コードギアス~死亡キャラ生存if√(旧題:シャーリー生存√)~   作:スターゲイザー

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お気に入り2000件突破、ありがとうございます。
どんどん一話が長くなってきた本編作成の為、中々感想に返信が出来なくて申し訳ないです。





第九話 『自分』

 

 

 

 第二次トウキョウ決戦が行われている最中、第九十八代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは直属の部下と子飼いのギアス嚮団員と共に座乗艦であるグレートブリタニアで神根島に降り立っていた。

 フレイヤの発射によってトウキョウ租界が消滅し、シュナイゼル・エル・ブリタニアが勝手にエリア11を離れてクーデターを起こそうとシャルルは俗事の一言で片づけていた。

 

「シュナイゼルめ、このタイミングで皇位簒奪とは、まさか気づきおったか?」

 

 グレートブリタニアのブリッジにある皇帝専用の椅子を玉座のように座りながら、テレビ放送で流されている即位式でのシュナイゼルの姿を見てシャルルは微かな危機感を覚えていた。

 

「いや、あ奴はギアスのことを知らん。仮に気づいたとしても、全てを知る頃には手遅れとなっている」

 

 シャルルが何かを(・・・)していることは察しているだろう。しかし、何を(・・)しているのかまでは分からないはず。

 故にシュナイゼルの牙は決してシャルルに届くことはない。

 勝利するのは自分だと確信しているシャルルは改めてモニター画面に映るシュナイゼルを見る。

 

「子供のようにはしゃぎおって。仮面を被ることも忘れたか」

 

 ブリタニアの者達はシュナイゼルが第二皇子、宰相としての仮面を被った姿しか知らないから気が触れたかと驚愕するだろうが、シャルルにはただ子供が初めて手にしたオモチャに浮かれて遊んでいるようにしか見えなかった。

 

「遅すぎた目覚めだったな、シュナイゼル。ゼロと遊んでいるがいい」

 

 今更、『自分』を獲得しようと逆に振り回されるだけだろう。理解すれば予測も容易い。

 以前のシュナイゼルならば皇帝になった段階でシャルルを確実に排除する。しかし今のシュナイゼルは生まれた自分の欲求に抗えない――――――――小さな子供のように。

 

「後少しあれば儀式を始められる。戦争という名のゲームはおしまいよ」

 

 ゼロを擁する黒の騎士団の猛攻を受けて、エリア11改めて日本に戻った神根島にいるシャルルにシュナイゼルが手を出すことは難しい。

 敵対国である合衆国・日本に対して再び戦争を仕掛けるようなもので、仮に戦闘のどさくさに紛れてシャルルを狙うにしても確実性は低いし後回しにするだろう。ゼロ=ルルーシュにしても今は内政に力を入れなければならない時期だから、神根島にシャルルがいることに気付く頃には全てが終わっているだろう。

 

「陛下、嚮主V.V.が残した資料によると、やはりこのポイントで儀式を行うのが最適です。ですが」

「やはりC.C.のコードが無ければ完全な接続は出来んか」

「はい、陛下のコードだけではラグナレクの接続だけを行うことは可能ですが、その場合は酷く不安定になると予測されます」

 

 卿主であったV.V.ではなくシャルルの子飼いであるギアス嚮団員の報告を受け、シャルルは数秒だけ思考の渦に沈む。

 

「C.C.の行方は分かっているが、こちらからは手を出せん。いっそ接続してしまえば、奴も協力しよう」

 

 シャルルはC.C.が死にたがっていることを知っている。だからこそ、自分達の前から姿を消した事、未だに姿を見せぬことに疑念を覚えつつも、最終的な協力はするだろうと確信している。

 

「儀式は何時になったら始められる?」

「調整が必要になりますので、一週間と少しの時間を頂ければと」

 

 シュナイゼルが恐怖によってブリタニアを支配して即位し、ゼロに会談を申し込んだのをテレビ放送で見ていたシャルルは計算する。

 

「あ奴らに協力されると厄介だが、決裂すれば丁度良い頃合いか」

 

 伊達に世界に覇を唱えるほどにブリタニアを強大な国にした皇帝ではない。ルルーシュやシュナイゼルに負けず劣らずの頭脳を駆使して弾き出した目算にシャルルは笑みを浮かべた。

