黒兎の唄   作:サハクィエル

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 更新が遅れてしまい、申し訳ないです。
 何作品も兼任すると、こんなに更新が滞るとは想定外でした(最低クラスの言い訳)
 これからはもうちょっと早く更新した所存です。


Mist Klawn

 その光景を見て、私、霧雨 魔理沙は絶句していた。

 

 さっきまで、私の中では、あの黒い鎧は強力無比な存在であり、どんな手段を用いようと倒せない存在であったのだ。それが、たった一人に呆気なくーー。

 

 眼前では、糸を握った人形ーー名は確か上海人形だったーーが2体、主の命を受けて佇んでいる。その糸を辿っていくと、糸の終点は黒い鎧だと分かる。

 

 そう。要約すると、あの少年は糸で縛り上げられているのだ。「そいつ」は絶え間なく身じろぎしているが、それもどこか弱々しい。

 

 このまま変身解除されてくれ、と切実に願ってから、目の焦点を合わせる。

 

 私を助けた張本人、人形遣い、アリス・マーガトロイドーー。

 

「こいつ、何なの?」

 

 彼女は鎧の間合いの外から、人形を使って何やら調べているようだ。しかし、芳しい成果は上がっていない。

 

「ううむ。知り合いが変身した姿、としか言いようがないけどーー」

 

 今のそいつはその知り合いじゃなく、別の存在となってしまったのではないか、という個人的見解は口に出さなかった。

 

「まあ、こいつはマスタースパークを弾き飛ばしたんだ。相当な力を秘めてる」

 

 代わりに、どこか悔しさの滲むコメントを寄越してから、私は鎧を見据えた。

 

 そいつはまるで物言わぬ人形のように何も語ろうとしない。確かに、中にはあの少年が入っている筈なのに。

 

「ダメね。全く、何も読み取れない」

 

 そう言ってから、彼女は少し顔をしかめて、「これじゃまるで、魂が無いみたいだわ」と言った。

 

 魂がない、か。

 

 本当にそうなのかもしれない。あの少年の「魂」とやらは、紫色のオーラが出現すると同時に消えてしまい、もう二度と戻ってこないのではないか。

 

 そんなことを考えると、途方もない喪失感に襲われる。私は頭を振ってその考えを無理矢理に払拭しようとした。

 

「全然成果上がらない。ねぇ魔理沙、これ消す方法、分からない?」

 

 不意に声をかけられ、私はどきりとしたが、直ぐに調子を取り戻し、「ああ、多分、ベルトの入れ物を二本とも抜けばいいと思うけどーー」と返した。

 

 それを聞き取ると、アリスはベルトからボトルを引き抜こうとした。しかし、抜けないようだ。ボトルはびくともしない。

 

「抜けばいいんじゃなかったの?」

 

「え、ええと.....」

 

 どうして抜けないのか? それは私にも分からなかった。

 

 もしかして、あの状態ーー緋色のスイッチを押した、言わば「オーバーフロー状態」の時は、自発的な変身解除ができなくなるのか。

 

「どうしよう?」

 

「いや、私に聞かれても」

 

 アリスもいい案はないようだ。

 

 実際、私には、どうすればいいのか検討もつかなかった。全くの専門外だからだ。

 

「ダメージを与えてやれ。そうすれば解けるだろう」

 

 ふと。唐突に聴覚へと入力された音に、私は振り返った。音源は背後だ。

 

 そこにはーー霧で良く見えないがーーコートを着込んだ、20代前半とおぼしき癖毛の男が立っていた。

 

「あなたは.....?」

 

 アリスは問いかけつつ、相手から死角になる位置に存在する糸を繰っている。その指使いに呼応して、上海人形は緩慢に、しかし確実に動いてゆく。

 

 完全な警戒態勢だ。態度にこそ表さないものの、彼女は警戒心に突き動かされて行動している。

 

「ふむ。今は私のことは気にしなくてもいい。重要なのはそこの少年だ。彼を助けることこそが、この場に於ける最優先事項だと思うのだがね」

 

