side 凛
それは、見惚れるような戦いだった。
直線的に攻めるランサーと、術によって対抗するアサシン。
青と黒の人影が交差する。
まさに、人ならざる者同士の争いだった。
それにしても、アサシンのあの能力は何なのだろう。
セイバー、アーチャー、ランサーのクラスは三騎士と呼ばれ、
基本的に対魔力のスキルが付加される。
魔眼などという、一工程の魔術が効くはずがないのだ。
なのに、アサシンの眼は破られたとはいえ、いともたやすくランサーを幻術に嵌めた。
それに、彼が時々使う術も、どう見ても一工程の威力ではない。
キャスターならともかく、アサシンにそんな能力があるとは思えない。
「どう思う、アーチャー?」
「ふむ、奴が使う武器はどう見てもクナイだ。おそらく忍の類だろう。
しかし、あれだけの能力で魔眼持ちとは聞いたことがない」
「しかも、アサシンなのにランサーと互角に戦えているなんて。
アサシンはマスター殺しのクラスだと思ってたけど」
「まあ、アサシンは気配遮断があるだけで『適性がある』とみなされるからな。
忍なら気配遮断や暗殺はお手の物だろう。
だが、対照的にランサーのほうは分かりやすいな」
「え?!もう真名がわかったの?」
「まだ断言はできないがな。
槍兵には最速の英霊が選ばれるというが、奴はその中でも選りすぐりだ。
あれほどの槍手は世界に3人といまい。加えて、獣の如き敏捷と言えば、おそらくただ一人」
そこまでアーチャーが話した時、大きな爆発音がした。
見ると、大きく後退するランサーと、無言で立つアサシン。
どうやら、搦め手のアサシンのほうが有利らしい。
そう思ったとき、ランサーが再び槍を構える。
その瞬間、空気が凍った。
同時にアサシンの周りにあのオレンジの鎧が現れる。
ランサーは宝具を使う気だ。
両者からすさまじい魔力を感じる。
その時、全く別の声が聞こえた。
side 白野
なぜ?
もう生徒は帰っている時間のはずだ。
なのに、なぜ士郎がここにいるのか。
けれど、そんなことに疑問を感じる暇もなく、ランサーが走り出す。
彼を消す気なのか?
「アサシン!!」
「わかっている!」
ランサーを追うイタチ。
けれど、速さはランサーのほうが上だ。
くッ、これじゃ追いつけない・・・!
校舎に逃げ込む士郎と、それを追うランサー。
二人の差はもうかなり縮まってしまっている。
間に合うか・・・!
しかし、ようやく追いついた自分を待っていたのは、
床に倒れた士郎と、立ち尽くすアサシンの姿だった。
辺りは血の海だった。
士郎は、ランサーの槍に心臓を貫かれていた。
その体からの死の匂いに、
「・・・・・ッ」
一瞬の間、失われたはずの記憶が蘇る。
廃墟と化した都市。
赤く染まった空。
そして、ヒトだったモノの・・・
「ぐッ・・・!」
頭痛がして、現実に引き戻される。
一体、何のために自分は聖杯戦争に参加したんだ。
断じて、こんな光景が見たかったわけじゃない・・・!
「アサシン、何とかならないのか?」
「・・・本当に済まない。だが、俺にはここまで死ぬ間際の人間を治せる力はない」
その言葉に唇を噛む。
気づけば、遠坂が隣にいた。
アーチャーはいない。
おそらく、ランサーを追ったのだろう。
遠坂が士郎の顔を見て、息をのんだ。
そして少し迷っていたようだが、すぐに決心した表情をして、何かを取り出す。
それは、赤い宝石のペンダントだった。
遠坂が宝石を士郎の上に置き、何かを呟く。
すると、士郎の生気がだんだん戻っていく。
驚いていると、
「・・・ああ、やっちゃった」
遠坂が立ち上がった。
信じられないことに、遠坂はあの状態の士郎を蘇生させたのだ。
「一体どうやって・・・」
「この宝石の魔力をすべて彼に注いだわ。
この宝石には、父さんの代からの魔力が込められていた。
まあ、もうほとんどすっからかんだけど」
そう言って、遠坂は宝石を見せる。
彼女は、全くの他人を助けるために、切り札級の宝石を使ったのだ。
「本当にありがとう。遠坂にはお礼を言いっぱなしだな。
この借りはいつか必ず返すよ」
「?なんで岸波君がお礼を言うの?むしろ借りを返すのは衛宮君のほうよ?」
「でも、士郎に気付かなかったのは俺のせいだし・・・」
「それについては、わたしもうっかりしてたわ。
まさか、あそこで一般人が出てくるとは思わないもの。
周囲を注意しなかった私も責任がある」
「いや、けど・・・」
「あー、もう!わたしがいいって言ってるんだから、それでいいでしょう?!
