それは古狩人の讚美歌   作:カチカチチーズ

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ゴースも倒したしフリープレイになったし、狩りの手伝いでもしてやろうかねぇ。そんな風に流血鴉スタイルで意気揚々と鐘を鳴らし共鳴していたらふとある事に気がついてしまったのです。
リモコン変えたらジェスチャー出来なくなった……!!ひたすらその場で回るしか出来ない……誰か助けてくれ……心が折れそうだ



それは古狩人の讚美歌:2

 

 

 

 

 

 

 瞬間、ヴァスコ・ストラーダはその場から跳び退いた。目視による理由ではなく本能が跳び退く事を吼えたのだ。

 そしてその数瞬遅れで先程までヴァスコ・ストラーダがいた場所にローレンスの左腕が叩きつけられた。

 

 ただの叩きつけではない。炎を伴ったその一撃は大聖堂の床に叩きつけた瞬間範囲一メートルに火の絨毯を敷いた。

 跳び退くのが数瞬遅れていれば間違いなくヴァスコ・ストラーダはその老人らしからぬ肉体に酷い火傷を負っていたことだろう。

 

 

 しかし、好機。

 

 

「おぉおおお!!」

 

「ッ!待て……!!」

 

 

 聖職者の獣へ変生したローレンスに恐怖しそれを振り払おうとしたのか、待機していた戦士の一人が大剣を振り上げながら隙を晒したローレンスへと迫る。

 ヴァスコ・ストラーダはその蛮勇を止めようと声を上げる、が遅い。既に声を上げた時には火の絨毯の上空にて飛び込んでいた戦士。

 

 

「オォォォ────

 

 

 そして、ローレンスは再び振り上げる。緩慢な動き故に確実に一撃を入れられるだろう、その腕を振り上げた瞬間に火の絨毯が爆裂さえしなければ。

 並ならぬ炎の爆裂は蛮勇振り絞った戦士を容易く炭の塊へと変化させ、空いていた右腕の薙ぎ払いによりただの煤へと変わった。

 

 

「そんな……!!」

 

「よくも!!」

 

 

 目の前で全く違うモノに変わってしまった仲間、それによって戦士たちはその顔を憤激に染め上げた。もはや彼らにはローレンスは討つべき怪物、仲間の仇でしかない。

 故に危うい。今すぐにでも突っ込んでいきそうな彼らにヴァスコ・ストラーダは一喝しようとして、彼らの頭上を白い流星が通った。

 

 

『キィアアアァアアア!!』

 

「ははっ!中々面白い事をしてるじゃないか!」

 

「ヴァーリ!!」

 

 

 嘶き仰け反るローレンス。そしてそんな彼の前にいるのは白い龍の鎧に身を包んだ男。

 二天龍が一角を宿し魔王の血族、ヴァーリ・ルシファーの登場に兵藤一誠はその名を叫ぶ。戦闘狂である彼の事だ、恐らく教会における英雄の一人たる古狩人ハンスと戦えるのでは?とやってきたのだろう。

 そんな彼の登場に今すぐにでも突っ込んでいきそうだった戦士たちはその足を止め、そこにヴァスコ・ストラーダの一喝がとんでいく。

 まさかの乱入であったが結果的に良い方向に転んだ事でヴァスコ・ストラーダは安堵し、戦力増加に僅かながら笑みをこぼす。

 

 

「……白龍皇、協力するという事でいいのだな」

 

「ふ、それで構わないさ。ヴァスコ・ストラーダ」

 

 

 協力の言質を取り、ヴァスコ・ストラーダは亜空間からデュランダルIIを引き抜き、兵藤一誠はその身に赤龍帝の鎧を身に纏う。

 強大な邪龍を打ち倒した二天龍に教会の英雄という充分すぎる戦力に戦士や悪魔たちは威勢のいい叫びをあげる。

 これならば勝てる。彼らは皆一様にそれを思い────────

 

 

『ィアアア』

 

「ゴフッ!?」

 

 

 誰の目にも入らぬ動きでヴァスコ・ストラーダの横に現れ、殴り飛ばしたローレンスにその思考を止めた。

 

 

「ぁ…………ストラーダ様!!??」

 

「な、いったい何が!?」

 

 

 一番近くにいたヴァーリですら理解出来ぬ速さでヴァスコ・ストラーダの横に現れた事に悪魔らはその表情を驚愕の色で染め、戦士たちは殴り飛ばされたヴァスコ・ストラーダの下へと駆け寄っていく。

