アハーンジュルジュルレロレロレーン   作:宇宮 祐樹

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エディンバラと無茶苦茶濃厚なキスをするとき涎と雌の匂いの中にふとした煙草の匂いを感じるしそれに気づいたエディンバラは「お嫌いですか…?」って彼の胸元を優しく握るんだ 俺は詳しいんだ

 

 艦船少女たちにとって、煙草とはどのように映るのだろうか。

 工廠の裏にある小さな堤防へと続く道、片手に握ったジッポを暇つぶしに鳴らしながらそう考える。

 少なくともうちの艦隊にはそう言った話題を上げる者はいなかったし、実際に吸っているような光景も見たことはない。けれどその知識がないというわけではないらしく、一つすえば体に悪いだのヤニの匂いがするだの、一般的な嫌悪感は持ち合わせているらしい。

 いつ死ぬか分からないこんな状況に身を置いているのだから、煙草の一つや二つ吸わせてほしいものだが、彼女らも精神的には年頃の少女である。やっかいなのは何かと言うと、彼女らの気分が艦隊の士気にかかわってくることだった。

 

「これだから、ったく……」

 

 別に彼女らが嫌いだと言う訳でもない。喫煙が好きにできない当てつけだと言う事も、愚かながら理解している。

 ただ許せないのは、彼女らがそういった人間らしい意志を持っていることだった。

 

「……それをあいつらに言っても、無駄だというのに」

 

 やるせないというか、無意味だと言うか。

 だから俺は現実から目を背け、こうして逃げることしかできなかった。

 こじんまりとした堤防から見える海は、昼下がりの太陽に照らされながら、はらはらと淡い光を放っていた。その向こうの水平線はいつものようにまっすぐ続いていて、初夏の入道雲がぼんやりと青い空へ伸びている。

 形としては駅のホームに似ていた。数メートルくらいしかない細い幅に、工廠のほうに背もたれを向けているベンチがふたつ。その間には小さな銀色の筒が立っていて、その周囲には入れ損ねた煙草が落ちている。

 そして、そこに加わるもう一つの風景は――

 

「ほひ…………」

 

 いつものメイド服に身を包み、口の端に煙草をくわえながら、丸眼鏡の向こうの目を見開いているエディンバラの姿だった。

 エディンバラ。エディンバラ級のネームシップであり、あのベルファストの姉にあたる艦船である。しかしながら何と言うか、別に比較をするわけではないのだが、彼女は少し()()()()()()()()節があった。

 何かと忘れ物が多かったり、寮の部屋のカギをどこに置いたか忘れたりと、時にはお前の来ているメイド服はコスプレなのかと一石を投じたくなることもある。しかしながらそれに目をつむれば、ロイヤルのメイドの中でも一番親しみやすいというか、話していて疲れない少女でもあった。

 しかし。

 

「ちがうんです……ちがうんですよご主人さま…………」

「お前の主人になった覚えはない」

「これココアシガレットですから……ほら、噛めばおいしい、おいッ……お、ゲボ、苦ッ……」

「自爆してんじゃねーかしっかりしろ」

「だっ、だって……いいじゃないですか別に! 私たちがタバコ吸っちゃいけないみたいな決まりあるんですか!? あるなら出してみてくださいよ!」

「テンパりすぎだろ、少し落ち着け。別に何か言うわけじゃねえから」

 

 涙目になって叫ぶエディンバラにそう声をかけると、彼女はまた頬を膨らませたまま、ゆっくりと元のベンチへと腰を下ろす。灰皿を挟んだその隣へと腰を下ろして懐からケースを取り出すと、落ち着いたようなエディンバラはいつもの口調になって問いかけてきた。

 

「指揮官もここで吸われるんですね」

「ま、他の連中がうるさいからな。喫煙者はいつも身分が狭いよ」

「お点けしましょうか」

「いいよ。そこまで任せるつもりじゃない」

「でも指揮官と仲良くしとかないとバレちゃうかもしれないですし……」

「……別に他の奴に言う気も無いよ」

 

 というより今時マッチ派とは驚いた。

 取り出したマッチ箱を片手に持って、その中から一本を取り出すと、器用に中指と人差し指で端の方を持ちながら親指で先端の方を側薬へ押し付ける。そのまま親指を強く押すと、少し遅れて小さな火が灯り、彼女はそれを口の方へと持っていくと、口にくわえたままの煙草へとその火種を灯し渡した。

 ひゅ、と軽く腕を振ると、細く白い煙が夏の空へとたなびいていく。

 

「片手すごいな」

「え? あ、これです? 別に、手癖の問題だと思いますよ」

 

 いつもの彼女の様子からは思えないその手つきに、思わず声を漏らす。

 癖なのか、咥えた煙草をゆらゆらと上下に揺らしながら、エディンバラは何でもなく答えた。

 

