長島
長島スパーランド
Q.E.D.
お前は長島スパーランドの凄さを何も分かっていない
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「起きろオオオォォォ!!!!!」
「ひゃあっ!?」
ロング・アイランドが起きて初めて聞いたのは、ささやかな鳥の囀りではなく、指揮官の怒鳴り声であった。日は既に高く登っており、床に倒れている時計は十二時過ぎを指している。寝起きのままの頭で、ロングアイランドは引き戸を蹴破ってきた指揮官に口を開いた。
「こ、ここ女子寮だよ!?」
「指揮官権限」
「ず、ずるい……ってうわ、ほんとに入ってきた! ぎゃー! 誰かー!」
そう叫んで布団にくるまって後ずさるも、答える者は誰もいない。それもそのはず、本日は大規模作戦後の長期休暇の始めである。たった一人を除いて、狭い寮にとどまる者は誰もいなかった。
「おいもう昼だぞ! テメエ飯も食ってねえだろうが!」
「だってお休みだもーん! 何してようが自由でしょー!」
ふんだ、と入り込んできた指揮官から目を離して、ロングアイランドがもう一度敷布団へ体を預ける。どうやらまだ布団から出るつもりはないらしく、彼女は布団にくるまったまま手の届くところにある携帯ゲーム機へと手を伸ばしていた。
いつまで経っても変わらない彼女に、指揮官は重たい息を吐く。
「あのなあ、休みとは言ってるけど、別に自堕落にしてろ、って言ってる訳じゃないんだぞ」
「自堕落じゃないもん。動くエネルギーを温存してるだけだもん」
「それを人は自堕落と言う」
「知らないもーん」
間延びした声で、ロングアイランドが応える。いつまでも態度の変わらない彼女に、指揮官はさてどうするか、と頭を捻らせた。
「頼むからメシくらいは食ってくれよ。お前、今日何も食べてないだろ」
「べつにお腹へってないしー。夜ごはんには顔出すから」
「そう言ってこの前死にそうになってたよな……」
「アレは生放送あっただけだし……べつにわたし悪くないし……」
どの口が言うねんダボカス、と指揮官は毒づきたくなった。
「どの口が言うねんダボカス、いっぺんマジで殴るぞ」
「指揮官、抑えきれてないよー」
「うるせえ! とにかく布団から出ろ! 太陽の光を浴びろモグラ!」
「やぁーだぁー! ロングアイランドは幽霊さんだから、太陽に当たったら溶けちゃうよぉー!」
「吸血鬼か! ってかヴァンパイアもうちにはいねえよ!」
布団からはみ出た足を掴んで叫ぶが、ロングアイランドは動く気配すら見せない。普段は華奢というよりは脱力感が強い彼女だが、仮にもセイレーンと日々闘っている身である。指揮官の腕ではぴくりとも動かなかった。
ぜえはあと肩で息をしながら、指揮官は寝転んだままの彼女へ視線を向ける。
「重っ……」
「指揮官、女の子にそんなこと言っちゃダメなのー」
「女の子……? どこが……?」
「部屋を見回さない」
クソゲ―良作なんでもござれの室内を見回して、指揮官が首を傾げた。
「……つかお前、仮にも女を自称するなら服をどうにかしろ」
「仮じゃないんだけどー」
仰向けになりながらもゲームをする彼女に、指揮官が呆れた視線を向けた。
退役至上、と書かれた白いシャツ一枚。それが彼女を包んでいる衣服の全てだった。いや、一応として靴下を履いているが、それも片方だけのしかも足先で引っ掻けているだけ。休日の指揮官でもここまでひどくなかった。
だから色々きわどいところも見えているし、そもそもシャツの下からは彼女の生足がまるごと露出していた。年がら年中引きこもっているくせに、その足は割と肉付きも線もよく、見る人が見れば割と殺意を抱くかもしれない。
「…………」
「んー……? 指揮官、どこ見」
がし、とその両足を指揮官が掴む。
「休日の親父かっ! 着替えろ! スカートくらい履け!!」
「やーっ! 見える! 見えるから! 指揮官足離してっ! だーめー!」
ぶんぶんと足を持ったまま上下に振る指揮官に、ロングアイランドは割と強い拒絶を示した。すぐに彼女の両足は手から離れ、そのまま布団の中へと消えていく。
けれど指揮官の注意はそちらへは惹かれなかった。
「……お前さ」
「…………………………なに」
「パンツ履いてなくね?」
「ぎゃ―っっっ!!!」
