コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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長い。でも、必要だから仕方ない。








STAGE9 信頼

 

 

 

 星刻との会談を終えたルルーシュは黒の騎士団の旗艦である斑鳩に戻って来た。

 

「お帰りなさい、ルルーシュ」

 

 ギアス嚮団強襲作戦によって修正を余儀なくされた戦略のステージを先に進める為、文字通り睡眠時間を削って行動していたルルーシュを迎えたのはシャーリー・フェネットの笑顔であった。

 

「ただいま、でいいのか?」

 

 挨拶としては間違ってはいないはずだが背後でドアが閉まったのを確認してゼロの仮面を取るルルーシュは少し照れ臭げだった。

 ルルーシュが仮面を何時もの場所に吊るしている姿を見るC.C.はニヤリと笑って便乗することにした。

 

「ルルーシュ、ご飯はまだ食べていないのだろう? ご飯にするか? 先に風呂に入るか? それとも」

 

 ソファに座っていたC.C.は悪戯気な笑みを浮かべて立ち上がり、ゼロの私室なので当然ながらあるベッドまで行って端に腰かける。

 

「わ・た・しを食べるか?」

「何言ってんのC.C.!?」

 

 足を組んで太腿を見せつつ艶やかに笑いながら言うと、まさかの発言に顔を真っ赤にしたシャーリーが全力でツッコミを入れる。その間にルルーシュはマントを脱いで控えていたジェレミアに渡していた。

 ジェレミアは受け取ったマントをハンガーで吊るす。

 

「男は疲れすぎると逆にムラムラとするらしいからな。一肌脱いでならぬ服を脱いで発散させてやろうと言っているだけだ」

 

 今時珍しい純朴な反応を見せるシャーリーを揶揄う意味も込めながら、これ見よがしに首元を開ける。

 

「駄目ェェェェェッ!!」

「そう頭ごなしに否定されてもな。なんならお前も交ざるか?」

「え!?」

 

 物理的に阻止をしようとベッドに駆け寄ろうとしたシャーリーはその提案を聞いてピタリと足を止めた。

 なんだかんだでC.C.のことは嫌いではないし、寧ろシャーリーの知らないことを沢山知っていて態度もデカいから姉のような立ち位置に収まっている。

 

(交ざる? 初めては夜景の綺麗なホテルで食事をしてからロマンチックに三人でなんてそんなフシダラなでもC.C.は経験豊富そうだからいてくれたら心強いかも)

 

 恋する乙女は心中で大暴走をかましていた。

 変なところで器の大きさを見せながらも大絶賛暴走中のシャーリーの目がグルグルしだしたところで、ジェレミアが大きめに咳払いをする。

 

「楽し気なところ悪いが、ルルーシュ様だけではなく私もいることを忘れないでほしいな」

「だが、見ていて楽しい見世物だっただろう?」

「人を見せ者扱いするのは……」

 

 一人で百面相をしているシャーリーが煩悶していた姿は見ていて楽しいので安易な否定は出来ないジェレミアが言葉を濁したところで、ようやく当の本人は揶揄われていることに気付いて別の意味で顔を真っ赤に染める。

 

「ま、また私を揶揄ったのね!」

 

 当然ながら揶揄われた当人であるシャーリーにとってみれば面白いはずがない。

 

「シャーリーは揶揄い甲斐があるからな」

「だからって……!」

「C.C.、そこまでにしておけ。あまり騒いではルルーシュ様の邪魔になる」

 

 戦略スクリーンを見ているルルーシュが二人の言い合いに巻き込まれるのを恐れて知らんぷりを決め込んでいるのを分かった上でジェレミアは言った。

 

「邪魔になるのなら自分で言えばいいだろう。言わないのなら邪魔になっていない」

 

 気位が高い猫(C.C.)に折角の気遣いを無視され、(ルルーシュ)も可能な限り関わるのを遅らせようとして聞こえないふりをしている。ジェレミアに味方はいなかった。

 

「ルルも黙ってないで何か言ってよ!」

 

 育ちの良い犬(シャーリー)に話の矛先を向けられたルルーシュはビクリと肩を震わせ、諦めたように座っていた椅子をクルリと回して振り返る。

 チラリと助けを求めてジェレミアを見ても、先に見捨てていただけに同じことをされただけだった。

 

