それは古狩人の讚美歌   作:カチカチチーズ

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『…………古き友よ、私はもう駄目だ』

『理性なき醜い獣へ堕ちるその前に』

『私は────────』



『嗚呼…………先に逝くよ、古き友よ』



それは古狩人の讚美歌:3

 

 

 

 

 

 古狩人ガスコイン。それはグレモリー眷属とは決して浅くはない関係の狩人であった。

 グレモリー眷属の一人、アーシア・アルジェントの父親。彼と赤龍帝の初会合は衝撃だった。

 赤龍帝が悪魔となった原因、堕天使レイナーレの一件の閉幕その時に二人は出会った。

 戦闘の余波でボロボロとなった教会、悪魔へ転生したアーシア、瀕死の堕天使レイナーレ、そして彼らグレモリー眷属。

 そこへ現れた古狩人ガスコインに狩人を知る彼らは構えたが獣となったアーシアを見てガスコインは狼狽していた。如何に獣狩りを慈悲なく行う狩人であろうとも実の娘が獣となるのはショックでしかなく、だからこそ瀕死だったレイナーレはガスコインを襲った。

 

 理由など分かるわけはない。どうせ死ぬなら、と堕天使からも敵視される狩人を殺す事を優先したのだろう。だがまあ、狼狽していても矢張り狩人か流れるような動きでガスコインはその手の獣狩りの斧をレイナーレの首に叩き込み狩り殺した。そして見てしまった……古狩人ガスコインの姿を見て恐怖した実の娘の姿を。

 故にガスコインは誰も狩らなかった。きっと狩ってしまえば狂って自分が獣になるのかもしれないと思ったから。

 

 

「どうした獣!!」

 

「ぐぅッ……!!」

 

 

 古狩人ハンスが創り出した『カレル文字』と呼ばれるルーン文字に近しい術理はそれを刻んだものを所持またはある事でその力を発揮する。日本における護符の様なものであるそれは刻まれた文字によってその力を変える。

 古狩人ガスコインもまたその『カレル文字』が刻まれたロケットを首から下げている。その『カレル文字』がガスコインに与えるのは空中歩行。

 嘗ては対空狩り道具をもって飛行系の獣を狩っていた古狩人デュラの脱落、以来ガスコインは空中での戦闘を行う為に自らのロケットに文字を刻んだ。

 

 

「どうしたどうした!!」

 

 

 龍翼により空中を飛行出来る赤龍帝に対しガスコインは空中歩行をもってぶつかり合う。何度も何度もその手の獣狩りの斧を振るっていく。

 その様は正しく防戦一方。

 

 

「クソっ!!」

 

 

 獣狩りの斧に対して赤龍帝の鎧の装甲が勝っているためか衝撃が赤龍帝を襲うものの砕けることはない。

 だが、それでもその衝撃は間違いなく赤龍帝を襲う。赤龍帝は呻きながらも攻勢に打って出る。

 そんな彼にガスコインは凶悪な笑みを浮かべてみせる。

 

 

「匂い立つなぁ……あの時よりも随分と獣らしくなったじゃないか」

 

「うる、せぇ!!」

 

 

 鳴り響く三度の倍加。そして倍加とはまた違った音声が響きその拳がガスコインの胸に撃ち込まれた。

 

 

「ぐぅッ!!」

 

 

 それは『透過』。赤龍帝の持つ能力の内の一つ、狩人の常人ならざる防御力を透過し、三度倍加された一撃が確実にガスコインへ入った。

 防御力による威力の減衰は無いために、ガスコインは呻き仰け反る。吹き飛ばなかったのは狩人としての意地か。だが、吹き飛ばなかった事で赤龍帝より距離は取れず隙を晒してしまう。

 

 

「オォォッ!!」

 

 

