不老不死を殺せるのか?)

 

 思考がどこまでも連続していくが答えは出ない。

 答えの出ない迷路を彷徨ったルルーシュは目前の脅威を排除すべく、銃を取り出して銃口をシャルルに向ける。

 

「答えろ! 母さんを」

 

 どうして守らなかった、という問いは冷静になった頭が思考から排除し、未だV.V.のことを追い出せない中で両方を結び付けた。

 

「母さんを殺したのはV.V.か!」

 

 放った問いはルルーシュの思考外にあるものだったが、先の戦闘でV.V.と交わした会話から意外に的外れではないのではないかと自分で納得する。

 

「…………何故、そう思う?」

「V.V.は明らかに母さんを嫌っていた。憎んでいた節すらある」

 

 V.V.はルルーシュのことを常に『マリアンヌの子』と言っていた。ジェレミアがその名を口にしたことに激昂していた姿には一方ならぬ憎悪を感じた。

 

「ブリタニアにおいて絶対的な権力者である皇帝の妃を殺されたのならば徹底的に捜査されて然るべきだ。幼い俺は母さんを疎んでいた他の皇族や貴族によるものと思っていたが、V.V.なら碌な捜査が行われなかったことにも全て説明がつく」

 

 シャルルにギアスを与えたというV.V.は、クロヴィスや皇族の中でも高い地位にいるはずのコーネリアですらも知らなかったギアス嚮団という表に出ない組織のトップに収まる謎の人物。

 ギアスの力を考えれば、庶民出のマリアンヌを殺したからといって捕まえるには惜しいとでも思ったのだろうとルルーシュは推測した。

 

「どうなんだ、シャルル・ジ・ブリタニア!」

 

 銃を構えて胸元を狙いつつ、棒立ち状態のシャルルに答えを求める。

 

「お前は他の者にはない力、ギアスを持っている。その力で聞き出せば良かろう」

 

 銃口が微かに揺れる。

 

(どうする…………奴の言う通りにギアスを使うか? だが、罠の可能性もある)

 

 ゼロの仮面の左目部分を開け、ギアスを使おうとすればどうしてもシャルルと目を合わせる必要がある。

 シャルルのギアスは記憶を改竄するタイプで、発動条件はルルーシュと同じく相手の目を見てかける。もしも、少しでもギアスの発動が遅れればルルーシュの記憶が改竄される。そのリスクを負ってでもギアスを使う価値が9年前の真実にあるのか。

 

「どうした。それでも儂の子、ブリタニアの皇子か?」

 

 明らかにシャルルはギアスを使わせようと誘っている。

 

「そんな見え見えの誘いになど乗るものか!」

 

 引き金を引いた。銃はその機構に従って銃弾を吐き出し、無防備に立つシャルルの胸に狙い通りに突き刺さった。

 衝撃と痛みは確実にシャルルのギアスの発動を遅らせるはず。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる!」

 

 背中から倒れていくシャルルを追うように、階段を駆け上がるルルーシュは仮面の左部分を開けて特殊なコンタクトを外してギアスを発動させる。

 視線を合わせたのは一瞬。だが、その一瞬があれば十分。

 

「俺の命令に答えろ!」

 

 背中から倒れこんだシャルルの下に辿り着き、絶対遵守の命令を放つ。

 ルルーシュの銃の腕は決して良くは無いので、撃たれてもシャルルは即死していなかった。

 

「あのテロ事件の首謀者は誰だ?」

 

 頭に銃口を向けながら問いを放つ。

 

「に、兄さんだ……」

「兄さん、だと? 名前は?」

 

 ルルーシュの知る限りではシャルルに同腹の兄弟はいない。

 嘗てはいたかもしれないが、シャルルが皇帝になるまで皇族間で血で血で争う時代の中で失われている。何故なら親・兄弟・親戚に至るまで殺し尽くしてシャルルは皇帝になったのだから。

 

「……今は、V.V.と……名乗っている……」

 