「落ち着け、シャーリー。そうやって反応するからC.C.に遊ばれるんだぞ」

「だって……」

「C.C.も人で遊ぶな」

「じゃあ、お前が相手をしてくれるのかルルーシュ?」

「なんでそうなる」

 

 二人の仲を仲裁していたはずが代わりに標的にされそうになってルルーシュはげんなりと表情を歪めた。

 どうにもギアス嚮団強襲作戦から戻って来てからは妙にテンションが高いというか周りに対して遠慮が無くなったというか。主な被害者であるルルーシュはC.C.のペースに巻き込まれれば疲れることは間違いないのでシャーリーを見る。

 

「シャーリー、なにか俺に聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

 

 ギアス嚮団が名実共に壊滅したことでシャーリーの身に迫る危険がかなり減ったことは以前に伝えているので、今更改まってルルーシュに聞きたい理由に心当たりが無かったので話を変える意味合いも込めて訊ねる。

 

「あっ、そうそう。正確には私じゃなくて他の人のことなんだけど」

 

 結局、シャーリーはC.C.と同じ肩出しタイプの黒の騎士団制服を選び、そのポケットから携帯電話を取り出す。

 シャーリーの話の胆がその携帯電話にあると察したルルーシュは話がしやすいように部屋の中央にあるソファへと移動する。主君(ルルーシュ)第一のジェレミアと、仲間外れにはされたくないし話に興味もあったC.C.もソファに集まった。

 ちなみにロロはナナリー奪還の為の前準備の下調べでエリア11に残っているのでこの場にはいない。

 

「ギアス嚮団に攻撃を仕掛ける前に私はアッシュフォードに戻ったじゃない。その時にアーニャちゃんから相談を受けたの」

あの(・・)ナイトオブシックスが?」

 

 真面目な学生であるシャーリーは普段からサボることも多いルルーシュと違っていなければ目立ってしまう。全員が蓬莱島にいる時は篠崎咲世子に影武者をしてもらうが、ギアス嚮団強襲作戦時はそうはいかなかった。スザクが学園に登校する予定だったのでシャーリーは学園に残った。スザクは敵ではあるがシャーリーに手を出しはしないだろうという推測に基づいた信頼で。

 何故かアッシュフォード学園に編入して来た帝国最強のナイトオブラウンズの二人の内の一人が、まさかその時にシャーリーに相談を持ち掛けた現実を即座にルルーシュは受け入れられなかった。

 

「リヴァルがミレイ会長の後を継いで生徒会長になってから私も手伝ってことは知ってるでしょ?」

「ああ、俺も手伝いたいとは思っているんだが」

「流石に三足の草鞋は無理だから止めといた方が良いと思うよ」

 

 ミレイ・アッシュフォードが生徒会長を辞した後、大勢的には副会長だったルルーシュが後を継ぐと思われていたが黒の騎士団の活動が本格化している中では仕事をこれ以上、抱え込むことは物理的に難しい。

 消去法でリヴァルが会長になり、引継ぎはともかくとして運営の手伝いすらも出来ない現状には申し訳ないとルルーシュも思っていたのである。その分だけシャーリーが生徒会からは離れたものの手伝っていることは聞いていた。

 

「ジノ君とアーニャちゃんも生徒会を手伝ってくれてるんだ。その縁で話すことも多いし」

 

 ジノが学園にいる間は社会的立場を忘れてフランクに接してほしいとと言っていたことはルルーシュも聞いていた。

 

「天下のナイトオブラウンズを君にちゃん付けとは……」

 

 ジェレミアが唖然とした口調でボソリと呟いた。

 ルルーシュもリヴァルとジノが仲が良いことは見知っていたし、フランクなジノと明るく物怖じしないシャーリーが仲良くなるのはおかしいことではない。ジェレミアのようにブリタニアの騎士の頂点であるナイトオブラウンズを特別視したりはしないが気持ちは良く分かる。

 

「随分と仲が良いんだな」

「ヤキモチ妬きはみっともないぞ」

「黙れ、C.C.。人を茶化すな」

「私としては妬いてくれた方が嬉しいけど」

「だ、そうだ」

「ぬう……」

 

 言い合いをしているのも遠慮がないからで、基本的にC.C.とシャーリーは仲が良い。翻弄されることの多いルルーシュはこの時も先程まで言い合いをしていた二人に言い包められてしまった。

 

「それでナイトオブシックスの相談内容は?」

 

 下手に抗弁しても旗色が悪化するだけだと学んでいるルルーシュは話を先に進めることにした。

 