 倍加と透過の音声が響き赤龍帝の乱打がガスコインへとひたすらに撃ち込まれていく。

 全て透過により防御力を無視した攻撃。常人ならざる獣の腕力に倍加をかけたそれの威力を減衰できずにくらい続ければさしもの古狩人ガスコインも耐えることが出来ない。

 

 

「と、でも思ってんのかァ!!」

 

「ガッ!?」

 

 

 乱打の中、ガスコインは無理矢理に頭を振るって赤龍帝の頭部に叩きつける。あくまで透過しているのはガスコインの防御力、常人ならざる狩人の頭突きに赤龍帝の鎧、その頭部が砕け赤龍帝の顔が露出する。

 乱打は止み、鎧が一部であれども頭突きで砕けた事に驚く赤龍帝にガスコインは笑みを浮かべその顔面に拳を叩きつける。

 

 

「クハッ」

 

 

 よろめく赤龍帝。

 そんな隙を逃さぬ狩人にあらず。

 内臓攻撃にはいささか鎧は硬すぎる。

 では、何をするか。

 愛用の獣狩りの斧が鎧を壊せないのは分かっている。

 なら、武器を替えればいい。

 

 取り出したるは複雑怪奇な機構を組み込み極太の杭を装填した尋常ならざる『仕掛け武器』、嘗ては古狩人デュラが装備した狩り道具。

 名をパイルハンマー。デュラを狩り受け継いだ対重装甲獣用の火力極振りの武装である。

 

 

「貴様は良い獣だ。力を持ち、視野が狭く、欲に酔っている。良い獣だ────故に俺は貴様を狩るのだ」

 

「ヤバっ────」

 

 

 パイルハンマーのネックである溜めは赤龍帝が晒した隙に終わっている。

 ならば後は放つのみ。

 

 

「ハハッ、堪らぬ血で誘ってくれ」

 

 

 ガスコインは容赦なくパイルハンマーの引き金を引いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ほらほら、どうした」

 

「くっ、ちょこまかと……!」

 

 

 ガスコインの相棒、古狩人ヘンリックはガスコイン同様空中歩行を可能とさせる『カレル文字』を用いて白龍皇を相手にまるで揶揄う様に戦っていた。

 手に持つのは仕掛けを作動させ開いたノコギリ鉈、そこに対神秘の狩り道具を使用し白龍皇の力を弾きながらヒットアンドアウェイの要領で地道に白龍皇に刃を当てていく。

 深追いはしない、一発当てれば即座に下がる、相手からの攻撃はとことん潰していく、ひたすらなまでに嫌がらせとしか言えない戦いに戦闘狂である白龍皇はフラストレーションを溜め込んでいく。

 

 

「いい加減にしろぉ!」

 

 

 白龍皇の怒号と共に響くのは反撃とはまた似たようで違うもの。

 強くなったわけでも何か自分の力が減ったわけでもない事にヘンリックは首を傾げながらも白龍皇へ、再び一撃入れるために突っ込もうとして一気に距離が近くなった白龍皇に目を見開いた。

 

 

「ッ!?」

 

「おお!」

 

 

 唐突な距離の変化にヘンリックは驚き、変化した距離を白龍皇はすぐに詰めて、魔力による攻撃ではなく拳による殴打をヘンリックに撃ち込む。避ける事は出来ずもろに白龍皇の殴打を顔面に受けてヘンリックは吹き飛ぶ。

 そんなヘンリックに白龍皇は舌打つ。

 

 

「避けれないと分かったら、わざと自分から跳んだな……」

 

「悪いね、俺の狩りは如何に傷を抑えて獣を狩るかだ。そっちみたいに傷ついて傷つけて勝利するなんてこたぁしないのさ」

 

 

 そんなにダメージが入っていないのかヘンリックはノコギリ鉈を掴んでいない方の手で投げナイフを持ち不敵に笑う。

 だが、白龍皇もマスクの下で笑う。

 

 

「だが、ようやく触れた」

 

「ッ────」

 

 