 

「良い。そのまま進めろ」

「はっ」

 

 シャルルにとって一番厄介なシナリオはゼロがシュナイゼルと手を取り合って敵となることだが、これはないと予測している。

 

(そんなことをすればゼロは超合衆国を追放されるだろう)

 

 幾ら皇帝が代替わりしようとも、シュナイゼルはE.U.を切り崩した張本人。中華連邦にも手を伸ばしていたことを考えれば手を組むという考えを放棄せざるをえないだろう。

 

「アーカーシャの剣の起動実験を行います」

 

 ギアス嚮団員の報告後も特に変化は見受けられない。

 

「起動、成功しました」

 

 変化があるのは神根島にある黄昏の間なのだからシャルルは無事に成功したことを喜ぶ。

 

「ふっ、こんな古の装置を使うことになるとはなあ」

 

 ブリタニアを乗っ取ったシュナイゼルの所為で最新の装置がある中華連邦の領土内にある嚮団本部が使えない以上、調整の為に来ていただけの神根島で儀式を行わなければならなくなった。

 

「ラグナレクの接続が成れば古い世界は破壊され、新しい世界が創造される! 賢しき者共よ、愚か者達よ、それまで戦争のゲームに踊っているがいい!!」

 

 シャルルは悲願の達成を前にして、高揚するままに全てを嘲笑った。

 

 

 

 

 

 シュナイゼルに協力せず、解放された日本に置き去りにされたアーニャ・アールストレイムは虜囚の身となっていた。

 とはいえ、手錠をされて牢屋に入るなどではなく、高級なホテルの一室に軟禁状態にある。

 

「シュナイゼル殿下、今は陛下か…………と戦う戦力として期待されているのだろうけど」

「俺達は敵だろうに」

 

 同じ部屋で軟禁されているジノ・ヴァインベルグは豪華なインテリアに特に感銘も受けた様子も無く、一般人では一生かかっても買えそうにないソファに力なく凭れかかっている。

 在日ブリタニアの基地の牢で目覚めたが、それはもう暴れたらしいとはアーニャも後で聞いたジノは今は反動で無気力状態になっている。

 

「アーニャはどう感じた、ゼロを」

「どう、とは?」

「仮にも敵だろ、俺達。にも関わらず、俺達を味方に引き込みたい思惑ってやつだよ」

 

 黒の騎士団というよりはゼロの思惑として、ナイトオブラウンズであったアーニャとジノという戦力を有効に活用したいという思いがあるのかもしれない。

 

「敵の敵は味方とか」

「そうか?」

 

 その辺り、特に興味も無いアーニャとしては一般論を述べたつもりだがジノは不服そうだった。

 

「確かに俺達は皇位を簒奪したシュナイゼルとスザクを認める気は無い。だけど、だからといってゼロの味方じゃないだろ」

 

 アーニャはともかくとして、ジノは生粋の貴族で騎士だ。

 シュナイゼルとスザクと戦う気は十分にあるが、ジノは自分がブリタニアの人間であることに疑問の余地はない。

 

「当面の敵はシュナイゼルだから」

「その為に俺達も利用しようってか?」

「多分」

 

 それこそ敵の敵は味方ということなのだろう。共通の敵であるシュナイゼルと戦う間は共闘できると。

 

「…………決めた。ゼロに協力するよ」

 

 暫しの黙考の後、ジノが事実上ブリタニアと戦うに等しいその言葉にアーニャは僅かに目を見開いた。

 

「いいの?」

「今ならさ、カレンの気持ちが分かる気がする」

 

 生粋の貴族であり騎士であるジノが祖国と戦う決断をした背景には、トウキョウ決戦でカレンがシュタットフェルトではなく紅月を選んだのを理解してしまったから。

 

「あの時点ではまだブリタニアが有利だった。イレブン…………今は日本人か、を選ぶよりもシュタットフェルトを選んでいた方がずっと良い生活が送れたはずだ」

 

 仮定に意味はないけれども、カレンはそんなことを理由に名前を選んだのではなく魂に従って日本人であることを選んだ。

 

「俺はジノ・ヴァインベルグとして、そしてブリタニア人として今のブリタニアは受け入れられない」

 

