アハーンジュルジュルレロレロレーン   作:宇宮 祐樹

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今更だけど各話の指揮官は別人ですね


うぅ……サラトガっ…!!ううっ…うう…クソッ…!この……!大人を舐めやがっ……え……?今日の色…って、あ、あぁ……もう少しで見え……あ、うぅ……この…ッ!……うぅ……!

 

「しきかーん、ちょっといーい?」

 

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、サラトガの声だった。

 

「いいぞ、入ってこい」

「はーい」

 

 扉をくぐった彼女の片手には、何やら数枚に纏められた書類が握られている。手元のそれに視線をやったまま、彼女は少し考えるようにして俺へ声をかけた。

 

「えーとね、明石ちゃんと夕張ちゃんが、装備の改修について相談があるって」

「……嫌だ…………」

 

 十中八九、予算をせびられるのだろう。彼女らは暇さえあれば、倉庫のジャンクパーツや代用品をいじってとんでもない兵器の実験をしているのだ。彼女らの相談といえば、大体の予想はついた。

 悪いが断っておいてくれ、と続けようとすると、サラトガは書類から目を離して俺へ答えた。

 

「でも指揮官、二人とも頑張ってたよ? 見るだけ見てあげたら?」

「うーん……」

 

 確かに彼女らの装備開発への頑張りには目を見張るものがある。いつも二人には装備関係の大部分を任せているし、だからこそ装備の開発自体は全て許しているのだが……

 

「おねがい、指揮官。かわいいかわいいサラトガちゃんの頼みだと思って!」

「……まあ、聞くだけ聞いとこうか」

 

 観念したように息を吐いて、立ち上がる。いかんせん、俺は彼女に頼まれると弱いのであった。

 

 サラトガという少女を一言で表すならば、無邪気、というのがしっくりくる。

 イタズラが大好きで、周りの艦娘をからかったり、おちょくったりするのをよく見かける。それでも冗談と迷惑のラインはきっちりしているようで、それも含めてサラトガは皆から慕われるような存在であった。

 また、その性格とは裏腹に人望は厚いらしく、大規模な作戦での中心的な人物になったり、またこうした頼み事も多くあるらしい。それも全て二つ返事で了承するあたり、こちらが彼女の素なのだろう。

 イタズラするほど無邪気ながら、時には芯の強い頼れる艦娘、それがサラトガである。

 

 ……もっとも、いつもイタズラされてる身からすれば、たまったものではないが。

 

 

 倉庫に辿り着くと、重たい金属音が響いてきた。

 

「入力する数値、右から六〇、二三、一〇二にゃ」

「りょーかい……ってあれ? ここの排熱管増やした?」

「ああ、それ昨日付けたやつにゃ。もう一本余裕あったからだけど、いけなかったにゃ?」

「いや、これで入るなら、確か奥のほうにもっといいパーツあったぞ。取ってくる」

 

「明石ちゃーん、夕張ちゃーん! 指揮官連れてきたよー!」

 

 金属音に負けないようにサラトガが叫ぶと、何やら話し込んでいた二人は、同時にこちらへ目を向けた。

 

「おお、サラトガ、ありがとにゃ」

「ご主人も仕事中にすまない」

「そう思うのなら予算をせびらないでほしいんだが……」

 

 溜め息混じりに呟いた言葉に、夕張と明石はきょとんと首を傾げていた。

 

「よさん……? 別に明石たち、今月はオーバーしてないにゃ」

「オーバーしてるのは艦隊の方の予算だぞ」

 

 …………。

 

「マジ?」

「マジだ」

「こっち来るにゃ」

 

 ぶかぶかの袖のままの手招きに促され、夕張の持つ書類を覗く。いくつもの数字と罫線が並ぶその紙の上に、わかりやすいように赤いペンで記されたところを見ると、確かに予定していた金額よりも少ない金額が充てられていた。

 