 瞬間、鳴り響くは半減。

 幾度もの半減にヘンリックは片膝をついてしまう。今の今までヘンリックが白龍皇と触れたのはその手の神秘を振り払う力を付加させたノコギリ鉈のみ。

 故に半減を食らわなかったがつい先程白龍皇の拳がヘンリックへと触れた。条件は満たされヘンリックの力は半減されていく。

 

 

「……やれやれ、こういうのの相手は普通アイリーンの役目じゃないのか?」

 

「さて、鬱憤を晴らさせてもらおうか」

 

 

 少しずつ近づいてくる白龍皇にヘンリックは愚痴りながら投げナイフを投擲するが弱体化した状態のそれは羽虫を払うように弾かれる。

 そんな光景にヘンリックは嫌になる。

 今では古狩人として狩人の若者らに尊敬されるベテランであるがヘンリックは平凡だ。導き手であり師であるハンスに曰く、「四人の狩人の中で最も平凡で突出したものは無い」と評された彼は何度も狩人を辞めようとした。

 デュラの様に隙を目敏く見つけ獣を狩る事も出来ず、アイリーンの様に手数と素早さで獣を翻弄し確実に狩り殺す事も出来ず、ガスコインの様に傷つく事を恐れず薙ぎ払うように獣を狩る事も出来ない。

 せいぜいちまちま削り出血死を狙う様な狩り方しか出来ぬ、とヘンリックは自嘲する。

 

 

「…………だがまあ、俺も狩人。易々と殺される気もないんでね」

 

 

 そう言って空いた左手で懐から何やら丸薬を取り出し口元に放り込む。

 白龍皇はそれに気づくがせいぜい回復程度、と驕り変わらぬ歩みで近づいていく。それが間違いであると知らずに。

 

 

「……血によって人となり人を超える……我が師よ、私は人を失うよ」

 

 

 そう呟き、ヘンリックは血のような丸薬を噛み砕いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖職者の獣は嘶く。

 打ち込まれた輸血液が失った力を聖職者の獣に戻していく。弱まった炎は元通りになり、火の粉を舞わせながら目の前に歩み寄ってきた男を見る。

 

 

「……予想外の乱入者、いやある意味予想は出来ていたな」

 

 

 老齢の戦士ヴァスコ・ストラーダはその手にデュランダルIIを握りしめ聖職者の獣の下へ歩む。

 獣狩りでありながら自ら獣へ変生した友を討つために、既に先の傷は癒えた。

 そして聖職者の獣もまた傷は癒えている。

 仕切り直し、狩人と戦士ではなく獣と戦士の戦い。

 手助けする者は誰もなく、ただ互いの命を奪わんとぶつかり合うだけ。

 

 

「さあ、ゆくぞ獣よ……お前たち風に言うならば」

 

 

 聖職者の獣は右手を床につけ、左腕を大きく掲げる。獣となったその手には狩り道具は無いが炎を伴うその左腕はヴァスコ・ストラーダにとっていままで相対したどの武器よりも恐ろしい。

 で?だからどうした。

 

 

「────ストラーダの戦いを見るがいい」

 

『ィアァァァ!!!』

 

 

 瞬間、ヴァスコ・ストラーダは聖職者の獣へと駆ける。そんな彼に聖職者の獣は左腕を叩きつけ周囲に火の絨毯を敷く、だがしかしヴァスコ・ストラーダは見事避けて左腕を踏み台に飛び上がる。

 踏ん張りの効かぬ空中、聖職者の獣は嘶き右腕を振り上げ薙ぐ。踏ん張りが効かぬなどヴァスコ・ストラーダとて理解している。デュランダルIIを向かってくる右腕に上手く滑らせ今度は右腕を踏み台に左肩を切りつける。

 最新の聖剣、その斬撃は浅くとも聖職者の獣を怯ませた。

 

 

『ィアァ!!』

 

 