 恐怖で人を従わせるシュナイゼルを認められないとジノは戦う決意を固めた。

 

「う……」

 

 ジノが決意を固める最中、ジノの後ろの椅子に座っていたアーニャは頭を抑えて苦し気な声を上げた。

 

「どうかしたか、アーニャ?」

「なんでもない」

 

 しかし、ジノが振り返った時にはアーニャは平静そのもので、今まで弄っていた携帯電話を机の上に置く。

 

「しかし、恐怖で支配出来るのは一時的だろうに、本当にシュナイゼルは何を考えているのかね……」

 

 数日後には会談場所に指定したアッシュフォード学園にやってくるシュナイゼルの思惑を推測しているジノの後ろで、アーニャもシュナイゼルが映るテレビ画面を見る。

 

「…………そう。始めるつもりなのね、シャルル」

 

 決して常のアーニャが浮かべることのない、ニヤリと楽し気に笑うその内面は別人のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トウキョウ租界の消滅に伴って出来たクレーターに落ちないように外円部にはフェンスが張り巡らされ、アッシュフォード学園の敷地との間は十メートルほどしかない。

 神聖ブリタニア帝国の第九十九代皇帝に就任したシュナイゼルと、超合衆国の発起人にして黒の騎士団の創設者兼CEOのゼロ。

 確実に今後の世界の行方を左右する二人の会談に、アッシュフォード学園には多くの人々が押し寄せていて黒の騎士団が厳戒態勢で警備に臨んでいた。

 

「こちらがブリタニア皇帝シュナイゼル陛下が指定されたアッシュフォード学園です」

 

 奇しくも嘗ての学園に取材に訪れることになったミレイ・アッシュフォードがテレビを通して語り掛ける。

 

「本日ここで、黒の騎士団CEOであるゼロとの会談が――――ブリタニアの皇帝専用機が見えました!」

 

 人の身長以上のブロックを置くことで物理的に入り口が封鎖されているアッシュフォード学園の上空にブリタニア皇帝専用機が現れた。

 

「なあ、あれにブリタニアの皇帝が乗ってるんだろ。撃ち落としたら駄目なのか?」

「駄目に決まってるだろ」

 

 国際常識を無視した発言をする玉城真一郎の腹に肘を叩き込んだ杉山賢人は呆れ顔を浮かべる。

 万が一を考えて斑鳩で待機している扇要と南佳高らを除けば、黒の騎士団の主要メンバーの殆どがアッシュフォード学園に集まっている。警備の責任者を命じられた杉山も玉城の気持ちが分からないでもなく降りて来る皇帝専用機を見上げる。

 

「外交ルートを通して正式に申し込んできてる会談だ。下手な行動、言動が開戦の理由になる。警備に専念しといた方が良い」

 

 迂闊な一言だけでも多くの人が死ぬ戦争に発展するとなれば、一挙手一投足すら気を使わなければならない。

 警備責任者として下手なことになれば物理的に首が飛びかねない立場にいる杉山が、玉城だけでなく周りにも聞こえるように少し大きめに言ったのはそれが理由だった。

 

「俺、口噤んどくわ……」

 

 一番迂闊な行動に出やすい玉城が自粛してくれるならば杉山も安心である。

 

「しかし、敵地のど真ん中に皇帝が自ら乗り込んでくるなんて」

 

 護衛のナイトメアも無く、皇帝専用機から真っ先に降りて来た第九十九代皇帝シュナイゼルの姿はテレビで見た時と何ら変わりない。

 そのシュナイゼルに予定通りに近づく黒の騎士団の制服を着た者。

 

「黒の騎士団所属の紅月カレンです。会談場所には私が案内させて頂きます」

「お願いするよ」

 

 皇帝らしく鷹揚に頷いたシュナイゼルにカレンは感情を抑え込みながら、その目だけは敵を見るものだった。

 

「お付きの方は別室となりますが、よろしいでしょうか?」

 

 次いで皇帝専用機から遅れて来たカノン・マルディーニを見据えている間に、カレンの後ろに朝比奈省吾とその部下達がやってくる。

 

「ああ、カノン」

「こちらへ」

 