 いったい何をしたのか、それが分かるものは戦士や悪魔らの中には誰一人としていない。分かるのは古狩人ハンスと共に狩人として生きてきた古狩人や古狩人の弟子達だけ。

 それを『加速』の業と呼ぶ。

 嘗てローレンスが殺した古き友ゲールマンが編み出した術理。古狩人の中でもアイリーンや一部の狩人の弟子達にのみ教えたその業をローレンスは獣の身体でやって見せたのだ。

 狩人以上の身体能力を持つ獣の身体で行ったそれは狩人時に使ったそれを容易く上回った。

 

 

『ィアアアアァア!!!』

 

「面白い……!!」

 

「面白いって、お前なぁ!」

 

 

 咆哮するローレンスにヴァーリは笑い、兵藤一誠は呆れる。二天龍対聖職者の獣という後にも先にも無い異色の戦いがここに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い。

 明かりなど所々壁にかかっている小さな蝋燭の火ぐらいの牢屋。

 その一角に彼女はいた。

 烏羽のマントに黒染めの衣服、そして烏の嘴を模した仮面と黒の三角帽子。この暗い牢屋と混ざりあってしまうのではないかと思うほど黒い姿の彼女は狩人。

 古狩人ハンスの弟子の一人にして、此度の魔王の血族を殺害した下手人。名を古狩人アイリーン……悪魔や堕天使たちの間では烏羽の狩人として恐れられていた古狩人。

 そんな彼女は魔王の血族を殺害した罪でこの冥界にある牢屋に入れられていた。

 

 『加速』の業を修めた彼女ならば捕縛せんと来た悪魔など容易く狩るか逃げるなど出来ただろう……しかし、彼女は今こうして大人しく牢の中にいるのだ。

 出された食事も取らず、水も飲まず、彼女は待ち続けている。たった一人の客人を。

 そして────────

 

 

「来たね……」

 

 

 唐突に牢屋に響くのは足音。

 それは食事を運んできた看守や彼女を尋問した衛士とは違うゆったりとした歩み。狩人故にそういった音からも獲物を予測する彼女にはその足音の持ち主がいったい誰なのか容易く分かり、そして待ち人の到来に声を零す。

 蝋燭かはたまたランプか、灯りを持っているのか段々と光が近づいていくる。

 

 

「よぉ、アイリーンの姐さん」

 

「フン、姐さんって歳でもないだろう、デュリオ」

 

 

 現れたのは神父服に身を包んだ青年。親しい間柄なのか互いにその口調は柔らかなもの。

 彼の名はデュリオ・ジェズアルド、嘗ては教会最強のエクソシストとして名高い神滅具の担い手、そして今は転生天使通称『御使い』のリーダー格。

 古狩人アイリーンと御使いデュリオ、同じ教会に所属しているというぐらいしか共通点のない二人は今、牢を挟んで対面していた。

 

 

「……魔王の血族、確かグラシャラボラス家の次期当主を殺したんだって?」

 

「……ああ」

 

「どうして……なんて聞く気はないよ」

 

 

 狩人は悪魔を狩る。それは教会内でもよく知られている事だ。

 狩人機関、古狩人ハンスが構築したただ神の敵対者たる悪魔を狩る機関はエクソシストらとは違う理念の下で動く。

 異端者を切るのではない、異形を殺すのではない、信仰を押し付けるのではない、ただ、ただ悪魔を狩るだけ。それが狩人、故にデュリオはアイリーンに何故殺したのかという理由を聞くのは無駄だと分かっていた。

 

 

「つい少し前にローレンス教区長を捕縛する為に部隊が組まれて出発した」

 

「……ストラーダかその辺りもかい」

 

「うん……」

 

 

 アイリーンの口にした人物にデュリオは首を振る。古狩人ハンスを捕縛するのに並の戦士では足りない、彼を抑えるには彼と同レベルの実力者が必要だった。

 だからこそガブリエルは隠居していたヴァスコ・ストラーダに頼み、そして動いた。本来ならば最強の御使いたるデュリオもそちらへ向かうべきだが、彼はここにいる。

 

 

「……そうかい。なら、面倒な事になっちまったねぇ」

 

「…………それは、どういう」

 

 

 声音が変わった。

 柔らかな声音だったアイリーンは唐突に狩人としての声音に変わった。

 その変化にデュリオは顔を顰め警戒する。

 

 

「安心しな、あたしは何もしない……やるのは馬鹿どもだけだよ」

 

