アハーンジュルジュルレロレロレーン   作:宇宮 祐樹

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『青いバラを、あなたへ』

 

 眼前に広がるのは、溢れるような色とりどりのバラだった。

 

「……見事だ」

「ふふっ。そう言ってくれて、とても嬉しいです」

 

 ぽつりとつぶやいたその言葉に、隣に佇んでいるオーロラはくすりと笑みを浮かべていた。

 本日の仕事は早く終わり、夕食まで少し時間があるころ。さてどう時間を潰そうか、と暇をしていたところに声をかけたのは、秘書艦であるオーロラであった。

 

『指揮官さん、私の育てているバラを見にいきませんか?』

 

 何でも彼女は趣味でバラを育てているらしく、鎮守府の隅にある小さな土地を許可を得てバラ園にしているとのこと。それもオーロラ一人で全てを管理しているようで、時折皆から噂を聞くことはあったけれど、こうして直接誘われることは初めてであった。

 前々から興味のあったことなので、彼女の誘いを承諾してから十分と少し。俺が目の当たりにしたのは、見わたす限りに広がっている一面のバラの花畑であった。

 

「これを、本当に全て一人で?」

「はい。と言っても、前々からここは花畑だったらしくて。元々あったものを整備しているだけですけれど」

「それでも凄いな……正直、もっと小さなものだと思っていた」

 

 目を覆うほどの色とりどりのバラに、俺はただ感嘆することしかできなかった。夕陽に照らされた色とりどりの花々は、冬の始めの冷たい風に撫でられて、静かな波を打つ。

 足元に咲く数本のバラへ手を伸ばして、オーロラがこちらを見上げた。

 

「……うん、やっぱりこの色ですね」

 

 そう言ってオーロラが手に取ったのは、真紅のバラだった。

 燃えるように艶やかなそのバラが、彼女の手から渡される。儚げに咲くその小さな花を見つめていると、オーロラは首を傾げながら問いかけてきた。

 

「指揮官さん、どうですか?」

「そう言われても……花なんか、俺に似合うだろうか」

「ええ、とっても似合うと思います」

 

 にっこりと、彼女が笑う。

 

「赤いバラか。どうも、少し恥ずかしいな」

「私はとてもいいと思います。どうでしょう、こう、口にくわえて……なんて」

「流石にそれは似合わんだろう」

「ふふっ。でも、似合うのは本当ですよ?」

 

 冗談めいて言うオーロラに、俺は嘆息を吐いて返した。

 冬の陽は海へ身を隠し、空は深い紫に沈む。既に夜はそこまで来ていて、微かに光る星が一つ、俺と彼女の眼に映っていた。静謐のような時間が、俺と彼女の間へ流れる。

 

「私、この戦いが終わったら、お花屋さんになってみたいんです」

 

 ぽつりと、彼女が口にする。空を仰ぎ続ける淡い碧色の瞳は、どこか遠くを見つめていた。

 

「……どうして?」

「私の育てたバラを、みんなに見て貰いたいから……って、ふふっ。なんだか、照れちゃいますね」

 

 頬を指で掻きながら、彼女が語る。

 

「いいんじゃないか、お前に似合ってて」

「そうでしょうか?」

「ああ。素敵な花屋になれるさ」

 

 優しい彼女ならば、すぐに人気の花屋になれるだろう。そう伝えると、彼女は頬を紅潮させながら、どこか恥ずかしそうに笑っていた。

 

「それだったら……私、指揮官さんと一緒に花屋さんがしたいです」

「俺と?」

「はい。一緒にここまで来たんです。我儘なのかもしれませんけど」

 

 そう言って、彼女は俺へ向き直る。

 

「これから先も――私と一緒にいてくれますか?」

 

 応えるのに、時間はいらなかった。

 

「ああ。お前さえ良ければ、ずっと一緒に」

 

 ぽつぽつと光る星空を背に、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 二人だけの時間は過ぎて、花畑にも夜が来る。鎮守府からの遠い光に照らされる彼女の横顔は、どうしてか俺の瞳に儚げに映っていた。

 

「そろそろ戻るか?」

「……もう少しだけ、居たいです」

「そうか」

 

 それだけ答えて、再び静寂が訪れる。夜の花畑というのもなかなか風情があって、身を縛るような寒さとは裏腹に、夜風になびく花々は微かにそれぞれ色を灯していた。

 微かな光だけを残して、彼女は俺へと視線を向ける。

 

「指揮官さん、私につけるバラも選んでくれませんか?」

 

 笑顔の彼女に、思わず俺は呆然としてしまった。

 

「……やめておく。俺にはそうセンスがない」

「大丈夫ですよ。私、指揮官さんが選んでくれたものなら、何でも嬉しいですから」

 

 そう笑ったままの彼女に引くに引けず、俺は彼女の隣へ腰を下ろした。

 花に疎い俺はバラに赤色というイメージしか抱いていなかったが、どうもそれだけではなく、黄色や白色、その他にも様々な色彩があるようだった。

 この中から彼女に似合う花を探せ、と言われても、やはりセンスのない俺は少しだけ悩むことになる。あれだこれだと悩んでいる間でも、オーロラはずっと俺の側で待っていてくれた。

 

 やがて、少しの時間をかけて、俺が手に取ったのは。

 

「青いバラ……」

 

 こちらの顔を覗き込んでいる彼女へ、手に取ったバラを差し出した。

 

「お前には、青色が似合うと思って」

「そうですか?」

「……どうだろう」

 

 問いかけた俺に、彼女は、

 

「はい、とっても嬉しいです」

 

 そう、笑ってくれた。

 

「それにしても、青いバラなんて初めて見たな」

「知ってますか? 青いバラって、最近育てられるようになったんですよ」

「そうなのか」

 

 手元に揺れる青色のそれを見つめながら、オーロラが語る。

 

「だから、青いバラは――」

 

 

 

「夢が叶う、って言われてるんですよ」

 

 

 

 




『青いバラ』

「不可能」「奇跡」「神の祝福」


 ――――「夢、叶う」
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