 シュナイゼルが頷いた後、朝比奈が先導してカノン達随行員が別室へと案内されていく。

 そしてカレンも会談場所に案内する為に先に立って歩き、後ろにシュナイゼルが付いて来るのを感じながら進む。

 

「ところで、ゼロは壮健かな」

「…………どういうことでしょうか?」

 

 学園内に入ったところで唐突にシュナイゼルが発した問いの意味が理解できずにカレンは聞き返してしまった。

 

「我が軍が放ったフレイヤによるトウキョウ租界の消滅の一番近くにいたんだ。気にして体調を崩しているならフルーツでも送らなければと思ってね」

 

 どこの口で、とカレンは咄嗟に言いそうになったのを強い意志で自制する。

 そして直ぐに疑問を覚えた。

 

(どうしてゼロが気にしていると考えたの?)

 

 言っては何だがトウキョウ租界で暮らしていたのはブリタニア人が多い。日本人とされているゼロが博愛主義でないことは良く知られているので、シュナイゼルの言葉は些か不自然だった。

 

「それはブリタニアの非を認めるという意味でよろしいのでしょうか」

 

 情報が足りないので、歩きながら揺さぶりの問いを放つ。

 

「ゼロのことを心配しているんだ」

 

 非を認める気は更々ないようで眉をピクリと上げたカレンは、やはりゼロに関心を寄せているシュナイゼルの狙いが読めない。

 

「特に何も問題はありません」

 

 としか、自分自身でも頭が良いとは思えないカレンはそう言うことしか出来なかった。

 

「――――ナナリーが巻き込まれたのに、ゼロに問題が起こっていないのならそれでいい」

 

 シュナイゼルが何を気にしているのかを理解したカレンが振り向きかけたところで、到着していた会談場所に選ばれた生徒会室の扉が内側から開かれてゼロが姿を見せた。

 

「ようこそ、シュナイゼル陛下」

「こちらこそよろしく頼むよ、ゼロ」

 

 結局、カレンはシュナイゼルが何を掴んでいるのかをゼロに伝えることも出来ないまま、無情にも目の前で部屋の扉が締められる。

 

「C.C.!」

 

 何も出来ないままは嫌だったカレンは同志であるC.C.に助けを求めるべく、彼女がいるというクラブハウスに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレンが学園内を爆走している頃、短い間ではあったが暮らしたクラブハウスのルルーシュが使っていた私室のベッドに寝ころんでいたC.C.は、一人になる瞬間を待って遂に現れた者を出迎える為に体を起こした。

 

「直接、会うなんて久しぶりね、C.C.」

 

 まだ高級ホテルの一室に軟禁されているはずのアーニャが部屋の入り口に立ち、決して彼女が浮かべることのない表情をしていた。

 

「また他人の体を勝手に使っているのか――――――――――マリアンヌ」

 

 違う名前で呼ばれようとも、そちらが真名であるかのように笑みを浮かべたアーニャはニヤリと笑った。

 

「仕方ないじゃない。魂だけの私はこの子の体を使わなければ、表立って動くことも出来ないんだから」

「一応、他のナイトオブラウンズと軟禁中だろ。確かジノとかいった奴と」

「こう、首をキュッとやって気絶させてきたわ。肉体鍛錬が足りてないんじゃない?」

 

 私の頃よりも質が落ちてるわ、と同じナイトオブラウンズを大した抵抗もさせずに気絶させ、見張りの騎士団員も寄せ付けずに辿り着いたであろう人物を前にしてC.C.は恐れるでもなく呆れた表情を浮かべる。

 

「こんなところまでやってきて、そんなにルルーシュが心配か」

「あら、私がそんなに理想的な母親だと思っていたの?」

 

 アーニャの裡に潜む別人物の魂――――ルルーシュとナナリーの母にして、前皇帝シャルルの后妃であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは悪戯気に笑った。

 

「思ってはいないが、ならどうしてここに?」

 

 ルルーシュのベッドに座りながらマリアンヌと決して目を合わせることをせず、C.C.は寧ろ無感動に訊ねる。

 元よりつっけんどんな対応をすることの多いC.C.の珍しくない態度を気にしないマリアンヌは腰に手を当てた。

 

「あなたが今でも私たちの味方なのか知りたくって」

「なにが言いたい」

 