 だが、どうした。

 怯みはしたがすぐに聖職者の獣は自身の炎を猛らせ傷口より炎を噴き出させてヴァスコ・ストラーダを襲う。

 

 

「ぐぅッ」

 

 

 豪炎に視界が封じられた最中に聖職者の獣は左腕を振り上げヴァスコ・ストラーダに打ち込む。

 豪打。ヴァスコ・ストラーダは自身の骨がいくつか逝くのを感じながらもデュランダルIIで左腕を切りつける。

 呻く、しかし聖職者の獣はその獣体で再び『加速』の業を使いヴァスコ・ストラーダの背後へ現れる。

 

 分かっていた。背後に現れた聖職者の獣へヴァスコ・ストラーダはデュランダルIIを持っていない方の腕で裏拳じみた聖拳を放ち聖職者の獣が振るった右腕を殴り弾く。

 

 

「オォォッ!!」

 

『ィアァ!!』

 

 

 ヴァスコ・ストラーダは空を蹴りつける。

 空中ではガスコインやヘンリックの様な方法や魔術などでなければ踏ん張りが効かない、にも関わらずヴァスコ・ストラーダは空を、大気を蹴ることで聖職者の獣へと迫る。

 なんということか。

 聖職者の獣はそんなヴァスコ・ストラーダに驚愕を見せながらも迎え撃つ。炎を猛らせた左腕で再び豪打を放つがヴァスコ・ストラーダは再び聖拳を放ち拮抗させる。

 

 

「むぁぁぁだむぁぁだぁ!!」

 

 

 あろう事かヴァスコ・ストラーダはデュランダルIIを床に放り投げ、両手の聖拳をもってラッシュを始める。豪炎猛る左腕は流石のラッシュに少しずつ押されていく。

 故にラッシュを終わらせようと嘶きその喉奥が紅く染まる。

 

 

『ィアァァァ』

 

「ぬぅッ!!」

 

 

 ブレス。そう察知したヴァスコ・ストラーダはすぐさま聖職者の獣より距離を取る、と同時に聖職者の獣からやや溶解した固形の熱が放たれる。恐らく溶岩であろうか。

 聖職者の獣より距離をとって着地したヴァスコ・ストラーダを見てすぐさま聖職者の獣はブレスを止めてその場より跳躍、大聖堂の天井へと着面した。

 

 

「来るかッ」

 

 

 それを見てヴァスコ・ストラーダはすぐさまデュランダルIIを拾い見上げる。すると天井にいる聖職者の獣は炎を全身に纏い始めた。

 そのまま落下するのであろう聖職者の獣を迎え撃つ為にデュランダルIIに自身の聖なる波動を流し込む。

 

 瞬間、鳴動する大聖堂。

 溢れんばかりの聖なる波動に戦士も狩人も戦いではなくそちらに視線を向けてしまう。

 しかし古狩人や流血鴉はそんなものは知らぬと戦いを続けている。

 聖職者の獣はヴァスコ・ストラーダと最新の聖剣の全力を返り討ちにしてやらんと天井より落下する最中に自身から溢れ出す炎をより一層盛らせ────

 

 

『────ァ』

 

 

 瞬間、聖職者の獣否ローレンスは感じとった。ヴァスコ・ストラーダと最新の聖剣は決して脅威にあらずしかし、脅威たりえる存在を理解した。

 同時にローレンスはこの大聖堂の全ての狩人らを視認し、成さねばならぬ事を理解する。

 故に────

 

 

『あああぁぁぁぁあ!!!』

 

 

 炎を猛らせ、ローレンスは先程ヴァスコ・ストラーダがやってみせた様に大気を蹴りつけ大聖堂の壁へ着面、さらに飛び上がった。

 

 

「ぬぅッ!!」

 

 

 逃げる気か!?戦士らが零すその言葉、しかしヴァスコ・ストラーダはこの自分の一撃に対する何かをするのか、と考える。ならばそれを迎え撃つ。

 否。否。否。

 最新の聖剣など、ローレンスにとってもはやどうでもいい。

 早く。早く。早く。

 