「銘柄は何にしてるんだ」

「めいがら……? いや、煙草ってどれも煙草じゃないんですか?」

「ん?」

「えっ?」

 

 持っている箱を見たところポールモールのようだけれど、本人はそれといって気にしてないらしい。

 

「……すいません、銘柄とかあんまり気にしたこと無いんです。好きで吸ってるっていうより、その……吸わないとやってられないって感じですから」

「というと」

「逃げてるんですよ。やるせなくて。それが惨めな事も、いけないって事も分かってるのに」

「……聞こう。誰も居ないから」

 

 目を細めるエディンバラのその笑顔は今までみたことのない、とても儚げなものに見えた。

 

「私、これでもお姉ちゃんなんですよ? そりゃ、普段の生活がダメダメなのは知ってますし、アイツの方がメイドとしても出来がいいのなんて百も承知です。けど……それでも、私はアイツのことが大好きですし、辛いときや悲しい時は一緒になって、力になりたいと思ってるんです」

「妹思いだな」

「それが姉というものでしょう?」

 

 くすり、と少し自嘲の籠った笑みで、彼女はそう答えていた。

 

「アイツ――ううん、ベルはいつもなんでも一人で抱え込んじゃう子ですから。お姉ちゃんの私がそれを受け止めてあげないと、いつかいっぱいいっぱいになっちゃうかもしれませんし」

「ま、それはそうかもな。ベルファストは一人でなんでもしすぎなんだ」

「そうなんですよ。妹の癖に姉の私を頼ろうともしませんし、逆におせっかいしてくるしっ!」

「……心配か」

「とっても。もしかしたらいつか倒れちゃうんじゃないかって。そう考えると、夜も眠れなくて」

 

 だんだんと声は小さくしぼんでいって、とろんとした青い瞳もゆっくりと地面へ向けられる。打ちつける波の音が、ひどく大きく、まるで彼女へ伸し掛かっているようにも聞こえた。

 

「……ベルの姉は、私しかいないんです。だから、私が受け止めてあげないといけないのに、私ったらドジばっかりで……なにも、お姉ちゃんらしいことできなくって。それなのにアイツはそんなこと気にせずに、一人でなんでもこなしちゃうんですから」

「だから吸い始めたのか」

「ベルが悪いんじゃないんです。ただ……やるせなくなっちゃって。それで……こんなことに」

 

 ぽつりとつぶやいたエディンバラの横顔は、とても人間らしく俺の眼に映る。

 その時だけ初めて、彼女たちがこうして人間と同じ様な形を取っていることが、とても美しいことだと、そう思えた。限りなく人間に近い彼女に、俺は――おそらく、見惚れていたのだと、思う。

 

「ごめんなさい、こんなこと長々と」

「いや…………いい。そういった悩みを聴くのも俺の仕事だ。それに……」

「……それに?」

「……まあ、それを聴けて良かったと思う。その……何と言うか、安心したから」

「安心、ですか?」

「形だけの人間じゃなかった。お前らは……綺麗だよ。どこまでも」

「……口説いてます?」

「まさか」

 

 高鳴る鼓動を押さえつけるようにして、燻る煙を強く()く。その後に続く言葉は何もなく、けれどふと隣に目をやったその先では、煙草の箱を弄っているエディンバラの頬が、少しだけ紅くなっているように見えた。

 波も去り、ふたつの息遣いだけが、夏の海と空へと消えていく。いつもなら一人で眺めているこの光景が、どうしてかまた真新しいものにも見えた。

 そして、次に聞こえてくるのは――かつかつ、と一定のリズムを刻む足音で。

 

「あら、お二人もいらしたのですね」

 

 工廠の壁の裏からひょっこりと姿を現したのは、エディンバラの妹――ベルファストだった。

 

「べ、ベル!? あんた何しに来たのよ!?」

「姉さんと同じですよ。聴けば、ここでしか吸えないと言われたので……ご主人様も、ごきげんよう」

「別に楽にして構わん。喫煙所にそんなルールはないし、それに姉妹揃ってるんだからな」

「ありがとうございます」

 

 いつものしっかりとした調子とは違い、姉のようにおっとりとした笑みを浮かべているベルファスト。その右手には小さな緑の箱が握られていて、それに気づいたエディンバラが驚いたような様子で立ち上がった。

 

「ちょっと待って、あんたも吸ってるの? それ、体に良くないのよ? 今すぐやめなさい」

「姉さんもそれは同じでしょう。それに、憧れの姉を真似る妹は嫌いですか?」

「う、何よその言い方……まるで私が悪いみたいじゃない……」

「姉さんは何も悪くありませんよ。隣、失礼しますね」

 

 ひょいひょいと言葉を交わしながらベルファストがエディンバラの左隣へと腰を下ろす。そうして手に持った箱から細身の煙草の一本を取り出すと、それを指の先でつまみながら唇の真ん中で咥え込んだ。