 二人の間にあったのは、離れていた時間に等しい溝だった。

 

「C.C.、私達から離れたのは何故?」

 

 ルルーシュが生まれる以前に彼女らは出会い、同じ目的を胸に抱いた者同士だったはずなのに、マリアンヌの肉体が殺されたアリエス宮の悲劇を切っ掛けにC.C.は姿を消した。

 

「シャルルなら、あなたの願いを、死にたいという思いを叶えてくれたのに」

 

 マリアンヌは思い違いをしている。C.C.は彼らの理想に共感したわけではなかった。結果的に死ねるならなんでも良かったのだから。

 

「マリアンヌ、どうしてV.V.はお前を襲ったのだと思う?」

 

 どれだけ親しくなろうとも、幾らマリアンヌに振り回されようとも、V.V.とコードについて語ろうとも、シャルルのルルーシュ達に対する不器用過ぎる愛情を向ける姿を見ようとも。

 

「さあ? 私がいるとシャルルが変わってしまうとか言ってたけど」

 

 C.C.は外様だった。志が同じなはずの彼らのことを外から見ていたからこそ分かることがあった。

 

「そうだな。アイツは馬鹿だよ」

 

 きっと、元より『自分』しかないマリアンヌには理解出来ないことだろう。変化に取り残される怖さも、変わることが出来ない自分に対する絶望も。本人も自覚していなかったV.V.の秘めた想いも、きっと知りもしない。

 

「報いは受けたわ。一度は見逃してあげたのに、またルルーシュに刺客を向けたんだもの」

 

 マリアンヌをその手にかけたV.V.はその死に関わっていないと恍けた。嘘の無い世界を共に誓ったシャルルに。

 一度は許そう。肉体は死んだとはいえ、肉体の死を切っ掛けとして人の心を渡るギアスに目覚めたマリアンヌの精神はアーニャの中で生きている。だが、二度目はなかった。

 

「だから、シャルルはV.V.のコードを奪った」

 

 それは愛故の行動なのだろうかとC.C.は思った。

 裏切ったと言うにはC.C.はV.V.の気持ちが理解できてしまったから。

 

「後はC.C.のコードさえあれば完全なラグナレクの接続が出来る。今は私にもシャルルがどこにいるのかは分からないけど、何らかのアクションがあるはずよ。後はあなたの願いを叶えたらいいわ」

「…………お前は引き止めたりしないんだな」

「死んだ人とも一つに成れるんだもの。そんな必要はないわ」

 

 その言葉が決定的だった。

 

「私はルルーシュを利用していた。全てを知っていながら私自身の死という果実を得るために、あいつが生き残ることだけを優先して……」

 

 ルルーシュの枕を取って抱きしめたC.C.は懺悔するように告白する。

 マリアンヌの死の真相も、シャルル達が望んでいることも、自分達が日本に送られた理由も、全てを知っていながら話すことなく、ルルーシュが破滅へと進んでいくのを期待して待っていた。

 

「永遠の時を生きる魔女が後悔を?」

「懺悔だよ。魔女と嘯っていながら人間らしさを捨てきれなかったようだ」

 

 今でも死を望む気持ちは変わらない。変わらないが、前よりも切実ではなくなった。

 

「今となってはスザクに共感を覚えるよ。あいつは私に似ていた」

 

 父・ゲンブを殺したスザクはある一点においてC.C.と良く似ていた。

 

「あの主君を裏切り続ける男にあなたが似てるって? どこが?」

「死を望みながら死ねないところだ。だが、今は違う」

 

 孤独だったルルーシュが少しずつ皆に歩み寄り、一丸となって戦っていく姿は理想を語り合っていたシャルル達と比べても美しかった。その輪の中に確かにC.C.もいたのだ。

 決定的に関係が変わったあの一夜の逢瀬を思い出す。

 ルルーシュだけでなくカレンとも感じた確かな心の繋がり。愛を与えられるのではなく、愛を与え合える関係はとても心地が良かった。

 

「今の私は生きていたい。ルルーシュが見るものを私も共に見たいんだ」

「C.C.、あなたは……」

 

 枕をベッドに置き、立ち上がったC.C.は信じられないと目を見開いているマリアンヌと視線を合わせる。

 