 

 ローレンスは左腕に猛る炎をばら撒いた。

 狙うは二箇所。

 

 

「「ッ!!??」」

 

 

 パイルハンマーの引き金を引いたと同時にガスコインと赤龍帝の下に豪炎が襲撃した。避ける為にガスコインも赤龍帝も同時に後退する。結果的にパイルハンマーの杭先は赤龍帝を貫かず豪炎により焼け溶ける。

 内臓攻撃として木場祐斗の脇腹に指先が食い込んでいた流血鴉はそれに気が付き『加速』の業をもって木場祐斗を蹴りつけその場から離脱する。

 

 予想外のそれに古狩人も白龍皇も誰しもがローレンスを見つめ。

 

 

 そして、大聖堂の床を深淵の暗き光波が突き破り着地する寸前のローレンスを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 大聖堂の床を突き破り噴き出した深淵の暗き光波とそれに呑まれたローレンスを見てこの場にいた誰しもが目を疑った。

 アレは何だ、と。

 ヴァスコ・ストラーダが放とうとしていたデュランダルIIの斬撃に感じたのはまるで世界を照らしてくれる様な尊い光、それに対してあの光波より感じたのは暗黒に包まれながらもおのが進む道へと導いてくれる輝き。

 そんな光波にただ唖然とする彼らを置いて、アイリーンはとある事に気がついた。それは光波が通った場所、それはガスコインが、流血鴉が戦っていた場所と被ることに。

 すなわちそれはローレンスは自分の下より噴き出した光波に気がつき、ガスコインや流血鴉がそれに巻き込まれかねないことを理解していたが故にあの様な行動をしたのか、とアイリーンは理解する。

 

 

 次に動き出したのは流血鴉。ローレンスが光波に呑み込まれた事からおのが師の安否を探り動き出す。

 

 

 そして三番目にしてヴァスコ・ストラーダは聖剣の力を消そうと動き、目を見開いた。

 

 

「ゴフッ……」

 

『…………ぁあ』

 

 

 口から吹き出る血液。

 貫かれた腹。

 そして目前には全身がひび割れ、左腕は既に無く今にも死ぬのではないかというローレンス、そんな彼がその右腕を自分の腹に突き刺している姿。

 感覚からしてヴァスコ・ストラーダはその右腕が背中を突き破っているのを理解し、自らの死を悟った。

 

 

「ストラーダ様ッ!!」

 

「そんな……!」

 

「嘘だ……」

 

 

 その光景にようやく気がついた戦士はヴァスコ・ストラーダの状況を見て嘆き絶望する。

 彼よりも後方にいるから良くわかる。

 ヴァスコ・ストラーダの背を突き破っているローレンスの右手に握られているものが何なのかを。きっとアーシアの奇跡や不死鳥の涙ですら癒せぬであろうそれに絶望以外の何があるというのか。

 火の粉が舞う。

 ローレンスの身体の端から少しずつ火の粉へと変わっていき、ヴァスコ・ストラーダの身体が徐々に燃え始めている。

 誰もそれを止めようとはしない。いや、止められないことを理解しているからだろう。

 

 呆然と立ち尽くす戦士らに対し狩人らは武器をしまい各々の銃を手に取る。

 マスクを付けている者は脱ぎ、仮面を付けている者は剥いで銃を天井へと掲げる。

 彼ら狩人には各々の流儀があれども皆等しくとある事だけはローレンスにならっていた。それは狩りの終わりを告げる号砲。弾を抜いた銃を射ち次々と空砲を鳴らしていく彼らに悪魔らは困惑する。

 

 

 右腕も火の粉と消え、ヴァスコ・ストラーダは支えるモノがなくなりその場へ仰向けに倒れ伏しより炎が増していく。

 そんな彼をローレンスは見下ろし

 