「多分、昔のルルだろうっていう写真のデータを貰ったの」

「本当は俺じゃないのかって話か? 前に本人に否定したはずだが」

 

 そう言ってシャーリーが差し出した携帯電話にはルルーシュの幼い頃の写真の映像が表示されている。

 シャルルに記憶を弄られて皇族だった頃の頃を忘れさせられていることになっているので、何があっても認めるわけにはいかない。皇帝には記憶を取り戻していることがバレているとしても、ゼロであることを疑っているスザクに知られれば今の安寧が崩れる。

 

「やっぱりルルだったんだ」

「悪いがそれが相談事なら俺は否定することしか出来ないぞ」

「違う違う。知りたいのは、この写真を撮った状況の方」

「そんなことを知ってどうするんだ? いや、待て」

 

 言われて考え、直ぐにおかしいことに気付いた。

 

俺は何時そんな写真を撮られた(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 最初にアーニャに写真を見せられた時はシャーリーから隠れていた状況だったのと、よりにもよって敵であるナイトオブラウンズに訊ねられたので思考を回している余裕が無かった。直ぐ後に女生徒達に追い回されたり、翌日にはキューピッドの日やら、ジェレミアの来襲やギアス嚮団強襲作戦も重なって完全に頭の中から飛んでいた。

 しかし、よくよく考えてみればルルーシュ自身にはそのような写真を撮られた覚えが無かった。

 横合いから覗き込んだC.C.がシャーリーの携帯電話を手に取って写真をしげしげと眺める。

 

「服装からしてルルーシュが皇族だった頃なのは間違いない。本当に記憶にないのか?」

「後ろの花壇からして撮られたのはアリエス宮にあった花壇だ。だが、俺には花壇の前で、しかも後のナイトオブラウンズに写真を撮られたような覚えはない」

 

 写真のルルーシュの大きさから考えて、マリアンヌが暗殺される前の一年以内の出来事であることは分かる。しかし、ルルーシュ当人には幼い頃にアーニャ・アールストレイムと会った記憶はない。

 

「本当に断言できるのか? 子供の頃のことだろ」

 

 普通ならば何年も経てば会った人物の名前や顔など覚えていられるものではない。実際、C.C.は長く生きて来て余程印象深い者でければ忘れてしまっている。

 

「皇族時代に会った人物は余程小さい頃でなければ大体は覚えている。この年齢の頃ならば全員の名前を言ってもいいぞ」

 

 C.C.とルルーシュでは、まず前提からして違う。

 皇族時代はあらゆることが多大な影響を及ぼすことがあり、接触する人物には細心の注意を払って来た。特にルルーシュの場合、皇妃であり母のマリアンヌは平民出身だったから他の貴族出身の皇妃達から良く思われていなかったからこそ会う人物に警戒していたのだから。

 常人を遥かに超える頭脳を持つルルーシュには幼い頃に出会った大抵の人物を諳んじられる自信があった。しかし、その自信は直ぐに木端微塵に打ち砕かれる。

 

「恐らくこの写真はアールストレイム卿が撮ったものでしょう。彼女ならば撮る機会は一度ぐらいあったはずです」

 

 自信を木端微塵に打ち砕いたのは第一の臣を自認するジェレミア・ゴットバルトその人である。

 

「なに? どういうことだ、ジェレミア」

「アールストレイム卿は、あの(・・)テロの一週間前から行儀見習いとしてアリエス宮にいました。ルルーシュ様とも年も近いですから接触の機会はあったはずです」

「…………記憶にないぞ」

 

 アーニャがアリエス宮にいたと言われてもルルーシュの記憶には全く影も形もない。

 

「マリアンヌ様を喪うなど多くの出来事が起こった故、前後のことが記憶に残っていないとしても致し方ないことです」

 

 テロによってマリアンヌが殺され、ナナリーも下半身不随と母の死のショックで目が見えなくなった。一度もナナリーの見舞いに来なかった父シャルルに警備が手薄だった等の不審点から真相と責任の追求の為に直訴するも一蹴され、ナナリーと共に人質として日本の枢木ゲンブ首相の下へ送られた。

 日本に送られたのはナナリーの傷が癒えた後ではあるが、怒涛の出来事がルルーシュの身に一気に起こったのはC.C.でも否定しきれないこと。

 