「…………女になったのね。まさかあなたからお義母さんと呼ばれる羽目になるなんてね」

 

 同じ女であるからこそC.C.が変化した理由に得心がいったマリアンヌは鼻を鳴らす。

 

「ルルーシュに付いて、私達を裏切るというの?」

「裏切る?」

 

 ルルーシュに付くとはそういう意味であるが、ここに来てもマリアンヌの思い違いにC.C.は苦笑を浮かべようとして失敗した。

 

「違うだろ、マリアンヌ。私はお前達の願いに賛同しただけで、別に理解者ではなかった」

 

 裏切る以前の問題だ。嘘の無い世界という結果に至る過程で生まれる死という副産物が目的であるC.C.は同志ではなかった。

 契約によって互いを利用し合う。離れた場所から見ればそんな関係だった。

 

「ルルーシュの目的であった復讐は、ナナリーと…………殺されたマリアンヌ、お前の為だったんだよ。その死の真相を暴き、報いを受けさせる為に」

 

 ルルーシュにとって、マリアンヌは良き母親だった。無為に殺され、シャルルが碌な捜査もしなかったことから全てが始まった。

 

「私を殺したV.V.はもう死んでる。ナナリーのことも、いいえ今までの全てを知ればルルーシュも私達に協力してくれるはずよ」

 

 親である自分達に逆らうはずがないとマリアンヌは疑いもしてない。

 マリアンヌには分からないだろう。ルルーシュがどれだけの思いで行動に移し、そして失って来たかを。

 

「知れば傷つくだけだ」

「必要があってのことよ」

 

 V.V.の計画に巻き込まれて、ナナリーは足の自由を奪われた。

 

「偽りの目撃者に設定されたナナリーは真実を隠すための駒でもあったけれど同時に不安要素でもあった。ナナリーを情報弱者にして真実に辿り着く可能性を低くしてV.V.から狙われるのを防ぐ為にシャルルのギアスで記憶を変えて光を奪うしかなかった」

 

 必要だったから。仕方なかった。だけど、本当にそうなのか。

 

「シャルルが二人を日本に送ったのも、私の暗殺事件に深く関わり過ぎたナナリーをV.V.から護る為よ」

 

 敵地であった日本に送られれば、二人がどのような扱いを受けるのか分からなかったはずがないのに。

 

「じゃあ、どうして日本に侵攻した? 護る為と言いながら危険に晒したのは何故だ?」

 

 C.C.は理由を知っている。いや、マリアンヌを良く知るC.C.は理解していた。

 

「計画を優先したお前達は、死んだ人とも一つになれると知っていたからルルーシュやナナリーが生きていようがいまいが、さして関係なかったんだ」

 

 マリアンヌは世間一般的な母親としての愛情をルルーシュとナナリーに対して持っていなかった。シャルルが彼なりに不器用な愛情を持っていたから、二人を愛していたに過ぎない。

 『自分』しかないマリアンヌは女としてシャルルを愛せても、母親として子供達を愛せない。

 

「だけど、問題が起こった。ラグナレクの接続にはV.V.のコードだけでは足りない。だが、私はお前達と共に歩む気は無かった」

 

 そのことが分かったマリアンヌは、Cの世界を通してC.C.に提案した。

 

「ルルーシュを育て上げ、利用しようと」

 

 ブリタニア皇族の中でも随一のギアス資質を持つルルーシュのことを教え、契約していたマオでは己が目的を果たせないと諦めたC.C.は口車に乗った。

 ルルーシュがC.C.の願いを果たせたらそれで良し。その場合はルルーシュを計画に参加させる。願いを果たせなければ、もう一度シャルル達に協力する。そういう取引をした。

 

「一度捕まったのにルルーシュがアッシュフォード学園に戻されたのはその為だ」

 

 ブリタニアに捕まったルルーシュがエリア11に戻されたのも、その取引があったから。

 スザクやV.V.に怪しまれないように、機密情報局に監視させていたが厳重である必要も無かった。マリアンヌ達にとっては、ルルーシュをC.C.の下に帰せれば良かったのだから。

 

「こんなことをルルーシュが知れば壊れる」

 