 即死はしなかったが胸に銃弾を受けたので流石に息が荒い。痛みは相当の物のはずで、治療を受けなければ早々に死ぬだろう。

 

「C.C.と同じく本名ではないと思っていたが」

 

 まさかV.V.が伯父であるとは思いもしなかったが、少年期に不老不死になったのならば現在のシャルルとの見た目の差異は当てにはならない。

 

「だが、何故だ。何故、V.V.は母さんを殺した? 一体、何の理由があってテロなんてものを起こした?」

「…………マリ、アンヌ……は…………兄、さん……は…………」

 

 矢継ぎ早の問いにシャルルはゴボリと口から血を溢れさせて、肝心のV.V.の目的を話すことなくガクリと力尽きた。

 

「おい」

 

 呼びかけてもシャルルは動かない。

 

「おい!」

 

 拳銃を落として肩をどれだけ揺さぶっても、事切れたシャルルが動くはずがない。

 

「…………殺してしまった。こんなにもあっさりと」

 

 V.V.も死んだ。シャルルも死んだ。これではV.V.がどうしてマリアンヌを殺すほどに憎んでいたのかを知ることは出来ないだろう。

 

「ナナリー、母さん……」

 

 仮面を外したルルーシュは長年の悲願を成し遂げたというのに、胸に湧き上がったのは喜びでもなければ爽快感でもない。

 

「俺は、俺は…………うおぉぉぉぉ――――――――っっっっ!!」

 

 胸に湧き黙る異様な不快感にルルーシュは叫んだ、落とした仮面が響かせた音よりも大きく叫ばずにはいられなかった。

 

「――――親の安眠を妨げるとは悪い子だ」

 

 喉も裂けよとばかりに叫んでいたルルーシュの耳に決してありえてはいけない声が届いた。

 

「なっ!?」

「躾けてやらんといかんな、ルルーシュ!」

 

 死んでいたはずのシャルルがガバッと起き上がる。

 

「生きている?!そんな! 確かに死んでいたはず」

 

 驚きから数歩後退ったルルーシュは知っていた、こうやって死んだはずの人間が蘇る前例を。

 逆に蘇るはずの者が死んでいたのを見ていたからこそ、答えに辿り着いたことで我を忘れるほどには動揺しなかった。

 

「そうか! 貴様はV.V.のコードを」

「儂はギアスの代わりに新たなる力を手に入れた」

 

 どうやったかは分からないがコードとは移せるもの、不老不死とは継ぐことが出来るのだと容易に検討がついたルルーシュは『死ね』とかけようとしていたギアスを使うのを止めた。

 落としていた拳銃を拾って大きく距離を取り、無駄だと知りながら銃口をシャルルに向ける。

 

「真っ向から向かって来たその意気や良し。剣でも銃でも何を以ってしても無駄と分かっているのならば、王道で来るがいい。王の力を継ぎたいのであれば!」

 

 世界に覇を唱えんとしている皇帝の覇気に呑まれながらも、不老不死のコードは引き継ぐことが可能であると認識したルルーシュは如何にして蜃気楼の下へ辿り着くかを考えていた。

 

(不老不死であろうと、それ以外は大して人間と変わらない。蜃気楼で掴んでしまえば)

 

 人間にとってみれば万力の如き力のナイトメアフレームの拘束からは抜け出せない。元よりV.V.は捕まえて高圧力ケースに封印する予定だったのだから、対象がシャルルに代わっても何の問題もない。

 

「尚も策を弄そうとするか。その策を根底から覆してやろう」

 

 父親としての直感からか、ルルーシュの次の行動を読んだシャルルが動く。

 足下から伸びて来た装置にシャルルが手袋を外した右手を翳した直後、ルルーシュの視界の中の景色が激変する。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 空中神殿とはまた別の世界にルルーシュはいた。

 幾何学模様が浮かぶ仮面と回る多数の歯車に覆い隠された異様な世界に、ルルーシュはもう一度幻影を疑った。

 

(違う。持っている銃の感触は決して幻なんかではない)