 

『…………天へと逝けストラーダ。お前は望み通り人間として終われたのだ』

 

「……ふざけた男だ、ハンス」

 

 

 どんどん火の粉へと変わり、首だけとなったローレンスはそのまま床へ落下し、先の光波により砕けひび割れ穴となった場所へと消えていった。

 それを見届けたと同時にまるで示し合わせたようにヴァスコ・ストラーダも薪となって焼け消えた。

 

 これにてローレンス教区が大聖堂にて行われた一夜の狩りは幕を閉じた。大聖堂の窓より差し込む朝日は狩りの跡をただ照らすばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 結果として言えば今回の一件にて出た死者は三名。

 教会の戦士、グレモリー眷属、白龍皇、そして狩人機関。これらがぶつかってたったの三名しか死者が出なかったのは奇跡としか言いようがない、だがそれはあくまで死者が戦士の中の何某やら狩人の中の何某などそこまで大きくない存在だったならの話。

 死者の名は元司祭枢機卿ヴァスコ・ストラーダ、教区長ハンス・ローレンス・シャストル、古狩人ヘンリック。

 今回の件の中心人物二人に古狩人一人という結果だった。

 

 中心人物二人は相討ちであったが古狩人ヘンリックはいったい誰が殺したのか、彼と戦っていたのは白龍皇ヴァーリ・ルシファーだが殺したのは白龍皇ではない。

 ヘンリックは白龍皇との戦いの最中に獣血の丸薬と呼ばれる狩人機関でも早々に破棄された道具を所持使用した結果一時的に本来以上の力を得る代わりに自身の身体を獣に近づけた。

 その丸薬の効果を解除する為の道具が出来なかった為に破棄されたそれを使ったヘンリックは人間には戻れない、故に彼は戦闘処理の際に自ら死を望み古狩人アイリーンの介錯によって死を迎えた。

 

 納得のいかぬ終わり方に一部の狩人はグレモリー眷属を狩る事を強く望んだが古狩人アイリーンと古狩人ガスコインの一喝により渋々ながら今回の結果を受け入れた。

 だが、今回の一件で狩人らは教会と確執が生まれるのは火を見るよりも明らかだった。

 後処理を終え、グレモリー眷属や教会の戦士に派遣されてきたデュリオ・ジュズアルドとグリゼルダ・クォルタ、そして古狩人ガスコインはローレンスを仕留めたと同然の謎の光波の発生源を調査すべく大聖堂の地下へと侵入した。

 

 大聖堂の地下に広がっていたのは大聖堂の半分ほどの空間があるだけでそこには誰かがいるわけでもなかったがとあるドッグタグだけが見つかった。

 ルドウイーク、ハンスという二人の戦士の名が刻まれたドッグタグ。それ以外に何もなく光波の真相は永久に分からないままとなる。

 次に狩人らへと直面したのはローレンス亡き後の教区を誰が治めるかという事、狩人機関の存在するその教区の教区長という事は狩人らにとっての狩長である事で当然彼らはバチカンよりの出向は断じて認めない。

 故に現在天界のトップであるガブリエルは大いに悩み、デュリオ・ジュズアルドの意見もあり上手く狩人らを纏めて貰うために古狩人ガスコインを教区長へと任命した。聖職者としては司祭であった彼はそのまま司教に任ぜられあれよあれよという間にそのまま教区長となった事に困惑するものの前任者ローレンスの意を継ぐ事を決意した。

 だがそれでも教会への不満を抱える一部の狩人はヴァルトールという古参の狩人を中心に連盟という団体を創り教区を後にした。

 そしてローレンスの最後の直弟子として狩人機関の中でも大きな存在であった流血鴉の失踪。そもそも彼の姿は大聖堂での戦いから消えており戦後処理の時点でどこにもいなかった。

 

 

「わかるか、アイリーン。俺の仕事の辛さが!」

 