「何をする気だ」

 

 

 戦士としての顔を見せるデュリオにアイリーンは嘲るように笑う……いや、それはデュリオに向けられているのではないのだろう。

 

 

「男なんてもんは何時の時代も馬鹿ばっかりさね…………まあ、教区の育ちなあんたには教えたっていいか」

 

 

 それは自分たち狩人に、馬鹿な奴らだと言う男どもに。

 

 

「ストラーダが来たのなら死ぬよ。両方ね…………片や人として死に、片や獣として死ぬ」

 

「あたしに構ってる暇があるのかい?狩長に任務を与えられたのは確かにあたしさ…………でもね」

 

 

 デュリオはその背に冷や汗を流した。

 その手にはランプがある。灯りがある。

 この牢内を照らす為の灯りが。

 だがしかし……暗いのだ。牢の向こう側、アイリーンのいる牢は暗く、闇く、まるで暗闇とアイリーンが混じりあっているようで…………。

 

 

「狩人は一人じゃないんだよ────」

 

 

 鐘の音が聴こえた。

 涙が流れそうになる様な静謐な音色であり、鮮血が噴き出すかのような恐ろしい鐘の音が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

『ィアアアァァアアア!!!!』

 

 

 炎を伴った大振りの一撃がヴァーリと兵藤一誠へと襲いかかる。動きは単調、しかしその速さは緩慢ではない。

 

 

「ッおお!?」

 

「速いな!」

 

 

 並の戦士ならば攻撃に気づく前に壁の染みと化す程の速度で振るわれた腕をギリギリで避ける二天龍、しかしその程度では終わらない。聖職者の獣は腕を振るった勢いであろう事か飛び上がり蹴りつけて来たのだ。

 しかし、腕に対してそこまでの長さではない脚を二天龍は容易く回避する。

 

 

「っと、ドライグ!!」

 

『おう!』

 

 

 赤龍帝の叫びと共に大聖堂に機械音が響き渡る。赤龍帝の力、それは倍加である。

 通常時では十秒ごとに発動するそれを禁手時には任意のタイミングで何度でも発動できる。つまるところ

 

 

「オラァッ!!!」

 

『ィアアアァ!!??』

 

 

 何度鳴り響いたか分からない。しかし、赤龍帝の拳が聖職者の獣の鼻先に叩き込まれ勢いよく吹き飛んでいった辺り、相当倍加されたのだろう。

 吹き飛んだ聖職者の獣。そこに次に襲いかかるのは白龍皇、その力は半減。対象者に触れる事で発動条件を満たし、通常時には十秒ごとに対象の力を半減していくが禁手時には任意のタイミングで何度でも発動できる。

 既に戦いが開幕する前に一撃入れているために条件は満たされている。

 

 

「悪いが一気にやらせてもらうぞ」

 

『ァアアァ!!』

 

 

 力が半減していく。燃え盛る炎がその勢いを弱めていく。それと対照的に白龍皇に力が漲る。

 倍加と半減。嘗て神を殺した二天龍の暴威が聖職者の獣へと向けられていた。

 嘗て強大な邪龍を打ち倒した二天龍に聖職者の獣は勝てるのだろうか…………獣となれども二天龍に勝てぬのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

だがしかし────────

 

 

 

「「「「我ら血によって人となり、人を越え」」」」

 

 

 大聖堂の窓が割れていく。

 

 

「「「「また人を失い」」」」

 

 

 大聖堂の別の入口が開かれていく。

 

 

「知らぬ者よ」

 

「かねて血を恐れたまえ」

 

 

 そして、聖職者の獣に突き立てられる注射器。

 窓から扉から幾つもの人影が大聖堂へと入ってきた。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

「あれは……」

 

「まさか……!!」

 

「────狩人」

 

 

 つばの広い帽子に青白い能面のような仮面をつけ灰色のコートに身を包んだ杖と銃を持った者や帽子とマスクで目元以外を隠した狩装束に身を包んだ者、フルフェイスの兜に紺色の衣服に身を包み烏羽のマントを羽織った者、三角の奇妙な兜を被り車輪を背負った者、多種多様な狩人たちが大聖堂へと流れ込んだ。

 そしてその中から三人の狩人が前へと出る。

 黒いハットに黒い衣服を着た大柄な男、こげ茶地味た狩装束に身を包む男、そして何やら靄がかった烏羽のマントを羽織った烏面の狩人。

 

 

「ああ、匂い立つなぁ…………獣、そう獣の匂いだ」

 