 

 足場は無いのにルルーシュはしっかりと立てている。思考は鮮明で、意識はしっかりしていた。肉体の感覚もある。

 先程までいた場所と同じ。見える世界が変わっただけだがルルーシュの動揺は大きくなっていく。

 

「人は真実を望みながら、他者には己を偽る仮面を被った姿を見せる」

 

 周りを見渡していたルルーシュの視界の中に忽然とシャルルが出現する。

 意味は無いと知りながらも銃口を向けるルルーシュを傲然と見下ろすシャルル。

 

「ルルーシュよ、お前はそのゼロの仮面を被って何を得た?」

「手に入れた! ただの学生では到底手に入れられない軍隊を!部下を!領土を!!」

「代わりに多くの物を失った。平穏な日常を、この父を同じくするクロヴィスを、そしてユーフェミアを」

 

 得た物に対して失った物は帳尻が合うのかと、父親が子に向けるにはあまりにも冷ややかな眼差しにルルーシュの肩がビクリと震えた。

 

「ナナリーも何時失うか分からない状況を作り出して、これがお前の本当にしたかったことか?」

「そうさせた貴様が何を言う!」

 

 グリップが軋む音が鳴り、銃を持つルルーシュの手に力が籠められる。

 

「行動には必ず責任が伴う。責任転嫁は見苦しいぞ」

 

 ゼロの仮面を被り為した結果と被害は、たとえそうさせたのがシャルルだとしても罪はルルーシュにある。

 

「マリアンヌの死の真相を知りたいと言ったな。仮面を被って嘘を吐き続けながら人には真実を望む。これを滑稽と言わずなんとする!」

 

 喝破にルルーシュは何も言い返せない。たとえ何を言ったとて、それこそ言い訳にしかならないと分かっているから。

 

「人は誰でも嘘を吐いて生きている。俺もそうしただけだ!」

「無駄に知恵をつけただけの愚か者め。周りがしているから自分もするなど幼稚な子供の論理に過ぎん」

 

 ルルーシュが纏っていた仮面という名の虚飾が剥がされる。

 

「嘘など吐く必要はない。何故ならお前が儂で、儂がお前なのだ。そう、人はこの世界に一人しかいない。過去も未来も人類の歴史上、たった一人……」

「一人? 何を言って――」

 

 ここに来て突然、論調を変えたシャルルの変化に対応できないルルーシュを置いて事態が変遷する。

 

「シャルル」

 

 異様な空間内にはルルーシュとシャルルしかいなかった。そこへシャルルを諌めるかのように名を呼ぶ涼やかな声にルルーシュは覚えがあった。

 歯車が動いて空いた隙間から黒の騎士団の制服を纏っているC.C.が対峙している二人の対角線上に歩み寄る。

 

「C.C.!」

 

 現れたC.C.の名を呼びながらも、ルルーシュは彼女がこちらの呼びかけに一度視線を向けただけでシャルルに顔を向けたことに眉を顰めた。

 

「遊びの時間は終わりだ。私にとってそれ(・・)にもう価値はなくなった」

 

 それ、がルルーシュを指すことは一目瞭然だった。

 理解できない事象と現象に振り回され、冷静さも知性も働かなくなっていく。

 

「それを籠絡して私を呼ぶ必要もない。私は既に此処にいる」

 

 ゼロの仮面を被ってからC.C.だけは常にルルーシュの傍にいた。誰が裏切ろうが、誰を裏切ろうが、彼女だけはルルーシュの味方だった。

 

「そうだな、C.C.。お前の願いは儂が叶えてやる」

「C.C.の願いを知っているのか?」

 

 契約時、C.C.は代価として自身の願いを叶えろと言い、ルルーシュはその取り引きを呑んで王の力を得た。しかし、幾度C.C.に願いを問い質してもはぐらされて来た。

 推測は出来る。予想はしていた。だけど、彼女の口から願いの内容を告げられたことはなく、答え合わせの出来ない推測や予測に意味はない。

 シャルルは知っていて、ルルーシュはC.C.の願いを知らない。この現実だけが今ここにある。

 

