黒兎の唄   作:サハクィエル

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 お久しぶりです。投稿が遅れてしまい申し訳ないです。盛り上がらせといて更新を放棄するなんて最低だと自分でも思います。
 なので、先に告知しときます。次の更新は5月辺りになりそうです。すいません。


Disaster Vision

 その妖怪、「喰らうもの」と名付けられた、霊鬼という種類の妖怪にはある特殊能力があった。

 

 その能力は、彼自信の妖力タイプーー「爆破」とはかけ離れたもの、言うならば、「吸収」属性のものだった。

 

 受けるダメージとは欠落だ。魂の欠落。魂が欠落したものはちょっとやそっとじゃ回復しない。しかし、霊鬼は違う。死した人間の魂が妖怪化したそいつは、高尚な生命エネルギーを持つ魂を求める。だから、他から欠落を埋めるためのエネルギーを吸収できる。

 

「魂の欠落を、対象の生命エネルギーを吸収することで埋めることができる程度の能力」ーー。それが、彼に備わっている異能力であった。

 

 その能力は、「魂を形あるものとして視認できる」霊鬼の能力と噛み合っており、その能力があったが故に彼は数々の戦場を潜り抜けることに成功し、魔理沙と少年を認識することが可能だったのだ。

 

 彼はそれを、「最高の能力」であると自負していた。他の誰も、神でも持ち出さない限り、自分が追い詰められるようなことはない、と。

 

 しかしーー。その認識は歪められようとしていた。ある一人の、ちっぽけな少年によって。

 

 漆黒の、ディープパープルの波動を纏ったそいつは、「喰らうもの」をホールドすると、2、3度往復するように裏拳での殴打を頬に叩き込んだ上で、そいつを地面に投げ捨て、そこに右足で追撃を繰り出す。1度と言わず、何度でも足の裏で霊鬼を執拗に踏みつける少年の心かっらは道徳心が消えていた。

 

 3度目の踏みつけで、霊鬼はバウンドして宙に浮いた。やっとコンボから脱することができたーー。一瞬喰らうものは安堵したが、彼自身、刹那的にその認識が間違っていたことに気付く。

 

 鎧の戦士は、バウンドも計算して踏みつけているーー。

 

 次の瞬間、既に構えられていた右の拳がバウンドしてきた霊鬼の鳩尾に突き刺さった。霊鬼は妖怪。硬度は人間を遥かに越えるため、拳が彼を貫通するなどということはないーー。この殴打は、表皮で静止する筈だ。

 

 しかし、拳は彼の鳩尾に風穴を開けた。

 

 これは両者とも気付かないことだが、このオーバーフロー状態時に発生するオーラは、触れたものを崩壊させる作用があるのだ。だから、彼の装甲は貫通された。

 

 20トン近くの衝撃が、霊鬼を襲う。

 

 喰らうもの、霊鬼は信じられなかった。自分が追い詰められているということ、少年の覚醒、そして、狙っていたベルトの思いもよらない出力。

 

 しかし、彼は直ぐに冷静になることができた。ある「事実」が存在したからだ。

 

 「霊鬼の能力を使えば、この状況を逆転できる。鳩尾の穴という「欠落」を少年の生命エネルギーで埋め、同じように鎧の戦士を「欠落」させれば、一転攻勢、逆転が可能だ」 という勝利へ続くルートの存在を認識できたのだ。彼は。

 

 やるしかない。今、ここで。霊鬼は有らん限りの意思力で能力発動を念じた。

 

 しかし。彼の能力は発動しなかった。どうしたことか。喰らうものの能力は、生命エネルギーが存在する相手には必ず通用する。では、生命エネルギーが存在しないかーー? 否、そんな筈はない。生命エネルギーは魂から発生されるエネルギーなのだ。魂が活動しているうちは途切れない。

 

 と次の瞬間、能力が通じないということを知覚した次の瞬間、霊鬼は余力を尽くし、掌から爆破を起こした。その衝撃で、無理矢理に拳を彼自身の体から引き抜く。それで、喰らうものは一層強く出血し、平衡感覚が不明瞭になってきているのか、覚束無い足取りで1歩後退し、ポケットから白いアネモネの花を取り出した。それから1拍と置かず、アネモネは急に色褪せ、霧散していった。生命力を吸われたのだ。

 

 しかし、一輪の花の生命力を吸ったところで焼け石に水。精々繊維が一層繋がったくらいだろう。

 