「和平を組んだと聞いた時はなんと愚かな、と思ったが…………神聖な大聖堂に獣が入るのを赦すとはやはり天使も獣か」

 

「無駄口叩く暇があるんなら、さっさと狩りな……まったく」

 

 

 その三人、とりわけ烏面の狩人にこの場にいる誰しもが驚愕する。

 ありえないのだ。

 彼女は古狩人アイリーン。此度の一件にて冥界の牢に入れられた筈の狩人であるにも関わらずこの大聖堂にいる事が。

 だが、そんな彼らの驚愕など狩人たちはどうでもいい。

 

 

「ヘンリック!赤いのは俺がやる、お前は白いのをやれ!」

 

「やれやれ……死ぬなよガスコイン」

 

 

 古狩人ガスコインの言葉に古狩人ヘンリックは肩を竦めるがその眼は狩人の冷徹な眼だ。

 

 

「いくぞ獣ッ!!!」

 

「ッ!!??」

 

 

 古狩人ガスコインは嗤い、その常人らしからぬ狩人の身体能力をもって赤龍帝へと襲いかかる。

 そんな相棒に呆れながらもマスクの上からでも分かる笑みを浮かべてヘンリックは白龍皇へと駆けて行った。

 そんな古狩人二人に溜め息をつきつつ、残ったアイリーンが狩人たちへ指示を飛ばす。

 

 

「たくっ、これだから男どもは馬鹿なんだ。あんたら!ストラーダには手を出すんじゃないよ、獣に集中しな……邪魔する教会の奴はそうだね、適当に気絶させてほうっておきな!!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

「いくよッ」

 

 

 アイリーンの指示に狩人たちは獣がを狩るために駆ける。その手に握られている武器は様々、狩り方は各々様々。

 今宵は獣狩りの夜

 皆、血によっているのだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

「ヌゥッ!?……くっ、気を付けろこの獣、触れれば消える神秘を使うぞ!」

 

「ならば神秘を打ち消すまでぃ!」

 

 

 紅髪の悪魔、リアス・グレモリー。滅びの魔力を行使する貴族位の悪魔に襲いかかる二組の狩人。

 能面を付けた狩人が仕込み杖を振るうがリアス・グレモリーはそれを避け滅びの魔力を放つ、しかし狩人にとってそんなものたゆたう羽の如し。すぐさま仰け反り避けてみせるがギリギリのところで被っている帽子のつばが触れ、消失する。

 そして、相棒の狩人の助言に従いもう一人の煤けた狩装束の狩人がその手の銃槍に何やら塗りつけリアス・グレモリーへと突貫する。

 

 

「何をしても、無駄よ!!」

 

「否!」

 

 

 そんな狩人に滅びの魔力を再度放つがしかし、狩人の槍は滅びの魔力を振り消す。

 そんなありえない光景にリアス・グレモリーは絶句する。

 

 

「我ら狩人機関が創り出した貴様ら獣の神秘を打ち消す狩り道具、電光ヤスリや発火ヤスリに近しいものよ」

 

「……厄介な道具ね」

 

「なにぶん貴様ら獣を狩るための道具なのでね」

 

 

 笑う狩人にリアス・グレモリーは顔を顰める。それは自分の最大の武器たる滅びの魔力を封じられた事にか、それとも悪魔という種族を獣と嘲る事にか。

 

 

「クク、貴族位を狩る……滾るなぁ!!」

 

「あら、そう……」

 

 

 滾る狩人はそのまま槍を突き出す。

 剣に長けているわけでもなく、体術に長けているわけでもないリアス・グレモリーにその槍を魔力で止める以外の手はなく、しかし魔力は狩人の槍で無力化される。

 もはや彼女に止める手段はない────だが、リアス・グレモリーは笑った。

 

 

「祐斗!!」

 

「はい!!」

 

 

 迸る鮮血、煌めく刃。

 成果に急いだ狩人はその狩り道具たる銃槍を半ばから切断され、その身体を肩から切り裂かれる、筈だった。

 

 

「ゴフッ……」

 

「なっ……」

 

「………………」

 

 

 右肩から左脇腹へと下ろされる筈の剣は狩人の鎖骨近くで止められていた。

 それは狩人の筋肉や骨がそれほど硬いというわけではなく、背後から狩人の身体を貫いていたモノが剣を止めたのだ。

 では、狩人の身体を貫き剣を止めているモノは何か。それは一本の刀、そしてその持ち主は受け止めている剣ごと刀を振り上げる。

 