「ルルーシュ。今こそ契約条件を、我が願いを明かそう」

 

 こんな時に、こんな時だからこそC.C.は己が願いを口にする。

 

「我が願いは死ぬこと。私の存在が永遠に終わることだ…………驚かないのだな」

「予想はしていた。不老不死の存在が望むことなど、死者との再会や永遠を終わらせることが物語の定番だとシャーリーが言っていたからな」

 

 陳腐というには当の本人は切実な願いなのだろう。

 ルルーシュは『死』を予想していながらも、どうやっても死なないというC.C.の不死性に選択肢から外していた。しかし、C.C.が不老不死と聞いたシャーリーが言ったことと、同じはずのV.V.の死を目の当たりにしたことの合致が答えを導き出してしまい、ルルーシュから驚きを奪っていた。

 

「只の小娘に見抜かれていたとは……」

 

 どこにでもいる極々普通の女子高生に悠久の時を生きる魔女の願いを看破されていたことにC.C.は儚げに笑む。

 

「分かっているのならば話は早い。簡潔に説明しよう。ギアスの果てに、能力者は力を授けた者の地位を継ぐ。つまり、私を殺せる力を得る」

 

 その笑みの意味を理解する間もなく、C.C.は表情を切り捨ててルルーシュを見据える。

 

「V.V.を殺した皇帝のようにか?」

「シャルルのように強靭な精神力で増大するギアスの力を押さえ込み、あくまで自身の意思で制御する術を勝ち取った者を達成人と呼ぶ。達成人は逆にコードユーザーからコードを強奪することが可能となる。 V.V.や、そして私からも。数多の契約者は誰一人として、ここまで辿り着けなかった」

 

 C.C.の目も表情も、ルルーシュから見ても極寒の氷の如き固さを以って揺らがない。

 

「私が死ぬ為にはコードを受け継げる器、達成人を作り上げる必要があった。その為にルルーシュ、お前と契約して今までギアスを使わせ続けてきたが、もうその手間を踏む必要は無くなった。ここに達成人のシャルルがいるのだからな」

「馬鹿な! お前は死ぬ為に俺と契約し、今まで傍にいたと言うのか?」

「そうだ」

 

 ルルーシュの脳裏にギアスを得てから今に至るまでのC.C.と過ごした日々が過る。

 多くの物を得て、それ以上に多くの物を失ったルルーシュに寄り添ってくれたC.C.の温もりの全てが偽物だったとは思えないし、思いたくない。

 

「俺を利用して、死ぬために生きてきたと?」

「この世の節理は、そこにある。限りあるもの、それを命と呼ぶ」

「違う!生きているから命のはず!」

「同じことだ。死があるから、人は生を自覚できる」

「言葉遊びだろう、そんなものは!」

「しかし、人は死ぬ。どれだけ辛くとも何時かは必ず死という終わりがあるから生きていられる。終わらない生は、この世の全てを地獄に変える」

 

 永遠に生きるとは、永遠に狂い続けることと同義である。怒り、哀しさ、後悔、絶望、人を壊してしまうものなんて幾らでもあるのに、永遠の寿命を持ったら、ずっと正気でいられる可能性はゼロである。

 おかしくなる機会は幾らでもあるから、一度狂えば命ある限り狂いっぱなし。これが永遠という名の呪い。

 如何なる非業の死、如何なる不慮の最期、如何なる無念の末路を迎えようとも永遠の生を宿命付けられるよりも幸いである。永遠という言葉の意味をよくよく考えてみるといい。永遠という言葉の重みを、よくよく知るといい。

 死もまた一つの救いの形であると永遠の命を背負わせてから初めて気づく。

 

「だととしても、この世に生まれた理由が、意味があるはずだ!」

 

 聡明なルルーシュは安易な感情論を廃して理性的に思考した場合、C.C.の言うことが至極真っ当だと理解してしまう。しかし、人は機械のように割り切れる物ではないから感情で物を言ってしまう。