「他に印象的な出来事が連続すれば、その他の些末な出会いや人物のことは記憶に残らないのかもな」

「ルルーシュ様の頭脳を以ってしても限界があったのでしょう」

 

 ルルーシュはなんとかして思い出そうとするが、どれだけ記憶を掘り返そうとしても当時の記憶は陰惨なものばかり。アーニャのことは影も形もない。ない、はずなのにどこか引っ掛かる。

 記憶を注意深く精査する。日付を徐々に遡り、どこで何をしていたかを思い出していく。

 

「思い出した。確かに俺はナイトオブシックスに会っている」

 

 とはいえ、微かな残照のようなものだが。

 こうやって切っ掛けがあっても時間をかけなけば思い出せないレベルの記憶にシャーリーが興味深げに顔を近づける。

 

「仲良かったの?」

「大した話はしていない。確か父親に携帯端末を買ったから写真を撮らせてもらえないかと頼まれ受けただけだ」

 

 他にも話したかもしれないがルルーシュの記憶にはそれだけである。

 

「しかし、ナイトオブシックスの相談事とは一体? 学園に通う一生徒が皇族であることを疑っているのであれば由々しき事態」

「いえ、そんな大それた…………本人にとっては重大なことなんですけど」

「奥歯に物が挟まった物言いだが、結局のところどういうことなんだ?」

 

 ジェレミアにとってみればルルーシュ第一なので、最悪の事態にはアーニャを暗殺する心積もりでいたりする。怖い顔をしているジェレミアに気後れしながらも、アーニャの悩みは関係のない者には大きな理由ではないことを知っているシャーリーに先を促すC.C.。

 

「アーニャちゃんには、この写真を撮った記憶が無いって、携帯電話で付けていた日記とかも。他にも記憶と記録が違っていたりすることが一杯あったんですって」

 

 頷いたシャーリーがアーニャの悩みをそのまま伝えると、直ぐにルルーシュには心当たる節があった。

 

「他の誰かが携帯電話を使ったのでなければ、皇帝のギアス(記憶改竄)を受けたんだろう」

 

 とまでは、シャルルのギアスがかけられた相手の記憶をある程度思い通りに改変できることを知っていればルルーシュでなくとも直ぐに思い至る。

 

「俺もゼロや皇族だったことを忘れ、妹ではなく弟しかいないと誤認させられていた。奴のギアスなら一部の記憶を消すことぐらいわけないが」

「何故そんなことをしたか、ですね」

 

 同じ答えに辿り着いたジェレミアもその疑念にぶち当たる。

 

「ナイトオブラウンズになってからなら分かるが、話を聞くに九年前からとなるとますます分からん。アールストレイム家がそこまで重要とは思えんし、ナイトオブシックス…………アーニャは他に何か言っていたか?」

 

 ギアス(シャルル)による被害者という見方が加わってくると画一的に敵と見なすことも出来ず、ルルーシュも呼び方を変える。

 

「え? うーん、今でも記憶がずれることがあるとかも言ってた」

「なに?」

 

 ルルーシュの眉がピクリと動く。

 何故ならばシャルルのギアスを受けているだけでは説明できない症状だったからである。それほどに何度もギアスを受ける必要性があると思えず、何か他の要因かと思考が走る。

 

「中華連邦で戦った時も、いきなり…………で遮っちゃったから続きは分からないけど、これってなんだろう?」

 

 ルルーシュもジェレミアもシャルルのギアスで説明できない症状に返す言葉を持たない。

 

「何か分かるか、C.C.?」

「…………シャルルのギアスが原因とは一概には言えない状況なのは確かだろう。後は何とも言えないな」

 

 9年前、記憶がずれる、中華連邦…………一連の単語を頭の中に浮かべて正解に辿り着いたC.C.は敢えて真実を口にしなかった。

 ルルーシュも気づかず、話を続ける。

 

「C.C.でも分からないとなると、後は俺がギアスをかけて聞き出すのが一番手っ取り早いが」

「やっぱり難しい?」

「ナイトオブラウンズの前でギアスを使うのは避けたい。万が一がないとは言い切れんからな」

「そっか……」

 

 ギアスはその力の関係上、ナイトオブラウンズの中でも知る者は少ないとしても、残念そうなシャーリーには申し訳ないが今のルルーシュにはアーニャの為に危険を冒す理由がない。

 

「ブリタニアを下してギアスを使うタイミングがあれば吝かではない」

「素直じゃない奴」

 