 かちり、とライターの点く音がする。それと同時に、エディンバラががっくりと肩を落とす。

 

「妹がこんな非行に走るなんて……」

「てかバレてるじゃねえかお前」

「バレてるバレてないはこの際どうでもいいんです! というより指揮官、ベルのことをみんなに話したら承知しませんからね!」

「そんなことするはずないだろ。第一、俺は誰が吸ってようと吸ってなくても……」

 

「んぐェふッ」

 

 ………………。

 

「エディンバラ? 今日お前テンパりすぎじゃないか」

「え、何の話ですか? というより、そっちこそ人が話してるのに急に咽ないでくださいよ」

「今更そんなことするかよ。五年目だぞ」

「…………ええと」

 

 合点がお互いの中で交わされて、ゆっくりと同じ方へと首を向ける。 

 

「…………何か、問題でも」

 

 手元に煙草を持ったまま動かないベルファストが、そう呟いた。

 

「ベル、あんた今まで煙草吸ったことある?」

「……あるわけないでしょう。今日が初めてです」

「なによそれ!? ベル、いいから今の内にやめなさい! こんなロクでもないもの早く捨てちゃいなさい!」

「ご主人様、しばらく私から(ヤニ)の香りがするかもしれませんがご容赦を。この数日に吸いつくして徹底的に慣れますので」

「構わん。俺も慣れてるからな」

「ありがとうございます」

「勝手に吸う事を決めないでください! ベルもそれ早く渡しなさいよ!」

「では私はまた、姉さんから一歩離れてしまうのですか? ようやく、唯一の憧れの姉に近づけると思ったのに」

 

 語られるその言葉に、エディンバラはぐ、と言いかけていた何かを堪えた。

 

「……何よそれ、どういう意味?」

「言葉のままです。憧れの姉さんの真似事をする妹は、嫌いですか?」

「ちょっと待って、ええと……そんなこと、初めて聞いたんだけど」

「もちろん、いま初めて姉さんに言いましたから」

 

 火の点いたままの煙草を指の先で揺らしながら、ベルファストはうっすらと笑みを浮かべる。

 

「……自由ですよね、姉さんは」

「どんくさいって意味?」

「まさか。自由奔放で、少しドジを踏んだりするけど、とっても人懐っこくて優しい姉さん、って言ってるんです。ただ仕えることしかできない私には……それがとても、素晴らしいことに見えましたから」

「な、何よ……今日はやけに正直じゃない」

「まあ言えてるな。それがエディンバラのいいところだと思う」

「し、指揮官までやめてくださいよ……もう……」

 

 褒められることに慣れてないのか、エディンバラは顔を紅く染めながら煙草をふかす。その様子がどうにもおかしくて、くすくすと笑うベルファストに、彼女は眼鏡の後ろできつい視線を向けていた。

 

「それにしても、真似るにしてももっと他にいるでしょ。それこそアキリーズ様とか、ジャベリンちゃんとか。なんで私なんかの真似事を……」

「何を言ってるんですか、姉さん」

 

 呆れたような溜め息をひとつ。

 

「私の姉さんは、あなたしかいないんですから」

 

 まっすぐと彼女の目を見て、ベルファストはそう言い放った。

 

「……一本だけ」

「はい?」

「い、一日一本だけね! それ以上だと体に悪いから! 約束破ったら、お姉ちゃん許さないから!」

「分かりました。気を付けますね」

 

 あれだけぎゃあぎゃあ叫んでいたわりには、以外と簡単に折れてしまった。しかしまあ、それも彼女らしいといえばらしいが。

 先程と同じようにしてエディンバラがマッチを取り出して、片手だけで器用に火をつける。そのまま二本目の煙草へと火種を灯すと、紫煙と共に呆れたような声を吐き出した。

 

「まったく、こんな子に育てた覚えはないのに……」

「………姉さん、今のなんですか」

「今の? あ、マッチのこと? ほら、こうしてやるだけよ。簡単でしょ?」

「教えてください」

「へ? べ、別に減るもんじゃないからいいけど……」

 

 紫煙の香る小さな場所で、二人の艦船がマッチを囲みながら話し合う。

 

「こう……こうですか?」

「あー違う違う、もっと中指離して、ってそれじゃあ指焼けちゃうわよ。あんたそんなに不器用だったっけ?」

「私には難しいです。逆に姉さんはいつもと違って器用ですね」

「……あはは」

「ふふっ」

 

 それはどうしても、姉が最愛の妹へと遊びを教えている、ごくありふれた姉妹の光景に思えた。

 

 




エディンバラって色々とユルそうだし不意におっぱい触っても叫ぶだけで赤面もせずに怒るだけなんだけどふとシガーキスの時に「あっこれ滅茶苦茶エロいやつだ」って気付いて思いっきりメスの顔をしてほしい
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