「多分、こことここの予算が入れ替わってるんじゃない?」

「……あ、本当だ」

 

 サラトガの指が示したところを見ると、確かに明らかに過剰なまでの桁が振られている。

 寝ぼけでもしない限り、こんなミスしないはずだが……

 

「まあ、この前まで大規模作戦で忙しかったからな。入力ミスだろ」

「悪い。すぐに直しておく」

「許してほしいならもっと予算ちょうだいにゃ」

「……考えとくよ」

 

 元はと言えば身からでたサビなのだ。それに、彼女等も先日の作戦では頑張っていたから、それくらいは妥当なのかもしれない。

 

「そういえば明石ちゃんたちは、今なに作ってるの?」

「よくぞ聞いてくれたにゃ!」

 

 待ってました、と言わんばかりに、明石が目を輝かせる。そして飛び跳ねるように先程まで弄っていた部品――ブーツのようなものだが――を持ち上げると、興奮気味にこちらへと戻って来て、口を忙しなく動かした。

 

「これ、足に着けるタイプのブースターにゃ! 普段の五倍は速度出せるやつにゃ!」

「艤装とかが足にさえ干渉しなきゃ誰でも使える。それに可動域も広いから、蹴りとかできるぞ」

「この管から一気にぶしゅー、って排熱するにゃ! 浪漫にゃ!」

「その分、風ものすごいけどねー……」

 

 早口でまくしたてる彼女等に思うのは、どうしてそんな発想が生まれてくるんだ、という疑問だけだった。

 自慢げに見せてくるそのブーツに、ふとサラトガが問いかける。

 

「でもこれ、風向き的にスカートめくれちゃうんじゃない?」

「今時そんなの気にするやついないにゃ」

「そうかなー」

 

 確かに艦隊には短いスカートを着用している艦娘が多い。今目の前にいるサラトガも、細い太ももに掛かっているスカートを確認するように、ひらひらと指でつまんで遊ばせていた。

 …………やっぱり、短いと思う。それだけでちょっと見え――

 

「あれ~? 指揮官、今なに想像してたの~?」

 

 はたと気づいた時にはもう遅かった。視線がストッキングに包まれた太腿から、彼女の顔へと移る。何か新しい玩具を見つけたように、サラトガは意地の悪い、とても嫌らしい笑みを浮かべていた。

 

「……いや、何もしてない」

「えー? でもサラトガ、指揮官のことずっと見てたけど……私のお尻、ジロジロ見てたよ?」

 

 気が抜けていた。いやまあ、釘づけになっていたのは否定しようもないが。というかそれよりも後ろ二人からの視線が痛い。頼むからそんな目で見てないでほしい。死ねる。

 

「まあ、指揮官の気持ちもわからないでもないにゃ。でも表に出したら待ってるのは鉄格子にゃ」

「擁護してるかしてないか分からんからやめてくれ……」

「この事黙ってほしいならもっと予算を回すのだな」

「……わかった…………はあ」

 

 元はと言えば俺の管理の問題である。溜め息とともに抜けていくのは幸せではなく、お金だという事は、ここ最近で知った事であった。

 

「それじゃあ、私たちもう行くね? 明石ちゃんも夕張ちゃんも、頑張ってー」

「にゃー、ありがとにゃ」

「明日までには試験できるようにしとくからな」

 

 そんな風に手を振って、サラトガと俺は倉庫を後にする。

 明石たちが去ったあとでも、サラトガはにやにやとこちらへ笑みを浮かべているままだった。

 

 

「あはは、指揮官ったら面白いんだから」

「まったく……お前も少し、節度を弁えろ」

「でも、あの時の指揮官の顔……ふふっ、思い出したら笑えて来ちゃったっ」

 

 執務室に戻る道で、くすくすと面白そうにサラトガが笑う。

 

「頼むからもう許してくれよ……」

「え~? うーん、そうだなあ……サラトガちゃんの、今日の色当てたら、許してあげる」

 