 

「ガフッ!?」

 

「…………すぐに輸血液を射て。それぐらいなら癒える」

 

「お、おう!」

 

 

 能面の狩人が槍の狩人を引きずり戦線より離脱していく、剣を振るった人物・木場祐斗は目の前の新たな狩人を警戒する。

 完全に不意打ちだった筈なのだ。いや、それよりも先程の二人の近くに目の前の狩人はいなかったにも関わらずあの攻撃に反応しあのような方法で止めるなど人間業ではない。

 フルフェイスの兜に紺色の衣服を纏いその上から烏羽のマントを羽織った狩人。似たり寄ったりな装いの狩人が多い中、目の前の狩人はまるで狩人ではなく騎士を思わせ一際目立つ。

 

 

「イザイヤ」

 

「ッ!!??」

 

「その名前は……」

 

 

 そんな風に木場祐斗は目の前の狩人を警戒していたところに狩人が呟いた言葉に木場祐斗は何度目になるのか分からない驚愕の色に表情を染める。

 イザイヤ、それは嘗て教会にいた時の木場祐斗の名でありそれを知る者は今となって少ない。何故目の前の狩人がそれを知っているのか、よもや自分と同じ聖剣計画の犠牲者────

 そこまで思考して、木場祐斗は目前に迫った刃に気づきギリギリのところでそれを避けた。

 

 

「っう…………」

 

「イザイヤ……第二次聖剣計画の被験体、処理の際に逃走しその後、獣へ落ちぶれた…………憐れだな」

 

「ッ、祐斗を馬鹿にする気?」

 

「馬鹿にする?何を言っている……憐れ、と言っているだけだ。わざわざ獣に成り下がってまでお前は何がしたかったのだ?」

 

 

 狩人の言葉にリアス・グレモリーが吠えるが狩人は心外だと語る。その声音からは本当に憐れという感情しか感じとれない。

 だからこそ木場祐斗は剣を握る手に力を込める。自ら選んだ道を憐れまれるなどごめんだ、と。

 

 

「悪いけど、君に憐れまれる理由は無い……」

 

「そうか…………聖剣計画、アレは我ら狩人にとって忌避するものだった。わかるか?アレに加担した人間も天使も皆獣と何ら変わらない」

 

「そうかい!」

 

「故にそんな獣共に処理された君が獣になるとは何とも憐れだ」

 

 

 言葉を吐く間に幾度も白刃が混じり合う。片や狩人、片や『騎士』の悪魔。高速戦闘に慣れているが故にこうした会話ながらに切り結ぶ事が出来た。

 剣と刀、互いに刃物の武器であるが用途の違うそれが幾度もぶつかり合い、その度に白刃の煌めきが走る。実力は互角、否だ狩人は確実に手を抜いている、何故ならば狩人は未だについ先程行った謎の動きを見せてはいない。

 明らかに近くにいなかったにも関わらずあの不意討ちに刀を差し込み止めた。あの謎の動き────そう、それは二天龍と聖職者の獣による戦いの幕が開ける前に聖職者の獣が見せたモノと同じモノ。

 

 

「……さて、そろそろ本気を出そうか」

 

 

 そう呟き、バックステップで木場祐斗と距離をとる狩人。刀を鞘へと納めとった構えは居合いのそれ、ならばと木場祐斗は自分の握る剣……聖魔剣に力を込め迎え撃つ構えをする。

 未だ狩人は驕り、木場祐斗の実力を過小評価している。なれば木場祐斗はおのが全力をもって次の居合いを迎え撃ち倒すと決めた。

 

 

────カチィ

 

 鯉口が切られた。

 来る。

 迎え撃つ為に木場祐斗はその聖魔剣を振るって────

 

 

「は?」

 

 

 瞬間、木場祐斗の耳に発砲音が響いた。

 次の瞬間には腕、正確に言えば聖魔剣に衝撃が走り、それによって仰け反ってしまった。

 何をしたのか。あらゆる全てが緩慢に見える中、いったいいつの間にかにそこにいたのか狩人が連装銃を左手で持ち突き出しておりその銃口からは硝煙が立ち上っている。

 懐へ潜り込まれた。

 しかし、この距離では腰の刀は引き抜けない。急いで下がれば問題ない。

 

 