ハイじゃあこの話はもうおわり!」
「・・・・」
その言葉に苦笑いする。
とにかく、士郎が助かってよかった。
「二人とも、そろそろ彼が目を覚ますぞ」
「あらいけない、じゃあ急いで帰りましょうか」
そう言うと、遠坂はすたすたと歩きだす。
自分も、慌ててそのあとを追った。
「それにしても、アサシンのあの能力は何なの?
あれ、魔術じゃないわよね?」
帰り道、自分たちはさっきのことを話しながら歩いていた。
「いや、実は俺もよく知らないんだ。
アサシン、あれは何だったの?」
「しかし、一応マスター以外に話すのは・・・」
「別にいい。遠坂には借りがあるし」
「そうか、マスターがそう言うなら、俺は何も言わない。
では基本的なことだけ話そう」
そう言って、イタチは話し始めた。
何でも、イタチの世界では魔術はなく、忍術と言うものが発展しているらしい。
忍術は生活でも広く使われていて、秘匿もされていないそうだ。
そこまで話すと、イタチは
「説明するだけではわからないからな」
と言って、近くの公園に入った。
自分と遠坂もついていく。
イタチは何やら印を結ぶと、
「火遁・豪火球の術」
その瞬間、イタチの口から巨大な炎弾が飛び出した。
「ふうん、仕組みはよくわからないけど、まあ魔術じゃないってことは分かった。
その眼も忍術かしら?」
「まあ術の一種だが、使えるのは俺の一族だけだ」
「私としては、あなたが異世界からやってきたことのほうが驚きだけど。
マスターと言い、とことんイレギュラーね」
そんな話をしていると、いつの間にか時間がたっていた。
そろそろ11時になろうかというとき、アーチャーが来たのに気付いた。
「ここにいたのか・・・
家にもいなかったから探したぞ」
「あはは、ごめんごめん。それで、ランサーは?」
「すまないが見失った。マスターも近くには居なかったよ」
そこまで聞いた時、イタチの表情が変わる。
「まずい、こうしている場合じゃない!白野、彼のところに急ぐぞ!」
「?どうしたの?」
「ランサーが目撃者が生きていると知ったらどうする?
急げ、彼の家は知っているか?」
そこまで聞いて、ようやく頭が働いた。
遠坂はすでに走り出している。
自分も足を強化し、彼の家に急ぐ。
「・・・なんて間抜け・・・!」
あれからずいぶん時間がたってるけど、急ぐしかない・・・!
「・・・いる。ランサーのサーヴァント・・・!」
自分にも気配は伝わっている。
奴は、すでに屋敷に侵入して、士郎を再び殺そうとしている。
その前に倒すしかない!
そう思ったとき、凄まじい白光が屋敷の中から迸った。
一度経験しているから間違いない。
あれは、サーヴァントが召喚されたということ・・・!
その事実にしばらく呆然としていると、ランサーが逃げるように塀を飛び越えて出てきた。
遠坂も信じられないようだ。
「・・・ねえアーチャー。これも、もしもの話?」
「さあな、だがこれで七人。ついに数が揃ったぞ、凛」
対照的に落ち着いているアーチャー。
そのとき、
「来るぞ・・・!」
イタチの声が響き、それと同時に警戒を強める遠坂達。
果たして、その言葉通り一瞬強い風が吹いたかと思うと、
そのサーヴァントが塀を飛び越え、自分たちに襲い掛かってきた。