 そんな事を言いながら、サラトガは短いスカートを指でつまんで、ひらひらと振った。

 

 おそらく、ここで聞き返すのは得策ではない。聴いたらそれで「そんな事も分かんないの~?」とからかわれるのは、火を見るより明らかである。同じ轍を踏むほど馬鹿ではない。

 だから、あえてここは正面から突っ切る。回りくどい手を使う必要はない。サラトガのパンツの色を当てれば済む話なのだ。セクハラが何だ。非難するなら存分に非難しろ。

 

 彼女の今つけている下着の色は、

 

「……黒だろ」

「ふーん、指揮官ってそういうのが好きなんだぁ~」

 

 勝てる気がしなかった。否定できないところも含めて。

 

「ま、正解だから許してあげる」

「本当か?」

「ホントよ? 何だったら、今見せてあげよっか?」

 

 にまにま、という疑問が聞こえてきそうなほどの笑みを浮かべて、彼女がスカートを少しだけ翻しす。そろそろ使い物にならない頭を抱えていると、サラトガはまたくすくす、と口元を押さえて笑うのだった。

 

「指揮官、今日はいつにもましてひっかかるね」

「……ああ、本当に疲れてるのかもな」

 

 先程のミスといい、この状況といい、自分でもわからないほど疲れているらしい。別の意味で痛くなってくる頭を抱えていると、サラトガはまた何か思いついたらしく、にまー、とした笑みを浮かべながら、俺の顔を覗いてきた。

 

「やっぱり指揮官も、溜まってるのかな?」

 

 唐突に駆けられた言葉に、思わず息が詰まる。

 

「……お前なあ、さすがにそれは」

「いやー、指揮官も人間だし、疲れも溜まっちゃうよねえ~、仕方ないよ」

 

 うんうん、と大げさに頷いたサラトガが、ふとわざとらしい笑みを浮かべ、こちらに問いかけた。

 

「あれれ? 指揮官ったら、また何か変な妄想しちゃったのぉ?」

「…………」

「ふふっ、指揮官も大変だね~。でも、ガス抜きも必要だよ?」

 

 大変なのは誰のせいか分かっているのだろうか。いや、恐らく知っているのだろう。その上で、彼女はくすくすと笑いながら、頭を抱える俺を面白そうに眺めていた。

 既に執務室の前へついているけれど、もう仕事をする気にもなれない。サラトガと話すと疲れる。別に悪いわけではないのだが、心労がひどく積み重なるのだ。

 

 思えばここから、少し思考がおかしくなったのかもしれない。

 

「しきかーん、もしよかったら、サラトガちゃんが今夜のお相手してあげましょうか~?」

 

 どうせ本当は晩酌とかそういう意味なのだろう。それは分かる。けれど疲れた頭では、すぐに切り返すことができなかった。上手く返せる気がしない。

 しかし、やられてばっかりも癪である。どうにかして彼女に一泡吹かせてやりたい。こちらを伺うようなあの視線を、一度でいいから見開かせたい。そんな意地の悪い感情が、少し芽生えた。

 

「……お前さえ、良ければ」

 

 彼女の肩に手を伸ばしながら、そうつぶやく。

 

「今夜、開けておく」

 

 なるべく平静を保ちながら、一言一言伝わるように、強く。

 何か言いかけたらしいサラトガは、俺のことを見上げたまま、ぽかんと固まって、

 

 

「――――…………ふぇっ……?」

 

 

 顔を真っ赤にしながら、そんな声を漏らしていた。

 

「じゃあ、また夜に」

 

 ぱたん、とドアを閉じる。しばらく経ったあとに、どたばたと激しい足音が聞こえてきた。

 かなりきわどいラインまで行ったが、これで彼女も懲りたはず。これで彼女のイタズラが減るといいが、まあ直ることはないだろう。そこも含めて、彼女の個性なのだから。

 