 ーーと次の瞬間、ふと、嵐のような暴風が吹き抜けるような音が響き、それから1拍置いて、建物が崩れた。

 

 これはこの場の誰も気付かないことだが、この崩壊は、邸を構成するあらゆる木が劣化して引き起こされたものだ。衝撃による破壊ではなく、純然たる、「倒壊」が、この邸宅の末路であった。

 

 その倒壊の中、巻き込まれた少女、霧雨魔理沙は不馴れな衝撃魔法で自身に覆い被さる木片を弾き飛ばし、ポーションで自己回復をしてから、遠方に佇む、「何者か」を見据える。

 

 そこに立っていたのは黒い鎧だった。ディープ・パープルの波動を纏った戦士ーー。それはどうやら、そいつ自身に襲い掛かってきた「邸だったもの」に対し肉体技で対応し、難を逃れたらしかった。

 

 彼女は、その鎧があの少年であると分かっていた。しかし、同時に、彼が人の心を失ってしまっていることも分かってしまった。

 

 さっき、彼女は彼の戦いを見ていたのだ。あらゆる無駄の省かれた動きと、戦いに情は必要ない、と言わんばかりの無言。出会って一日でこんな感想を抱くのは軽薄かもしれなかったが、彼はやさしい人物だ。だから、これまでの戦闘では、無駄が介在するものの、相手の妖怪を生物と断じたうえで敬意を払って戦うようにしていた。尤も、彼と会敵した妖怪は殆どが霧散したのだが。それはさして重要ではない。あれはただの妖怪ではないのだから。これは彼女自身の推測だが、「深淵に棲むもの」は、人間でも、まして妖怪でもない、生物の模倣存在である。少々辛辣な言い回しになるかもしれないが、死んでもいい存在だ。

 

 しかし、今の彼にはそれが欠如してしまっている。

 

 ふと。鎧の戦士は歩き始めた。その無機質な瞳が照準するのはーー魔理沙だった。

 

 両者は気付かない。このベルトによるオーバーフロー状態は、目に映るものすべてを破壊し尽くすということに。一度発動すれば、本人の意思では変身状態を解除できないということに。

 

 魔理沙は向かってくる鎧を鋭い視線で見据えた。あの少年に対しての敵意などは持ち合わせていないが、彼女はその少年の魂が欠落したその鎧に対しては敵意を抱いていた。

 

 だから、彼女は撃った。研鑽によって数秒で組み上げられるようになった言霊術式バージョンのマスタースパークを。手加減し、少年が死なない程度の出力の砲撃を。

 

 マスタースパークは少年に肉薄していきーー後5メートルまで迫ったところで、鎧の戦士が動いた。

 

 左腕を振りかぶり、マスタースパークへと衝突させたのだ。腰の入った激烈な一撃ではあったが、そんなものではこの砲撃を止めることはできない。魔理沙はそう思っていた。

 

 だが。現実、そうはならなかった。そもそも彼は、この一撃で砲撃を止めようなどと思っていなかったのだ。

 

 触れたものを崩壊させる能力で、砲撃を弱らせることーー。それが鎧の目的であった。

 

 刹那、濃い紫のオーラが混合した砲撃に、容赦のない右ストレートが叩き込まれる。そこから1拍置いて、砲撃が巨大な風圧と暴力的なまでの爆音を伴って消滅した。

 

「う、うそ、だ.....」

 

 マスタースパークは魔理沙の用いる魔術の中で最大の火力を持つ。スペルカードを用いた砲撃ならばもっと火力が出せるだろうが、この間合いではスペルカードは使えない。詠唱中にやられる。

 

 しかし、スペルカード抜きでは鎧の戦士を倒せない。そのことはたった今証明されてしまった。

 

 向かってくる。彼女の方向に。鎧の戦士は一歩一歩を確かめるように緩慢な歩行をしているが、少しでも足に力を込めれば全力で走り出せるだろう。

 

 魔理沙が恐怖で転倒する。走って逃げようとしたのが災いした。起き上がろうとするが、体に力が入らない。

 

 間合いは、既に3メートルほどまでに詰まっていた。殺される。彼女は刹那にそれを悟った。

 

 ーーと、ふと。鎧の戦士が転倒した。それも、ただの転倒ではない。足が異常な速度で背後へと引かれ、それの反動で転倒したのだ。これは何者かが仕組んだ、言わば「工作」だ。

 

「大丈夫? 魔理沙?」

 

 その声に、彼女は振り返りーーそして、驚愕したという。

 

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