 愛する母と憎むべき父は最初から結託し、自分を利用して目的を達成しようとしていた。

 シャルルとマリアンヌと、そしてC.C.の掌で踊って数多の命を奪い、人生を狂わせてきた呵責はルルーシュを壊しかねない。

 

「その前に私がお前を殺そう」

 

 真実の重みがルルーシュを押し潰すのならば、そんな真実を葬ることをC.C.は決めたのだ。

 

「出来るというのあなたに?」

 

 アーニャの肉体を殺されればマリアンヌは他人の体に渡る。しかし、この場にいるのはマリアンヌとC.C.だけ。コードの持ち主であるC.C.にギアス能力は効かない。

 しかし、マリアンヌは焦りも慌てもしない。

 マリアンヌの体に比べれば格段に劣るとはいえ、アーニャもナイトオブラウンズ。格闘技を修めているわけでもなく、身体能力は同年代の少女と大差ないC.C.に後れを取るはずがない。

 だからこそ、C.C.の意味があるとも思えなかった話に付き合ったのだ。

 

「知っているか、ギアスは消せるんだ」

 

 V.V.はギアス能力者に対する切り札とでも呼ぶべきギアスキャンセラーをマリアンヌにもシャルルにも秘密にしていたようだ。

 

「何を――」

 

 隣室のナナリーの部屋で待機していたジェレミア・ゴットバルトが発動していたギアスキャンセラーによって、警戒していたマリアンヌはギアスを解除されてCの世界へと帰って行く。

 肉体を殺され、その精神もまたV.V.が深く関わった力が殺した。

 

「さようなら、お前のこと好きだったよ」

 

 末期の言葉すら残せずCの世界へと帰ったマリアンヌが体から消え去り、力を失ったアーニャの体を抱き留めたC.C.は、シャルル達によって人生を捻じ曲げられたもう一人の被害者を哀れみながらルルーシュのベッドへと寝かせる。

 

「マリアンヌ様は逝かれたか」

 

 ただ一人、全てを話して協力してもらったジェレミアがドアを開けて室内に入り、眠るアーニャの姿を見下ろす。

 

「すまんな。お前には酷なことをさせた」

 

 Cの世界を通してマリアンヌから会いたいと言われたC.C.はルルーシュに残酷な真実を知らせぬ為にジェレミアに協力を求めた。

 

「…………マリアンヌ様は八年前に亡くなっておられる」

 

 ナナリーの部屋で全てを聞いたジェレミアは言葉少なに答えた。

 最初はジェレミアも真実を認めなかったが、語られた真実の重みに目を閉じて息と共に吐き出した。

 

「C.C.こそ、良かったのか? 友だったのであろう、マリアンヌ様は」

 

 幻想は幻想のままで、知らないでいることの方が幸せなこともある。今の主君であるルルーシュを想うことで気持ちを入れ替えたジェレミアが顔を上げて問いかける。

 

「自分でも言っていただろ。マリアンヌはもう死んでいたんだ」

 

 真実は闇に葬り去られる、C.C.の罪もまた。

 

「それでも私は選んだ。シャルルやマリアンヌではなく、ルルーシュを」

 

 ルルーシュと共にいる限り、罪の意識が消えることはないかもしれない。

 

「誰かの為に行動を起こす。これが人を愛するってことだろ」

 

 艶やかに微笑んだC.C.は、嘗て愛を求めた少女から愛を与える女性へと成ったのだ。

 

 

 




原作との変更点
・なんとかV.V.のコードだけでラグナレクの接続を行おうとしているシャルル
・ジノとアーニャ、ホテルに軟禁中。
・ジノ、黒の騎士団に協力する決意を固める。
・アッシュフォード学園でゼロとシュナイゼルの会談。
・このタイミングで動くアーニャ改め、マリアンヌ。
・クラブハウスで対峙するC.C.とマリアンヌ(と隣の部屋のジェレミア)
・ギアスキャンセラーによってマリアンヌはCの世界へ帰っちゃった。
・ルルーシュは母の本当の姿を知らない。


仮面を被り続けて『自分』のないシュナイゼル、『自分』しかないマリアンヌ。
シュナイゼルは『自分』を得て、マリアンヌは何も変わらなかった…………的なお話でございます。


本当ならばシュナイゼルとの会談を終える予定でしたが、長くなったので一度切りました。
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