 だが愚か。獣は愚かなものだ。

 狩人は空いた右手を木場祐斗のがら空きな左脇腹へと添える。

 騎士の獣、彼の憐れな点は二つ。一つは狩人の戦いを知らぬ事。もう一つはこの狩人……流血鴉と呼ばれ恐れられる狩人を知らなかった事。

 

 

───存分に狩りたまえよ、『    』

 

 

 古狩人ハンスに曰く月の香りのする狩人と称された最後の直弟子は生家で継がれた兜の下で嗤う。

 顔も知らぬ大伯母にあたる女性、古狩人ハンスが嘗て愛した女、聖剣計画によって失った友、あろう事か教会の人間に獣へ変えられたという彼女。

 顔も知らない彼女になにゆえか流血鴉は想う。いつかきっと獣を狩り尽くします、我が師を継ぎ、我が師を狩り、貴女の冥福を祈ります。理由など分からない。

 

 

 

───だが、まあ、きっと。獣を殺していれば分かるだろう

 

 

 流血鴉のその指先が木場祐斗の肌に食い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくどいつもこいつも馬鹿ばかりだ」

 

 

 古狩人ハンスより最後の直弟子流血鴉へと貸し与えられていた『聖鐘』によって冥界より擬似召喚されている古狩人アイリーンは嘆息する。

 グレモリー眷属、すなわち獣を狩らんと殺到する狩人らを迎え撃たんとする教会の戦士ら。時折自分へ向かってくる戦士を蹴りや掌打で無力化していくアイリーンはとある獣へと近づいていく。

 それは彼女にとってよく見知った獣……狩人らにとっては獣と呼びたくはない一人の少女のもとへ。

 

 

「久しぶりだね、アーシア」

 

「っ……アイリーンさん」

 

「なんだい、昔みたいにおばちゃんでもいいさ」

 

 

 アーシア・アルジェント。同じ古狩人のガスコインが末の娘でこの教区で生まれ育った少女。しかし、奇跡を宿していたが故に教区外の教会へ聖女として赴任し憐れにも貴族位の獣に目をつけられ魔女と貶められた過去を持つ悲劇の聖女。

 魔女として教会を追放された彼女は教区へ戻ることも出来ず堕ちた獣に拾われ利用され、その果てに死に……こうして獣となって蘇った。

 あの娘を目に入れても痛くないと笑う子煩悩なガスコインが教区へ帰還してからまったくアーシアの事を口にしないほどに彼女が獣となった事は狩人の誰しもが心傷んだ。

 無論、このアイリーンですらそうだ。若い時、狩人となって数年ほど経った頃に受けた任務でしくじり子供を産めなくなったアイリーンにとってアーシアは自分の娘のような子だった。故にアイリーンはアーシアを狙った貴族位の悪魔を付け狙った。

 

 

「アーシア先輩っ」

 

「手を出しゃしないよ」

 

 

 故に獣狩りたるアイリーンが獣となったアーシアに何をするのかは分からない。だからこそアーシアの学舎での後輩であり同じ獣の眷属たるギャスパー・ヴラディはアーシアの前に出る。グレモリー眷属の男として、優しき先輩を守る為に。

 だが、アイリーンはそんなギャスパーを制する。その男気に獣ながらも感嘆しつつ

 

 

「アーシア、別にあたしはお前を狩ろうとはしないよ……それはあたしの役目じゃない」

 

「…………」

 

 

 そう、きっとアイリーンがアーシアをせめてもの救いとして狩れば間違いなくアイリーンをガスコインは殺すだろう。

 たとえ悪魔へ転生しようとも、話題に出さずともガスコインにとってアーシアは愛おしい娘の一人なのだから。

 

 

「……アーシア、あんた今幸せかい?」

 

「はい…………!」

 

 

 アーシアの言葉にアイリーンは頷き彼女らに背を向ける。

 既に用は果たした。ならば空砲をもって鐘の音を消そう、しかしきっとアイリーンが消えれば獣を狩らんと他の狩人が来るだろう。

 故にアイリーンは此処で待つ。

 戦いの終わりまで

 

 

「まったく、あたしは何もしないってデュリオに言ったはずなんだがねぇ」

 

 

 





───マリア?彼女について知りたいと?

「はい、顔も知らぬ大伯母ではありますが私にとってあの方は何やら特別故…………ダメでしょうか」

───いや、そんな事はないよ……そうだな、ここにマリアを模した一分の一人形があってだな

「あ、やっぱり大丈夫です」

───そうかね?

「はい」



 狩人という者はどこかやはりズレているのだと流血鴉は改めて感じた。
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