「あたしが知るわけないだろ……それで?ヴァルトールの馬鹿とそれについて行っちまった馬鹿どもはどうすんだい」

 

「…………あいつら律儀に手紙を寄越してきやがる。今んところははぐれの獣を狩っているようだが…………面倒な事だ」

 

 

 狩長と古狩人の脱落に加え古参の狩人や強い狩人らが狩人機関より離脱していったのは残った狩人らにとって重い現実となった。

 教会という勢力に属している以上、嘗ての様に多くの獣は狩ることは出来ず和平のせいで彼らの居場所が無くなってきているのを実感する日々。

 だが、それでもと。後に残ったガスコインやアイリーン、他の狩人らは歩んでいく。先に逝った仲間たちの為にも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神父様……神父様……」

 

「…………何かな」

 

「……此処で寝て居られたら、風邪をひかれます」

 

「…………そうか」

 

「…………安らいだ寝顔でした、夢を見ていたのですか……?」

 

「夢……夢か……いいや、何も見えない……暗闇ばかりだ」

 

「………………そうですか……狩人様を呼んで参りますね」

 

 

 花が咲き誇り巨木が聳える丘の上、車椅子にもたれる老父は光を失った瞳で宙を見つめる。

 もはや何も見えない。

 嘗て聖血をもって拓いた啓蒙はもう何も映さない。

 見えるのはこの暗闇の中で消えていく運命。

 

 

「…………何も成せなかった。何者も我らを縛り止められぬ、そう嗤ったというのにな」

 

 

 友を獣に変え、友に友を殺させ、友を奪った、獣どもを狩り尽くす……そう、決めたというのに。

 老父は歩んだ道程を振り返る。

 妹の様で娘の様な少女を愛した。嘗て愛した女の代わりとでも言うように…………自分こそが何より獣であった。

 ならば暗闇の中で消えていくのは仕方がない。

 

 

「…………なれば、もう消えても構わない」

 

 

 そう、老父は脱力しまた眠ろうとした。

 

 刹那、光が視えた。

 

 何も見えなくなった瞳ではなく、それはもはや何も見せぬ啓蒙ではなく、脳裏に直接迸る光。

 

 

「……嗚呼……嗚呼…………」

 

 

 それは月光。

 それは深淵。

 それは宇宙。

 正しく宇宙的神秘としか言いようのない人類否この星の埒外の輝き。

 老父はそれを知っている。その光を知っている。その名を知っている。

 

 

「……導きの月光……よ」

 

 

 しかし、現実にはその姿はない。だがしかし、間違いなく導きの月光は老父の脳裏にその光を示している。

 目ではない、脳の瞳ではない、思考がそれを見ている。

 

 

「嗚呼……嗚呼……!ゲールマン……ルドウイーク……マリア……」

 

 

 虚空に手を伸ばす老父は友の名を唱える。

 しかし、そこに誰もいない。

 だが、老父には見えているのだ。導きの月光が示す光の先に嘗ての友らが待っているのを。

 故に老父は歩む。

 友らのもとへ。

 一歩前へ出る度に、自分の何かが変わっているのを理解する。

 身体が思考が

 重い足取りは軽やかになり何時しか老父は嘗ての様な柔和な神父へ戻り友らと笑い合う。

 

 

───待ちくたびれたよ、シャストル

 

───まったくだ

 

───そう言うなよ、マリア、ゲールマン

 

 

「…………ああ、すまない。待たせてしまったな────」

 

 

 

 

 

 

「…………神父様」

 

 

「………………ああ、夢を見ているのですね師よ」

 

 

 背丈の高い少女と兜を付けた烏羽のマントを羽織った男は老父の車椅子の前で立つ。

 しかし、先程までいた老父の姿はどこにもなく。そこにあるのは人ならざる頭蓋と古びた鐘があるばかり。

 人ならざる頭蓋はどこか安らいでいるように見えた。

 

 

 

 

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