興奮だの男と女が一緒だのを通り越して、指揮官は冷めきっていた。
「だってだって、面倒だったもん!」
「面倒で済ませていい問題じゃねえだろ……」
「ふんだ。指揮官のえっち」
頬を膨らませながら、ロングアイランドはそっぽを向いて再びゲーム機を手に取った。頬が赤くなっているあたり、それなりの恥じらいは在るらしい。一応の感情の存在に、指揮官は安心していた。これで恥ずかしがってなかったら本当に心配していた。
「とにかく早く起きろ。また倒れて貰っても困る」
「やーだ」
んべー、と舌を出す彼女に、指揮官は一つ
「……そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだぞ」
「へぇー。でも私、ぜーったい動かないもんね」
ふん、とうつ伏せになりながら、ロングアイランドはゲーム機の画面を見つめたまま。どうやら本当に引く気の無い彼女に、指揮官はすぅ、と息を吸う。
部下に手をかける時は、いつでも覚悟が必要だった。
「ふぇっ」
がし、と再び、ロングアイランドの生足を指揮官が掴む。
「お前が悪いんだからな……」
「し、指揮官!? 何して」
こちょこちょ。
「ゔぁ―っはっはっは! あは、おははは! あひぃーーひひひ!! うっふぇ!! おゔぁっはっはっはっは! ゲホ!! ゲホ!!! ぐっふぇ!!! あーーダメダメダメ!!」
「笑い方が汚すぎる……」
下に敷いた枕に顔をうずめて、ロングアイランドが声を荒げる。喉の奥から出てくるそのガラガラした声に、指揮官は軽蔑の目すら向けていた。
左足の裏をくすぐる手を止めると、ロングアイランドがぱたりと倒れ込む。
「はぁ……し、きかん……ずるい……」
「ずるくないので早く起きろ」
「そんなことおおぉおおっははは!!! あーははは!! うんッふぇえへっへえへ!!!」
問答無用の指揮官の手がロングアイランドの足を襲う。足の裏からふくらはぎ、そして膝の裏と辿っていき、どうしてこんな声が出るのだろうと指揮官は彼女の後頭部を見つめていた。
上へ上へ、指揮官の手が登る。膝の上は既に通り抜け、五本の指がしまりの良い太ももを揉みしだく。
「ほらほらほらさっさと起きろ起きろ」
「いやーーーははははっ!! ぜーったい、うふ、起きないもおおおおおうんあははは!!!」
もみもみ。こちょこちょ。ふにふに。
「ふぇッ」
寝転んでいたロングアイランドが、ふとそんな声を上げた。
先程までの汚い笑い声ではなく、少し上ずった高い声。思わず漏れたそんな声に、彼女は自分自身で口を塞いだ。
「……指揮官?」
「いい加減に起きろ。さもないと、ここから先まで行くぞ」
恐る恐る振り向いたロングアイランドの視線の先にいたのは、自分の臀部へ手を置いている指揮官の姿だった。固い指の感触が、薄布一枚を通して伝わってくる。
改めてこの状況を確認すると、さすがのロングアイランドでも少しだけ予想がついた。
そして。
「……べ、べつにー? 指揮官がしたいなら、いいんじゃない?」
「お前なあ」
「私、どこにもいかないもん。絶対動かないもん、ね」
ふん、とロングアイランドが枕へ顔をうずめる。そんな彼女に、指揮官はふと思い立って、彼女へ覆いかぶさった。
いきなり倒れ込んできた指揮官の行動に、ロングアイランドが思わず目を見開く。けれど振り向くことは許されず、その耳元で、彼の囁く言葉が聞こえてきた。
「本当に、いいのか?」
「……すきに、すればいいんじゃない?」
「あのなあ……毎回毎回、こうも手間取らせるなよ」
うぐ、とロングアイランドが渋い表情を見せる。
「だってー……指揮官がこうして来てくれるの、嬉しいし」
「だからってこっちを動かさせるなよ」
「うぅ……ごめん……」
一気にしおらしくなって呟く彼女に、指揮官が溜め息を吐いた。
「とりあえずこっち向け」
「……はずかしいから、やー」
「………………」
「? 指揮官、って、――ぁ」
声は途切れ、息遣いだけが聞こえる。
結局のところ、二人が寮から姿を現したのは、太陽が沈もうとしている頃だった。
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ロングアイランドが数日籠って彼女の匂いが充満している中での気だるいふわとろえっ