 

「そんなものは、後付けの思い込みに過ぎないと他の誰よりも分かっているだろうに」

「死ぬだけの人生なんて哀しすぎる!」

「死なない積み重ねを人生とは言わない。それはただの経験だ」

 

 ブリタニア皇族として生まれ、棄てられ、生まれた国に反逆をしているルルーシュだからこそ反論の余地を見つけられなかった。

 

「お前に生きる理由があるのなら私を殺せ。そうすればシャルルと同等の戦う力を得る」

 

 一日前には冗談を言い合い、小さな口喧嘩をしたことが幻想であったかのように冷たい声でルルーシュに選択を迫るC.C.。

 ルルーシュには身内と言っていい仲だったC.C.を自身の欲望の為だけに切り捨てることは出来ない。

 

「さようなら、ルルーシュ。お前は優しすぎる」

 

 最後の選択を迫ったC.C.は動こうとしないルルーシュに失望したように肩を落とした。

 見限られた、諦められたと言葉と態度が物語る中でルルーシュは言わずにはいられないことがあった。

 

「待て、C.C.! 何故俺と代替わりして死のうとしなかった?! 俺に永遠の命という地獄を押し付けることだって出来たはずだ! 俺を憐れんだのか?! C.C.!」

 

 シャルルがこの仮面と歯車に覆われた異様な空間を作り出した時と同じ装置が足下から伸びて来て、C.C.がそれに手を伸ばすのを見たルルーシュが叫ぶ。

 一瞬、ビクリと身を震わせたC.C.が何を思ったかはルルーシュには分からない。何故ならば確かにあった足場が突如として消失して為す術もなく落ちていく。

 

「うわぁあああああああああああ―――――――っっっっ!!!!!」

 

 原初の恐怖に突き動かされた叫びを上げたルルーシュの視界からあっという間にC.C.とシャルルの姿が消える。 

 落ちているのならば何時かは地面へと辿り着くはず。

 

「え?」

 

 意識が途切れたのか、浮遊感は唐突に消え失せてルルーシュは何事もなかったようにその場に立っていた。

 

「ここは……」

 

 夢か幻を見ているような気分で辺りを見渡すと、どこかの都会から遠く離れた田舎といった風情の村や町の通路にいるのが分かった。

 ふと、前を見ると通路の向こうからボロボロの服を纏った少女がフラフラと今にも倒れそうな様子で歩いて来る。

 

「お、おい!」

 

 そして遂には倒れていく少女を咄嗟の反応で駆け寄って受け止めようとしたが、抱こうとした手は少女の体をすり抜けてしまった。

 

「無駄よ。これは私の記憶、干渉はできない」

 

 背後からの聞き覚えのある声に振り向くと、色づく世界の中でルルーシュと同じく色の無いC.C.に良く似た誰かががそこに立っていた。

 

「C.C.…………いや、違う?」

 

 姿形、声もC.C.そのものであったが皮を被った別人だという認識がルルーシュの認識を支配する。

 

「あなたは 誰?」

「ルルーシュだ。お前の……」

 

 問いにルルーシュは直ぐに答えられなかった。

 友達、仲間、恋人…………どんな言葉であろうとも自分とC.C.の関係とは遠く離れた領域にあるように思えたからだ。

 

『あなたに生きるための意味はあるの?』

 

 どこかの教会でC.C.の運命が捻じ曲がる。その光景をルルーシュは見る。

 

『わかりません。でも、死にたくないんです!」

『では、契約をしましょう。生き延びる力をあなたに授けましょう。その代わり、何時の日か私の願いを一つだけ叶えて頂けますか』

 

 そしてルルーシュはC.C.の過去を、始まりの始まりを知ることで今まで曖昧にしてきた関係に名前をつけることを迫られる。

 

 

 




V.V.の死を見ていたことからルルーシュの反応が色々と変わっています。


基本的にのんびり、出来た端から投稿という形になるので気長にお待ちください。

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