 何も出来ないと気落ちした表情のシャーリーに気を回したルルーシュの対応にC.C.が苦笑する。

 

「コホン…………現状ではその未来に到達する可能性は低い」

 

 切り替えるように咳払いをしたルルーシュがC.C.を睨み付けるように見る。

 

「ブリタニアの動きは皇帝不在を示している。俺達と違ってあの空間に取り残されたようだが」

「シャルルもコードの持ち主だ。一時的に戻って来れないに過ぎん」

 

 ぬぅ、と以前にも聞いた内容にルルーシュは眉に皺を寄せて唸る。

 

「あの空間、Cの世界だったか…………のことは良く分からんがギアス嚮団にあった扉と神根島の扉は良く似ている。他にもあるのか?」

「世界中に幾つかな。ブリタニアにもあるから今頃、お抱えのギアス研究者達が悪戦苦闘している頃だろうよ」

 

 V.V.とは別の研究者達を確保しているはずだと推測するC.C.に反論する者はいない。

 

「じゃあ、今にも戻って来てナナちゃんを人質にすることもあるってこと?」

 

 ルルーシュから一連の事情を聞いているシャーリーもブラックリベリオンの時から数えれば一年以上もナナリーと直接会っていないだけに心配も大きい。

 

「私としてはその可能性は低いと思うんだが」

「あの男ならば平気でやる」

「と、この男が頑迷に譲らん」

 

 軍人であったジェレミアからすれば、より効率的な思考をするルルーシュの意見に賛成なのだがシャルルと知己であるというC.C.の意見も無視できないので沈黙を選ぶ。

 

「隠し事の多い魔女の言うことを全面的に肯定できん」

「ルル」

 

 その言葉は流石に看過できないとシャーリーが名前を呼ぶ。

 

「すまん、C.C.。言い過ぎた」

 

 口が過ぎた自覚もあったルルーシュもバツが悪い表情で微かに頭を下げる。余人にとってはただ少し頭を傾けた程度にしか感じないだろうが、殊勝な態度を見抜いたC.C.は気にするなと言わんばかりに手を振る。

 

「隠し事が多いのは事実だが女の秘密を探ろうとするのは感心しないな」

 

 笑みを浮かべて諧謔を交えてしまうのは最早C.C.の癖なのだろう。

 

「皇帝達がしようとしているのは死者を含めた全人類の意識の融合で間違いないんだな」

 

 C.C.に付き合っていると話が脱線するので本題を切り出す。

 

「どういうこと?」

「シャーリーにも分かりやすく言うとだな、自分と他人を隔てる壁を取り払って、相手も自分であるという世界にするということだ」

「お前は俺で、俺もお前ということだろう」

 

 一発で理解したルルーシュと違ってシャーリーにはその説明でも分からないようで頭を捻っている。

 

「分かりやすく言うなら嘘に意味が無くなる世界だ」

 

 相手に理解してもらう為、C.C.は更に噛み砕いて説明する。

 

「そもそも人は何故、嘘をつくのか? それは己の内面だけは他者に透視されないという大前提があるからだ。他人には知られない自分だけの真実。それがあるからこそ、人は嘘をつけるし、嘘をつく必要性も生まれる」

 

 ここで自分と他人を隔てる壁が取り払われたらどうなるかを続ける。

 

「壁がなくなり、全ての人間が同じ『自分』を持つことになる。多くの意識が溶け合うことによって生まれた、たった一つの意識だけが人類全ての総意となる。そら、『自分』一人しかいないのだから嘘に意味がないだろう」

 

 イマイチ想像がつかないらしいシャーリーと違って、他人に知られたくない秘密の多いルルーシュは露骨に嫌な表情を浮かべている。

 

「嘘は他人がいて初めて成り立つ物。だが、現実的にそのような状態を受け入れられるものなのか?」

「そうは言うがな、ジェレミア。世界の質自体が変わり、人間という生物種そのものが生まれ変わるに等しい中で常識すら変わるんだ」

 

 大人としてより広義な視点で物を見るジェレミアにC.C.はとある人物が語ったことを思い出す。

 

「例えるなら今まで猿として生きていたのに突然、猫になるようなものと考えてくれ。猿として生きていた時の常識はなくなり、猫としての常識を拒絶できない。受け入れたくないという感情そのものが猿の常識であって、猫となってしまえば猫の常識に意識が切り替わる」

 