「疲れた……」

 

 ペンを執る気にもなれず、窓から見える夕陽をぼんやりと眺める。

 空は暗く沈んでいき、夜はすぐそこまで来ているようだった。

 

 

 こんこん、と静かにドアを叩く音が、一人の執務室に響く。

 既に日は堕ち、時刻は十時を過ぎている。皆ももう寝ているだろうに、はて、こんな時間に誰か呼んだだろうか。不思議に思いながら、俺は寝室に向かおうとした足をそちらへ向けた。

 

「誰だ? こんな時間に、もう俺は寝るぞ」

「……指揮官?」

 

 返ってきたのは、震えたような声で、

 

「サラトガ?」

 

 いつものような彼女の元気な様子からは、とても想像できないようなものだった。

 

「……入るよ」

「あ、ああ……いいけど」

 

 かちゃ、と恐る恐ると言った様子で、ドアが開く。

 果たして、姿を現したのは、声のとおりサラトガであった。髪を下ろしたその表情はいつもよりも随分しおらしくなっており、何よりも身にまとっているのは、いつもの可愛らしい制服ではなく、薄い布のワンピース。枕を両手で抱きしめながら、彼女は俺へ潤んだ瞳を向けていた。

 

「何から、するの」

「は? 何、って……」

「……言わせる気? 指揮官の、バカ……」

 

 つん、と口を尖らせて、頬を赤く染めたサラトガが、軽く体を寄せてくる。胸に収まったサラトガの身体はとても熱く、彼女は俺のことを見上げながら、こう呟いた。

 

「夜のお相手、って……言ったでしょ」

 

 頭が大事故を起こした。疲れている頭のはずなのに、全てのことが一瞬で理解できた。

 つまり、彼女は俺が昼に言ったことを、正直に受け取っているということ。手の内から聞こえるサラトガの鼓動が、それを明確に教えてくれた。

 

「……なに? 指揮官、冗談だったの?」

「そ、ういう訳では」

「ちゃんとこっち見なさいっ」

 

 ぐい、と胸倉を引っ張られる。こちらを睨む瞳には、潤んだ熱がこもっていた。

 

「……やっぱり私じゃダメなの?」

「そんな訳ないだろ」

 

 すぐに否定をするけれど、サラトガはふと俯きながら、声をもらす。

 

「分かってるよ。こんな生意気でイタズラばっかりしてる子、指揮官は嫌いだよね」 

「違う」

「いつも周りに迷惑かけて、それで自分勝手で……ほんとの事なんて言えずに、いつも誤魔化して」

 

 崩れるように、彼女の小さな体がもたれかかる。

 

「じつは、ちょっとだけ嬉しかったの。指揮官からそうやって誘ってくれるなんて、思ってもなかった……それこそ、冗談だったんだから」

「…………」

「でも、そうだよね……私みたいなちっちゃな女の子なんて、やっぱり指揮官の役に立てないや。こんな私じゃ、指揮官に、何も……」

 

 照れくさそうに笑う彼女の背中を、優しく包む。

 

「ぁ……」

「そんなこと、ない」

 

 柔らかな体を抱きしめると、微かな声が漏れた。

 

「……私で、いいの?」

「お前がいいんだ」

「いつも、指揮官にイタズラばっかりしてるのに?」

「ああ、それがお前の個性だろ」

「……からかったり、馬鹿にしたりしてるのに?」

「可愛いと思う」

「……指揮官に、好きって、言えなかったのに……」

「大丈夫」

 

 今更引き下がるつもりもない。彼女が答えてくれただけで、俺は嬉しく思えた。

 視線が交錯する。鼓動が高鳴る。腕の中にある彼女は、とても綺麗に映っていて、

 

「……指揮官」

「何だ?」

「好き、だよ」

 

 そう笑う彼女の唇を、俺は――

 

 

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