 それは事実であった。

 

「ダメージを与えるのだ。なに、心配することはない。君たちの力では、その鎧を破って少年を殺すのは不可能だ。安心して攻撃を撃つといい」

 

「ーーそれを手放しで信用できるほど、私はお人好しじゃあない。それを証明する方法はあるか」

 

 そう言うと、僅かな逡巡の後、答えが返ってきた。

 

「ふむ、そう言えば、裏付けを用意していなかったな。ーーさて、どうしたものか........そうだ、実演すればいいか?」

 

 言いつつ、男は、拳銃のような「何か」を片手で構えた。

 

 ーーと次の瞬間、そこから光の弾が射出され、異常な速度を伴って黒の鎧に命中する。

 

 その攻撃は、どうやら有効打となったようで、鎧の表面から火花が迸る。しかし、その攻撃だけでは変身解除されない。

 

 そこで、男はポケットからボトルを取り出すと、それを構えている何かの下部に突き刺した。

 

 高らかに起動音がかき鳴らされ、銃口から蒼の龍が射出される。

 

 訳がわからなかった。これは何かの能力なのか? はたまた、あの変なアイテム自体の性能なのか? それすらも分からなかった。

 

 刹那。うねり、全身を続ける龍が、鎧の胸部にその頭部を打ち付け、衝撃を背後まで貫通させて胎動した。

 

 衝撃はそれで十分だったようだ。鎧は半ば無理矢理に戒めから解放され、2、3メートル背後へと吹っ飛ばされてから、樹木に衝突してその運動を停止させた。

 

 そして、そこで変身が解除される。

 

「う.....」

 

 彼は緩慢な動作で体を起こすと、右手を頭部へとあてがった。頭痛だろうか。そう言えば、あの鎧はどこか苦しがっていた。もしかしたら、あのベルトは、使用者に絶大な負荷をかけるのかもしれない。暴走していたことからもそれは邪推できる。

 

「まだ使いこなせていないのか」

 

 ふと、そんな言葉に、私はあの少年に向けていた視線を男へと引き戻した。

 

「ーー使い、こなす.....?」

 

「そうだ。そのベルトーーそいつだけが鍵なのだ。性能を活かしきらなければ死ぬぞ」

 

 男は淡々と語った。まるで、全ての事情を熟知しているかのようだった。否、本当にそうなのかもしれない。

 

 ーーと、ふと。私は、そんな男に腹を立てている自分に気が付いた。ああいう、どこか俯瞰したような態度が、私は嫌いだったのだ。

 

「待てよ、さっきから聞いてりゃ偉そうにーー。あんた何者なんだ?」

 

「何者ーーか。そいつは名前を聞いているのか、それとも、」

 

「先ずは名前を教えろ。金輪際吐く必要はないから」

 

 いやに高圧的な自分の口調に、私は嫌気がさしてきた。どこか空回りしている。いや、それどころか、この男に遊ばれているような気さえする。

 

「名前はナイトローグだ。種族は化け物だ」

 

 ここにきても尚、男は淡々と語った。

 

「その、名前ーー。偽名じゃないんですか.....?」

 

 それを言ったのはあの少年だった。

 

「いや、偽名ではない。ーー本名でもないが」

 

「はっきりしないな。本名を名乗ってくれ」

 

 その言葉に答えるでもなく、男は、手に持ったアイテムを天にかざした。妙に様になっている動きだった。

 

「さて。私はそろそろ立ち去らせてもらうよ」

 

「あ、おい、待てよ!」

 

 私の叫びを尻目に、そいつは拳銃状の何かから迸った煙ーー霧で良く見えないーーとともに、この場所から忽然と消えてしまった。

 




 今回登場した、癖毛の男が持っていたのは変身煙銃、つまりトランススチームガンです。
 そこまでは原作、仮面ライダービルドのままですが、途中に登場した、蒼色の龍はオリジナルです。あれは、ドラゴンフルボトルを煙銃に差したらああなるだろうな、という出来心で書きました。
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