 そんなことが受け入れられるはずがないという意見自体が通用しなくなることにルルーシュは下げていた顔を上げる。

 

「空想のような世界だが、あんな思考で物理に干渉するような世界を造り出している時点で不可能とは言えんな」

「計算上では、とつくが」

 

 今改めて聞いたシャルル達がやろうとしている計画にルルーシュは少し遠い目をする。

 

「『自分』しかいないのならば、争いは無くなる。誰だって自分が痛い思いはしたくない」

「争いが激減するのはメリットの一つだな。もう一つのメリットは死者との邂逅がある」

 

 ピクリ、とシャーリーが反応する。

 

「人とは、集合無意識がつけた仮面。嘘の意味が無くなる世界を造るということは、元あった摂理()に代わるルールを造り出すということ。即ち神殺し」

 

 シャーリーの反応に何も言う資格の無いルルーシュはC.C.の話を座して聞く。

 

「細かい理屈は省くが、意識の共有が始まれば死者達の記憶や心の統合も為される。再び死者達と心を交わすことが可能になるというわけだ。シャルル達はこれをラグナレクの接続と呼んでいた」

 

 C.C.は基本的にルルーシュに聞かれたことには素直に答えている。聞かれたことだけ、には。

 

「アーカーシャの剣、コード、ギアス、三者三様の本質を合わせてCの世界に働きかけることで生者は意識の共有を果たし、死者の心や記憶は生者に寄り添い、世界はその状態で固定化される」

「失われた人達が戻ってくると?」

「少なくともその心はな。行き着く先は輪廻と個の否定、失われたものの再生及び固定。生者は一つになり、そして死者とも一つになる」

 

 ここで一度話を終えたC.C.は難しい顔で考えているルルーシュを改めて見る。

 

「シャルル達は嘘を嫌っていた。皇位争いで色々あって、その思想に行き着いたらしい。この計画を発動するには二つのコードが不可欠で、私は自らの自死の為に彼らに協力していた……」

 

 その世界が良いのか、悪いのかは誰にも判断が下せない。何故なら今の世界よりも傷つく人は少なくなるのだから。

 

「…………でも、私は寂しい世界なんじゃないかなって思う」

 

 この中で最もその世界を求めると思われたシャーリーが口にする。

 

「私も死んだお父さんと話はしたいよ。でも、その世界での優しさは他人を想っての物じゃない。どこまでいっても自分に向けられたもの。それって寂しいことだと思うんだ」

 

 言ったシャーリーが手を伸ばしてルルーシュに触れる。

 

「分かり合いたい、相手を理解したいって思うのは他人がいてこそだから…………ごめんね、分かり難くて」

「いや、十分だ」

 

 指先が少し交わる程度の温もりにルルーシュは強い目を取り戻す。

 

「人は何故、嘘をつくのか。それは何かと争う為だけじゃない。何かを求めるからだ」

 

 何時もの流れるような弁舌ではなく、一つ一つ自分が口にする言葉の意味を確かめるようにゆっくりとした口調で続ける。

 

「ありのままで良い世界とは変化がない。生きるとは言わない。完結した閉じた世界。俺は嫌だな」

 

 想像しても嫌悪しか湧かない世界と、今の世界を想う。

 

「俺はずっと嘘をついていた、生きてるって嘘を。名前も嘘、経歴も嘘、嘘ばっかりだ。全く変わらない世界に飽き飽きして、でも嘘って絶望で諦めることも出来なくて…………」

 

 何のことはない。ルルーシュはルルーシュである限り、足を止めることなど決してあり得ないと再認識しただけ。

 

「俺は俺である限り、奴らの世界を否定する。やることは何も変わらない」

 

 知ったところでルルーシュの行動には何の影響もない。より具体的に指針を得たに過ぎない。

 

「さしあたって、皇帝が戻って来たらナナリーが危険だ。他の事に気は回せん。超合衆国の成立を急がせているが、こればかりはどうにもならん」

「ナナリー様を誘拐する案もありましたが総督府の警備は厳重です。仮に忍び込めたとしても連れ出すのは不可能に近いでしょう」

「仮に成功しても、今となってはナナリーも公的な立場を得ている。今までのように隠れ住むことは出来ん」

 

 ナナリーが皇女に戻り、エリア11の総督として目覚ましい活躍を果たしたことでルルーシュが取れる選択肢が自ずと狭まってしまっている。ジェレミアが言うように総督府の警備を潜り抜けるのは難事で囚われている紅月カレンの居場所すら分かっていない状態。

 

「スザク君に協力してもらうのは?」

 

 ああでもない、こうでもないと三人が意見を出す中、シャーリーがどうしてこんな簡単なことを思いつかないのかと軽く言った。

 

「あいつは俺を皇帝に差し出してナイトオブセブンになった男だぞ。協力など」

「私はスザク君ならナナちゃんを助けてくれるって信じてる」

 

 裏切り、裏切った仲であるからこそルルーシュがスザクに頼ることなどありえない。C.C.もジェレミアもルルーシュの心情を良く理解しているからこそ、その選択肢を無意識に排除していた。しかし、シャーリーにとっては事情を聞いても、スザクは学友でルルーシュの友達という意識が強くナナリーと仲が良かったのも知っていた。だからこそ、臆せずにルルーシュにとっての禁じ手を勧めることが出来た。

 

「ルルが心を込めて話せば、きっと助けてくれるよスザク君は」

 

 このまま超合衆国の話を進めたところでナナリーを奪還するまでは常に危険が伴う。合理的に行くならば尤もな選択に、ルルーシュは直ぐに返答できない。

 

「…………少し考えさせてくれ」

「うん」

 

 今直ぐに差し迫った危機ではないから即答できないルルーシュに小指を絡めたシャーリーは優しく微笑んだ。

 懊悩しているルルーシュに気付かれないようにジェレミアに近づいたC.C.がそっと囁く。

 

「ジェレミア、頼みがある」

 

 その様子から主君には言えない秘密事と察したジェレミアが頷く横で、C.C.は悲し気な眼差しから決意を滲ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルルーシュ扮するゼロが仕掛ける超合衆国成立に向けて外交合戦を繰り広げているシュナイゼルは珍しい客を迎えていた。

 

「これはコーネリア。今まで行方知れずだった放蕩皇女が突然の登場だね」

 

 ブラックリベリオン後から自らの意志で行方を晦ませていたコーネリアが自らの前に突如として現れたことに驚きつつも、如才なく出迎えたシュナイゼルは朗らかに微笑む。

 

「…………帝国宰相にお話があります」

「聞こう」

 

 姿を晦ませていたのはユーフェミア関連のことだという推測は容易く、今になって現れた理由を聞くこともなくシュナイゼルはコーネリアに先を促す。

 

「ゼロはルルーシュです」

「ルルーシュというと、9年前にエリア11で死んだあのルルーシュ?」

「兄上ならば不審に思ったはずです。ナナリーが生きていたのならルルーシュがいないのはおかしいと」

 

 驚きはある。しかし、寧ろあの異母弟ならばと納得する面も多々あり、シュナイゼルに表面的な驚きは見られない。シャルルによって記憶からV.V.の存在を消され、整合性を保つ為にギアスの根源がルルーシュであると意図せずに置き換えられたコーネリアはシャルルの予想を超えた行動をとる。こうしてシュナイゼルの下へ向かうなどシャルルの予定にはない。

 

「ブラックリベリオンではぐれたと聞いているけどね。裏はあると思っていたが」

「ルルーシュはゼロです。今も、そしても昔も。ギアスという力を使ってユフィを貶めた憎き男……っ!」

 

 暗い目で見つめてくるコーネリアの内にある記憶がシャルルによって書き換えられていることなど気づくはずもない。

 

「詳しい話を聞かせてくれるかい?」

 

 その後、先代のゼロを捕まえた功績でナイトオブラウンズになったスザク、ルルーシュとの過去の繋がりがシュナイゼルの調査に明らかとなり、監視がつけられるようになるのに時間はかからなかった。

 

 

 




アーニャの秘密に迫るのもシャーリーの人徳がある故。

9年前にアリエス宮にいた、記憶と記録に齟齬が出る、ナイトオブラウンズ、中韓連邦・・・でC.C.が何かに気付いてジェレミアに頼みごとがあるようです。

この時点でシャルルの目的を知るルルーシュ。でも、肝心なところは教えてもらえず。

シャルルはV.V.のコードを奪う前にコーネリアから数日分の記憶と、V.V.のことを忘れさせられている。
記憶の整合性の関係で「全てルルーシュが悪い」になってしまい、いなくなったシャルルではなくシュナイゼルを頼ったコーネリア。

はてはて、どうなるのか。

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